(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記波長変換部材は、表面に前記周期構造を有する、蛍光体が含有されてなる蛍光部材を備えてなり、当該蛍光部材の表面が前記励起光受光面とされていると共に前記蛍光出射面とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蛍光光源装置。
前記波長変換部材は、蛍光体が含有されてなる蛍光部材と、この蛍光部材上に形成された、表面に前記周期構造を有する周期構造体層とを備えてなり、当該周期構造体層の表面が前記励起光受光面とされていると共に前記蛍光出射面とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蛍光光源装置。
【背景技術】
【0002】
例えばプロジェクターに用いられる緑色光源としては、従来、レーザ光を励起光として蛍光体に照射することによって、当該蛍光体から蛍光として緑色光を放射する蛍光光源装置が知られている。このような蛍光光源装置の一例としては、回転ホイールの表面に蛍光体が塗布されてなる波長変換部材を備えてなり、この波長変換部材に青色領域のレーザ光を照射することによって、当該波長変換部材における蛍光体の緑色領域の光を生成する蛍光光源装置が知られている(特許文献1参照。)。
しかしながら、回転ホイールを備えた蛍光光源装置においては、回転ホイールを回転駆動するモーターの部品に劣化が生じて故障が生じやすく、また、駆動系自体の構成が複雑である、という問題がある。
【0003】
また、蛍光光源装置の他の例としては、
図10に示すように、裏面に放熱用フィン45が設けられたAIN焼結体よりなる基板42の表面に、硫酸バリウム層43を介してYAG焼結体よりなる蛍光部材41が配置されてなる波長変換部材を備えた蛍光光源装置が知られている。この蛍光光源装置は、波長変換部材における蛍光部材41に、励起光として青色領域のレーザ光を照射することによって、当該蛍光部材41において緑色領域の光を生成するものである(特許文献2参照)。
しかしながら、このような蛍光光源装置においては、励起光が蛍光部材41に照射されたときに、当該蛍光部材41の表面において励起光が後方散乱されるため、励起光が蛍光部材41内に十分に取り込まれず、その結果、高い発光効率が得られない、という問題がある。
【0004】
而して、蛍光光源装置においては、波長変換部材における励起光受光面とされる表面に、凹凸構造を形成し、この凹凸構造によって励起光受光面における励起光の反射を抑制することが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
具体的に、引用文献3には、蛍光部材上に、表面に凸部が配列された凹凸構造を有する透光性基板が配設されてなる波長変換部材を備えており、当該透光性基板の表面が励起光受光面とされてなる蛍光光源装置が開示されている。この蛍光光源装置において、蛍光部材は、無機ガラス等のガラス材料またはシリコーン樹脂等の樹脂材料などの封止材に蛍光体が分散されてなるものであり、また透光性基板は、例えばサファイアなどの高い熱伝導率を有する材料よりなるものである。
しかしながら、引用文献3の蛍光装置においては、蛍光部材の内部において蛍光体から放射された蛍光は、その一部が、波長変換部材(具体的には、蛍光部材または透光性基板)と空気との屈折率差により生じる臨界角反射によって全反射する。そのため、蛍光の一部は、透光性基板の表面、または蛍光部材の表面および側面によって構成される蛍光出射面から出射されず、当該透光性基板内において繰り返し反射されて、側面から外部に出射される。このように、波長変換部材の内部において生じた蛍光を高い効率で蛍光出射面から取り出すことができないため、蛍光を有効に利用することができず、高い発光効率が得られないことが明らかとなった。このような問題は、波長変換部材の内部において生じる多くの蛍光が、蛍光出射面において、臨界角反射によって全反射することに起因して生じるものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の蛍光光源装置の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の蛍光光源装置の一例における構成の概略を示す説明図であり、
図2は、
図1の蛍光光源装置における波長変換部材の構成を示す説明用断面図である。
この蛍光光源装置は、
図1に示すように、青色領域の光を出射するレーザダイオード10と、このレーザダイオード10に対向して配置された蛍光発光部材20とを備えてなる。この蛍光発光部材20は、レーザダイオード10から出射されるレーザ光である励起光Lによって励起されて、例えば緑色領域の蛍光L1を出射する波長変換部材を有するものである。
レーザダイオード10と蛍光発光部材20との間における当該レーザダイオード10に接近した位置には、レーザダイオード10から入射された励起光Lを平行光線として出射するコリメータレンズ15が配置されている。また、コリメータレンズ15と蛍光発光部材20との間には、レーザダイオード10からの励起光Lを透過すると共に蛍光発光部材20における波長変換部材からの蛍光L1を反射するダイクロイックミラー16が、コリメータレンズ15の光軸に対して例えば45°の角度で傾斜した姿勢で配置されている。
【0015】
蛍光発光部材20は、
図2に示すように、矩形の基板31の表面(
図2における上面)上に、略矩形板状の蛍光部材22よりなる波長変換部材が設けられたものである。
この蛍光発光部材20は、蛍光部材22の表面(
図2における上面)がレーザダイオード10に対向するように配置されており、この蛍光部材22の表面が励起光受光面とされていると共に、蛍光出射面とされている。
また、蛍光部材22の裏面(
図2における下面)および側面の各々には、例えば銀よりなる光反射膜33が設けられている。このように、蛍光部材22の裏面および側面に光反射膜33が設けられることにより、蛍光部材22は、裏面および側面に反射機能を有するものとされている。この光反射膜33と基板31との間には、接合部材(図示省略)が介在されており、当該接合部材によって蛍光部材22が基板31上に接合されている。接合部材としては、排熱性の観点から、半田および銀焼結材などの熱伝導率が40W/mK以上のものが用いられる。また、基板31の裏面には、例えば放熱用フィン(図示省略)が配置されている。
【0016】
そして、波長変換部材を構成する蛍光部材22には、励起光受光面すなわち当該蛍光部材22の表面に、凸部24が周期的に配列されてなる周期構造23が形成されている。
【0017】
蛍光部材22は、蛍光体が含有されてなるものであり、具体的には、単結晶または多結晶の蛍光体よりなるもの、蛍光体とセラミックとの共晶体よりなるもの、あるいは蛍光体とガラスバインダーとの混合物の焼結体よりなるものである。すなわち、蛍光部材22は、蛍光体によって構成されたものである。また、蛍光部材22の厚みは、励起光と蛍光との変換効率(量子収率)および排熱性の観点から、例えば0.05〜2.0mmである。
蛍光部材22が単結晶または多結晶の蛍光体、蛍光体とセラミックとの共晶体、あるいは蛍光体とガラスバインダーとの混合物の焼結体よりなるものであることにより、蛍光部材22は高い熱伝導性を有するものとなる。そのため、蛍光部材22において励起光の照射によって発生した熱を効率よく排熱することができ、よって蛍光部材22が高温となることが抑制される。その結果、蛍光体において温度消光が生じることに起因する蛍光光量の低減を抑制することができる。
【0018】
ここに、蛍光部材22を構成する単結晶の蛍光体は、例えば、チョクラルスキー法によって得ることができる。具体的には、坩堝内において種子結晶を溶融された原料に接触させ、この状態で、種子結晶を回転させながら鉛直方向に引き上げて当該種子結晶に単結晶を成長させることにより、単結晶の蛍光体が得られる。
また、蛍光部材22を構成する多結晶の蛍光体は、例えば以下のようにして得ることができる。先ず、母材、賦活材および焼成助剤などの原材料をボールミルなどによって粉砕処理することによって、サブミクロン以下の原材料微粒子を得る。次いで、この原材料微粒子を例えばスリップキャスト法によって焼結する。その後、得られた焼結体に対して熱間等方圧加圧加工を施すことによって、気孔率が例えば0.5%以下の多結晶の蛍光体が得られる。
【0019】
蛍光部材22が単結晶または多結晶の蛍光体よりなるものである場合において、当該蛍光部材22を構成する蛍光体の具体例としては、YAG:Ce、YAG:Pr、YAG:SmおよびLuAG:Ceなどが挙げられる。このような蛍光体において、希土類元素のドープ量は、0.5mol%程度である。
また、蛍光部材22が単結晶または多結晶の蛍光体よりなるものであることにより、蛍光部材22は熱伝導率が11W/mK以上の高い熱伝導性を有するものとなる。
蛍光部材22の熱伝導率が11W/mK以上であることにより、蛍光体において温度消光が生じることに起因する蛍光光量の低減をより一層抑制することができる。
【0020】
また、蛍光部材22が蛍光体とセラミックとの共晶体よりなるものである場合において、当該蛍光部材22を構成する共晶体の具体例としては、蛍光体としてYAGを用い、セラミック材料として酸化アルミニウム(Al
2 O
3 )を用いたものが挙げられる。このYAGと酸化アルミニウムとの共晶体は、YAG成分と酸化アルミニウム成分とが三次元的に相互に絡み合った組織を有している。そして、この共晶体においては、YAG成分を構成する蛍光体から放射された蛍光は酸化アルミニウム成分との界面で拡散しながら波長変換部材の蛍光出射面である蛍光部材22の表面に至り、当該表面から外部に取り出される。なお、蛍光出射面である蛍光部材の表面が平坦である場合には、蛍光は、蛍光部材と空気との屈折率差により生じる臨界角反射によって全反射するため、当該蛍光出射面から外部に取出されることがない。
【0021】
また、蛍光部材22が蛍光体とガラスバインダーとの混合物の焼結体よりなるものである場合において、当該焼結体としては、ガラスバインダーとして低融点ガラスおよびゾルゲル材料を用い、このガラスバインダーと蛍光体とを混合し、その混合物を低温で焼結したものが用いられる。この焼結体においては、ガラスバインダーの融点が300〜400℃程度と低いことから、蛍光体として種々の種類のものを用いることができる。具体的には、BAMおよびCMS等の青色蛍光体、YAG、LuAGおよびβサイアロン等の緑色蛍光体、CASNおよびSCASN等の赤色蛍光体などが挙げられる。この単結晶または多結晶の蛍光体とガラスバインダーとの混合物の焼結体においては、蛍光体から放射された蛍光はガラスバインダーとの界面で拡散しながら波長変換部材の蛍光出射面である蛍光部材22の表面に至り、当該表面から外部に取り出される。なお、蛍光出射面である蛍光部材の表面が平坦である場合には、蛍光は、その多くが蛍光部材と空気との屈折率差により生じる臨界角反射によって全反射するため、当該蛍光出射面から外部に取り出されることがない。
ここに、ガラスバインダーとして用いられるゾルゲル材料としては、具体的に、珪素、チタン、ジルコニウム等のアルコキシドを含んでおり、熱処理することによって反応(加水分解および縮重合)が進むことによって無機材料が形成されるゾル状の材料などが挙げられる。
【0022】
蛍光部材22の表面において周期構造23を構成する凸部24は、
図2に示されているように、裏面から表面に向かう方向に従って小径となる略錐状とされる。
具体的に、凸部24に係る略錐状は、
図2に示されているような錘状(
図2においては円錐状)、または
図3に示すような錐台状である。
ここに、凸部24の形状が錐台状である場合には、上底部24aの寸法(最大寸法)aは、励起光Lの波長未満とされる。例えば凸部24の形状が円錐台状であり、励起光Lの波長が445nmである場合には、円錐台状の凸部24の上底部24aの寸法a(外径)は100nmである。
【0023】
凸部24の形状が略錘状とされることによって、蛍光部材22の表面において励起光Lが反射することを防止または抑制することができる。このような作用が生じるのは、以下の理由による。
図4は、励起光Lが蛍光部材22の表面に垂直な方向に入射した場合において、当該励起光Lが伝播する媒体の屈折率の変化をマクロ的に示した図である。この
図4において、左側の断面図は蛍光部材22の一部を拡大して模式的に示すものであり、右側のグラフは蛍光部材22の表面に対して垂直な方向における位置と屈折率とのマクロ的な関係を示すものである。
この
図4に示すように、励起光Lは、空気(屈折率が1)中から蛍光部材22(屈折率がN
1 )の表面に照射されたときには、周期構造23を構成する凸部24のテーパ面に対して傾斜した方向から入射される。このため、マクロ的に見ると、励起光Lが伝播する媒体の屈折率は、蛍光部材22の表面に垂直な方向に向かって1からN
1 に緩やかに変化することとなる。従って、蛍光部材22の表面に、屈折率が急激に変化する界面が実質的にないため、蛍光部材22の表面において励起光Lが反射することを防止または抑制することができる。
【0024】
また、周期構造23を構成する略錐状の凸部24において、テーパ面(側面)の傾斜角度(側面と底面とのなす角度)は、11°以上であることが好ましい。
テーパ面の傾斜角度が11°未満である場合には、テーパ面を屈折率の異なる2つの媒体の境界面とみなすようになるため、空気と蛍光部材との屈折率差に従った反射光が生じてしまうおそれがある。
【0025】
また、周期構造23において、周期dは、蛍光部材22を構成する蛍光体から放射される蛍光L1の回折が発生する範囲(ブラッグの条件)の大きさである。
具体的には、周期構造23の周期dは、蛍光体から放射される蛍光L1のピーク波長を、周期構造23を構成する材料(図示の例では蛍光部材22を構成する蛍光体)の屈折率で割った値(以下、「光学長さ」という。)または光学長さの数倍程度の値である。
本発明において、周期構造の周期とは、周期構造において互いに隣接する凸部間の距離(中心間距離)(nm)を意味する。
【0026】
周期構造23の周期dが蛍光部材22内で生じる蛍光L1の回折が発生する範囲の大きさとされることにより、蛍光部材22の表面から蛍光L1を高い効率で外部に取り出すことができる。
具体的に説明すると、
図5に示すように、蛍光部材22内で生じた蛍光L1は、蛍光部材22の表面(蛍光部材22と空気との界面)に対する入射角θIが臨界角未満である場合には、蛍光部材22の表面を透過する透過光L2として無反射で蛍光部材22の表面から外部に取り出される。また、蛍光L1の蛍光部材22の表面に対する入射角θIが臨界角以上である場合には、例えば蛍光部材22の表面が平坦面であるときには、蛍光L1は、蛍光部材22の表面において全反射して反射光L3として蛍光部材22の内部に向かうため、蛍光部材22の表面から外部に取り出すことができない。しかしながら、蛍光部材22の表面に上記の条件を満足する周期dを有する周期構造23が形成されることにより、蛍光L1は、蛍光部材22の表面において周期構造23によって回折が生じることとなる。その結果、−1次回折光L4として蛍光部材22の表面から出射角θm(θm<θI)で出射されて外部に取り出される。
【0027】
また、周期構造23における周期dに対する凸部24の高さhの比(h/d)であるアスペクト比は、0.2以上とされ、好ましくは0.2〜1.5であり、特に好ましくは0.5〜1.0である。
アスペクト比(h/d)が0.2未満である場合には、蛍光体22の表面が平面に近くなるため回折による効果が十分に得られず、高い光取出し効率が得られない。
【0028】
このような周期構造23は、ナノインプリント法とドライエッチング処理とによって形成することができる。具体的には、矩形板状の蛍光部材の表面に、例えばスピンコート法によってレジストを塗布し、次いで、レジストの塗布膜を例えばナノインプリント法によりパターニングする。その後、蛍光部材の表面における露出した領域に、ドライエッチング処理を施すことにより、周期構造23が形成される。
【0029】
基板31を構成する材料としては、樹脂に金属微粉末を混入させた放熱接着剤を介したアルミ基板などを用いることができる。また、基板31の厚みは、例えば0.5〜1.0mmである。また、このアルミ基板は、放熱フィンの機能を兼ね備えたものであってもよい。
【0030】
上記の蛍光光源装置においては、レーザダイオード10から出射された青色領域のレーザ光である励起光Lは、コリメータレンズ15によって平行光線とされる。その後、この励起光Lは、ダイクロイックミラー16を透過して蛍光発光部材20における波長変換部材の励起光受光面すなわち蛍光部材22の表面に対して略垂直に照射される。そして、蛍光部材22においては、当該蛍光部材22を構成する蛍光体が励起され、蛍光L1が放射される。この蛍光L1は、波長変換部材の蛍光出射面すなわち蛍光部材22の表面から出射され、ダイクロイックミラー16によって垂直方向に反射された後、蛍光光源装置の外部に出射される。
【0031】
このような蛍光光源装置においては、波長変換部材の励起光受光面である蛍光部材22の表面に、略錐状の凸部24が周期的に配列されてなる周期構造23が形成されており、また周期構造23におけるアスペクト比が0.2以上とされている。そのため、蛍光部材22の表面に励起光Lが照射されたときに、当該励起光Lの後方散乱が抑制され、その結果、励起光Lを蛍光部材22内に十分に取り込むことができる。
また、周期構造23の周期dが、蛍光部材22を構成する蛍光体から放射される蛍光L1の回折が発生する範囲の大きさとされている。そのため、蛍光部材22を構成する蛍光体から放射される蛍光L1を高い効率によって波長変換部材の蛍光出射面である蛍光部材22の表面から外部に取り出すことができる。
従って、この蛍光光源装置によれば、励起光Lを波長変換部材の内部に十分に取り込むことができると共に、波長変換部材の内部において生じた蛍光L1を有効に利用して高い効率で外部に出射することができることから、高い発光効率が得られる。
【0032】
この蛍光光源装置においては、蛍光部材22が、裏面および側面に反射機能を有するものとされることにより、波長変換部材における励起光受光面と蛍光出射面とが同一面、具体的には、蛍光部材22の表面によって構成されている。そのため、蛍光部材22の表面以外から蛍光が外部に出射されることがなく、よって波長変換部材における励起光を受光する面の面積と蛍光を出射する面の面積とが略同一となることから、蛍光出射面における輝度を最大にすることができる。また、蛍光部材22の裏面全域が基板31を介して放熱用フィンと接触した状態とされていることから、高い排熱性を得ることができるため、蛍光体において温度消光が生じることに起因する蛍光光量の低減をより一層抑制することができる。その結果、一層高い発光効率が得られる。
【0033】
また、この蛍光光源装置においては、蛍光部材22が、単結晶または多結晶の蛍光体、蛍光体とセラミックとの共晶体、あるいは蛍光体とガラスバインダーとの混合物の焼結体よりなるものとされることにより、蛍光部材22において発生した熱を、基板31および放熱用フィンに効率よく伝導することができ、よって蛍光部材22の裏面方向に向かって排熱することができる。そのため、蛍光部材22の温度上昇が抑制され、よって蛍光体において温度消光が生じることに起因する蛍光光量の低減を抑制することができる。その結果、波長変換部材の温度上昇が抑制されるため、一層高い発光効率が得られる。
【0034】
図6は、本発明の蛍光光源装置の他の例における波長変換部材の構成を示す説明用断面図である。
この蛍光光源装置において、蛍光発光部材20を構成する波長変換部材21は、
図6に示すように、矩形の基板31上に設けられている。この波長変換部材21は、矩形板状の蛍光部材25と、この蛍光部材25の表面(
図6における上面)上に形成された、表面(
図6において上面)に周期構造27が形成された周期構造体層26を有している。この周期構造体層26の表面に形成された周期構造27は、略錐状(具体的には、円錐状)の凸部28が周期的に配列されてなるものである。
波長変換部材21においては、周期構造体層26の表面が、励起光受光面とされていると共に、蛍光出射面とされている。
また、蛍光部材25の裏面(
図6において下面)および側面の各々には、例えば銀よりなる光反射膜33が形成されている。このように、蛍光部材25の裏面および側面に光反射膜33が形成されることにより、波長変換部材21は、裏面および側面に反射機能を有するものとされている。また、基板31の裏面には、例えば放熱用フィン(図示省略)が配置されている。基板31および蛍光部材25の構成は、当該蛍光部材25の表面に周期構造が直接形成されていないこと以外は、
図1の蛍光光源装置と同様である。
【0035】
周期構造体層26の表面に形成された周期構造27は、周期dに対する凸部28の高さhの比であるアスペクト比(h/d)が0.2以上とされ、好ましくは0.2〜1.5であり、特に好ましくは0.5〜1.0である。このように、周期構造27におけるアスペクト比が0.2以上とされることによって、周期構造体層26の表面において励起光が反射することを抑制することができる。
また、周期構造27の周期dは、蛍光部材25を構成する蛍光体から放射される蛍光の回折が発生する範囲の大きさである。このような条件を満足することにより、蛍光部材25を構成する蛍光体から放射される蛍光を高い効率で周期構造体層26の表面から外部に取り出すことができる。
【0036】
周期構造体層26を構成する材料としては、屈折率が蛍光部材25の屈折率の値以上のものを用いることが好ましい。屈折率が蛍光部材25の屈折率の値以上の材料によって周期構造体層26を構成することによれば、蛍光部材と周期構造体層との界面において、蛍光が反射することが回避されるので、蛍光部材からの蛍光の発光効率を維持することができる。特に、屈折率が蛍光部材25の屈折率の値より高い材料によって周期構造体層26を構成することによれば、蛍光部材25と周期構造体層26との界面に入射した蛍光は、当該界面を透過することによって屈折が生じる。そのため、蛍光の進行方向が蛍光部材25と周期構造体層26との界面において変更されることから、蛍光が波長変換部材21の内部に閉じ込められることが抑制され、その結果、蛍光を周期構造体層26の表面から外部に高い効率で取り出すことができる。
また、周期構造体層26の材料として蛍光部材25より高屈折率のものを用いることによれば、周期dが小さい周期構造27を形成することが可能となる。従って、周期構造27を構成する凸部28としてアスペクト比が大きくても高さが小さいものを設計することができるので、周期構造27の形成が容易となる。具体的には、例えばナノプリント法を利用する場合には、モールド(テンプレート)の作製やインプリント作業を容易に行うことができる。このとき、周期構造27が形成されている波長変換部材21における蛍光体を励起するエネルギーは、約5W/mm
2 以上の励起密度を持つため、周期構造体層26を構成する材料は無機材料であることが望ましい。
【0037】
周期構造体層26を構成する材料としては、シリカ(屈折率1.45〜1.7)、チタニア(屈折率1.9〜2.2)、ジルコニア(屈折率1.7〜1.8)、窒化珪素(屈折率1.7〜2.0)などを用いることができる。
また、周期構造体層26の厚みは、例えば0.1〜1.0μmである。
【0038】
周期構造体層26は、ゾルゲル法とナノインプリント法とを用いて形成することができる。具体的には、珪素、チタン、ジルコニウム等のアルコキシドを含むゾル状の材料を、例えばスピンコート法によって蛍光部材25の表面に塗布して、モールド(テンプレート)型を押し付けた状態で加熱処理を行い、離型した後、熱処理を行う。この熱処理によって、反応(加水分解および縮重合)が進み、無機材料からなる周期構造体層26が形成される。
【0039】
上記の蛍光光源装置において、レーザダイオードから出射された青色領域のレーザ光である励起光は、コリメータレンズによって平行光線とされる。その後、この励起光は、ダイクロイックミラーを透過して蛍光発光部材20における波長変換部材21の励起光受光面すなわち周期構造体層26の表面に対して略垂直に照射され、当該周期構造体層26を介して蛍光部材25に入射される。そして、蛍光部材25においては、当該蛍光部材25を構成する蛍光体が励起される。これにより、蛍光部材25において蛍光が放射される。この蛍光は、蛍光出射面すなわち周期構造体層26の表面から出射され、ダイクロイックミラーによって垂直方向に反射された後、蛍光光源装置の外部に出射される。
【0040】
この蛍光光源装置においては、波長変換部材21が蛍光部材25の表面に周期構造体層26を設けたものであり、この周期構造体層26の表面によって励起光受光面が構成されている。そして、周期構造体層26の表面には、略錐状の凸部28が周期的に配列され、アスペクト比が0.2以上である周期構造27が形成されている。そのため、波長変換部材21の励起光受光面である周期構造体層26の表面に励起光が照射されたときに、当該励起光の後方散乱が抑制され、その結果、励起光を波長変換部材21における蛍光部材25内に十分に取り込むことができる。
また、波長変換部材21における周期構造体層26の表面に形成された周期構造27の周期dは、蛍光部材25を構成する蛍光体から放射される蛍光の回折が発生する範囲の大きさである。そのため、蛍光部材25を構成する蛍光体から放射される蛍光を高い効率で波長変換部材21の蛍光出射面である周期構造体層26の表面から外部に取り出すことができる。
従って、この蛍光光源装置によれば、励起光Lを波長変換部材21の内部に十分に取り込むことができると共に、波長変換部材21の内部において生じた蛍光を有効に利用して高い効率で外部に出射することができることから、高い発光効率が得られる。
【0041】
この蛍光光源装置においては、波長変換部材21が、蛍光部材25と周期構造体層26とを備えたものであることから、蛍光部材25を周期構造が形成されたものとする必要がないため、周期構造の形成が容易となる。
また、周期構造体層26を構成する材料として、屈折率が蛍光部材25の屈折率の値より高いものが用いられている。そのため、蛍光部材25と周期構造体層26との界面において、蛍光が反射することが回避されるので、蛍光部材25からの蛍光の発光効率を維持することができる。しかも、蛍光部材25と周期構造体層26との界面においては、蛍光の進行方向が変更されるため、蛍光が波長変換部材21の内部に閉じ込められることが抑制され、よって蛍光を周期構造体層26の表面から外部に高い効率で取り出すことができる。その結果、一層高い発光効率が得られる。
【0042】
また、この蛍光光源装置においては、波長変換部材21が、裏面および側面に反射機能を有するものとされることにより、波長変換部材における励起光受光面と蛍光出射面とが同一面、具体的には、周期構造体層26の表面によって構成されている。そのため、周期構造体層26の表面以外から蛍光が外部に出射されることがなく、よって波長変換部材21における励起光を受光する面の面積と蛍光を出射する面の面積とが略同一となることから、蛍光出射面における輝度を最大にすることができる。また、波長変換部材21の裏面全域が基板31を介して放熱用フィンと接触した状態とされていることから、高い排熱性を得ることができるため、蛍光体において温度消光が生じることに起因する蛍光光量の低減をより一層抑制することができる。その結果、一層高い発光効率が得られる。
【0043】
また、この蛍光光源装置においては、蛍光部材25が、単結晶または多結晶の蛍光体、蛍光体とセラミックとの共晶体、あるいは蛍光体とガラスバインダーとの混合物の焼結体よりなるものとされることにより、蛍光部材25において発生した熱を、基板31および放熱用フィンに効率よく伝導することができ、よって蛍光部材25の裏面方向に向かって排熱することができる。そのため、蛍光部材25の温度上昇が抑制され、よって蛍光体において温度消光が生じることに起因する蛍光光量の低減を抑制することができる。その結果、波長変換部材の温度上昇が抑制されるため、一層高い発光効率が得られる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることが可能である。
例えば、波長変換部材は、内部において生じた蛍光が側面から出射されることを防止することができるため、
図2および
図6に示すように、側面が光反射機能を有するものであることが好ましいが、裏面および側面の少なくとも一方が光反射機能を有するものであってもよい。具体的には、例えば波長変換部材の側面のみに光反射膜が形成されており、波長変換部材の表面および裏面が蛍光出射面とされていてもよい。
【0045】
また、蛍光光源装置全体の構造は、
図1に示すものに限定されず、種々の構成を採用することができる。
例えば、
図1に係る蛍光光源装置10では、1つのレーザ光源(例えば、レーザダイオード)の光を用いているが、レーザ光源が複数あり、波長変換部材の前に集光レンズを配置して、集光光を波長変換部材に照射する形態であってもよい。また、励起光はレーザ光源の光に限るものではなく、波長変換部材を励起できるものであれば、LEDの光を集光したものでもよく、更には、水銀、キセノン等が封入されたランプからの光であってもよい。尚、ランプやLEDのように放射波長に幅を持つ光源を利用した場合、励起光の波長はランプ等から放射される主たる放射波長の領域である。ただし、本発明においては、これに限定されるものではない。
【0046】
以下、本発明の実験例について説明する。
【0047】
(実験例1)
図2に示す構成に基づいて、表面に周期構造を有する波長変換部材を複数作製した。
作製した複数の波長変換部材は、周期構造におけるアスペクト比が異なるものである。これらの複数の波長変換部材は、凸部(24)の高さ(h)を100〜1100nmの範囲で変更することによってアスペクト比が調節されており、各々、円錐状の凸部(24)を有し、周期(d)が600nmであり、下記の仕様を有するものである。
ここに、周期(d)は、蛍光部材(22)を構成する蛍光体から放射される蛍光の回折が発生する範囲の大きさである。
【0048】
[基板(31)]
材質:アルミ基板,寸法:25mm(縦)×25mm(横)×1mm(厚み)
[蛍光部材(22)]
材質:LuAG:Ceの単結晶(組成=Lu
3 Al
5 O
12:Ce(Ceのドープ量0.5mol%),屈折率=1.85,励起波長=455nm,蛍光波長=535nm),寸法:1.7mm(縦)×3.0mm(横)×130μm(厚み)
[光反射膜(33)]
材質:銀,厚み:110nm
【0049】
また、周期構造を形成しなかったこと以外は、上記の表面に周期構造を有する波長変換部材と同様の構成および仕様の波長変換部材を作製した。
【0050】
作製した複数の波長変換部材の表面(蛍光部材の表面)の各々に、ピーク波長が445nmの励起光を照射し、当表面における光の反射率(LD反射率)および光の取出し効率を測定した。結果を
図7に示す。この
図7において、光の反射率(LD反射率)の測定結果を破線で示し、光の取出し効率の測定結果を実線で示す。
その結果、波長変換部材においては、励起光受光面に、蛍光部材を構成する蛍光体から放射される蛍光の回折が発生する範囲の大きさの周期で略錐状の凸部が配列されてなる周期構造を形成し、当該周期構造のアスペクト比を0.2以上とすることにより、波長変換部材の表面における励起光の反射が抑制されると共に、波長変換部材の内部において生成された蛍光を高い効率で外部に出射することができることが確認された。
【0051】
(実験例2)
実験例1において、波長変換部材における蛍光部材(22)として屈折率が2.0のものを用いて複数の波長変換部材を作製し、また作製した複数の波長変換部材に対して励起光としてピーク波長が465nmの光を照射したこと以外は、当該実験例1と同様の手法により、波長変換部材の表面における光の反射率(LD反射率)および光の取出し効率を測定した。結果を
図8に示す。この
図8において、光の反射率(LD反射率)の測定結果を破線で示し、光の取出し効率の測定結果を実線で示す。
その結果、波長変換部材においては、励起光受光面に、蛍光部材を構成する蛍光体から放射される蛍光の回折が発生する範囲の大きさの周期で略錐状の凸部が配列されてなる周期構造を形成し、当該周期構造のアスペクト比を0.2以上とすることにより、波長変換部材の表面における励起光の反射が抑制されると共に、波長変換部材の内部において生成された蛍光を高い効率で外部に出射することができることが確認された。
【0052】
(実験例3)
実験例1において、波長変換部材における蛍光部材(22)として屈折率が2.3のものを用いて複数の波長変換部材を作製したこと以外は、当該実験例1と同様の手法により、波長変換部材の表面における光の反射率(LD反射率)および光の取出し効率を測定した。結果を
図9に示す。この
図9において、光の反射率(LD反射率)の測定結果を破線で示し、光の取出し効率の測定結果を実線で示す。
その結果、波長変換部材においては、励起光受光面に、蛍光部材を構成する蛍光体から放射される蛍光の回折が発生する範囲の大きさの周期で略錐状の凸部が配列されてなる周期構造を形成し、当該周期構造のアスペクト比を0.2以上とすることにより、波長変換部材の表面における励起光の反射が抑制されると共に、波長変換部材の内部において生成された蛍光を高い効率で外部に出射することができることが確認された。