(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について
図1〜
図13を参照して説明する。
【0018】
<紫外線照射装置>
図1は、本実施形態の紫外線照射装置100の概要を示す図であり、同図(A)が作業領域内に紫外線照射装置100を取り付けた状態の外観図、同図(B)が紫外線照射装置100の内部構成を示す断面概要図である。また、同図(C)は紫外線照射装置100の紫外線の照射(ON)/非照射(OFF)の一例を示すタイミングチャートである。なお、本図及び以降の各図において、一部の構成を適宜省略して、図面を簡略化する。また、本図及び以降の各図において、部材の大きさ、形状、厚み等を適宜誇張して表現する。
【0019】
同図(A),同図(B)を参照して、本実施形態の紫外線照射装置100は、殺菌対象領域Sに紫外線(便宜上同図(A)に破線で示す)を照射して殺菌対象領域S内の空間、設備等を殺菌するものであり、ケース111と、ケース111に設けられた紫外線照射手段112と、駆動制御手段113と、集光手段114と、検知手段115を有する。
【0020】
なお、本実施形態の説明における殺菌対象の「菌」とは、主に人体(動物)に有害な菌(細菌、微生物類、ウィルスの細胞)の総称であり、紫外線による「殺菌」とは、光エネルギーにより菌のデオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid、以下「DNA」)そのものに作用することで、菌をそれ以上増殖させない不活化な状態にすることと定義し、滅菌10
−6未満の処理をいうものとする。
【0021】
殺菌対象領域Sは、作業者が入退室可能であり、例えば菌数管理が行なわれるなどして所定の清潔性が維持されていることが想定(要求)されている作業空間である。本実施形態の殺菌対象領域Sは一例として、病院の手術室の内部空間およびそこに存在する物であり、具体的には、天井、床、壁、室内空間(室内の空気)、室内に配置される設備(外表面)などである。また、この場合の殺菌対象領域Sは、手術を受ける患者の手術部位を含んでいてもよい。
【0022】
紫外線照射手段112は、所定の主波長の紫外線(UV:ultraviolet)を出力可能な手段であり、より詳細には、紫外線(紫外光)の内の短波長(近紫外線)のUVC領域の波長を出力可能であり、この光エネルギーによって菌(細菌)のデオキシリボ核酸(DNA)を直接破壊することで菌を不活化する能力を有するUV光源である。
【0023】
具体的には、紫外線照射手段112は例えば直管型の低圧水銀ランプ(低圧UVランプ)であり、点灯中の内部圧力(水銀蒸気圧)が100Pa以下の水銀蒸気中のアーク放電の発光を利用する放電ランプ(金属蒸気放電ランプ)である。低圧水銀ランプ(低圧UVランプ)11の主波長は、例えば、250nm〜260nmであり、好適には253nm〜255nmであり、より好適には、253.5nm〜254nm(例えば、253.7nm)である。
【0024】
また、低圧水銀ランプ112は、紫外線の少なくとも出射方向前方にオゾンの生成を阻害する阻害手段116が設けられる。阻害手段116は、この例では石英ガラスで構成された低圧水銀ランプ112のランプスリーブ116である。紫外線の波長のうち波長184.9nmの遠赤外線は、空気中の酸素と反応し、オゾンを発生する。本実施形態の低圧水銀ランプ112は、阻害手段(石英ガラスのランプスリーブ)116を透過させることによって出射する紫外線のうちオゾンを生成する184.9nmの波長をカットしている。
【0025】
なお、同図(B)ではケース111の外側下方に低圧水銀ランプ112が設けられている例を示しているが、ケース111の下面が透明部材で構成されており、その内部に低圧水銀ランプ112が収容される(取り付けられる)構成であってもよい。
【0026】
また、低圧水銀ランプ112の周囲またその近傍には、紫外線の照射方向を所定方向に集光させる集光手段114を設ける。集光手段114は例えばリフレクター、スクリーンまたはレンズなど、光の絞込み(集束)機能を有する部材である。
【0027】
本実施形態の紫外線照射装置100は、ケース111に上記の低圧水銀ランプ112が複数設けられており、それぞれは所定間隔で離間して配置されている。
【0028】
駆動制御手段113は、例えば、駆動電源113Aと制御ユニット133Bなどであり、稼働中の殺菌対象領域Sを殺菌するために必要な時間と、殺菌後の菌の増殖の時間とに応じて、同図(C)に示すように、紫外線照射手段112による紫外線の照射/非照射の時間制御を行う。駆動電源113Aは、殺菌対象領域Sの電源等と接続し、複数の低圧水銀ランプ112のそれぞれを個別に効率よく点灯/消灯させる。また制御ユニット113Bは、CPU、RAM、及びROM等から構成される制御回路を含み、各種制御を実行する。CPUは、いわゆる中央演算処理装置であり、低圧水銀ランプ112の点灯/消灯の制御プログラムを含む各種プログラムが実行されて各種機能を実現する。RAMは、CPUの作業領域として使用される。ROMは、CPUで実行される基本OSやプログラムを記憶する。
【0029】
殺菌が可能な程度の紫外線照射は、一般的には人体に有害である。本実施形態の紫外線照射装置100は、汚染の程度が大きい場合には、殺菌対象領域Sが稼動していないこと、すなわち、殺菌対象領域Sが無人であり未使用状態であることを条件として、所定の菌が殺菌可能な程度の紫外線を照射して、殺菌処理を行う。
【0030】
また、一旦上記の殺菌処理を行った後で、汚染の程度が低い(或る程度の清潔性が維持されている)場合には、殺菌対象領域Sが稼働中(使用中)であっても、有人の状況を把握しつつ、人体に影響が出ない状態で、短時間の紫外線照射を行い、殺菌対象領域Sの菌の増殖を抑制することもできる。
【0031】
同図(C)を参照して、駆動制御手段113は、例えば、殺菌対象領域Sの或る一連の殺菌処理SEの初回(例えば、殺菌対象領域Sの稼動(使用)前、汚染の程度が大きい場合)において低圧水銀ランプ112を点灯し、紫外線を第一の時間T1で照射した後に低圧水銀ランプ112を消灯し、紫外線を非照射の状態を第二の時間T2の間維持するように低圧水銀ランプ112を制御する。
【0032】
この場合の第一の時間T1は、初回の殺菌が可能な時間であり、第二の時間T2は、第一の時間が経過した後の所定の菌の増殖を抑制可能な時間であって、第一の時間T1よりも長い時間である。
【0033】
また、初回の殺菌処理後はある程度汚染の状態が低くなっているため、殺菌対象領域Sの稼動(使用)中に一時的に短時間で紫外線照射を行ない、所定の菌の増殖を抑制する。つまり、駆動制御手段113は、第二の時間T2が経過した後に、低圧水銀ランプ112を再度点灯し、第三の時間T3で紫外線の再度の照射を行う。その後、低圧水銀ランプ112を再度消灯し、第四の時間T4の間、再度の非照射の状態を維持するように紫外線照射手段112を制御する。
【0034】
この場合の第三の時間T3は、第二の時間T2が経過した
際に増加し
ている菌の殺菌が可能な短い時間であり、第四の時間T4は、第三の時間T3が経過後の菌の増殖を抑制可能な時間であって、第三の時間T3よりも長い時間である。また、この場合の第三の時間T3は第一の時間T1より短い時間である。以降、殺菌対象領域Sの使用時間に合わせて、低圧水銀ランプ112の第三の時間T3での点灯と第四の時間T4での消灯とを繰り返す。
【0035】
また、駆動制御手段113は、ケース111内の複数の低圧水銀ランプ112の点灯/消灯を個別に制御可能である。これにより、複数の低圧水銀ランプ112を例えば順次点灯させ、または円を描くように回転させ、あるいは個別にランダムで点灯させるなど、任意に設定した方法で点灯、点滅、消灯させることができる。このようにすることで、点灯時(紫外線照射時)に殺菌対象領域S(または当該領域内に存在する或る特定の殺菌対象)に対して影(非照射の部分)が生じないよう、すなわち満遍なく紫外線を照射可能(紫外線を遮る影を極小化することが可能)となっている。
【0036】
更に紫外線照射装置100は、殺菌対象領域Sの少なくとも紫外線照射領域における有人/無人を検知する検知手段(人感センサ)115を備える。駆動制御手段113は、人感センサ115が有人であることを検知した場合には低圧水銀ランプ112を非照射にする。
【0037】
人感センサ115は、紫外線照射装置100のケース111内部または外部に一体的に取り付けられる。あるいは、人感センサ115は、紫外線照射装置100とは別体に設けられ、駆動制御手段113との間で信号の送受信が可能となるように電気的に接続されていてもよい。また、人感センサ115は手動でその機能をオン、オフ(強制的にオン、オフ)できるようにするとよい。
【0038】
このような構成により、本実施形態の紫外線照射装置100は、本来の機能として稼働中(例えば、手術室であれば、手術中)の殺菌対象領域Sを殺菌するために必要な時間と、殺菌後の菌の増殖の時間とに応じて、所定の主波長の紫外線の照射/非照射の時間制御を行う。
【0039】
<紫外線照射方法>
図2を参照して、本実施形態の紫外線照射方法(紫外線照射処理の方法)について説明する。本実施形態の紫外線照射方法は、本来の機能として稼働中(例えば、手術室であれば、手術中)の殺菌対象領域Sを殺菌するために必要な時間と、殺菌後の菌の増殖の時間とに応じて、所定の主波長の紫外線の照射/非照射の時間制御を行って殺菌対象領域Sの殺菌処理を行うものであり、例えば、
図1に示した紫外線照射装置100によって実行される。
【0040】
図2は、或る一連の紫外線照射(殺菌)処理SE(
図1(C)参照)の流れを示すフロー図である。
【0041】
まず、ステップS01では、殺菌対象領域Sの殺菌処理の初回(例えば、殺菌対象領域(手術室)Sの使用後、または使用直前など)において第一の時間T1で紫外線を照射する。この第一の時間T1は、殺菌対象領域Sの初回の殺菌(汚染の程度が高い状態での菌の除去)が可能な程度の時間のうち可能な限り短い期間である。
【0042】
次に、ステップS02では、第一の時間T1の経過後に紫外線の非照射の状態を第二の時間T2維持する(ステップS02)。この第二の時間T2は、第一の時間T1が経過した後の所定の菌の増殖を抑制可能な時間のうち可能な限り長い期間である。
【0043】
第二の時間T2が経過した後はステップS03に進み、殺菌処理SEを終了するか否か判定する。引き続き殺菌対象領域Sを使用する場合(例えば、手術が継続している場合など、ステップS03でNoの場合)には、ステップS04以降に進み、有人の状況を把握しつつ、人体に影響が出ない範囲で引き続き紫外線の照射/非照射を繰り返して行なう。
【0044】
ステップS04では、第二の時間T2の経過後に第三の時間T3で紫外線を再度照射する。第三の時間T3は、第二の時間T2が経過した
際(初回の殺菌処理が終了した後)に増加し
ている所定の対象の菌の殺菌が可能な時間のうち可能な限り短い期間である。また、この第三の時間T3は第一の時間T1より短い期間である
。
【0045】
ステップS05では、第三の時間T3の経過後に再度の非照射を第四の時間T4維持する。第四の時間T4は、第三の時間T3が経過後の所定の対象の菌の増殖を抑制可能な時間のうち可能な限り長い期間である。
【0046】
以降、ステップS03に戻り、殺菌対象領域Sの使用(稼動時間)に応じて、ステップS04、S05を適宜繰り返す。
【0047】
なお、
図1(C)および
図2において、繰り返される点灯の第三の期間T3は同じ時間であり、繰り返される消灯の第四の時間T4は同じ時間である場合を例示しているが、第三の期間T3は殺菌処理SEの終了に近づくにつれて徐々に時間が短くなるように設定し、第四の時間T4は殺菌処理SEの終了に近づくにつれて徐々に時間が長く(直前の第三の時間T3よりも長く)なるように設定してもよい。また途中で菌数が増加した場合には、第三の時間T3を前回の第三の時間T3より長く、第四の時間T4を前回の第四の時間T4より短く(直前の第三の時間T3よりは長く)なるように設定してもよい。
【0048】
また、殺菌対象領域Sの汚染の状況に応じて、ステップS01〜ステップS02で殺菌処理SEを終了させてもよい。
【0049】
また、紫外線照射処理(殺菌処理)中においては常時、殺菌対象領域Sの少なくとも紫外線照射領域における有人/無人を監視し、有人であることを検知した場合には紫外線を非照射にし、無人となった場合に再度照射する。
【0050】
従来より、菌数管理などが施され、所定の清潔性の維持(低汚染状態、(略)無菌の状態)が要求される領域(殺菌対象領域S)では、ホルマリン燻蒸やEOG滅菌や、殺菌剤による清拭などによって殺菌処理(従来方法による殺菌処理)が行われていた。
【0051】
また、殺菌対象領域Sが例えば病院の手術室、処置室や、集中治療室(ICU)などの場合には、当該殺菌対象領域Sには、医療用の設備器機として、手術台、ベッド、無影灯、麻酔器、患者監視モニター装置、内視鏡TV装置、処置具などが配備されている。そして、殺菌対象領域Sは、手術室、処置室、ICUなどの部屋(空間)として菌数を抑制することが必要であるだけでなく、個々の機器が菌数抑制される必要性がある。
【0052】
しかしこれらの従来方法による殺菌処理は大きな手間と費用がかかり、殺菌対象領域Sである施設や設備の稼働率が低下するなど、人的、経費的負担が大きく、頻繁には実施しにくい。
【0053】
また、上述の従来の殺菌処理と併用して、比較的容易に実施できる方法として、紫外線(UV)照射による殺菌処理も行われている。
【0054】
例えば、医療用の器具類の場合、洗浄評価判定ガイドライン(一般社団法人日本医療機器学会滅菌技士認定委員会,2012)に則り、剪刀や鉗子などの各種鋼製小物は超音波洗浄法などにより洗浄された上で高圧蒸気滅菌やEOG滅菌などの工程を経て再使用されるが、その保管には任意でUV殺菌庫などの衛生管理機器が用いられ二次汚染予防措置が取られている。
【0055】
しかしながら、紫外線照射による殺菌処理は、オゾンの発生も含めた人体への悪影響や、照射を受けた設備等が劣化するなどの問題がある。例えば、手術室や処置室などでは、医療従事者が頻繁に立ち入るため、健康上の影響を考慮して一般的には紫外線照射による殺菌処理を行うことが困難である。
【0056】
また、手術室や処置室などに配置される設備機器は、作業効率の観点から患者および医療従事者の周囲に配置されるのが望ましいため、これらの機器の使用中に紫外線照射を行なうと、医療従事者や患者に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0057】
このため、従来では、殺菌処理のための紫外線照射は、人体に照射されることがない電子機器等の内部や、手術器具、理髪器具の一部などへの直接的な照射や、無人の室内への照射など、限定の場所で限定的に使用されているのみであった。
【0058】
また、医療用設備である手術台、無影灯、麻酔器、患者監視モニター類、内視鏡TV装置については、上記のとおり個々の機器として菌数の抑制の必要があるが、設備が大型であり、其々の部品に都度分解して上記の滅菌器により消毒処理を行うことは物理的にも時間制約的にも無理があり、現実の処理として施術前後のアルコール散布と拭き取りの作業が主な対策となっている。このような其々の器具表面に完全な滅菌・消毒処理を施すことは作業者の負担も大きく、効率化を阻む大きな要因となっている。
【0059】
さらには、上記したような従来方法による殺菌処理を行った後であっても、当該殺菌対象領域Sに作業者等が出入りすることによって、作業者等に付着していた菌が殺菌対象領域Sに落下することは不可避である。
【0060】
例えば、殺菌対象領域Sが手術室の場合、従来方法による殺菌処理を行った後で、医師、看護師などの医療従事者や患者等が出入りするため、実際に(略)無菌状態が要求される作業時(手術時)には、厳密には手術室内への菌の混入は避けることができない。そうであるからといって、殺菌処理後に混入した菌を増殖させると、最悪の場合は院内感染など大きな問題となる。
【0061】
従って、従来方法による殺菌処理を行った後も、長い期間をおかずに多頻度で殺菌(除菌)処理を行うことが感染の拡大を防ぐ点では大変重要で効率的であるが、例えば手術中など、殺菌対象領域Sの使用中には従来方法による殺菌処理は行うことができない。
【0062】
このように、アルコール散布と拭き取りや、UV照射による殺菌処理も含め、従来方法による殺菌処理を多頻度で(特に殺菌対象領域Sの稼働中においても)行なうことは、困難であった。
【0063】
本願出願人は、上記問題を解決するために鋭意努力した結果、紫外線による所定の菌の死滅時間の長さが、菌細胞の分裂倍増時間に比較して短いこと、すなわち、紫外線を照射すると短時間で所定の菌が死滅し、その後、それよりも十分に長い時間、紫外線の照射を停止しても、一定期間は、菌の増殖が顕著にならないことを突き止めた(詳細は後述する)。
【0064】
そして、殺菌対象領域Sの所定の菌の菌数、紫外線照射による当該菌の殺菌時間、および当該菌の増殖時間とを定量的に把握し、殺菌時間と増殖時間の差を活用し、一旦菌を殺菌した後は、当該菌が増殖する前に再度紫外線を照射するというサイクルを繰り返す紫外線照射装置100に考え至った。
【0065】
これにより、制限された紫外線の照射量で殺菌対象領域Sの作業の稼働率を大きく落とすことなく、所定の菌の増殖を抑制することができる。
【0066】
更に、殺菌対象領域Sが有人であるか否かを検知する人感センサ115を紫外線照射装置100に備えることで、有人の場合には紫外線照射を中断する期間を、殺菌、および増殖抑制のための紫外線照射のサイクルの中に適宜組み込むこととした。これにより、殺菌対象領域Sが無人の場合(例えば、夜間など)を中心に紫外線を照射するだけではなく、昼間の殺菌対象領域Sの稼働時間内でも、人の立ち入りの状況に応じて紫外線照射のタイミングを管理でき、菌の増殖の抑制条件を維持しながら、運用することが可能になる。
【0067】
また、紫外線照射装置100の光源としては、殺菌力が強く、オゾン発生など人体への被害が少ないもの、且つ殺菌対象領域S(天井、壁、床などや設備機器(の材料)などの劣化が可能な限り少ないものが望まれる。
【0068】
そこで、紫外線照射装置100に個々に点灯・消灯の制御が可能な複数の低圧水銀ランプ112を設けるとともに、紫外線照射装置100自体を部屋の天井、壁面、柱、照明器具などの必要な位置に必要な間隔で配置し、必要不可欠のタイミングで、必要不可欠な(最小限の)紫外線の照射量に制限して照射するものとし、殺菌対象領域S内に満遍なく、必要不可欠な照射量で紫外線を照射可能とした。
【0069】
なお、既に述べたように、本実施形態の紫外線照射装置100は、所定の菌の増殖、死滅挙動から考えられるタイミングで照射(点灯・消灯)の制御が行われるが、所定の菌の増殖を抑制するタイミングは、使用する紫外線の波長、照射強度、菌の増殖速度、殺菌対象領域Sの存在菌数(バイオバーデン)によって決定される。つまり、当該タイミングは、一義的には規定できないが、部屋ごとに落下菌検査を行い、菌種、菌数、許容菌数、部屋の収容可能人員、滞在時間等などと組み合わせ、バリデーションを行うことで、紫外線照射条件(照射/非照射のタイミング)を決定することができる。
【0070】
このように本実施形態の紫外線照射装置100は、汚染の程度が大きい場合には無人の状態(例えば、殺菌対象領域Sの稼動前など)で紫外線を照射して殺菌処理を行い、それ以降は、殺菌対象領域Sの稼働中(作業中)に作業者等の出入りによって増加した菌の増殖を抑制するものである。これにより、作業前に殺菌処理を行清潔性が確保されている部屋等における、作業中の清潔度の低下を防止することができる。
【0071】
これにより、手術室、処置室、ICUなどの部屋として、菌数を抑制することのみならず、これらの室内に配置される設備機器のそれぞれについても菌数抑制することが可能となる。
【0072】
なお、本実施形態の紫外線照射装置100とともに従来どおり無人のタイミングで、ホルマリン燻蒸やEOG滅菌などによる殺菌処理を併用してもよく、この場合、これら従来の殺菌処理の回数を減らすこともできる。
【0073】
<紫外線照射による菌の不活化処理>
以下、紫外線照射による菌の不活化と、本願出願人が見出した紫外線照射による当該菌の殺菌時間と当該菌の増殖時間との差、およびこれを利用した紫外線照射装置100の原理について説明する。
【0074】
光放射の内380nmより短い波長のエネルギーは紫外放射とされ、物質や生物に対して様々な作用を及ぼすことが知られている。光の特徴は短波長になるほどエネルギー(kJ/mol)が強まり、特に紫外線のUVC領域(100nm〜280nm)になると生物の核酸分子やたんぱく質を分解することが可能となる。
【0075】
一方、炭素同士の単結合は、230nmより長波長では吸収されず、化学変化が得られないとされ、核酸の変化は核酸に含まれる二重結合への光子の吸収が必要である。微生物の不活化の原理としては、260nmの波長をピークにした光エネルギーが、生物の細胞核内の遺伝情報を司るDNAとリボ拡散(ribonucleic acid、以下「RNA」)の塩基に吸収される事で、チミン等が二量体化し、細胞分裂の際にそれ以上の複製を行えなくなることで起こる。
【0076】
このようなことから、紫外線短波長UVC領域の出力が可能な紫外線(UV)ランプが、食品や医療産業用途を中心に衛生管理を向上するための殺菌(菌、ウィルスの細胞の不活化)を効率よく行えるエネルギーとして、食品やパッケージ・フイルム、水処理及び空間の浮遊菌・落下菌の殺菌処理等の分野に於いて幅広く利用されている。
【0077】
本実施形態の紫外線照射手段112は、UVC領域のエネルギーを出力することのできる紫外線ランプの一例として、放電管の中に水銀を含有させた水銀ランプ(低圧水銀ランプ112)を用いる。
【0078】
図3は、紫外線によるDNAの不活化の状態を示す図であり、同図(A)が低圧水銀ランプ112の出力波長(分光エネルギー)分布にDNAの紫外線(UV)吸収曲線を重ねた図である。UV吸収曲線とはUV波長260nmにおけるDNAの吸収率(分光感度)を100とした場合のUV波長に応じたDNAのUV吸収率の相対値であり、同図(A)の縦軸がUV吸収率の相対値であり、横軸がUV波長である。また、同図(B)はDNAのUV吸収曲線(実線)とUVによる殺菌作用曲線(破線)である。殺菌作用曲線とはUV波長260nmにおけるDNAの殺菌(不活化)率を100とした場合のUV波長に応じたDNAの殺菌率の相対値であり、同図(B)の縦軸が殺菌率の相対値であり、横軸がUV波長[nm]である。
【0079】
同図(A)に示すように、低圧水銀ランプでは、放電管内で電子を水銀に衝突されるときに放射される輝線253.7nmを主波長として得ることが出来る。そして、生物のDNA(RNAも同様)に吸収されるスペクトルは260nmを中心とした波長領域に跨っている。また、既に述べたように、紫外放射による殺菌作用はDNAに損傷を与えることによって生じるが、同図(B)に示すように、その殺菌効果を示す殺菌作用曲線は、DNAのUV吸収曲線とほぼ一致する。これはDNA内に連続してあるピリミジン基が、この波長領域の光を吸収をすることで二量体化して遺伝コードが損なわれ、細胞が分化性能を失い不活化するものである。
【0080】
つまり、低圧水銀ランプから出力するエネルギー253.7nmを対象菌に効率良く照射することで高度な消毒(細胞の不活化)処理を行うことが可能となる。
【0081】
なお、この253.7nmの光エネルギーを発光管ガラス内壁に塗布した蛍光体に当て可視光に変換し、照明として利用するのが蛍光灯であるが、殺菌灯の場合は紫外線の短波長を効率良く透過することの出来るUV透過ガラスと更に透過性の高い石英ガラスが用いられる。同種の水銀灯に高輝度が得られ街路灯として主に用いられる高圧水銀灯(時に産業利用として中圧水銀灯と呼ばれる)があるが同時に熱線を多く発する。このため、本実施形態では、熱線を抑えることができるとともに、253.7nmの波長を効率良くえることが可能な低圧水銀ランプを紫外線照射手段112として採用する。
【0082】
また、184.9nmのUV波長は酸素と反応してオゾンを生成し、部材の劣化や人体への悪影響を与える恐れがある。このため、低圧水銀ランプから空気中に照射された紫外線にオゾンの生成を阻害するため、本実施形態の低圧水銀ランプ(紫外線照射手段)12は、184.9nmの波長をカットすることのできる阻害手段116を備える。具体的には当該阻害手段116は、石英ガラスのランプスリーブである。なお、紫外線照射手段112の紫外線照射方向の前面に別途、石英ガラスの阻害手段116を設けてもよい。
【0083】
UVによる菌の殺菌(不活化)処理は、光が規定量当たらないと処理が行えないデメリットがある反面、薬剤や熱等の殺菌処理方法で問題となる耐性菌は生じさせないため、どの様な菌に対しても効果的な処理が行えるメリットがある。
【0084】
なお、同図(A)では、低圧水銀ランプは310nm以上の波長も僅かに出力しているが、いずれの波長もDNAの吸収率は5%程度以下であるため、殺菌作用の観点においては略無視できる。
【0085】
ここで、紫外線による殺菌作用は菌(細胞)のDNAに与えられる殺菌波長帯の光エネルギーの積算光量(積算照射量)[μj/cm
2(mJ/cm
2)]で決定する。積算光量は、一定の面積あたりのUV強度(UVの放射強度(放射照度))[μw/cm
2(mw/cm
2)]と照射時間[sec]の積である(式1)。
【0086】
積算光量[μj/cm
2]=UV照度[μW/cm
2]×時間[sec] (式1)
【0087】
紫外線による殺菌処理は、全ての菌に対して有効であるが、菌種によって紫外線の耐性(感受性)が異なるため、殺菌対象の菌毎にそれぞれ殺菌処理の指標に基づき必要な紫外線照射量を定める。
【0088】
図4は、菌の種類毎に267nm〜287nmのUVを照射した場合に99.9%以上不活化するために必要な積算光量の一例を示す表(出典:国際照明学会(IES)ライティングハンドブック)である。
【0089】
同図を参照して、例えば、食品の殺菌基準指標である枯草菌芽胞を99.9%以上殺菌するために必要な積算光量は33200[μJ/cm
2]であり、インフルエンザウイルスを99.9%以上殺菌するために必要な積算光量は10500[μJ/cm
2]である。つまり、これらの指標値に基づき、殺菌対象の菌に応じて低圧水銀ランプ112の積算光量が設定される。
【0090】
図5は、UV照射による菌の殺菌率を示すグラフであり、縦軸が殺菌率[%]および生存率[N/N0]であり、横軸がUV照射量(照度)の平均値[mw・sec/cm
2]である。同図(A)が大腸菌であり、同図(B)が腸球菌であり、同図(C)が枯草菌のグラフである。また各図の実線は既知の理論値であり、同図(A),および同図(B)における破線は実際に本実施形態の低圧水銀ランプ112を用いてそれぞれの菌に対して紫外線を照射した殺菌試験を行い、その結果をプロットしたものである。同図(A)〜同図(C)においてはグラフの縦軸の下方に行くほど高い殺菌効果が得られ、一段毎に一桁ずつ殺菌能力が高まっていることを表している。
【0091】
(試験条件/大腸菌)
試験菌をSCDB培地に接種し、35℃±1℃、18時間〜20時間振とう培養した。培養後の菌体を精製水に1mL当りの菌数が約10
10となるように懸濁させ、試験菌液とした。
【0092】
また、原水約500Lに試験菌液100mLを添加、混合し、試験液とした。当該試験液を流量71L/min、95L/min、142L/min、213L/min及び370L/minの条件で、低圧水銀ランプ112に通過させ、通過水を採水した。その後、低圧水銀ランプ112通過前の試験液および通過水の細菌数を測定した。
【0093】
また、SA培地を用いた混釈平板培養法(35℃±1℃、24時間培養)により測定した。
【0094】
(試験条件/腸球菌)
試験菌をSCDB培地に接種し、35℃±1℃、18時間〜20時間振とう培養した。培養後の菌体を精製水に1mL当りの菌数が約10
10となるように懸濁させ、試験菌液とした。
【0095】
また、原水約500Lに試験菌液100mLを添加、混合し、試験液とした。当該試験液を流量8.3L/min、17L/min及び33L/minの条件で、低圧水銀ランプ112に通過させ、通過水を採水した。次に採水した通過水を20℃±1℃で14日間保存した。低圧水銀ランプ112通過前の試験液および採水直後及び20℃±1℃で14日間保存後の通過水の細菌数および腸球菌数を測定した。
【0096】
また、細菌数はSA培地を用いた混釈平板培養法(35℃±1℃、24時間培養)またはメンブランフィルター法(35℃±1℃、24時間培養)により測定し、腸球菌数は、KF培地を用いた混釈平板培養法(35℃±1℃、48時間培養)またはメンブランフィルター法(35℃±1℃、48時間培養)により測定した。
【0097】
なお、上記殺菌試験は、流水試験であるが、処理対象である水が空気に代わるだけで、UVによる殺菌の効果は、
図4に示す菌種毎のエネルギー量を確保することで十分な殺菌効果が得られる。また、殺菌対象領域Sにおける落下菌に対しても同様のことが言える。
【0098】
また、紫外線殺菌の場合は光の照射量で殺菌率が決定するため、照射距離(UV光源からの距離)も殺菌率に影響し、また照射する時間で大きく効果が変化する。例えば、
図5(A)及び同図(B)に示す本実施形態の低圧水銀ランプ112の場合、最遠部からの照射距離は(低圧水銀ランプ112から殺菌対象領域Sまでの距離が約80mmである。殺菌対象が液体物の場合は処理槽容積等のファクターより通水量および通過速度が計算できるため、UV照射時間を設定することができる。
【0099】
図6は、本実施形態の低圧水銀ランプ112の照射距離と、254nmの波長におけるUV照度[μW/cm
2]の関係を示すグラフであり、Aが40Wのランプ、Bが100Wのランプである。
【0100】
同図より、例えば照射距離が100mmでは約2500μW/cm
2のUV照度が得られる。また、大腸菌を例に挙げると、
図4より積算光量が5400μJ/cm
2のエネルギー量で99.9%以上の殺菌が可能となる。したがって、5400/2500=2.16secのUV照射にて十分な殺菌効果が得られることがわかる。なお、UVは理論上距離の二乗に反比例して減衰するので、照射距離が1m程ある場合は数十分のUV照射により、99.9%以上の殺菌が可能となる。
【0101】
一方、
図7は、枯草菌とウエルシュ菌の温度変化による倍化(倍加)時間(菌が細胞分裂し倍増(増殖)する時間)の比較を示す図である(出典:奈良先端科学技術大学院大学修士論文 2006年2月2日「ウエルシュ菌と枯草菌の細胞周期に関する比較解析」 奥村 元)。同図(A)は横軸が培養温度[℃]であり、縦軸が倍化(倍加)時間[分]であり、aが枯草菌であり、bがウエルシュ菌である。また、同図(B)は各培養温度における倍化(倍加)時間と平均細胞長の一覧である。また、使用培地は、枯草菌がLB培地、ウエルシュ菌がGAM培地を使用した。
【0102】
同図を参照して、例えば枯草菌の場合は、25℃では65分で倍化(倍加)し、30℃では31分で倍化(倍加)することが分かる。
【0103】
一方で、
図6を参照して、一例として40Wの低圧水銀ランプ112の場合、1mの照射距離のUV照度は100μW/cm
2(0.1mW/cm
2)である。
【0104】
また、
図5(C)より、枯草菌を90%殺菌する(細菌感染のリスクを10分の1にする)場合、約12mJ/cm
2の積算光量が必要である。つまり、照射距離1mの場合の0.1mw/cm
2のUV照度であれば、120秒(2分)の照射によって枯草菌の感染リスクを10分の1にすることができる。
【0105】
既に述べたように、
図5(C)はグラフの縦軸の下方に行くほど高い殺菌効果が得られ、一段毎に一桁ずつ殺菌能力が高まっていることを表しており、上記の枯草菌の例では2分で感染リスクが10分の1、4分で感染リスクが100分の1、8分で感染リスクが1万分の1、10分で感染リスクが10万分の1になる。
【0106】
以上のことから、殺菌対象領域Sに対して例えば、初期に10分間、低圧水銀ランプ112によって紫外線を照射すると、当該殺菌対象領域Sの菌(枯草菌)による感染リスクは10万分の1となる一方で、
図7より枯草菌の倍化(倍加)時間は、常温で約20分〜60分であり、この期間では菌の増加は無視できるといえる。
【0107】
また、初期に時間を掛けて殺菌処理を行って殺菌対象領域Sの菌数を大幅に減少させた後は、その後に例えば作業者(医療従事者)などに付着して当該殺菌対象領域S混入した菌数は僅かとなる。そして、その僅かな菌を殺菌するには、UV照射量(照射時間)も初期の時間に比べて大幅に少なくすることができる。
【0108】
このように、本願出願人は、ある菌を殺菌するために必要な時間(上記の例では約10分)に比べてその菌が倍化(増殖)する時間(上記の例では20分〜60分)の方が長いことに着目し、この時間差を利用して紫外線照射を行なうことにより、効率よく安全に殺菌処理を行えることを見出し、また、初期にある程度時間を掛けて殺菌した後は、殺菌対象領域Sの使用中であっても、例えば僅かな時間のみ作業を中断・作業者を退避させてUV照射することで、新たに混入した菌を効率的に殺菌可能であることを見出し、これらの知見に基づき本願の紫外線照射装置100に想到し得た。
【0109】
本願の紫外線照射装置100は、稼動前または稼働中の殺菌対象領域Sを殺菌するために必要な時間と、殺菌後の菌の増殖の時間とに応じて、低圧水銀ランプ112による紫外線の照射/非照射の時間制御を行うことができる。
【0110】
具体的には、低圧水銀ランプ112は、主波長が殺菌力の強い(DNAを効率的に不活化できる)、UVC領域(主波長が焼く254nm程度)の紫外線を出力可能であり、殺菌に要する時間を短くするとともに、人体に影響を与えないよう細かく点灯(on)/消灯(off)の設定および制御が可能である。
【0111】
より詳細には、紫外線照射装置100は、
図1(C)に示すように初期(殺菌対象領域Sの稼動前、初回の殺菌処理)において菌数を大幅に減少させる或る程度の時間(第一の時間T1)で点灯して紫外線を照射し、その後は殺菌対象領域Sの菌が増殖を抑制できる時間で第一の時間T2よりも長い時間(第二の時間T2)消灯する。それ以降は、殺菌対象領域Sにおいて増加した僅かな菌を殺菌可能な短時間(第三の時間T3)の点灯と、当該菌が増殖しない時間で第三の時間T3よりも長い時間(第四の時間T4)の消灯を(繰り返し)行うことで、殺菌対象領域Sを稼動しながらも可能な限り少ない紫外線の照射量で、効率よく安全に殺菌処理することができる。
【0112】
この紫外線照射装置100は、個別に点灯及び消灯の制御が可能な複数の低圧水銀ランプ112を配置し、点灯中(殺菌処理中)においては、紫外線が照射されない影の部分が発生しないよう、複数の低圧水銀ランプ112を順次切り換えて点灯の制御をするようにしてもよい。
【0113】
また、紫外線照射装置100は、リフレクターやスクリーン、レンズなどの集光手段(光路絞込み機能)114を備え、殺菌対象領域S内の或る特定の領域に集中的に紫外線を照射できるようにしてもよい。
【0114】
また、人感センサ115を備え、点灯中(殺菌処理中)であっても、有人を検知した場合には消灯あるいは、シャッターヤスクリーンで紫外線をマスクするなどし、人体への悪影響を回避するようにしてもよい。また例えば、人感センサ115が有人を検知下場合には、警告音(告知用音楽やアラーム音)を出力するようにしてもよい。
【0115】
このような構成により、殺菌処理の不確実性を改良し、作業者(医療従事者)等、人体に対する安全性を確保しつつ、殺菌対象領域Sの菌数管理と施設管理の手間を削減し、殺菌対象領域Sの稼働率を大きく損なわずに効率的に殺菌および菌の増殖を防止することができる。
【0116】
<紫外線照射装置100の配置例と照射制御の例>
次に、
図8を参照して、紫外線照射装置100の配置例と照射制御の一例についてより具体的に説明する。同図は本実施形態の紫外線照射装置100を配置する殺菌対象領域(施設)Sの一例を示す上面概要図であり、同図(A)は殺菌対象領域Sが動物実験用手術室の場合であり、同図(B)は、殺菌対象領域Sが感染患者を受け入れる医療施設の場合である。なお、同図は主に紫外線照射装置100の紫外線照射手段(低圧水銀ランプ112)の配置例を示すためのものであり、それ以外の構成(ケース111や駆動制御手段113などの他の構成)は図示を省略している。
【0117】
まず同図(A)を参照して、殺菌対象領域Sは例えば、動物実験の手術室であり、部屋のサイズは例えば床面積が32(8m×4m)m
2、天井高さ2.5mである。床面は耐水塗装、天井は耐水樹脂塗装が施されている。また、室内の天井中央にはHEPA(high−efficiency particulate air)フィルター(不図示)が設けられている。手術室S内の設備は、例えば4m四方、高さ0.7mのSUS製の手術台201で室内略中央に配置されている。
【0118】
また、天井の中央付近には本実施形態の紫外線照射装置100が設けられている。紫外線照射装置100は例えば4個の低圧水銀ランプ112(40W)を備えている。低圧水銀ランプ112は、いずれも天井から0.7mの位置に吊り下げられる。また、4個の低圧水銀ランプ112の例えば略中央には人感センサ115が配置され、また不図示の報知音の出力手段(スピーカー)を備えている。紫外線照射装置100の操作部は、例えば手術室S外(前室(動物室)202)に設けられている。
【0119】
前室202は陰圧で、手術室Sは陽圧に設定され、気流は手術室Sから前室202に流れるように構成されている。動物は、前室の動物搬入口から入り、前室を通って手術室Sに向かう。また術後は手術室Sから前室202に移動する(小矢印の方向に移動する)。
【0120】
また、気流は陽圧である手術室から陰圧である前室202に向かって大矢印の方向に流れる。
【0121】
低圧水銀ランプ112の出力波長は、紫外光の内の短波長のUVC領域であるエネルギーで、細菌のDNAを直接破壊することで細菌類を不活化する能力を有する。具体的には、低圧水銀ランプ112はランプスリーブ116が184.9nmの波長をカットすることのできるオゾンレス石英で構成され、約245nm(253.7nm)の波長(エネルギー)のみを出力するように構成されている。
【0122】
低圧水銀ランプ112は紫外線を最も無菌を要求するエリア(手術台201)に集中できるよう、手術台201の上方にこれを囲むように互いに離間して配置され、殺菌に要する紫外線照射時間と、菌が繁殖する時間との関係を考慮した低圧水銀ランプのオン/オフ制御プログラム(駆動制御手段113の一部)によって点灯させる。
【0123】
また、人感センサ(
図1参照)によって有人/無人を検知し、無人の時間を中心に照射することを上記制御プログラムに組み込むとともに、4個の低圧水銀ランプ112を回転させ、あるいはランダムに点灯させるなど、位置を変えて点灯、消灯を行い影になる部分を減少させる。
【0124】
手術室Sは、例えば、部屋の菌数を粒子数で近似した場合、クリーンルームの規格(ISO 14644−1)として、クラス100(1ft
3中に0.5μmの粒子が100個以内であるという清浄度クラス)である。
【0125】
本実施形態の紫外線照射装置100を用いることで、まず患者(実験動物)の開胸(開創)前に手術エリアの菌数を下げることができる。また、手術中においては殺菌のために僅かな時間だけ作業者を退避させて菌数の増加を抑制することができ、可能な限り手術を中断せずに(手術室の稼働率を上げて)殺菌対象領域Sの殺菌を行なうことができる。また、手術終了後、閉胸(閉創)前に、僅かな時間、術野に紫外線を照射することで菌の存在確率を下げ多状態で閉胸し、術後感染確立を下げることができる。
【0126】
具体的には、殺菌対象領域(手術室)Sの稼動例および殺菌処理方法は、以下の通りである。
【0127】
手術室Sは前日までに既知の方法により清掃し、壁、床、手術台を従来の殺菌剤で清拭し、従来方法によって殺菌された手術用の各種器具を準備する。
【0128】
当日、作業者(実験者・手術者)は、手術着(術衣)、キャップ、マスク、手術手袋、保護メガネなどを着用した上で、対象の動物を搬入し、麻酔、剃毛、手術部位を広めに消毒液にて消毒し、覆布を動物の全体に被せ、術野部分の覆布を切除する。この場合、初期状態では例えば、100cm
2の術野を消毒液で(完全に)消毒することで菌数は0個/cm
2とする。そして、その後に(準備中、手術中に)殺菌対象領域Sに増加した落下菌を紫外線照射装置100にて殺菌する。
【0129】
作業者は全員、手術室S外(前室202)に退避し、手術室S内を無人の状態にして紫外線照射装置100を点灯する。
【0130】
紫外線照射装置100は、低圧水銀ランプ112の点灯期間は、スピーカーより点灯中を報知する報知音(警告メロディー)が出力され、低圧水銀ランプ112の消灯期間は報知音が停止される(または、消灯を報知する安全メロディーが出力される)。
【0131】
4個の殺菌灯は例えば時計回りに1個ずつ、影を作らないように順番に点灯し、落下菌や術野近傍の浮遊菌を殺菌し、また菌の増加を防ぐ。
【0132】
ここで、紫外線照射装置100の低圧水銀ランプ112(40W)の紫外線照度は、1mの照射距離の場合約0.1mw/cm
2である(
図6)。また、一例として、
図5(C)および
図7の枯草菌(芽胞)を指標菌として考えると、殺菌対象領域Sにおける感染のリスクを10分の1(殺菌率99%)にする場合に必要な紫外線の積算光量は12mJ/cm
2となる(
図5(C))。
【0133】
つまり、約0.1mw/cm
2の紫外線照度の低圧水銀ランプ112の場合、殺菌率が99%になるまでの照射時間は120秒(12[mJ/cm
2]/0.1[mw/cm
2])となる。
【0134】
従って、手術室Sの紫外線照射装置100の制御プログラムでは、作業開始の初回(1サイクル目)に例えば10分間点灯すると、枯草菌(芽胞)の場合には殺菌対象領域Sにおける感染のリスクが10万分の1となる(
図5(C))。つまり、作業直前または作業中に作業者等に付着した枯草菌(芽胞)が室内に落下したり、空気中に混入していた場合であっても、その感染リスクは10万分の1になる。
【0135】
一方、枯草菌の細胞分裂、倍加時間は常温で30分〜60分(
図7)であるため、この期間の菌の増加は無視できる。
【0136】
具体的には、紫外線照射装置100の始動後、初回(1サイクル目)においては、低圧水銀ランプ112を例えば10分間(第一の時間T1)点灯し、その後60分間(第二の時間T2)消灯する。それ以降(2サイクル目以降)は、2分間(第三の時間T3)点灯後、28分(第四の時間T4)消灯を手術終了まで繰り返す。なお、手術の所要時間は例えば6時間と仮定する。
【0137】
この例では作業者は術衣等で全身遮蔽されており、紫外線暴露の影響をほとんど受けず、また、実験動物も、術野を除き覆布で覆われており紫外線暴露の影響をほとんど被爆を受けない。しかしながら、8時間労働環境の場合、UVC領域の紫外線の規制量(積算光量の限界量)が3mJ/cm
2であり、積算光量が100mJ/cm
2の場合には、30秒間の照射時間が限度である。従って、低圧水銀ランプ112の点灯中において作業者が意図せず紫外線暴露を受けないよう、人感センサと報知音にて作業者の安全性を確保する。
【0138】
この例では、手術後などの汚染度の高い状態では従来方法による殺菌処理が行われるなど、通常の(従来の)管理で清潔性が確保されている殺菌対象領域(手術室)Sにおいて、作業直前から紫外線照射装置100を動作させることによって、作業者、実験動物などの出入りによって持ち込まれた菌による作業直前又は作業中の清潔度の低下を防止する。
【0139】
手術終了後は、術野を縫合し、既知の消毒液にて消毒する。なお、閉胸や閉腹前に意図敵に極僅かの時間(人体や実験動物に影響を与えない程度の僅かな時間)、術野に集中的に低圧水銀ランプ112を照射して殺菌してもよい。
【0140】
手術後は片付け、清掃および従来方法による殺菌処理後、紫外線照射装置100の制御プログラム(on/offのプログラム)を調整する。例えば、手術室Sが稼動していない時間(稼動を休止している予定された夜間など)に、重点的に低圧水銀ランプ112を点灯し、人感センサで無人を検知している間は点灯状態を維持する。これにより、次回の手術室Sの使用準備として大掛かりな(従来方法による)殺菌処理の回数を低減できる。あるいは従来方法も併用した殺菌処理の確実性を高めることができる。
【0141】
また、人感センサ115によって有人(動物も含む)を検知した場合、低圧水銀ランプ112を停止する。またその結果を参照することにより、以降の意図しない動作(事故)を未然に防ぐ対策をとることができる。なお、手術室Sは人体の手術を行なう一般の病院の手術室であってもよい。
【0142】
次に、同図(B)を参照して、殺菌対象領域Sは例えば、感染患者を受け入れる医療施設であり待合室S1、問診・診察室S2および処置室S3が3区分されて隣り合って配置された簡易(例えばプレハブ、ユニット)型医療施設である。
【0143】
部屋のサイズは例えば、待合室S1は12m
2、問診・診察室S2が6m
2、処置室S3が6m
2で天井高さは2.2mである。
【0144】
待合室S1は陰圧、問診・診察室S2は陽圧、処置室S3は陽圧で室内の気流は白抜き矢印のように流れる。また、待合室S1にはダクトアウトにフィルター(バグフィルター)が設けられており、室内の気流が他の部屋に流入しないようになっている。
【0145】
待合室S1の設備は例えばソファーや掲示ボード(いずれも不図示)の最小限のものとする。
【0146】
紫外線照射装置100は、同図(A)と同様の4個の低圧水銀ランプ112を備え、天井直下のコーナー部にそれぞれ配置されている。また図示は省略するが人感センサも設けられている。
【0147】
問診・診察室S2の室内の設備は医師の机と椅子および・患者の椅子、電子カルテ(いずれも不図示)などである。
【0148】
紫外線照射装置100は、例えば、同図(A)と同様の4個の低圧水銀ランプ112を備え、天井直下のコーナー部にそれぞれ配置されている。また図示は省略するが人感センサも設けられ、天井にはHEPAフィルター(の空気の吹き出し口)が設けられている。
【0149】
処置室S3の室内の設備は看護士用処置台、ベッド(いずれも不図示)であり、紫外線照射装置100は、同図(A)と同様の4個の低圧水銀ランプ112を備え、天井直下のコーナー部にそれぞれ配置されている。また図示は省略するが人感センサも設けられ、天井にはHEPAフィルター(の空気の吹き出し口)が設けられている。
【0150】
殺菌対象領域(医療施設)Sの稼動例および殺菌処理方法は、以下の通りである。
【0151】
待合室S1、問診・診察室S2および処置室S3は、患者受け入れ前(初回)に、例えば10分間(第一の時間)、低圧水銀ランプ112を点灯後、20分(第二の時間)消灯して消灯時に患者を受け入れる。
【0152】
ある患者は、待合室S1、問診・診察室S2および処置室S3の順に破線矢印のように移動するが、それぞれの部屋の低圧水銀ランプ112が消灯している場合に、移動可能となる。例えば、或る部屋(例えば問診・診察室S2)から患者が退室(次の部屋(処置室S3)に移動)することで無人になると、人感センサがこれを感知し、当該部屋(例えば問診・診察室S2)への次の患者の受け入れを許可する。この場合、各部屋のドアや入り口付近に、人感センサからの信号を受信して入室の許可(不許可)を表示する表示手段や、音声で案内するスピーカーなどを設けて案内するとよい。また、人感センサの検知結果に連動させて各部屋のドアを自動で開閉(または鍵の施解錠)をするようにしてもよい。
【0153】
このようにすることで、患者が入室していない時間帯だけ、殺菌処理を行うことができ、感染拡大のリスクを軽減できる。
【0154】
この例では、待合室S1、問診・診察室S2および処置室S3のそれぞれは、患者が不在の場合には通常の清掃や従来方法による計画的な(定期的な)殺菌処理を行えばよく、感染患者受け入れ時には、その10分前に(初回)に10分間点灯し、20分〜30分で消灯する。
【0155】
ただしこの場合、感染源である患者が各部屋を移動し、次の患者が同様に各部屋を移動する。このため、前の患者の細菌感染のリスクを低減するよう、各部屋の低圧水銀ランプの点灯/消灯が制御される。
【0156】
紫外線照射装置100の低圧水銀ランプ112の紫外線照射照度は、例えば1mの照射距離の場合約0.1mw/cm
2であり(
図6)、前の患者(感染源の患者)の細菌感染のリスクを1/10にする場合には、紫外線の積算光量は12mJ/cm
2(
図5(C))であり、照射時間は120秒となる。従って、問診・診察室S2および処置室S3の紫外線照射装置100の制御プログラムでは初回(10分間)の紫外線照射を行なった後であっても、患者が退室した後に(医師等も退室する)3分以上間隔をあけて(うち2分間は紫外線照射を行う)、次の患者を受け入れるようにする。
【0157】
また、感染源となる患者が感染している菌種に応じて、感染リスクの低減の程度(患者が退室した後の各部屋の紫外線照射時間)を適宜選択する。例えば、感染リスクを1/10にしたい場合には2分、1/100にしたい場合は4分、1/1万にしたい場合は8分程度、各部屋において紫外線照射を行なった後に(この間隔を置いて)次の部屋に移動するように制御する。
【0158】
なお、待合室S1は、患者の受け入れを制限できないので、紫外線照射は、患者受け入れ前に限定されるが、問診・診察室S2および処置室S3の殺菌後の空気が、各部屋の圧力損失に従って、待合室S1に流入するため、空気の汚染を抑制できる。また、問診・診察室S2および処置室S3は上記の点灯/消灯の制御プログラムによって前の患者による感染リスクを低減できるので有効性が大きい。
【0159】
同図(B)の簡易(例えばプレハブ、ユニット)型医療施設は、仮設施設や仮設テントなどであってもよく、本実施形態の紫外線照射装置100と一体的に、移動・設営が可能な紫外線照射ユニットであってもよい。
【0160】
また、上記の紫外線照射装置100と、管理手段を組合わせて紫外線照射システムを構成してもよい。この場合の管理手段は、殺菌対象領域Sへの人物の入出を管理するもの(例えば、入退室管理手段)であり、紫外線照射装置100の駆動制御手段113は、管理手段による入出の管理(入退室管理)と連動させて紫外線照射装置100の制御を行う。
【0161】
具体的には、例えば入室のためのICカードが室外に設けたカードリーダで読み取られた場合に部屋のドアが開放可能(入室可能)となり、同時に紫外線照射装置100が消灯される。また、退出のためのICカードが室内に設けたカードリーダで読み取られた場合に、再び部屋のドアが開放状態(退室可能)となり、その後(例えば退出後にドアが閉まった後に)紫外線照射装置100が点灯される。この場合、紫外線照射装置100は人感センサ115を設けなくても良いが、二重の安全管理のため人感センサ115を設けてもよい。
【0162】
図8に示した各例において、初期の紫外線の照射時間(第一の時間T1)も、初期の菌数をどの程度まで低減させるか(感染リスクの限界をどの程度にするか)により決定する。例えば、感染リスクを1/10にしたい場合には2分、1/100にしたい場合は4分、1/1万にしたい場合は8分程度、1/10万にしたい場合は、10分程度、などである。
【0163】
なお、上記の点灯/消灯の制御プログラムにおける照射(点灯)時間(UV照度)、消灯時間は一例であり、推定される混入(落下)菌量および菌種、殺菌対象領域Sのサイズ、殺菌対象領域Sの換気能力、収容人数、従来方法による殺菌処理の程度に応じて、効率よく殺菌が可能で且つ感染を防止する(2回目(2サイクル目)以降の照射の場合には、菌の増殖を抑制する)設定(タイミング)が適宜選択される。
【0164】
また、照射(点灯)時間(UV照度)、消灯時間とともに、照射方向や、殺菌対象領域S内の空調(空気の流れ)も、効率よく殺菌が可能で且つ感染を防止する(菌の増殖を抑制する)設定が適宜選択される。
【0165】
なお、紫外線の照射経路に例えば安全カバーや保護フィルム等の部材が介在する場合は、その透過度を適宜考慮するとよい。具体的には、上述の(式1)の積算光量[μj/cm2]の算出には、照射される物質の透過度や安全係数を考慮し、以下の(式2)により求めるとよい。
【0166】
積算光量[μj/cm2]=UV照度[μW/cm2]×積算照射時間[sec]×物質の透過度[%]×安全係数 (式2)
【0167】
ここで、安全係数はランプ消耗度や安全率等に基づく係数であり、ランプの寿命末期の照度が、初期のランプ照度の70%であるとして計算した値である。UVによる消毒処理はそのDNAやRNAを損傷させることで、病原微生物を不活化させ感染リスクを低減することができるが、一方で違う光のエネルギーにより細胞としての機能を回復する場合がある。これは細胞内に存在する酵素が作用すると考えらえており、253.7nmの波長のUV照射により生じたチミン等の二量体が360nmを中心とした近紫外光エネルギーの作用により元の塩基に開裂する反応により生じる。つまり360nm近辺のエネルギーを主波長とする領域の光照射により菌が光回復するとされている。
【0168】
光回復は比較的細胞の構造が単純なウィルスではおきないとされるが、大腸菌等の菌類や微生物ではこれらの酵素が備わっている。すなわち、これら病原微生物の中に光回復の能力を有したものがあるものとして捉え、十分なリスク管理を講じる上では光回復原理とその回復速度を考慮することが望ましい。例えば、光回復を考慮した場合には、殺菌に必要なエネルギー量は、
図4の2倍にすればよく、大腸菌を例にとると、殺菌に必要となる積算光量5,400μJ/cm
2の2倍の積算光量を、光回復を考慮した殺菌に必要なエネルギー量とすれば良いということになる。
【0169】
以上の例では、殺菌対象領域Sが病院の手術室や待合室、診察室、処置室等である場合を例示したが、無菌室(無菌充てん室)であってもよいし、病院は動物病院等であってもよい。
【0170】
また、殺菌対象領域Sは、精密機器の製造、医薬品の製造、食品加工(特に保存剤を使わない食品などの加工、無菌充填下降)等を行なうクリーンルームであってもよい。
【0171】
また、紫外線照射手段(低圧水銀ランプ)112の取り付け位置は、天井に限らず、壁面、床面、柱表面、照明灯の表面や、透光性保護カバー内面、あるいは外面に設置されていてもよい。また、殺菌対象領域S(室内)に取り付けられるもの(据え置き型)に限らず、紫外線照射手段112が可搬型(ハンディタイプ)であってもよい。
【0172】
また、紫外線照射手段112として直管型の低圧水銀ランプを例示したが、その形状は図示の例に限らず、例えば電球型などであってもよい。
【0173】
また、紫外線照射手段(低圧水銀ランプ)112のUV強度は光学協会では基準の統一がされておらず、受光素子のUVによる劣化もあるため、常時正確な値を得るためには、一定の計器を用いて都度校正を行い管理するとよい。
【0174】
これら殺菌に必要な紫外線の強度を測定する方法としては、260nm〜265nmに感度ピークを持つポータブルなUV照度計が市販されており、殺菌処理が必要な現場に持ち込んで253.7nmのエネルギーのUV強度が得られているか否かを測定できる。落下菌等の細菌をシャーレ上に採取して培養し、菌数を測定する微生物検出法(一般社団法人日本食品分析センター)等との併用による検証で実際の殺菌効果と必要な紫外線線照射量の判定を行う事ができる。
【0175】
また、本実施形態の紫外線照射手段112は、出力波長が、紫外光の内の短波長のUVC領域であるエネルギーで、細菌のDNAを直接破壊することで細菌類を不活化する能力を有するUV光源であればよく、例えば、LED(light emitting diode)のUVランプであってもよい。
【0176】
水銀灯以外の紫外線を出力することが出来る光源として代表的なものに水銀レスで紫外領域のエネルギーを得ることが可能なUV−LEDがある。このUV−LEDの中でUVC領域からUVB領域、特に260nmから285nmに輝線を持ち単一波長を得ることが出来るUV−LED光源は、発光効率がよく照度低下がし難い特性と長寿命化が図られており、
図3に示した殺菌波長領域であるUVCのエネルギー出力に合致している。すなわち、UV−LED光源においても高い殺菌効果が得られることから、本発明の実施形態として低圧水銀ランプ112に変えてUV−LEDを用いても良い。
【0177】
<照明装置>
次に、上記の紫外線照射装置100と照明用光源6を備えた照明装置50について、手術室で用いられる照明装置(無影灯)50を例に、
図9から
図13を参照して説明する。
【0178】
上記の実施形態は、殺菌対象領域S(室内など)を均一に菌数管理(増殖の抑制)する例を説明したが、例えば手術室などでは、殺菌対象領域Sを患者(特に患者の術野)に絞り込んで集中的に紫外線を照射することも可能な構成にすることにより、さらに効率的に菌数抑制ができる場合がある。
【0179】
手術室においては、患者は、手術室中央に配置された手術台に乗せられ、不要な部分の衣服をとり、強い殺菌剤で消毒殺菌され、無菌の覆布で一面にカバーされる。そして、手術すべき領域のみ覆布が切除され、医師等の操作する手術用具や術者の手が、この手術すべき領域に侵入していく。この領域に菌が入ると、患者の体内に菌が入り感染する恐れがある。つまりこの場合、術野部分と、その上の空間とが非常に無菌性が強く要求される殺菌対象領域Sとなる。
【0180】
また、患者が何らかの菌に感染していた場合、手術台及びその周辺は当該菌によって汚染される可能性が高い。このような場合も、患者及びその周囲の領域は特に集中的な殺菌が望まれる領域(殺菌対象領域S)となる。
【0181】
このような殺菌対象領域Sに紫外線を集中的に照射して殺菌処理するために、手術台の直上にあり、必要な部分に確実に光を届けるとともに、術野を可能な限り影になる部分なく照らすために設計された照明装置(無影灯)50に、上述の紫外線照射装置100を組み入れることとした。
【0182】
つまり、本実施形態の照明装置50は、適宜、手術のための照明(無影灯)としての機能するとともに術野である殺菌対象領域Sに適量の紫外線を照射し、また、手術以外の時間帯には手術台を始め手術室内(この場合手術室内も殺菌対象領域Sである)に紫外線を照射する紫外線照射装置(殺菌装置)100として機能する。これにより、手術中においては患者の術野を照らしつつ殺菌するとともに、術後においては飛沫や接触により設備機器表面上に発生するウイルスや細菌類と、落下菌および空中の浮遊菌などの各種菌を効果的に殺菌することができる。
【0183】
以下具体的に説明する。
図9は、本実施形態の照明装置(無影灯)50の外観斜視図である。
【0184】
同図に示すように、本実施形態の無影灯50は、照明用光源(ハロゲン灯または白色LED)6と紫外線照射装置100と、前面クリアカバー2と、本体ユニット(ケース)1と、角度調整グリップ21と、サイドグリップ20と、操作パネル12などを有している。
【0185】
本体ユニット1は無影灯50の全体を統合する。また、サイドグリップ20は、本体ユニット1の両サイドに設けられ、角度調整グリップ21は、本体ユニット1の中央部にせり出すように設けられる。サイドグリップ20および角度調整グリップ21は、手術中に無影灯50の位置を適宜任意で調整し、最適な照明を患部に当てるために設けられる。
【0186】
照明用光源6は、本体ユニット1前面に均等に配設され、前面クリアカバー2で覆われる。また、照明用光源6からの光22の照射方向(
図11参照)の全面には、施術によって患部に最適な光量を照射できる集光レンズ(照明用レンズ)5とその調整ダイヤル(不図示)が設けられている。
【0187】
無影灯50の表面を保護する前面クリアカバー2は菌を含んだ飛沫が無影灯50に付着することを予防する。この前面クリアカバー2は照明としての光を遮らず、且つ紫外線に耐えうる素材として石英ガラスやフッ素樹脂材などの材料を用いる。
【0188】
紫外線照射装置100は、殺菌効果の高いUVC領域の波長帯のエネルギーを出力することのできる紫外線照射手段112としてUVランプ(例えば、低圧水銀ランプやUV−LEDなど)3を備え、当該UVランプ3が前面クリアカバー2の表面に、照明用光源6と交互に配置される以外は、上記の
図1等で説明した構成と同様である。
【0189】
本体ユニット1の側面には照明用光源6を制御するための点灯切り換えスイッチ13と無影光の照度の調整など各種の操作が可能な操作パネル12が設けられている。点灯切り換えスイッチ13は、例えば、術野が均一に照射されるように複数の照明用光源6を個々に点灯・消灯するためのスイッチであるが、例えばUVランプ3のみの点灯と照明用光源6のみの点灯とを切り換える機能を兼ねても良い。
【0190】
図10を参照して、本体ユニット1はその重量に耐えられる強度設計の下で選定された支持具としてのアーム10とアーム関節11により支えられ、上下左右のみならず斜め方向にも立体的に動かせ、手術を行なう作業者(医療従事者)の任意によりサイドグリップ20により自由なポジション変更を可能としている。手術中において的確に施術箇所を照らし出すために、本体ユニット1自体も角度調整グリップ21により、無影灯50の照射角度を任意に可変でき、微妙な調整も可能となっている。
【0191】
本体ユニット1、アーム10、サイドグリップ20および角度調整グリップ21などの表面カバー部分を構成する材料としては、軽量化を目的としては主に樹脂材料を用いる。躯体の形状維持のための支持材料及び電気部品等は一部に金属類が使用される。前面クリアカバー2周辺は既述のごとく石英ガラス材料やフッ素樹脂を選定する。
【0192】
図9および
図11を参照して、本体ユニット1、前面クリアカバー2、背面蓋19は其々円形の外形を有し、本体ユニット1内部に照明用光源(ハロゲンランプ(場合によっては白色LED))6、照明用光源6の照明光の焦点をコントロールするための照明用レンズ5、照明用光源6からの光を反射させるリフレクター7、照明用光源6の点灯を制御する安定器電源(電子プリント基板、照明用光源6の点灯回路)8、照明用光源6及び安定器電源8を最適な状態で点灯・駆動させるために本体ユニット1内温度を一定温度に保つ冷却ファン9が其々ユニット化されて内室に収納されている。
【0193】
また、前面クリアカバー2と背面蓋19はそれぞれ本体ユニット1に対して開放可能に構成されており、前面クリアカバー2側からと背面蓋19側それぞれより本体ユニット1内部に部品の組付けとメンテナンスを容易に行なうことが可能となっている。前面クリアカバー2は本体ユニット1前面に勘合し、背面蓋19は本体ユニット1後ろ面に組付けられる本体ユニット1と一体的に表面カバー部分(ケース部材)を構成している。これらの表面カバー部分は全体的に平面を成しており、埃が付きにくく拭き取り清掃をし易い素材と形状で構成されている。
【0194】
紫外線照射装置100の安定器電源16も本体ユニット1内に収容される。この場合の安定器電源16は、電子プリント基板やUVランプ点灯回路であり、上述の駆動制御手段113の一部である。
【0195】
安定器電源8、16は、本体ユニット1内部若しくはアーム10により繋がったボックス内に収納され、照明用光源6とUVランプ3をそれぞれ効率良く点灯する回路が照明装置50に一体的に搭載される。
【0196】
UVランプ3は、前面クリアカバー2に取り付けられ、略円形の前面クリアカバー2の表面においてその周方向に沿って照明用光源6と交互且つ等間隔に配設される(
図9参照)。これにより、照明用光源6の光22の照射方向(
図10参照)と、UVランプ3の紫外線23の照射方向(
図12参照)の少なくとも一部が同方向に設定される。UVランプ3の紫外線23は、集光手段114が設けられている場合には、これによってもが照明用光源6の光22の照射方向と同方向に満遍なく照射される。
【0197】
具体的には、集光手段(例えば、リフレクターなど)114は例えば本体ユニット1内のUVランプ3の背面に設けられて形状が変化するように設けられ、これによって手術室内の天井、壁、床、空間や手術室内にある設備機器とを包括的に照射可能となる。また、それに加えて患者の術野に集中的に照射可能となる。これらの照射方向の切り替えは、例えば集光手段114の移動によって行なうことができる。
【0198】
さらに、UVランプ3からの紫外線23は、無影灯50の前面クリアカバー2の表面に沿っても照射され(
図12参照)、これにより前面クリアカバー2表面も殺菌可能に構成されている。
【0199】
なお、照明用光源6の光22の照射方向と、UVランプ3の紫外線23の照射方向はそれぞれ、角度調整グリップ21により任意に変更可能である。また、操作パネル12などの操作によってそれぞれの照射方向を調整可能に構成してもよい。
【0200】
本体ユニット1は上記の通り上下左右方向を覆われた筐体であるため、内部に収納された照明用光源6及び安定器電源8、安定器電源16などは発熱源となり、蓄熱によって其々の部品を破損させてしまうと共に、空調の効いた部屋であっても手術時の環境温度を乱してしまう恐れがある。これら部品を強制的に冷却するために照明用光源6及び安定器電源8上部に常時内部の熱を排熱するための冷却ファン9を設ける。冷却ファン9は、照明用光源6に対応して同数搭載され、本体ユニット1背面の側頭部に設けたルーファー18より常時喚起することにより本体ユニット1内部の冷却を行える構成となっている。
【0201】
照明用光源6は碍子(LEDの場合はプリント基板)に配設され、その碍子(プリント基板)からは其々安定器電源8等の点灯回路を経て、本体ユニット1外の施設側電源供給口(不図示)まで配線接続される回路を形成している。それぞれの電気部品同士の配線接続は専用のコネクターにより適時脱着可能なようにしており、部品の破損時の交換及びメンテナンス点検を容易なものにしている。UVランプ3及び安定器電源16も同様に配線接続されており、これらの結線には其々脱着可能なコネクター部品が用いられる。
【0202】
また、本体ユニット1内の各電気部品より外部の施設側電源供給口(不図示)に繋がる配線17は、外部に露出すると手術を行なう作業者の邪魔になるため、本体ユニット1を保持するためのアーム10及びアーム関節11内部の空洞を利用して、施設側電源供給口に配線を繋げられるような構造としている。
【0203】
本実施形態の本体ユニット1はあらゆる手術等に対応して様々な光の状態を確保するという要求に応えられるよう、天井吊り下げ型で駆動性が良く精度の高いアーム10とアーム関節11により支持され、その位置を調整できる構成(
図2)とした。しかしこれに限らず、現場の状況に応じて天井埋設型や、自立設置型の支持材によって支持する構成に容易に変更(適用)することが可能となっている。
【0204】
本実施形態の無影灯50は、主に医療施設において手術が行われる際に使用される照明であり、被照射対象となる患者の患部を集中的に影が生じないように複数灯の光源により照らすとともに、施術者である医者及び看護師の治療作業がスムーズに行えるように最適な照度と照射角度が調整できる医療用の特殊照明である。
【0205】
無影灯50の照明用光源(ハロゲン灯若しくは白色LED)6は、本体ユニット1表面に均等に配設され、手術を受ける患者に効率良く照明を施すことが出来る配光設計がなされている。
【0206】
具体的には、無影灯50からの光22は基本的には手術者である医者が患部を施術する上で最も観察しやすい照度を確保できるように、輝度の高いハロゲンランプ(場合によっては白色LED)6と配光性を最適化するためのリフレクター7及び光散乱を整える照明用レンズ5からなる光源体により直進方向を照らし出せるような配光設計がなされている。またこれをベースに、患者を全体的に照らしだすモードや時には患者の特異対象部位に焦点を合わせ適度なスポット光照射をも可能とするモードなどの切り換えを可能としており、これらの切り換え制御等を例えばタッチ式の操作パネル12(あるいは切り換えスイッチ13)で行なうようにしている。操作パネル12は、施術時に於いても作業者がスムーズに行うことが出来るよう例えば、本体ユニット1の側面に配設されている。
【0207】
また、本実施形態の無影灯50に内蔵される紫外線照射装置100のUVランプ3は、殺菌エネルギーであるUVC領域の紫外線を効率良く出力することのできる例えば直管型UVランプ3であり、本体ユニット1の前面(前面クリアカバー2と同じ高さ位置)にランプフォルダー4により取り付けられている。なお、複数の照明用光源6とUVランプは、略円形の前面クリアカバー2の周方向において交互になるように配置される。
【0208】
図12はUVランプ3の配置とUVランプ3から照射される光(紫外線)23の照射方向を示した概要図である。直管型のUVランプ3は一般的な蛍光灯の光と同じで全方位への光照射が可能であるため、その殺菌エネルギーは本体ユニット1の前面クリアカバー2の表面に沿う方向及び手術作業空間と無影灯50が照明として光22を照射する方向(
図10)と同方向へ行き渡らせることができる。これにより、作業機器類としての無影灯50や手術台及びそれらの手すり表面などを中心に付着した有害な落下菌や浮遊菌を短時間で効果的に殺菌することができ、感染予防を図ることができる。
【0209】
殺菌に有効な紫外線エネルギー自体は人体に有害であるため、手術に当たる医者や看護師および患者の特に術野を除く部位にも直接紫外線が当たらないような構成にすることが望ましい。
【0210】
そこで、無影灯50としては通常の手術に支障が生じないような明るさを確保できる構成としつつ、その表面(前面クリアカバー2)の表面に取り付けたUVランプ3は、無影灯50とは別途独立して点灯/消灯が可能となるように、無影灯50(照明用光源6)とUVランプ6の点灯/消灯を切り換えるように構成する。無影灯50とUVランプ6の点灯/消灯の切り換えは、例えば切り換えスイッチ13などによって手動で行なうことができる。また、自動でUVランプ3照射時間が設定(制御)できるタイマー機能を備えてもよい。さらに、UVランプ3は、その点灯時間および消灯時間の制御プログラムを、紫外線照射装置100の駆動制御手段113に供えている。UVランプ3の点灯時間および消灯時間の制御プログラムは、上述の紫外線照射装置100の構成として説明したものと同様である。すなわち、UVランプ3の点灯時間と消灯時間の制御方法は、上述の紫外線照射装置100における制御方法に基づいて設定される。また、UVランプ3の点灯時間および消灯時間や、照射時間のタイマーの設定は例えば操作パネル12や切り換えスイッチ13の操作などにより任意に(手動で)設定・変更も可能である。
【0211】
UVランプ3による紫外線照射(点灯)は、例えば制御プログラムなどによって(あるいは手動で)、手術が行なわれていない時間帯(殺菌対象領域Sが稼動していない時間帯)に手術室内や手術台、その他設備機器や空間に対して行なわれるが、殺菌対象領域Sの稼働中においても、例えば手術を受けている患者の術野に対して、縫合前などの極僅かな時間(人体に悪影響を与えない程度の短時間)に集中的に照射することが可能である。これにより、患者の手術部位の落下菌および手術部位周囲の浮遊菌を殺菌することができる。具体的には、例えば、
図8(A)を参照して説明した点灯/消灯の制御プログラムと同様の運用が可能である。
【0212】
このように、本実施形態の紫外線照射装置100を用いることで、まず患者の開胸(開創)前に手術エリアの菌数を下げることができる。また、手術中においては殺菌のために僅かな時間だけ作業者を退避させて菌数の増加を抑制することができ、可能な限り手術を中断せずに(手術室の稼働率を上げて)殺菌対象領域Sの殺菌を行なうことができる。また、手術終了後、閉胸(閉創)前に、僅かな時間、術野に紫外線を照射することで菌の存在確率を下げ多状態で閉胸し、術後感染確立を下げることができる。
【0213】
また、手術が行なわれていない時間帯の殺菌処理は、十分な時間を掛けて行うことができるが、この場合は、手術室内への作業者の入室を管理する必要がある。このため、紫外線照射装置100に設けた人感センサ15(115)によって手術室内、特に無影灯50付近(その直下)が有人であるか否かを監視し、UVランプ6の点灯中に有人を検知した場合には、UVランプ6を自動で消灯するように構成するとよい。
【0214】
また、これに加えて、無影灯50の付近に作業者が存在している場合に誤って無影灯50(照明用光源6)をUVランプ3に切り換えてしまった場合に緊急停止できる非常停止ボタン14を例えば操作パネル12付近に設けるとよい。これにより、意図しない紫外線照射による人体への悪影響を回避でき、安全に殺菌処理を行うことができる。
【0215】
既に述べたように本体ユニット1を構成する部材は軽量化のため樹脂材料が主に用いられるが、本体ユニット1に組み込まれたUVランプ3から照射する紫外線エネルギーで前面クリアカバー2等が劣化する懸念がある。このため、紫外線が照射される範囲を構成する部品の素材は、紫外線を全く透過しないソーダガラスや紫外線の耐久性の高い表面をアルマイト処理したアルミ及びステンレス等の材料により構成するとよい。
【0216】
図13は、本発明の実施形態にかかる無影灯50(照明用光源6)とUVランプ3の点灯制御の一例を示す回路図である。病院で電力源として得やすい商用電源AC100Vを動作電源とし、照明用光源6の点灯に必要な安定器電源8(プリント基板)に電力を供給する回路とUVランプ3の点灯に必要な安定器電源16(プリント基板)に電力を供給するための回路(駆動制御手段113に含まれる)が並列で接続されている。
【0217】
照明用光源6及びUVランプ3の灯数並びにそれら光源の点灯に必要となる電源の数量は必要となる照明スペースや殺菌エリア(殺菌対象領域Sのサイズ)および換気能力、収容人数、などを勘案して適宜選択される。すなわち、
図8や
図13に示した数(いずれも6灯ずつ)に限定されず、いずれも増減しても良い。
【0218】
更にUVランプ3、照明用光源6のいずれもそれぞれに1灯毎個別に選択して点灯と消灯が制御できるように構成するとよい。これらの切り換えは、例えば切り換えスイッチ13などにより行なう。これにより、照明用光源6とUVランプ3をそれぞれ、またそれぞれについて1灯ずつ点灯/消灯させるなどして、照射の影が生じないように満遍なく必要な領域に照明または紫外線を照射することができる。
【0219】
さらに例えば、手術中においてUVランプ3および照明用光源6の少なくともいずれかを最適な照射量とすることが出来るモード選択機能と、殺菌処理時にUVランプ3の過度な照射を抑制するために部分的にUVランプを点灯(消灯)するなどの措置が任意で行える省力化モード選択機能を設け、作業者が任意に選択できるように構成してもよい。これらの制御及び選択は、例えば操作パネル12の操作によって行なう。これにより、より現場状況に適した紫外線照射装置100を兼ね備えた照明装置50として幅広い活用に対応することができる。
【0220】
なお、紫外線による殺菌効果は前述の通り積算照射量(mJ/cm
2)で決まるため、省力化モードでUV照度(mw/cm
2)が低い場合に於いては、照射時間(sec)を長く確保することで、規定の殺菌が行える。従ってUVランプ3の点灯タイマーの設定として、部分的に消灯したUVランプ4が点灯していたと仮定した場合の照射量(%)に対応する照射時間を算出し、その照射時間分長目に、残りのUVランプを点灯させることで必要な殺菌効果を確保することが出来る。
【0221】
なお、本体ユニット1の内部に加湿器やヒーター、冷却手段などを設け、必要に応じて患者の手術部位に対して加湿を行ったり、保温・冷却などを行なうようにしてもよい。
【0222】
以上説明したように、本実施形態の無影灯50は、UVC領域の紫外線エネルギーを効率良く発光することのできるUVランプ3を有し、照明機器の表面及びその周囲空間を隈なくUVランプから照射される殺菌能力を有した紫外光を照射することにより、手術時のみならず、手術時以外の時間帯に手術室内空間と手術台及び周辺機器に同時に紫外線を隈なく照射し、広範囲に渡り殺菌処理を施すことができる。
【0223】
これにより、薬液散布や拭き取り等の消毒剤を用いた洗浄等、従来の方法による殺菌処理に係る負担を無くし、自動で手術環境の殺菌が行え、クリーンな状態を保つことのできる照明装置50を提供することができる。
【0224】
すなわち、菌数管理の必要なエリアの目的機器と周囲の空間を、設備の稼働率を低下させることなく、効率よく、安全に殺菌し、環境を維持することができる。
【0225】
一般的に無影灯50は手術時での利用を目的として手術室(手術台の上)に設置されているが、本実施形態の無影灯50は、一般の手術室のみならず、集中治療室や場合によっては実験用手術あるいは動物病院における照明装置として幅広く活用することが見込める。特に本実施形態である紫外線照射装置100による手術室の空間と手術台等の設備機器の表面殺菌機能は、体力が低い重篤な患者や老人から子供までを感染から保護し、現場作業者である医者や看護師の手を煩わすことなく感染源そのものを断ち切り作業衛生環境を向上することが可能となる。
【0226】
以上説明した本実施形態の照明装置50は、無影灯に限らず、処置室、無菌充てん室、動物病院で利用される照明装置や、精密機器の製造、医薬品の製造、食品加工(特に保存剤を使わない食品などの加工、無菌充填下降)等を行なうクリーンルームなどで利用される照明装置に適用可能である。
【0227】
尚、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
殺菌対象領域を効率よく、安全に殺菌し、また殺菌状態を維持することにより、殺菌対象領域(における設備等)の稼働率低下を防ぐことが可能な紫外線照射装置、紫外線照射方法、照明装置および紫外線照射システムを提供する。
紫外線照射装置100は、所定の主波長の紫外線を出力可能な紫外線照射手段112と、駆動制御手段113と、を有し、駆動制御手段113は、稼動前または稼働中の殺菌対象領域Sを殺菌するために必要な時間と、殺菌後の菌の増殖の時間とに応じて、紫外線照射手段112による紫外線の照射/非照射の時間制御を行う。