特許第6490101号(P6490101)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6490101チタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6490101
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】チタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20190318BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20190318BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20190318BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20190318BHJP
   H01G 11/32 20130101ALI20190318BHJP
   H01G 11/06 20130101ALN20190318BHJP
【FI】
   H01M4/485
   H01M4/36 A
   C01G23/00 B
   H01G11/46
   H01G11/32
   !H01G11/06
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-564784(P2016-564784)
(86)(22)【出願日】2015年12月3日
(86)【国際出願番号】JP2015084015
(87)【国際公開番号】WO2016098608
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2017年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2014-253676(P2014-253676)
(32)【優先日】2014年12月16日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206901
【氏名又は名称】大塚化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井内 裕敏
(72)【発明者】
【氏名】中川 泰治
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−121803(JP,A)
【文献】 特表2014−523468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 − 4/62
C01G 23/00
H01G 11/00 − 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体を製造する方法であって、
チタン化合物、リチウム化合物、並びにアルカリ可溶性樹脂のオリゴマー及び/又は原料モノマーを含む原料混合物を準備する工程と、
前記原料混合物を非酸化性雰囲気下で加熱処理して、前記複合体を製造する工程と
を備え
前記チタン化合物の平均一次粒子径が、1〜99nmであり、前記アルカリ可溶性樹脂のオリゴマー及び/又は原料モノマーに、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、サリチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、及びヘキサメチレンテトラミンから選ばれる少なくとも1種が含まれることを特徴とするチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ可溶性樹脂が、主鎖又は側鎖に水酸基、フェノール性水酸基及び/又はカルボキシル基を有していることを特徴とする請求項1に記載のチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体の製造方法。
【請求項3】
前記加熱処理の温度が、800〜1000℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載のチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体の製造方法及びチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大容量電池としてリチウムイオン電池が近年広く用いられている。しかし、リチウムイオン電池は負極に黒鉛等を用い、そこへのリチウムイオンの挿入、脱着によって動作させる機構のため、金属リチウムの析出が起こり、安全性に問題が残っていることが広く指摘されている。
【0003】
これを回避する方法として、負極材にLi1.33Ti1.66、LiTi等で表されるチタン酸リチウムを使用することが知られている。チタン酸リチウムはリチウム基準で1.5Vの電圧を有し、さらに充放電に伴う結晶構造の変化はほとんど見られないことから、安全性、寿命に優れた電極材料として着目されている。
【0004】
一方、電池特性、特に出力特性を向上させるために、チタン酸リチウムを微細化し、炭素に担持させた電極を用いる等の種々の開発が行われている。
【0005】
特許文献1では、チタン化合物とリチウム化合物の混合粉末を加熱処理することで得られたチタン酸リチウム微粒子を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−6816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の製造方法では、高温で長時間の加熱処理(焼成)を必要とするため、粒子同士の融着が起こり微粒子を得ることは難しい。
【0008】
本発明の目的は、電気的特性等に優れたチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体を製造することができる製造方法、及びチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体を製造することができる製造方法、並びにチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体及びそれらを用いた電気化学デバイス用電極及び電気化学デバイスを提供する。
【0010】
項1 チタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体を製造する方法であって、チタン化合物、リチウム化合物、並びにアルカリ可溶性樹脂のオリゴマー及び/又は原料モノマーを用いて原料混合物を準備する工程と、前記原料混合物を非酸化性雰囲気下で加熱処理して、前記複合体を製造する工程とを備えることを特徴とするチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体の製造方法。
【0011】
項2 前記アルカリ可溶性樹脂が、主鎖又は側鎖に水酸基、フェノール性水酸基及び/又はカルボキシル基を有していることを特徴とする項1に記載のチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体の製造方法。
【0012】
項3 前記加熱処理の温度が、800〜1000℃であることを特徴とする項1又は2に記載のチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体の製造方法。
【0013】
項4 項1〜3のいずれか一項に記載の方法で製造されたことを特徴とするチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体。
【0014】
項5 項4に記載の前記複合体を含有することを特徴とする電気化学デバイス用電極。
【0015】
項6 項5に記載の電気化学デバイス用電極を備えることを特徴とする電気化学デバイス。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、電気的特性等に優れたチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体を簡便に製造することができる。
【0017】
本発明のチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体は、電気的特性等に優れており、例えば、電気化学デバイス用電極等に用いて、優れた放電容量維持率を示す。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明に従う実施例1の複合体を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図2図2は、本発明に従う実施例1の複合体に含まれるチタン酸リチウム粒子を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図3図3は、本発明に従う実施例6の複合体を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図4図4は、比較例1のチタン酸リチウム粒子を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図5図5は、実施例1〜7の複合体、及び比較例1のチタン酸リチウム粒子のX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0020】
<チタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体>
本発明の好ましい実施形態におけるチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体は、チタン酸リチウム粒子の表面の一部又は全部が炭素質物質で被覆されていることを特徴とする。
【0021】
上記炭素質物質は、リチウム化合物、並びにアルカリ可溶性樹脂のオリゴマー及び/又は原料モノマーを用いて製造された得られた前駆体を炭化処理して得られる炭素質物質である。
【0022】
上記チタン酸リチウムは、例えば、一般式LiTiで表され、Li/Tiモル比は0.68〜0.82、xは1〜1.67、yは1.33〜2の範囲にある化合物である。具体的には、例えばLi1.33Ti1.66で表されるスピネル型の結晶構造を有するチタン酸リチウムを主成分とするものであることが好ましい。なお、上記チタン酸リチウムにおいては、本発明の効果を阻害しない範囲で、部分的にLiTiO、LiTiO及びTiOが混在していてもよい。
【0023】
本発明の複合体の製造方法は、チタン化合物、リチウム化合物、並びにアルカリ可溶性樹脂のオリゴマー及び/又は原料モノマーを用いて原料混合物を準備する工程と、上記原料混合物を非酸化性雰囲気下で加熱処理する工程とを備えている。本発明の複合体は、原料混合物を非酸化性雰囲気下で加熱処理して得られた粒子の塊状物に対して、常法により解砕、分級等を行うことで得ることができ、得られた塊状物をそのまま用いることもできる。
【0024】
(原料混合物)
本発明の原料混合物は、リチウム化合物、並びにアルカリ可溶性樹脂のオリゴマー及び/又は原料モノマーを用いて製造された炭素質物質の前駆体により、表面の一部又は全部が被覆されたチタン化合物である。本発明の原料混合物を準備する工程は、例えば、溶媒、チタン化合物、リチウム化合物及びアルカリ可溶性樹脂のオリゴマーを混合し、得られた混合物を乾燥することで得る方法;溶媒、チタン化合物、リチウム化合物及びアルカリ可溶性樹脂の原料モノマーを混合し、得られた混合物を乾燥する方法がある。これらの中でも、チタン化合物の分散性の観点から、溶媒、チタン化合物、リチウム化合物及びアルカリ可溶性樹脂の原料モノマーを混合し、得られた混合物を乾燥する方法が好ましい。
【0025】
混合手段は特に制限は無く、通常の単純な混合手段であっても、ボールミル、ビーズミル等を用いた混合であってもよい。
【0026】
溶媒としては、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール等のアルコール類;アセトン;これらの混合溶媒等を用いることができ、好ましくは汎用性の高さから水が好ましく用いられる。
【0027】
乾燥は、使用した溶媒を除去できる条件であればよく、加熱等により乾燥することができる。例えば非酸化性雰囲気下で加熱乾燥する場合は後述の加熱処理と同時に行うこともできる。また酸化性雰囲気下で加熱乾燥する場合は、例えば水を溶媒として用いる場合、60〜190℃で乾燥することが好ましい。
【0028】
チタン化合物としては、酸化チタン(IV)を含有するものや、加熱により酸化チタン(IV)を生じる化合物が好ましく用IVいられる。かかるチタン化合物としては、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型の酸化チタン(IV);ルチル鉱石;含水チタニア;水酸化チタンウェットケーキ;等が挙げられる。チタン化合物の平均一次粒子径は、目的とするチタン酸リチウム粒子の平均粒子径により適宜選択することができるが、通常1〜99nmであり、好ましくは5〜80nmである。平均一次粒子径を1〜99nmとすることで、電気的特性等に優れた微細なチタン酸リチウム粒子を得ることできる。チタン化合物の平均粒子径は、他の原料との混合時に分散し一次粒子間に空隙を生成することで、当該空隙に樹脂が浸みこむような凝集状態であれば特に限定はなく、必要に応じ予めチタン化合物と溶媒とを混合してスラリーにして十分に攪拌したものを用いてもよい。
【0029】
リチウム化合物としては、アルカリ触媒として作用し、加熱により酸化リチウムを生じる化合物が好ましく用いられる。かかるリチウム化合物としては、炭酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム等が挙げられる。これらの中で弱塩基性であり反応速度が緩やかで制御しやすく、水への溶解性の高い酢酸リチウムが好ましい。また、水への溶解性の低い炭酸リチウム及び水酸化リチウム等を用いる場合、酢酸、クエン酸等の酸を用いて予め弱酸水溶液で溶解して用いてもよい。
【0030】
アルカリ可溶性樹脂としては、主鎖又は側鎖に水酸基、フェノール性水酸基及び/又はカルボキシル基を有するものが好ましく、ノボラック樹脂、レゾール樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、メタクリル酸樹脂、メタクリル酸エステル樹脂等のアクリル系樹脂、フェノール性水酸基を有するアクリル酸誘導体の共重合体、環状オレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。これらの中でも主鎖又は側鎖にフェノール性水酸基を有するノボラック樹脂、レゾール樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、フェノール性水酸基を有するアクリル酸誘導体の共重合体が好ましく、特にアルカリ触媒下で重合されるレゾール樹脂が好ましい。
【0031】
レゾール樹脂は、アルカリ触媒下、フェノール類化合物とアルデヒド類化合物との反応で得られる反応物であり、レゾール樹脂の原料モノマーとしては、以下のフェノール類化合物とアルデヒド類化合物が挙げられる。
【0032】
フェノール類化合物としては、いずれの価数のものでも、特に制限なく使用することができる。かかるフェノール類化合物としては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、チモール、ナフトール等の一価のフェノール類化合物;レゾルシノール、カテコール、ヒドロキノン、ジヒドロキシナフタレン等の二価のフェノール類化合物;ピロガロール等の三価のフェノール類化合物等が挙げられる。これらの中でも一価のフェノール類化合物、二価のフェノール類化合物が好ましく、二価のフェノール類化合物が、アルデヒド類化合物との反応性を高め三次元架橋構造を形成する上でより好ましい。
【0033】
アルデヒド類化合物としては、フェノール類化合物と反応して3次元架橋構造を形成するものが好ましく用いられる。かかるアルデヒド類化合物としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、サリチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等と、分解によりアルデヒドを生成する化合物があげられる。かかるアルデヒドを生成する化合物としてパラホルムアルデヒド、トリオキサン、ヘキサメチレンテトラミン等が挙げられる。これらの中でも反応性の高さからホルムアルデヒド、分解によりホルムアルデヒドを生成する化合物を用いることが好ましく、初期放電容量及び放電容量維持率の点から、分解によりホルムアルデヒドを生成する化合物を用いることが特に好ましい。アルデヒド類化合物は、予め水溶媒等に溶解させたものを使用することもできる。分解によりホルムアルデヒドを生成する化合物を用いて製造した複合体の電気的特性が特に優れている理由は定かではないが、分解により徐々にホルムアルデヒドが生成することで、得られる複合体の比表面積及び炭素質物質の結晶性が低くなり、炭素質物質による電解液の分解を抑制しているためと考えられる。
【0034】
フェノール類化合物とアルデヒド類化合物との混合割合は特に限定されないが、フェノール類化合物(P)に対するアルデヒド類化合物(F)のモル比(F/P)は、通常0.1〜10.0であり、好ましくは0.3〜7.0であり、さらに好ましくは0.5〜4.0である。
【0035】
リチウム化合物の混合割合は特に限定されないが、フェノール類化合物(P)に対するリチウム化合物(C)のモル比(C/P)は、通常1.0〜9.0であり、好ましくは1.1〜6.0であり、さらに好ましくは1.2〜4.0である。リチウム化合物は、モル比(C/P)を1.0〜9.0にすることで、フェノール類化合物とアルデヒド類化合物の反応のアルカリ触媒として、さらにチタン酸リチウムの原料として好適に作用する。
【0036】
チタン化合物の混合割合は、上記リチウム化合物とチタン化合物とを、目的とするチタン酸リチウムにおけるLi/Ti比(モル比)にすることを基本とするが、±10%程度の範囲内であれば変化させても支障はない。
【0037】
溶媒の混合割合は特に制限されないが、通常、フェノール類化合物、アルデヒド類化合物、リチウム化合物及びチタン化合物の合計に対して30〜70質量%である。
【0038】
(加熱処理)
加熱処理の雰囲気としては非酸化性雰囲気下であれば特に制限はなく、好ましくは窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、又は不活性ガス中に微量の酸素が存在するような実質的に不活性な雰囲気下で行うことができる。
【0039】
加熱処理の温度は、800〜1000℃で行うことが好ましく、800〜900℃で行うことがより好ましい。加熱温度を800〜1000℃にすることで、チタン酸リチウムの生成と、炭素質物質の前駆体の炭化処理とを同時に行うことができる。
【0040】
加熱処理の時間は、チタン酸リチウムが生成し、炭素質物質の前駆体が炭化する時間であればよいが、0.5〜12時間であることが好ましく、1〜6時間であることがより好ましい。
【0041】
本発明の製造方法によれば、チタン化合物の一次粒子間の空隙に樹脂が浸み込むことで得られる前記前駆体で表面の一部又は全部が被覆されたチタン化合物を、非酸化性雰囲気下で加熱処理することで、チタン酸リチウムの生成と同時に、炭素質物質が生成するため、個々の粒子として識別できる最小単位のチタン酸リチウム粒子の粒子径が大きくなることを抑制することができる。
【0042】
本発明の複合体の平均粒子径は、好ましくは1〜500μmの範囲内であり、より好ましくは1〜200μmの範囲内であり、さらに好ましくは1〜100μmの範囲内である。前記複合体に含まれるチタン酸リチウム粒子の平均粒子径は、好ましくは10〜99nmの範囲内であり、より好ましくは20〜60nmの範囲内である。複合体の平均粒子径及び複合体に含まれるチタン酸リチウム粒子の平均粒子径を、これらの範囲内にすることにより、電気的特性等をより向上させることができる。電気化学デバイス用電極に用いる場合は、リチウムイオン電池等の電極作成時におけるハンドリングや電池特性の観点から、これらの範囲内であることが好ましい。
【0043】
本発明において、複合体に含まれるチタン酸リチウム粒子の平均粒子径は、複合体の炭素質物質を燃焼除去し得られたチタン酸リチウム粒子を、走査型電子顕微鏡を用いて、無作為に選んだ1000個の長径を測定し、その算術平均から求めることができる。
【0044】
本発明において、複合体の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%の粒子径を意味する。
【0045】
チタン酸リチウム粒子は、異方性を有しない形状であることが好ましい。ここで、異方性を有しない形状とは、一次元方向の異方性(繊維状等)や二次元方向の異方性(板状等)を有しない形状を意味する。したがって、本発明において、異方性を有しない形状とは、板状及び繊維状でない形状を意味する。
【0046】
チタン酸リチウム粒子における結晶子径は特に制限されないが、10〜60nmの範囲内であることが好ましい。この範囲内にすることにより、電気的特性等をより向上させることができる。なお、結晶子径は、X線回折ピークの半価幅にScherrerの式を適用することにより算出することができる。
【0047】
本発明の複合体における比表面積は特に制限されないが、1〜200m/gの範囲内であることが好ましく、10〜150m/gの範囲内であることがさらに好ましい。これらの範囲内にすることにより、電気的特性等をより向上させることができる。電気化学デバイス用電極に用いる場合は、リチウムイオン電池等の電極作成時におけるハンドリングや電池特性の観点から、これらの範囲内であることが好ましい。
【0048】
<電気化学デバイス>
本発明の複合体は、優れた電気的特性を有していることから、カーボンブラック等の導電剤、フッ素樹脂等のバインダー等とともに混練、成形することで、電気化学デバイスの電極として好適に使用することができる。前述の電極を用いることができる電気化学デバイスとしては、例えば電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、リチウムイオン電池等が挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0050】
X線回折は、リガク社製「UltimaIV」を用いて、X線管球:Cu、検出器:D/tex Ultra2、電圧:40kV、電流:40mA、サンプリング幅:0.02°で測定した。半価幅は、X線回折パターンを平滑化処理し、Sonneveld−Visser法でバックグランド除去後に、スピネル型チタン酸リチウムのメインピークである2θ:18°のピーク半価幅を算出した。結晶子径は、前述の半価幅から、Scherrer式を用いて求めた。
【0051】
複合体の形状は走査型電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテク社製、S−4800)により観察した。複合体の平均粒子径は島津製作所社製のレーザー回折式粒子径分布測定装置「SALD−2100」で測定した。なお、平均粒子径は、レーザー回折法によって求めた粒度分布における積算値50%の粒子径を意味する。
【0052】
複合体の比表面積はMicromeritics社製「TriStarII」にてBET法により測定した。
【0053】
(実施例1)
フェノール類化合物としてレゾルシノール(0.4mol)、アルデヒド類化合物として37質量%ホルムアルデヒド水溶液(0.7mol)及び溶媒として水(8.9mol)をビーカーに加え5分間混合した。
【0054】
得られた混合溶液にリチウム化合物として酢酸リチウム(1.5mol)を加え、リチウム化合物が完全に溶解するまで10分間混合することでゾルを得た。
【0055】
得られたゾル溶液にチタン化合物としてアナターゼ型酸化チタン(IV)粒子(1.8mol、平均一次粒子径10nm)を加え15分間混合し、大気雰囲気下にて120℃で4時間乾燥した。
【0056】
得られた乾燥物を窒素雰囲気下にて875℃で2時間加熱処理し、乳鉢で解砕することで、チタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体を得た。図1に得られた複合体のSEM写真を示す。写真の倍率は10万倍である。
【0057】
得られた複合体は、X線回折により結晶相がスピネル型のLi1.33Ti1.66であり、半価幅は0.45°、結晶子径は17nmであった。X線回折のチャートを図5に示した。また、比表面積は118m/g、平均粒子径は7μmであった。
【0058】
得られた複合体の炭素質物質を燃焼除去し、乳鉢で解砕することで、複合体に含まれるチタン酸リチウム粒子の性状を確認した。図2に得られたチタン酸リチウム粒子のSEM写真を示す。写真の倍率は10万倍である。
【0059】
チタン酸リチウム粒子の形状は走査型電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテク社製、S−4800)により観察した。観察された1000個分の一次粒子の長径を解析ソフト「WinROOF」(三谷商事社製)を用いて測定し、その算術平均を平均一次粒子径とした。なお、チタン酸リチウム粒子の平均一次粒子径の測定には、10万倍で観察したSEM写真を用いた。ここでいう一次粒子とは、二次粒子を構成し得る個々の粒子であって、個々の粒子として識別できる最小単位の粒子を意味する。
【0060】
チタン酸リチウム粒子の平均二次粒子径は、島津製作所社製のレーザー回折式粒子径分布測定装置「SALD−2100」で測定した。チタン酸リチウム粒子の比表面積はMicromeritics社製「TriStarII」にてBET法により測定した。なお、平均二次粒子径は、レーザー回折法によって求めた粒度分布における積算値50%の粒子径を意味する。
【0061】
チタン酸リチウム粒子の比表面積は65m/g、平均二次粒子径は5μm、平均一次粒子径は23nmであった。
【0062】
(実施例2)
フェノール類化合物をフェノール(0.4mol)、アルデヒド類化合物を37質量%ホルムアルデヒド水溶液(0.9mol)に変更した以外は実施例1と同様の方法でチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体を得た。
【0063】
得られた複合体は、X線回折により結晶相がスピネル型のLi1.33Ti1.66であり、半価幅は0.43°、結晶子径は19.6nmであった。X線回折のチャートを図5に示した。また、比表面積は43m/g、平均粒子径は38μmであった。
【0064】
(実施例3)
フェノール類化合物をm−クレゾール(0.4mol)に変更した以外は実施例1と同様の方法でチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体を得た。
【0065】
得られた複合体は、X線回折により結晶相がスピネル型のLi1.33Ti1.66であり、半価幅は0.38°、結晶子径は22nmであった。X線回折のチャートを図5に示した。また、比表面積は77m/g、平均粒子径は7μmであった。
【0066】
(実施例4)
アルデヒド類化合物をヘキサメチレンテトラミン(0.04mol)に変更した以外は実施例1と同様の方法でチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体を得た。
【0067】
得られた複合体は、X線回折により結晶相がスピネル型のLi1.33Ti1.66であり、半価幅は0.33°、結晶子径は26nmであった。X線回折のチャートを図5に示した。また、比表面積は75m/g、平均粒子径は4μmであった。
【0068】
(実施例5)
チタン化合物を含水水酸化チタン粒子(1.8mol、平均一次粒子径10nm)に変更した以外は実施例1と同様の方法でチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体を得た。
【0069】
得られた複合体は、X線回折により結晶相がスピネル型のLi1.33Ti1.66であり、半価幅は0.43°、結晶子径は19.6nmであった。X線回折のチャートを図5に示した。また、比表面積は38m/g、平均粒子径は82μmであった。
【0070】
(実施例6)
チタン化合物をアナターゼ型酸化チタン(IV)粒子(1.8mol、平均一次粒子径150nm)に変更した以外は実施例1と同様の方法でチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体を得た。図3に得られた複合体のSEM写真を示す。写真の倍率は10万倍である。
【0071】
得られた複合体は、X線回折により結晶相がスピネル型のLi1.33Ti1.66であり、半価幅は0.15°、結晶子径は56nmであった。X線回折のチャートを図5に示した。また、比表面積は9m/g、平均粒子径は9μmであった。
【0072】
(実施例7)
リチウム化合物を水酸化リチウム(0.5mol)に変更した以外は実施例1と同様の方法でチタン酸リチウム粒子と炭素質物質の複合体を得た。
【0073】
得られた複合体は、X線回折により結晶相がスピネル型のLi1.33Ti1.66であり、半価幅は0.33°、結晶子径は25nmであった。X線回折のチャートを図5に示した。また、比表面積は71m/g、平均粒子径は19μmであった。
【0074】
(比較例1)
リチウム化合物として酢酸リチウム(1.5mol)及び溶媒として水(8.9mol)をビーカーに加えて混合し、酢酸リチウムが完全に溶解するまで10分間混合した。
【0075】
得られた溶液にチタン化合物としてアナターゼ型酸化チタン(IV)粒子(1.8mol、平均一次粒子径10nm)を加え15分間混合し、大気雰囲気下にて120℃で4時間乾燥した。
【0076】
得られた乾燥物を窒素雰囲気下にて875℃で2時間加熱処理し、乳鉢で解砕することで、チタン酸リチウム粒子を得た。図4に得られたチタン酸リチウム粒子のSEM写真を示す。写真の倍率は10万倍である。
【0077】
得られたチタン酸リチウム粒子は、X線回折により結晶相がLi1.33Ti1.66とルチル型酸化チタン(IV)であり、半価幅は0.15°、結晶子径は81nm。X線回折のチャートを図5に示した。また、比表面積は1.2m/g、平均二次粒子径400μm、平均一次粒子径331nmであった。なお、チタン酸リチウム粒子の比表面積、平均二次粒子径及び平均一次粒子径は、実施例1と同様にして測定した。チタン酸リチウム粒子の平均一次粒子径の測定には、1万倍で観察したSEM写真を用いた。
【0078】
<電池の製造>
実施例1の複合体と、結着剤としてSBRゴム(BM400B、日本ゼオン社製)とを、複合体とSBRゴムの質量比が97.5:2.5となるように微量の水と共に乳鉢で混合してスラリー状にして電極組成物を調製した。この電極組成物をアルミニウム集電体上に塗布、乾燥することで電極を得た。
【0079】
得られた電極を、LiBF、プロピレンカーボネート溶液を注入したコインセル型電池に、ポリオレフィン微多孔質フィルムを介して、リチウム金属箔と対向させて半電池を製造した。
【0080】
実施例2〜7の複合体、比較例1のチタン酸リチウム粒子についても、上記と同様にして半電池を製造した。
【0081】
<電池評価>
上記で得られた半電池の初期放電容量と放電容量維持率を評価し、結果を表1に示した。初期放電容量と放電容量維持率は以下のように行った。
【0082】
(初期放電容量)
25℃にて電池評価を行った。対極(リチウム電極)に対して10Cに相当する電流で1.0Vまで充電した。放電はリチウム極に対して10Cに相当する電流で2.5Vまで行い初期放電容量を測定した。容量は、用いたチタン酸リチウムの重量当たりに換算した。
【0083】
(放電容量維持率)
リチウム電極に対して100Cに相当する電流で1.0Vまで充電し、放電をリチウム電極に対して100Cに相当する電流で2.5Vまで行い初期放電容量を測定した。以下の式に示すように、100Cにおける放電容量の10Cにおける放電容量に対する比として放電容量維持率を算出し、レート特性を評価した。
【0084】
ここでいうxCとは1/x時間で充電又は放電が完了する電流値を意味する。したがって、100Cの放電レートとは(1/100)時間で充電又は放電が完了する電流値を意味する。
【0085】
放電容量維持率(%)=[(100Cにおける放電容量)/(10Cにおける放電容量)]X100
【0086】
なお、比較例1のチタン酸リチウム粒子を用いた半電池は抵抗が大きく、電流値を大きくすると過電圧となり、測定を行うことができなかった。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示すように、実施例1〜7の複合体を用いた半電池は、初期放電容量及び放電容量維持率において、比較例1のチタン酸リチウム粒子を用いた半電池に比べて優れており、電気的特性に優れていることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5