(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
磁気の検出を行う磁気検出素子と、該磁気検出素子の動作に必要な磁界を形成するためのマグネットを有する磁気ドラムであってその中心部上方に前記磁気検出素子を配置した磁気ドラムと、を覆う磁気検出型エンコーダ用磁気シールドカバーであって、
軟磁性体で形成される軟磁性部と空気層で形成されている非磁性部とを有し、
前記軟磁性部は磁気検出素子の動作磁界に影響を与えない部位に配置され、前記非磁性部は磁気検出素子の動作に必要な磁界が形成されている前記磁気検出型エンコーダ用磁気シールドカバーの中央上方部が円形に切り欠かれた切り欠き部の空気層であり、
前記磁気検出素子の近傍の両側面部に短冊状の切り欠け部が形成されていることを特徴とする磁気検出型エンコーダ用磁気シールドカバー。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の鉄系材料等の軟磁性体からなる磁気シールドカバーは、外部磁気の影響を遮断するために、エンコーダ室を殆ど隙間なく一様に囲繞していた。その結果、エンコーダの全体重量が増加する要因となっていた。
【0007】
また、磁気シールドカバーが磁気検出素子に近い場合は、磁気検出素子の動作に必要な磁束が磁気シールドカバーに引き込まれて、磁気検出特性に影響が生じてしまう。したがって、磁気検出特性に影響が生じないように、磁気検出素子と磁気シールドカバーとの距離を十分に確保する必要がある。このため、磁気検出型のエンコーダの小型化には、限界があった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、磁気検出素子の動作に要する磁界に影響を与えず、かつ、外部磁界を遮蔽することができる磁気検出型エンコーダ用磁気シールドカバー、および当該磁気シールドカバーを備えた磁気検出型エンコーダの提供を目的とする。
【0009】
また、本発明は、軽量な磁気検出型エンコーダ用磁気シールドカバー、および当該磁気シールドカバーを備えた磁気検出型エンコーダの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る磁気検出型エンコーダ用磁気シールドカバーは、磁気の検出を行う磁気検出素子と、該磁気検出素子の動作に必要な磁界を形成するためのマグネットと、を覆っている。
【0011】
上記磁気シールドカバーは、磁束を透しやすい軟磁性部と磁束を透しにくい非磁性部とを有する。上記軟磁性部は磁気検出素子の動作磁界に影響を与えない部位に配置され、上記非磁性部は磁気検出素子の動作に必要な磁界が形成されている範囲に配置される。
【0012】
〔作用〕
磁気検出素子と該磁気検出素子の動作に必要な磁界を形成するためのマグネットはもともと磁気シールドカバーがない状態において、適切な動作磁界が得られるように配置される。
【0013】
上記軟磁性部を磁気検出素子の近くに配置した場合、前記マグネットが形成する、該磁気検出素子の動作に必要な磁束を引き込んでしまうため、磁気検出素子の動作に影響を与えてしまう。このため、上記軟磁性部は、磁気検出素子が動作するための磁束を引き込まない部位、すなわち磁気検出素子の動作磁界に影響を与えない部位に配置される。
【0014】
前記マグネットが形成する、該磁気検出素子の動作に必要な磁界が形成されている範囲を前記非磁性部で構成する。
【0015】
上記の構成とした場合、従来技術のように軟磁性体でエンコーダ室を完全に囲う構造にはならないため、外部からの磁界に対しての磁気シールド性能が部分的に落ちることが懸念される。しかし、本発明者らは、内部の磁気検出素子の特性に合わせて軟磁性対部分と非磁性部分を適切に配置することにより、従来の軟磁性体で一様に囲う構造の磁気シールドカバーに比べて、外部からの磁界に対してより良好なシールド性能を持たせることができることを実験的に確認した。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る磁気検出型エンコーダ用磁気シールドカバーは、軟磁性部と非磁性部とを有している。軟磁性部は磁気検出素子の動作磁界に影響を与えない部位に配置され、非磁性部は磁気検出素子の動作に必要な磁界が形成されている範囲に配置される。
【0017】
したがって、本発明に係る磁気検出型エンコーダ用磁気シールドカバーは、当該磁気シールドカバーと磁気検出素子との間の距離を小さくしても、磁気検出素子の本来の動作に要する磁界に影響を与えない。かつ、本発明に係る磁気検出型エンコーダ用磁気シールドカバーは、外部磁界を遮蔽することができる。
【0018】
さらに、非磁性部は軟磁性体に対して軽量であることから、軟磁性体でエンコーダ室を完全に囲う構造に比べ、カバーを軽量化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、第1および第2実施形態に係る磁気検出型エンコーダ用磁気シールドカバー、および当該磁気シールドカバーを備えた磁気検出型エンコーダについて説明する。
【0021】
第1および第2実施形態に係る磁気検出型エンコーダ用磁気シールドカバーは、軟磁性部と非磁性部とを有している。軟磁性部は、磁気検出素子が動作するための磁束を引き込まない部位、すなわち磁気検出素子の動作磁界に影響を与えない部位に配置される。非磁性部は、磁気検出素子の動作に必要な磁界が形成されている範囲に配置される。
【0022】
したがって、本実施形態によれば、磁気検出素子と磁気シールドカバーの距離を小さく設定しても、磁気検出素子の本来の動作に要する磁界に影響を与えず、かつ、外部磁界を遮蔽できる磁気シールドカバーを実現できるようになる。
【0023】
〔第1実施形態〕
[磁気検出型エンコーダおよび磁気シールドカバーの構成]
まず、
図1から
図3を参照して、第1実施形態に係る磁気検出型エンコーダおよび磁気シールドカバーの構成について説明する。
図1は第1実施形態に係る磁気検出型エンコーダの縦断面図である。
図2は第1実施形態に係る磁気検出型エンコーダの横断面図である。
図3は第1実施形態に係る磁気シールドカバーの外観構成の斜視図である。
【0024】
第1実施形態に係る磁気シールドカバーは、磁気検出型のエンコーダに用いられる。
図1に示すように、磁気検出型エンコーダ100は、磁気ドラム1、磁気検出素子3および回路基板4を備える。
【0025】
検出用マグネット1は、たとえば、強磁性体の円板で形成されている。強磁性体は、等間隔でN,Sの磁極に着磁され、マグネット11として形成される。強磁性体の円板の裏面中心部には、回転軸2が設けられている。回転軸2は、不図示のブラケットに設けられた軸受によって、回転自在に軸支されている。
【0026】
磁気検出素子3は、磁気ドラム1に着磁された磁極の位置を検出して、電気信号に変換するための素子である。本実施形態では、たとえば、磁気ドラム1と間隔を隔てて、当該磁気ドラム1と相対向するように設けられている。
【0027】
回路基板4は、磁気検出素子3の電気信号を信号処理するための回路を搭載した基板である。磁気検出素子3は、回路基板4上に設けられている。
【0028】
磁気ドラム1、磁気検出素子3および回路基板4は、外部磁界を遮蔽するための磁気シールドカバー10によって覆われている。磁気シールドカバー10は、概ね有頭円筒体状の部材であって、軟磁性部20と非磁性部30とを有する。
【0029】
軟磁性部20は、たとえば、軟鋼や珪素鋼板等の軟磁性体で形成されている。軟磁性部20は、外部磁界を遮蔽する機能を有する。軟磁性部20は、磁気検出素子3の動作に影響を与えない部位に配置される。
【0030】
本実施形態の非磁性部30は、たとえば、空気層で形成される。当該空気層は、軟磁性部20としての軟磁性体の一部を切り欠いて形成される。
【0031】
非磁性部は、磁気検出素子の動作に必要な磁界が形成されている範囲に配置される。すなわち、非磁性部30は、マグネット11の磁束MFが当該磁気シールドカバー10に引き込まれやすい部分に配置される。
【0032】
磁気ドラム1の中心部上方に磁気検出素子3を配置した場合には、マグネット11の磁束が磁気シールドカバー10の上面中央部に引き込まれやすい(
図6参照)。したがって、この場合には、
図1に示すように、磁気シールドカバー10の上面中央部を切り欠き、非磁性部30としての空気層を形成する。磁気シールドカバー10の上面中央部は、たとえば、円形に切り欠かれる。
【0033】
また、
図2に示すように、磁気ドラム1の平面視において、当該磁気ドラム1の外周部に相対向するように磁気検出素子3,3を配置した場合には、マグネット11の磁束が磁気検出素子3,3の近傍の磁気シールドカバー10の側面部に引き込まれやすい。したがって、この場合には、磁気検出素子3,3の近傍の磁気シールドカバー10の側面部をそれぞれ切り欠き、非磁性部30としての空気層を形成する。磁気シールドカバー10の両側面部は、たとえば、短冊状に切り欠かれる。
【0034】
図1および
図2の磁気シールドカバー10の形状を総合すると、
図3に示すような磁気シールドカバー10が完成する。すなわち、
図3の磁気シールドカバー10は、上面中央部が円形に切り欠かれ、かつ、磁気検出素子3,3の近傍の両側面部が短冊状に切り欠かれている。
【0035】
[磁気検出型エンコーダおよび磁気シールドカバーの作用]
次に、
図1から
図7を参照して、第1実施形態に係る磁気検出型エンコーダおよび磁気シールドカバーの作用について説明する。
図4は本来の磁束の流れを説明するための図である。
図5は従来の磁気シールドカバーの外観構成の斜視図である。
図6は従来の磁気シールドカバーの磁束の流れを説明するための図である。
図7は磁気検出素子の動作磁界の変化を説明するための図である。
図8は第1実施形態に係る磁気シールドカバーの外部磁界遮蔽状況を説明するための図である。
【0036】
図4に示すように、磁気ドラム1に着磁形成されたマグネット11は、N極からS極へと流れる磁束MFを形成する。マグネット11の磁束は、本来、磁気ドラム1と空間を隔てて相対向するように設けられた磁気検出素子3を通過する。
【0037】
磁気ドラム1は回転するため、磁極の位置が変化する。磁気検出素子3は、磁気ドラム1に着磁された磁極の位置を検出して、電気信号に変換する。磁気検出素子3の電気信号は、回路基板4によって信号処理される。
【0038】
従来、磁気ドラム1、磁気検出素子3および回路基板4の周囲は、
図5に示すような磁気シールドカバー310で覆われていた。従来の磁気シールドカバー310は、概ね有底円筒体状であって、全体が軟磁性体で形成されていた。そして、従来の磁気シールドカバー310は、外部磁気の影響を遮断するために、エンコーダ室を一様に囲繞していた。
【0039】
したがって、
図6に示すように、磁気シールドカバー310と磁気検出素子3との距離が小さい場合は、磁気検出素子3の動作に要する磁束MFが当該磁気シールドカバー310に引き込まれてしまう。磁気検出素子3の動作に要する磁束MFが磁気シールドカバー310に引き込まれると、当該磁気検出素子3の磁気検出特性に影響が生じてしまう。
【0040】
図7は、マグネットの角度と磁気検出素子部の磁界との関係を示している。
図7において、Aは本来の動作磁界を示しており、Bは磁気シールドカバーの影響で変化した動作磁界を示している。
図7によれば、従来の磁気シールドカバーの影響で動作磁界が本来の動作磁界からずれていることが判る。
【0041】
これに対して、本実施形態に係る磁気シールドカバー10は、
図1から
図3に示すように、概ね有頭円筒体状の部材であって、軟磁性部20と非磁性部30とを有する。軟磁性部20は、たとえば、軟磁性体で形成されているので、外部磁界を遮蔽する機能を有する。
【0042】
一方、非磁性部30は、たとえば、空気層で形成される。当該空気層は、軟磁性部20としての軟磁性体の一部を切り欠いて形成される。非磁性部30は、マグネット11の磁束MFが当該磁気シールドカバー10に引き込まれやすい部分に配置されている。
【0043】
したがって、本実施形態に係る磁気シールドカバー10は、磁気シールドカバー10と磁気検出素子3との間の距離を小さくても、磁気検出素子3の本来の動作に要する磁界に影響を与えない。
【0044】
また、磁気シールドカバー10と磁気検出素子3との間の距離を近づけることができるので、磁気シールドカバー10の小型化を図ることができ、ひいては、磁気検出型エンコーダの小型化を図ることができる。
【0045】
本実施形態に係る磁気シールドカバー10は、磁気検出素子3から離れた位置、もしくは、磁気検出素子3の動作に影響を与えない部位を軟磁性部20として形成し、かかる部分に外部磁界を積極的に集中させる。
【0046】
本実施形態に係る磁気シールドカバー10の非磁性部30において、磁気遮蔽能力の低下が懸念されるが、非磁性部30は軟磁性部20に比べて磁気抵抗が高くなるため、外部から磁界が作用した場合、外部からの磁束OMFはその大半が周囲の軟磁性部20に引き込まれ、非磁性部30の近傍での磁束密度は十分に小さくなる(
図8参照)。
【0047】
このことより、本実施形態に係る磁気シールドカバー10は従来の磁気シールドカバー310のようにエンコーダ室を一様に囲繞する場合と同等以上の磁気シールド性能を有する。
【0048】
そして、第1実施形態では、非磁性部30が軟磁性体の一部を切り欠いた空気層として形成されているので、磁気シールドカバー10の軽量化を図ることができ、ひいては、磁気検出型エンコーダの軽量化を図ることができるものである。
【0049】
〔第2実施形態〕
次に、
図9および
図10を参照して、第2実施形態に係る磁気検出型エンコーダ用磁気シールドカバー、および当該磁気シールドカバーを備えた磁気検出型エンコーダの構成について説明する。
図9は第2実施形態に係る磁気シールドカバーの一例の斜視図である。
図10は第2実施形態に係る磁気シールドカバーの他例の斜視図である。
【0050】
第2実施形態に係る磁気検出型エンコーダは、複合体構造の磁気シールドカバー210を備える点が、第1実施形態と異なる。
【0051】
すなわち、第2実施形態に係る磁気シールドカバー210において、軟磁性部220は、軟鋼や珪素鋼板等の軟磁性体で形成されている。一方、非磁性部230は、合成樹脂材料で形成されている。合成樹脂材料は限定されるものではなく、周知の合成樹脂材料から適宜選択される。
【0052】
図9に示す磁気シールドカバー210は、
図2と同一形状の軟磁性体の外側に、有頭円筒体状の合成樹脂材料が装着されている。非磁性部230は、合成樹脂材料のみが存在し、軟磁性体は存在しない。
【0053】
また、
図10に示す磁気シールドカバー210は、
図2と同一形状の軟磁性体の内側に、有頭円筒体状の合成樹脂材料が装着されている。非磁性部230は、合成樹脂材料のみが存在し、軟磁性体は存在しない。
【0054】
図9および
図10の磁気シールドカバー210内には、磁気の検出を行う磁気検出素子と、当該磁気検出素子の動作に必要な磁界を形成するためのマグネットを有する磁気ドラムとが収容されている。
【0055】
第2実施形態に係る磁気検出型エンコーダおよび磁気シールドカバー210は、基本的に第1実施形態に係る磁気検出型エンコーダ100および磁気シールドカバー10と同一の作用効果を奏する。
【0056】
特に、第2実施形態によれば、磁気シールドカバー210が複合体構造を有しており、合成樹脂材料がエンコーダ室の全体を覆っているので、エンコーダ室内への粉塵等の異物の侵入を防止することができるという有利な効果を奏する。
【0057】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、これらは本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をこれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態とは異なる種々の態様で実施することができる。