【実施例】
【0016】
図1は、編目抑止板1の概略的な構成を示す。
図3で後述する編目抑止板1の使用状態では、
図1での横方向が編幅方向となり、縦方向が編針の進退方向となり、上方側が歯口に臨む平坦な天歯1aとなる。編目抑止板1は、編幅方向に細長く延びる板状の形状を有し、図の裏面側が編針13の底面側に当接し、編幅方向に往復移動が可能である。編目抑止板1には、隣接する指袋間で、指股の一部の編目が重なる股重ねを編成する際に用いられる編目抑止溝2が形成されている。編目抑止溝2は、先に編成された指袋の編目を抑えるために歯口側で編幅の一方、図では右方に延びるように設けられる係止片部3、係止片部3の内側縁3aと、内側縁3aに編幅の他方側で連なる奥端部4と、奥端部4に連なり、内側縁3aに歯口から離れる方向に間隔を開けて対向する平行部5とで、概ねU字状に囲まれる。
【0017】
本実施例の編目抑止板1は、平行部5の一方側に斜行部6を有するとともに、平行部5と斜行部6との間に、図の下方、すなわち歯口から離れる方向に傾斜する段差部7を有する。斜行部6は、係止片部3の先端3bから編幅の一方に間隔をあけた位置の開始端6aから編幅の他方で段差部7に連なる終了端6bまで、歯口から離れるように傾斜する。段差部7の高低として、平行部5から終了端6bまでで、編糸の径と同程度、歯口から離すようにする。
【0018】
ただし、編幅方向について、係止片部3が延びる長さ、および編目抑止溝2の奥端部4から斜行部6の開始端6aまでの長さなどの基本寸法は、従来からの編目抑止板と同一にする。手袋編成用の編目抑止板を備えた横編機では、編目抑止板を指袋の編成と連動して編幅方向に移動させる機構が設けられている。基本寸法を従来からの編目抑止板と同一にしておくことによって、本実施例の編目抑止板1を従来からの機構でも同様に駆動することができる。また、段差部7の位置を、係止片部3の先端3bよりも編幅の一方側にして、平行部5を係止片部3の先端3b付近まで形成してもよい。
【0019】
編目抑止板1の移動で、編目抑止溝2内に導かれた編目は、編針が進退しても、平行部5と対向する係止片部3の内側縁3aとの間に抑止される。しかしながら、抑止される編目は、編針が先端のフックを歯口に進退させて新たな指袋の編目を編成する際に、編針の動きに伴って連れ動きを繰り返す。編糸が細くなると、連れ動きの結果、平行部5と針床との間で編糸の挟み込みが発生するおそれがある。本実施例では平行部5で挟み込みが発生しても、挟み込まれた編目は、高低差を設けた段差部7を通過する際に抜出すので、解放させることができる。
【0020】
特許文献1の
図1や
図2に示されるように、従来は段差部7が設けられていないとともに、斜行部は係止片部の先端付近まで形成されている。股重ね編成が終了すると、編目抑止板1を編幅の他方に移動させる。編目抑止溝2内に抑止されていた編目は、斜行部6に沿って上昇し、斜行部6の開始端6aを越えると平坦な天歯1aの部分に戻る。本実施例では、段差部7を、係止片部3の先端3bよりも編幅の他方側に有する。段差部7に続く斜行部6も、係止片部3の先端3bよりも編幅方向の他方に入り込むまで形成されている。さらに本実施例の場合、平行部5の位置を内側縁3a側に近付けて編目抑止溝2を従来よりも狭くしているので、斜行部6の傾斜角度を従来よりも緩くすることもでき、斜行部6に沿って移動する編目に掛る負担を軽くすることができる。平行部5の位置が従来の編目抑止溝と同様で編目抑止溝が広い場合でも、段差部7を平行部5と斜行部6との間に設ければ、平行部5で挟み込まれた編目を段差部7で解放させることができる。
【0021】
図2は、
図1の編目抑止板1で、編目抑止溝2付近の構成を、(a)の平面図、(b)の正面図、および(c),(d)の側面断面図でそれぞれ示す。なお、(c),(d)は、(b)に示す切断面線C−C,D−Dから見た断面構成をそれぞれ示す。
【0022】
(c)に示すように、編目抑止溝2で内側縁3aと平行部5との間隔は、編目抑止板1が編針の裏面に当接する一面である裏面側Aiで狭く、他面である表面側Aoで広くなる。
図3で後述するように、針床は歯口側が高くなり、歯口を挟んで前後の針床がハの字状に対向する。使用状態の編目抑止板1は、裏面側が上面で天歯1aが歯口側となり、編針に並行するように配置される。編目抑止溝2に抑止する編目に連なって歯口下方に垂れ下がる編地は、編針の裏面に当接する一面側とは逆の他面側で内側縁3aと平行部5との間隔が広くなっているため、部材に擦れることなく、ストレートに垂れ下がり、負担を軽減して係止することができる。
【0023】
(d)に示すように、斜行部6は、裏面側の上縁部6cの板厚を薄くするために、裏面側から表面側にかけての断面形状が傾斜面となるようにしている。指股編成後に編目を天歯1aに戻すように案内する斜行部6を傾斜面として、かつ上縁部6cの板厚を薄くすることによって、編目を円滑に案内して巻込み難くすることができる。
【0024】
図3は、
図1の編目抑止板を備えた横編機10の概略的な構成を示す。横編機10の針床は、基板11にニードルプレート12が立設されて形成される。ニードルプレート12は、図の奥行方向である編幅方向に一定の間隔をあけて設けられ、ニードルプレート12間に編針13を収容する針溝が形成される。このような針床は、歯口10aを挟んで、対をなすように対向するけれども、一方の針床のみを示す。針溝内で、編針13は先端のフック13aを歯口10aに進退させて、フック13aに受ける編糸で編目を形成する。編成された編目は、歯口10aから垂れ下がる編地20に連なる。編針13が針溝から抜けないように、帯金14で上方から押えている。ニードルプレート12には、歯口10a側に先端部12a、帯金14の部分に帯金受け部12bがそれぞれ設けられている。
【0025】
編目抑止板1は、基板11の歯口10a側に設けられ、裏面側から裏面受け部材15、上方から上方受け部材16によって、編針13の底面側に当接するように保持される。ただし、上方受け部材16は、基板11の取付部11aに取付けられる。取付部11aは、針床で、ニードルプレート12が立設されて編針13が収容される区間の外側に形成されている。編目抑止溝2は、
図2(c)のような断面形状を有するので、係止する編目に連なる編地20を、与える負担を軽減して歯口10aに垂下させることができる。同様に、
図2(d)の断面に示す斜行部6の傾斜も、編地20を歯口10aで円滑に垂下させることに寄与する。
【0026】
図4は、
図3の横編機10に使用するニードルプレート12の構成を示す。
図5は、
図4のニードルプレート12の歯口側先端付近の構成を示す。ニードルプレート12は、下部12cを基板11に設けられる溝に嵌合させて、保持される。先端部12aは、基板11よりも歯口10a側に位置し、前端の下部に逃がし加工部12dを有する。逃がし加工部12dは、編目抑止溝2に係止された編目が斜行部6に沿って天歯1aに抜けて、新たに編成された編目と円滑に重ね目を形成しやすくする。