【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明する。
図1は、本発明の実施例、及び比較例に係るSiC単結晶インゴットの製造に用いた、改良型レーリー法による単結晶成長の装置である。結晶成長は、昇華原料(SiC原料)3を誘導加熱により昇華させ、種結晶1上に再結晶させることにより行われる。種結晶1は、坩堝蓋体6の内面に取り付けられており、昇華原料3は黒鉛坩堝4の内部に充填される。この黒鉛坩堝4、及び坩堝蓋体6は、熱シールドのために断熱材5で被膜され、二重石英管8内部の黒鉛支持台座7の上に設置される。石英管8の内部を、真空排気装置及び圧力制御装置12を用いて1.0×10
−4Pa未満まで真空排気した後、純度99.9999%以上の高純度Arガスを、配管10を介してマスフローコントローラ11で制御しながら流入させ、真空排気装置及び圧力制御装置12を用いて石英管内圧力を80kPaに保ちながら、ワークコイル9に高周波電流を流し、黒鉛坩堝下部を目標温度である2400℃まで上昇させる。予め行うSiC原料の焼結と、結晶成長とを一環して行うプロセスの場合は、この段階の圧力と温度が異なるので後述する。窒素ガス(N
2)も同様に、配管10を介してマスフローコントローラ11で制御しながら流入させ、雰囲気ガス中の窒素分圧を制御して、SiC結晶中に取り込まれる窒素元素の濃度を調整した。坩堝温度の計測は、坩堝上部及び下部の断熱材5に直径2〜15mmの光路を設けて放射温度計13a及び13bにより行う。坩堝上部温度を種結晶温度、坩堝下部温度を原料温度とした。その後、石英管内圧力を成長圧力である0.8kPa〜3.9kPaまで約15分かけて減圧し、この状態を所定の時間維持して結晶成長を実施した。
【0040】
(実施例1〜3)
先ず、1つの実施例につき、ブロードな粒度分布を有する第1の実施形態に係るSiC粉体を1種用意した。各SiC粉体の粒径D
50、粒径D
20、空隙率及び有効熱伝導率を表1に示す。種結晶上へのSiC単結晶の結晶成長に先だって、SiC粉体の熱処理を行った。それぞれのSiC粉体を、成長で用いる100mm結晶製造用坩堝と同じサイズの黒鉛製の熱処理用坩堝に充填した。その際、熱処理後に得られるSiC多孔質焼結体と坩堝との剥離を容易にするために、SiC粉体と熱処理用坩堝との間に厚さ1mmの高純度黒鉛のシートを挿入した。次に、黒鉛製ヒーターを有する市販の抵抗加熱炉にSiC粉体を充填した坩堝を入れて熱処理を行った。熱処理前に抵抗加熱炉内を1.0×10
−4Pa未満まで真空排気した後、不活性雰囲気ガスであるArを導入して所定の圧力に制御しながら、4時間かけて室温から所定の熱処理温度まで加熱し、所定温度で6時間維持して熱処理を行った。その後、炉冷を行い、室温付近まで冷却された後に坩堝を取出した。熱処理の圧力と温度は表1に示す。
【0041】
また、各実施例で用いたSiC粉体とその熱処理条件に関して、事前に84mm×200mm×65mmのSiC多孔質焼結体を作製して、その物性値を測定した。有効熱伝導率、及びSiC多孔質焼結体の体積と質量から算出された空隙率を表1に示す。焼結体は手で持ち上げられるほどの強度を有していたが、粉体から焼結体に至る過程で体積変化はないので、算出される空隙率は熱処理前のSiC粉体と同一であった。ここで、SiC粉体の粒径D
20及び粒径D
50は、レーザー回折法を用いて、粒径を測定し、換算した粒子体積からヒストグラムを作成して求めたものである。また、有効熱伝導率の測定は、SiC粉体、SiC多孔質焼結体ともに、非定常熱線法を用いて、大気雰囲気にて検体を加熱して測定を行った。更に、空隙率は、SiC粉体、SiC多孔質焼結体ともに、先の式(1)を使って算出した。ここで、SiC原料の体積は原料寸法の直接測定、もしくは黒鉛坩堝の中の原料が充填されている部分の内容積から求めた(下記の実施例、比較例についても同様)。
【0042】
次に、上記で得られたSiC多孔質焼結体を用いて、
図1に示したような結晶成長装置により、1つの実施例につきSiC単結晶の製造をそれぞれ3回行った。単結晶製造の条件について説明する。実施例1〜3で用いた黒鉛坩堝4、及び坩堝蓋体6は、100mmインゴット製造用のサイズと構造を有している。種結晶1として、(0001)面を主面とし、<0001>軸が<11−20>方向に4°傾いた、口径101mmの4Hの単一ポリタイプで構成されたSiC単結晶基板を使用した。種結晶のマイクロパイプ密度は1個/cm
2以下である。昇華原料3として、前述のSiC多孔質焼結体を使用した。成長圧力は1.33kPaであり、窒素ガスの分圧は180Paから90Paである。窒素分圧は得られるインゴット全体で最適な導電性を維持するために変化させた。そして、ワークコイル9に高周波電流を流し、黒鉛坩堝下部を目標温度2400℃にしてSiC単結晶を成長させた。
【0043】
上記の製造方法にて得られたSiC単結晶インゴットは、口径がいずれも約105mmであり、高さは条件によって異なり、表1に示したとおりであった。外観観察では、得られたインゴットに結晶欠陥の発生は認められなかった。また、成長完了後の坩堝を解体し、原料の状態を観察したところ、昇華後に残る炭素残留物は昇華前の焼結体のネットワーク状構造を大部分で維持しており、原料の再配置に起因する緻密なSiC多結晶体又は緻密な炭素は、原料の中心部に僅かに残るだけであった。
【0044】
そして、得られたインゴットは公知の加工技術により、種結晶と同じく、オフ角度4°の(0001)面を有する厚さ0.4mmの鏡面ウェハに加工し、透過光観察を行い、更にマイクロパイプをCandela社製のCS10 Optical Surface Analyzerを用いてカウントした。観察結果を表1に示す。得られた結晶の品質はすべて種結晶と同等以上の良質なものであった。
【0045】
【表1】
【0046】
(実施例4〜6)
実施例4〜6の結晶成長は、SiC粉体の焼結プロセスを組み込んだ、結晶製造と連続した一環プロセスとして実施した。用意したSiC粉体は、第2の実施形態に係る細粒と粗粒の混合粉であり、1つの実施例につき、細粒と粗粒の混合粉からなるSiC粉体をそれぞれ1種用意した。用いた細粒のSiC粉体と粗粒のSiC粉体の平均粒径とこれらの混合比のほか、空隙率、及び有効熱伝導率を表2に示す。
【0047】
それぞれの実施例について、細粒と粗粒の混合粉からなるSiC粉体を結晶成長用坩堝内の原料充填室に充填し、下記のような各3回のSiC単結晶インゴットの製造実験を行った。ここで、SiC粉体の坩堝への充填方法としては、予め粉体をロッキングミキサー等で十分に混合した後に坩堝に充填する方法や、先に粗粒を所定量充填し、その後、篩い振とう器などで坩堝を所定の振動数で揺らしながら、所定量の細粒を粗粒の上に投入していく方法などがある。本発明はSiC粉体の充填の方法に限定されるものではなく、また、坩堝内に粒度の分布を作ることを意図してはいない。
【0048】
次に、
図1に示したような結晶成長装置を用いたSiC粉体の熱処理と単結晶製造の一環プロセスについて説明する。実施例4〜6で用いた黒鉛坩堝4、及び坩堝蓋体6は、150mmインゴット製造用のサイズと構造を有している。種結晶1は、口径152mmを有し、<0001>軸が<11−20>方向に4°傾いた(0001)面を主面とし、4Hの単一ポリタイプで構成されたSiC単結晶基板を使用した。種結晶のマイクロパイプ密度は1個/cm
2以下である。SiC粉体と種結晶が装填された坩堝を、結晶成長炉の石英管内に設置し、通常の成長と同様に真空排気した後、純度99.9999%以上の高純度Arガスを、配管10を介してマスフローコントローラ11で制御しながら流入させ、真空排気装置及び圧力制御装置12を用いて石英管内圧力を熱処理の所定圧力に保ちながら、ワークコイル9に高周波電流を流し、SiC粉体が所定の温度に達するまで加熱するようにした。その際の熱処理温度は、坩堝上下の放射温度計測定値を元に、数値計算によって求めた値である。熱処理の圧力と温度は表2に示す。そして、所定の温度を保持したまま、SiC粉体を均一に焼結させるために、ワークコイル9を黒鉛坩堝4に対して上下に駆動させた。その際、結晶成長時に設定するコイル位置を中心に、黒鉛坩堝の原料充填室の高さ程度に相当する幅でワークコイル9を上下方向に駆動させ、1時間に1mm〜10mm程度の速度で位置を変更しながら、12時間の熱処理を行った。
【0049】
上記のようにして各実施例に係るSiC多孔質焼結体を得た後、ワークコイル9をSiC単結晶の成長で使用する位置に移動させて、坩堝下部を目標温度である2400℃まで上昇させ、石英管内の圧力を、熱処理の圧力から成長圧力である1.33kPaまで約15分かけて減圧し、SiC単結晶の成長を開始した。窒素ガスの分圧は180Paから90Paである。窒素分圧はインゴット全体で最適な導電性を維持するために変化させた。上述した一環プロセスの運転条件の概略は
図2に示す。
【0050】
ここで、SiC多孔質焼結体の物性については、上記と同じ熱処理過程を経たSiC多孔質焼結体から84mm×200mm×65mmの試験片を加工し、各物性値を測定した。熱伝導率、及び先の式(1)から算出された空隙率を表2に示す。実施例1〜3と同様に、SiC粉体から焼結体に至る過程で体積変化はなく、空隙率は粉体と同一であった。
【0051】
上記の製造方法にて得られたSiC単結晶インゴットは、いずれも口径が約155mmであり、高さは条件によって異なり、表2に示したとおりであった。外観観察では、得られたインゴットに結晶欠陥の発生は認められなかった。成長完了後の原料の状態を観察したところ、実施例1〜3同様に、昇華後に残る炭素残留物は昇華前の焼結体のネットワーク状構造を大部分で維持しており、原料の再配置に起因する緻密なSiC多結晶体又は緻密な炭素は、原料の中心部に僅かに残るだけであった。
【0052】
得られたインゴットは実施例1〜3と同様に、オフ角度4°の(0001)面を有する厚さ0.4mmの鏡面ウェハに加工し、透過光観察とマイクロパイプのカウントを行った。観察結果を表2に示す。得られた結晶の品質はすべて種結晶と同等以上の良質なものであった。
【0053】
【表2】
【0054】
(比較例1〜2)
次に、比較例の単結晶製造について説明する。比較例1及び2では、粒径D
20が13μm及び粒径D
50が32μmの市販のSiC粉体(比較例1)、粒径D
20が568μm及び粒径D
50が710μmの市販のSiC粉体(比較例2)をそれぞれ用いて成長を行った。SiC原料は粉体の状態で坩堝内に充填し、焼結体を得るための熱処理はせずに、それ以外は実施例1〜3と同様にしてSiC単結晶の成長を開始した。実施例1〜3と同様に、SiC粉体の物性値測定を行っている。その結果は表3に示す。坩堝構造と結晶成長プロセスは実施例1〜3と同一である。これらの比較例1及び2についてもそれぞれ同一の条件にてインゴット製造を3回行った。得られたSiC単結晶インゴットの外観観察では、明らかに結晶欠陥が発生したことが確認できるインゴットもあった。結晶の評価結果も表3に示す。インゴットの高さは実施例と比較して低い。これは、比較例1及び2で充填された粉体の空隙率は実施例よりも高いものの、成長プロセス中に大規模な再配置が発生し、再配置後の空隙率、表面積はむしろ実施例よりも低くなっており、それ以降の昇華反応が進み難くなったことによるものと考えられる。また、マイクロパイプ密度は種結晶のそれよりも増加しているが、これは、再配置の際に誘発されるガス組成の変動、ガス供給量の変動によって、SiC単結晶の成長面にSi粒や炭素粒などの異物相が形成されたことや、更には異物相を起点として異種ポリタイプも発生したことによるものと考えられる。
【0055】
また、成長完了後の坩堝を解体し、原料の状態の観察を行った。昇華後に残る炭素残留物について、昇華前の粉体の形態を維持していた部分は原料体積の半分以下であり、原料の再配置に起因する緻密なSiC多結晶体又は緻密な炭素が原料の中心部に柱状に大きな体積で存在していた。
【0056】
【表3】
【0057】
(比較例3〜4)
比較例3〜4について説明する。比較例3〜4では比較例1〜2と同じ市販のSiC粉体を用いて、予めSiC粉体を熱処理した上でSiC単結晶の成長を行った。比較例3〜4で用いた黒鉛坩堝は、実施例1〜3で用いた坩堝と同じ100mm結晶製造用坩堝であり、種結晶1は実施例1〜3と同様である。結晶成長はSiC粉体の熱処理と結晶製造の連続した一環プロセスとして成長を実施した。比較例3〜4の一環プロセスの条件を以下で説明する。
【0058】
SiC粉体と種結晶が装填された坩堝を、結晶成長炉の石英管内に設置し、通常の成長と同様に真空排気した後、純度99.9999%以上の高純度Arガスを、配管10を介してマスフローコントローラ11で制御しながら流入させ、真空排気装置及び圧力制御装置12を用いて石英管内圧力を所定の圧力に保ちながら、ワークコイル9に高周波電流を流し、SiC粉体が所定の温度に達するまで加熱した。その際、この比較例3〜4においても実施例4〜6と同様の設定でコイルの上下動を行った。所定の移動が完了した後に熱処理を完了とした。熱処理条件は表4に示す。
【0059】
上記のようにしてSiC粉体の熱処理を行った後、ワークコイル9をSiC単結晶の成長で使用する位置に移動させて、坩堝下部を目標温度である2400℃まで上昇させ、石英管内の圧力を、9kPaから成長圧力である1.33kPaまで約15分かけて減圧し、成長を開始した。窒素ガスの分圧は180Paから90Paである。窒素分圧はインゴット全体で最適な導電性を維持するために変化させた。
【0060】
ここで、この比較例3〜4で用いたSiC粉体について、それぞれ上記と同じ条件にて事前に熱処理実験を行い、熱処理後の粉体の物性を評価した。比較例3〜4の熱処理条件は本発明の範囲内ながら、空隙率が高いために粉体は焼結しておらず、熱処理前との物性変化は誤差の範囲内であった。上記の通り、焼結の効果が得られていないため、比較例3〜4にて得られたインゴットの高さは、比較例1〜2と同等である。従って、成長完了後の原料の状態や結晶品質も比較例1〜2と同等と言えるものであった。
【0061】
【表4】
【0062】
(比較例5〜7)
比較例5〜7は、SiC粉体の焼結プロセスを組み込んだ、結晶製造と連続した一環プロセスとして実施した。熱処理の工程は実施例4〜6と同様である。1つの比較例につき、SiC粉体を1種用意した。各SiC粉体の粒径D
50、D
20、空隙率、有効熱伝導率、及び熱処理の処理圧力と最高温度を表5に示す。
【0063】
それぞれの比較例について、SiC粉体を結晶成長用坩堝内の原料充填室に充填し、各3回のSiC単結晶インゴットの製造実験を行った。これらの比較例5〜7で用いた黒鉛坩堝4、坩堝蓋体6の構造、種結晶の口径と仕様、及び一環プロセスの条件も実施例4〜6と同様である。
【0064】
ここで、この比較例5〜7で用いたSiC粉体について、それぞれ上記と同じ条件にて事前に熱処理を施し、焼結性を調査した。比較例5の粉体は粒径D
50とD
20の比率と熱処理条件は本発明範囲内ながら、粒径D
20が大きいために焼結性が低い。比較例6は粒径D
50とD
20、比率とも本発明の範囲内ながら、熱処理温度が低い。そのため、比較例5〜6では焼結体は得られず、熱処理後も粉体充填体の形態であった。また、熱処理後の粉体に対してあらためて有効熱伝導率の測定を行ったが、熱処理前との差異は誤差範囲であった。熱処理後のSiC粉体の有効熱伝導率、及び先の式(1)から算出された空隙率を表5に示す。熱処理過程で体積変化はなく、算出される空隙率は熱処理前後で変化無かった。
【0065】
一方、比較例7は、第1の実施形態の範囲のSiC粉体であるが、熱処理温度が非常に高い。このため、坩堝内に投入されたSiC粉体はその内部で昇華と再結晶を発生させ、また焼成収縮により著しく体積が減少しており、空隙率は低下していた。なお、収縮のため84mm×200mm×65mmの試験片を作製することができなかったことから、別途φ10mm×5mmの試験片を加工し、レーザーフラッシュ法にて有効熱伝導率を測定した。すなわち、Ndガラスレーザを用いて、試料の片面に入熱し、反対側の面の温度変化を赤外線センサで捉えたデータを解析することによりφ10mm×5mmの試験片の有効熱伝導率を測定した。
【0066】
上記のような各SiC原料を用いて実施例4〜6と同様にしてSiC単結晶の成長を行った。得られた比較例5〜7のインゴットの高さは、同じ結晶口径である実施例4〜6のインゴット高さと比較して低い。特に比較例7のインゴットの高さが低く、インゴットの外観観察でも、得られたインゴットには異種ポリタイプの混在やマイクロパイル(MP)の存在を反映した、放射状の筋模様やディンプルが多数見られた。成長完了後の坩堝を解体し、原料の状態の観察を行ったところ、原料の再配置に起因する緻密なSiC多結晶体又は緻密な炭素が原料の中心部に柱状に大きな体積で存在していた。比較例5及び6の原料は焼結させていないため、原料の極所的な加熱や再配置などの現象が発生し、結晶成長条件が不安定になったと推察された。一方、比較例7の原料は、成長前の熱処理により原料充填室の内部で昇華、再結晶と焼成収縮を起し、成長開始前に著しく空隙率が低下していた。このため、成長中の再配置はほとんど発生しないものの、成長開始時点から最後まで昇華量の極端に少ない条件であったと推察できる。得られたインゴットは実施例と同様に鏡面ウェハに加工し、透過光観察とマイクロパイプのカウントを行った。観察結果を表5に示す。全てのウェハで種結晶よりもMP密度が増加していた。
【0067】
【表5】
【0068】
(比較例8〜10)
比較例8〜10では、実施例1〜3と同様の方法で、成長に先だってSiC粉体を焼結させる熱処理を行った。1つの実施例につき、細粒のSiC粉体と粗粒のSiC粉体とからなる混合粉を1種用意し、SiC単結晶の成長で用いる100mm結晶製造用坩堝と同じサイズの黒鉛製の熱処理用坩堝に充填し、所定の圧力と温度にて熱処理を行った。用いた細粒のSiC粉体と粗粒のSiC粉体の平均粒径とこれらの混合比のほか、その混合粉からなるSiC粉体の粒径D
50と粒径D
20、熱処理の条件を表6に示す。各比較例について、細粒SiC粉体と粗粒SiC粉体とを結晶成長用坩堝内の原料充填室に充填し、熱処理を行い、その後、各3回のSiC単結晶インゴットの製造実験を行った。熱処理の条件、熱処理前後の原料の有効熱伝導率、先の式(1)から算出された空隙率を表6に示す。
【0069】
比較例8の細粒SiC粉体の粒径、細粒SiC粉体と粗粒SiC粉体の平均粒径の関係(7a≦b)は第2の実施形態で示した範囲内であるが、混合粉における細粒の割合が非常に多い。このため、熱処理条件は本発明の範囲内ながら、高い焼結反応性のために著しく収縮し、熱処理後の原料の体積は大幅に減少していた。比較例8の熱処理後のSiC粉体の有効熱伝導率は、比較例7と同様にレーザーフラッシュ法にて測定した。比較例9も細粒SiC粉体の粒径、細粒SiC粉体と粗粒SiC粉体との平均粒径の関係(7a≦b)は第2の実施形態で示した範囲内であるが、混合粉における細粒の比率が小さい。このために、本発明範囲の条件で熱処理を行っても焼結体は得られず、熱処理の前後で粉体の物性値に有意差は見られなかった。比較例10のSiC粉体は、細粒SiC粉体と粗粒SiC粉体との混合比は第2の実施形態で示した範囲内である。しかしながら、細粒SiC粉体の平均粒径が過大であるために、焼結反応性が低下しており、本発明範囲の条件で熱処理を行っても焼結体は得られず、熱処理の前後で粉体の物性値に有意差は見られなかった。
【0070】
これらのSiC原料を用いて実施例1〜3と同様の方法でSiC単結晶の成長を行ったところ、比較例8〜10にて得られたSiC単結晶インゴットは、口径は約105mmと実施例1〜3と同等であったが、インゴットの高さは実施例よりも低く、結晶性は大きく劣っていた。インゴットの高さと結晶品質について表6に示す。
【0071】
また、成長完了後の原料の状態の観察も行った。比較例9〜10の原料については、原料の再配置に起因する緻密なSiC多結晶体又は緻密な炭素は原料の中心部に柱状に大きな体積で存在していた。成長プロセス中の再配置によって原料が中心部に移動した結果である。比較例8は、熱処理で形成された緻密な焼結体の形態をほぼ保っており、成長プロセス前後の変化は小さかった。
【0072】
【表6】