特許第6490114号(P6490114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日鉄住金環境株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6490114-有機性廃水の生物処理方法 図000004
  • 特許6490114-有機性廃水の生物処理方法 図000005
  • 特許6490114-有機性廃水の生物処理方法 図000006
  • 特許6490114-有機性廃水の生物処理方法 図000007
  • 特許6490114-有機性廃水の生物処理方法 図000008
  • 特許6490114-有機性廃水の生物処理方法 図000009
  • 特許6490114-有機性廃水の生物処理方法 図000010
  • 特許6490114-有機性廃水の生物処理方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6490114
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】有機性廃水の生物処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20060101AFI20190318BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   C02F3/12 BZAB
   C02F11/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-7440(P2017-7440)
(22)【出願日】2017年1月19日
(65)【公開番号】特開2018-114465(P2018-114465A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2017年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄住金環境株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】山本 一郎
(72)【発明者】
【氏名】市川 康平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博昭
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−132618(JP,A)
【文献】 特開2013−132599(JP,A)
【文献】 特開2005−305253(JP,A)
【文献】 特開平09−108690(JP,A)
【文献】 特開2003−305498(JP,A)
【文献】 特開2005−211724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00− 3/34
C02F 11/00−11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
なくとも、最初沈殿槽と、活性汚泥処理槽と、最終沈殿槽とを用いて有機性廃水の処理を行う活性汚泥処理方法において、活性汚泥処理槽あるいは最終沈殿槽の入口にリン酸イオンを吸着及び/又は不溶化する物質を添加することなく、及び、最初沈殿槽の入口にリン酸イオンを吸着及び/又は不溶化する物質を添加することなく、最終沈殿槽で固液分離された余剰汚泥の一部又は全部を可溶化処理するための可溶化処理工程を設け、該可溶化処理工程で、汚泥を可溶化する処理中の汚泥に、あるいは、可溶化処理後の汚泥に、リン酸イオンを吸着及び/又は不溶化する物質を加えたのち、可溶化した汚泥を固液分離することなく最初沈殿槽に戻し、リンを固定した前記物質が、前記最初沈殿槽から出る初沈汚泥に含まれて系外に除かれるように構成したことを特徴とする有機性廃水の生物処理方法。
【請求項2】
前記有機性廃水が、下水である請求項1に記載の有機性廃水の生物処理方法。
【請求項3】
前記リン酸イオンを吸着及び/又は不溶化する物質が、リン酸イオンと結合して不溶性あるいは難溶性の塩を形成する金属又は金属塩である請求項1又は2に記載の有機性廃水の生物処理方法。
【請求項4】
前記リン酸イオンを吸着及び/又は不溶化する物質が、アルミニウム又は鉄及びこれらの塩からなる群から選ばれるいずれかである請求項1又は2に記載の有機性廃水の生物処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃水の生物処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、既に、活性汚泥法を利用した廃水の処理において、活性汚泥の可溶化処理工程を組み入れることで余剰汚泥の減量化を達成し、従来の処理方法に比較して最終段階で放流される処理水の悪化を生じさせることなく、設備の拡大や処理フローを複雑化させることなく、最終的に処理が必要となる汚泥の含水率を大幅に低減することで、汚泥処理にかかるコストを大幅に低減することが可能な、経済性に優れた、地球環境保護の点からも有用な有機性廃水の生物処理方法を提案している(特許文献1、2)。また、余剰汚泥を効率的に可溶化処理する方法についての提案もしている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5951986号公報
【特許文献2】特許第5951984号公報
【特許文献3】特開2000−61488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、余剰汚泥を可溶化処理する工程を設けた有機性廃水の生物処理方法によって、余剰汚泥量を大幅に減量できるが、実際の有機性廃水の処理に適用した場合に、処理水のリン濃度が上昇する傾向があることがわかった。
【0005】
ここで、活性汚泥処理水のリン濃度削減の方法としては、活性汚泥の曝気槽あるいは最終沈殿池入口に、鉄塩溶液又はアルミニウム塩溶液等の金属化合物を添加して、リン酸イオンを難溶性のリン酸鉄あるいはリン酸アルミニウム等の金属化合物として活性汚泥中に固定し、余剰汚泥とともに系外に引き抜くことが行われている。
【0006】
ところが、上記した余剰汚泥を可溶化処理する工程を設けた、余剰汚泥の排出量を削減あるいは排出しない運転を行う方法では、活性汚泥中に固定されたリンを系外に排出できないし、排出した場合は固定されたリンとともに活性汚泥も系外に引き抜いてしまうことになり、余剰汚泥削減の目的が達成できないことになる。
【0007】
したがって、本発明の目的は、余剰汚泥を可溶化処理する工程を設けた余剰汚泥量を簡便な方法で大幅に減量化させることが可能な、簡易且つ経済的な有機性廃水の処理方法において問題となる処理水のリン濃度が上昇する傾向を、簡便な方法で、効果的に抑制できる有機性廃水の生物処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、有機性廃水を、少なくとも、最初沈殿槽と、活性汚泥処理槽と、最終沈殿槽とを用いて行う活性汚泥処理方法において、最終沈殿槽で固液分離された余剰汚泥の一部又は全部を可溶化処理するための可溶化処理工程を設け、該可溶化処理工程で、汚泥を可溶化する処理中の汚泥に、あるいは、可溶化処理後の汚泥に、リン酸イオンを吸着及び/又は不溶化する物質を加えたのち、可溶化した汚泥を最初沈殿槽に戻すことを特徴とする有機性廃水の生物処理方法を提供する。
【0009】
本発明の有機性廃水の生物処理方法の好ましい形態としては、前記有機性廃水が、下水であること;前記リン酸イオンを吸着及び/又は不溶化する物質が、リン酸イオンと結合して不溶性あるいは難溶性の塩を形成する金属又は金属塩であること;前記リン酸イオンを吸着及び/又は不溶化する物質が、アルミニウム又は鉄及びこれらの塩からなる群から選ばれるいずれかであること、が挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、余剰汚泥を可溶化処理する工程を設けた余剰汚泥量を簡便な方法で大幅に減量化させることが可能な、簡易且つ経済的な有機性廃水の処理方法において、簡便な方法でありながら、処理水のリン濃度が上昇することを効果的に抑制できる有機性廃水の生物処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】余剰汚泥を一部引き抜く形態の本発明の処理方法を示すフロー図である。
図2】余剰汚泥を引き抜かず、すべて可溶化処理する形態の本発明の処理方法を示すフロー図である。
図3図2のフローに、最初沈殿槽からの沈殿物を嫌気性消化装置で処理する系を導入した形態の本発明の処理方法を示すフロー図である。
図4】実施例1の処理方法の処理のフロー図である。
図5】実施例2の処理方法の処理のフロー図である。
図6】比較例1の処理方法の処理のフロー図である。
図7】比較例2の処理方法の処理のフロー図である。
図8】実施例3の処理方法の処理のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明者らは、前記した、余剰汚泥を可溶化処理する工程を設けた有機性廃水の生物処理方法を、下水等の実際の有機性廃水の処理に適用した場合に、処理水のリン濃度が上昇する原因について鋭意検討を行い、得られた知見に基づき更なる検討を行った結果、本発明に至った。
【0013】
まず、上記処理において処理水のリン濃度が上昇する傾向がみられる理由は、下記のように考えられる。余剰汚泥を可溶化処理すると、汚泥中のリンも可溶化されるため、従来のように、可溶化処理した汚泥を最初沈殿槽に戻して処理すると、可溶化したリンが、例えば、処理対象である下水中に溶出し、その結果、最初沈殿槽出口の下水のリン濃度が上昇する。このため、リン濃度の高い下水が原水として活性汚泥処理槽(以下「曝気槽」とも呼ぶ。)に流入することになり、曝気槽の後の最終沈殿槽出口の処理水のリン濃度が上昇することになると考えられる。
【0014】
ここで、最終処理水のリン濃度の上昇を抑制する方法としては次に挙げるような方法がある。
1.曝気槽あるいは最終沈殿槽入口にアルミニウム塩等の金属化合物を添加して、リンを活性汚泥中に固定して、処理水のリン濃度の上昇を抑制する方法。
2.最初沈殿槽の入口にアルミニウム塩等の金属化合物を添加して、下水中のリンを金属塩として固定し、最初沈殿槽で沈降分離する方法。
【0015】
しかしながら、これらの方法では、下記のような課題がある。まず、上記した1.の方法の場合は、曝気槽の活性汚泥中にリンを固定したリン酸金属塩と水酸化金属が蓄積することになる。そして、系外へのリンの排出は、最終沈殿槽で固液分離された余剰汚泥中として排出される。そして、添加したアルミニウム塩等の金属の曝気槽への濃縮倍率は、曝気槽と最終沈殿槽に存在する全汚泥量を排泥量で除した倍率、すなわち、汚泥滞留時間(SRT)と等しくなる。具体的には、アルミニウム元素換算で3mg/l添加した場合、SRTが15日では、45mg/lのアルミニウムが曝気槽内に存在することになる。このため、下記に挙げる課題が生じる。
【0016】
第一に、このリンを固定した金属塩と水酸化金属が蓄積した汚泥を可溶化処理すると、可溶化処理によって金属が再溶解することになる。この結果、可溶化処理に要する電力あるいは薬剤の必要量が大幅に増加し、可溶化処理に要するコストアップの大きな要因になる。また、第二に、アルミニウム等の金属は活性汚泥としては不活性である上、活性汚泥微生物の活性を阻害する可能性もある。
【0017】
前記した2.の方法の場合は、下記の課題がある。この方法では、最初沈殿槽入口でのリンの濃度(量)を正確に把握しながら、金属塩等の注入量等を制御しなければならない。しかし、最初沈殿槽に流入する下水の量並びにリンの濃度は1日の間でも大きく変動し、また、可溶化処理した汚泥の量も常に一定とは限らず、間欠的に排出されるケースの方が多く、リンの濃度(量)を正確に把握することは難しい。そして、リンの濃度(量)を正確に把握できないと、下記の課題が生じる。すなわち、正確なリンの濃度(量)を把握せずに、金属塩等を定量で注入すると金属塩の過不足が起こり、適正にリンを除去することができなくなる。まず、不足する場合は、処理水のリン濃度を抑えることができない。一方、過剰であれば、コストの問題もさることながら、曝気槽の活性汚泥に必要なリンが不足し、健全な活性汚泥が育たず、廃水処理に支障をきたすことになる。
【0018】
また、最初沈殿槽に流入する廃水は有機物濃度が高いため、有機物が金属とリンの反応を阻害するため、曝気槽ないし最終沈殿槽で添加する場合よりも金属塩等の添加量が多くなるという問題もある。
【0019】
前記した1.の、リンを活性汚泥中に固定して、処理水のリン濃度の上昇を抑制する方法は、上記したように、汚泥を可溶化処理する工程を有する有機性廃水の生物処理方法においては不向きである。また、前記したように、2.の、下水中のリンを金属塩として固定し、最初沈殿槽で沈降分離する方法は、金属塩等の添加量が多くなることに加え、リンの濃度(量)を正確に把握が難しく、リン濃度が変動する実際の下水等に適用することは実際的でない。
【0020】
上記した課題に対し、本発明者らは鋭意検討した結果、最終沈殿槽で固液分離された余剰汚泥の一部又は全部を可溶化処理するための可溶化処理工程で、汚泥を可溶化する処理中の汚泥に、あるいは、可溶化処理後の汚泥に、リン酸イオンを吸着及び/又は不溶化する物質を加えたのち、可溶化した汚泥を最初沈殿槽に戻すという簡便な構成によって、上記した課題が一挙に解決できることを見出して本発明に至った。
【0021】
上記のように構成したことで、本発明の処理方法によれば、汚泥の可溶化処理工程を有するにもかかわらず、処理水中のリン濃度の向上を確実に抑制することができる。本発明の処理方法では、汚泥を可溶化する処理中の汚泥に、あるいは、可溶化処理後の汚泥に、リン酸イオンを吸着及び/又は不溶化する物質を添加する構成としているため、前記した1.の処理方法の場合のように、リンを固定した金属塩と水酸化金属を可溶化することにならないので、可溶化処理に要する電力あるいは薬剤の必要量が大幅に増加することがない。
【0022】
更に、本発明の方法は、リン酸イオンを吸着及び/又は不溶化する物質を加えた可溶化した汚泥を最初沈殿槽に戻す構成としているため、上記物質でリンを固定したリン酸金属塩等は、最初沈殿槽から出る初沈汚泥に含まれて系外に除かれるので、リンを固定するためのアルミニウム等の金属が曝気槽に導入されることを防止できる。この結果、前記した1.の方法で懸念された、活性汚泥微生物の活性を阻害することが生じない。また、可溶化処理した汚泥に対してリン酸イオンを吸着及び/又は不溶化する物質を加えているので、例え、添加する物質に過不足があったとしても、曝気槽における処理対象である下水等のリン分を固定して除去するものではないので、前記した2.の方法で懸念される問題も生じない。
【0023】
上記したように、本発明の方法では、リン酸イオンを吸着及び/又は不溶化する物質を加えた可溶化した汚泥を最初沈殿槽に戻すことで、上記物質でリンを固定したリン酸金属塩等を最初沈殿槽から出る初沈汚泥に含まれて系外に除かれる構成としているが、その際に、図3に示したように構成することも本発明の好ましい形態である。すなわち、図3に示した形態では、最初沈殿槽からの沈殿物を初沈汚泥濃縮槽で濃縮後、濃縮した汚泥を嫌気性消化装置に導入し、嫌気性消化法(メタン発酵法)で処理して、濃縮汚泥中の有機性の固形物を分解してメタンガスにし、液分を返流水として流入水とともに最初沈殿槽へ導入して、曝気槽で処理するように構成する。汚泥は脱水装置で脱水して脱水ケーキとする。このように構成することで、原水中の有機性固形物がより多く生物分解処理でき、その効率を高めることができると同時に、脱水ケーキの量を低減することができる。
【0024】
本発明の方法で使用するリン酸イオンを吸着及び/又は不溶化する物質としては、下記のものが挙げられる。まず、リン酸イオンを不溶化あるいは難溶化する、金属あるいは金属塩としては、鉄、アルミニウム、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、及びこれらの金属塩が挙げられる。より具体的には、硫酸鉄、ポリ硫酸鉄、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ソーダ、塩化亜鉛、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム及び水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0025】
また、リン酸イオンを吸着及び/又は固定化する物質としては、ゼオライト、カルシウムアパタイト、ハイドロタルサイト等が挙げられる。
【0026】
本発明の方法を構成する余剰汚泥の可溶化処理工程における可溶化の方法としては、従来公知のいずれの方法も用いることができる。汚泥の可溶化の方法としては、例えば、下記の方法等を挙げることができる。
(1)鉄塩と過酸化水素によるOHラジカル酸化による可溶化
(2)オゾン酸化による可溶化
(3)超音波による物理的破壊による可溶化
(4)ビーズミル等による機械的なすり潰し/破壊による可溶化
(5)塩素での酸化による可溶化
(6)アルカリによる可溶化
(7)酸による可溶化
(8)50〜90℃に加熱して可溶化
(9)高温高圧下で可溶化
【実施例】
【0027】
実施例と比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。これらの実施例によって本発明が限定されるものではない。以下、%とあるのは、特に断りのない限り、質量基準である。
【0028】
(実施例1)
本実施例では、図1に示したベンチプラントによる実験を行った。処理フローの概略としては、余剰汚泥の一部を可溶化し、残りの余剰汚泥は、初沈汚泥とともに脱水処理し、可溶化処理した汚泥にリン酸イオンを吸着及び/又は不溶化する物質を添加した。
【0029】
具体的には、下記のように処理した。処理する廃水として下水を用い、処理量500L/日を24時間均等かつ連続で処理を行った。図4に示したように、廃水を、まず、容量100Lの最初沈殿槽でSS分を沈降分離し、その後、容積250Lの曝気槽で活性汚泥処理を行い、容量200Lの最終沈殿槽で、活性汚泥と処理水を固液分離した。固液分離した処理水は放流し、沈降した活性汚泥は、返送汚泥として150L/日を曝気槽に戻した。返送汚泥量の3.5%に相当する5.25L/日を返送汚泥から分岐して、容積2Lの可溶化処理装置に送り、可溶化処理した。
【0030】
本実施例では、可溶化処理した処理後の汚泥に、ポリ塩化アルミニウム(PAC)をアルミニウム原子換算で連続的に1g/日添加した後、流入廃水と混合して最初沈殿槽に戻した。曝気槽のMLSSは1,800mg/lを維持するように、適宜に余剰汚泥を引き抜いた。可溶化処理装置での汚泥の可溶化処理は、硫酸でpH3に調整し、過酸化水素を、被処理汚泥の乾物換算量に対し5%添加して行った。
【0031】
(実施例2)
実施例1の処理で用いたと同じ規模の、図2に示したベンチプラントで、実施例1と同じ下水を原水として、具体的には図5に示したようにして有機性廃水の処理を行った。本実施例では、可溶化処理装置に送る汚泥量を、返送汚泥量の5%に相当する7.5Lとした。また、曝気槽のMLSSを1,800mg/lに維持するため、可溶化処理装置に送る汚泥量を変化させてMLSSを1,800mg/lに調整し、余剰汚泥としての排泥は行わなかった。上記した以外は、実施例1の処理方法と同一条件で廃水処理をした。可溶化処理汚泥に添加したPACも、実施例1と同じ1g/日とした。
【0032】
(比較例1)
本比較例では、図6に示したようにして、実施例と同じ下水を原水として処理した。具体的には、実施例2の条件を、PACの添加位置のみ最終沈殿槽の入り口に変更した以外は、PACの添加量、可溶化処理条件を含め、その他の条件はすべて実施例2で行ったと同様にして廃水処理を行った。
【0033】
(比較例2)
本比較例では、図7に示したようにして、実施例と同じ下水を原水として処理した。具体的には、比較例1の処理システムから可溶化処理装置を無くし、他の処理条件は、比較例1で行った処理と全く同じ条件で廃水処理を行った。
【0034】
(実施例1、2及び比較例1、2の処理による処理結果)
以上で行った実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2のそれぞれの処理方法を同時に3ヶ月間運転した。そして、後半の2ヶ月間の平均水質並びに脱水ケーキの日平均発生量(乾燥汚泥量換算)を測定し、その結果を表1にまとめて示した。
【0035】
【0036】
表1に示したように、処理水の水質は、SS並びにBODについては、実施例及び比較例とも2mg/l以下であり、総リンについては、いずれも1mg/l以下と、良好な結果が得られた。また、処理水の総窒素については大きな差は無く、11〜15mg/lであった。また、脱水ケーキの発生量(乾燥汚泥ベース)については、実施例2の処理方法の場合が69g/日と、最も発生量が少なく、最も発生量が多かった、汚泥の可溶化工程のない比較例2の処理方法の場合の92g/日に対して、25%削減された。同様に、実施例1の処理方法の場合についても、75g/日であり、比較例2の処理方法の場合に比べて18.5%減となった。
【0037】
比較例1の処理方法の場合は、可溶化した汚泥量は実施例2の処理方法の場合と同じであるにもかかわらず、脱水ケーキの発生量は実施例2より多い74g/日となり、可溶化汚泥量の少ない実施例1とほぼ同じ値となった。この原因は定かではないが、表1に示したMLSS中のアルミニウム含有量が異なることから、アルミニウム含有量が影響した可能性が推察される。すなわち、本発明者らは、可溶化処理過程で汚泥中に含まれるアルミニウムが、可溶化剤の反応に影響を与えたのではないかと推察している。実施例及び比較例のいずれの処理条件の場合も、アルミニウムの添加量は同一としていたのに対し、MLSS中のアルミニウム濃度は、実施例1及び実施例2の処理の場合は、いずれもMLSS中のアルミニウム含有量が0.1%と少なかった。これに対し、例えば、比較例1の処理の場合は、MLSS中のアルミニウム含有量が1.4%であり、実施例1の14倍の濃度を示すことがわかった。また、汚泥の可溶化工程を設けず、最終沈殿槽への導入経路でPACを添加した比較例2の方法でも、MLSS中のアルミニウム含有量が実施例の17倍の濃度を示し、いずれの方法も、曝気槽での活性汚泥微生物の活性を阻害することが懸念された。これらのことから、本発明の実施例の、汚泥の可溶化工程を設け、且つ、可溶化した汚泥にPAC等のリン酸イオンを吸着及び/又は不溶化する物質を加えることの有用性が確認された。
【0038】
(実施例3)
本実施例では、実際の下水処理施設に本発明の処理方法を適用して実施し、その効果について確認した。具体的には、図8に示した処理槽の構成で、実施例2と同様に余剰汚泥としての排泥は行わずに処理した。この処理施設は、計画流入水量7,000m3/日で、本発明の処理方法を適用して3ヶ月実施した期間の平均流入水量は5,600m3/日であった。図8に示したように、廃水は、まず、容量500m3の最初沈殿槽でSS分を沈降分離し、容積2,500m3の曝気槽で活性汚泥処理を行なった。この曝気槽は、直列4槽に区切られ嫌気好気法で運転されていた。容量1,500m3の最終沈殿槽で、活性汚泥と処理水を固液分離し、処理水は放流し、沈降した活性汚泥は返送汚泥として平均流量195m3/日を曝気槽に戻した。
【0039】
返送汚泥量の約5.1%に相当する10m3/日を返送汚泥から分岐して可溶化処理装置に送り、可溶化処理した。可溶化処理した汚泥にアルミン酸ソーダをアルミニウム原子換算で連続的に12kg/日添加した後、流入廃水と混合して最初沈殿槽に戻した。曝気槽のMLSSは1,800〜2,200mg/lに維持されていた。MLSSを下げる場合は、可溶化処理装置での処理汚泥量を増やし、逆に上げる場合は処理汚泥量を減らすことで調整し、余剰汚泥の排泥は行わなかった。可溶化処理装置では苛性ソーダでpH10に調整し、酸素酸系酸化剤を被処理汚泥の乾物換算量に対し1%添加して、汚泥を可溶化した。最初沈殿槽から排泥される初沈汚泥は、重力濃縮後脱水処理されている。本実施例で実施した1ヶ月間の処理後の平均水質並びに脱水ケーキの日平均発生量(乾燥汚泥量換算)を表2に示した。
【0040】
(比較例3)
表2中に、比較例3として、同じ下水処理場で本実施例の適用試験を行う前年の1年間の水質分析結果と、汚泥発生量とMLSS中のアルミニウム濃度を示した。なお、比較例3では処理水のリン対策として、最終沈殿槽の流入部分にPACをアルミニウム原子換算で2〜3mg/lを連続的に注入していた。
【0041】
【0042】
表2に示したように、実施例3及び比較例3の方法とも、処理水の水質は、SS並びにBODは2mg/l以下であり、また、総リンについても1mg/l以下であり、いずれも良好な結果であった。総窒素についても、実施例3の方法の場合が3.2mg/lで、比較例3の方法の場合が3.5mg/lと、いずれも良好な結果であった。これに対し、脱水ケーキの発生量(乾燥汚泥ベース)では、実施例3の方法の場合が690kg/日であったのに対し、比較例3の方法の場合は885kg/日であり、実施例3の脱水ケーキ量が20%以上少なく、汚泥量の削減効果も認められた。MLSS中のアルミニウム濃度は、実施例3の方法の場合が0.2%であったのに対し、比較例3の方法の場合は1.5%であり、実施例3の方法の場合の方が低濃度であることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8