(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明のセンサー装置および生体分子視覚化装置の実施の形態を、
図1ないし
図14を参照して説明する。
【0028】
[第1実施形態]
まず、センサー装置の構成について説明する。
図1は、センサー装置Sの概略的な外観斜視図である。
図1に示すセンサー装置Sは、照射部10、基板20、および視覚化部50を備えている。照射部10は、励起光11として、例えば、波長980nm(第1波長帯域)の赤外光のレーザ光を出射する。
【0029】
基板20は、照射部10および撮像部30と対向する側の面がセンシング領域SAである。基板20は、ベース基板21、発光層22、保護層23が順次積層された構成を有している。ベース基板21および発光層22としては、III−V族半導体で形成されている。ベース基板21は、例えば、InP基板が用いられる。
【0030】
発光層22は、例えば、GaInAsPで形成されている。発光層22は、100nm〜1000nmの厚さが好ましい。発光層22の厚さが1000nmを超えると発光全体にとって表面の効果が利きづらくなり、発光層22の厚さが100nmより薄くなると表面の効果が利きすぎて、全般的に発光が非常に弱くなることから、100nm〜1000nmの厚さが好ましい。本実施形態の発光層22は、一例として、400nmの厚さに形成されている。発光層22は、励起光11が照射されるたときに、一例として、ピーク波長1.55μm(第2波長帯域)程度の赤外光の蛍光24を発光(発振)する。
【0031】
保護層23は、センシング領域SA上の化学物質に対して発光層22を保護するものである。保護層23は、一例として、酸化膜で形成されている。本実施形態の保護層23は、ZrO
2で形成されている。保護層23は、一例として、3nmの厚さに形成されている。
【0032】
視覚化部50は、発光層22から生じる蛍光24を受光して、センシング領域SAの像を視覚化する。視覚化部50は、撮像部30および表示部40を備えている。撮像部30は、GaInAsの2次元アレイから成るイメージセンサを有する赤外光カメラを備えている。表示部40は、撮像部30によって撮像されたセンシング領域SAの像を表示する。表示部40は、一例として、液晶ディスプレイを備えている。
【0033】
上記のセンサー装置Sにおいては、照射部10から赤外光の励起光11が照射されて発光層22から生じる蛍光24は、センシング領域SAに化学物質が存在する場合、波長が変わることなく、発光層22の電荷密度(センシング領域SAの表面電荷密度)に応じた強度で発光することを本願の発明者は見出した。これは、センシング領域SA上に化学物質が存在すると、化学物質が有する電荷によってセンシング領域SAにおける電荷密度が変化することによって生じると考えられる。
【0034】
図2に、センシング領域SAを正または負に帯電させたときの発光強度を示す。
図2の横軸における実験回1、3、5、7、9、11は、センシング領域SAを負に帯電させたときの発光強度を示し、実験回2、4、6、8、10は、センシング領域SAを正に帯電させたときの蛍光24の発光強度を示す。化学物質として水中で異なる極性の高電荷密度を有する二種類の高分子電解質を用い、この化学物質をセンシング領域SAに交互に吸着させて表面を強制的に正負に帯電させ、そのときの発光強度の変化をセンシングした。
【0035】
具体的には,最初に0.05% 3-アミノプロピルトリエトキシシランによりセンシング領域SAの表面をアミノ基化し、その後、負に帯電するポリアクリル酸 (PAA)[実験回1、3、5、7、9、11]、または正に帯電するポリエチレンイミン (PEI) [実験回2、4、6、8、10]を1wt%含む溶液にそれぞれ20分浸漬し、その溶液中で蛍光24の強度をセンシングした後、30秒間純水リンスすること繰り返した。
図2に示されるように、蛍光24の発光強度は、センシング領域SAの帯電の極性に応じて増減することが確認された。具体的には、蛍光24の発光強度は、センシング領域SAが正に帯電したときには大きくなり、センシング領域SAが負に帯電したときには小さくなることが確認された。
【0036】
次に、センサー装置Sを用いて、溶液のpHをセンシングする方法について説明する。
まず、センシング領域SAを、一例としてO
2プラズマにより親水化した基板20を溶液(化学物質)L(
図1参照)の流路に設置した。溶液Lは、濃度10 mM のKCl溶液にKOHまたはHClを加え、pHを11〜2の範囲で調整したものを用い、pHが大きい溶液からpHが小さくなる順序で流路に導入する。
【0037】
このとき、センシング領域SAは、発光層22が保護層23で被覆されているため、発光層22と溶液Lとが接触して発光層22に酸化やエッチング等が生じることを抑制できる。
【0038】
図3は、溶液LのpHと、蛍光24の発光強度との関係を示す図である。
図3に示すように、溶液LのpHが大きくなると、蛍光24の発光強度が小さくなることが確認された。また、溶液LのpHの変化と蛍光24の発光強度の変化との関係は可逆的であることも確認された。
図4は、溶液LのpHが、2〜6、9、10のときに撮像部30で撮像された像の一例を示す図である。
図4に示されるように、センシング領域SA上の溶液Lについては、pHが小さいほど蛍光24の発光強度が大きくなり、pHが大きいほど蛍光24の発光強度が小さくなった像が得られた。
【0039】
この結果は、溶液LのpHが低いときにセンシング領域SAの表面のZrO
2が正に帯電して電荷密度が変化し、アンドープでn
−型となるGaInAsPの界面付近に多数キャリアである電子の蓄積が起こり、これが界面付近での光励起によるキャリアの発生と界面再結合を抑制するためpHが高いときと比べて発光強度が強くなると定性的に説明できる。
【0040】
そして、例えば、センシング領域SA上にpHの異なる二つの溶液L1、L2が存在している場合(pHは、L1>L2)には、撮像部30はセンシング領域SAのうち、溶液L1が存在する領域から低い発光強度の蛍光24を受光し、溶液L2が存在する領域から高い発光強度の蛍光24を受光する。その結果、
図1に示されるように、表示部40においては、溶液L1が存在する領域に対応する表示領域D1がセンシング領域SA上の電荷密度に応じて暗く表示され、溶液L2が存在する領域に対応する表示領域D2がセンシング領域SA上の電荷密度に応じて明るく表示されるため、pHの違いが視覚化されpHが異なる境界を容易に視認することが可能となる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態では、発光層22を有するセンシング領域SAに励起光11を照射し、センシング領域SAからの蛍光24を受光してセンシング領域SAにおける電荷密度に応じた強度で視覚化しているため、高価なスペクトル分析器やフォトリソ法等を用いることなく、センシング領域SA上の溶液L等の化学物質に関する情報を容易に得ることができる。また、本実施形態では、センシング領域SAにおける空間分解能を高めるには、撮像部30および表示部40の空間分解能を高めることで対応可能なので、基板20に分解能に応じた密度でFET等のセンシング部や配線を形成する場合と比較して、コストアップを抑えつつ、大幅な空間分解能の向上を実現することができる。
【0042】
特に、本実施形態では、発光層22が半導体層であるため、基板20を安価に製造することができ、さらなるコスト抑制に貢献することができる。また、本実施形態では、基板20が安価であることから使い捨てと使用することで、再利用時の洗浄工程や検査工程を省くことが可能となり、センシング効率の向上を図ることもできる。
【0043】
また、本実施形態では、発光層22をZrO
2からなる酸化膜の保護層23で被覆しているため、塩や中性ではないpHを有する溶液Lによって発光層22に酸化やエッチング等が生じることを抑制することがき、安定したセンシングを維持すること可能である。また、本実施形態における保護層23を除去して再度保護層23の被膜を形成して再利用することも可能である。
【0044】
そして、本実施形態で示したセンサー装置Sにおいて、基板20を溶液Lの流路に設置することにより、コストアップを抑えつつ空間分解能が向上したpHセンシングが可能なpHセンサーを構築することができる。
【0045】
[第2実施形態]
次に、上記センサー装置Sを用いたセンシングの第2実施形態として、生体分子のスクリーニングについて
図5乃至
図7を参照して説明する。
この図において、
図1乃至
図4に示す第1実施形態の構成要素と同一の要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0046】
図5に示すセンサー装置Sは、基板20上のセンシング領域SAに、種類が異なるプローブDNAや抗体タンパク質等の生体分子BMがアレイ状にマッピングして修飾されている。本実施形態では、生体分子BMとしてプローブDNAをセンシング領域SAに修飾している。
【0047】
具体的には、基板20上のセンシング領域SAに対して、O
2プラズマ処理とAPTES(アミノプロピルトリエトキシシラン)処理の後、100mM のKClを含むpH10.4の溶液中で25 kDa,1wt%のPAA,同様のKClを含むpH3.2の溶液中で10kDa,1wt%のPEIを吸着させ、高密度なアミノ基をもつ表面を形成した。そこに1mM のKCl溶液に分散させたリン酸基を末端にもつランダムな配列の12 mer 一本鎖DNA(5’-TGCACAGACTAG-3’) 2μMを、
図6(a)に示すように、プローブDNA(生体分子BM)として吸着させ、純水でリンスした。
【0048】
そして、センシング領域SAに、上記のプローブDNAと相補的なターゲットDNA(5’-CTAGTCTGTGCA-3’;(生体分子TD(
図6(b)参照))) 10μMを同様のKCl溶液と共に導入して二本鎖のDNA(生体分子WD(
図6(c)参照))形成した後に、センシング領域SAに励起光11を照射し、センシング領域SAからの蛍光24を撮像部30で受光し、センシング領域SAの像を撮像した。
【0049】
図7は、上述したプローブDNA(生体分子BM)の修飾からターゲットDNAを導入した後までの蛍光24の強度の変化を示す図である。
DNA等の生体分子BMは、一般的に負に帯電している。そのため、一本鎖のプローブDNA(生体分子BM)が時間T1で修飾されると、センシング領域SAの電荷密度が変化して蛍光24の強度が弱くなる。その後、時間T2でのリンス時には、純水が導入されることで電荷密度が変化して蛍光24の強度が強くなる。そして、時間T3でターゲットDNA(生体分子TD)が導入され、二本鎖のDNA(生体分子WD)が形成されると、さらに強く負に帯電して蛍光24の強度が弱くなる。
【0050】
そのため、一本鎖のプローブDNA(生体分子BM)が修飾された位置は、センシング領域SAの電荷密度が変化してセンシング領域SAにおける他の領域よりも発光された蛍光24の強度が弱くなる。また、一本鎖のプローブDNA(生体分子BM)がターゲットDNA(生体分子TD)とハイブリダイゼーションされて二本鎖のDNA(生体分子WD)が形成されると、二本鎖のDNA(生体分子WD)が形成された位置は、センシング領域SAの電荷密度がさらに変化して一本鎖のプローブDNA(生体分子BM)が修飾された位置よりも発光された蛍光24の強度がさらに弱くなる。
【0051】
そして、撮像部30が撮像したセンシング領域SAの像は、一本鎖のプローブDNA(生体分子BM)が修飾された位置は、
図5における表示部40に表示されるように、センシング領域SAにおける他の領域よりも蛍光24の強度が弱くなることから暗く表示される。また、撮像部30が撮像したセンシング領域SAの像は、ハイブリダイゼーションされた二本鎖のDNA(生体分子WD)の位置からの蛍光24の強度が、一本鎖のプローブDNA(生体分子BM)が修飾された位置からの蛍光24の強度より弱くなることから、表示部40においては二本鎖のDNA(生体分子WD)に対応する位置(
図5の表示部40における左から2番目で下から2番目の位置)が一本鎖のプローブDNA(生体分子BM)が修飾された位置よりも暗く表示される。
【0052】
従来技術では、
図8(a)に示すように、基板20上に修飾した一本鎖のプローブDNA(生体分子BM)に対して、
図8(b)に示すように、標識物質MKを修飾したターゲットDNA(生体分子TD)とハイブリダイゼーションさせて、
図8(c)に示すように、二本鎖のDNA(生体分子WD)が形成されると、標識物質MKからの蛍光を通して二本鎖のDNA(生体分子WD)を検知していた。本実施形態では、上記第1実施形態と同様の作用・効果が得られることに加えて、上述したように、励起光11をセンシング領域SAに照射し、センシング領域SAからの蛍光24の強度によってハイブリダイゼーションをセンシングすることが可能である。そのため、本実施形態では、標識物質を修飾させたり、スペクトル分析を行うための装置・工程が不要になり、センシング効率の向上や装置の簡素化および低価格化を実現できる。
【0053】
また、本実施形態では、励起光11および蛍光24が低エネルギーの赤外光であるため、励起光11および蛍光24が高エネルギーの紫外光であった場合に懸念される、生体分子に悪影響が及ぶことを抑制できる。このように、本実施形態では、コストアップを抑えつつ空間分解能が大幅に向上したハイブリダイゼーションセンシングが可能な生体分子センサーを構築することができる。
【0054】
[第3実施形態]
次に、上記センサー装置Sを用いたセンシングの第3実施形態として、生体分子の定量について
図9を参照して説明する。
この図において、
図5乃至
図8に示す第2実施形態の構成要素と同一の要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0055】
図9に示すセンサー装置Sは、センシング領域SAに特定の一つの種類のプローブDNAや抗体タンパク質等の生体分子を修飾した二枚の基板20A、20Bを備えている。基板20A、20Bの各センシング領域SAには、一つの種類のプローブDNA(生体分子BM)が修飾されている。すなわち、本実施形態では、互いに同一の種類のプローブDNA(生体分子BM)が修飾された二枚の基板20A、20Bが用いられる。
【0056】
上記構成のセンサー装置Sでは、ターゲットDNA(生体分子TD)を含む試料液LAを導入部26Aから基板20Aのセンシング領域SAに導入し、ターゲットDNA(生体分子TD)を含む試料液LBを導入部26Bから基板20Bのセンシング領域SAに導入する。本実施形態では、試料液LAが、少ない量のターゲットDNA(生体分子TD)を含み、試料液LBが、多い量のターゲットDNA(生体分子TD)を含むものとする。
【0057】
少ない量のターゲットDNA(生体分子TD)を含む試料液LAが導入された基板20Aのセンシング領域SAでは、ターゲットDNA(生体分子TD)とハイブリダイゼーションされて形成される二本鎖のDNAの量が少なくなり、多い量のターゲットDNA(生体分子TD)を含む試料液LBが導入された基板20Bのセンシング領域SAでは、ターゲットDNA(生体分子TD)とハイブリダイゼーションされて形成される二本鎖のDNAの量が多くなる。そのため、基板20Bのセンシング領域SAでは、基板20Aのセンシング領域SAよりも電荷密度が大きくなり、発光される蛍光24の強度が基板20Aのセンシング領域SAから発光される蛍光24の強度よりも弱くなる。
【0058】
その結果、表示部40においては、基板20Bに対応する表示領域D12がセンシング領域SA上の電荷密度に応じて暗く表示され、基板20Aに対応する表示領域D11がセンシング領域SA上の電荷密度に応じて明るく表示されるため、ターゲットDNA(生体分子TD)の量の相対的な差が視覚化され、ターゲットDNA(生体分子TD)の量を容易に視認することが可能となる。
【0059】
なお、一般に液中ではタンパク質は異なる帯電をしているため、上述した第2実施形態および第3実施形態で説明したプローブDNA(生体分子BM)を抗体タンパク質に置き換え、ターゲットDNA(生体分子TD)を抗原タンパク質に置き換えることにより、酵素標識等の高コストの標識物質を用いることなくタンパク質の特定や定量化を実現することも可能である。
【0060】
[第4実施形態]
次に、上記センサー装置Sを用いたセンシングの第4実施形態として、細胞種別のセンシングについて
図10を参照して説明する。
この図において、
図5乃至
図8に示す第2実施形態の構成要素と同一の要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0061】
図10に示すセンサー装置Sは、細胞をセンシング対象としている。
細胞のうち、例えば、がん細胞CCは、正常細胞CNと比較してpHが低いため、センシング領域SAのうち、がん細胞CCが存在する領域は、正常細胞CNが存在する領域と比較して電荷密度が小さくなる。そのため、基板20上のセンシング領域SAに置かれた細胞に対する励起光11の照射により、センシング領域SAから発光される蛍光24の強度は、がん細胞CCが存在する領域では大きくなり、正常細胞CNが存在する領域では小さくなる。
【0062】
その結果、表示部40においては、がん細胞CCが存在する領域D21では明るく表示され正常細胞CNが存在する領域D22では暗く表示されるため、がん細胞CCの存在が明確に視覚化されて視認が容易になる。例えば、手術で切除した部位を基板20のセンシング領域SAに載せ、発光される蛍光24の強度をセンシングすることにより、がん細胞CCと正常細胞CNとが異なる明るさで表示されるため、細胞種別を容易に実施することが可能になる。
【0063】
[第5実施形態]
次に、上記センサー装置Sを用いたセンシングの第5実施形態として、細胞内部のセンシングについて
図11を参照して説明する。
この図において、
図5乃至
図8に示す第2実施形態の構成要素と同一の要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0064】
細胞Cは、内部に種々の小器官が活動しタンパク質を分泌している。そのため、細胞Cは、pHあるいは表面電荷に分布が生じている。そこで、
図11に示すように、基板20上のセンシング領域SAに置かれた細胞Cに対して励起光11を照射することにより、細胞CのpHあるいは表面電荷の分布に応じた強度で蛍光24が発せられる。その結果、表示部40においては、細胞C内部の種々の小器官等がpHあるいは表面電荷の分布に応じて視覚化されて視認が容易になる。また、撮像部30による撮像を連続的に行うことにより、表示部40に動画として表示させることができる。そのため、細胞Cの挙動を連続的に観察することも可能である。
【0065】
[第6実施形態]
次に、上記センサー装置Sを用いたセンシングの第6実施形態として、生体細胞をセンシングする、所謂、「in vivo」センシングに適用する場合について、
図12乃至
図14を参照して説明する。
これらの図において、
図5乃至
図8に示す第2実施形態の構成要素と同一の要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0066】
図12は、例えば開腹手術、内視鏡手術、または内視鏡検査時に管状の体内部位55の内部に生体分子視覚化装置60が挿入された断面斜視図である。
生体分子視覚化装置60は、ヘッド部61および管状部材62を備えている。
【0067】
図13は、生体分子視覚化装置60の長さ方向の断面図である。なお、
図13においては、基板20の図示を簡略化しベース基板21、発光層22および保護層23の個別の図示を省略している。
管状部材62の先端には、管状部材62の内部空間を閉塞するように基板20が設けられている。基板20のセンシング領域SAは、外側に配置されている。従って、ヘッド部61の先端面にセンシング領域SAが配置される。基板20を構成するベース基板21は、励起光11および蛍光24を透過する。発光層22では励起光11の多くが吸収され、蛍光24は様々な方向に発せられる。
【0068】
管状部材62の内部空間には、基板20を介して内部からセンシング領域SAに照射する励起光11の光源としての光ファイバーFと、視覚化部の一部を構成する撮像部30と、センシング領域SAからの像を撮像部30に結像させる光学素子31とが配置されている。撮像部30は、管状部材62の外部に設けられた表示部40と接続されている。
【0069】
上記構成の生体分子視覚化装置60においては、
図12に示すように、まず体内部位55の内壁55aにセンシング領域SAであるヘッド部61の先端面を接触させる。次に、光ファイバーFから励起光11を発光させ、基板20を介してセンシング領域SAを照射する。センシング領域SAは、接触する内壁55aの細胞の電荷分布に応じて電荷密度が変化する。そのため、励起光11の照射によりセンシング領域SAから発光され基板20を透過して撮像部30に入射する蛍光24は、内壁55aの細胞の電荷分布に応じた強度となる。その結果、表示部40においては、細胞の電荷分布に応じた明るさで内壁55aの一部が表示される。このように、本実施形態では、開腹手術、内視鏡手術、または内視鏡検査を実施している最中に、細胞をセンシングすることができ、例えば、第4実施形態で説明したがん細胞CCおよび正常細胞CNのような細胞種別(細胞境界認識)を直ちに、且つ迅速に行うことが可能となる。
【0070】
なお、上記第6実施形態で示した生体分子視覚化装置60は、管状部材62の内部空間に撮像部30および光ファイバーFが設けられる構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、
図14に示すように、光ファイバーFを多数束ねたイメージファイバIFを管状部材62の内部空間に設け、イメージファイバIFを介して励起光11を導光するとともに、センシング領域SAの像をイメージファイバIFを介して伝送する生体分子視覚化装置60Aであってもよい。
この構成では、管状部材62の内部空間に撮像部30を設ける必要がなくなり、装置の小型化を実現することができる。
【0071】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0072】
例えば、上記実施形態では、視覚化部50として、撮像部30および表示部40を備える構成を例示したが、この構成に限定されるものではなく、例えば、視覚化部が顕微鏡を備え、電荷密度に応じた強度でセンシング領域SAにおける像を視覚化し、接眼レンズを介してセンシング領域SAの像を観察する構成であってもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、発光層22がIII−V族半導体で形成される構成としたが、励起光11の照射によって発光するものであれば、III−V族以外の半導体や、半導体以外の材料を用いてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、保護膜23としてZrO
2を例示したが、実験ではZrO
2と物性が非常に近いHfO
2を用いた場合でもZrO
2を用いた場合と同様の結果が得られることが確認できている。そのため、保護層23としては、ZrO
2、HfO
2のいずれを用いてもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、センシング対象として溶液Lや、DNA、細胞、タンパク質等の生体分子を例示したが、帯電する環境物質、帯電を変化させるpH依存の物質等の化学物質を広くセンシング可能であり、バイオセンサのみならず化学センサ、環境センサ、食品センサ、病原体センサ、健康診断用センサ、遺伝子検査用センサとして広く用いることができる。