特許第6490104号(P6490104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6490104中間データの最適化された保存を伴うレーダーシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6490104
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】中間データの最適化された保存を伴うレーダーシステム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/35 20060101AFI20190318BHJP
   G01S 13/34 20060101ALI20190318BHJP
   G01S 13/93 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   G01S7/35
   G01S13/34
   G01S13/93 220
【請求項の数】20
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-567908(P2016-567908)
(86)(22)【出願日】2015年6月2日
(65)【公表番号】特表2017-524898(P2017-524898A)
(43)【公表日】2017年8月31日
(86)【国際出願番号】DE2015200339
(87)【国際公開番号】WO2015185058
(87)【国際公開日】20151210
【審査請求日】2017年12月11日
(31)【優先権主張番号】102014210769.5
(32)【優先日】2014年6月5日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503355292
【氏名又は名称】コンティ テミック マイクロエレクトロニック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Conti Temic microelectronic GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100153419
【弁理士】
【氏名又は名称】清田 栄章
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンターマンテル・マルクス
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−522972(JP,A)
【文献】 特開2003−240845(JP,A)
【文献】 特開昭61−170442(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103634273(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00− 7/42
G01S 13/00−13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
− 一本の、或いは、複数本の送信アンテナによる送信シグナルを発するための送信手段、
− 一本の、或いは、複数本の受信アンテナによるオブジェクトによって反射された送信シグナルを受信するための受信手段、並びに、
− 受信されたシグナルを処理するためのシグナル処理手段
を備えた、
但し、
− 照射される送信パワーの周波数が、これが、K本の同じ傾きの線形ランプのシーケンスを包含する様に変調され、
− 周波数ランプ毎にパラレルに、及び/或いは、各々P本の連続する周波数ランプ(以下、「周波数ランプグループ」と呼ぶ)毎に、シリアルに(即ち、K/P回)、送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せ(例えば、i) 一本の送信アンテナが、送信パワーを照射し、少なくとも二本の受信アンテナが、反射された電磁波を受信する、或いは、ii) n (n=1,2,….N)本の送信アンテナが、送信パワーを照射し、一本、或いは、複数本の受信アンテナが、その送信パワー受信する)の受信シグナルが、発振器シグナルとの混合、並びに、走査によって収集され、
− デジタルシグナル処理手段内において、例えば、離散フーリエ変換(DFT)として、周波数ランプ毎、並びに、送信アンテナと受信アンテナの組合せ毎の走査値に関する第一スペクトル分析が計算され、
− K本の周波数ランプ毎に、該第一スペクトル分析の結果が、所謂「距離ゲート」を示す周波数ノードの少なくとも一部用に保存され、
− 続いて、距離ゲートと送信アンテナと受信アンテナの組合せ毎に周波数ランプ、乃至、周波数ランプグループに関して保存された値について、例えば、DFTとして第二スペクトル分析が計算され、
− その送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せに関する結果が、更に(例えば、第三DFTによる、デジタル電磁波成形の助けを借りて)プロセッシングされる
車両の周辺把握のためのレーダーシステムであって、
− 第一スペクトル分析の結果は、メモリーエリア節約のために圧縮した形で保存できる、但し、
− 距離ゲートと周波数ランプ、乃至、周波数ランプグループ毎の送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せの結果は、同じスケーリングを有しているため、該スケーリングは、一回だけ保存されなければならない、
− そして、そのようにスケーリングされた値は、シグナル処理(特に、スペクトル分析)において使用され、トランケーションされ、これにより、削減されたビット数保存され、
− 更に、この圧縮された値は、次の処理の前に(即ち、第二スペクトル分析の前に)、再び圧縮解除されることを特徴とする車両の周辺把握を行うためのレーダーシステム。
【請求項2】
シグナル処理(特に、スペクトル分析)が、二の補数表現を用いた固定小数点算術によってなされることを特徴とする請求項1に記載のレーダーシステム。
【請求項3】
値の共通のスケーリングが、最上位のビットとそれぞれ同じ値の最少のビット数によって定められ、続いて、スケーリングのために、このようにして定められた数分、前のビットがカットされることを特徴とする請求項2に記載のレーダーシステム。
【請求項4】
値の共通のスケーリング、並びに、スケーリングされ少ないビット数にトランケーションされた値が、そのビット数が、好ましくは、二のべき乗である共通のバイナリ・ワードにコーディングされることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーダーシステム。
【請求項5】
共通のバイナリ・ワードにコーディングされスケーリングされた値に、特に、ビット数用に二のべき乗が定められている場合、これを最適に用いることができるように、異なるビット数が用いられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーダーシステム。
【請求項6】
周波数ランプ、乃至、周波数ランプグループに関するトランケーションエラー、及び/或いは、送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せが、少なくとも近似的に無・相関関係となるように、スケーリングされた値のトランケーション前に、ランダムな数が加算されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のレーダーシステム。
【請求項7】
トランケーション前にランダムな数を加算する、或いは、四捨五入することにより、必要に応じてスケーリングが適合されなければならないことを考慮していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のレーダーシステム。
【請求項8】
周波数ランプ、乃至、周波数ランプグループ毎の複数の、好ましくは、二つの隣接する距離ゲート用の送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せの結果が、同じスケーリングであり、よって、該スケーリングは、一回のみ保存すればよいことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のレーダーシステム。
【請求項9】
該デジタルなシグナル処理手段において、送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せにおける異なる感度を圧縮前に平滑化していることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のレーダーシステム。
【請求項10】
各離散フーリエ変換(DFTs)が、高速フーリエ変換(FFTs)によって割り出されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のレーダーシステム。
【請求項11】
以下:
− 一本の、或いは、複数本の送信アンテナによる送信シグナルを発するための送信手段、
− 一本の、或いは、複数本の受信アンテナによるオブジェクトによって反射された送信シグナルを受信するための受信手段、並びに、
− 受信されたシグナルを処理するためのシグナル処理手段
を含む車両の周辺把握のためのレーダーシステム用の方法であって、
但し:
− 照射される送信パワーの周波数が、これが、K本の同じ傾きの線形ランプのシーケンスを包含する様に変調され、
− 周波数ランプ毎にパラレルに、及び/或いは、各々P本の連続する周波数ランプ(以下、「周波数ランプグループ」と呼ぶ)毎に、シリアルに(即ち、K/P回)、送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せ(例えば、i) 一本の送信アンテナが、送信パワーを照射し、少なくとも二本の受信アンテナが、反射された電磁波を受信する、或いは、ii) n (n=1,2,….N)本の送信アンテナが、送信パワーを照射し、一本、或いは、複数本の受信アンテナが、その送信パワー受信する)の受信シグナルが、発振器シグナルとの混合、並びに、走査によって収集され、
− デジタルシグナル処理手段内において、例えば、離散フーリエ変換(DFT)として、周波数ランプ毎、並びに、送信アンテナと受信アンテナの組合せ毎の走査値に関する第一スペクトル分析が計算され、
− K本の周波数ランプ毎に、該第一スペクトル分析の結果が、所謂「距離ゲート」を示す周波数ノードの少なくとも一部用に保存され、
− 続いて、距離ゲートと送信アンテナと受信アンテナの組合せ毎に周波数ランプ、乃至、周波数ランプグループに関して保存された値について、例えば、DFTとして第二スペクトル分析が計算され、
− その送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せに関する結果が、更に(例えば、第三DFTによる、デジタル電磁波成形の助けを借りて)プロセッシングされる
更に、以下:
− 第一スペクトル分析の結果は、メモリーエリア節約のために圧縮した形で保存できる、但し、
− 距離ゲートと周波数ランプ、乃至、周波数ランプグループ毎の送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せの結果は、同じスケーリングを有しているため、該スケーリングは、一回だけ保存されなければならない、
− そして、そのようにスケーリングされた値は、シグナル処理(特に、スペクトル分析)において使用され、トランケーションされ、これにより、削減されたビット数保存され、
− 更に、この圧縮された値は、次の処理の前に(即ち、第二スペクトル分析の前に)、再び圧縮解除されることを特徴とする車両の周辺把握のためのレーダーシステム用の方法。
【請求項12】
シグナル処理(特に、スペクトル分析)が、二の補数表現を用いた固定小数点算術によってなされることを特徴とする請求項11に記載のレーダーシステム用の方法。
【請求項13】
値の共通のスケーリングが、最上位のビットとそれぞれ同じ値の最少のビット数によって定められ、続いて、スケーリングのために、このようにして定められた数分、前のビットがカットされることを特徴とする請求項12に記載のレーダーシステム用の方法。
【請求項14】
値の共通のスケーリング、並びに、スケーリングされ少ないビット数にトランケーションされた値が、そのビット数が、好ましくは、二のべき乗である共通のバイナリ・ワードにコーディングされることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載のレーダーシステム用の方法。
【請求項15】
共通のバイナリ・ワードにコーディングされスケーリングされた値に、特に、ビット数用に二のべき乗が定められている場合、これを最適に用いることができるように、異なるビット数が用いられることを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載のレーダーシステム用の方法。
【請求項16】
周波数ランプ、乃至、周波数ランプグループに関するトランケーションエラー、及び/或いは、送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せが、少なくとも近似的に無・相関関係となるように、スケーリングされた値のトランケーション前に、ランダムな数が加算されることを特徴とする請求項11〜15のいずれか1項に記載のレーダーシステム用の方法。
【請求項17】
トランケーション前にランダムな数を加算する、或いは、四捨五入することにより、必要に応じてスケーリングが適合されなければならないことを考慮していることを特徴とする請求項11〜16のいずれか1項に記載のレーダーシステム用の方法。
【請求項18】
周波数ランプ、乃至、周波数ランプグループ毎の複数の、好ましくは、二つの隣接する距離ゲート用の送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せの結果が、同じスケーリングであり、よって、該スケーリングは、一回のみ保存すればよいことを特徴とする請求項11〜17のいずれか1項に記載のレーダーシステム用の方法。
【請求項19】
該デジタルなシグナル処理手段において、送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せにおける異なる感度を圧縮前に平滑化していることを特徴とする請求項11〜18のいずれか1項に記載のレーダーシステム用の方法。
【請求項20】
各離散フーリエ変換(DFTs)が、高速フーリエ変換(FFTs)によって割り出されることを特徴とする請求項11〜19のいずれか1項に記載のレーダーシステム用の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるドライバー・アシスタント・システムにおいて用いられるレーダーシステムに関する。本発明によれば、該レーダーシステムは、周期的直線的周波数変調と多次元的離散フーリエ変換における中間データの最適化された保存方法を有している。
【背景技術】
【0002】
車両にはますます、センサーシステムの助けを借りて周辺部を捕捉し、そのようにして認識された交通状況から車両の自動的リアクションを導き出す、及び/或いは、ドライバーに指示を出す、特に好ましくは、警告するドライバー・アシスタント・システムが装備されるようになってきている。尚、これらは、快適機能と安全機能に分類される。
快適機能としては、現時点の開発においては、FSRA(Full Speed Range Adaptive Cruise Control)が、最も重要な役割を果たしている。車両は、交通状況が許す場合、ドライバーが設定した希望速度に自己速度を制御するが、状況が適さない場合、その交通状況に自己速度を自動的に適合させる。
【0003】
快適性の向上に加え、安全機能も重要になってきているが、ここでの焦点は、緊急状況における制動距離の短縮に置かれている。このようなドライバー・アシスタント機能には、ブレーキが効き始めるまでの時間を短縮するために自動的にブレーキに与圧をかけておくもの(プレフィル機能)、改善されたブレーキアシスタント(BAS+)、更には、自律的緊急ブレーキに至るまで様々なものがある。
【0004】
上記のようなドライバー・アシスタント・システム用には、現在、主にレーダーセンサーが採用されている。これは、悪い気象条件下でも信頼性高く機能し、オブジェクトへの間隔だけでなく、ドップラー効果によって、相対速度も直接的に測定できる。
【0005】
高い認識クオリティを得るには、アンテナの設計、並びに、周波数変調が、重要である。最良な結果は、複数の送信、及び/或いは、受信アンテナを装備したアンテナ配置と多数の線形周波数ランプ(Ramp)の周期的なシーケンスによって達成される;尚、この際発生する大量のデータは、多くの計算キャパシティーとメモリーキャパシティーを必要とする、多次元的フーリエ変換によってプロセッシングされる。半導体技術における恒常的な進展により、クロック周波数が高くなり、よりインテリジェントな実装により計算キャパシティーのコストは、メモリーキャパシティーのそれよりも早く低下しており、センサーコストにおけるメモリーキャパシティーのコストが占める割合が、高くなってきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、複数の送信、及び/或いは、受信アンテナを装備したアンテナ配置における多次元的フーリエ変換、並びに、周期的線形周波数変調において必要とされるメモリーキャパシティーを削減することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、原則的に、請求項1−10に係るレーダーシステムと請求項11−20に係る方法の助けを借りて解決される。
【0008】
本発明の長所は、削減されたメモリーサイズに起因するコスト削減、チップサイズの削減、消費電力の削減から得られる。逆に、メモリーサイズが予め定まっている場合は、多次元的フーリエ変換のサイズを、これに伴って、分解能を、及び/或いは、シグナル処理の積分ゲインを、これに伴って、センサー感度を高めることが可能である。
【0009】
即ち、
一本の、或いは、複数本の送信アンテナによる送信シグナルを発するための送信手段、
一本の、或いは、複数本の受信アンテナによるオブジェクトによって反射された送信シグナルを受信するための受信手段、並びに、
受信されたシグナルを処理するためのシグナル処理手段
を包含する、
但し、ここでは、
照射される送信パワーの周波数が、これが、K本の同じ傾きの線形ランプのシーケンスを包含する様に変調され、
周波数ランプ毎にパラレルに、及び/或いは、各々P本の連続する周波数ランプ(以下、「周波数ランプグループ」と呼ぶ)毎に、シリアルに(即ち、K/P回)、送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せ
(例えば、
i) 一本の送信アンテナが、送信パワーを照射し、少なくとも二本の受信アンテナが、反射された電磁波を受信する、或いは、
ii) n (n=1,2,….N)本の送信アンテナが、送信パワーを照射し、一本、或いは、複数本の受信アンテナが、その送信パワー受信する)
における受信シグナルが、発振器シグナルとの混合、並びに、走査によって収集され、
デジタルシグナル処理手段内において、例えば、離散フーリエ変換(DFT)として、周波数ランプ毎、並びに、送信アンテナと受信アンテナの組合せ毎の走査値に関する第一スペクトル分析が計算され、
K本の周波数ランプ毎に、該第一スペクトル分析の結果が、所謂「距離ゲート」を示す周波数ノードの少なくとも一部用に保存され、続いて、
距離ゲートと送信アンテナと受信アンテナの組合せ毎に周波数ランプ、乃至、周波数ランプグループに関して保存された値について、例えば、DFTとして第二スペクトル分析が計算され、
その送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せに関する結果が、更に(例えば、第三DFTによる、デジタル電磁波成形の助けを借りて)プロセッシングされる車両の周辺把握のためのレーダーシステムであって、
第一スペクトル分析の結果は、メモリーエリア節約のために圧縮した形で保存できる、但し、距離ゲートと周波数ランプ、乃至、周波数ランプグループ毎の送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せの結果は、同じスケーリングを有しているため、該スケーリングは、一回だけ保存されなければならない、
そして、そのようにスケーリングされた値は、シグナル処理(特に、スペクトル分析)において使用され、トランケーションされ、これにより、削減されたビット数よりも少ないビット数で保存され、
更に、この圧縮された値は、次の処理の前に(即ち、第二スペクトル分析の前に)、再び圧縮解除されることを特徴とする車両の周辺把握のためのレーダーシステムであることが好ましい。
【0010】
尚、好ましくは、レーダーシステムのシグナル処理(特に、各スペクトル分析)は、二の補数表現を用いた固定小数点算術によって実施されることができる。
【0011】
値の共通のスケーリングは、最上位のビットとそれぞれ同じ値の最少のビット数によって定められ、続いて、スケーリングのために、このようにして定められた数の分だけ前のビットがカットされることが好ましい。
【0012】
値の共通のスケーリング、並びに、スケーリングされて少ないビット数にトランケーションされた値は、そのビット数が、好ましくは、二のべき乗である共通のバイナリ・ワードにコーディングされることが好ましい。
【0013】
共通のバイナリ・ワードにコーディングされスケーリングされた値には、異なるビット数が用いられることが好ましい。ビット数として二のべき乗が定められている場合、これを最適に用いることができる利点がある。
【0014】
スケーリングされた値のトランケーションの前には、ランダムな数を加算することが好ましい。これにより、周波数ランプ、乃至、周波数ランプグループに関するトランケーションエラー、及び/或いは、送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せは、少なくとも近似的に無・相関関係となる利点がある。
【0015】
トランケーション前にランダムな数を加算することにより、或いは、四捨五入することにより、必要に応じて、スケーリングが適合されることを考慮することが好ましい。
【0016】
周波数ランプ、乃至、周波数ランプグループ毎の複数の、好ましくは、二つの隣接する距離ゲート用の送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せの結果は、同じスケーリングであることが好ましい。これにより、スケーリングは、一回のみ保存すればよいと言う利点がある。
【0017】
該デジタルなシグナル処理手段において、送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せにおける異なる感度を圧縮前に平滑化しておくことが好ましい。
【0018】
各離散フーリエ変換(DFTs)は、高速フーリエ変換(FFTs)によって割り出されることが好ましい。
【0019】
即ち、
一本の、或いは、複数本の送信アンテナによる送信シグナルを発するための送信手段、
一本の、或いは、複数本の受信アンテナによるオブジェクトによって反射された送信シグナルを受信するための受信手段、並びに、
受信されたシグナルを処理するためのシグナル処理手段
並びに、
照射される送信パワーの周波数が、これが、K本の同じ傾きの線形ランプのシーケンスを包含する様に変調され、
周波数ランプ毎にパラレルに、及び/或いは、各々P本の連続する周波数ランプ(以下、「周波数ランプグループ」と呼ぶ)毎に、シリアルに(即ち、K/P回)、送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せ(例えば、i) 一本の送信アンテナが、送信パワーを照射し、少なくとも二本の受信アンテナが、反射された電磁波を受信する、或いは、ii) n (n=1,2,….N)本の送信アンテナが、送信パワーを照射し、一本、或いは、複数本の受信アンテナが、その送信パワー受信する)の受信シグナルが、発振器シグナルとの混合、並びに、走査によって収集され、
デジタルシグナル処理手段内において、例えば、離散フーリエ変換(DFT)として、周波数ランプ毎、並びに、送信アンテナと受信アンテナの組合せ毎の走査値に関する第一スペクトル分析が計算され、
K本の周波数ランプ毎に、該第一スペクトル分析の結果が、所謂「距離ゲート」を示す周波数ノードの少なくとも一部用に保存され、続いて、
距離ゲートと送信アンテナと受信アンテナの組合せ毎に周波数ランプ、乃至、周波数ランプグループに関して保存された値について、例えば、DFTとして第二スペクトル分析が計算され、
その送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せに関する結果が、更に(例えば、第三DFTによる、デジタル電磁波成形の助けを借りて)プロセッシングされる車両の周辺把握のためのレーダーシステムであって、
第一スペクトル分析の結果は、メモリーエリア節約のために圧縮した形で保存できる、但し、距離ゲートと周波数ランプ、乃至、周波数ランプグループ毎の送信アンテナと受信アンテナの様々な組合せの結果は、同じスケーリングを有しているため、該スケーリングは、一回だけ保存されなければならない、
そして、そのようにスケーリングされた値は、シグナル処理(特に、スペクトル分析)において使用され、トランケーションされ、これにより、削減されたビット数よりも少ないビット数で保存され、
更に、この圧縮された値は、次の処理の前に(即ち、第二スペクトル分析の前に)、再び圧縮解除されることを包含することを特徴とする車両の周辺把握のためのレーダーシステム用の方法であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、一例として説明されるレーダーシステムの実施形態を示している。
図2図2は、所謂「周波数ランプ」からなる送信シグナルと受信シグナルの周波数を示している。
図3図3は、二つのオブジェクトが存在している場合における、第一DFT前(左)と第一DFT後(右)の走査されたシグナルを示している。
図4図4には、そこに正に一つのオブジェクトが存在している距離ゲート4内の周波数ランプにおいてローテーションする複素数スペクトル値が示されている。
図5図5は、第二DFT後の二次元の複素数値のスペクトルを示している。
図6図6は、四本の受信アンテナにおける異なる位相、並びに、それらの方位角との関係を説明している。
図7図7は、三次元DFT前のデータ(左)とその後に得られる三次元複素数値のスペクトル(右)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施例
以下、図1に大まかに示されているレーダーシステムの実施例を説明する。該レーダーシステムは、送信シグナルを照射するための一本の送信アンテナ1.1、オブジェクトによって反射された送信シグナルを同時に受信するための複数本、特に好ましくは、表示されているごとく四本の受信アンテナ1.2を有している。全てのアンテナ(送信アンテナと受信アンテナ)は、仰角と方位角において、放射形を有している。複数の受信アンテナは、同じレベルにあり、それぞれ横方向に、即ち、水平方向に同じ間隔dを有している。
【0022】
送信シグナルは、GHz領域、特に好ましくは24GHz領域の、周波数を制御電圧vSteuerによって変更できる高周波振動子1.3から得られる;尚、該制御電圧は、制御手段1.9によって発生される。また、各アンテナによって受信されたシグナルも、実数値ミキサー1.5において、振動子1.3のシグナルと、低周波領域に下がるように混合される。その後、これらの受信シグナルは、それぞれ、示されている伝達機能を備えた帯域フィルター1.6、アンプ1.7、並びに、A/Dコンバータ1.8を通り、最後に、デジタルシグナル処理ユニット1.10において、更に処理される。
【0023】
ここで、オブジェクトまでの距離を測定できるようにするには、図2に示す如く、高周波振動子の周波数、及び、これに伴って送信シグナルが急速に線形に変化される(例えば、16μm毎に187.5MHz);これを、周波数ランプと呼ぶ。これらの周波数ランプは、周期的に繰り返す(例えば、20μs毎);合計、例えば、1024周波数ランプがある。
【0024】
各々のオブジェクトの受信シグナルは、混合後、よってA/Dコンバータにおいても、各周波数ランプ毎、且つ、複数の受信チャンネル毎にサインカーブ状の振動となる;これは、図2の助けを借りて、以下のように説明できる:オブジェクトのレーダーシステムに対する周方向への相対速度がゼロの場合、送信されたシグナルと受信されたシグナル間の周波数差Δfは、一定であり、シグナルランタイムΔtに比例、即ち、周方向の距離に、式:Δr = c×Δt/2のように比例する、但し、cが、光速であり、係数1/2も考慮されているため、ランタイムΔtは、波の往復時間である;尚、周波数差Δfは、上記の例では、Δf = 2r/c×187.5MHz/16μs = r×78.125kHz/mとなる。各受信チャンネルにおいて受信されたシグナルが、振動子周波数、即ち、送信周波数と混合されるため、ミキサーの後においては、周波数Δfを有するサインカーブ状の振動が得られる。この周波数は、MHz領域にあり、相殺されない(周方向の)相対速度の場合、kHz領域でしかないため、オブジェクトの距離による周波数部分に対して略無視しても差し支えないドップラー周波数分ずれる。オブジェクトが複数ある場合、受信シグナルは、異なる周波数の複数のサインカーブ状の振動の重ね合わせとなる。
【0025】
各々の周波数ランプにおいて、全ての受信チャンネル内で、受信シグナルが、A/Dコンバータで、例えば512回、例えば、25ns(即ち、40MHz)毎の間隔で走査される(図2参照)。図2からも明らかな如く、シグナル走査は、オブジェクトからの受信シグナルが、興味のある距離範囲にあるオブジェクトからの時間範囲にある場合においてのみ有意義である − ランプスタート後は、少なくとも、興味のある最も遠い距離に対応するランタイム分、待機されなければならない(最遠距離を200mとすると1.25μsに相当する)。
【0026】
続いて、周波数ランプ毎と受信チャンネル毎で、例えば、512ケの走査値に関して、離散フーリエ変換(DFT)を、高速フーリエ変換(FFT = Fast Fourier Transform)の形で得る。これにより、異なる周波数となる様々な距離のオブジェクトを分離することができる(図3参照、左:オブジェクトが二つある場合のDFT前のシグナル、右:DFT後;尚、式中、kは、例えば、1024ケの周波数ランプのインデックス、mは、複数の受信チャンネルRXmのインデックスである)。DFTの各々の離散した周波数ノードjは、一つの距離rに対応しているため、パルスレーダーの場合と同じように、距離ゲートと呼ぶことができる;上記のような解釈では、距離ゲートの間隔、即ち、その幅は、例えば、1メートルである(上記の例では、r×78.125kHz/m = 1/(12.8μs)となる)。オブジェクトがそこにある距離ゲートには、DFTにおいて、パワーピークが現れる。走査された受信シグナルが、実数値であり、且つ、アナログ帯域フィルター1.5の上部移行領域が、例えば、8.764MHzの周波数帯域幅(112ケの周波数ノードの領域に相当)であるため、例えば、512ケの離散した周波数ノードのうち200ケのみを更に処理することができる(備考:フィルターの任意に狭い移行領域を実現することは不可能である)。該フィルター1.5は、小さな周波数を抑え、それによって、近距離のオブジェクトの受信シグナルも、アンプ1.6とA/Dコンバータ1.7のオーバーライドを避けるために、抑制する(アンテナによって受信されるシグナルは、オブジェクト距離が小さくなるほど、強くなる)。
【0027】
例えば、1024ケの周波数ランプ(k = 0,1,…,1023)に対して、各々の受信チャンネルm (m=0,1,2,3)の各々の距離ゲートj毎(即ち、観察される200の周波数ノード毎)に、複素数のスペクトル値e(j,k,m)が、割り出される。一つの距離ゲートに対応する距離内に、ちょうど一つのオブジェクトがある場合、この距離ゲートj内において、複素数のスペクトル値は、周波数ランプから次の周波数ランプまでの間、距離(mmオーダー、或いは、それ以下)、並びに、帰属する振動の位相が、一定に変化するため、例えば、1024ケの周波数ランプ毎、ドップラー周波数分だけローテーションする(図4参照、この様な周波数ランプ毎、45°の相変化は、オブジェクトの距離変化λ/(8×2) = 0.78mmに相当し、波長が、λ = c/24.15GHz = 12.4mm、分母のファクター2によって往復が、考慮されているため、相対速度vrel = 0.78mm/20μs = 140km/hが得られる)。同じ距離ゲート内にある相対速度が異なる複数のオブジェクトは、各々の受信チャンネルと各々の距離ゲートにおいて、例えば、1024ケの周波数ランプ毎に得られる複素数のスペクトル値の第二DFTが計算されることにより、分離される。この第二DFTの各々の離散した周波数ノードlは、それぞれ一つのドップラー周波数のセット(ドップラー周波数の走査であるため、操作周波数の未知の整数倍までしか定めることができない)、即ち、オブジェクトの相対速度vrelの一つのセットに対応しているため、第二DFTの離散した周波数ノードを、相対速度ゲートと呼ぶことも可能である(この解釈例において得られる得る相対速度のセット中、道路交通において有意義なもの、即ち、実際にあり得るものは、一つしか含まれない、図5参照)。第二DFTは、相対速度を割り出すためだけのものではなく、積分をすることによって、認識感度も高めている − 1024ケの周波数ランプの場合、約10×log10(1024) = 30dB。
【0028】
相対速度用の第二DFTの後、各々の受信チャンネル用に、二次元の複素数のスペクトル値が得られるが、各々のセルは、距離・相対速度ゲートと呼ぶことができ、各々帰属する距離・相対速度ゲートには、オブジェクトによるパワーピークが現れる(図5参照)。
【0029】
最後に、複数の受信チャンネル(複数の受信アンテナ)からの情報が統合される。送信アンテナから照射され、個々のオブジェクトから反射された波は、例えば、四本の受信アンテナm, m=0,1,2,3に、該オブジェクトと各受信アンテナの距離が多少異なっているため、方位角αに依存した様々な位相j(m)で到達する;尚、全ての受信アンテナが、水平方向には、等距離であるため、位相は、四本のアンテナにおいて線形的に増す、乃至、減る(図6参照)。一定の、即ち、補正可能な位相シフト以外の位相差は、場合によっては、第二DFT後まで残るため、四本の受信チャンネルにおいて、それぞれの距離・相対速度ゲート内で、デジタル電磁波成形を実施することができる。その際、線形的に増加する位相を有するそれぞれの複素数ファクターのセットと掛け算される四本の受信チャンネルの複素数の値の合計を計算する;尚、各々のファクターセットの線形の位相変化に依存して、異なる照射方向の放射ローブが得られる。この放射ローブの放射幅は、個々の受信アンテナのそれよりも有意に狭いものである。上記の総和は、8点DFTによって実施されるが、例えば、四本の受信チャンネルの、例えば、四つの値は、四つのゼロで補完できる;尚、このDFTの離散した周波数値は、異なる方位角と対応しているため、角度ゲートn (z.B. n= 0,1,….7)と呼ぶことができる。
【0030】
方位角の第三DFTの後、各々の受信チャンネル用に、三次元の複素数のスペクトル値が得られるが、これらのセルは、距離・相対速度・角度ゲートと呼ぶことができ、オブジェクトによるパワーピークが、各々帰属する距離・相対速度・角度ゲートに、現れる(図7参照、左:三次元DFT前のデータ、右:その後)。パワーピークを割り出すことにより、オブジェクトを検出し、その寸法、距離、相対速度(場合によっては、多義なこともあり得る)、並びに、方位角を割り出す。パワーピークは、DFTウィンドウ機能に起因して、隣接するセルにも、レベルを有するため、レベルに依存して補間することにより、ゲート幅よりも有意に正確にオブジェクト寸法を割り出すことが可能である。三つのDFTのウィンドウ機能は、(十分なオブジェクト分離のために)パワーピークの幅が広がらないようにする一方、(反射の強いオブジェクトの存在下において、反射が弱いオブジェクトも認識できるように)ウィンドウ・スペクトルのサイドローブが、大きくなり過ぎないように選択することができることを示唆しておく。パワーピークの高さから、四つ目のオブジェクト寸法として、それが、レーダー波をどの程度反射するかを示す、反射断面積を推定することができる。上記のオブジェクトの検出と、帰属しているオブジェクト寸法の割り出しが、一つの測定サイクルであり、周辺のその時点の状況を提供する;尚、これは、例えば、約30ms毎に周期的に繰り返される。
【0031】
測定寸法である距離、相対速度、並びに、方位角が、それぞれ独立して、しかも、高い解像度で、割り出されることができるため、上記の方法は、長所として、高い解像度とそれに伴う目標分解能を有している。欠点は、大きなデータ量を処理しなければならないため、高い計算キャパシティーと大きなメモリーキャパシティーが必要となることである。半導体技術における恒常的な進展により、クロック周波数が高くなり、よりインテリジェントな実装により計算キャパシティーのコストは、メモリーキャパシティーのそれよりも早く低下している。よって、上記の方法をメモリー要求量に関して最適化することが重要である。
【0032】
相対速度と方位角を得るために第二、及び、第三DFTを計算する前には、例えば、1024ケ全ての周波数ランプと、例えば、四本の受信チャンネル用に、例えば、200ケの距離ゲートのDFTを割り出さなければならない。この例で用いられているデジタルシグナル処理ユニット1.10は、二の補数表現での32Bit固定小数点算術を計算するものである。よって、一つの複素数の値毎に8Byte(2 x 32Bit、但し、1Byte = 8Bit)が、必要である。例えば、1024ケの周波数ランプ、例えば、四本の受信チャンネル、並びに、200ケの距離ゲートの場合、1024x4x200x8 = 6.553.600Byteのデータが発生する。即ち、これに必要なメモリーには、数ユーロのコストがかかる。
【0033】
よってここでは、距離測定用の第一DFTの後、データの圧縮が実施される。これには、第一DFTの結果を、以下に説明する所謂「疑似浮動小数点表現」に変換する:
第一DFT後、例えば、4本の受信チャンネルの各距離ゲートにおいて、周波数ランプ毎、例えば、32Bitの8つの実数値が得られる(4つの実数部分と4つの虚数部分 − 第一DFT後、値は、複素数である)。この例えば、8つの32Bit固定小数点値から二の補数算術によって、最上位のビットからそれぞれ何ビット、始めて違う値のビットが現れるまで(最上位のビットと)同じ値を有しているかが割り出される(最上位のビットは、MSB = Most Significant Bitとも呼ばれ、二の補数表現では、正負の情報を包含している):例えば、11111110101110000000010000010111の場合、値が1であるMSBに続いて、最初のゼロが来るまで、合計6つの一が存在している。8つのMSBと同じ値で続いている値の数のなかから、ブロックシフトと呼ばれる最低値を割り出す。以下の8つの32Bit数の例:
【0034】
【数1】
【0035】
の場合、ブロックシフトは、4である(MSBの後、4Bitのみが、MSBと同じ値である四番目と五番目の数において)。このブロックシフトを二進法8Bitでコーディングする、即ち、上の例では、00000100となる。
【0036】
全ての32Bit数において、第一ブロックシフト(この例では、4)ビットをカットし、その後の7Bits、即ち、所謂「仮数」を抽出する;尚、ブロックシフトが、25よりも大きい場合、32Bit数の下位ビットは、全てゼロで拡張する。それぞれ7Bitsの8つの仮数は、ブロックシフトの8Bitに結合することで、疑似浮動小数点表現の64Bit値が得られる;尚、上記の例では(点は、各部分を分離し、見やすさを向上するために用いた):
【0037】
【数2】
【0038】
即ち、この演算こそが、8つの値のブロックシフトへの画一的なスケーリングとスケーリングされた値の7Bitへのトランケーションである。
【0039】
32Bit数のブロックシフトの表現に5Bitsで十分足り得ることを指摘する;尚、上記の例では、メモリー内で使用されるビット数が、通常、二のべき乗であるため、合計64Bitにするためには、8Bitのみ「拡張される」ことになる。尚、使用されていないこれら三ビットも、他の場所に挿入できることは、言うまでもない。
【0040】
圧縮された値に必要なビットを可能な限り少なくするために、4つ全ての複素数のチャンネル値に対して、同じ、ブロックシフト、即ち、疑似浮動小数点表現用に同じスケーリングを用いた。全ての受信チャンネルは、同一の目標物を見ているため、少なくとも、各々一つの距離ゲート内に一つの目標物しかない場合、同じレベルを有しており、全てのチャンネルに同じスケーリングを用いても、例えば、4つの複素数の受信チャンネル値に、或いは、合計8つの実数部分(実数と虚数部分)に対して個々のスケーリング値を用いた場合と比べても、トランケーションエラーの増加は、無い、乃至、微々たるものに過ぎない。但し、「少なくとも、各々一つの距離ゲート内に一つの目標物しかない場合、同じレベルを有している」と言う上記の主張は、これらが同じ感度を有している場合にのみ有効である。仮に、受信チャンネルのアナログ部分が、(例えば、受信アンテナとミキサーとの間の配線の長さが異なっているために)異なる感度を有している場合、デジタルシグナル処理において、例えば、第一DFT前に、異なるファクターをかけることによって平滑化する。
【0041】
上記の、例えば、4つの複素数受信チャンネル値の64Bitへの圧縮は、例えば、1024ケの周波数ランプと例えば、200ケの距離ゲート全てに対して実施される。これにより、メモリーの必要量は、1.638.400Byteとなる、即ち、75%削減される。
【0042】
全ての周波数ランプにおいて第一DFTが割り出され、その結果が、圧縮された疑似浮動小数点表現で保存された後、各々の距離ゲート用に順に、相対速度と方位角を割り出すための第二および第三DFTが計算され、この二次元に対してパワーピークが割り出され、セーブされる。
【0043】
これらの計算も、二の補数表現における32Bit固定小数点演算として実施されるため、第一DFT後に圧縮されたデータは、再び「解凍」、即ち、以下に説明する如く、圧縮解除される。
【0044】
各々の距離ゲートに対して、例えば、1024ケの周波数ランプのそれぞれ64Bitの圧縮されたデータは、順に読みだされる。これらの64Bit数は、7Bit仮数として4本の受信チャンネルの4桁の実数部分と4桁の虚数部分、並びに、共通の8Bitブロックシフトを包含している。これらから32Bit固定小数点値を得るためには、仮数の前に、最上位のビットをブロックシフト分(上記の例では、4ケ)挿入し、仮数の後ろは、32Bitになるようにゼロを補填する;ブロックシフトが25よりも大きい場合は、仮数の後ろの(いずれにせよゼロである)ビットは、無い。上記の例では、以下の8つの実数値を有する32Bit数が得られる(点を用いて仮数の位置を可視化した)。
【0045】
【数3】
【0046】
これらの値の最初の11Bitは、元の値と同じであり、続く21Bitには、ゼロが当てはめられているため元の値とは異なっている。
【0047】
記述されている方法は、パワーピークを、先ず、相対速度と方位角の次元から、即ち、距離ゲート毎に、割り出し、これらを保存する。全ての距離ゲートに対して、パワーピークが作成され、保存された後、最後のステップにおいて第三次元である距離から、パワーピークが最終的に割り出される。
【0048】
最多でも数百のリフレクション・ポイントしか存在しないため、距離ゲート毎のパワーピークの中間保存に必要なメモリーは、第一DFT後の結果用に必要とされるメモリーよりも、はるかに僅かである。これにより、ここに記載されているレーダー方法では、主要なメモリー負荷は、上記の圧縮メカニズムにより75%削減できる第一DFT後のデータにある。
【0049】
圧縮では、仮数後のカットされたビットの情報内容は、失われる。即ち、このトランケーションによりエラーが発生する。上記の方法では、切り捨てされ、四捨五入されない。これにより、平均、仮数の下位ビット(LSB = Least Significant Bit)の半分、エラーが発生する。
【0050】
切り捨てる代わりに四捨五入することにより、平均的エラーを避けることができる。四捨五入は、仮数LSBの半分とある値を切り捨て前に加える、即ち、上記の例では、以下のようになる(点を用いて仮数の位置を可視化した):
【0051】
【数4】
【0052】
一つの距離ゲートに対する圧縮時のトランケーションにより発生するエラーは、周波数ランプ全体で見れば、略同じである。その理由は、一つの距離ゲート内で全体として合計20.48ms続く周波数ランプの間、(相対速度が、極度に大きくない場合)同じ目標物を検出し、この間、そのレベルが、ほとんど変化しないため、一つの距離ゲート内のブロックシフトが、全ての周波数ランプに対して、略同じであるからである。周波数ランプに対するトランケーションエラーが、偶発的、即ち、相関関係を有していない場合、エラーは、例えば、1024ケの周波数ランプに対する第二DFTにおいて、首尾一貫しては統合されない;これにより、第二DFT後のトランケーションノイズパワーとシグナルパワーの間隔は、例えば、10×log10(1024) = 30dB大きくなる。四本の受信チャンネルに対する第三DFTでは、受信チャンネルのトランケーションエラーは、相関関係を有していない場合、更に、10×log10(4) = 6dB増加する。
【0053】
これにより、圧縮のトランケーションのダイナミック領域は、6Bit(1Bitは、6dBに相当;よって合計36dBの積分ゲイン)分、高くなる;即ち、仮数の7Bitに、第二と第三DFTの積分ゲインから更に6Bit加わる。
【0054】
強く反射する目標物は、いずれにせよ、理想的ではないハードウェア特性(例えば、振動子の相ノイズなど)やシグナル処理アーティファクト(DFTのウィンドウ機能のスペクトルのサイドローブなど)、ダイナミック領域を小さくし、反射が極度に弱い目標物を見えなくしてしまうことから、この一つの距離ゲート内の最も強い目標物に対する約13Bitのダイナミック領域は、十二分だと言える。
【0055】
もちろん、特に、近くの目標物が、遠くの目標物よりもより大きなレベルを有していると言う理由から、全ての距離に対しては、大きなダイナミック領域が必要ではある。とは言え、圧縮のトランケーションは、各々一つの距離ゲート内においてのみ、ダイナミック領域を、言わば「アダプティブに」制限しているに過ぎないため、上記に対して相反するものではない。
【0056】
第二、及び、第三DFTの積分ゲインの結果、及び、この積分ゲインが原因となって、圧縮の際の仮数の長さは、三つのDFTの計算に用いた数の長さ(ここでは、32Bit)と比較して有意に短縮され、メモリーキャパシティーが節約できる。
【0057】
既に、限定的に述べた如く、圧縮のトランケーションノイズに対して、該トランケーションノイズが、全ての周波数ランプと受信チャンネルにおいて相関関係を有していない場合にのみ(全ての距離ゲートに対しては、そうである必要はない)、第二と第三DFTの積分ゲインが得られる。仮に − 強い反射が得られるケースなど − トランケーションノイズが、ハードウェアによるシステムノイズ(アナログ部分のノイズ)よりも大きい場合、一般的に「無・相関関係」は成立せず、例えば、第三DFT後、実数のパワーピークが得られない、即ち、レーダー画像に、所謂「ゴースト検出」が現れる。よって、トランケーション前(即ち、仮数を抽出する前)に、「無・相関関係」が内因的に保障されるだけノイズを加算することが好ましい。これには、後に切り捨てられる数Bitにまたがるランダムな数を加えておく;これは、インターバル[0, 仮数−LSB]から選ばれるランダムな数である。全ての周波数ランプと受信チャンネルに対して、このランダムな数は、無・相関関係であるが、距離ゲートに関しては、同じであっても良い。以下、上の例における最初の8つの仮数を抽出する前にランダムな数が加算される実数を観察する(点を用いて仮数の位置を可視化した):
【0058】
【数5】
【0059】
これにより、仮数は、1110101から1110110に変わる。
【0060】
このようなランダムな数の加算により(上記のように、切り捨てではなく、仮数LBSの半分を加えて四捨五入することによっても)、仮数のオーバーフローが起こり得る(仮数0111111において)、即ち、仮数の最上位のビットが、元の数の最上位のビットと一致せず、ブロックシフトが下がる。この様なケースは、適宜、リカバーされなければならない、例えば、基の仮数0111111がある場合、前もってブロックシフトを1だけ、下げておく。
【0061】
尚、トランケーションエラーが、十分に無・相関関係であるため、加算されたランダムな数の長さは、例えば、8Bitに短縮できると言うことは、特記しておく。
【0062】
最後に、上記のデータ圧縮は、言うまでもなく、他のシステム・アーキテクチャにも応用できる、及び/或いは、他の特徴をもって実装できると言うことも述べておく;以下、更に数例を挙げる:
・これまでは、全ての、例えば、四本の受信チャンネルでの並行したデータの捕捉を観察してきた;必要なハードウェアを削減するために、ミキサーの後にマルチプレクサーを挿入し、受信機の低周波部分からA/Dコンバータまで四系統ではなく、一系統で実施できるようにする;これにより、周波数ランプ毎に交代にそれぞれ一本の受信チャンネルのデータのみを捕捉するようにすることができる:即ち、周波数ランプ1,5,9,...は、受信チャンネル1、周波数ランプ2,6,10,...は、受信チャンネル2、...となる;よって、距離ゲート毎では、四本の受信チャンネル用のそれぞれ四つの連続する周波数ランプ毎に、即ち、周波数ランプグループ1−4, 5−9, ...のデータにまとめられる、
・上記の受信チャンネルのシリアルなデータ捕捉は、一本の受信アンテナと複数の送信アンテナのレーダーシステムにも同様に応用できる;更には、圧縮は、複数の受信アンテナに対してパラレルに、複数の送信アンテナに対してシリアルに捕捉されたデータにも応用できる、
・圧縮のトランケーションエラーは、一般的に、有意に短い仮数長においても十分に小さい;例えば、16Bitのシグナル処理、且つ、6本の受信チャンネルの場合、64Bit圧縮は、合計12の実数と虚数部分のための4Bitブロックシフトと5Bit仮数長によって、実現できる、
・仮にシグナル処理が、16Bit以上(例えば、24Bit)で実施されても、第一DFTではまだ、通常、シグナル処理のダイナミクス全てが必要とはされていないため、4Bitブロックシフトを用いることができる(全てのダイナミクスは、第二と第三DFTの更なるシグナル処理において初めて必要となる);その場合、ブロックシフトは、最大15に制限する、
・特に、ブロックシフトと仮数の合計で、(通常、このようにメモリーが構成されているので)二のべき乗のビット数になるようにするためには、全ての仮数が同じ長さであることに意味がある;例えば、16Bitのシグナル処理、且つ、4本の受信チャンネルの場合、32Bit圧縮は、4つの実数部分用の4Bit仮数長と4つの虚数部分用の3Bitの仮数長によって、実現できる、
・ここまでは、それぞれ一つの距離ゲート毎の受信チャンネルのデータを一緒に − 即ち、同じスケールで − 圧縮することを考察してきた;しかし、通常(ウィンドウ機能に起因スペクトルが劣化するため)、各距離ゲート間においてレベルにはあまり違いがないと言うこと、並びに、更なるプロセスのためには、主に、パワーピークを有する(即ち、極大値のある)各距離ゲートが、小さな相対的トランケーションエラーを有していることが重要であると言うことから、複数の、特に好ましくは、二つの隣接する距離ゲートに同じスケーリングを用いることもできる;四本の受信チャンネルにおいて、二つの連続する距離ゲートに対して共通のスケーリングを用いた場合、8つの虚数値が、一緒に圧縮される、
・浮動小数点演算によるシグナル処理(特にDFTs)の実施のためにも、第一DFT後の保存されている値のデータ圧縮を応用することができる。
【0063】
添付資料には、MATLABスクリプト(MATLABは、数学技術用の高水準なプログラミング言語)による、圧縮と解凍の例が挙げられている;該スクリプトでは、適宜なコメントによって、圧縮と解凍が詳細に説明されている。
【0064】
上記、並びに、添付資料に記載されている発明は、レーダーシステムのプロセッサー内で採用されるものである。その際、例えば、圧縮/解凍は、ハードウェア内で直接的に(例えば、シリカ内にハードとして組み込むことにより)、或いは、本発明に係る方法を有するソースコードとして、プロセッサー上に実装される。本発明は、レーダーシステム用の方法、並びに、装置として、請求される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7