(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6489845
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/185 20060101AFI20190318BHJP
【FI】
B62D1/185
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-13339(P2015-13339)
(22)【出願日】2015年1月27日
(65)【公開番号】特開2016-137791(P2016-137791A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144810
【氏名又は名称】株式会社山田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100080090
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 邦男
(72)【発明者】
【氏名】横田 典彦
(72)【発明者】
【氏名】多賀谷 直大
(72)【発明者】
【氏名】伊東 亨
【審査官】
鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−035665(JP,A)
【文献】
特開2005−335491(JP,A)
【文献】
特開2010−254290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/185
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向両側に固定側部を有する固定ブラケットと、該固定ブラケットに揺動自在に装着されるアウターコラムと、アーム部と、コラムパイプと、該コラムパイプに回動自在に装着されるアッパー側シャフトと該アッパー側シャフトと自在継手にて連結され且つ雄シャフトと雌シャフトとが伸縮自在に嵌合するロア側シャフトとを有するステアリングシャフトと、締付具とを備え、前記アーム部は、前記アウターコラムの軸方向前方側で且つ軸方向外方に向かって延出する二股状の腕状部と、該両腕状部の間に形成され且つ該腕状部の上端縁から上方に突出する第1連結部と、前記腕状部の下端縁から下方に突出する第2連結部とを有し、該第2連結部は前記第1連結部よりも前記両腕状部から突出する量を大きくし、前記第2連結部の内面から両前記腕状部の前記下端縁までの距離は、前記第1連結部の内面から両前記腕状部の前記上端縁までの距離よりも大きくし、前記自在継手は、前記第1連結部と前記第2連結部との間を接触せずに通過するようにして配置されてなることを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
請求項1において、前記第1連結部は上方に突出する円弧状に形成され、前記第2連結部は下方に突出する円弧状に形成され、前記第2連結部は前記第1連結部よりも曲率半径が小さくなることを特徴とするステアリング装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記第1連結部と前記第2連結部とは、前記両腕状部の前方側端部位置に形成されてなることを特徴とするステアリング装置。
【請求項4】
請求項1,2又は3の何れか1項の記載において、前記第1連結部と前記第2連結部との前後方向の位置をずらしてなることを特徴とするステアリング装置。
【請求項5】
請求項1,2,3又は4の何れか1項の記載において、前記第2連結部は前記第1連結部よりも前後方向寸法が小さく形成されてなることを特徴とするステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングコラムのチルト・テレスコ調整を備え、自動車車体への組付け性が良好で、且つ装置全体の剛性を高めることができるステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にチルト・テレスコ調整機構を備えたステアリング装置が種々存在している。この種のステアリング装置の一般的なものとして、車体側に装着される固定ブラケット、ステアリングシャフトを回転自在に支持するインナーコラムと、インナーコラムを軸方向に摺動可能に支持するステアリング支持体と、固定ブラケットを締め付けることにより前記ステアリング支持体を介して前記インナーコラムを締め付ける締付け手段から成る構造としたものが存在する〔
図6(A),(B)参照〕。
【0003】
図6は、従来のステアリング装置を示したものであり、チルト・テレスコ調整機構を構成するステアリング装置で、車体前方側に位置し、舵取装置に連結するロア側シャフトaと、車体後方側に位置しハンドルが装着されるアッパー側シャフトbと、両シャフトを連結する自在継手cを有している。そして、
図6(A)では、アッパー側シャフトbがスプライン等による伸縮機構を備え、該アッパー側シャフトbを前後方向(軸方向)に伸縮させてテレスコ調整を行う。
【0004】
アッパー側シャフトbは、インナーコラムに軸受を介して軸周方向に回転自在に収納される。テレスコ調整時は、アッパー側シャフトbのみが伸縮し、ロア側シャフトaは、伸縮しない。そのために、ロア側シャフトa及び自在継手cは、略不動状態を維持することができる〔
図6(A)参照〕。
【0005】
上述したように、アッパー側シャフトに伸縮機構を具備して、テレスコ調整を可能にしたチルト・テレスコ機構を具備したステアリング装置は、特許文献1に開示されている。特許文献1では、アウターコラムをチルト調整のために上下方向に揺動させる役目をなす二股腕状部が車体前方側に形成されている。二股腕状部を構成する2つの腕状片の間には連結部dが形成されている。該連結部dには、アッパー側シャフトbを軸支する軸受が装着される円形状の貫通孔が形成されている。
【0006】
つまり、アウターコラムに対して、インナーコラムとアッパー側シャフトbのみがテレスコ移動する構造であり、アッパー側シャフトbとロア側シャフトaとを連結する自在継手cは、テレスコ調整時では、位置は変動しない。したがって、テレスコ調整時に自在継手が前記連結部dと干渉することがない。そのために、ロア側シャフトaの動作を考慮することなく、二股腕状部の両腕状片間には連結部dを設けることができ、二股腕状部の剛性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−254290号公報
【特許文献2】特開2005−335491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
また、
図6(B)に示すよう、ステアリングシャフトのロア側シャフトにスプライン機構を介して、ロア側シャフトを軸方向に伸縮する構成とし、アッパー側シャフトでは、軸方向に伸縮しない構成としたものが存在する。
【0009】
この場合では、テレスコ調整を行うと、ロア側シャフトaが伸縮することにより、
図6(B)の(α)部における自在継手cも調整前の位置から所定の距離Lだけ移動する〔
図6(C),(D)参照〕。自在継手cは、アウターコラムの二股腕状部の両腕状片の間で軸方向に大きく移動することになる。そのために、二股腕状部の両腕状片の間に、前述のような連結部dを仮に設けた場合には、チルト・テレスコ調整時のロア側シャフトの移動動作によって、ロア側シャフトa及び自在継手cと連結部dとが相互に干渉し、移動動作を妨げることになる。
【0010】
また、特許文献2では、インナーコラムのテレスコピック調整に追従して上自在継手が移動する仕様としている。そして、ピボット部が形成された二股腕状の部分は、インナーコラムを抱持する部分の上端から延出する構造としており、そのために前記連結部dが存在しない構造としている。よって、特許文献2においては、元々二股腕状の部分では剛性が弱いものである。
【0011】
そこで、本発明の目的(解決しようとする技術的課題)は、チルト・テレスコ調整機構を備えたステアリング装置において、特に車体前方側に位置するロア側シャフトが伸縮するテレスコ機構を備えたものに対して好適なものとし、且つアウターコラムの剛性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、発明者は上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、幅方向両側に固定側部を有する固定ブラケットと、該固定ブラケットに揺動自在に装着されるアウターコラムと、アーム部と、コラムパイプと、該コラムパイプに回動自在に装着されるアッパー側シャフトと該アッパー側シャフトと自在継手にて連結され且つ雄シャフトと雌シャフトとが伸縮自在に嵌合するロア側シャフトとを有するステアリングシャフトと、締付具とを備え、前記アーム部は、前記アウターコラムの軸方向前方側で且つ軸方向外方に向かって延出する二股状の腕状部と、該両腕状部の間に形成され且つ該腕状部の上端縁から上方に突出する第1連結部と、前記腕状部の下端縁から下方に突出する第2連結部とを有し、該第2連結部は前記第1連結部よりも前記両腕状部から突出する量を大きくし、前記第2連結部の内面から両前記腕状部の前記下端縁までの距離は、前記第1連結部の内面から両前記腕状部の前記上端縁までの距離よりも大きくし、前記自在継手は、前記第1連結部と前記第2連結部との間を接触せずに通過するようにして配置されてなるステアリング装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0013】
請求項2の発明を、請求項1において、前記第1連結部は上方に突出する円弧状に形成され、前記第2連結部は下方に突出する円弧状に形成され、前記第2連結部は前記第1連結部よりも曲率半径が小さくなるステアリング装置としたことにより、上記課題を解決した。請求項3の発明を、請求項1又は2において、前記第1連結部と前記第2連結部とは、前記両腕状部の前方側端部位置に形成されてなるステアリング装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0014】
請求項4の発明を、請求項1,2又は3の何れか1項の記載において、前記第1連結部と前記第2連結部との前後方向の位置をずらしてなるステアリング装置としたことにより、上記課題を解決した。請求項5の発明を、請求項1,2,3又は4の何れか1項の記載において、前記第2連結部は前記第1連結部よりも前後方向寸法が小さく形成されてなるステアリング装置としたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明では、雄シャフトと雌シャフトとが嵌合する構成によって軸方向に伸縮するロア側シャフトと、軸方向に伸縮しないアッパー側シャフトと、これらを連結する自在継手とを有するステアリングシャフトを備えたステアリング装置で、テレスコ調整では、ロア側シャフトが軸方向に伸縮するものである。したがって、ロア側シャフトの後方側端部と、アッパー側シャフトの前方側端部と、自在継手とは、前後方向のみならず、上下方向にも大きく移動する。
【0016】
本発明では、アーム部の両腕状部に形成された第1連結部と第2連結部において、共に両腕状部の上下方向に突出するものであり、且つ第2連結部は第1連結部よりも両腕状部から突出する量を大きくしたものである。そのために、ロア側シャフトの後方側端部と、アッパー側シャフトの前方側端部と、自在継手とは、前記第1連結部と第2連結部との間を非接触で通過することができ、相互に干渉することを防止できる。また、第1連結部は第2連結部よりも相対的な突出量が小さくなるので、アーム部の上方側のスペースを小さくし、ステアリング装置の車体への組付け性を良好にすることができる。さらに、第1連結部と第2連結部では、必要な剛性が異なるが、それぞれの剛性に適応した形状とすることで、軽量化が図れる。
【0017】
請求項2の発明では、第1連結部は両腕状部の上方に突出する円弧状に形成され、第2連結部は前記両腕状部の下方に突出する円弧状に形成されたことにより、第1連結部及び第2連結部は、両腕状部に対して上下にアーチ状に形成されこととなり、力学的強度が強くなり強固な構造を有することができる。
【0018】
さらに、第2連結部は前記第1連結部よりも曲率半径が小さくなる円弧状としたことにより、第1連結部は上方への突出量が少ないものにでき、また第2連結部は下方への突出量が大きいものにすることができる。請求項3の発明では、第1連結部と第2連結部とは、前記両腕状部の前方側端部位置に形成されたことにより、両腕状部の前方側に第1連結部と第2連結部とを略一箇所に配置することができ、第1連結部と第2連結部とがアーム部の車体前方側端部に形成されることで、アーム部の剛性をより一層向上させ、強固な構造にすることができる。
【0019】
請求項4の発明では、第1連結部と第2連結部との前後方向の位置をずらしたことにより、自在継手及びロア側シャフトとの干渉をより一層防止することができる。請求項5の発明では、第2連結部は第1連結部よりも前後方向寸法が小さく形成されたことにより、第2連結部は、重量を減らすことができ、装置全体の軽量化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(A)は本発明の側面図、(B)は(A)の(α)部拡大断面図、(C)は(A)のY1−Y1矢視拡大図、(D)は(A)のY2−Y2矢視拡大断面図である。
【
図3】(A)は一体的に構成されたアウターコラムと二股腕状部の斜視図、(B)は(A)のY3−Y3矢視拡大図、(C)は別の実施形態の第1連結部及び第2連結部を備えたアウターコラムの拡大断面図である。
【
図4】(A)乃至(C)は本発明におけるテレスコ調整の動作を示す要部縦断側面図である。
【
図5】第1連結部と第2連結部とが両腕状部の前方側端部位置に形成された実施形態の要部側面図である。
【
図6】(A)は従来技術であるアッパー側シャフトが伸縮するチルト・テレスコ機能を備えたステアリング装置の縦断側面図、(B)はロア側シャフト側が伸縮するチルト・テレスコ機能を備えたステアリング装置の縦断側面図、(C),(D)は(B)の(α)部における動作を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明において、方向を示す文言として、前後方向,前方側,後方側及び幅方向が存在する。前後方向とは、自動車の車体を基準としてその前後方向のことをいう。そして、前方側及び後方側とは、本発明のステアリング装置を自動車に装着した状態で、自動車の前輪側を前方側とし、ハンドル(ステアリングホィール)側を後方側とする。幅方向とは、前後方向に直交する左右方向である。また、ステアリング装置の前後方向を、軸方向と称することもある。
【0022】
本発明の主要な構成は、
図1に示すように、アウターコラム1と、アーム部2と、固定ブラケット3と、締付具4と、ロアブラケット5と、コラムパイプ6と、ステアリングシャフトAとから構成される。該ステアリングシャフトAは、ロア側シャフト7と、アッパー側シャフト8と、自在継手9とから構成される。
【0023】
アウターコラム1は、抱持本体部11と締付部12とから構成されている(
図1乃至
図3参照)。前記抱持本体部11は、略円筒状に形成され、具体的にはその内部が中空形状に形成された抱持内周面部11aを有している。前記抱持本体部11の直径方向下部側には、該抱持本体部11の軸方向の前方側から後方側に沿って、幅方向に非連続となる離間したスリット部11bが形成されている。前記スリット部11bの幅方向両側で対向する縁部分が相互に近接することによって、前記抱持内周面部11aの直径が小さくなり、前記抱持本体部11内に収納装着されたコラムパイプ6を締付具4を介して締め付け、ロック(固定)することができる〔
図1(D)参照〕。
【0024】
前記アウターコラム1の下部には、締付部12,12が一体形成されている〔
図1(B),(D),
図3等参照〕。両締付部12,12は、左右対称の形状であり、前記スリット部11bの幅方向両側端の位置にそれぞれ一体的に形成され、具体的には、前記スリット部11bの幅方向両端又はその付近から略垂下状に形成された厚肉板状の部分である。
【0025】
締付部12,12は、後述する固定ブラケット3の両固定側部31,31にて挟持されると共に締付具4によって締付及び締付解除が行われる〔
図1(D)参照〕。前記両締付部12,12には、前記アウターコラム1の軸方向に直交する方向で且つ抱持本体部11の水平直径方向に対して平行となる方向に沿って締付用貫通孔12a,12aが形成されている〔
図3(A)参照〕。
【0026】
前記抱持本体部11の前後方向の前方側には、アーム部2が形成されている〔
図1(B),(C),
図2,
図3参照〕。アーム部2は、2本の腕状部21,21からなり、両腕状部21,21が略水平面において二股状となるように配置され、両腕状部21,21の前方側端寄りの位置に両腕状部21,21間を略橋状となるように第1連結部22及び第2連結部23が形成されている。第1連結部22及び第2連結部23の詳細については、後述する。
【0027】
固定ブラケット3は、幅方向両側に形成された固定側部31,31と取付頂部32とから構成されている。両固定側部31,31には、略上下方向又は縦方向に長孔とした調整孔33,33が形成されている〔
図1(A),(D)参照〕。固定ブラケット3の取付頂部32は、車内の所定位置にボルト等によって固定され、固定ブラケット3と共にステアリング装置が車体に装着される。締付具4は、ボルト軸41とロックレバー部42と締付カム43とナット44とから構成されている〔
図1(D)参照〕。
【0028】
前記アーム部2の両腕状部21,21は、前記固定ブラケット3よりも車体前方側に位置する箇所で、ロアブラケット5により、連結されている。ロアブラケット5は、略門形状をなし、垂下板状部51,51と連結板52とから構成される〔
図1(C)参照〕。両垂下板状部51,51は、前記アーム部2の両腕状部21,21を上下方向に揺動自在に軸支し、アーム部2と共にアウターコラムAを揺動させることにより、チルト調整が行われるようにするものである。
【0029】
ステアリングシャフトAは、ロア側シャフト7と、アッパー側シャフト8と、自在継手9とから構成され、ロア側シャフト7とアッパー側シャフト8とが自在継手9によって連結される〔
図1(A),(B),
図2参照〕。ステアリングシャフトは、ロア側シャフト7が前方側に位置し、アッパー側シャフト8が後方側に位置する構成である。該アッパー側シャフト8は、コラムパイプ6の内方側に軸受を介して回転自在に軸支収容される。
【0030】
アッパー側シャフト8の車体前方側には、自在継手9が備わっており、該自在継手9を介してアッパー側シャフト8とロア側シャフト7とが連結される。ロア側シャフト7は、軸方向に伸縮する構造であり、アッパー側シャフト8は軸方向に伸縮しない構造である〔
図1(A),(B),
図2及び
図4等参照〕。
【0031】
ロア側シャフト7は、雄シャフト71と雌シャフト72とを有しており〔
図1(A),(B),
図2参照〕、その伸縮構造が前記雄シャフト71と前記雌シャフト72とによって構成される。雄シャフト71は雄スプラインを有し、雌シャフト72は雌スプラインを有している。そして、雄シャフト71と雌シャフト72とは、前記雄スプラインと雌スプライン同士が相互に摺動自在に嵌合接続される。
【0032】
雄シャフト71と雌シャフト72との軸方向における相互の摺動動作によって、ロア側シャフト7は、軸方向に伸縮し、この伸縮によって、アッパー側シャフト8はコラムパイプ6と共にアウターコラムA内を前後方向に移動し、テレスコ調整が行われる。テレスコ調整における、軸方向の伸縮は、ロア側シャフト7のみで行なわれ、アッパー側シャフト8は、軸方向の伸縮が不可能で長さが変化することなく単に軸方向に往復移動するのみである。
【0033】
ステアリングシャフトのロア側シャフト7の後方側端部とアッパー側シャフト8の前方側端部と、自在継手9は、前記アーム部2の第1連結部22と、第2連結部23とが位置する箇所及びその付近で、第1連結部22と第2連結部23との間を通過するようにして配置される。そして、テレスコ調整によって、ロア側シャフト7の後方側端部とアッパー側シャフト8の前方側端部と、自在継手9が、第1連結部22と第2連結部23との間を移動する(
図4参照)。
【0034】
アーム部2の第1連結部22は、両腕状部21,21の上端縁21a,21aから上方に突出するようにして形成される〔
図1(C),
図3,
図4等参照〕。第2連結部23は、両腕状部21,21の下縁21b,21bから下方に突出するようにして形成される。第1連結部22及び第2連結部23はそれぞれの幅方向中央箇所が最も両腕状部21,21から上下方向に離れた位置となる。
【0035】
前記第1連結部22は、アーム部2の幅方向で且つ両腕状部21,21の上方に略弧状に形成される。具体的には、第1連結22は、両腕状部21,21の上方に凸状のアーチ状として形成される。同様に、第2連結部23は、アーム部2の幅方向で且つ両腕状部21,21の下方に略弧状に形成され、具体的には、両腕状部21,21の下方に下向き凸状のアーチ状として形成される。
【0036】
また、第2連結部23は、第1連結部22よりも、両腕状部21,21から突出する量が大きくなっている。つまり、第2連結部23の内面から両腕状部21,21の下端縁21bまでの距離Hbは、第1連結部22の内面から両腕状部21,21の上端縁21aまでの距離Haよりも大きい〔
図3(B)参照〕。
すなわち、
である。
【0037】
また、第1連結部22及び第2連結部23がそれぞれ円弧状に形成されたものでは、第1連結部22の内周面の曲率半径Raは、第2連結部23の内周面の曲率半径Rbよりも大きい〔
図3(B)参照〕。
すなわち、
である。
【0038】
ここで、曲率半径Raと曲率半径Rbとの、それぞれの中心位置は、同一位置ではなく、上下方向にずれた異なる位置となる。このように、第2連結部23は、第1連結部22よりも両腕状部21,21に対して大きく突出している。つまり、第2連結部23によって包囲された部分の空隙は、第1連結部22により包囲される部分の空隙よりも大きく形成されている。
【0039】
このような構成によって、テレスコ調整時におけるロア側シャフト7の後方側端部とアッパー側シャフト8の前方側端部と、自在継手9は、第1連結部22及び第2連結部23の間を前後方向に移動しても、第1連結部22及び第2連結部23に接触することなく、相互に干渉しない(
図4参照)。なお、
図4(A),(B),(C)に記載された仮想線は、
図4(A)における自在継手9の位置を基準とした基準線Pである。
図4(B)及び(C)の自在継手9の軸方向への移動量は、前記基準線Pを基準としている。
【0040】
特に、第2連結部23により包囲される部分の空隙をより一層大きくすることで、アーム部2の下方側つまり第2連結部23よりに配置され易いロア側シャフト7の後方側端部とアッパー側シャフト8の前方側端部と、自在継手9は、第2連結部23との接触を確実に防止できる(
図4参照)。
【0041】
また、第2連結部23の軸方向における長さLbは、第1連結部22の前後方向における長さLaよりも短く形成される〔
図1(B)参照〕。
すなわち、
である。
【0042】
第1連結部22は、アーム部2の両腕状部21,21が車体に装着され且つ揺動自在に軸支される前記ロアブラケット5の車体取付部に近くで、力が加わるため、アーム部2にかかる応力は大きくなる。
【0043】
よって、第2連結部23の前後方向長さLbを小さくすることで、アーム部2の両腕状部21,21の剛性を向上させ、アーム部2にかかる応力に対する耐性を向上させると共に、軽量化も実現できる。また、第1連結部22は、第2連結部23よりも前後方向長さが大きく形成されることで、両腕状部21,21のより一層剛性を有することができる。
【0044】
ただし、第1連結部22は、その前後方向の長さの方を必ずしも長く形成する必要はなく、また第2連結部23にかかる応力が大きい場合には、第1連結部よりも第2連結部の前後方向長さを長くすることもある。第2連結部23にかかる応力が大きい場合とは、具体的に前記ロアブラケット5との枢支連結部の位置が、第2連結部23側に近い場合などである。
【0045】
第1連結部22及び第2連結部23は、前述したように、その形状を円弧状としたが、必ずしも円弧形状に形成する必要はなく、多角形状としてもよく、多角形状とした場合では例えば台形状等又は方形状とすることもある〔
図3(C)参照〕。第1連結部22及び第2連結部23が方形状又は台形状に形成された場合では、円弧形状と同じように応力のかかる側の前後方向長さを長く形成することで、剛性を向上させることができる。
【0046】
実際に、ステアリング装置におけるステアリングシャフトの取付状態は、前後方向にのみ傾斜するものではなく、左右方向にも傾斜する。具体的には、アッパー側シャフト8は前後方向にのみ傾斜するが、ロア側シャフト7は上下方向及び左右方向に傾斜し、図示しない舵取り装置のラック・ピニオン機構に連結されている。
【0047】
このような状態でも、アーム部2における第1連結部22及び第2連結部23では、テレスコ調整時に、ロア側シャフト7,アッパー側シャフト8及び自在継手9と、干渉することなく、円滑なチルト・テレスコ操作及びハンドル操作を行うことができる(
図4参照)。
【0048】
アーム部2の第1連結部22及び第2連結部23は、両腕状部21,21の車体前方側端部に形成されることもある。つまり、第1連結部22と第2連結部23とは、両腕状部21,21の車体前方側端部で略同一位置に形成されることになる(
図5参照)。これによって、第1連結部22,第2連結部23と、アーム部2を軸支するロアブラケット5との位置が略同一位置に集中する構成となり、両腕状部21,21の幅方向における相互の変形或いは撓みが無くなり、ステアリングコラム全体の剛性が向上させることができる。従って、ステアリングコラムのチルト・テレスコの位置の固定時の剛性を高め、そのガタツキを抑えることでステアリングの操作感覚が向上する。
【0049】
アーム部2の第1連結部22及び第2連結部23は、前後方向の位置を相互にずらして両腕状部21,21に形成されることもある。具体的には、第2連結部23は第1連結部22よりも、車体前方側に位置する。これによって、より一層、第1連結部22及び第2連結部23とロア側シャフト7及び自在継手9とが相互に干渉することを防止でき、自由なレイアウトが可能になる。
【符号の説明】
【0050】
1…アウターコラム、2…アーム部、21…腕状部、22…第1連結部、
23…第2連結部、3…固定ブラケット、4…締付具、6…コラムパイプ、
A…ステアリングシャフト、7…ロア側シャフト、71…雄シャフト、
72…雌シャフト、8…アッパー側シャフト、9…自在継手。