(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のセメント質硬化体の製造方法は、前記のとおり、3Dプリンタを用いて作製してなる樹脂性型枠を使用して、セメント質硬化体を成形して製造する方法である。以下、本発明について、3Dプリンタ、樹脂製型枠、およびセメント質硬化体に分けて詳細に説明する。
【0011】
1.3Dプリンタ
3Dプリンタ(3次元造形システム)は、コンピュータ上で作製した3Dデータを設計図に用いて、断面形状を積層することにより立体物を作製する産業用ロボットの一種である。本発明は、この3Dプリンタを用いて作製した、任意の形状および模様を有する樹脂製型枠を使用して、セメント質硬化体を製造することを特徴とする。
本発明で用いる3Dプリンタは市販品が使用でき、また、造形方式は、熱溶解積層方式、光造形方式、粉末固着方式、粉末焼結方式、インクジェット方式、および切削加工方式の何れでもよい。
【0012】
2.樹脂製型枠
(1)熱可塑性樹脂
本発明で用いる樹脂製型枠を形成する熱可塑性樹脂は、(i)単官能エチレン性不飽和単量体、(ii)ウレタン基を含有しない多官能エチレン性不飽和単量体、および(iii)ウレタン基含有エチレン性不飽和単量体を、(iv)光重合開始剤を用いて重合させてなる共重合体である。そして、前記熱可塑性樹脂のガラス転移点は、脱型の容易性と耐熱性の観点から、好ましくは50〜120℃、より好ましくは80〜120℃である。
【0013】
(i)単官能エチレン性不飽和単量体
前記単官能エチレン性不飽和単量体は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−t−シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、4−(メタ)アクリロイルオキシメチル−2−メチル−2−エチル−1,3−ジオキソラン、4−(メタ)アクリロイルオキシメチル−2−シクロヘキシル−1,3−ジオキソラン、アダマンチル(メタ)アクリレート。ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール、モノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール、モノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド、およびアクリロイルモルフォリンからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0014】
(ii)ウレタン基を含有しない多官能エチレン性不飽和単量体
ウレタン基を有しない多官能エチレン性不飽和単量体は、ウレタン基を有しない2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物であり、該化合物を用いて高分子の間を架橋することにより機械強度および弾性率が高くなる。そして、ウレタン基を有しない多官能エチレン性不飽和単量体は、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0015】
(iii)ウレタン基含有エチレン性不飽和単量体
前記ウレタン基含有エチレン性不飽和単量体は、ポリマーの靭性および伸びを調整する機能を有するもので、水酸基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物、およびポリイソシアネートを含むものが挙げられる。
そして、前記水酸基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物は、ポリカーボネートジオール、PEG、またはポリエステルジオールのモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシブチル、およびこれらにさらにアルキレンオキサイドまたはε−カプロラクタムが付加したもの、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル−ε−カプロラクトン2モル付加物、3−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ビフェノキシ−2−ヒドロキシプロプル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ−およびジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ−およびジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ−、ジ−およびトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンモノ−、ジ−およびトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノ−、ジ−、トリ−、テトラ−およびペンタ(メタ)アクリレート、およびこれらのアルキレンオキサイドの付加物からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0016】
また、前記ポリイソシアネートは、2,4−および/または2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−および/または2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、2,4−および/または2,6−メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、m−および/またはp−キシリレンジイソシアネート、およびα,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネートからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0017】
(iv)光重合開始剤
前記光重合開始剤は、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、4,4’−ビスメチルアミノベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス−(2、6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド、および1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチル−1−プロパン−1−オンからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0018】
本発明で用いる熱可塑性樹脂および光重合開始剤の含有率は、前記単官能エチレン性不飽和単量体では、熱可塑性樹脂のガラス転移点の向上および耐脆性の観点から、好ましくは50〜90質量%、前記ウレタン基を含有しない多官能エチレン性不飽和単量体では、熱可塑性樹脂の機械強度および耐脆性の観点から、好ましくは3〜25質量%、前記ウレタン基含有エチレン性不飽和単量体では、熱可塑性樹脂の靱性および硬度の観点から、好ましくは5〜35質量%、および前記光重合開始剤では光硬化速度の観点から、好ましくは0.1〜10質量%である。
【0019】
(2)水溶性樹脂
本発明で用いる樹脂製型枠を形成する水溶性樹脂は、(i)水溶性単官能エチレン性不飽和単量体、および/または(ii)オキシプロピレン基を含むアルキレンオキサイド付加物を、(iii)光重合開始剤を用いて重合させてなる単独重合体または共重合体である。そして、前記水溶性樹脂は、好ましくは、水溶性樹脂1gを20℃の水100mlに入れた時点から、24時間以内に完全に溶解するものである。
【0020】
(i)水溶性単官能エチレン性不飽和単量体
前記水溶性単官能エチレン性不飽和単量体は、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、モノアルコキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、モノアルコキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、PEG−PPGブロックポリマーのモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミドおよびN−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0021】
(ii)オキシプロピレン基を含むアルキレンオキサイド付加物
前記オキシプロピレン基を含むアルキレンオキサイド付加物は、1〜4価アルコールおよびアミン化合物等の活性水素化合物に、少なくとも、プロピレンオキサイドを単独、またはプロピレンオキサイドとその他のアルキレンオキサイドを付加した化合物である。
【0022】
(iii)光重合開始剤
ここで用いる光重合開始剤は、前記熱可塑性樹脂に用いる光重合開始剤と同一である。
【0023】
また、本発明で用いる水溶性樹脂および光重合開始剤の含有率は、前記水溶性単官能エチレン性不飽和単量体では、水への溶解性の観点から、好ましくは3〜45質量%、前記オキシプロピレン基を含むアルキレンオキサイド付加物では、水への溶解性の観点から、好ましくは50〜95質量%、および前記光重合開始剤では0.1〜10質量%である。
【0024】
(3)樹脂製型枠
樹脂製型枠の形状は、特に制限されず、マンホール用型枠、凹凸を有する型枠、曲面を有する型枠、壁用型枠、および柱用型枠等の任意の形状の製品の型枠を、3Dプリンタを用いて作製する。
【0025】
3.セメント質硬化体
次に、本発明に係るセメント質硬化体について説明する。
前記セメント質硬化体は、セメント、BET比表面積が10〜25m
2/gのポゾラン質微粉末、最大粒径3.5mm以下の細骨材、ブレーン比表面積が3,500〜10,000cm
2/gの無機粉末、減水剤、および水を含む配合物の硬化体が好ましく、さらに消泡剤および/または補強繊維を含む配合物の硬化体がより好ましい。
【0026】
(1)セメント
本発明で用いるセメントは、特に制限されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、およびフライアッシュセメントからなる群より選択される1種以上が挙げられる。本発明において、早期の強度発現性の向上が必要な場合、早強ポルトランドセメントが好ましく、セメント配合物の流動性の向上が必要な場合、中庸熱ポルトランドセメントまたは低熱ポルトランドセメントが好ましく、中庸熱ポルトランドセメントがより好ましい。
【0027】
(2)ポゾラン質微粉末
本発明において用いる前記ポゾラン質微粉末のBET比表面積は10〜25m
2/gである。BET比表面積が10m
2/g未満では、硬化体の強度発現性が低下する。BET比表面積が25m
2/gを越えると、配合物の流動性が低下する。また、BET比表面積が25m
2/gを越えるポゾラン質微粉末は入手が困難である。前記ポゾラン質微粉末の好ましいBET比表面積は、配合物の流動性や硬化体の強度発現性から、15〜20m
2/gである。
ポゾラン質微粉末は、シリカフューム、シリカダスト、フライアッシュ、スラグ、火山灰、シリカゾル、および沈降シリカからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中でも、シリカフュームおよびシリカダストは、BET比表面積が10〜25m
2/gであり、粉砕等を行なう必要がないのでコスト的に有利である。
【0028】
前記ポゾラン質微粉末の配合量は、配合物の流動性や硬化体の強度発現性の観点から、セメント100質量部に対し5〜50質量部が好ましく、10〜40質量部がより好ましい。該配合量が5質量部未満では、配合物の流動性、硬化体の強度発現性、および耐久性が低下するうえ、硬化体の使用後に、硬化体の一部に欠けや剥れ等が発生するおそれがある。また、該配合量が50質量部を超えると、配合物の流動性が低下し、成形等の作業が困難となる。
【0029】
(3)細骨材
本発明において用いる細骨材の最大粒径は3.5mm以下である。細骨材の最大粒径が3.5mmを超えると、硬化体の強度発現性が低下する。なお、硬化体の強度発現性等の観点から、最大粒径が2.0mm以下の細骨材を用いることが好ましく、最大粒径が1.0mm以下の細骨材を用いることがより好ましい。細骨材は、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、およびこれらの混合物が挙げられる。
細骨材の配合量は、配合物の流動性、硬化体の強度発現性、自己収縮や乾燥収縮の低減、および水和発熱量の低減等の観点から、セメント100質量部に対して、好ましくは50〜250質量部、より好ましくは80〜180質量部である。
【0030】
(4)無機粉末
本発明で用いる無機粉末のブレーン比表面積は3,500〜10,000cm
2/gである。該ブレーン比表面積が該範囲外では、配合物の流動性や硬化体の強度発現性が低下する。
無機粉末としては、石英粉末、石灰石粉末、スラグ粉末、フライアッシュ、長石類の粉末、ムライト類の粉末、アルミナ粉末、火山灰、シリカゾル粉末、炭化物粉末、窒化物粉末等が挙げられる。
無機粉末の配合量は、配合物の流動性や硬化体の強度発現性の観点から、好ましくは、セメント100質量部に対して15〜50質量部である。
【0031】
本発明において、前記無機粉末は、ブレーン比表面積が5,000〜10,000cm
2/gの無機粒子Aと、ブレーン比表面積が3,500〜5,000cm
2/gの無機粒子B(ただし、無機粒子Bは、無機粒子Aよりも小さなブレーン比表面積を有する。)から構成されることが好ましい。このように粒度の異なる2種の無機粉末を用いることによって、流動性および強度発現性がより向上する。
無機粉末を構成する無機粒子A、Bとしては、同じ種類の粉末(例えば、石英粉末)を用いてもよいし、異なる種類の粉末(例えば、石英粉末および石灰石粉末)を用いてもよい。ただし、本発明においては、無機粒子A、Bとして、同じ種類の粉末を用いることが好ましい。
【0032】
無機粒子Aのブレーン比表面積は、5,000〜10,000cm
2/g、好ましくは5,500〜9,500cm
2/g、より好ましくは6,000〜9,000cm
2/g、特に好ましくは6,500〜8,500cm
2/gである。該値が5,000cm
2/g未満では、セメントや無機粒子Bのブレーン比表面積との差が小さくなり、流動性および強度発現性の向上効果が低下する。該値が10,000cm
2/gを超えると、このような小さな粒度の無機粒子Aを得るのに粉砕等の手間がかかるなどの問題がある。
【0033】
無機粒子Bのブレーン比表面積は、3,500〜5,000cm
2/g、好ましくは3,500〜4,800cm
2/g、より好ましくは3,500〜4,500cm
2/g、特に好ましくは3,500〜4,200cm
2/gである。該値が3,500cm
2/g未満では、配合物の流動性が低下することがある。該値が5,000cm
2/gを超えると、無機粒子Aのブレーン比表面積との差が小さくなり、流動性および強度発現性の向上効果が低下する。
【0034】
無機粒子Aと無機粒子Bのブレーン比表面積の差は、好ましくは2,000cm
2/g以上、より好ましくは2,500cm
2/g以上、さらに好ましくは3,000cm
2/g以上、特に好ましくは3,500cm
2/g以上である。該差が2,000cm
2/g以上で、流動性および強度発現性がより向上する。
【0035】
セメントと無機粒子Bのブレーン比表面積の差は、好ましくは200cm
2/g以上、より好ましくは250cm
2/g以上、さらに好ましくは350cm
2/g以上、特に好ましくは450cm
2/g以上である。該差が200cm
2/g以上であると、流動性および強度発現性がより向上する。
【0036】
無機粉末が、無機粒子Aと無機粒子Bから構成される場合、無機粒子Aの配合量は、セメント100質量部に対して、14〜54質量部、好ましくは20〜50質量部、より好ましくは25〜45質量部、さらに好ましくは30〜40質量部である。該配合量が14〜54質量部の範囲外では、配合物の流動性が低下することがある。
【0037】
無機粒子Bの配合量は、セメント100質量部に対して、1〜15質量部、好ましくは1.5〜10質量部、より好ましくは1.5〜5質量部、さらに好ましくは1.5質量部以上かつ5質量部未満である。該配合量が1〜15質量部の範囲外では、配合物の流動性が低下することがある。
【0038】
(5)減水剤
本発明で用いる減水剤は、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、またはポリカルボン酸系等の減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、または高性能AE減水剤である。これらの中でも、ポリカルボン酸系の高性能減水剤は、減水効果が大きいため好適である。
減水剤の配合量は、セメント100質量部に対して、固形分換算で好ましくは0.1〜4.0質量部、より好ましくは0.3〜1.5質量部である。該配合量が0.1質量部未満では混練が困難になるとともに、配合物の流動性が低下し、4.0質量部を超えると、硬化体の強度発現性が低下する。なお、減水剤は、液状と粉末状のいずれでも使用可能である。
【0039】
(6)水
水量は、セメント100質量部に対して、好ましくは10〜30質量部、より好ましくは15〜25質量部である。該量が10質量部未満では、混練が困難になるとともに、配合物の流動性が低くなり、30質量部を超えると硬化体の強度発現性が低下する。
【0040】
(7)消泡剤
本発明においては、硬化体はさらに消泡剤を含むことが好ましい。該消泡剤を配合すると流動性および強度発現性が向上し、かつ、硬化後の硬化体の表面気泡の量が低減して硬化体の美観性が向上する。
消泡剤の配合量は、配合物1m
3中、消泡剤成分(市販等されている消泡剤中の水以外の成分)の量として、好ましくは100g以下、より好ましくは5〜70g、特に好ましくは7〜30gである。
【0041】
(8)補強繊維
本発明において、硬化体はさらに補強繊維を含むことが好ましい。該補強繊維を配合すると、硬化体の曲げ強度や破壊エネルギー等が向上する。補強繊維は、金属繊維、有機繊維、炭素繊維等が挙げられる。
金属繊維は、鋼繊維およびアモルファス繊維が挙げられる。これらの中でも、鋼繊維は、高い強度を有し、かつコストや入手のし易さの点でも優れているため好適である。金属繊維の形状および寸法は、好ましくは、長さが2mm以上で、長さ/直径の比が20以上であり、より好ましくは、長さが2〜30mmで、長さ/直径の比が20〜200である。
金属繊維の長さが2mm未満では曲げ強度の向上効果が低下し、30mmを超えると混練の際にファイバーボールが生じ易くなる。また、金属繊維の長さ/直径の比が20未満では、同一配合量(同一体積)での本数が少なくなり、曲げ強度の向上効果が低下し、また、200を超えると、金属繊維自身の強度が不足し張力を受けた際に切れ易くなる。
金属繊維の配合量は、配合物中の体積の割合で示せば、好ましくは4体積%以下、より好ましくは0.5〜3.5体積%である。4体積%を超えると、混練時の作業性等を確保するために単位水量が増加し、硬化体の強度低下を招く場合がある。
【0042】
有機質繊維としては、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、アラミド繊維、および炭素繊維からなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中でも、ビニロン繊維およびポリプロピレン繊維は、高い強度を有し、かつコストが低く入手のし易さの点でも優れているため好適である。
有機質繊維の形状および寸法は、好ましくは、長さが2mm以上で、長さ/直径の比が20以上であり、より好ましくは、長さが2〜30mmで、長さ/直径の比が20〜500である。有機質繊維の長さが2mm未満では、破壊強度の向上効果が低下し、30mmを超えると、混練の際にファイバーボールが生じ易くなる。
有機質繊維の長さ/直径の比が20未満では、同一配合量(同一体積)での有機質繊維の本数が少なくなり、破壊強度の向上効果が低下し、また、500を超えると、有機質繊維自身の強度が不足し、張力を受けた際に切れ易くなる。
有機質繊維の配合量は、配合物中の体積の割合で、好ましくは10体積%以下、より好ましくは0.5〜8.0体積%である。10%を超えると混練時の作業性等を確保するために単位水量を増加しなければならず、硬化体の強度の低下を招くことがある。
【0043】
また、炭素繊維は、PAN系炭素繊維やピッチ系炭素繊維が挙げられる。また、炭素繊維の寸法、アスペクト比および配合量は、有機繊維と同様である。
なお、本発明において、金属繊維と有機質繊維は併用してもよい。この場合、金属繊維および有機質繊維の配合量(合計量)は、配合物中の体積の割合で、好ましくは0.1〜10体積%、より好ましくは0.5〜8.0体積%である。
【0044】
配合物の混練方法は、特に限定されるものではなく、例えば、
(a)水、減水剤以外の材料を予め混合して、プレミックス材を調製し、該プレミックス材、水および減水剤をミキサに投入し混練する方法、
(b)水以外の材料(ただし、減水剤は粉末状のものを使用する。)を予め混合して、プレミックス材を調製し、該プレミックス材および水をミキサに投入し混練する方法、
(c)各材料を、それぞれ個別にミキサに投入し混練する方法
等が挙げられる。
【0045】
混練に用いるミキサは、通常のコンクリートの混練に用いられる任意のタイプのミキサを用いることができ、例えば、揺動型ミキサ、パンタイプミキサ、二軸練りミキサ等が挙げられる。混練後、所定の型枠内に配合物を投入して成形し、その後、養生して、セメント質硬化体を製造する。養生の方法は、気中養生、および蒸気養生等が挙げられる。
【0046】
(9)脱型方法
本発明において、脱型方法は、樹脂製型枠を形成する樹脂が熱可塑性樹脂である場合は、セメント質硬化体を含む型枠を加熱して脱型する。そして、加熱温度は、脱型の容易性から、好ましくは80℃以上である。
また、該樹脂が水溶性樹脂である場合は、セメント質硬化体を含む型枠を、水に溶かして脱型するか、または膨潤させて脱型する。具体的な方法としては、セメント質硬化体を含む型枠を水中に浸漬して型枠を溶かすか、または膨潤させる方法や、該型枠に(連続して)水を掛けて型枠を溶かすか、または膨潤させる方法等が挙げられる。なお、水中に浸漬する場合の浸漬時間は、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下である。
なお、該樹脂が熱可塑性樹脂および水溶性樹脂からなる場合は、上記加熱して脱型する、または水に溶かすか膨潤させて脱型する、を適宜行えばよい。例えば、外側が熱可塑性樹脂で内側(セメント質硬化体と接する側)が水溶性樹脂からなる型枠の場合は、内側の水溶性樹脂を水に溶かすか、または膨潤させることにより脱型することができる。
【0047】
本発明の配合物は、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において、15回の落下運動を行わないで測定したフロー値が、230mm以上であり流動性に優れる。そのため、配合物の混練作業や、樹脂製型枠内に投入して成形する作業等は容易である。
また、型枠内の隅々まで配合物が行き渡るので、任意かつ精緻な形状を有する硬化体を高い精度で製造することができる。
さらに、本発明の配合物の硬化体は、130N/mm
2以上の圧縮強度と、20N/mm
2以上の曲げ強度を発現するうえ、構造的に極めて緻密に形成されているので、機械的強度や耐久性の低下が生じ難い。また、硬化体に欠けや剥れ等が発生し難いので、美観の低下も生じ難い。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。
1.使用材料
(1)セメント;中庸熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
(2)ポゾラン質微粉末;シリカフューム(BET比表面積:17m
2/g)
(3)細骨材;珪砂5号(最大粒径:0.6mm)
(4)石英粉末A(ブレーン比表面積:7,500cm
2/g)
(5)石英粉末B(ブレーン比表面積:3,800cm
2/g)
(6)減水剤;ポリカルボン酸系高性能減水剤
(7)消泡剤;ポリエーテル系消泡剤
(8)水;水道水
【0049】
2.セメント質硬化体の製造
中庸熱ポルトランドセメント100質量部に対し、シリカフューム30質量部、石英粉末A、B(合計量:35質量部、該合計量中の石英粉末Bの配合量:4.0質量部)、細骨材120質量部、高性能減水剤0.4質量部(固形分換算値)、水22質量部、消泡剤(15g/配合物1m
3の量(水以外の成分としての換算値))を混練して、配合物を調製した。
該配合物の混練は、ホバートミキサを使用して、以下の方法で行った。
中庸熱ポルトランドセメント、シリカフューム、石英粉末A、石英粉末B、および細骨材をホバートミキサに投入して、15秒間空練りした後、水、高性能減水剤、および消泡剤を投入して、7分間低速で混練した。JIS R 5201(セメントの物理試験方法)11.フロー試験」に記載の方法において、15回の落下運動を省略して測定した前記配合物のフロー値は290mmで流動性に優れていた。
次に、該配合物を、
図1に示す熱可塑性樹脂(アクリル系樹脂)製の型枠の中に流し込み(
図2)、20℃で48時間前置きした後、90℃で48時間蒸気養生し(
図3)、該蒸気養生終了後直ちに脱型して(
図4)、
図5に示す瓶の形状のセメント質硬化体を得た。
図6から、瓶のキャップのネジ部分の形状が、きれいに形成されていることが分かる。