【実施例】
【0033】
〔使用原料〕
・粉末状活性炭
中心粒子径約30μmの椰子殻活性炭(フタムラ化学株式会社製,品名「CB」)(表中、AC1と記する。)、
中心粒子径約70μmの椰子殻活性炭(フタムラ化学株式会社製,品名「CB70」)(表中、AC2と記する。)、
中心粒子径約150μmの椰子殻活性炭(フタムラ化学株式会社製,品名「CW8150」)(表中、AC3と記する。)を用いた。なおAC3の大きさは粒状活性炭に分類される。
「中心粒子径」とは、レーザー光散乱式粒度分布測定装置を用いてレーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒子径を意味する。
・繊維状活性炭
繊維断面直径約15μmのフェノール樹脂系繊維状活性炭(フタムラ化学株式会社製)(表中、AC4と記する。)、
繊維断面直径約30μmのフェノール樹脂系繊維状活性炭(フタムラ化学株式会社製)(表中、AC5と記する。)を用いた。
・バインダー
フィブリル化したアクリル樹脂繊維(東洋紡株式会社製,ビィパル(登録商標))を使用した。
【0034】
〔フィルター体の作成−1〕
発明者は、前記の原料を用い実施例1ないし6、及び比較例1ないし4のフィルター体を作成した。実施例及び比較例のフィルター体
は実施形態に開示の形態とした(
図1、2参照)。表2ないし表4に提示の原料とその配合(重量部)に基づいて、粉末状活性炭、繊維状活性炭、及びバインダーを水に分散し均質になるまで混合し、実施例及び比較例に対応する混合スラリー状物を調製した。混合スラリー状物における水量は、添加した固形分(濾材成分)のおよそ10重量倍とした。
【0035】
外直径34mm、内直径30mm、全長100mmの微細な貫通孔を有したポリプロピレン製の中空円筒状の吸着基材部を用意した。当該中空円筒状の吸着基材部内に、ステンレス製の吸引部材を挿入して固定するとともに混合スラリー状物内に投入した。減圧吸引により混合スラリー状物を引き寄せ、吸着基材部の表面に濾材成分を蓄積した。吸引圧力は約−0.04MPaとした。中空円筒状の吸着基材部を引き上げて吸引部材を取り外し、濾材成分と吸着基材部の一体化物を100℃、12時間かけて乾燥した。比較例1については硬度の調整のため乾燥前に表面を押し固めた。
【0036】
最終的に、各実施例並びに各比較例の吸着基材部を含む直径65mm(一部の例については、表参照のとおり50mm、90mmとした。)、全高100mmの中空円筒体形状のフィルター体を作成した。実施例1と比較例1については次述の硬度の測定のため、それぞれ3個ずつ作成した(実施例1−1,1−2,1−3と比較例1−1,1−2,1−3)。
【0037】
〔硬度の測定、対比〕
はじめに実施例と比較例のフィルター体における流入濾材部及び流出濾材部の硬度の相違を検証した。硬度の測定に際し、JIS K 6253(2012)に準拠し、株式会社テクロック社製「GS−721N,タイプE(直径2.5mmの半球状の押針を装着)」の硬度計(デュロメーター)を使用した。前掲の
図1(a)参照のとおり、濾材部の厚さ方向の中心位置で当該濾材部を2分割し、便宜上、流入濾材部と流出濾材部に区分した。硬度計による測定部位は、流入濾材部及び流出濾材部に相当する円筒の環状の断面である。
【0038】
そして、ひとつのフィルター体について、流入濾材部の環状断面から任意の5箇所に硬度計を押し当てて数値を読み取りその平均値を求めた。同時に、流出濾材部の環状断面から任意の5箇所に硬度計を押し当てて数値を読み取りその平均値を求めた。このやり方で実施例1−1,1−2,1−3と比較例1−1,1−2,1−3の全てについて硬度計の数値を読み取り平均値を求めた。
【0039】
各実施例及び各対照例に関する流入濾材部及び流出濾材部の硬度計による測定結果は表1となった。表中、「i−ave」は流入濾材部、「o−ave」は流出濾材部の硬度計の表示値の平均値である。また、「i−ave/o−ave」は双方の硬度の大小比較のための商であり、1より小さい数値であれば流出濾材部の硬度が流入濾材部よりも高いといえる。
【0040】
【表1】
【0041】
表1の結果より、実施例のフィルター体ではいずれも有意に流入側と流出側の濾材部の硬度に差が生じた。しかも、流出濾材部側が流入濾材部側よりも高い硬度となった。これにより、濾材部の内部構造において、疎密が生じていると考える。
【0042】
〔濾集能力の検証−1〕
フィルター体における硬度差の結果を踏まえ、発明者は、実際の濾集能力への効果を検証した。被濾過流体として、カオリンを分散した試験水(原水)を用いた。当該試験水の調製は、JIS S 3201(2010)の家庭用浄水器試験方法の付属書I−濁度の測定方法に準拠した。試験水に浮遊するカオリンの微粒子(パーティクル)の中心粒子径は約4μmである。
【0043】
・濁度除去率
実施例及び比較例のフィルター体それぞれに対し、20℃に調温した前記調製の試験水を4L/minの流量(SV値996hr
-1)にて通水した。そこで、フィルター体により試験水中から除去されたカオリン量を測定し、濁度除去率(%)を求めた。濁度除去率はJIS S 3201(2010)に準じた。試験水中のカオリンの除去率が80%以上であるフィルター体を「A」と評価した。除去率が50%以上80%未満のフィルター体を「B」、除去率が50%未満のフィルター体を「C」と評価した。
【0044】
・目詰まりの評価
実施例及び比較例のフィルター体それぞれに対し、前記同様、20℃に調温した前記調製の試験水を4L/minの流量(SV値996hr
-1)にて通水しフィルター体に加わる動水圧を測定した。動水圧が0.1MPaを超えた時点の濾過水量が3000L以上のフィルター体を「A」と評価した。濾過水量が1000L以上3000L未満のフィルター体を「B」、濾過水量が1000L未満のフィルター体を「C」と評価した。
【0045】
・総合評価
実施例及び比較例の個別評価を勘案するとともに、良否を勘案して総合評価を行った。
全て「A」の評価のフィルター体の総合評価を「A」とした。「C」がなく「B」がひとつでも存在するフィルター体の総合評価を「B」とし、「C」が存在するフィルター体を「C」とした。既存品よりも濾過性能を大きく向上したフィルター体は「A」の評価であり、いずれの実施例も「A」の評価である。
【0046】
実施例及び比較例のフィルター体について、大きさ「外径、内径、全高、及び濾材部厚さ(単位mm)」、材料配合比(重量部)「粉末状活性炭、繊維状活性炭、及びバインダー」、硬度差「i−ave/o−ave(硬度の大小比較)」、濁度除去率、目詰まり、総合評価の各項目の結果は表2ないし4である。また、実施例1及び2、比較例1について、通水量(L)ごとに、濁度除去率(%)と動水圧(MPa)の変化を測定して図
3のグラフに表した。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
〔濾過の結果と考察−1〕
実施例1と比較例1の間の主な相違は、流入濾材部と流出濾材部の硬度差である(表1参照)。両フィルター体とも、カオリンに代表される微小な水中浮遊物の除去性能は高い。しかし、実施例1の流入濾材部の硬度を下げたフィルター体では、動水圧の変化から流入側の目詰まりが抑制されたことがわかる。すなわち、比較例1のフィルター体よりも、より長期間使用できることを意味する。加えて、両フィルター体の特徴の相違は図
3のグラフからも明白である。実施例1のフィルター体では通水量が約3500Lを超えた時点で動水圧は0.1MPaを超えた(図
3上段参照)。これに対し、比較例1のフィルター体によると、通水量が約1400Lを超えた時点で動水圧は0.1MPaを超えた(図
3中段参照)。
【0051】
また、実施例2のフィルター体は実施例1と同様の製法であり、使用材料のみ変更した例である。当該フィルター体も実施例1と同様の性能傾向となり、通水量は約4500Lを超えた時点で動水圧は0.1MPaを超えた(図
3下段参照)。なお、濁度除去率が実施例1より低くなった理由としては、フィルター原料に粒子径の大きな種類の活性炭を用いたことにより、フィルター層中の空隙が大きくなったためと推定する。ただし、用途に応じて濾集能力は使い分けられるため、実施例2のフィルター体も十分に使用できる。
【0052】
このように、フィルター体における動水圧と通水量の推移から把握すると、実施例1、2のフィルター体のとおり、流入濾材部側の硬度を流出濾材部よりも低く形成したフィルター体は、その逆の硬度の構成としたフィルター体よりも優れている。それゆえ、濾集能力を比較的長期にわたり維持できるフィルター体を得ることができた。
【0053】
比較例2は粉末状活性炭のうちさらに粒径を大きくして粒状活性炭を使用したフィルター体であり、他のフィルター体と比較して濁度除去率は悪化した。活性炭の粒径が大きくなったことに伴い微小な水中浮遊物の捕捉に有効な空隙量が減少したことが考えられる。従って、粒度分布の広がりを勘案して有意に中心粒子径150μmより小さくするべきである。そこで、上限は他の実施例等から70μmが適切である。下限については、成形性の良否から中心粒子径10μmが概ね妥当であり、好ましくは実施例の中心粒子径30μmである。
【0054】
比較例3及び4は繊維状活性炭に対する粉末状活性炭量を増減したフィルター体である。比較例3では繊維状活性炭に比して粉末状活性炭量が少なく、濁度除去率は思わしくない。逆に、比較例4では繊維状活性炭に比して粉末状活性炭量が過剰であり、目詰まりが早まる。そこで良好な濾集能力の発揮と、長期の使用期間の確保の双方を両立する必要がある。この点、比較例4と実施例6との対比から、粉末状活性炭は繊維状活性炭の5重量倍がおおよその上限と考えることができる。下限については、実施例5として開示の等重量倍(1重量倍)が良好であったためこの量とした。従って、粉末状活性炭の好適な配合重量は、繊維状活性炭の重量の1ないし5重量倍であると導き出すことができる。
【0055】
次に、実施例3及び4は、実施例1と配合を揃え濾材部の厚さを増減して作成したフィルター体である。濾材部自体の厚さを増減しても流出濾材部側の硬度が流入濾材部側より高くすることができた。また、濁度除去率や目詰まりにおいても他の実施例と何ら遜色ない。このことから、フィルター体の大きさを設計する際の自由度は高く、フィルター体を装填する装置、性能、用途等に応じて柔軟に対応できることも明らかにした。
【0056】
〔全体のまとめ〕
以上の試行のとおり、フィルター体の形状を比較的自由としながらも、濾材部における被濾過流体の流路方向に従って硬度が高まる構造を採用する限り、フィルター体の使用時間をより伸ばすことが可能となった。そして、適切な材料とその配合の選択により、不溶性の微粒子の濾集効果を高めることができた。