【実施例】
【0082】
<実施例 1>
鉄粉1モルを燐酸3モルと水1L(リットル)とからなる燐酸水溶液に溶解させ、この溶液に30重量%の過酸化水素水を、鉄を三価イオンに酸化するのに必要な量加えて、薄すみれ色のFe(H
2PO
4)
3水溶液を調整した。これに尿素5モルを溶解させ、比重1.22(25℃)の、木材に難燃性を付与するための含浸液Aを調製した。この含浸液Aを用いて、12mm厚の杉辺材板(以下、「12mm厚の杉辺材板」を単に「杉板」とも云う。)および経木(杉の薄板:厚さ約0.2mm。以下、「経木」とも云う。)に常温で真空含浸処理をおこなった。すなわち、これら杉材を含浸液Aに浸漬させた状態で減圧容器に入れ、気圧:30hPaまで減圧し、そのまま30分保ち、その後、常圧に戻した。なお、以下、真空含浸処理における減圧条件は、特に記載がない限り、この実施例1での真空含浸処理と同じである。
【0083】
次いで、これら杉材の表面の残余液をふき取った後、熱風乾燥機で90℃〜150℃の範囲で、30分〜10時間の範囲で加熱処理を行った。
【0084】
この加熱処理後のサンプルを水に浸漬して、燐酸分および鉄分の溶出試験を行った。その結果、90℃で10時間の加熱処理を行ったサンプル(杉板)では、燐酸イオンの溶出は認められたものの、鉄イオンは溶出せず、鉄が木材内に固定化されたことが確認された。このときの鉄は、FeHPO
4・H
2PO、および、FePO
4として固定化されたと考察される。すなわち、ここでは尿素の加水分解反応により鉄化合物の固定化が達成された。
【0085】
また、加熱処理温度を150℃としたサンプルでは、30分と短い加熱処理時間とした場合であっても、鉄イオンのみならず燐酸イオンの溶出もなく、これらの木材内部での固定化が確認された。
【0086】
これら溶出テストの結果は、150℃の加熱処理では、尿素の加水分解によって燐酸が単純に中和されるだけではなく、セルロースと燐酸とが反応してセルロース燐酸エステルが生成していることを示す。
【0087】
上記の2つの条件で真空浸漬処理−加熱処理が施された経木及び杉板は、すべて含浸液Aと同じ系統の薄スミレ色に着色されていた。さらに、処理された杉板についてその中央部を切断して断面を確認したところ、内部まで着色されていた。また、この中央部について、蛍光X線分析装置を用いて調べたところ、リンおよび鉄の存在が確認された。これら結果から、リン成分、および、鉄成分が木材内部まで侵入し、かつ、固定化されていることが確認された。
【0088】
木材中に含浸された鉄の濃度分布状況は蛍光X線分析により、非破壊的に、比較的簡単に測定できる。このため、上記のように鉄と燐酸とを同時に含浸させた場合、難燃化剤である燐酸の分布状況を、上記鉄の存在量、および、用いた含浸液中の鉄と燐酸との比率から知ることができる。すなわち、上記のように鉄と燐酸とを同時に含浸すれば、三価の鉄(Fe(III))は、木材に対して色彩的に大きい影響を与えない難燃剤モニターとして用いることができ、難燃化木材製造の非破壊検査による品質管理に応用できる(特許文献2)。
【0089】
上記で、含浸処理後、150℃で30分間の加熱処理された経木について、難燃性UL−94規格に準拠した難燃性テスト(以下、「難燃性テスト」とも云う。)を行ったところ、残炎はなく、その評価結果は最高評価のV−0を満足する(以下、単に「V−0を満足する」とも云う。)極めて優れたものであった。このように、残炎が全くないことは、きわめて優れた自己消火性を有することを示す。
【0090】
ここで、十数年前から現在にいたるまで、日本における一般火災原因の一位は「放火および放火疑い」であり、二位は「タバコの火の不始末」である。このような難燃性UL−94規格の評価V−0を有する材料が普及すれば、これら主要原因に起因する火災の大部分を解消させることができる。
【0091】
一方、上記で含浸処理後、90℃で10時間加熱処理された杉板について、ISO−5660−1に準拠したコーンカロリメーターによる発熱性評価テスト(以下、「発熱性評価テスト」とも云う。)を行ったところ、5分間の総発熱量は2.08MJ/m
2、最大発熱速度は9.78kw・m
2であった。さらに、含浸処理後に150℃で30分間の加熱処理がされた杉板では、10分間の総発熱量は3.36MJ/m
2であり、最大発熱速度は10.11kw/m
2であり、さらに、これら試験中に杉板の裏面に達する亀裂や孔は発生しなかった。このため、前者は内装材の難燃規格RM、後者は準不燃規格QM(それぞれ、5分間あるいは10分間の総発熱量が8MJ/m
2以内、最大発熱速度200kw/m
2以内、であることが要求される)を満足させることができた。
【0092】
<実施例 2>
無水クロム酸2モル、燐酸6モルを0.5Lの水に溶解し、これにヒドラジン1.5モルを少量ずつ添加して、六価クロムを三価クロムに還元させて、酸性燐酸クロム(Cr(H
2PO
4)
3)水溶液を調整し、さらに、この水溶液に尿素6モルと水とを加え、全容量を2Lとして含浸液Bを得た。この含浸液Bの比重は1.29(25℃)であった。この含浸液Bを用いた以外は実施例1と同様に、経木および杉板に常温で真空含浸処理を行った。
【0093】
また、この含浸液Bを用いて、2枚の40mm厚の杉辺材板に対して同様に真空含浸心処理を行った後、含浸液Bに浸漬した状態のまま、圧力容器内に移して、0.7MPaに加圧処理を実施して真空−加圧含浸処理を行った。ここで、真空含浸処理のみならず、加圧含浸処理を併用したのは、板厚が40mmと厚い杉辺材板の内部まで含浸液を浸透させるためである。
【0094】
これら含浸処理を行った木材について、さらに、実施例1同様に加熱処理を行った。これら処理後の木材に対してクロムイオンおよび燐酸イオンの溶出の有無について調べたところ、実施例1と同様に、90℃、10時間の加熱処理を行ったサンプルではクロムイオンは溶出せず、燐酸イオンの溶出は認められた。このことから、クロムが木材内に固定化されたことが確認された。このときのクロムは、CrHPO
4・H
2PO
4、および、CrPO
4として固定化されたと考察される。すなわち、ここでは尿素の加水分解反応によりクロム化合物の固定化が達成された。
【0095】
また、加熱処理温度を150℃としたサンプルでは、短時間(30分間)の処理品であっても、クロムイオンのみならず燐酸イオンの溶出もなかった。
【0096】
また、上記で真空−加圧含浸処理後に加熱処理を行った40mm厚さの杉辺材板の中央部を切断し、その断面の中央について、蛍光X線分析装置を用いて調べたところ、クロムおよびリンの存在が確認された。これら結果から、クロム成分およびリン成分が木材内部まで侵入し、かつ、固定化されていることが確認された。
【0097】
上記の、含浸後に150℃で30分間の加熱処理を行った経木について行った、難燃性UL−94規格に準拠した難燃性テストでは残炎はなく、その結果は実施例1同様にV−0を満足するものであり、優れた自己消火性を有していることが確認された。
【0098】
また、含浸処理後に150℃で30分間の加熱処理を行った杉板の発熱性評価テストでは、5分間の総発熱量は1.46MJ/m
2であり、また、最大発熱速度は9.70kw/m
2であった。このように、このサンプルでは、内装材の難燃規格RM(それぞれ、8MJ/m
2以下、200kw/m
2以下)を十分に満足した。
【0099】
上記2枚の40mm厚の杉辺材板サンプルについて発熱性評価を行ったところ、10分間の総発熱量がそれぞれ4.92MJ/m
2、および、6.59MJ/m
2であり、最大発熱速度は14.20kw/m
2、および、18.17MJ/m
2であって、内装材の準不燃規格QMを満足した。
【0100】
上記の酸性燐酸クロム−尿素系の難燃化含浸液の特徴は、含浸された木材が緑色に着色されることである。単純に難燃化剤成分である燐酸成分含有量を知るための蛍光X線分析のモニターとしてクロム(Cr)化合物を添加するのであれば、添加量はこの実施例の十分の一以下であってもよい。しかし、燐酸に対して、上記程度、すなわち、かなり多量にクロムを含む場合では、含浸処理された木材はその緑色の濃さを、例えば、予め作製した標準サンプルと視認により比較することによって、特別な分析装置なしでも、おおよその燐酸成分含有量を知ることができる。
【0101】
<実施例 3>
酸性燐酸アルミ(Al(H
2PO
4)
3)−尿素系の含浸液を調整した。すなわち、水酸化アルミニウム1モルを50重量%−燐酸水溶液(燐酸3モル相当量)に溶解させた後、尿素6モルと水を加えて含浸液C(比重:1.26(25℃))を調製した。
【0102】
この含浸液Cを用いた以外は、実施例2における40mm厚さの杉辺材板に対して行った処理と同様にして、常温で経木および杉板に真空―加圧含浸処理を行った。その後、150℃で30分間の加熱処理を行い、含浸処理サンプルを得た。これらサンプルには、含浸処理による着色はなかった。
【0103】
また、これらサンプルについて溶出試験を行ったところ、アルミニウムイオンは水中に溶出せず、アルミニウムが木材内に固定化されたことが確認された。このときのアルミニウムは、AlHPO
4・H
2PO
4、及び、AlPO
4として固定化されたと考察される。さらに、燐酸イオンの溶出も認められなかった。
【0104】
また、上記で真空含浸処理後に加熱処理を行った杉板の中央部を切断し、その断面の中央について蛍光X線分析装置を用いて調べたところ、リンおよびアルミニウムの存在が確認された。これらから、リン成分、および、アルミニウム成分が木材内部まで侵入し、かつ、固定化されていることが確認された。ここでは尿素の加水分解反応によりアルミニウム化合物の固定化が達成された。
【0105】
上記で含浸処理された経木に対するUL−94準拠の難燃性テストは、V−0を満足する結果であった。また、含浸処理された杉板のISO−5660−1に準拠した発熱性評価では、5分間の総発熱量が1.49MJ/m
2であり、内装材の難燃規格RM(8MJ/m
2以内)を十分に満足する結果であった。
【0106】
<実施例 4>
酸性燐酸マグネシウム(Mg(H
2PO
4)
2)−尿素系の含浸液を調整した。すなわち、すなわち、水酸化マグネシウム1モルを水に分散させたスラリーに、75重量%の燐酸水溶液を燐酸2モル相当量混合して溶解させ、これに尿素4モルを添加して含浸液D(比重:1.24(25℃))を調製した。
【0107】
この含浸液Dを用いた以外は、実施例3における40mm厚さの杉辺材板に対して行ったのと同様に、常温で経木および杉板に真空−加圧含浸処理を行った。その後150℃で30分間の加熱処理を行い、含浸処理サンプルを得た。これらサンプルには、真空−加圧含浸・加熱処理による着色はなかった。
【0108】
また、これらサンプルについて溶出試験を行ったところ、マグネシウムイオンは溶出せず、マグネシウムイオンが木材中に固定されたことが確認された。このときマグネシウムは、MgHPO
4、および、Mg
3(PO
4)
2として固定されたと考察される。さらに、燐酸イオンの溶出も認められなかった。すなわち、ここでは尿素の加水分解反応によりマグネシウム化合物の固定化が達成された。
【0109】
また、上記で真空含浸処理後に加熱処理を行った杉板の中央部を切断し、その断面の中央について、蛍光X線分析装置を用いて調べたところ、リンおよびマグネシウムの存在が確認された。これらから、燐成分、および、マグネシウム成分が木材内部まで浸入し、かつ、固定化されていることが確認された。
【0110】
上記で真空−加圧含浸・加熱処理された経木の難燃性テストの結果は、V−0を満足するものであった。また、真空−加圧含浸・加熱処理された杉板の発熱性評価の結果は、5分間の総発熱量が1.47MJ/m
2であり、内装材の難燃規格RMを十分に満足した。
【0111】
<実施例 5>
酸性燐酸銅(Cu(H
2PO
4)
2)0.1モル、燐酸1.6モル、ホウ酸1モル、尿素6モルを水に溶解させ、さらに水を加えて全量を1Lに調整して含浸液Eを得た。この含浸液Eの比重は1,20(25℃)であった。この含浸液Eを用いたこと、及び、常温ではなく35℃で行った以外は実施例1と同様にして、経木および杉板に対して真空含浸処理を行い、その後、温度を変えて加熱処理(90〜150℃、60分間)を行った。上記で真空含浸処理を35℃で行ったのは、低温ではホウ酸の溶解度が小さいので、十分な量の含浸ができないためである。
【0112】
このような含浸液Eを用いて真空含浸・加熱処理を行った木材(木質材料)は、防腐、防虫、抗菌、および、防燃の機能を有する。
【0113】
上記で得られた真空含浸・加熱処理されたサンプルについて溶出試験を行ったところ、90℃での加熱処理品では燐酸、および、ホウ酸の固定は達成されていなかった。150℃の加熱処理品ではこれらすべての溶出が認められず、さらに木材の色調が赤褐色化していた。このことから、150℃以上で、セルロースの燐酸エステル化反応だけでなく、セルロースの糖化反応も少なくとも一部生じて銅イオンが還元されて銅の微粒子として木材内に固定されることが確認された。なお、真空含浸処理後に加熱処理を行った杉板の中央部を切断し、その断面について調べたところ、断面の中央でも銅及びリンの存在が確認された。また、同じ断面中央部分について化学分析を行ったところ、ホウ素が確認された。これら結果より、これら元素を有する化合物が木材内部まで侵入し、かつ、固定化されたことが確認された。すなわち、ここではセルロースのエステル化反応とセルロースの糖化反応とにより銅化合物の固定化が達成された。
【0114】
なお、上記のようにホウ酸と共に銅を含浸させることにより、蛍光X線分析などにより非破壊で検出できる銅を、防虫剤及び防腐剤として機能するホウ酸の含浸状況を知る上でのモニターとして用いることができることが理解される。
【0115】
上記で真空含浸・加熱処理を行った経木の防燃テストではV−0を満足する結果であった。また、真空−加圧含浸・加熱処理された杉板の発熱性評価結果は、5分間の総熱量が1.47MJ/m
2であり、内装材の難燃規格を十分に満足した。
【0116】
<実施例 6>
硫酸チタニル(TiOSO
4)、硫酸(H
2SO
4)、尿素、水からなる含浸液Fを調整した。具体的には、市販の硫酸チタニル(テイカ社製)を水に溶解させ、これに尿素を相溶させて調製した。この含浸液Fを用いて経木および杉板に常温で真空含浸処理を行い、その後、90℃で240分間の加熱処理を行った。一部のサンプルについて溶出試験を行ったところ、硫酸チタニルの不溶化が確認されたものの、硫酸イオンは溶出した。そのため、150℃での加熱処理を30分間行ったところ、酸性硫酸イオンの溶出もなくなった。このような結果から、150℃での加熱処理により、尿素の加水分解による硫酸の中和だけでなく、木材のセルロースの硫酸エステル化反応が生じたと考察される。すなわち、ここではセルロースのエステル化反応によりチタン化合物の固定化が達成された。
【0117】
なお、真空含浸処理後に150℃で加熱処理を行った杉板の中央部を切断し、その断面について蛍光X線分析装置により調べたところ、断面の中央でもチタンと硫黄の存在が確認された。これら結果より、これら元素を有する化合物が木材内部まで含浸され、かつ、固定化されたことが確認された。しかもX線回折分析の結果、固定されたチタンは、アナターゼ型の酸化チタンであることが確認できた。
【0118】
このように不溶化によって生成した酸化チタンは、光触媒として機能し、殺菌、抗菌、防汚、防臭の機能を有する。
なお、真空含浸処理後に150℃で加熱処理した経木に対する防燃テストでは、その最高レベルの評価であるV−0を満足した。
【0119】
<実施例 7>
水に、酸性燐酸バリウム(Ba(H
2PO
4)
2):0.15モル、燐酸:0.8モル、尿素:1モルを加えて、比重1.14の含浸液Gを調整した。この含浸液Gを用いて経木に常温で真空含浸処理を行った。その後150℃で加熱処理したサンプルについて溶出試験を行ったところ、バリウム、及び、燐酸がともに溶出せず、これらの固定が確認された。すなわち、ここでは尿素の加水分解反応およびセルロースの燐酸エステル化反応により、バリウム化合物の固定化が達成された。
【0120】
このようにバリウム(Ba)や鉛(Pb)等の重金属を内部に固定化した木材には放射線の遮蔽効果がある。また、上記で処理された経木について防燃テストを行ったところ、その結果は最高レベルの評価であるV−0を満足した。
【0121】
なお、有機重金属塩と尿素とを含む含浸液を含浸させた木材も加熱により、重金属化合物を内部に固定化できる。
【0122】
<実施例 8>
0.15モル/L−シュウ酸第二鉄水溶液、0.2モル/L−シュウ酸アルミニウム水溶液、及び、0.2モル/L−シュウ酸クロム水溶液の3種類の水溶液をそれぞれ調製し、これらをそれぞれ含浸液H1〜H3として用いて常温で経木および杉板に真空含浸処理を行った。その後、110℃、あるいは、170℃でそれぞれ120分間の加熱処理を行った。これら処理品について溶出試験を行ったところ、これらすべてで、それぞれ第二鉄イオン、アルミニウムイオンあるいはクロムイオンの溶出は認められず、それぞれ鉄、アルミニウムおよびクロムの固定が確認された。ただし、鉄を含むもの、及び、クロムを含むものは、黒系色に着色した。すなわち、ここではシュウ酸塩の熱分解反応により鉄化合物、アルミニウム化合物、あるいは、クロム化合物の固定化が達成された。この真空含浸処理後に加熱処理されたこの経木について燃焼テストをしたところ、易可燃性であることが判った。
【0123】
また、これら処理品はいずれもより多孔質になった。これはシュウ酸塩が熱分解したときにCOガス及びCO
2ガスが生成し、これらが木材の外部に抜ける際に形成された孔によるものである。なお、このような鉄、アルミニウム、あるいはクロムが固定化された木材(木質材料)は、上記着色以外に、易可燃性、易含浸性などの機能性を有する。
【0124】
<実施例 9>
モリブデン酸アンモニウム塩を10g、0.5モル/L−燐酸水溶液に加えて含浸液Iを調製した。この含浸液Iを用いて常温で経木および杉板に真空含浸処理を行い、その後、90℃の加熱処理を15時間行った。処理後に溶出試験を行ったところ、モリブデン酸塩の溶出は認められず、固定が確認された。さらに上記で処理された杉板の中央部を切断し、その断面中央でも周辺同様にモリブデンによる青系の着色が観察された。また、同様に断面中央でもリンの存在が、蛍光X線分析により確認された。これら結果より、これら元素を有する化合物が木材内部まで含浸され、かつ、これら元素が固定化されたことが確認された。ここでは、セルロースの糖化と、これによるモリブデン酸の還元反応によりモリブデン化合物の固定化が達成された。
【0125】
さらに、この真空含浸処理後に加熱処理された経木について燃焼テストを行ったところ、その結果は最高レベルのV−0を満足した。また、処理された杉板については、発熱性評価テストを行ったところ、難燃レベルとの評価であった。
【0126】
<実施例 10>
酸性クロム燐酸、シュウ酸クロム、および、尿素を有する含浸液Jを調製した。すなわち、酸性燐酸クロム(Cr(H
2PO
4)
3)を0.5モル/L、シュウ酸クロム(Cr
2(C
2O
4)
3)を0.1モル/L、及び、尿素(Urea)を3モルを/Lとなるように水に溶解して含浸液Jを調製した。この含浸液Jを用いて、上記同様に経木および杉板に対して含浸処理を行った後、150℃で120分間の加熱処理を行った。
【0127】
さらに同様に溶出試験を行ったところ、クロム、および、リンの溶出は認められなかった。また、蛍光X線分析と化学分析とを行ったところ、燐酸クロムが木材内部にも固定化されていることが確認された。
【0128】
また、含浸処理後に加熱処理された木材表面を水で濡らし、pH試験紙で液性を調べたところ、中性(pH=6〜7)となっていることが判った。このことから上記加熱処理により尿素の加水分解が進行し、生成したシュウ酸アンモニウムが熱分解したことが確認された。すなわち、ここでは可溶性金属有機化合物であるシュウ酸塩の熱分解反応によりクロム化合物の固定化が達成された。
【0129】
さらに、シュウ酸根の溶出が認められなかったことから、含浸液に燐酸塩とシュウ酸塩とを混合配合した効果、すなわち、シュウ酸アンモニウムの熱分解によってシュウ酸根が消失し、クロムの含有率の高い燐酸塩が生成したと云う現象が確認された。また、含浸・加熱処理の結果として、かなり緑色の濃い木質表面とコントラストのはっきりした木目とを有する木質材が得られた。
【0130】
また、上記で含浸処理後に加熱処理された経木での燃焼テストの結果は最高レベルのV−0を満足し、上記で浸漬処理後に加熱処理された杉板での発熱性評価テストでの結果は不燃規格を十分に満足した。
【0131】
<実施例 11>
(ケイ酸塩水溶液に尿素を相溶させた含浸液での実施例)
アルカリ金属と珪酸とからなるケイ酸塩が尿素と共存する溶液を木材に含浸させ、加熱処理によって尿素を加水分解させるとアンモニアガスと炭酸ガスとが発生し、このうちの炭酸ガスによって、アルカリ金属イオン、すなわち、リチウムイオン(Li
+),ナトリウムイオン(Na
+),あるいは、カリウムイオン(K
+)が炭酸塩(炭酸イオンCO
3-との塩)となって中和され、その結果、珪酸成分が不溶化し、木材内で固定化される。
【0132】
一方、アルカリ金属の炭酸塩は水溶性であるので、溶出試験を行えば、アルカリ炭酸塩は溶出する。また、上記加熱処理で分解しなかった残存尿素は、珪酸ナトリウムによる木材の硬化効果の発現を穏やかにする効果があり、含浸処理後に加熱処理を行った木材にやわらかい風合いを維持させる。このようにやわらかい風合いを維持させることにより、のこぎりやかんなによる加工が行えるようになり、また、釘打ちすることができる。なお、このように尿素が残存するようにするためには、用いる含浸液における尿素の混合割合、加熱処理温度、加熱処理時間等の条件を選定する。
【0133】
3号珪酸ナトリウム(珪酸とナトリウムとのモル比:SiO
2/Na
2O=3.0)とポリメタ燐酸ナトリウムとを混合し、水の存在下で加熱処理すると、ポリメタ燐酸ナトリウムが加水分解して弱酸性の燐酸二水素ナトリウム(NaH
2PO
4)を生成し(下記反応式(8)参照)、生成した燐酸二水素ナトリウムは珪酸ナトリウムを中和して珪酸ナトリウムを不溶化させる。
【0134】
[化8]
(NaPO
3)n + nH
2O → nNaH
2PO
4 ……(8)
ただし、式中nは3以上の整数(以下同じ)
【0135】
ポリメタ燐酸ナトリウムにおけるメタ燐酸と二酸化ナトリウムとの存在において、メタ燐酸が二酸化ナトリウムと同量ないし多い(P
2O
5/Na
2O≧1)と、鎖状のポリ燐酸ナトリウムであっても、加水分解して珪酸ナトリウムを不溶化できる。本実施例では、3号珪酸ナトリウムと珪酸リチウムとにヘキサメタ燐酸ナトリウムと溶解して調製した水溶液であるプラセラム社製の金属鋳物用含浸剤「セラミックシーラントCS−3」に尿素を配合した含浸液Kを使用した。尿素の配合量としてはセラミックシーラントCS−3に対して30重量%である。
【0136】
このような含浸液Kを用いて、常温で真空含浸処理を行った後、120℃での加熱処理を60分間行った杉板について溶出テストを行ったところ、ケイ酸ナトリウムの溶出は認められなかった。すなわち、ここではポリ燐酸塩の加水分解反応によりナトリウム化合物の固定化が達成され。また、処理された経木の難燃性テストの結果は最高レベルのV−0を満足し、同じ含浸処理および加熱処理を行った杉板も発熱性評価テストで難燃性以上との評価となった。
【0137】
また、含浸処理および加熱処理を行った杉板について、その風合いの評価を行った。すなわち、含浸−加熱処理を行う以前の杉板と手触り感触を比較した結果、この杉板では上記のような含浸−加熱処理を行ったにもかかわらず柔軟な風合いが維持されていることが確認された。
【0138】
<実施例 12>
アルミン酸ナトリウムとメタ燐酸ナトリウムを溶解させた含浸液を用いて、含浸−加熱処理試験を行った。すなわち、アルミニウムとナトリウムとのモル比(Al/Na)が0.58のアルミン酸ナトリウムの45重量%水溶液300gと、ヘキサメタ燐酸ナトリウムの40重量%水溶液240gを相溶させて含浸液Lとして、経木および杉板に真空含浸処理を行った。その後、100℃で15時間の加熱処理を行ったものについて溶出試験を行ったところ、アルミニウムの溶出はなく、固定化が確認された。しかし、強アルカリ性の燐酸ナトリウムが溶出したので、5質量%−硫酸アルミニウム水溶液に浸漬すると、燐酸ナトリウムの溶出もなくなった。ここでは酸性塩とアルカリ塩の複合ゲル化反応によりナトリウム化合物の固定化が達成された。このような処理を行った経木は、難燃性テストの結果は最高レベルのV−0を満足した。
【0139】
<実施例 13>
硫酸チタニル硫酸酸性水溶液を水酸化ナトリウム水溶液で中和して得た水酸化チタニルに、過酸化水素水を作用させると透明な水溶液となる。一般にチタニル塩に過酸化水素水を作用させると、水溶性となる。水酸化チタニルに過ホウ酸ナトリウムを作用させて得た、ペルオキソチタニルホウ酸ナトリウム水溶液を含浸液Mとして、経木および杉板に真空含浸処理を行った。含浸処理後に120℃の加熱処理を120分間行った。処理品についてX線回折分析を行った結果、アナターゼ型酸化チタンが杉板内に析出し、固定されていることが確認された。
【0140】
<実施例 14>
シュウ酸チタニルと尿素とを溶解させて得た水溶液を含浸液として用いた。具体的には、シュウ酸チタニルカリウム150gと尿素600gとを水2kgに溶解して含浸液Mを得た。この含浸液Nを用いて、常温で真空含浸処理を行った後、150℃での加熱処理を12時間行った。こうして処理された杉板について、蛍光X線分析、及び、X線回折を行ったところ、杉板の中央部の断面の全体に、光触媒として機能するアナターゼ形二酸化チタンが固定化されていることが確認された。二酸化チタンの生成と固定とは、尿素の加水分解によって生じたシュウ酸アンモニウムの熱分解であると推定される。
【0141】
<実施例 15>
0.4モルのスルファミン酸バリウムを1kgの水に溶解させた後、スルファミン酸を添加してpHを1.5に調整して含浸液Oとした。この含浸液Oを用いて経木に真空含浸処理した後、水蒸気を共存させながら、105℃で10時間加熱した。この経木について溶出試験を行ったが、バリウムの溶出は全く起こらず、スルファミン酸の溶出も生じず、これらから硫酸バリウムとして固定されたことが確認できた。ここではスルファミン酸化合物の加水分解反応によりバリウム化合物の固定化が達成された。