(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6489743
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】水銀除去装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/86 20060101AFI20190318BHJP
B01D 53/50 20060101ALI20190318BHJP
B01D 53/64 20060101ALI20190318BHJP
B01J 23/755 20060101ALI20190318BHJP
B01J 27/16 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
B01D53/86ZAB
B01D53/86 250
B01D53/50 200
B01D53/64 100
B01J23/755 A
B01J27/16 A
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-30216(P2014-30216)
(22)【出願日】2014年2月20日
(65)【公開番号】特開2015-155078(P2015-155078A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2017年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098017
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 宏嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100120053
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 哲明
(72)【発明者】
【氏名】坪田 直美
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 聡
(72)【発明者】
【氏名】吉村 博之
【審査官】
田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−029673(JP,A)
【文献】
特開2010−029782(JP,A)
【文献】
特開2009−226298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/00−53/96
B01J21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼装置から排出された金属水銀を含む排ガスの流路に設けられ、前記排ガス中の硫黄酸化物を除去する湿式脱硫装置と、該湿式脱硫装置の上流側の流路に設けられ、燃焼装置に供給される燃焼用空気を排ガスと熱交換して設定温度に加熱する空気予熱器とを備え、前記空気予熱器の250℃以上、270℃以下の前記排ガスが接触する接触面に限り、前記排ガス中の金属水銀を酸化させて酸化水銀に変換する水銀酸化触媒が塗布され、
前記水銀酸化触媒は、酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムのうち少なくとも1種類の第1成分と、ニッケル、マンガン、モリブデン、バナジウム、タングステン及び銅のうち少なくとも1種類の第2成分とを含んでなる水銀除去装置。
【請求項2】
前記水銀酸化触媒は、前記第2成分が硫酸塩である請求項1に記載の水銀除去装置。
【請求項3】
前記水銀酸化触媒は、前記第2成分がリン酸塩である請求項1に記載の水銀除去装置。
【請求項4】
前記水銀酸化触媒は、前記第2成分が硫酸塩及びリン酸塩の両方を含んでなる請求項1に記載の水銀除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス中から金属水銀を除去する水銀除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石油や石炭等を使用してボイラ等の燃焼装置から排出される排ガス中には、水銀化合物が微量に含まれている。この水銀化合物は一旦大気中に排出されると食物連鎖により人体に多大な影響を及ぼすことが知られており、近年では、この種の有害物質の排出規制の動きが高まっている。
【0003】
一般に水銀化合物は、燃焼装置において、1500℃近傍の燃焼ゾーンから蒸気圧の高いガス状の金属水銀として排出される。燃焼装置から排出された金属水銀は、煙道の比較的低温域で排ガス中に共存する塩化水素(HCl)と反応し、塩化水銀(HgCl
2)に部分的に酸化される。この反応は、煙道内に設置された脱硝装置の脱硝触媒上で促進される。脱硝触媒上で生成された塩化水銀(以下、酸化水銀と称する。)は、金属水銀よりも蒸気圧が低く、また溶解度が高いため、下流の除塵装置(電気集塵機やバグフィルタ等)や湿式の脱硫装置等によって除去される。
【0004】
ところで、脱硝触媒上での金属水銀の酸化反応は、一般に低温ほど有利に進行することから、通常の脱硝温度域(約350〜450℃)では、金属水銀が十分に酸化されないことがある。特に400℃以上になると、脱硝触媒による金属水銀の酸化率は熱平衡的に著しく低下する。また、PRB(亜瀝青炭)やリグナイト(褐炭)等の塩素含有濃度が低い石炭を燃焼したときの排ガスは、金属水銀の酸化率が著しく低下することが知られている。このように金属水銀の酸化率が低下すると、金属水銀の一部が酸化されずに煙突から放出されるおそれがある。
【0005】
金属水銀の酸化率を向上させるには、脱硝装置の入口温度を低温化させる方法が考えられる。しかし、一般的な選択的接触還元による脱硝法では、排ガス中に添加されたアンモニアと排ガス中のSO
3との反応により硫安が生成される。この硫安が脱硝触媒上で析出すると、脱硝触媒の触媒細孔を閉塞させて脱硝率の低下を招きやすく、また、比較的粘性の高い硫安に灰が付着することで、排ガス流路を閉塞させるおそれがある。
【0006】
一方、火力発電所の排ガス処理装置のように脱硝装置を有していない場合、例えば、除塵装置の下流側の低温域(約120〜180℃)に水銀酸化触媒を設置することが考えられるが、排ガスにはSO
2やSO
3が多く含まれているため、触媒成分が硫酸塩化したり、SO
3が硫酸となって触媒細孔に蓄積し、触媒が急激に劣化するおそれがある。
【0007】
例えば、特許文献1では、ボイラと湿式脱硫装置との間の排ガス流路に設けられた各機器において、排ガスが接触する接触面に金属水銀を酸化水銀に変換する触媒を塗布する技術が開示されている。これによれば、排ガス中の金属水銀が触媒と接触することで水溶性の酸化水銀に酸化され、この酸化水銀が下流側の湿式脱硫装置の吸収液によって吸収除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−29673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1では、排ガス流路の低温域(例えば、約120〜180℃)に触媒が塗布された場合、排ガス中のSO
3が凝縮して硫酸となり、触媒細孔に蓄積された結果、金属水銀の酸化率を低下させるおそれがある。また、排ガス中のSO
3が脱硝処理に用いるアンモニアと反応することで、析出した硫安が触媒細孔を閉塞させるおそれがある。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、金属水銀の酸化率の低下を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係る水銀除去装置は、燃焼装置から排出された金属水銀を含む排ガスの流路に設けられ、排ガス中の硫黄酸化物を除去する湿式脱硫装置と、この湿式脱硫装置の上流側の流路に設けられ、燃焼装置に供給される燃焼用空気を排ガスと熱交換して設定温度に加熱する空気予熱器とを備え、空気予熱器内の
250℃以上の排ガスが接触する接触面に限り、排ガス中の金属水銀を酸化させて酸化水銀に変換する水銀酸化触媒が塗布されてなるものとする。
【0012】
このように水銀酸化触媒を塗布する接触面の温度域を制限することで、水銀酸化触媒の表面に凝縮したSO
3が付着するのを防ぐことができる。これにより、触媒細孔の閉塞等による触媒劣化を防ぐことができるから、金属水銀の酸化率の低下を抑制することができる。
【0013】
この場合において、水銀酸化触媒は、酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムのうち少なくとも1種類の第1成分と、ニッケル、マンガン、モリブデン、バナジウム、タングステン及び銅のうち少なくとも1種類の第2成分とを含んでなるものとする。
【0014】
このような組成の触媒を用いることにより、SO
3の凝縮による触媒活性の低下を効果的に抑制することができる。
【0015】
また、このような組成の水銀酸化触媒は、400℃より低温になると、触媒活性が次第に高くなり、250℃以上270℃以下の温度域で触媒活性がもっとも高くなる。したがって、この水銀酸化触媒を250℃以上270℃以下の排ガスが接触する接触面に塗布することで、より高い水銀酸化率を得ることができる。
【0016】
また、水銀酸化触媒は、第2成分が硫酸塩からなるものであってもよいし、リン酸塩からなるものであってもよい。更に、水銀酸化触媒は、硫酸塩及びリン酸塩の両方を含むものであってもよい。これによれば、SO
3の凝縮による触媒活性の低下をより効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、金属水銀の酸化率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明が適用される水銀除去装置の概略構成図である。
【
図3】水銀酸化触媒の温度と触媒活性との関係を示す図である。
【
図4】水銀酸化触媒の触媒温度が異なるときの経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明が適用される水銀除去装置の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態の水銀除去装置10は、排ガス中の窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)を排ガス中から除去する一方、排ガス中の金属水銀を酸化水銀に転換して排ガス中から除去するものである。ここで、金属水銀とは、非水溶性のガス状の水銀化合物の総称であり、酸化水銀とは、水溶性のガス状の水銀化合物(主として塩化水銀)の総称である。
【0020】
図1に本発明が適用される水銀除去装置の概略構成を示す。本実施形態の水銀除去装置10は、ボイラ11で燃料を燃焼させたときに発生する排ガス中の微量有害物質のうち、特に金属水銀を排ガス中から除去するのに好適な装置である。この水銀除去装置10は、ボイラ11と、脱硝装置12と、空気予熱器13と、集塵装置14と、脱硫装置15と、煙突16とを互いに煙道17を介して順次直列に接続して構成される。空気予熱器13には、押込送風機18から送風された燃焼用空気が導入され、設定温度に余熱された燃焼用空気がボイラ11に供給されるようになっている。以下、各装置の構成について順に説明する。
【0021】
ボイラ11は、石炭等の燃料を燃焼用空気とともに燃焼させて排ガスを発生する燃焼装置である。ボイラ11から排出された排ガス中には、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、金属水銀、ハロゲン化水素(例えばHCl)等が含まれている。ボイラ11の出口部は、煙道17を介して脱硝装置12の入口部に接続されている。
【0022】
脱硝装置12は、ハウジング内に脱硝触媒層を備えて形成され、上流側の煙道17に注入されたアンモニア等の還元剤と排ガスとを脱硝触媒層に導いて、窒素酸化物を還元分解するようになっている。脱硝装置12の出口部は、煙道17を介して空気予熱器13の入口部と接続されている。
【0023】
空気予熱器13は、排ガスの熱を利用して燃焼用空気を設定温度に余熱する回転再生式の熱交換器である。
図2に本実施形態の空気予熱器13の概略構成を示す。空気予熱器13は、ハウジング19内に円盤状のエレメント20が収容され、エレメント20は軸21を中心にハウジング19に回転可能に支持されている。このエレメント20は、多数の金属板を組み合わせて形成され、金属板同士の隙間に沿って、軸21と平行にガスが流れるようになっている。ハウジング19には、脱硝装置12と接続された煙道17と、押込送風機18から送風された燃焼用空気が通流する空気供給管とがそれぞれ接続されている。また、ハウジング19の内部は、排ガスが通流する加熱室22と、燃焼用空気が通流する予熱室23とに分かれて形成される。
【0024】
エレメント20は、加熱室22と予熱室23との両方に露出して設けられ、回転に伴って、加熱室22を通過するときに排ガスの熱を蓄熱し、予熱室23を通過するときに燃焼用空気を加熱(予熱)するようになっている。このエレメント20には、排ガス中の金属水銀を酸化水銀に変換する水銀酸化触媒が塗布されている。空気予熱器13は、加熱室22の出口部が煙道17を介して集塵装置14の入口部と接続されている。
【0025】
エレメント20に塗布する水銀酸化触媒としては、酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムのうち少なくとも1種類を第1成分とし、ニッケル、マンガン、モリブデン、バナジウム、タングステン及び銅のうち少なくとも1種類を第2成分とする材料が用いられる。この水銀酸化触媒をエレメント20に担持させるには、上記組成の固体粉末を液中に分散させ、これをエレメント20に塗布した後、所定の温度で乾燥させる。これにより、エレメント20の表面に水銀酸化触媒を層状にコーティングすることができる。
【0026】
集塵装置14は、排ガス中の粒子等を除塵する装置である。集塵装置14としては、例えば、周知の電気集塵機が用いられる。集塵装置14の出口部は、煙道17を介して脱硫装置15の入口部と接続されている。
【0027】
脱硫装置15は、排ガス中の硫黄酸化物等を吸収液に吸収させて排ガス中から除去する湿式脱硫装置である。この脱硫装置15は、例えばハウジングの内部に噴霧した吸収液を排ガス中の硫黄酸化物等に接触させて、硫黄酸化物を吸収除去するようになっている。脱硫装置15の出口部は、煙道17を介して煙突6と接続されている。
【0028】
次に、水銀除去装置の基本的な動作について説明する。ボイラ11から排出された排ガスは、脱硝装置12に導かれる。脱硝装置12においては、煙道17に添加されたアンモニアと脱硝触媒との反応により、排ガス中の窒素酸化物が還元分解される。また、脱硝触媒上では、排ガス中の金属水銀の一部が酸化水銀に変換される。
【0029】
脱硝装置12を出た排ガスは、空気予熱器13に導入され、エレメント20を通過するときに、空気供給管より導入された燃焼用空気と熱交換されて減温される。また、排ガス中の金属水銀は、エレメント20を通過するときに、水銀酸化触媒と接触することで、排ガス中のハロゲンと反応し、酸化水銀(例えば塩化水銀)に変換される。空気予熱器13を通過した排ガスは、集塵装置14に導かれ、排ガス中の粒子が除塵される。また、酸化水銀は、蒸気圧が低いため、その一部が排ガス中の粒子とともに排ガス中から除去される。続いて、集塵装置14を通過した排ガスは、脱硫装置15に導かれ、排ガス中の硫黄酸化物が吸収液に吸収除去される。このとき、水溶性の酸化水銀は、硫黄酸化物とともに吸収液に吸収除去される。
【0030】
ここで、排ガス中の金属水銀を酸化水銀に変換する作用について説明する。
図3に本実施形態の水銀酸化触媒の温度と触媒活性との関係を示す。図示するように、水銀酸化触媒の触媒活性(水銀酸化率)は、400℃よりも低温になるにつれて次第に高くなり、250〜270℃で最も高くなる。このため、水銀酸化触媒が所望の水銀酸化率を得るには、400℃未満、好ましくは、250〜270℃の排ガスが接触する位置に水銀酸化触媒を設ける必要がある。
【0031】
一方、低温(例えば150℃以下)の排ガスが水銀酸化触媒と接触すると、排ガス中のSO
3が凝縮して触媒細孔に蓄積され、触媒の急激な劣化が進行する。また、凝縮したSO
3は、比較的高い粘性を有しているため、水銀酸化触媒の表面等に凝縮したSO
3が付着すると、この表面に排ガス中の灰が付着して、空気予熱器13の詰まりを引き起こすおそれがある。
【0032】
図4は、温度が異なる排ガスをそれぞれ水銀酸化触媒に接触させたときの触媒活性の経時変化を表している。150℃の排ガスが接触する水銀酸化触媒の触媒活性は、短時間で大きく減少するが、350℃の排ガスが接触する水銀酸化触媒の触媒活性は、150℃の場合と比べて、減少量が小さくなっている。こうしたことから、水銀酸化触媒の触媒劣化を抑制するには、SO
3が凝縮しない200℃以上の排ガスが接触する位置に限り、水銀酸化触媒を設ける必要がある。
【0033】
そのため、本実施形態では、空気予熱器13のエレメント20のうち200℃以上の排ガスが接触する接触面24に限り、水銀酸化触媒を塗布している。
図2に示すように、空気予熱器13には、例えば、約350〜400℃の排ガスと約50℃の燃焼用空気とがそれぞれ導入された後、排ガスは約150〜200℃に減温され、燃焼用空気は約200℃に余熱された状態で空気予熱器13から排出される。このため、空気予熱器13のエレメント20には、約150〜400℃の排ガスが接触する領域(温度分布)が、排ガスの通流方向に沿って形成される。したがって、エレメント20の排ガスが接触する領域のうち200℃以上400℃以下の排ガスが接触する接触面24に限り、上記の水銀酸化触媒を塗布することが重要である。
【0034】
本実施形態のエレメント20は、軸方向と略平行に配置される多数の金属板同士の隙間にガス流路が形成される。このため、これらの金属板のうち軸21方向(
図2の上下方向)の一部の領域を接触面24として水銀酸化触媒を塗布する。これにより、水銀酸化触媒の表面でSO
3が凝縮するのを抑制することができ、触媒活性の低下を抑制することができるから、高水銀酸化率を長時間維持することができる。
【0035】
ここで、接触面24は、少なくとも250℃以上270℃以下の排ガスが接触する領域に塗布されていることが好ましい。これにより、水銀酸化触媒の触媒活性をより高く維持することができる。
【0036】
また、発電所等で水銀酸化率に影響を及ぼすハロゲン含有量の少ないPRB焚が行われた場合、排ガス処理装置に脱硝装置が設置されていても、水銀酸化率が低下することで、水銀酸化触媒の担持量が増やさなければならなくなる場合も考えられる。しかし、本実施形態の構成によれば、排ガス中のSO
3の凝縮を抑制することで、高水銀酸化率を維持することができ、触媒の寿命が長くなるから、結果として触媒交換頻度が低くなり、触媒の消費量を削減することができる。
【0037】
また、排ガスを脱硝処理する際に脱硝装置12の上流側に添加されたアンモニアは、水銀酸化に影響を与え、排ガス中のアンモニア濃度が高いほど水銀酸化率が低下するが、本実施形態によれば、脱硝装置12で殆どのアンモニアが消費されるから、下流側の空気予熱器13では、アンモニアによる水銀酸化率の影響が少なくなる。また、空気予熱器13では、脱硝装置12で処理されなかった窒素酸化物と、低濃度ながら脱硝装置12で消費されなかったアンモニアとを含む排ガスが導入されるが、空気予熱器13においては、水銀酸化触媒上で、アンモニアと窒素酸化物との脱硝反応が進行する。このため、本実施形態では、高水銀酸化率とともに、高脱硝率を得ることができる。
【0038】
また、排ガス温度が低温(例えば150℃以下)になると、空気予熱器13では、排ガス中のSO
3がアンモニアと反応して硫安を生成することも考えられるが、脱硝装置12で消費されなかったアンモニアは、上述したように、空気予熱器13の水銀酸化触媒上で、脱硝反応により消費されるため、硫安の析出を抑制することができる。これにより、硫安の生成に伴う触媒活性の低下を抑制することができる。
【0039】
また、本実施形態では、上述した触媒を空気予熱器13の接触面24に設けることで、排ガス中のSO
3の凝縮を抑制しているが、上述した触媒組成の第2成分は、硫酸塩又はリン酸塩であってもよいし、硫酸塩及びリン酸塩の両方を含んでいてもよい。このような組成とすれば、SO
3の凝縮をより効果的に抑制することができ、低温下においても、高水銀酸化率を得ることができる。
【0040】
また、本実施形態では、空気予熱器13が1つのエレメント20を有する場合を例に説明したが、軸方向に複数(例えば2〜3段)のエレメント20を有している場合も考えられる。この場合、各段のエレメント20は、互いに通過する排ガスの温度が異なるため、200℃以上400℃以下の排ガス、好ましくは250℃以上270℃以下の排ガスが接触するエレメントにのみ水銀酸化触媒を塗布するようにする。こうすることで、水銀酸化触媒を塗布する領域の区分けが可能になり、経時後の触媒の取り換え時に作業を容易に行うことができる。
【0041】
また、本実施形態では、脱硝装置12を備えた水銀除去装置10を例に説明したが、本発明は、脱硝装置12を設けていない水銀除去装置に対しても、同様の効果、つまり、排ガス中のSO
3の凝縮を抑制する効果を得ることができる。
【0042】
また、従来、脱硝装置を設けていない発電所等の排ガス処理装置においては、水銀酸化触媒を設けるための設備が大がかりになる等、コスト上の問題があったが、本実施形態によれば、既設の空気予熱器13のエレメント20に水銀酸化触媒を塗布し、コーティングするだけで水銀除去を行うことができるから、施工方法が簡単であり、低廉な設備となるから、経済性を高めることができる。
【0043】
以上述べたように、本実施形態によれば、水銀酸化触媒を200℃以上の排ガスが接触する空気予熱器13のエレメント20に限定して水銀酸化触媒を塗布しているから、脱硝装置の設置の有無に関わらず、排ガス中のSO
3の凝縮を抑制することができる。これにより、高水銀酸化率を維持することができ、また、灰等の付着による空気予熱器13の詰まりを防ぐことができる。加えて、脱硝装置が設定されている排ガス処理装置においては、空気予熱器13で脱硝反応させることにより、脱硝装置で消費されなかったアンモニアを消費し、硫安の析出を抑制することができる。
【0044】
これに対し、特許文献1の技術は、脱硫装置よりも上流側の各装置の構成部材に水銀酸化触媒を塗布するものであり、この触媒と接触する排ガスの温度が考慮されていない。このため、水銀酸化触媒の経時劣化の進行が速く、触媒交換頻度が高くなる。また、SO
3が凝縮することで、エレメント20に灰が付着し、空気予熱器13に詰まりが発生する可能性が高くなる。このため、メンテナンス時の作業負担や費用が大きくなる。この点、本実施形態によれば、水銀酸化触媒を設ける位置を空気予熱器13の設定温度域(200℃以上)に限定しているから、これらの問題を解消することができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態を図面により詳述してきたが、上記の実施形態は本発明の例示にしか過ぎないものであり、本発明は上記の実施形態の構成にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更などがあっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0046】
11 ボイラ
12 脱硝装置
13 空気予熱器
14 集塵装置
15 脱硫装置
17 煙道
18 押込送風機
20 エレメント
21 軸
24 接触面