特許第6490008号(P6490008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リンデ アクチエンゲゼルシャフトの特許一覧

特許6490008熱を用いた水蒸気分解によってオレフィン含有生成物を製造する方法
<>
  • 特許6490008-熱を用いた水蒸気分解によってオレフィン含有生成物を製造する方法 図000002
  • 特許6490008-熱を用いた水蒸気分解によってオレフィン含有生成物を製造する方法 図000003
  • 特許6490008-熱を用いた水蒸気分解によってオレフィン含有生成物を製造する方法 図000004
  • 特許6490008-熱を用いた水蒸気分解によってオレフィン含有生成物を製造する方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6490008
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】熱を用いた水蒸気分解によってオレフィン含有生成物を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 55/04 20060101AFI20190318BHJP
   C10G 69/06 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   C10G55/04
   C10G69/06
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-541036(P2015-541036)
(86)(22)【出願日】2013年11月7日
(65)【公表番号】特表2016-501278(P2016-501278A)
(43)【公表日】2016年1月18日
(86)【国際出願番号】EP2013003358
(87)【国際公開番号】WO2014072058
(87)【国際公開日】20140515
【審査請求日】2016年10月14日
(31)【優先権主張番号】12007602.1
(32)【優先日】2012年11月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】391009659
【氏名又は名称】リンデ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Linde Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100165940
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 令子
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】グンター シュミット
(72)【発明者】
【氏名】ボリス バノフスキー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファニー ヴァルター
【審査官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0042269(US,A1)
【文献】 特表2015−524451(JP,A)
【文献】 特表2015−528820(JP,A)
【文献】 特表2015−524505(JP,A)
【文献】 特表2015−524506(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0090018(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの第1の分解炉(2)における、炭化水素から成る第1の炉供給物の熱を用いた水蒸気分解と、少なくとも1つの第2の分解炉(1)における、炭化水素から成る第2の炉供給物の熱を用いた水蒸気分解と、によるエチレンプラントを用いたオレフィン系生成物の製造方法であって、
前記少なくとも1つの第1の分解炉(2)において前記第1の炉供給物を少なくとも部分的に第1の生成物流(F)に変換し、前記少なくとも1つの第2の分解炉(1)において前記第2の炉供給物を少なくとも部分的に第2の生成物流(F’)に変換し、
蒸溜塔として形成された分離ユニットによって、前記第1の生成物流(F)から第1の熱分解油(P)を分離し、当該第1の熱分解油(P)を少なくとも部分的に化学的に精製し、また、前記第2の生成物流(F’)から第2の熱分解油(P)を分離する方法において、
前記第1の熱分解油(P)を前記化学的な精製の下流で、少なくとも部分的に、炉供給物(P’)として前記少なくとも1つの第1の分解炉(2)に戻し、
前記第2の熱分解油(P)を、前記エチレンプラントから排出し、
前記第1の生成物流(F)と前記第2の生成物流(F’)とを、前記第1の熱分解油(P)および前記第2の熱分解油(P)の分離の下流で1つの共通の生成物流に統合し、少なくとも1つのオレフィン系生成物(K、L)が得られるように一緒に処理し、
前記少なくとも1つの第1の分解炉(2)と前記少なくとも1つの第2の分解炉(1)とを異なる分解条件で動かし、
前記少なくとも1つの第1の分解炉(2)に供給される前記第1の炉供給物は、主に炭化水素を有している重質の新供給物(A)を含んでおり、当該炭化水素の沸点は180℃を超えている、および/または、前記第1の炉供給物が供給され、当該第1の炉供給物が少なくとも部分的に変換される前記第1の分解炉の分解条件は、0.7〜1.6kg/kgのプロピレン対エチレン比が得られる分解条件である、
ことを特徴とする、オレフィン系生成物の製造方法。
【請求項2】
前記第2の熱分解油(P)を化学的に精製しない、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
炉供給物(P’)として前記少なくとも1つの第1の分解炉(2)内に戻されない、前記第1の熱分解油(P)の部分を、前記化学的な精製の下流で、少なくとも部分的に炉供給物(P’)として前記少なくとも1つの第2の分解炉(1)に戻す、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
灯油、ディーゼル油、常圧軽油および/または減圧軽油である、原油精製時に生じる、炭化水素から成る混合物を重質の新供給物(A)として使用する、
請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記化学的な精製(7)によって、前記第1の熱分解油(P)の炭化水素の少なくとも一部の水素対炭素比を高め、
下流で、事前に水素対炭素比が高められた、前記第1の熱分解油の部分(P’)を少なくとも部分的に炉供給物として戻す、
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
水素対炭素比を高めるために、水素化方法、水素化精製法、水素化分解法および/または芳香族化合物水素化法、および/または、水素を添加しない別の方法、コーカー法、残留物流動接触分解法および/または芳香族化合物飽和法を使用する、
請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記第1の熱分解油(P)の化学的な精製を精製工場において行う、
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの第1の分解炉(2)の出口での第1の生成物流(F)において0.7kg/kg〜1.6kg/kg、または、0.8〜1.5kg/kgのプロピレン対エチレン比に相当する分解条件で、前記少なくとも1つの第1の分解炉(2)を動かす、
請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記第1の生成物流(F)は、前記少なくとも1つの第1の分解炉(2)からの出口で、680℃〜820℃の温度を有している、
請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記エチレンプラントは2つの蒸溜塔(41、42)を有しており、当該蒸溜塔(41、42)は、前記第1の生成物流(F)から前記第1の熱分解油(P)を分離させ、前記第2の生成物流(F’)から前記第2の熱分解油(P)を分離させるように構成されている、
請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの第2の分解炉(1)の出口での第2の生成物流(F’)において0.3kg/kg〜1.6kg/kg、または、0.35〜1.5kg/kgのプロピレン対エチレン比に相当する分解条件で、前記第2の分解炉(1)を動かす、
請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記第1の生成物流(F)と前記第2の生成物流(F’)とを、前記第1の熱分解油(P)および前記第2の熱分解油(P)の分離の下流で1つの共通の生成物流に統合し、少なくとも1つのオレフィン系生成物(K、L)が得られるように一緒に処理する工程にて、前記第1および第2の生成物流(F、F’)から、ほぼブタジエンを含有しない、4つの炭素原子を有する炭化水素留分(C)と、ほぼ芳香族化合物を有しない熱分解ガソリン留分(D)と、を得て、前記第2の分解炉(1)に供給物として戻す、
請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの第1の分解炉において炭化水素から成る第1の炉供給物を熱を用いて水蒸気分解することによって、および、少なくとも1つの第2の分解炉において炭化水素から成る第2の炉供給物を熱を用いて水蒸気分解することによって、オレフィン系生成物を製造するための方法に関する。ここでこの第1の炉供給物は少なくとも1つの第1の分解炉において少なくとも部分的に第1の生成物流に変換され、第2の炉供給物は少なくとも1つの第2の分解炉において少なくとも部分的に第2の生成物流に変換される。さらに、第1の生成物流から第1の熱分解油が分離され、第2の生成物流から第2の熱分解油が分離され、第1の熱分解油は少なくとも部分的に化学的に精製される。
【0002】
従来技術
熱を用いた水蒸気分解(スチームクラッキング、英語ではSteam Cracking)は、石油化学の、長年にわたって培われてきた方法である。従来の目標化合物はここではエチレン(エテン)であり、これは、多くの化成にとって重要な基礎化合物である。熱を用いた水蒸気分解のための近年の方法および装置では、ますます多く、ゆるやかな分解条件が使用されようになってきた(以降を参照)。なぜならこのような場合には、殊にいわゆる高価値生成物、例えばプロピレンおよびブタジエンがより良好な歩留まりで得られるからである。これは以下で説明する。しかしこれと同時に、ゆるやかな分解条件では、使用される炉供給物の変換も低減する。従って、炉供給物の中に含まれる化合物は比較的多い量で生成物流に移行し、高価値生成物を薄めてしまう。これは殊に、以降で説明される熱分解油にも関する。
【0003】
熱を用いた水蒸気分解によって、エタン、プロパンまたはブタンのようなガスおよび相応するガス混合物も、液状の炭化水素も、天然ガス凝縮物等の炭化水素混合物も、または原油処理物から成る留分、例えばナフサも変換可能である。
【0004】
熱を用いた水蒸気分解時に使用される装置の詳細および反応条件および反応の経過並びに、精油技術の詳細に関しては、以降の参考書内の相応する記事を参照されたい。参考書は例えばZimmermann,HおよびWalzl,R著「Ethylene (Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry,第6版 Weinheim, Wiley-VCH,2005)」およびIrion,W.W.およびNeuwirth,O.S著「Oil Refining(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry,第6版 Weinheim, Wiley-VCH,2005)」である。オレフィン系生成物を製造するための方法は例えば、US3714282AおよびUS6743961B1にも開示されている。
【0005】
熱を用いた水蒸気分解に対しては、1つまたは複数の分解炉を有するプラントが使用される。これらの分解炉は、相応する急冷ユニットと、後置接続されている、得られた生成物流を精製するための装置とともに、より大きいプラント内に組み込まれる。これは全体で、水蒸気分解器、オレフィンプラント、エチレンプラント等とも称される。分解炉の詳細は以降で説明する。
【0006】
本願では、用語「炉供給物」または「供給物」によって、分解炉内に液体または気体で供給される炭化水素含有流が表される。この炉供給物は、通常、このプラントに供給され、新供給物と称される炭化水素混合物(例えばナフサ)と、多くの場合には、プラントから戻された複数の他の炭化水素含有流とから成る。このような戻された流れは、リサイクル流と称される。炉供給物は、分解炉において少なくとも部分的に変換される。分解炉からの出口で直に、少なくとも部分的に変換された形態でそこに存在する炉供給物が、分解生成物流、生成物流または分解ガスと称される。
【0007】
熱を用いて水蒸気分解するプラントでは、通常、上述したリサイクル流は、分解炉に戻される。炉供給物は、分解炉において、通常は部分的にしか変換されない。これは、分解炉内の全ての化合物が反応するのではないということも、炉供給物内の化合物が完全に反応しないということ、または、副反応が生じ、所望の最終生成物が得られないことも意味する。分解生成物は場合によっては、精製後に別個にされ、所望の最終生成物として排出される、または、リサイクル流として使用される。すなわち炉に再び供給される。
【0008】
熱を用いた水蒸気分解での重要な特性量はいわゆる分解率(英語でCracking Severity)である。これは分解条件を表している。この分解条件は、殊に、分解炉内の炭化水素および使用されている水蒸気の温度および滞留時間並びに分圧によって影響される。炉供給物の組成および使用される分解炉の構造様式も、分解条件に影響を与える。これらのファクターの相互作用が原因で、分解条件は通常、重量ベース(kg/kg)で、分解ガスないしは生成物流におけるプロピレン(プロペン)とエチレンの比(P/E比)またはメタンとプロピレンとの比(M/P比)を介して表される。プロピレンとエチレンとの比が小さくなるほど、または、メタンとプロピレンとの比が大きくなるほど、より厳しい分解条件が存在する。また、値が高い場合には、ゆるやかな分解条件が存在する。上述の比は直接的に温度に依存するが、実際の温度とは異なり、分解炉の出口内で、または分解炉の出口で格段に正確に測定がされ、例えば、調整量として相応する調整方法において使用可能である。
【0009】
熱を用いた水蒸気分解では、炉供給物および分解条件に応じて、従来の目標化合物であるエチレンの他に、時おり、大量に多数の副産物が生じる。これらは同様に、相応に分けられ、得られる。これは、殊に低アルケン、例えばプロピレン、ブテンおよびジエン、殊にブタジエンであり、並びに、芳香族化合物、例えばベンゾール、トルオールおよびキシロールである。これらは比較的高い経済的価値を有している。従って、その生成物は、いわゆる高価値生成物(英語でHigh Value Products)として所望される。
【0010】
しかし所望の生成物の他に不所望の生成物も発生する。これは例えばメタン、熱分解ガソリン、熱分解油である。熱分解ガソリンは高価値生成物を含んでおり、プラント内で精製され、供給物として再び戻され得る。これに対して熱分解油は、従来では、プラント境界でのみ排出可能であり、ほぼ、加熱手段としてしか使用されないので、低い価値しか有していない。
【0011】
有効利用のために、熱分解油等の個々の留分も精製して戻すことが可能な水蒸気分解のための方法および装置は、殊にDE10054787A1、DE10040208A1、DE3504941A1、WO2006/063201A1、US3839484AおよびUS2009/272671A1から公知である。
DE3504941A1号は、炭化水素供給物の分解方法を開示している。ここでは、生成物としてオレフィン系の流れと熱分解油とが得られる。熱分解油は、熱分解油重質留分と熱分解油軽質留分とに分解される。
US2007/0090018A1号は、水素化方法と水蒸気分解方法との統合を開示している。原油を含んでいる供給物またはその残留分には水素化精製法が施され、スチームクラッキング装置に供給され、これによってオレフィン生成物が得られる。
【0012】
しかし依然として、熱を用いた水蒸気分解のための相応する方法を改善する必要がある。殊にここでは、高価値生成物の割合も高められるべきである。
【0013】
発明の開示
本発明は、これを背景にして、少なくとも1つの第1の分解炉において炭化水素から成る第1の炉供給物を熱を用いて水蒸気分解することによって、および、少なくとも1つの第2の分解炉において炭化水素から成る第2の炉供給物を熱を用いて水蒸気分解することによってオレフィン系生成物を製造するための方法を提案する。ここでこの第1の炉供給物は少なくとも1つの第1の分解炉において少なくとも部分的に第1の生成物流に変換され、第2の炉供給物は少なくとも1つの第2の分解炉において少なくとも部分的に第2の生成物流に変換される。ここで、第1の生成物流から第1の熱分解油が分離され、第2の生成物流から第2の熱分解油が分離され、第1の熱分解油は少なくとも部分的に化学的に精製される。さらに、第1および第2の生成物流から、少なくとも1つのオレフィン系生成物が得られる。
【0014】
本発明の方法は、請求項1の特徴を含んでいる。有利な構成はそれぞれ、従属請求項および後続の明細書に記載されている。
【0015】
本発明では、この方法は殊に以下のような特徴を有している。すなわち、第1の熱分解油が少なくとも部分的に化学的に精製され、その後に少なくとも部分的に少なくとも1つの第1の分解炉内で熱を用いて水蒸気分解され、この少なくとも1つの第1の分解炉に、すなわちリサイクル流として、および、炉供給物の少なくとも一部として供給される、という特徴を有している。さらに、第1の生成物流および第2の生成物流を、第1の熱分解油と第2の熱分解油とを別個にした後に、共通の精製物流れとして統合し、少なくとも1つのオレフィン系精製物を得るために、一緒にさらなる処理を施す。
【0016】
さらに本発明では、少なくとも1つの第1の分解炉が、少なくとも1つの第2の分解炉とは異なった、殊にゆるやかな分解条件で動かされる。特に有利には、以降で説明するように、少なくとも1つの第1の分解炉は、ゆるやかな分解条件で動作され、少なくとも1つの第2の分解炉は通常の分解条件で動かされる。用語「ゆるやかな」および「通常」の分解条件は、当業者には良く使われており、以降で詳細に定義する。
【0017】
発明の利点
すなわち本発明では、少なくとも1つの第1の分解炉の下流で第1の生成物流から分離された第1の熱分解油の少なくとも一部が少なくとも部分的に化学的に精製され、化学的な精製の下流でこの化学的に精製された部分が少なくとも部分的に少なくとも1つの第1の分解炉に戻される。この少なくとも1つの第1の分解炉では、この化学的に精製された部分が、熱を用いた水蒸気分解によって少なくとも部分的に変換される。
【0018】
上述のように、少なくとも1つの第1の分解炉は、本発明では、少なくとも1つの第2の分解炉とは異なった、殊によりもゆるやかな分解条件で動かされる。従って相応する方法によって、相応する方法において供給される炭化水素および炭化水素混合物の極めて柔軟な処理が可能になる。これは詳細には、相応する新供給物でも、相応するリサイクル流、殊に熱分解油でもある。殊に、本発明では、周期的なプロセスが確立可能である。これは少なくとも1つの第1の分解炉を含める。
【0019】
以降でもさらに詳細に説明されるように、この少なくとも1つの第1の分解炉は、ここで、ゆるやかな分解条件で動かされる。これによって、相応する水蒸気分解によって所望の高価値生成物が形成されるようになる。少なくとも1つの第1の分解炉の分解ガス流から得られ、主要成分において、この少なくとも1つの第1の分解炉において変換されない化合物を含んでいる第1の熱分解油を化学的に精製し、少なくとも一部を新たに、少なくとも1つの第1の分解炉に供給することができる。このようにして本発明の方法によって、既に、ゆるやかな分解条件下で生成された、相応に精製された第1の熱分解油に、ゆるやかな分解条件を施すことが可能になる。従って、上述した高価値生成物がさらに形成される。これは例えば、少なくとも1つの第1の分解炉の先行する経過において変換されなかった化合物または化学的な精製方法によって得られた化合物から形成される。すなわち第1の熱分解油を必ずしも、通常の、すなわち厳しい分解条件に晒す必要はない。このよういな厳しい分解条件では、上述した高価値生成物は場合によってはもはや形成されない、または少量で形成される。それにもかかわらず、第1の熱分解油の一部を、通常の、すなわち厳しい分解条件で動かされる少なくとも1つの第2の分解炉に、例えば、容量の理由で供給することもできる。
【0020】
高価値生成物は、少なくとも1つの第1の分解炉および少なくとも1つの第2の分解炉の第1の生成物流と第2の生成物流とから分離され、相応するプラントから外に出される。本発明では少なくとも2つの、異なって動かされる分解炉が存在する(少なくとも1つの第1の分解炉と少なくとも1つの第2の分解炉の形で存在する)ので、さらに、次のことも可能である。すなわち、第1および第2の生成物流内に含まれる成分を、必要に応じて任意の割合で、ゆるやかなまたは厳しい分解条件で分解することも可能である。
【0021】
例えば有利には、4の炭素数を有する炭化水素(しかし例えばブタジエンはない)、または、5以上の炭素数を有する炭化水素(例えば熱分解ガソリンを含む)に、上述した、精製された第1の熱分解油よりも厳しい分解条件を課すことが有利である。なぜなら例えば、相応する化合物がゆるやかな分解条件で場合によって十分に変換されないからである。これとは逆に、この厳しい分解条件で得られた第2の熱分解油は、恐らく、第1の熱分解油と同じ方法における、ゆるやかな分解条件での化学的な精製および分解に適していない。なぜならこの場合には、ここで得られた化合物は、事前に行われた厳しい(通常の)分解が原因で、もはや、所望の高価値生成物に変換されないからである。
【0022】
少なくとも1つの第1の分解炉には、必要に応じて、少なくとも1つの第2の分解炉とは異なる新供給物も供給される。従って、種々の新供給物に対して、各分解性および所望の生成物に関して最適な分解条件を使用することができる。
【0023】
従って、全体的に、本発明の方法では、各炭化水素留分および場合によっては、各新供給物に対しても、相応する分解率を伴う、より適した分解炉が選択される。従って、相応する方法が全体で、使用される炭化水素および所望の生成物に関して最適化される。本発明の方法が確立されているプラントを、必要に応じて、変化する市場状況等に合わせることもできる。
【0024】
水蒸気分解方法は、商業的な尺度において、ほぼ管型反応器においてのみ実行される。ここでは、個々の反応管(らせん状コイル管、いわゆるコイルの形態)または相応する反応管群を異なる分解条件で動かすことも可能である。同じ分解条件または比較可能な分解条件で動かされる反応管または反応管群、場合によっては、統一した分解条件で動かされる管型反応器も全体的に、以降でそれぞれ分解炉と称される。すなわち分解炉は、ここで使用されている言語慣用において、水蒸気分解に使用される1つの構造ユニットである。これは、炉供給物を同じまたは比較可能な分解条件にさらす。水蒸気分解用のプラントは、1つまたは複数のこのような分解炉を有し得る。
【0025】
用語「水蒸気分解用のプラント」、「水蒸気分解プラント」、「エチレンプラント」および/または「オレフィンプラント」は、ここで同義語として使用される。相応のプラントは、ここで使用されている言語慣用に従って、1つまたは複数の分解炉と、含有されている分解ガスないしは生成物流を分けるように構成された「分離プラント」とを含んでいる。これら分解炉は、同じまたは異なる分解条件で動かされ、同じまたは異なる炉供給物が入れられ得る。分離プラントは典型的に多数の蒸溜塔を含んでおり、含有されている炭化水素の沸点に基づいて分解ガスを複数の留分に分解させるように構成されている。分離プラントは、殊に、第1の熱分解油と第2の熱分解油とを分けるように、および、第1の生成物流と第2の生成物流をさらに精製するように構成されている。以降でもさらに説明されるように、第1の生成物流および第2の生成物流の精製および第1の熱分解油および第2の熱分解油の獲得は相互に別個に行われる。
【0026】
本発明では、上述した分解炉のうちの少なくとも2つ(少なくとも1つの第1の分解炉と第2の分解炉)が使用され、これらの他にさらなる分解炉を設ける必要はない。しかし、さらなる分解炉を設けることもできる。場合によって存在するさらなる分解炉は、同じまたは異なる分解条件で動作可能である。区別を可能にするために、ここでは、少なくとも1つの第1の分解炉から出たものを第1の生成物流と呼び、この第1の生成物流から分離されたものを第1の熱分解油と呼ぶ。相応に、少なくとも1つの第2の分解炉から出たものを第2の生成物流と呼び、この第2の生成物流から分離されたものを第2の熱分解油と呼ぶ。ここでも、さらなる生成物流および熱分解油は不必要であるが、場合によっては生成可能である。本発明では、第1の熱分解油と称される熱分解油が化学的に精製され、その後に少なくとも部分的に、少なくとも1つの第1の分解炉において熱を用いた水蒸気分解が施される。
【0027】
第1の生成物流と第2の生成物流は、少なくとも1つの第1の分解炉と少なくとも1つの第2の分解炉の下流で別個に案内され、第1の生成物流および第2の生成物流に対する第1の熱分解油の獲得と第2の熱分解油の獲得も別個に行われる。
【0028】
殊に、重質の新供給物の熱分解時にゆるやかな分解条件を使用する場合には、大量の不所望な熱分解油が生じる。これは、ゆるやかな分解条件での重質の供給物の比較的僅かな変換を結果として有する。他の供給物の熱分解油の性質および分解条件は当業者には公知である。重質の新供給物のゆるやかな分解時の熱分解油は、極めて多くの、変換されない炭化水素化合物を含む。さらにこれは、熱を用いた水蒸気分解の反応において形成される化合物を含む。通常、これらは、低い水素対炭素比を有するナフテンおよび芳香族の炭化水素化合物である。これらの化合物は、新たな水蒸気分解用の供給物としては適していない。従って、熱分解油は、直接的にリサイクル可能でない。生成される熱分解油の割合が比較的高いので、これによって、ゆるやかな分解条件下で重質の新供給物を分解する際に、この方法の経済性は、冒頭で説明した高価値生成物の方向における選択性を高める場合にも悪化してしまう。
【0029】
一方では、高価値生成物の強力な形成を導くのでゆるやかな分解条件は望まれているが、他方ではこれは、基礎化合物の低い変換および相応に変換可能でない化合物の形成の増大、という欠点を有する。
【0030】
本発明では殊に、重質の新供給物をゆるやかな分解条件で分解する際に生じる熱分解油が、通常使用されている(軽質の)新供給物を通常またはゆるやかな分解条件で分解する際に得られる、または、重質の新供給物を通常の分解条件で分解する際に得られる熱分解油とは異なる性質を有していることが認識された。従って重質の新供給物のゆるやかな分解条件下での分解時に生じ、その性質を上で説明した熱分解油を、特に有利には、化学的な精製の後に、少なくとも部分的に炉供給物として戻すことができる。本発明では、少なくとも1つの第1の分解炉内へ戻すことが行われる。この第1の分解炉の、有利にはゆるやかな分解条件は、変換に特に適している。上述したように、新たなゆるやかな分解時に、さらなる高価値生成物が得られる。このような高価値生成物は、この次に行われるより厳しい分解の際には、場合によっては、相応する規模で獲得できないだろう。
【0031】
本発明の方法によって、ゆるやかな分解条件下で重質の新供給物の分解時に生じる大量の熱分解油をどのように扱うのかが示される。従って本発明によって、ゆるやかな分解条件で重質の新供給物を有する分解炉を経済的に動かすことを可能にする方法が提案される。
【0032】
本発明の利点を、ゆるやかな分解条件下での重質の新供給物の熱を用いた水蒸気分解を参考にして説明したが、これらの利点は、多少なりとも、通常の新供給物および/または通常の分解条件が使用される場合に得られる。しかしここではこの熱分解油は場合によっては、上述した特別な特性を有しておらず、これは、ゆるやかな分解条件下で重質の新供給物の分解時に生じる熱分解油と比べて、変換されない化合物、および、化学的な精製、場合によってはこれに続くゆるやかな分解に適している他の化合物をより少なく含み得る。この場合に発生する熱分解油の量も、ゆるやかな分解条件下での重質の新供給物の分解時の量よりも少ない可能性がある。熱分解油の性質の異なる程度と、熱分解油の異なる量の程度は、新供給物の正確な組成と使用される分解条件とに依存する。
【0033】
上述したように、第1の熱分解油は、化学的な精製の下流で、本発明に従って、少なくとも部分的に炉供給物として少なくとも1つの第1の分解炉内に戻される。すなわち、戻された、化学的に精製された第1の熱分解油の熱を用いた水蒸気分解が、少なくとも部分的に、第1の生成物流が生じ、ここからそれが分離された同じ分解炉内で行われる。化学的な精製の後に可能なリサイクルによって、殊にゆるやかな分解条件のもとで、熱分解油をほぼ完全に変換し、大部分を高価値生成物に変換することができる。少なくとも1つの第1の分解炉と、少なくとも1つの第2の分解炉とに戻すことも可能である。これは、次のようなことばでの表現によってカバーされる。すなわち、第1の熱分解油が精製の下流で「少なくとも部分的に」、炉供給物として少なくとも1つの第1の分解炉内に戻されるということばでの表現によってカバーされる。
【0034】
本発明では、第1の分解炉内に重質の新供給物が供給される。この新供給物は主に、炭化水素を有している。この炭化水素の沸点は180℃を越えている。殊にこの沸点は、180℃と600℃との間にある。新供給物が主に、180℃を越える沸点を有する炭化水素を有している場合、これは重質の新供給物である。この全体領域内で、異なる沸騰領域を有する炭化水素含有物も使用可能である。これは例えば、180〜360℃、または、240から360℃、ないしは180〜240℃の沸騰領域または360℃を越える沸騰領域を有している。
【0035】
新供給物としては殊に、原油精製時に生じる、炭化水素からの混合物が使用される。すなわち特に、中間蒸溜物の形態の、いわゆる重質のまたは高沸点の炭化水素混合物が適している。これは例えば、灯油またはディーゼル油、常圧軽油、減圧軽油および/またはここから導出された、原油精製からの混合物である。水素化ステップを施した原油留分も適している。これは例えば、水素化分解残留物、水素化された減圧軽油、または、水素化分解からの、変換されなかった油である。しかし、任意の他の炭化水素混合物も使用可能である。これは、比較可能な特性を有しており、例えばビオゲンまたは合成炭化水素混合物である。
【0036】
中間蒸溜物は、いわゆる、軽質のガスオイルおよび重質のガスオイルである。これは、軽質の暖房油およびディーゼル油並びに重質の暖房油を製造する基礎材料として使用可能である。含有される化合物は、180〜360℃の沸点を有している。有利にはこれは主に、熱を用いた水蒸気分解によって変換された飽和化合物である。360℃を上回る沸点を有する炭化水素留分は、通常、常圧蒸溜によって得られない。なぜなら、この温度では、分解が始まらないからである。これは、常圧残留物と称され、真空蒸溜によってさらに精製可能である。本発明は、それぞれ、直接的に既知の蒸溜分離方法によって得られる留分および相応する残留物の使用を含むが、例えば水素化方法によって導出された留分の使用も含む。
【0037】
重質の炭化水素混合物の例は、殊に、灯油、ディーゼル油、軽質のガスオイル、重質のガスオイルおよび減圧軽油(例えば常圧軽油AGOないしは減圧軽油VGO)並びに、相応する、上述した水素化方法によって処理される混合物および/または水素化ユニットからの残留物である(水素化精製器とも称され、例えば、水素化精製された減圧軽油HVGO、水素化分解器残留物HCRないしは非変換油UCOである)。
【0038】
有利には、第1の熱分解油の炭化水素の化学的な精製によって、水素対炭素の比は炭化水素の少なくとも一部分において高くなる。下流で、事前に水素対炭素の比が高くされている第1の熱分解油の部分が少なくとも部分的に、炉供給物として戻される。すなわち化学的な精製の有利な目的は、第1の熱分解油または第1の熱分解油の少なくとも一部において、水素対炭素の比を、より高い値へとシフトさせることである。化学的な精製の後に、化学的な精製の前よりも、高い水素対炭素比を有している第1の熱分解油部分は、リサイクル流として、少なくとも1つの第1の分解炉に供給される。この第1の分解炉は、殊に、ゆるやかな分解に適している。
【0039】
水素対炭素の比のこのような上昇は、第1の熱分解油を形成する炭化水素内の水素数を上昇させることによって、または、炭素数を低減させることによって可能である。水素数の増大は水素化方法において行われ、炭素数の低減は、留分を生成し、分離する方法によって行われる。ここでこの留分は、炭素と炭化水素とを含んでいる。ここでこの炭化水素は、水素に比べて極めて多くの炭素(すなわち、低い水素対炭素比)を有している。炭素数を低減させる例は、コーカー法である。これら2つの方法を組み合わせることもできる。分離および精製のための具体的な方法は当業者には既知であり、通常は、精製工場で使用される。
【0040】
本発明の特に有利な構成では、化学的な精製方法として、水素化方法が使用される。水素化方法の実施後、第1の熱分解油留分内に含まれており、かつ相応に水素化された、少なくとも幾つかの化合物が、殊にゆるやかな分解条件での熱を用いた水蒸気分解に適する。水素化方法は、水素が添加される方法である。水素対炭素の比をより高い値にシフトさせることは、水素と炭化水素との反応によって行われる。通常は、触媒が存在する。付加的に、第1の熱分解油ないしは既に少なくとも部分的に精製された第1の熱分解油における水素対炭素の比が改善される。これは、不利な水素対炭素比を有する留分が分離されることによって行われる。水素化方法には、例えば水素化精製法、芳香族化合物水素化法、および、水素化分解法も属する。これらの水素化方法は、精製工場およびオレフィンプラントから公知である。
【0041】
択一的または付加的に、水素を添加しない方法も可能である。このような方法では、水素対炭素の比は、投入されている炭化水素内で(すなわちここでは、第1の熱分解油内または第1の熱分解油の一部内で)シフトされる。ここでは、より低いおよびより高い水素対炭素比を有する炭化水素流が生じる。このような方法は、精製工場技術から良く知られている。高い水素対炭素比を有する炭化水素の分離後、これは、少なくとも1つの第1の分解炉に戻される。殊にこのためにはコーカー法、残留物流動接触分解法、および/または、芳香族化合物飽和法が使用される。これらの方法は、精製工場技術の分野から公知であり、そこで通常に行われている。
【0042】
第1の熱分解油の化学的な精製が精製工場内で行われる場合に、特別な利点が得られる。すなわち有利には、エチレンプラントが、精製工場の相応する処理ユニットに結合される。このような結合によって、特に経済的な合成作用が生じる。なぜなら、相応するプラントの統合度が高まり、生成物がそれぞれ相互に投入混合物として、相応するプラント内で使用可能になるからである。処理ユニットを共同使用することによって、投資コストも通常の範囲にとどまる。しかし化学的な生成を行う必要なユニットが、精製工場の必須のユニットでなくてもよい。このユニットはエチレンプラント内にも存在可能であり、そこで動かされる。
【0043】
熱分解油として、ひいては上述した第1および第2の熱分解油として、通常は、エチレンプラント内で、炭化水素混合物が分離される。これは主に、200℃を上回る沸点を有する化合物を有している。
【0044】
冒頭で説明した高価値生成物およびプロピレンの方向での選択性は、メタン形成が同時に低減されることで、顕著に高くなる。これは熱を用いた水蒸気分解が、ゆるやかな分解条件下で実行される場合である。ゆるやかな分解条件は、分解炉出口で、0.7kg/kgを上回るプロピレン対エチレンの比が得られる場合に存在する。
【0045】
本発明では、第1の炉供給物が供給され、かつ、第1の炉供給物が少なくとも部分的に変換される、少なくとも1つの第1の分解炉内では、次のような分解条件が占有している。すなわち、0.7〜1.6kg/kg、有利には0.8〜1.4kg/kg、特に有利には0.85〜1.2kg/kgのプロピレン対エチレン比が得られるような分解条件が占有している。このような分解条件は、本願では、ゆるやかな分解条件と称される。ゆるやかな分解条件は例えば0.7〜0.8kg/kg、0.8〜0.9kg/kg、0.9〜1.0kg/kg、1.0〜1.1kg/kg、1.1〜1.2kg/kg、1.2〜1.3kg/kgまたは1.3〜1.4kg/kgのプロピレン対エチレン比でも存在する。この場合には、本発明の上述した利点は特に有利である。分解条件は殊に、炭化水素および水蒸気の温度および滞留時間並びに分圧によって影響される。供給物として使用される炭化水素混合物の組成も、使用される分解炉の構造様式も分解条件に影響を与える。これらのファクターの相互作用によって、分解条件は、通常、供給物が液状の場合には、分解ガスないしは生成物流内のプロピレン対エチレンの比を介して設定される。
【0046】
分解炉とは、上述したように、本発明では、分解ユニットのことである。ここでは、分解条件が設定されている。全体炉において、2つ以上の分解炉への細分化が存在することが可能である。これはしばしば、炉のセルと称される。1つの全体炉に属する複数の炉セルは通常、相互に依存しない放射領域と、共通の対流領と、共通の煙排出部とを有している。この場合には、各炉セルを、固有の分解条件で動かすことができる。従って各炉セルは1つの分解ユニットであり、それゆえここでは分解炉と称される。全体炉は、この場合には複数の分解ユニットを有する、または換言すれば、これは複数の分解炉を有する。炉セルが1つだけ存在する場合には、これは、分解ユニット、ひいては分解炉である。複数の分解炉を幾つかのグループにまとめることができる。これらのグループには例えば、同じ供給物が供給される。1つの炉グループ内の複数の分解炉の分解条件は、通常、同じにまたは類似に設定される。
【0047】
冒頭で説明したように、一連の種々の影響ファクターから、熱を用いた水蒸気分解時のプロピレン対エチレン比が生じる。ここでは、分解炉出口温度、すなわち、使用されているリアクターコイルを離れる際の温度(英語ではCoil Outlet Temperature)が、重要な役割を果たす。分解炉出口温度は、上述したゆるやかな分解条件での炉供給物の少なくとも部分的な変換の場合には、有利には680〜820℃の間、有利には700〜800℃の間、さらに有利には710〜780℃の間、特に有利には720〜760℃の間である。
【0048】
少なくとも1つの第1の分解炉では、さらに、比較的低い水蒸気希釈が使用される。これは必要な希釈蒸気量を低減し、エネルギーを節約する。しかし低い水蒸気希釈は、必ずしも必要ではない。従って、本発明の本質的な利点が示される。有利にはここで、炉供給物において、1kgの炭化水素あたり0.15〜0.8kgの水蒸気が使用される。
【0049】
本発明では、1つのプラント内で、複数の分解炉(または炉セル)が異なって動かされるので、次のことに留意されるべきである。すなわち、ゆるやかな条件下での熱を用いた水蒸気分解時および/または重質の新供給物の熱を用いた水蒸気分解時に得られる分解ガス(すなわち第1の分解流)が、殊に、生成物流からの第1の熱分解油の分離が行われた、自身の精製ユニット内に案内されるということである。例えば通常の分解条件下での熱を用いた水蒸気分解時、および/または、通常の新供給物の(例えばナフサの)熱を用いた水蒸気分解時に得られる分解ガス(例えば、1つまたは複数の第2の分解炉からの第2の生成物流)も同様に、自身の(第2の)精製ユニットに導かれる。この精製ユニットでは殊に第2の生成物流から第2の熱分解油が分離される。その性質が異なっている、この第1および第2の熱分解油は、このようにして、別個に取り扱われる。これは有利である。なぜなら、重質の新供給物の分解および/またはゆるやかな分解条件下での分解に戻される第1の熱分解油のみが化学的な精製およびその後の、殊に、ゆるやかな分解に供給されることが推奨されるからである。第2の熱分解油に対して、これは、場合によっては不経済であり得る。下流では、各熱分解油から取り除かれた第1および第2の生成物流が、一緒にされ、共通の精製ユニットにおいてさらに処理される。
【0050】
すなわち、合成プラントにおいて、例えば第1の分解炉がゆるやかな分解条件下で重質の新供給物で動かされ、第2の分解炉が通常の(またはゆるやかな)分解条件で新供給物であるナフサで(または他の新供給物、または、例えば、重質の新供給物で)動かされる場合には、これによって、本発明の利点は特に特徴的になり、異なって動かされる分解炉の第1および第2の生成物流は、第1および第2の熱分解油の分離後にはじめて一緒にされる。従って、このようなエチレンプラント内では、2つの油柱(1つの第1の油柱と1つの第2の油柱)が有利であり、経済的な稼働に合理的である。用語「油柱」は、ここでは分離ユニットのことである。ここでこの分離ユニットによって、生成物流の格段に遠い分化の上流で、これらの生成物流からそれぞれ熱分解油を分離することができる。従って生成物留分における元来の分化、例えば、エチレン等の獲得は、熱分解油の分離およびその後に残っている生成物流部分の統合化の後に行われる。油柱は、例えば、蒸溜塔として形成されており、熱分解油は、自身の高い沸点に基づいて、生成物流の他の成分から分離される。
【0051】
下流で、第1および第2の熱分解油の分離後に、上述のように、第1の生成物流と第2の生成物流とがまとめられる。従って、後続するプロセスは共通して行われ、後続のプラントユニットは一度だけ必要とされる。1つの第1の分解炉(または複数の第1の分解炉)から第1の生成物流からゆるやかな分解条件下で分離された第1の熱分解油はこの場合には、本発明では有利にはゆるやかな分解条件を有する1つの第1の分解炉(または複数の第1の分解炉)に戻される。例えば、第1の分解炉をゆるやかな分解条件で重質の新供給物で動かすことができ、第2の分解炉は通常の分解条件で、同様に、重質の新供給物で動かすことができる。1つの第1の分解炉(または複数の第1の分解炉)からの第1の生成物流からゆるやかな分解条件下で分離された第1の熱分解油はこの場合には、有利には、ゆるやかな分解条件を有する1つの第1の分解炉(または複数の第1の分解炉)に戻される。
【0052】
すなわち、有利には、異なる分解条件および/または異なる炉供給物での2つ以上の分解炉の動作時に、少なくとも2つの異なる熱分解油が得られる。熱分解油から取り除かれた生成物流は、その後に、有利には統合され、一緒にさらに処理される。従って、エチレンプラントは、有利には2つの油柱を有している。熱分解油の分離後に、複数の流れをまとめるのは有利である。なぜなら、下流で行われるこれらの精製ステップをまとめて行うことができ、これによって投資コストを通常の範囲に収めることができるからである。
【0053】
上述のように、熱を用いた水蒸気分解のための少なくとも1つの第2の分解炉で、第2の炉供給物が第2の生成物流に変換され、第2の生成物流から第2の熱分解油が分離される本発明の有利な構成では、これは化学的に精製されない。本発明のこの有利な構成では、この少なくとも1つの第2の分解炉内で分解条件が占める、または/および、この少なくとも1つの第2の分解炉内に第2の新供給物が供給される。これは、第2の生成物流から分離された第2の熱分解油が、化学的な精製後でもリサイクルに適していない、または、不完全にしか適していない性質である、という結果を有する。従って、この第2の熱分解油はエチレンプラントから排出される。
【0054】
本発明では、第1の熱分解油が少なくとも部分的に炉供給物として少なくとも1つの第1の分解炉に戻される、ということが、幾度となく述べられた。しかし、第1の熱分解油を部分的に(すなわち第1の分解炉に戻されない部分を)、第2の分解炉に戻すのも有利である。これに対する詳細およびこれに対する例は、テキストのさらに上方に記載されている。
【0055】
本発明の有利な構成では、少なくとも1つの第2の分解炉は、他の分解炉の出口での他の生成物流において、0.3kg/kg〜1.6kg/kg、有利には0.35〜1.5kg/kgのプロピレン対エチレン比を生じさせる分解条件で動かされる。殊に、第2の分解炉は、0.3kg/kg〜0.75kg/kg、有利には0.35〜0.6kg/kgのプロピレン対エチレン比を生じさせる分解条件で動かされる。これは普通、通常の分解条件と称される。エチレンプラント内に、通常の分解条件を有する少なくとも1つの分解炉が存在する場合、これには有利には、通常の分解条件により良好に適しているリサイクル流が供給される。
【0056】
本発明の特に有利な構成では、この少なくとも1つの第2の分解炉内に、ナフサおよび/または天然ガス凝縮物が新供給物として供給される。しかし、この第2の分解炉内に、基本的には、任意の新供給物を供給することが可能である。ナフサおよび天然ガス凝縮物の他に、既に上で詳しく述べたような、重質の新供給物、並びに、例えばLPGまたは他の新供給物が適している。第2の分解炉においてどのような新供給物がどのような分解条件で分解されるか、それとともに、生成物流が、第1および第2の熱分解油の分離の下流ではじめてまとめられるのが有利であることは既に上方で述べた。
【0057】
この他に、有利には、この第2の分解炉にリサイクル流が供給される。有利にはこのために、第1および第2の生成物流から統合された生成物流から、高価値生成物であるエチレンおよびプロピレンが得られ、4の炭素数を有する炭化水素を有する留分並びに熱分解ガソリンが分離される。ここから同様に高価値生成物(例えばブタジエンおよび芳香族化合物)が得られる。ここで残った留分は、リサイクル流として有利には、第2の分解炉に供給物として供給される。すなわち有利には、4つの炭素原子を有する炭化水素留分の精製からの残り、および、熱分解ガソリンの精製からの残りが、第2の分解炉内に供給物として供給される。
【0058】
本発明の他の有利な構成では、少なくとも1つの第2の分解炉の供給物は主にリサイクル流から生じる。すなわち有利には、少なくとも1つの第2の分解炉には供給物として、4つの炭素原子を有する炭化水素留分の精製からの残りと、熱分解ガソリンの精製からの残りとが供給される。ここでは、第2の分解炉に新供給物は供給されない
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】オレフィン系生成物を製造するための公知の方法の概略図
図2】他の方法の重要なステップの概略図
図3】本発明の特に有利な構成の重要なステップの概略図
図4】本発明の特に有利な構成の重要なステップの概略図
【実施例】
【0060】
本発明の方法の特に有利な構成を、本発明に従ったプロセスおよび本発明に従っていないプロセスの重要なプロセスステップを概略的に示すプロセス図を用いて詳細に説明する。
【0061】
図1はこのために、概略図で、オレフィン系生成物を製造するための公知の方法を示している。図2は、概略図で、他の方法の重要なステップを示している。図3および図4は、概略図で、本発明の特に有利な構成の重要なステップを示している。
【0062】
既知の方法に対する、図1の概略的なプロセス図100は、分解炉1を有している。ここには新供給物A’(例えばナフサまたは重質の新供給物)並びにリサイクル流CおよびDが、炉供給物として供給される。分解炉1内では、この炉供給物が対流領域および放射領域において加熱され、少なくとも部分的に変換される。分解炉1には水蒸気が添加される。
【0063】
分解炉1から、生成物流F’が出る。これは直接的に分解炉1からの出口で、分解ガス流とも称される。分解炉1からの出口で、この分解ガス流は、例えば、840〜900℃の間の温度を有する。プロピレン/エチレン比は通常の分解条件において、普通は0.35〜0.6kg/kgである。
【0064】
第1の急冷(図示されていない)の後、生成物流F’は精製ユニット(英語でProcessing Unit)4内で処理される。精製ユニット4から、実質的な生成物ないしは生成物留分G〜Oとして、以下の留分が得られる。すなわち、水素G、廃液H、メタンI、エチレンK、プロピレンL、炭素数4を有する炭化水素X、並びに、熱分解ガソリンYである。さらに、ここでは熱分解油Pも得られる。
【0065】
炭素数4を有する気体の炭化水素Xは、炭素数4を有する炭化水素の処理のために使用されるC4精製ユニット5において、さらに処理される。このようなC4精製ユニット5は炭素数4を有する留分を次のようにさらに処理する。すなわち、ブタジエンMが排出されるように処理する。炭素数4を有する残りの炭化水素はリサイクル流Cを形成する。これは分解炉1内に戻される。
【0066】
5以上の炭素数を有する炭化水素を含む熱分解ガソリンYは、熱分解ガソリン処理ユニット6内でさらに処理され、芳香族化合物Nと例えば9以上の炭素数を有する炭化水素Oが排出される。5以上の炭素数を有する残りの炭化水素は、リサイクル流Dとして分解炉1に戻される。
【0067】
精製ユニット4並びにC4精製ユニット5および熱分解ガソリン精製ユニット6は、生成物流F’ないしは生成物または生成物留分の更なる処理のための通常のユニットを含んでいる。これは、種々のプロセスステップを実行するために用いられる。これらのプロセスステップは例えば、圧縮、凝縮および冷却、乾燥、蒸溜および分化、抽出および水素化である。これらのステップはオレフィンプラントにおいて通常のものであり、当業者には公知である。
【0068】
図2の概略的なプロセス図10は他の方法およびその本質的なプロセスステップを示している。ここで、特に有利な構成で図3および4に示されている本発明の方法との相違を示すためにここでは、図2に示された方法において「第2の」新供給物、「第2の」分解炉、「第2の」生成物流および「第2の」熱分解油が用いられていなくても、用語「第1の」新供給物、「第1の」分解炉、「第1の」生成物流および「第1の」熱分解油が使用されている。
【0069】
ここでは第1の分解炉2に第1の新供給物Aが供給される。これは殊に、重質の炭化水素混合物である。第1の分解炉2から第1の生成物流が出る。ここでこれはFで表される。この第1の生成物流Fは、有利には、700〜800℃の温度を有する。プロピレン/エチレン比はここで有利には0.7〜1.5kg/kgの間である。すなわち第1の分解炉2内では、重質の新供給物がゆるやかな分解条件で分解される。第1の生成物流Fは、同様に、上述したように精製ユニット4内でさらに処理される。従って、精製ユニット4も、上述したように、生成物留分G〜Oも生じさせる。生成物留分XおよびYも、上述したように、特別な精製ユニット5および6においてさらに処理される。上述したように、ブタジエンMおよび芳香族化合物Nの他に、9以上の炭素数を有する炭化水素も得られ、排出される。また、炭素数4を有する残りの炭化水素はリサイクル流Cを形成し、5以上の炭素数を有する残りの炭化水素はリサイクル流Dを形成する。リサイクル流CおよびDは、分解炉2内に戻される。
【0070】
図1に示された方法とは異なり、ここでは、熱分解油P(ここでは、「第1の」熱分解油と称される)は、排出されない。第1の熱分解油Pは化学的に精製され、少なくとも部分的に第1の分解炉2内に戻される。このために、第1の熱分解油Pは、熱分解油精製ユニット7に供給され、精製された部分P’が第1の分解炉2内に戻される。また成分P”は廃棄される。上述したように、熱分解油精製ユニット7は例えば、図示されていない精製工場桜蘭との水素化ユニットであり得る。
【0071】
図3および図4の概略的なプロセス図20および21は、重要なプロセスステップを有する特に有利な構成で、本発明の方法を示している。これに加えて図3は、図2と同じおよび類似のプロセスステップを示している。補足および違いを以降で説明する。
【0072】
第1の分解炉2に加えて、第2の分解炉1が存在する。第2の分解炉1では、第2の新供給物A’の熱を用いた水蒸気分解が行われる。しかし生成物流FとF’は、第1の分解炉2および第2の分解炉1から出た後、別個に扱われ、それぞれ、部分精製ユニット42ないしは41に供給される。ここでは、第1の精製ステップが行われる。部分精製ユニット41では、第2の熱分解油Pが、第2の分解炉1から生じた第2の生成物流F’から、分離される。部分精製ユニット42では、第1の熱分解油Pが、第1の分解炉2から生じた第1の生成物流Fから分離される。部分精製ユニット41および42は有利には、油柱である。第1および第2の熱分解油PおよびPを分離した後、生成物流はまとめられ、精製ユニット43内でさらに処理される。このようにして上述した生成物が排出される。また、第2の熱分解油Pは排出され、第1の熱分解油Pは化学的に精製される。このために、第1の熱分解油Pは熱分解油精製ユニット7に供給され、化学的に精製された部分P’は、第2の熱分解炉1にも、第1の熱分解炉2にも戻される。また、化学的な精製時に生じた成分P”は廃棄され、排出される。すなわち本発明では、化学的に精製された部分P’が、少なくとも部分的に第1の分解炉2に戻される。他の部分(破線で示されている)が、第2の分解炉1に戻されてもよい。リサイクル流CおよびDは、これに対して、有利には、第2の分解炉1に戻される。
【0073】
付加的に、本発明の特に有利な構成では、さらなる分解炉(図示されていない)を、気体供給物のために設けることが可能である。ここには、炭素数2または3を有する飽和状態の気体炭化水素が供給可能である。これは、精製ユニット4ないしは43において得られる。ここで再度、このプロセス図で示された分解炉をエチレンプラントにおいて繰り返し設けてもよいことを強調しておく。
【0074】
図4は、本発明の他の、特に有利な構成を示している。図3で示された構成とは異なり、ここでは、第1の分解炉2にのみ新供給物Aが供給される。図示の例において、第2の分解炉1に新供給物は供給されない。それにもかかわらず、第2の分解炉1にも、相応する新供給物A’を、図3で示したように供給することが可能である。第2の分解炉1には、リサイクル流CおよびDが供給される。第1の熱分解油の化学的に精製された部分P’は、図3で既に説明したように、本発明に相応して、第1の分解炉2に、または、第2の分解炉1と第1の分解炉2に戻される。図4では、第1の分解炉2内への戻しのみが図示されている。従って本発明では、ここでも、少なくとも部分的に第1の分解炉2内への戻しが行われている。その他のプロセス構成は、図3のプロセス運用と一致する。
【符号の説明】
【0075】
1 第2の分解炉(有利には通常の分解条件)、 2 第1の分解炉(有利にはゆるやかな分解条件)、 4、43 精製ユニット、 41、42 部分精製ユニット(有利には油柱)、 5 C4精製ユニット、 6 熱分解ガソリン精製ユニット、 7 熱分解油精製ユニット、 100 既知の方法の概略的なプロセス図、 10 他の方法の概略的なプロセス図、 20、21 本発明による方法の特に有利な構成の概略的なプロセス図、 A、A’ 新供給物、 C、D リサイクル流、 F、F’ 分解ガス流、 G−O 生成物、 P、P 熱分解油、 P’、P” 化学的な精製後の熱分解留分、 X、Y 生成物留分
図1
図2
図3
図4