(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6489762
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】管路洗浄方法及び管路洗浄システム
(51)【国際特許分類】
B08B 9/055 20060101AFI20190318BHJP
B08B 9/053 20060101ALI20190318BHJP
E03F 9/00 20060101ALI20190318BHJP
E03B 7/09 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
B08B9/055 556
B08B9/053
B08B9/053 535
E03F9/00
E03B7/09
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-109791(P2014-109791)
(22)【出願日】2014年5月28日
(65)【公開番号】特開2015-13282(P2015-13282A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2017年5月18日
(31)【優先権主張番号】特願2013-118446(P2013-118446)
(32)【優先日】2013年6月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598143550
【氏名又は名称】鈴木 宏
(73)【特許権者】
【識別番号】513141441
【氏名又は名称】大岡 伸吉
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】大岡 伸吉
【審査官】
柿沼 善一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−307032(JP,A)
【文献】
特開2008−119564(JP,A)
【文献】
特開2011−230106(JP,A)
【文献】
特表2003−519571(JP,A)
【文献】
特開2016−079738(JP,A)
【文献】
特開2014−083513(JP,A)
【文献】
実開平04−087787(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 9/055
B08B 9/053
E03B 7/09
E03F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
氷粒子と水とを有するシャーベット状の流動体を管路の洗浄対象区間内に加圧注入し、該洗浄対象区間内を移動させることで前記洗浄対象区間内を洗浄する管路洗浄方法において、
以下の3つの工程、
袋体内に固体片を詰めて成り前記管路内を簡易閉塞可能な大きさ及び変形性を有する移動体を前記洗浄対象区間の一方側から導入する移動体導入工程と、
前記移動体導入工程の後に、前記導入した移動体の後方から前記氷粒子と水とを有するシャーベット状の流動体を、前記洗浄対象区間の一部区間に充満するように注入する流動体注入工程と、
前記流動体注入工程の後に、前記注入した氷粒子と水とを有するシャーベット状の流動体の後方から液体を加圧注入することで前記導入した移動体及び前記流動体の双方を移動させる液体加圧注入工程と、
を有することを特徴とする管路洗浄方法。
【請求項2】
前記袋体は網状体で形成され、前記固体片は前記網状体の網目の大きさよりも大きい氷片であることを特徴とする請求項1に記載の管路洗浄方法。
【請求項3】
前記袋体は網状体で形成され、前記固体片は少なくとも一部が弾性部材で構成されたことを特徴とする請求項1に記載の管路洗浄方法。
【請求項4】
前記固体片は、多孔質弾性部材と樹脂製部材との混合体であることを特徴とする請求項3に記載の管路洗浄方法。
【請求項5】
前記液体は、水であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の管路洗浄方法。
【請求項6】
前記移動体は、前記流動体により後方から押されて移動すると共に、前方から引き動作されることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の管路洗浄方法。
【請求項7】
前記移動体は、それぞれ前記固体片が詰められた複数の小袋体から構成され、該小袋体は全て直列的に連結されたことを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の管路洗浄方法。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載の管路洗浄方法を実施する管路洗浄システムにおいて、
前記移動体を導入した側の前記洗浄対象区間の一方の開口端部を閉じる蓋部と、
前記蓋部を通して前記洗浄対象区間と外部とを連通する注入用連通管と、
前記注入用連通管を介して、前記洗浄対象区間内に前記流動体を注入する流動体注入手段と、
前記注入用連通管を介して、前記流動体の後方から前記液体を加圧注入する液体注入手段と、
を有することを特徴とする管路洗浄システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管路洗浄方法及び管路洗浄システム、特に、管路内に洗浄用の流動体を注入し、管路内を移動させて排出させることで管路内を洗浄する管路洗浄方法及び管路洗浄システムに関する。
【背景技術】
【0002】
管路は様々な場所に様々な形態で使用されている。例えば、上水道や下水道管路、工場における原料や燃料等を送るパイプ、家庭内での排水パイプ等がある。管路を流れる物体についても、気体、液体、固体等、様々な形態がある。
【0003】
一例として下水道管について説明する。下水道は、主に都市部の雨水及び汚水(下水)を地下水路等で集めた後、公共用水域へ排出するための施設・設備の集合体であり、それらの雨水及び汚水(下水)は浄化等の水処理が行われる。地下水路等の代表として下水道管がある。
【0004】
下水道管を流れる雨水として、気象学における降水がある。また、気温の上昇等で溶けた融雪水も含む。下水道管を流れる汚水としては、家庭の水洗式便所からのし尿や、家庭における調理・洗濯で生じる生活排水、商店や工場等の事業所からの産業排水等がある。
【0005】
したがって、これらの雨水及び汚水から成る下水には下水道管の管壁に付着し易い汚物等が含まれている。
【0006】
下水道管には前述のように生活排水や産業排水等の汚水が流されるので、その管路の内部には堆積物(スケール)が多量に付着し易い。したがって、下水道管は、詰まり等の不具合が発生しないように定期的に点検、洗浄することが必要になっている。
【0007】
従来、管路の洗浄方法としては、ピグ方式(例えば、特許文献1、2)やノズル方式(例えば、特許文献3)があった。しかし、作業コスト、洗浄効果、及び安全性等の面から、近年、ピグ方式やノズル方式に替え、洗浄用の流動体を用いた洗浄方法(特許文献4)が注目されている。この方式は、固体のピグの替わりに小さな氷粒子で形成されたシャーベット状の流動体を用い、この流動体を管路の入口から管路内に送り込み、管路内を移動させて管路の出口から流動体を排出するものである。
【0008】
上記の洗浄用の流動体を用いた洗浄方法においては、氷粒子が管路内を移動すると、管路の内壁に氷粒子が連続的に衝突、接触するので管路の内壁に付着した堆積物等に物理的な外力が加わり、大きな堆積物等が削ぎ取られ、管路内の洗浄が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−191045号公報
【特許文献2】特開2009−66522号公報
【特許文献3】特開平9−10716号公報
【特許文献4】特許第4653921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の洗浄用の流動体を用いた洗浄方法において、前述のように管路の内壁に付着した堆積物は、氷粒子の接触、衝突等により削ぎ取られる。しかし、洗浄対象区間の管路内に、流動体を送り込んで充満させて移動させる場合、種々の問題があった。例えば、下水道の自然流下管のように勾配を有する場合で、管路内が空洞状態に近い場合には、流動体を順次送り込んで前進させるために非常に多量の流動体を必要とする。また、大口径の管路内に水等の液体が満水状態に近い状態で存在している場合においても、流動体が液体へ容易に溶け込むため、多量の流動体を必要としている。したがって、勾配を有する管路や液体が満水状態に存在している条件下では、氷粒子と水と有するシャーベット状の流動体による洗浄は困難であった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、洗浄に用いる氷粒子と水とを有するシャーベット状の流動体を効果的、経済的に使用する管路洗浄方法及び管路洗浄システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、請求項1に記載の管路洗浄方法は、氷粒子と水とを有するシャーベット状の流動体を管路の洗浄対象区間内に加圧注入し、該洗浄対象区間内を移動させることで前記洗浄対象区間内を洗浄する管路洗浄方法において、
以下の3つの工程、袋体内に固体片を詰めて成り前記管路内を簡易閉塞可能な大きさ及び変形性を有する移動体を前記洗浄対象区間の一方側から導入する移動体導入工程と、前記移動体導入工程の後に、前記
導入した移動体の後方から前記
氷粒子と水とを有するシャーベット状の流動体を、前記洗浄対象区間
の一部区間に充満するように注入する流動体注入工程と、前記流動体注入工程の後に、前記
注入した氷粒子と水とを有するシャーベット状の流動体の後方から液体を加圧注入することで
前記導入した移動体及び前記流動体
の双方を移動させる液体加圧注入工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
この方法によれば、洗浄対象区間内に移動体が導入され、その後方に流動体が注入され、流動体の後方から更に液体が加圧注入される。移動体は、袋体に固体片を詰めて構成されるので全体として変形性を有し、管路を簡易閉塞、すなわち水は滲み出すことは可能であるが流動体の大部分は通さない状態とすることができる。したがって、管路を洗浄するための流動体は、移動体があることにより前方に流れ出す量を大幅に削減できるため、洗浄対象区間を所定長さに亘って容易に充満させることができる。また、流動体に押し出されながら移動する移動体は管路の内壁に接触し堆積物等を削り取るので、その後の流動体による洗浄は効果的に行われることとなる。したがって、1回の洗浄作業で使用される流動体の量を低減することが可能であり、洗浄に用いる氷粒子と水とを有するシャーベット状の流動体の効果的、経済的な使用が可能となった。
【0014】
請求項2に記載の管路洗浄方法は、請求項1に記載の管路洗浄方法において、前記袋体は網状体で形成され、前記固体片は前記網状体の網目の大きさよりも大きい氷片であることを特徴とする。したがって、移動体は、容易に準備することができ、網目から一部露出する氷片により管路の内壁は効果的に擦られ、また氷片により与えられる堆積物への温度変化により堆積物の管壁への付着力が低下せしめられることとなり、より効果的な管路の洗浄を可能とする。更に、管路の途中で移動体が停留しても氷片であるから安全性の問題はない。
【0015】
請求項3に記載の管路洗浄方法は、請求項1に記載の管路洗浄方法において、前記袋体は網状体で形成され、前記固体片は少なくとも一部が弾性部材で構成されたことを特徴とする。したがって、移動体は、安価で容易に準備することができ、移動体全体として弾力性と可塑性を有し、且つ形態維持性を具備することとなる。
【0016】
請求項4に記載の管路洗浄方法は、請求項3に記載の管路洗浄方法において、前記固体片は、多孔質弾性部材と樹脂製部材との混合体であることを特徴とする。多孔質弾性部材は例えばスポンジ、発泡ウレタン等である。樹脂製部材は、例えば中空のプラスチックボール等であり、したがって、移動体は軽量で構成することが可能となり作業性は良好となる。
【0017】
また、シャーベット状の流動体の圧入により、流動体が移動体と接触した際に、シャーベット状の流動体に含まれる水分は、移動体を通過して流下する。この効果により、流動体先頭部の過剰水分は除去され、適度な流動性を保持しつつ先頭部を形成する。したがって、多量の流動体を必要とせずに必要最小限の流動体により管路の洗浄が可能となる。更に、この移動体は繰り返して使用することが可能であり、管路に曲り等の変形がある場合でも移動体は弾力性と可塑性を有するため管路内に停留することはない。
【0018】
請求項4に記載の管路洗浄方法は、請求項1から3の何れか1項に記載の管路洗浄方法において、前記液体は、水であることを特徴とする。したがって、管路を流れる水や下水をそのまま使用することができ、作業コストの低減や作業時間の短縮となる。
【0019】
請求項5に記載の管路洗浄方法は、請求項1から4の何れか1項に記載の管路洗浄方法において、前記移動体は、前記流動体により後方から押されて移動すると共に、前方から引き動作されることを特徴とする。したがって、移動体が管路の途中で停留した場合、また管路の圧力が一定以上に上昇した場合に、洗浄対象区間の反対側から引き動作を行うことで、移動体を移動させることができるので、洗浄作業を安全に滞りなく行うことが可能である。
【0020】
請求項6に記載の管路洗浄方法は、請求項1から5の何れか1項に記載の管路洗浄方法において、前記移動体は、それぞれ前記固体片が詰められた複数の小袋体から構成され、該小袋体は全て直列的に連結されたことを特徴とする。したがって、小袋体は連結されているので、バラバラになることがなく取り扱いも容易であり、比較的大きな管路に移動体を導入する場合に、小袋体を一つずつ積重ねることが可能であり、管路への移動体の導入を容易に行うことが可能である。
【0021】
上記の目的を達成するため、請求項7に記載の管路洗浄システムは、請求項1から6の何れか1項に記載の管路洗浄方法を実施する管路洗浄システムにおいて、前記移動体を導入した側の前記洗浄対象区間の一方の開口端部を閉じる蓋部と、前記蓋部を通して前記洗浄対象区間と外部とを連通する注入用連通管と、前記注入用連通管を介して、前記洗浄対象区間内に前記流動体を注入する流動体注入手段と、前記注入用連通管を介して、前記流動体の後方から前記液体を加圧注入する液体注入手段と、を有することを特徴とする。
【0022】
この構成は、請求項1から6の何れか1項に記載の管路洗浄方法を実施可能とするものであり、洗浄対象区間は、移動体が導入された一方の開口端部が蓋部により閉じられ、この蓋部に洗浄対象区間と連通する注入用連通管が接続される。そして、この洗浄対象区間内に、注入用連通管に接続された流動体注入手段から、氷粒子と水とを有するシャーベット状の流動体が移動体の後方に注入される。次いで、注入用連通管に接続された液体注入手段により、流動体の後方から液体が加圧注入される。これにより流動体は移動体を押し出しながら液体の加圧注入により管路内を移動する。したがって、氷粒子と水とを有するシャーベット状の流動体を効果的、経済的に利用する管路の洗浄方法が実行可能となった。
【発明の効果】
【0023】
本発明の管路洗浄方法及び管路洗浄システムによれば、管路の洗浄対象区間内にこの洗浄対象区間を簡易閉塞する移動体を導入し、その後方に流動体を注入して所定長さに亘り洗浄対象区間を充満させ、この流動体の後方から液体が加圧注入される。したがって、流動体を管路内に素早く、且つ効果的、経済的に充満させて移動させることが可能となり、洗浄作業のコスト低減、洗浄作業のより短縮化が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の管路洗浄方法の実施の形態に係り、下水道管に適用した概略説明図である。
【
図2】袋体内に詰める固体片として、
図2(A)は多孔質弾性部材であるスポンジ片、
図2(B)は樹脂製部材である中空の孔開きプラスチックボールの概略斜視図である。
【
図3】下水道管の洗浄対象区間に所定長さに亘り流動体を充満させる様子を示す概略説明図であって、
図3(a)は最初に移動体を導入した様子(移動体導入工程)、
図3(b)は流動体を注入する様子(流動体注入工程)、
図3(c)は流動体の後方から液体を加圧注入する様子(液体加圧注入工程)を示す。
【
図4】本発明の第2の実施の形態に係り、管路に挿入した移動体を前方から引き動作している様子を示す概略説明図である。
【
図5】管路に挿入した移動体が停留し、上流側マンホールから移動体を引き動作して停留した移動体を分解している様子を示した概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の管路洗浄方法の実施の形態について、図面を参照しながら詳述する。実施の形態では、下水道管の洗浄に適用した例について示している。使用する洗浄用の流動体は、氷粒子及び水から成るシャーベット状の流動体である。流動体の氷粒子と水との比率は7から9対3から1である。すなわち、ほとんどが氷粒子である。また、流動体には塩分を適宜加えてあり、その量は略3から7質量%である。
【0026】
図1は管路洗浄システムの概略説明図である。洗浄の対象とする管路は、下水道管12であり、この下水道管12は地面から所定の深さに埋設されている。また、下水道管12は、所定の区間毎にマンホール16、18が設置されている。汚水20は、通常、マンホール16、下水道管12、マンホール18を介して流れる。
【0027】
図1において2つのマンホール16、18の間の区間が管路12の洗浄対象区間14である。
図1内で、下水20が流れて来る左側のマンホールを上流側マンホール16、右側のマンホールを下流側マンホール18と定義する。汚水20は、
図1では左側から右側に流れるが、洗浄作業中は、図示していない下水排水管及び排水ポンプ等により上流側マンホール16から下水20を汲み上げて下流側マンホール18へと、洗浄対象区間14を迂回して流れるようになっている。
【0028】
洗浄作業を開始する前に、以下の段取り作業を行う。洗浄対象区間14の上流側に移動体46を導入する(移動体導入工程)。この導入作業は上流側マンホール16内で行うことができる。移動体46は、固体片を詰めたもので構成され、全体の直径は洗浄対象区間14の管路12の直径と略同一である。但し、変形可能であれば、概略閉塞できる容積であれば良い。長さは、管路12内を後ろから注入される流動体48が移動体46より前方に流れ出ず、且つ加圧注入される水50により、管路12内を移動できるような所定の長さを有する。この様な状態を簡易閉塞状態と定義する。すなわち、移動体46は管路12を簡易に閉塞するが管路12内を移動可能である。具体的に、移動体46を構成する固体片は、氷、木材、ゴム部材、プラスチック材等、又はこれらの混合体であり、移動体46は、それらの固体片を集合させ、袋体に収容したものである。固体片として、スポンジ片と中空の孔開きプラスチックボールの混合体を用いても良い。固体片のそれぞれ形状、大きさは、任意で良いが、それにより構成される移動体46は、前述のように少なくとも注入される流動体48の前方への流出を堰き止めると共に、加圧注入される液体により管路12内を移動できれば良い。
【0029】
本実施の形態では、最も好ましい例として、移動体46を構成する固体片は、氷片、又はスポンジ片と中空の孔開きプラスチックボールの混合体を用い、袋体は網状体46aを用いた。スポンジ片は、独立気泡の多孔質弾性部材であり、その他にも連続気泡の発泡性ウレタン樹脂等も好適である。中空の孔開きプラスチックボールは、樹脂製部材であり、その他にも中空の立方体、直方体等も好適である。
【0030】
固体片として氷片を用いた場合、氷片は1辺が数cm程度の立方体であり、氷片は網状体46aの網目の大きさよりも大きい。氷片で構成された移動体46は、管路12内を移動する際に、網状体46a及び網状体46aから一部露出する氷片は、管路12の内壁を擦るので、その後から移動する洗浄用のシャーベット状の流動体48の洗浄の効果が大幅に向上することとなる。また、移動体46が、洗浄対象区間14内で停留しても、無害の氷片が溶けることで、移動体46の袋体46aは回収でき、何等障害は発生しない。
【0031】
図2は、固体片として、スポンジ片と中空の孔開きプラスチックボールの混合体を用いた場合のスポンジ片(
図2(A))と、中空の孔開きプラスチックボール(
図2(B))の概略斜視図を示す。スポンジ片54は一辺が数cm程度の立方体であり、プラスチックボール56は、直径が数cm程度であり、中空であって表面には複数の孔が形成されている。スポンジ片54とプラスチックボール56は網状体46aの網目の大きさよりもそれぞれ大きい。
【0032】
上記のスポンジ片と中空の孔開きプラスチックボールの混合体で構成された移動体46は、管路12内を移動する際に、シャーベット状の流動体中の水分を通過させ、水分のみを流出させる。この効果により、流動体先頭部の過剰水分は除去され、適度な流動性を保持しつつ先頭部を形成する。したがって、先頭部の後から移動する流動体48の洗浄効果は、低減することなく効果的に洗浄が可能となる。また、余分な流動体の流出を防止することにより、必要最小限の流動体により管路の洗浄が可能となる。
【0033】
更に、この移動体は繰り返し使用することが可能であり、管路に曲り等の変形があっても移動体全体として弾力性と可塑性を有することにより、移動体が管路内に停留する等の障害は発生しない。
【0034】
移動体46は、何度も再利用するような現場においては、特に直線管で洗浄対象区間14が短い場合であって移動体46が途中で停留し難い場合においては、固体片は木材又はプラスチック材が好適である。また、移動体46は、これらに限定されずゼリー状のもの、食材等の有機物、ドライアイス、ガラス等の無機物を問わず使用することが可能である。
【0035】
前述したように本実施の形態では、最も好ましい例として、移動体46を構成する固体片は氷片、又はスポンジ片と中空の孔開きプラスチックボールの混合体を用い、袋体は網状体46aを用いた。特に、スポンジ片と中空の孔開きプラスチックボールとの混合体は安価で容易に準備することができ、且つ軽量で作業性が良好であると同時に、弾力性と可塑性を有する。
【0036】
次に、移動体46を導入した洗浄対象区間14の下水道管(管路)12の上流側開口端部に密閉用の蓋部15を設置する。この蓋部15は金属製、プラスチック製及びゴム製等、何れの材質のものでも良く、洗浄対象区間14から加圧注入した水等が漏れ出ないようにする。反力支持材等(図示していない)を用いて蓋部15を固定しても良い。この蓋部15に、注入用連通管22が洗浄対象区間14内と外部とを連通した状態で取り付けられる。一方、下流側のマンホール18内には、排出用連通管24が洗浄対象区間14内と外部とを連通した状態で取り付けられる。更に、下流側マンホール18内の洗浄対象区間ではない管路の開口端部に蓋部17が取り付けられる。この蓋部17は、開閉部17aが設けられており、洗浄を開始してから移動体46が下流側マンホール18に到達するまでは開閉部17aは開状態とされる。移動体46を回収してから堆積物等を含む流動体や水を回収する場合は、開閉部17aは閉じられた状態となっている。
【0037】
注入用連通管22には、注入装置31として流動体注入手段28と液体注入手段30が接続され、制御手段34により、流動体注入手段28からの流動体48と、液体注入手段30からの常温の水50とが切り替え選択されて、注入用連通管22にそれぞれ連続で然も空気が混入しないように加圧注入される。制御手段34は、上述の動作を可能とするために切り替えバルブ(図示していない)や注入量を制御する制御回路等が具備されている。流動体注入手段28及び液体注入手段30は、具体的には、それぞれ流動体48及び水50が満載されたタンク車等である。
【0038】
また、流動体注入手段28には、流動体48を洗浄対象区間14に注入するためのスネイクポンプ(図示していない)等が具備されている。このポンプの吐出量を調整することで、流動体48の洗浄対象区間14への注入圧力を変えることが可能である。液体注入部30にも同様に水を洗浄対象区間14へ加圧注入するための送水ポンプ等(図示していない)が具備されている。これらのポンプの吐出量や送水ポンプの送水量を調整することで、洗浄対象区間14内の圧力、流動体48の移動速度等を調整することが可能である。最も好ましくは、流動体48の注入や水50の加圧注入は、管路12が埋設されている位置と地上との高低差による位置エネルギを利用して行われることが望ましい。
【0039】
排出用連通管24には、吸引ポンプ36が取り付けられ、洗浄対象区間14内を移動してきた流動体48及び水50が吸引、排出される。この流動体48には、洗浄対象区間14内の取り除かれた塵42や堆積物43が含まれており、吸引された流動体48は、排出タンク40に溜められる。排出タンク40の替わりにバキューム車等でも良く、その場合はバキューム車等に吸引された流動体48が溜められる。
【0040】
図3は、洗浄作業の開始の手順について示す。まず、洗浄対象区間14の上流側の管路12の開口端部から、その直径に応じた移動体46を導入する(移動体導入工程)。すなわち、上流側マンホール18から移動体46を管路12内に導入する。本実施の形態では、移動体46は網状体46aに氷片、又はスポンジ片と中空の孔開きプラスチックボールの混合体を詰めた構成になっており、前述したように、この移動体46は、後方から注入される水50は通すが、流動体48は僅かに滲み出る程度の通過性能を有し、洗浄対象区間14内を後方から注入又は加圧注入された流動体48及び水50により、管路12の形状に応じながら移動可能になっている。
【0041】
次に、
図3(b)に示すように、洗浄対象区間14の開口端部に、蓋体15及び注入用連通管22を取り付け、流動体注入手段28から注入用連通管22を介して、所定の量だけ流動体48を注入する(流動体注入工程)。移動体46が洗浄対象区間14を簡易閉塞、すなわち水は滲み出すことは可能であるが流動体48の大部分は通さない状態とするので、流動体48は、前方に流れ出す量が大幅に削減され、洗浄対象区間14を所定長さに亘って容易に充満すること可能になっている。この、所定の長さは、この流動体48により洗浄対象区間14内の管路12の内壁が洗浄されるので、管路12内の汚れの程度や、流動体48を繰り返し加圧注入して移動させる回数に応じて、適宜決められる。
【0042】
図3(c)は、流動体48を洗浄対象区間14の所定長さ充満させた後、流動体48を管路内12で移動させるために、水50を液体注入手段30により加圧注入している様子を示す(液体加圧注入工程)。この水50の加圧注入は、移動体46が洗浄対象区間14の下流側マンホール18に到達するまで行う。この水50は、水道水を用いているが、下水20や農業用水等の水を利用することも可能である。このようにすることで、作業のコストを更に下げることができる。
【0043】
上流側マンホール16から導入した移動体46が、下流側マンホール18に到達したら、移動体46を回収する。回収は、下流側マンホール18内で容易に行うことが可能である。その後、流動体48及び水50を排出用連通管24より吸引し排水タンク40に回収する。なお、水50は、汚れが少ない等、問題がなければ下流側マンホール18からそのまま下流側に流しても良い。
【0044】
移動体46及び流動体48は、その後方から加圧注入される水50により、管路12内を移動する。移動体48は管路12を簡易閉塞しているので、移動体48が移動することで管路12の内壁が擦られて堆積物43等が剥がされ、その後の流動体48による洗浄は効果的に行われることとなる。したがって、1回の洗浄作業で使用される流動体48の量を低減することも可能であり、洗浄に用いる氷粒子と水とを有するシャーベット状の流動体48を効果的、経済的に使用することが可能となった。
【0045】
なお、本実施の形態では、下水道管12の直径は略250mm、流動体48の長さは略2000から10000mm、流動体48の移動速度は、10から30cm/秒とした。なお、移動速度は、作業開始直後は遅く作業終了間際は速くすることも可能である。
【0046】
また、管路12の洗浄は、マンホールとマンホールの間の1スパンだけではなく、例えば、下流側マンホール18内に管路12と管路12を連通管により接続することで、複数のスパンを連続して洗浄することが可能となる。この場合、連通管を透明部材で構成することで洗浄の状況が確認できる。
【0047】
本実施の形態の管路洗浄方法によれば、流動体を管路内で移動させるために、まず管路内に移動体に導入し、所定の量の流動体を注入した後に、流動体の後方より水によって流動体を移動させるようにしたので、流動体を無駄なく効果的に使用することが可能となる。とりわけ、自然流下管において上流から下流に向けての管路洗浄の場合においては、洗浄作業を実際的で低コストに行うことが可能になった。
【0048】
(第2の実施の形態)
洗浄対象区間内に取付け管がある場合、通常は下流側が開放されるため、加圧力が低下するので、取付け管に特別な措置を講ずる必要はない。但し、必要に応じて、逆流を防ぐために取付け管にパッカーを詰めて洗浄を行う。しかし、パッカーが取り付けられない、又は使用できない場合がある。その場合は、流動体48又は水50が地上或いは取付け管から公設枡まで逆流する恐れがある。このような場合に、以下に示す方法を用いることができる。
【0049】
図4は、本発明の第2の実施の形態に係り、管路に導入した移動体を紐で引張している様子を示す概略説明図である。第2の実施形態の移動体46は第1の実施の形態で示した様に、一つの網状体46aに氷片を詰めたもの用いるが、この移動体46には紐46bが結ばれている。紐46bの先端は、下流側マンホール18まで到達している。紐46bの先端を下流側マンホール18まで到達させる方法は、例えば、紐46bの端部に浮体等を括り付けておき、水に浮かせて下流側マンホール18まで流す等種々の方法を用いることができる。
【0050】
洗浄中に、移動体46が取付け管のある場所を通過し管路12内の圧力が所定以上に上昇したら、移動体46に結ばれた紐46bを下流側の管ホール18で引くことで、移動体46を下流側に強制的に移動させ、流動体48並びに水50の注入圧を低くすることが可能となる。すなわち、流動体48又は水50が地上或いは取付け管から公設枡まで逆流しない程度の圧力によって、管路12内の洗浄が可能となる。
【0051】
移動体46を上記のようにして下流に移動させ、管内の圧力を下げても未だ支障がある場合には、適度な速度で下流側マンホール18から紐46bを引いて、移動体46を下流側に移動させ管路12から引き出すことができる。
【0052】
(第3の実施の形態)
第1の実施の形態と異なる点は、移動体の構成である。本実施の形態での移動体52は、それぞれ氷片、又はスポンジ片と中空の孔開きプラスチックボールの混合体が詰められた複数の小さな網状体52aから構成され、それぞれの網状体52aは紐52bで直列的に連結されている。更に、第1番目の網状体52aには、紐52bが結ばれて、この紐52bの先端は、下流側マンホール18まで到達している。
【0053】
すなわち、第1の実施の形態では、移動体46は一つの網状体46aから構成されていたが、第3の実施の形態では移動体52は、複数の網状体52aから構成されている。
【0054】
洗浄作業の手順は、第1、第2の実施の形態と略同様であるが、最初に移動体52を管路12内に詰める際に、移動体52を構成する第1番目の網状体52aに結ばれている紐52bの先端を第2の実施の形態で述べたように、下流側マンホール18まで到達させる。そして、管路12内で複数の網状体52aを重ね積して、移動体52を形成する。
【0055】
移動体52が網状体52aで構成されているので、比較的直径の大きい管路に移動体52を導入することが容易である。移動体52により、第1、第2の実施の形態と同様に、後ろから注入される流動体48が移動体52より前方に流れ出ず管路12を簡易閉塞した状態とされ、加圧注入される水50により、管路12内を移動できるようになっている。
【0056】
移動体52をこのように構成し、第1、第2の実施の形態と同様に、管路12内の洗浄を行うことが可能である。
【0057】
図5は、網状体52aで構成した移動体52が、管路12の途中で停留した場合に、紐52bを下流側マンホール18から引っ張って、積み重ねた移動体52を個々の移動体52に分解している様子を示す。移動体52は、下流側マンホール18から紐52bを引くことにより、管路12内から取り除くことも可能であることが特徴になっている。この場合、移動体52を少し取り崩しても残りの移動体52により管路12の簡易閉塞状態が保たれ、且つ移動可能であれば、その後そのまま洗浄を再開することができる。また、下流側マンホール18から移動体52を一旦完全に取り除いて、再び管路の洗浄を行うことも可能である。この場合、移動体52が途中で停留した原因を解明し、再び停留しないようにすることが肝要である。
【0058】
なお、上述した第1、第2、第3の実施の形態では、一例として下水道管12を例にして本発明の管路洗浄システムを説明したが、これらの実施の形態に限定されることはない。すなわち、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、洗浄する管路として上水道管、農業用水管や工場内での各種の配管、食品等を扱う管路、及び家庭内の排水管等としても良い。また、液体として、水道水を示したが、洗浄対象の管路を流れる液体をそのまま使用すること、例えば、食品等の管路を洗浄する場合には、その管路を流れる食品等を使用すること、下水道管を洗浄する場合、下水の処理水又は再生水を利用することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
12 下水道管
14 洗浄対象区間
15、17 蓋部
16 上流側マンホール
18 下流側マンホール
20 汚水
22 注入用連通管
24 排出用連通管
28 流動体注入手段
30 液体注入手段
31 注入装置
34 制御手段
36 吸引ポンプ
46、52 移動体
46a、52a 網状体
46b、52b 紐
48 流動体
50 水