【実施例】
【0017】
〔実施例の構成〕
図1〜
図3を参照して実施例の点火装置1を説明する。
点火装置1は、1次コイル2および2次コイル3を有する点火コイル4と、2次コイル3に接続する点火プラグ5とを備え、1次コイル2への通電のオンオフに伴う電磁誘導により点火プラグ5にエネルギーを投入して火花放電を発生させるものである。また、点火装置1は、車両走行用の内燃機関6に搭載され、所定の点火時期に気筒7内の混合気に点火するものである。
【0018】
なお、点火プラグ5は、周知構造を有するものであり、2次コイル3の一端に接続される中心電極8と、内燃機関6のシリンダヘッド等を介してアース接地される接地電極9とを備え、2次コイル3に生じるエネルギーにより中心電極8と接地電極9との間で火花放電を生じさせる(
図3参照。)。
また、内燃機関6は、例えば、ガソリンを燃料とする希薄燃焼(リーンバーン)が可能な直噴式であり、気筒7内にタンブル流やスワール流等の混合気の旋回流が生じるように設けられている。
以下、点火装置1について詳述する。
【0019】
点火装置1は、次の第1、第2回路11、12、および、制御部13を備える。まず、第1回路11は、1次コイル2への通電をオンオフすることで、点火プラグ5に火花放電を開始させる。また、第2回路12は、第1回路11の動作によって開始した火花放電中に、第1回路11による通電方向とは逆の方向に1次コイル2に通電することで、2次コイル3の通電を第1回路11の動作で開始したのと同一方向に維持して点火プラグ5にエネルギーを投入し続け、火花放電を継続させる。また、制御部13は、第1、第2回路11、12の動作を制御する部分であり、次の電子制御ユニット(以下、ECU14と呼ぶ。)およびドライバ15等により構成される。
【0020】
ここで、ECU11は、内燃機関6に対する制御の中枢を成すものであり、点火信号IGtおよび放電継続信号IGw等の各種信号を出力して1次コイル2への通電を制御し、1次コイル2への通電を制御することで2次コイル3に誘導される電気エネルギーを操作して、点火プラグ5の火花放電を制御する(点火信号IGtおよび放電継続信号IGwについては後述する。)。
【0021】
なお、ECU14は、車両に搭載されて内燃機関6の運転状態や制御状態を示すパラメータを検出する各種センサから信号が入力される。また、ECU14は、入力された信号を処理する入力回路、入力された信号に基づき、内燃機関6の制御に関する制御処理や演算処理を行うCPU、内燃機関6の制御に必要なデータやプログラム等を記憶して保持する各種のメモリ、CPUの処理結果に基づき、内燃機関6の制御に必要な信号を出力する出力回路等を備えて構成される。
【0022】
また、ECU14に信号を出力する各種センサとは、例えば、内燃機関6の回転数を検出する回転数センサ17、内燃機関6に吸入される吸入空気の圧力を検出する吸気圧センサ18、および、混合気の空燃比を検出する空燃比センサ19等である。そして、ECU14は、これらセンサから得られるパラメータの検出値に基づき、内燃機関6における点火制御や燃料噴射制御を実行する。
【0023】
第1回路11は、例えば、バッテリ21の+極と1次コイル2の一方の端子とを接続するとともに、1次コイル2の他方の端子をアースに接続し、1次コイル2の他方の端子のアース側(低電位側)に、放電開始用のスイッチ(以下、第1スイッチ22と呼ぶ。)を配置することで構成されている。
【0024】
そして、第1回路11は、第1スイッチ22のオンオフにより、1次コイル2にエネルギーを蓄えさせるとともに、1次コイル2に蓄えたエネルギーを利用して2次コイル3に高電圧を発生させ、点火プラグ5に火花放電を開始させる。
以下、第1回路11の動作により発生した火花放電を主点火と呼ぶことがある。また、1次コイル2の通電方向(つまり1次電流の方向)は、バッテリ21から第1スイッチ22に向かう方向をプラスとする。
【0025】
より具体的に説明すると、第1回路11は、ECU14から点火信号IGtが与えられる期間に第1スイッチ22をオンすることで、1次コイル2にバッテリ21の電圧を印加してプラスの1次電流を通電し、1次コイル2に磁気的なエネルギーを蓄えさせる。その後、第1回路11は、第1スイッチ22のオフにより、電磁誘導によって2次コイル3に高電圧を発生させ、主点火を生じさせる。
なお、第1スイッチ22は、パワートランジスタ、MOS型トランジスタ、サイリスタ等である。また、点火信号IGtは、第1回路11において1次コイル2にエネルギーを蓄えさせる期間および点火開始時期を指令する信号である。
【0026】
第2回路12は、第1回路11に対し1次コイル2と第1スイッチ22との間に接続するとともに、昇圧回路23から1次コイル2への電力供給をオンオフするスイッチ(以下、第2スイッチ24と呼ぶ。)を配置することで構成されている。
ここで、昇圧回路23は、ECU14から点火信号IGtが与えられる期間においてバッテリ21の電圧を昇圧してコンデンサ26に蓄えるものである。より具体的に、昇圧回路23は、コンデンサ26、チョークコイル27、昇圧スイッチ28、昇圧ドライバ29およびダイオード30を備えて構成されている。
【0027】
チョークコイル27は一端がバッテリ21のプラス電極に接続され、昇圧スイッチ28によりチョークコイル27の通電状態が断続される。また、昇圧ドライバ29は、昇圧スイッチ28に制御信号を与えて昇圧スイッチ28をオンオフさせるものである。そして、昇圧スイッチ28のオンオフ動作により、チョークコイル27に発生した磁気的なエネルギーを、コンデンサ26で電気的なエネルギーとして蓄える。
【0028】
なお、昇圧ドライバ29は、ECU14から点火信号IGtが与えられる期間において昇圧スイッチ28を所定周期で繰り返しオンオフするように設けられている。また、ダイオード30は、コンデンサ26に蓄えたエネルギーがチョークコイル27の側へ逆流するのを防ぐものである。さらに、昇圧スイッチ28は、例えば、MOS型トランジスタである。
【0029】
第2回路12は、次の第2スイッチ24およびダイオード31を備えて構成される。ここで、第2スイッチ24は、例えば、MOS型トランジスタであり、コンデンサ26に蓄えたエネルギーを1次コイル2にマイナス側から投入するのをオンオフするものである。また、ダイオード31は、1次コイル2から第2スイッチ24への電流の逆流を阻止するものである。そして、第2スイッチ24は、ドライバ15から与えられる制御信号によりオン動作することで、昇圧回路23から1次コイル2のマイナス側にエネルギーを投入する。
【0030】
ドライバ15は、放電継続信号IGwが与えられる期間において、第2スイッチ24をオンオフさせてコンデンサ26から1次コイル2に投入するエネルギーを制御することで、2次コイル3の通電量である2次電流を制御する(以下、ドライバ15を投入ドライバ15と呼ぶ。)。ここで、放電継続信号IGwは、主点火として発生した火花放電を継続する期間を指令する信号であり、より具体的には、第2スイッチ24にオンオフを繰り返させて昇圧回路23から1次コイル2にエネルギーを投入する期間を指令する信号である。
【0031】
以上により、第2回路12は、第1回路11の動作によって開始した火花放電中に、第1回路11による通電方向とは逆の方向に1次コイル2に通電することで、2次電流を第1回路11の動作で開始したのと同一方向に維持して点火プラグ5にエネルギーを投入し続け、火花放電を継続させる。
以下の説明では、第2回路12の動作により主点火に継続する火花放電を継続火花放電と呼ぶことがある。
【0032】
また、投入ドライバ15は、ECU14から2次電流の指令値を示す信号である電流指令信号IGaが与えられ、電流指令信号IGaに基づき2次電流を制御する。
ここで、2次コイル3の一端は上述したように点火プラグ5の中心電極8に接続し、2次コイル3の他端は、2次コイル3に発生する電圧である2次電圧、および、2次電流を検出して制御部13にフィードバックするF/B回路32に接続している。なお、2次コイル3の他端は、2次電流の方向を一方向に限定するダイオード34を介してF/B回路32に接続している。また、F/B回路32には、2次電流を検出するためのシャント抵抗33が接続している。
【0033】
そして、投入ドライバ15は、フィードバックされた2次電流の検出値と、電流指令信号IGaに基づき把握される2次電流の指令値とに基づき、第2スイッチ24のオンオフを制御する。すなわち、投入ドライバ15は、例えば、2次電流の検出値に対する上限下限の閾値を指令値に基づき設定し、検出値と上限、下限の閾値との比較結果に応じて制御信号の出力を開始したり、停止したりする。より具体的には、投入ドライバ15は、2次電流の検出値が上限よりも大きくなったら制御信号の出力を停止し、2次電流の検出値が下限よりも小さくなったら制御信号の出力を開始する。
【0034】
なお、第1、第2回路11、12、F/B回路32および投入ドライバ15は、点火回路ユニット36として1つのケース内に収容配置され、点火プラグ5、点火コイル4および点火回路ユニット36は、気筒7の数と同数設けられて気筒7毎に設置される(
図2参照。)。
【0035】
次に、
図4を参照して点火装置1の正常時の動作を説明する。
なお、
図4において、「IGt」は点火信号IGtの入力状態をハイ/ローで表すものであり、「IGw」は放電継続信号IGwの入力状態をハイ/ローで表すものである。また、「I1」、「V1」はそれぞれ1次電流(1次コイル2に流れる電流値)、1次電圧(1次コイル2に印加される電圧値)を表し、「I2」、「V2」はそれぞれ2次電流(2次コイル3に流れる電流値)、2次電圧(2次コイル3に印加される電圧値)を表す。さらに、「Vdc」はコンデンサ26に蓄えられるエネルギーを電圧値で表すものである。
【0036】
点火信号IGtがローからハイへ切り替わると(時間t01参照。)、点火信号IGtがハイの期間において、第1スイッチ22がオン状態を維持してプラスの1次電流が流れ、1次コイル2にエネルギーが蓄えられる。また、昇圧スイッチ28がオンオフを繰り返し、昇圧されたエネルギーがコンデンサ26に蓄えられる。
【0037】
やがて、点火信号IGtがハイからローへ切り替わると(時間t02参照。)、第1スイッチ22がオフされ、1次コイル2の通電が遮断される。これにより、電磁誘導によって2次コイル3に高電圧が発生し、点火プラグ5において主点火が発生する。
点火プラグ5において主点火が発生した後、2次電流は略三角波形状で減衰する(I2の点線を参照。)。そして、2次電流が下限の閾値に到達する前に、放電継続信号IGwがローからハイへ切り替わる(時間t03参照。)。
【0038】
放電継続信号IGwがローからハイへ切り替わると、第2スイッチ24がオンオフ制御されて、コンデンサ26に蓄えられていたエネルギーが、1次コイル2のマイナス側に順次投入され、1次電流は、1次コイル2からバッテリ21のプラス電極に向かって流れる。より具体的には、第2スイッチ24がオンされる毎に1次コイル2からバッテリ21のプラス電極に向かう1次電流が追加され、1次電流がマイナス側に増加していく(時間t03〜t04参照。)。
【0039】
そして、1次電流が追加される毎に、主点火による2次電流と同方向の2次電流が2次コイル3に順次追加され、2次電流は上限下限の間に維持される。
以上により、第2スイッチ24をオンオフ制御することで、2次電流が火花放電を維持可能な程度に継続して流れる。その結果、放電継続信号IGwのオン状態が続くと、継続火花放電が点火プラグ5において維持される。
【0040】
なお、ECU14は、1燃焼サイクルあたりの第2回路12によるエネルギーの投入量Eの目標値E*および2次電流I2の指令値を記憶している。そして、ECU14は、投入量Eの目標値E*と2次電流I2の指令値とに基づき、第2回路12によるエネルギーの投入期間τを設定し、投入期間τとして定められた期間において放電継続信号IGwの出力を維持する。
【0041】
〔実施例の特徴〕
次に、実施例の特徴的な構成について説明する。
まず、制御部13としてのECU14は、放電継続信号IGwの出力が続く期間において、点火プラグ5の電極間における放電経路38の長さ(以下、経路長Lと呼ぶ。)を推定し、さらに、時間変化率ΔL/Δtを算出する。また、ECU14は、経路長Lに対する閾値(以下、第1の閾値ε1と呼ぶ。)、時間変化率ΔL/Δtに対する閾値(以下、第2の閾値ε2と呼ぶ。)を有する。そして、ECU14は、第2回路12に対する制御モードに関し、次の通常モードと特異モードとを有する。
【0042】
ここで、通常モードとは、経路長Lの推定値が第1の閾値ε1よりも大きく、かつ、時間変化率ΔL/Δtの算出値が第2の閾値ε2よりも大きいときに適用するモードである。また、特異モードとは、経路長Lの推定値が第1の閾値ε1よりも小さいとき、または、時間変化率ΔL/Δtの算出値が第2の閾値ε2よりも小さいときに適用するモードである。そして、経路長Lの推定値が第1の閾値ε1よりも小さいとき、または、時間変化率ΔL/Δtの算出値が第2の閾値ε2よりも小さいときに、目標値E*を増量する。
【0043】
つまり、ECU14は、第2回路12によりエネルギーを投入している間、経路長Lおよび時間変化率ΔL/Δtを閾値判定に基づいて監視する。そして、ECU14は、経路長Lおよび時間変化率ΔL/Δtの少なくとも一方が小さくなり過ぎたときに(
図3(b)、
図6(a)参照。)、着火が遅れるものとみなし、着火の遅れを抑制するため特異モードを採用し、目標値E*を増やす。
なお、特異モードを採用するか否かの判定、つまり、着火遅れの可能性が高いか否かの判定は、第2回路によるエネルギーの投入が開始してから、所定の時間が経過してから行われる。
【0044】
また、目標値E*の増量幅ΔE1に関しては、種々の態様を考えることができ、増量幅ΔE1を一定値にしてもよく、増量幅ΔE1を可変にしてもよい。増量幅ΔE1を可変にする場合、例えば、経路長Lに対する閾値判定により特異モードが適用されたときには、経路長Lの推定値が小さいほど増量幅ΔE1を大きくしたり、時間変化率ΔL/Δtに対する閾値判定により特異モードが適用されたときには、時間変化率ΔL/Δtの推定値が小さいほど増量幅ΔE1を大きくしたりしてもよい。
【0045】
また、経路長Lの推定は、例えば、放電経路38の抵抗値、内燃機関6の気筒7内の流速である筒内流速v、内燃機関6の気筒7内の圧力である筒内圧力P、および、空燃比AFRに基づいて行われる。より具体的には、ECU14は、2次電圧および2次電流の検出値に基づき、放電経路38の抵抗値を算出し、予め実験等により作成した抵抗値と経路長Lとの相関(
図5参照。)を用いて経路長Lを推定する。さらに、ECU14は、経路長Lの推定値を筒内流速v、筒内圧力Pおよび空燃比AFRを用いて補正し、補正後の数値を経路長Lの推定値とする。
【0046】
このとき、筒内流速vの数値には、例えば、回転数センサ17から得られる回転数の検出値に基づき推定された数値が用いられ、筒内圧力Pの数値には、例えば、吸気圧センサ18から得られる吸気圧の検出値に基づき推定された数値が用いられる。また、空燃比AFRの数値には空燃比センサ19の検出値が用いられる。さらに、筒内流速v、筒内圧力Pおよび空燃比AFRによる経路長Lの補正には、予め実験等により作成したマップデータが用いられる。
【0047】
また、ECU14は、特異モードの選択後、放電経路38の短絡(
図3(c)、
図6(b)、(c)参照。)を監視する。つまり、ECU14は、特異モードの選択後、短絡が発生したか否かの判定を行う(短絡の判定方法は後述する。)。そして、ECU14は、短絡が発生したと判定した場合、目標値E*を更に増やす。
【0048】
また、目標値E*の更なる増量幅に関しては、種々の態様を考えることができ、更なる増量幅を一定値にしてもよく、更なる増量幅を可変にしてもよい。更なる増量幅を可変にする場合、例えば、短絡発生に伴う経路長Lの変動幅が大きいほど(
図6(b)参照。)、また、短絡発生に伴う時間変化率ΔL/Δtの変動幅が大きいほど、更なる増量幅を大きくする。具体的には、短絡発生前後での経路長Lの差分または比が大きいほど、更なる増量幅を大きくする。また、短絡発生前後での時間変化率ΔL/Δtの差分または比が大きいほど、更なる増量幅を大きくする。
【0049】
なお、以下の説明では、更なる増量幅の内、短絡発生に伴う経路長Lの変動幅により算出される部分を増量幅ΔE2と呼び、短絡発生に伴う時間変化率ΔL/Δtの変動幅により算出される部分を増量幅ΔE3と呼ぶ。
【0050】
さらに、ECU14は、短絡が発生したと判定した後、一旦、第2回路12によるエネルギー投入を停止して、再度、第1回路11により火花放電を再開するか否かの判定を行う。つまり、短絡発生後、経路長Lが伸びずに短いまま停滞したり(
図6(c)参照。)、沿面放電が発生したりすると(
図3(d)参照。)、着火が大幅に遅れることから、一旦、第2回路12によるエネルギー投入を停止して、再度、第1回路11により火花放電を再開する方が好ましい。そこで、ECU14は、再放電が必要か否かを判定するため、次のような判定基準を有する。
【0051】
すなわち、ECU14は、最初の短絡時期に対する閾値(以下、第3の閾値ε3と呼ぶ。)、最初の短絡後の時間変化率ΔL/Δtに対する閾値(以下、第4の閾値ε4と呼ぶ。)、および、最初の短絡時期から次の短絡時期までのインターバルに対する閾値(以下、第5の閾値ε5と呼ぶ。)を有する。そして、ECU14は、最初の短絡時期が第3の閾値ε3よりも早く、かつ、最初の短絡後の時間変化率ΔL/Δtが第4の閾値ε4よりも小さく、かつ、インターバルが第5の閾値ε5よりも長くなったときに、再放電が必要と判定し、第2回路12によるエネルギーの投入を停止し、第1回路11を動作させて主点火を発生させ、火花放電を再開する。
【0052】
なお、短絡の判定は、2次電圧および2次電流の検出値を用いて行われる。
すなわち、ECU14は、2次電圧の検出値に対する閾値(以下、第6の閾値ε6と呼ぶ。)、2次電流の検出値に対する閾値(以下、第7の閾値ε7と呼ぶ。)、および、2次電圧の時間変化率ΔV2/Δtに対する閾値(以下、第8の閾値ε8と呼ぶ。)を有する。そして、ECU14は、特異モード移行後、2次電圧の検出値が第6の閾値ε6以下であり、2次電流の検出値が第7の閾値ε7以下であり、かつ、2次電圧の時間変化率ΔV2/Δtが第8の閾値ε8以上となる時を短絡時期として推定する。
【0053】
そして、ECU14は、特異モード移行後に短絡が発生しない場合、初期の目標値E*に増量幅ΔE1を加算して新たな目標値E*とし、新たな目標値E*に基づき第2回路12の動作を制御する。また、ECU14は、特異モード移行後に短絡が発生した場合、初期の目標値E*に増量幅ΔE1、ΔE2、ΔE3を加算して新たな目標値E*とし、新たな目標値E*に基づき第2回路12の動作を制御する。
【0054】
このとき、ECU14は、最終的に求めた目標値E*に基づき、エネルギーの投入期間τを延長したり、2次電流I2の指令値を大きくしたりすることで、エネルギーの投入量Eを実質的に増量する。
また、ECU14は、2次電圧の検出値のフィードバックを受けていることから、2次電圧に関して指令値を設定し、増量後の目標値E*に基づき2次電圧V2の指令値を大きくすることで、投入量Eを実質的に増量してもよい。
【0055】
なお、増量前の初期の目標値E*には、ECU14に記憶された初期値E0が用いられ、通常モードが選択された場合、目標値E*を増量することなく、初期値E0を目標値E*として使用し続ける。また、特異モードが選択されて放電が終了した場合、初期値E0を増量後のE*(つまり、E0+ΔE1、または、E0+ΔE1+ΔE2+ΔE3)で更新してもよい。さらに、初期値E0を更新するときには、更新後の初期値E0で、数サイクル、点火を実行してトルク変動を測定し、トルク変動の大きさに応じて、初期値E0を再度更新してもよい。例えば、トルク変動が、所定の数値よりも小さいときには、初期値E0を低めに修正し、所定の数値よりも大きいときには、初期値E0を高めに修正してもよい。
【0056】
〔実施例の制御方法〕
以下、ECU14による第1、第2回路11、12に対する制御を、
図7に示すフローチャートを用いて説明する。
まず、ステップS1で、火花放電を開始する。すなわち、点火信号IGtの出力開始および出力停止によって、第1回路11により火花放電を開始させて主点火を発生させる。引き続き、放電継続信号IGwの出力を開始し、第2回路12によるエネルギーの投入を開始して火花放電を継続させる。そして、放電継続信号IGwの出力開始と同時に、経路長Lおよび時間変化率ΔL/Δtの監視を開始する。
【0057】
次に、ステップS2で、着火遅れの可能性が大きいか否かの判定を行う。この判定は、
放電継続信号IGwの出力開始後、所定の時間が経過した後に開始され、経路長Lの推定値が第1の閾値ε1よりも小さいこと、または、時間変化率ΔL/Δtの算出値が第2の閾値ε2よりも小さいこと、のいずれか一方が成立したときに着火遅れの可能性が大きいと判定し、両方とも成立しないときに着火遅れの可能性が小さいと判定する。
【0058】
そして、着火遅れの可能性が大きいと判定した場合(YES)、ステップS3に進み、第2回路12に対する制御モードとして特異モードを選択する。また、着火遅れの可能性が小さいと判定した場合(NO)、ステップS4に進み、通常モードを選択する。なお、ステップS4に進んで通常モードを選択した場合、ステップS5に進み、投入期間τが経過するまで(NO)、第2回路12によるエネルギーの投入を続けて継続火花放電を維持する。
【0059】
次に、ステップS3に進んで特異モードを選択した場合、ステップS6に進み、増量幅ΔE1を算出して目標値E*に加算する。増量幅ΔE1の算出方法は、上述したとおりである。そして、ステップS7に進み、新たな目標値E*に基づき投入期間τを再計算し、再計算により求めた投入期間τを用いて第2回路12によるエネルギーの投入を続ける。
【0060】
その後、特異モードではステップS8に進み、火花放電に短絡が発生したか否かを判定する。火花放電に短絡が発生したか否かの判定方法は、上述したとおりである。そして、短絡が発生していないと判定した場合(NO)、ステップS9に進み、投入期間τが経過するまで(NO)、短絡が発生したか否かのステップS8の判定を続ける。
【0061】
また、短絡が発生したと判定した場合、ステップS10に進み、増量幅ΔE2、ΔE3を算出して目標値E*に加算する。増量幅ΔE2、ΔE3の算出方法は、上述したとおりである。そして、ステップS11に進み、新たな目標値E*に基づき投入期間τを再計算し、再計算により求めた投入期間τを用いて第2回路12によるエネルギーの投入を続ける。
【0062】
その後、特異モードではステップS12に進み、火花放電に、再度、短絡が発生したか否かを判定する。そして、再度の短絡が発生していないと判定した場合(NO)、ステップS13に進み、投入期間τが経過するまで(NO)、再度の短絡が発生したか否かの判定(つまり、ステップS12の判定)を続ける。
【0063】
また、再度の短絡が発生したと判定した場合、ステップS14に進み、再放電が必要か否かを判定する。再放電が必要か否かの判定方法は、上述したとおりである。そして、再放電が必要ではないと判定した場合(NO)、ステップS15に進み、投入期間τが経過するまで(NO)、再放電が必要か否かのステップS14の判定を続ける。
【0064】
また、再放電が必要であると判定した場合、ステップS16に進み、第2回路12によるエネルギーの投入を停止して火花放電を一旦停止し、ステップS1に戻り、火花放電を再開する。
ステップS5、S9、S13、S15で投入期間τが経過したと判定した場合(YES)、ステップS17に進み、第2回路12によるエネルギーの投入を停止して火花放電を終了する。さらに、ステップS18に進み、初期値E0を増量後のE*(つまり、E0+ΔE1、または、E0+ΔE1+ΔE2+ΔE3)で更新する。
【0065】
〔実施例の効果〕
実施例の点火装置1によれば、ECU14は、第2回路12によりエネルギーを投入している間、経路長Lおよび時間変化率ΔL/Δtを閾値判定に基づいて監視する。そして、ECU14は、経路長Lおよび時間変化率ΔL/Δtの少なくとも一方が小さくなり過ぎたときに、着火が遅れるものとみなし、着火の遅れを抑制するため特異モードを採用し、目標値E*を増やす。
【0066】
本実施例では、着火バラツキに関し、特に、経路長Lが短いことで着火が遅れることに着目する。すなわち、着火は、気筒7内の気流により火花放電が伸ばされて経路長Lが長くなることで可能になるため、経路長Lの伸びが小さい場合、着火が遅れてしまう可能性がある。
【0067】
そこで、本実施例では、経路長Lおよび時間変化率ΔL/Δtを閾値判定に基づいて監視し、経路長Lおよび時間変化率ΔL/Δtの少なくとも一方が小さくなり過ぎたときに、特異モードを選択して第2回路12によるエネルギーの投入量Eを増やす。
これにより、経路長Lの伸びが小さいことに起因する着火の遅れを抑制することができる。このため、第2回路12を設けて火花放電を継続させる点火装置1において、エネルギーの投入量Eを一律に増やすことなく、着火バラツキを低減することができる。
【0068】
また、特異モードでは、短絡発生に伴う時間変化率ΔL/Δtの変動幅が大きいほど、第2回路12によるエネルギーの投入量Eを増やす。
これにより、着火バラツキの低減に必要な投入量Eの増量幅を適正に調整することができる。つまり、短絡発生前後での時間変化率ΔL/Δtの差分または比が小さいほど、着火の遅れを解消するのに必要な投入量Eが小さくなる(
図8(a)参照。)。ここで、
図8(a)に示したヒストグラムは、着火の遅れを解消するのに必要な投入量Eを示すものであり、(着火の遅れ/投入量E)が所定の閾値よりも小さくなるときの数値で示されている。
【0069】
このため、短絡発生に伴う時間変化率ΔL/Δtの変動幅が大きいほど、投入量Eを増やすようにすることで、着火バラツキの低減に必要な投入量Eの増量幅を適正に調整して、エネルギーの過剰な投入を抑制することができる。例えば、短絡発生時の時間変化率ΔL/Δtの差分が最大のときに合わせて投入量Eを一律に設定した場合(
図8(a)の横直線X1参照。)に比べ、短絡発生時の時間変化率ΔL/Δtの変動幅に応じて投入量Eを調節することで、横直線X1とヒストグラムとで挟まれた範囲αに相当するエネルギーを過剰分として低減することができる。
【0070】
また、特異モードでは、短絡が発生したと判定した後、再度の短絡が発生した場合に、第2回路12による継続火花放電の維持を停止し、再度、第1回路11による主点火の発生を行うか否か、つまり、再放電が必要か否かの判定を行う。
これにより、経路長Lが伸びずに短いまま停滞したり、沿面放電が発生したりして着火が大幅に遅れる可能性が高いときに、再放電を行えるようにしておくことで、着火が大幅に遅れる事態を回避することができる。
【0071】
また、特異モードでは、短絡発生に伴う経路長Lの変動幅が大きいほど、第2回路12によるエネルギーの投入量Eを増やす。
これにより、着火バラツキの低減に必要な投入量Eの増量幅を適正に調整することができる。つまり、短絡発生前後での経路長Lの差分または比が小さいほど、着火の遅れを解消するのに必要な投入量Eが小さくなる(
図8(b)参照。)。ここで、
図8(b)に示したヒストグラムは、着火の遅れを解消するのに必要な投入量Eを示すものであり、(着火の遅れ/投入量E)が所定の閾値よりも小さくなるときの数値で示されている。
【0072】
このため、短絡発生に伴う経路長Lの変動幅が大きいほど、投入量Eを増やすようにすることで、着火バラツキの低減に必要な投入量Eの増量幅を適正に調整して、エネルギーの過剰な投入を抑制することができる。例えば、短絡発生時の経路長Lの差分が最大のときに合わせて投入量Eを一律に設定した場合(
図8(b)の横直線X2参照。)に比べ、短絡発生時の時間変化率ΔL/Δtの変動幅に応じて投入量Eを調節することで、横直線X2とヒストグラムとで挟まれた範囲に相当するエネルギーを過剰分として低減することができる。
【0073】
なお、
図9は、第1、第2回路11、12を備える点火装置に関し、エネルギーの投入量Eを一律にしたもの(図中、従来装置として指し示す。)と、本実施例を適用したもの(図中、点火装置1として指し示す。)との比較により、投入量Eを低減できることを示している。これによれば、着火遅れが同じ数値であれば、点火装置1の方が、従来装置よりも投入量Eが小さくなっている。また、投入量Eが同じ数値であれば、点火装置1の方が、従来装置よりも着火遅れが小さくなっている。
【0074】
〔変形例〕
点火装置1の態様は、実施例に限定されず種々の変形例を考えることができる。
例えば、実施例の点火装置1によれば、経路長Lおよび時間変化率ΔL/Δtの両方の閾値判定に基づき、特異モードまたは通常モードの選択判定が行われていたが、経路長Lおよび時間変化率ΔL/Δtの内の片方の閾値判定のみで、特異モードまたは通常モードの選択判定を行ってもよい。
【0075】
また、実施例の点火装置1によれば、経路長Lの推定は、放電経路38の抵抗値、筒内流速v、筒内圧力P、および、空燃比AFRに基づいて行われていたが、このような態様に限定されない。
すなわち、2次電圧や放電経路38の抵抗値のような電気的な物理量を検出したり推定したりする部分を第1検出部、筒内流速v、筒内圧力Pおよび空燃比AFRのような吸入空気や混合気の物理量を検出したり推定したりする部分を第2検出部とすると、第1検出部が検出または推定する物理量の少なくとも1つと、第2検出部が検出または推定する物理量の少なくとも1つとにより、経路長Lを推定するようにしてもよい。
【0076】
また、実施例の点火装置1によれば、筒内流速vは回転数センサ17の検出値に基づき推定され、筒内圧力Pは吸気圧センサ18の検出値に基づき推定されていたが、ECU14に信号を出力するセンサとして、気筒7内に吸入される吸入空気の流量を検出する流量センサ、および、吸入空気の温度を検出する吸気温センサを設け、これらセンサから得られるパラメータの検出値に基づき、筒内流速vや筒内圧力Pを推定してもよい。
【0077】
また、実施例の点火装置1によれば、エネルギーの投入期間τを延長することで、エネルギーの投入量Eを増加させていたが、2次電流の指令値や2次電圧の指令値を増加することで投入量Eを増加させてもよい。
【0078】
また、実施例では、ガソリン用の内燃機関6に点火装置1を用いる例を示したが、エタノール燃料や混合燃料を用いる内燃機関6に点火装置1を適用してもよく、粗悪燃料が用いられる可能性のある内燃機関6に点火装置1を適用してもよい。
【0079】
また、実施例では、希薄燃焼が可能な内燃機関6に点火装置1を用いる例を示したが、希薄燃焼とは異なる燃焼状態であっても継続火花放電によって着火性の向上を図ることができるため、希薄燃焼が可能な内燃機関6への適用に限定するものではなく、点火装置1を、希薄燃焼を行わない内燃機関6に用いてもよい。
【0080】
また、実施例では、気筒7内に直接燃料を噴射する直噴式の内燃機関6に点火装置1を用いる例を示したが、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射式の内燃機関6に用いてもよい。
さらに、実施例では、混合気の旋回流を気筒7内にて積極的に生じさせる内燃機関6に点火装置1を用いる例を開示したが、旋回流を気筒7内に積極的に生じさせる機構がない内燃機関6に用いてもよい。