(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0007】
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図1】本発明の磁性流体組成物を利用してもよい車載マウントの模式的な断面図
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図2】0T〜1.2Tの磁場の強さを有する磁場の下で、本発明の磁性流体組成物と、当該産業で使用される現行の磁性流体組成物(従来技術)の降伏応力を比較したプロット図
【
図3】1,000,000回にわたる操作サイクルで、本発明の磁性流体組成物および従来技術を用いた車載マウント内の圧力発生を比較したプロット図
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図4】5,000,000回にわたる操作サイクルで、本発明の磁性流体組成物および従来技術を用いた車載マウントのサイクル当たりの散逸エネルギーを比較したプロット図
【
図5】1,000,000回にわたる操作サイクルで、本発明の磁性流体組成物および従来技術を用いた車載マウントのサイクル当たりの散逸エネルギーを比較したプロット図
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図6】従来技術を用いた車載マウントの動剛性を示すプロット図
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図7】本発明の磁性流体組成物を用いた車載マウントの動剛性を示すプロット図
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図8】2つの車載マウントを用い、本発明の磁性流体組成物を用いた車載マウントの動剛性を示すプロット図
【
図9】従来技術を用いた車載マウントの減衰制御を示すプロット図
【
図10】本発明の磁性流体組成物を用いた車載マウントの減衰制御を示すプロット図
【
図11】2つの車載マウントを用い、本発明の磁性流体組成物を用いた車載マウントの減衰制御を示すプロット図
【
図12】従来技術を用いた4つの車載マウントの減衰仕事量を示すプロット図
【
図13】本発明の磁性流体組成物を用いた4つの車載マウントの減衰仕事量を示すプロット図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一態様は、可撓性部材およびダイアフラムを有する車載マウントに使用するための磁性流体組成物を含む。磁性流体組成物は、担体液と、担体液に分散した複数の磁気応答性粒子と、担体液に分散したフュームドシリカの沈降防止剤とからなり、沈降防止剤は、担体液と共にチキソトロピー性の網目構造を形成し、磁気応答性粒子が沈降するのを防ぐために、チキソトロピー性の網目構造の中に磁気応答性粒子を懸濁させる。本発明の磁性流体組成物は、担体液と、複数の磁気応答性粒子と、沈降防止剤だけを含む。言い換えると、本発明の磁性流体組成物は、チキソトロピー性の網目構造および磁性流体に安定性を付与し、可撓性部材およびダイアフラムが磁性流体組成物と反応するのを防ぎ、磁性流体組成物の寿命を延ばすさらなる添加剤を含まない。
【0009】
磁性流体組成物の担体液は、磁性流体中に連続した相を形成し、10重量%〜73重量%の量で存在し、好ましくは、23重量%〜38重量%の量で存在し、最も好ましくは、26重量%〜36重量%の量で存在する。担体液は、任意の有機流体であってもよく、好ましくは、非極性の有機流体であってもよい。適切な流体の例としては、限定されないが、シリコーン油、鉱物油、パラフィン油、シリコーンコポリマー、ホワイトオイルおよび油圧油が挙げられる。これに加え、適切な流体の混合物を本発明の担体液に使用してもよい。本発明の磁性流体組成物には、担体液としてシリコーン油が特に好ましく、30重量%〜32重量%の量で存在する。
【0010】
磁性流体組成物の複数の磁気応答性粒子は、担体液に分散し、25重量%〜80重量%、好ましくは、60重量%〜70重量%、最も好ましくは、64重量%〜68重量%の量で存在する。磁気応答性粒子は、常磁性、超常磁性および強磁性の元素および化合物から作られる任意の固体であってもよい。適切な磁気応答性粒子の例としては、鉄、鉄アロイ、酸化鉄(Fe
2O
3およびFe
3O
4を含む)、酸化鉄粉末/鉄粉末混合物および酸化鉄粉末/還元鉄粉末混合物が挙げられる。本発明の磁性流体組成物には、磁気応答性粒子として鉄が特に好ましく、64重量%〜65重量%の量で存在する。磁気応答性粒子は、典型的には、金属粉末の形態である。磁気応答性粒子の粒径は、磁気応答性粒子自体が磁場に応答して担体液中に整列することができるように選択すべきである。磁気応答性粒子の平均粒径は、一般的に1〜1000μmである。
【0011】
フュームドシリカの沈降防止剤も担体液に分散しており、2重量%〜10重量%、好ましくは、2重量%〜7重量%、最も好ましくは、2重量%〜6重量%の量で存在する。フュームドシリカは、チキソトロピー性の網目構造を形成し、磁気応答性粒子がチキソトロピー性の網目構造から沈降するのを防ぐために、チキソトロピー性の網目構造の中に磁気応答性粒子を懸濁させる。沈降防止剤は、水素結合の分子間力によって、チキソトロピー性の網目構造の中に磁気応答性粒子を懸濁させる。本発明のチキソトロピー性の網目構造は、磁性流体材料組成物中の磁気応答性粒子の沈降を効果的に防ぐ。適切な沈降防止剤の例としては、金属酸化物粉末、例えば、沈降したシリカゲル、フュームドシリカまたは焼成シリカ、シリカゲル、または上述の金属酸化物粉末の少なくとも1つの組み合わせが挙げられる。本発明の磁性流体組成物には、沈降防止剤としてフュームドシリカが特に好ましく、3重量%〜5重量%の量で存在する。
【0012】
本発明の磁性流体組成物は、密度が2.2g/ml〜2.5g/mlの範囲であり、温度40℃での粘度が200cP〜400cPの範囲である。磁場の強さが0.1Tの磁場存在下、磁性流体組成物は、磁気降伏応力が0.1〜4kPaである。磁場の強さが0.5Tの磁場存在下、磁性流体組成物は、磁気降伏応力が18〜24kPaである。磁場の強さが0.9Tの磁場存在下、磁性流体組成物は、磁気降伏応力が26〜40kPaである。
【0013】
本発明の別の態様は、震動源を支えるための車載マウント装置を含む。車載マウント装置は、一般的に
図1に示されるように、第1の軸Aに沿って、この周囲に延びる筐体20を備え、筐体チャンバ22、24の輪郭を規定する。可撓性部材26は、弾性材料で作られ、筐体20によって支えられている筐体チャンバ22、24の中に少なくとも部分的に配置されている。可撓性部材26は、外部励振によって生じる、筐体20に対する震動源の移動に応答して弾性的に変形するために、第1の軸に沿って、この周囲に半径方向に延びている。弾性材料で作られるダイアフラム28は、筐体チャンバ22、24の中に配置され、可撓性部材26から軸方向に空間が空けられている。仕切りアセンブリ30は、一般的に示されるように、筐体チャンバ22、24の中に配置されており、筐体チャンバ22、24を上側チャンバ22と下側チャンバ24に分けるために、可撓性部材26とダイアフラム28の間に延びている。上側チャンバ22は、可撓性部材26と仕切りアセンブリ30の間に広がっている。下側チャンバ24は、仕切りアセンブリ30とダイアフラム28の間に広がっている。上側チャンバ22と下側チャンバ24の容積は、外部励振に応答して可撓性部材26とダイアフラム28が変形することによって変わり得る。仕切りアセンブリ30は、第1の軸Aに平行に延びる経路を規定し、流体が上側チャンバ22と下側チャンバ24の間を流れることができるように、上側チャンバ22および下側チャンバ24と流体が流れるように配置される。
【0014】
磁場に応答性の磁性流体は、上側チャンバ22および下側チャンバ24に配置される。磁性流体は、30重量%〜32重量%の量で存在するシリコーン油の担体液からなる。磁性流体は、担体液に分散した64重量%〜66重量%の量で存在する鉄の磁気応答性粒子を含む。磁性流体は、さらに、担体液に分散したフュームドシリカの沈降防止剤を含み、担体の網目構造と共にチキソトロピー性の網目構造を形成し、磁気応答性粒子が沈降するのを防ぐために、チキソトロピー性の網目構造の中に磁気応答性粒子を懸濁させる。フュームドシリカは、3重量%〜5重量%の量で存在する。磁性流体は、チキソトロピー性の網目構造に安定性を付与し、ダイアフラム28および可撓性部材26が磁性流体組成物と反応するのを防ぎ、磁性流体組成物の寿命を延ばすさらなる添加剤を含まない。
【実施例1】
【0015】
本発明の磁性流体組成物と、当該産業で使用される現行の磁性流体組成物(従来技術)の違いを示すために、さまざまな試験を行い、磁性流体の特性を測定し、比較する。この試験中に用いられる本発明の磁性流体組成物は、シリコーン油と、複数の鉄の磁気応答性粒子と、フュームドシリカとからなる。従来技術は、シリコーン油と、シリカクレイと、複数の鉄の磁気応答性粒子と、エトキシル化アミン(例えば、Ethomeen(登録商標)T−15)およびプロピレングリコールからなる。
【0016】
本発明の磁性流体組成物および従来技術の降伏応力を測定し、比較する。両磁性流体を0T〜1.1Tの磁場の強さを有する磁場にさらすことによって降伏応力を測定する。
図2は、本発明の磁性流体組成物と、従来技術の降伏応力の比較を示す。
図2に示されるように、本発明の磁性流体組成物は、0.5T〜1.1Tの磁場の強さを有する磁場の下で、従来技術より高い降伏応力を有する。
【0017】
本発明の磁性流体組成物および従来技術の耐久性試験も行う。
図1に示したのと同様の構造を有する車載マウントを耐久性試験に使用する。車載マウントを10Hzの周波数で操作し、耐久性試験のために、±2mmの圧縮/反発距離で作動させる。磁場を発生させるため、車載マウントに4Aの環状電流を加える。合計で1,000,000回の操作サイクルを車載マウントに行う。1,000,000回の操作サイクルで、車載マウント内の圧力発生を測定する。
図3は、本発明の磁性流体組成物および従来技術によって生じる車載マウント内の圧力発生の比較を示す。
図3に示されるように、1,000,000回の操作サイクル終了付近で、車載マウント内に発生した圧力は、本発明の磁性流体組成物を使用したとき、従来技術よりも低い。
【0018】
本発明の磁性流体組成物および従来技術を用いた車載マウントのサイクル当たりの散逸エネルギーも、耐久性試験中に測定する。具体的には、車載マウントのサイクル当たりの散逸エネルギーを、試験開始時、50,000回の操作サイクル、250,000回の操作サイクル、500,000回の操作サイクル、1,000,000回の操作サイクルで測定する。
図4は、本発明の磁性流体組成物および従来技術を用いた車載マウントのサイクル当たりの散逸エネルギーの比較を示す。
図4に示されるように、1,000,000回の操作サイクル終了付近で、車載マウントのサイクル当たりの散逸エネルギーは、本発明の磁性流体組成物を使用したとき、従来技術よりも高い。
【0019】
1,000,000回の操作サイクルでのサイクル当たりの散逸エネルギーを測定することに加え、本発明の磁性流体組成物および従来技術における複数の磁気応答性粒子の沈降を分析する。具体的には、100,000回の操作サイクル後、200,000回の操作サイクル後、300,000回の操作サイクル後に磁性流体の沈降を分析する。磁性流体の沈降を分析するために、磁性流体を容器に入れ、透明層の分離を14日間観察する。観察結果を以下の表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
さらに、本発明の磁性流体組成物および従来技術を用いた車載マウントのサイクル当たりの散逸エネルギーを、5,000,000回の操作サイクルにわたって測定する。具体的には、車載マウントのサイクル当たりの散逸エネルギーを、試験開始時、1,000,000回の操作サイクル、2,000,000回の操作サイクル、3,000,000回の操作サイクル、4,000,000回の操作サイクル、5,000,000回の操作サイクルで測定する。
図5は、本発明の磁性流体組成物および従来技術を用いた車載マウントのサイクル当たりの散逸エネルギーの比較を示す。
図5に示されるように、4,000,000回〜5,000,000回の操作サイクルの間に、車載マウントのサイクル当たりの散逸エネルギーは、本発明の磁性流体組成物を用いたとき、従来技術よりも高い。
【0022】
5,000,000回の操作サイクル中のサイクル当たりの散逸エネルギーを測定することに加え、5,000,000回の操作サイクル終了時に、車載マウントを分解し、流体の増粘および詰まりを分析する。5,000,000回の操作サイクル終了時に、従来技術は、車載マウント内で増粘し、仕切りアセンブリの経路の45〜50%の詰まりを示す。これとは対照的に、5,000,000回の操作サイクル終了時に、本発明の磁性流体組成物は、車載マウント内である程度の流体増粘化を示し、仕切りアセンブリの経路のわずか10%の詰まりを示す。
【実施例2】
【0023】
本発明の磁性流体組成物と、当該産業で使用される現行の磁性流体組成物(従来技術)の違いを示すために、車載マウントの動剛性、減衰制御および減衰仕事量に対する
磁性流体の影響を測定する。実施例1と同様に、本実施例で用いる磁性流体組成物は、シリコーン油と、複数の鉄の磁気応答性粒子と、フュームドシリカとからなる。従来技術は、シリコーン油と、シリカクレイと、複数の鉄の磁気応答性粒子と、エトキシル化アミン(例えば、Ethomeen(登録商標)T−15)およびプロピレングリコールからなる。本実施例において、実施例1に記載する車載マウントと同じ構造を有する複数の車載マウントを使用する。
【0024】
車載マウントの減衰剛性を測定するために、車載マウントを、±1mmの圧縮/反発距離で、2Hz、11Hzおよび17Hzの周波数で作動させる。流体寿命の終了時に減衰剛性を測定する。流体寿命は、車載マウントによって行われる所定回数の操作サイクルによって定義される(例えば、1流体寿命=1,000,000回の操作サイクル)。
図6は、2寿命の期間にわたって従来技術を用いた車載マウントの動剛性の測定を示す。
図6に示されるように、1回目の寿命と2回目の寿命の間に車載マウントの動剛性が顕著に低下している。具体的には、2寿命の期間にわたって、2Hz、11Hzおよび17Hzの周波数で作動させると、従来技術を含有する車載マウントの動剛性は、それぞれ、53.6%、65.9%および67.4%低下した。このような低下は、従来技術における磁気応答性粒子の沈降によって生じる。
図7は、3流体寿命の期間にわたって本発明の磁性流体組成物を用いた車載マウントの動剛性の測定を示す。
図7に示されるように、3流体寿命の間に車載マウントの動剛性に顕著な変化はない。
図8は、5流体寿命の期間にわたって本発明の磁性流体組成物を用いた2つの車載マウントの動剛性の測定を示す。
図8に示されるように、5流体寿命の後でさえ、車載マウントの動剛性に顕著な変化はない。
【0025】
車載マウントの減衰制御を測定するために、車載マウントを、±1mmの圧縮/反発距離で、2Hz、11Hzおよび17Hzの周波数で作動させる。流体寿命の終了時に減衰制御を測定する。
図9は、2流体寿命にわたって従来技術を用いた車載マウントの減衰制御の測定を示す。
図9に示されるように、1回目の寿命と2回目の寿命の間に車載マウントの減衰制御が顕著に低下している。具体的には、2寿命の期間にわたって、2Hz、11Hzおよび17Hzの周波数で作動させると、従来技術を含有する車載マウントの減衰制御は、それぞれ、75.1%、67.3%および69.6%低下した。このような低下も、従来技術における磁気応答性粒子の沈降によって生じる。
図10は、3流体寿命にわたって本発明の磁性流体組成物を用いた車載マウントの減衰制御の測定を示す。
図10に示されるように、3流体寿命の間に車載マウントの減衰制御に顕著な変化はない。
図11は、5流体寿命の期間にわたって本発明の磁性流体組成物を用いた2つの車載マウントの減衰制御の測定を示す。
図1に示されるように、5流体寿命の後でさえ、車載マウントの動剛性に顕著な変化はない。
【0026】
車載マウントの減衰仕事量の制御を測定するために、車載マウントを、±4mmの圧縮/反発距離で、11Hzの周波数で作動させる。流体寿命の終了時に減衰剛性を測定する。
図12は、2流体寿命の期間にわたって従来技術を用いた4つの車載マウントの減衰仕事量の制御の測定を示す。
図12に示されるように、1回目の寿命と2回目の寿命の間に車載マウントの減衰仕事量の制御が顕著に低下している。この現象も、磁気応答性粒子の沈降によって生じる。
図13は、2流体寿命の期間にわたって本発明の磁性流体組成物を用いた、同じ構造を有する4つの車載マウントの減衰仕事量の制御の測定を示す。
図13に示されるように、3流体寿命の間に車載マウントの減衰仕事量の制御に顕著な変化はない。
【0027】
明らかに、上の教示の観点で、本発明の多くの改変例および変形例が可能であり、添付の特許請求の範囲の範囲内に具体的に記載されるもの以外のものを実施してもよい。装置クレームの「前記(the)」という用語の使用は、その請求項の範囲に含まれることを意味する積極的な引用である先行詞を指し、一方、「前記(the)」という用語は、請求項の範囲に含まれることを意味しない用語の前に存在する。これに加え、請求項の参照番号は、単に便宜上のものであり、いかなる様式にも限定するものと読むべきではない。