(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも1つのポンプと、前記ポンプを駆動する電動モータと、前記電動モータを制御するアクチュエータとを含むポンプ装置(EP)を使用して実施され、タンク(R)から流出、もしくは前記タンクへ流入する阻害流(Qc)の存在下で行われる前記タンクの注入または排出プロセスの際に、消費電気エネルギを最小化するための制御方法であって、
前記タンクの注入または排出プロセスの際に、前記ポンプ装置により消費されるエネルギ/体積(EV)を最小化する前記ポンプ装置の最適速度(ωopt)を決定することを特徴とし、
前記エネルギ/体積が、
前記ポンプ装置により作り出された前記タンクへの流入量(Qinput)、または前記ポンプ装置により作り出された前記タンクからの流出量(Qoutput)と、
前記阻害流量(Qc)と、
前記タンク内の液体の体積(V)であって、前記タンクへの流入量または前記タンクからの流出量と、前記阻害流量とに関して、時間的に変化する体積と、
前記ポンプ装置の瞬間消費電力(p)と、
の関数である、制御方法。
少なくとも1つのポンプと、前記ポンプを駆動する電動モータと、前記電動モータを制御するアクチュエータとを含むポンプ装置であって、タンクから流出、もしくは前記タンクへ流入する阻害流(Qc)の存在下で行われる前記タンクの注入または排出プロセスの際に、消費電気エネルギを最小化することができる前記ポンプ装置の制御システムであって、
前記タンク(R)の注入または排出プロセスの際に、前記ポンプ装置により消費されるエネルギ/体積(EV)を最小化する前記ポンプ装置の最適速度(ωopt)を決定するためのモジュール(Mod2)を有する制御ユニット(UC)を備えたことを特徴とし、
前記エネルギ/体積(EV)が、
前記ポンプ装置により作り出された前記タンクへの流入量(Qinput)、または前記ポンプ装置により作り出された前記タンクからの流出量(Qoutput)と、
前記阻害流量(Qc)と、
前記タンク内の液体の体積(V)であって、前記タンクへの流入量または前記タンクからの流出量と、前記阻害流量とに関して、時間的に変化する体積と、
前記ポンプ装置の瞬間消費電力(p)と、
の関数である、制御システム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ポンプ装置EPを使用するタンクRの注入または排出プロセスに関わる。本発明が適用可能な分野としては、特に、排水処理や携帯型貯水器が挙げられる。
【0013】
図1Aに示すように、タンクRの注入プロセスは、ポンプ装置EPを使用し、タンクR内への液体の流入量Q
inputを発生させることにある。この通常の注入プロセスは、タンクRから流出する阻害流Q
cに妨げられる。
【0014】
図1Bに示すように、タンクRの排出プロセスは、ポンプ装置EPを使用し、タンクR内の液体を排出する排出量Q
outputを発生させることにある。注入プロセスと同様、この通常の排出プロセスは、タンクRに流入する阻害流Q
cに妨げられる。
【0015】
注入プロセスにおいては、液位が下限値h
1より低下するとポンプ装置EPが駆動され、液位が上限値h
2を越えるまでタンクに液体が注入される。
【0016】
排出プロセスにおいては、液位が上限値h
2を越えて上昇するとポンプ装置EPが駆動され、液位が下限値h
1より低下するまでタンクから液体が排出される。
【0017】
図2に示すように、ポンプ装置EPは一つ以上のシングルポンプセルCelP1、CelP2、...、CelPnを有する。シングルポンプセルはそれぞれ、ポンプ(P1、P2、...、Pn)と、ポンプを駆動する電動モータと、電動モータを制御するアクチュエータ(A1、A2、...、An)とを備える。
図2では、各シングルポンプセルの電動モータは、ポンプ内に組み込まれている。アクチュエータは、可変速ドライブ、スタータ、接触器、もしくは他の電力変換装置であり、電力を電動モータに供給する。本発明の場合、少なくとも一つのポンプの速度を変えることができるように、アクチュエータの少なくとも一つは可変速ドライブから構成されることが必要である。
【0018】
図2に示すように、ポンプ装置EPは配電ネットワークRDに並列接続された複数のシングルポンプセルを含む。シングルポンプセルのこのセットは、全体流量Q
Totalを発生させる。この全体流量Q
Totalは、タンクRの注入量、もしくは排出量に相当する。
【0019】
本発明は、少なくとも一つのシングルポンプセルを有するポンプ装置に適用される。
【0020】
本発明の制御方法を実施するため、ポンプ装置EPに対して連関された制御システムが設けられる。制御システムは主として、
・ポンプ装置EPの静圧H
pumpを測定、もしくは推定する手段と、
・阻害流量Q
cを測定、もしくは推定する手段と、
・ポンプ装置EPの消費電気エネルギを最小化するため、少なくとも一つのソフトウェアモジュールを実行し、ポンプ装置EPに適用される最適速度ω
optを決定する制御ユニットUCと、
を有する。
【0021】
本発明の制御方法を実施する制御ユニットUCは、シングルポンプセルのアクチュエータを制御する役割がある。
図2に示すように、制御ユニットUCはシングルポンプセルから分離されているが、各シングルポンプセルのアクチュエータには接続されており、シングルポンプセルに制御信号を送信することができるようになっている。
【0022】
ポンプ装置EPの消費電気エネルギを最小化することができる本発明の制御方法を以下に詳述する。
【0023】
1つのシングルポンプセルの場合における消費エネルギは下記の式(1)で表すことができる。
【数2】
ここで、
・E
MonoCell=1つのシングルポンプセルの消費エネルギ[Wh]
・P
MotorLosses=シングルポンプセルのモータのジュール損失[W](ポンプの速度と電力によって決まる動作点に依存する)
・P
ActuatorLosses=シングルポンプセルのアクチュエータのジュール損失[W](ポンプの速度と電力によって決まる動作点に依存する)
・P
pump=シングルポンプセルのポンプの消費電力[W](ポンプ装置の速度と静圧のレベルによって決まる動作点に依存する)
【0024】
よって、複数のシングルポンプセルを有するポンプ装置の全消費エネルギは下記の式(2)で表わされる。
【数3】
ここで、
E=ポンプ装置の消費エネルギ[Wh]
p=ポンプ装置の瞬間消費電力[W]
【0025】
本発明では、ポンプ装置EPの消費電気エネルギを低減しながら、タンクRへの注入および/またはタンクRからの排出のために、ポンプ装置EPの少なくとも一つのポンプが回転すべき最適速度ω
optを継続的に決定することを目的としている。この決定は、阻害流量Q
cやポンプ装置EPの静圧H
pumpとは無関係に行われる。
【0026】
よって、技術的な問題は、タンクRの注入または排出のために消費される電気エネルギを最小化する速度軌道を求めることにある。
【0027】
タンクRの注入プロセスの場合、下記の式(3)が適用される。
【数4】
【0028】
タンクRの排出プロセスの場合、下記の式(4)が適用される。
【数5】
ここで、
V=タンク内の液体の体積[m
3](V
maxはV
2−V
1に等しい。つまり、いわゆる液位が高いときの体積といわゆる液位が低いときの体積の差に等しい。)
Q
c=阻害流量[m
3/s]
Q
input=流入量[m
3/s](ポンプ装置の速度ωと静圧H
pumpに依存する)
Q
output=排出量[m
3/s](ポンプ装置の速度ωと静圧H
pumpに依存する)
【0029】
一般的に、タンク内の液体の高さは、液体の体積の関数として表され得る。以下、対称形状のタンクRの場合を例にとって説明する。この場合、量V(すなわち体積)は次の式(5)で表される。
【数6】
ここで、
h=タンク内の液体の高さ[m](高さh
1とh
2は、それぞれ体積V
1とV
2に相当する)
S=タンクの断面積[m
2]
【0030】
図1Cに示すように、ポンプ装置の静圧は、タンクRの液体の高さの関数で表される。
【数7】
または、
【数8】
ここで、
H
0=くみ上げ点とポンプ装置の設置場所の間の幾何学的高さh
0に依存する圧力低下[Pa](幾何学的高さh
0の関数)
H
input=ポンプ装置への入力圧力[Pa]
ρ=流体の密度[kg/m
3]
g=重力加速度[m/s
2]
【0031】
タンクRへの注入プロセスの場合、下記の計算が適用される。阻害流量の効果を逆転させることで、タンクRからの排出プロセスの場合にも容易に適用できることが理解される。
【0032】
上記の式(2)と(3)は以下のように組み換えられ得る。
【数9】
これは、次のように、タンク内の液体の体積を変数として考慮した積分関数(integral function)として表わされる。
【数10】
【0033】
複数のシングルポンプセルを備えたポンプ装置EPの場合、関数Q
input(ω,V)は次のようになる。
【数11】
【0034】
目的は、タンクの注入または排出プロセスの際の消費エネルギEを最小化することであり、速度変数に対するエネルギ関数の偏導関数(partial derivative)を打ち消すことによって表される。
【数12】
【0035】
この一般解は、次のように周期関数gで表すことができる。
【数13】
ここで、
【数14】
【数15】
【0036】
この一般解は、関係式(12)を証明する軌道ω=f(V)を求めることで得られる。
【数16】
【0037】
式(13)の特殊解は、V
maxによって定められた体積を注入、もしくは排出する際に消費されるエネルギ/体積E
vを最小化することで得られる。つまり、g(V,ω)=0とする。
【0038】
よって、目的は、ポンプの静圧H
pumpに対して(ある体積に対して)、次の項を打ち消すことにある。
【数17】
【0039】
【数18】
かつ
【数19】
とすると、消費電気エネルギを最小化するという課題に対する解は、式(13)から導かれる次に示された式で定められる。
【数20】
【0040】
この項を打ち消すことができる速度ωは、消費エネルギを抑えつつ、タンクに注入するためにポンプが回転する最適速度ω
optに相当する。
【0041】
図3は、制御ユニットUCが実施する制御方法を概略的に示す。この制御方法で、消費電気エネルギを最小化するポンプ装置EPに適用される最適速度を決定する。
【0042】
ポンプ装置EPを制御するため、制御ユニットUCは下記の入力を受け付入れる。
・測定手段によって測定されるポンプ装置EPの静圧H
pumpの値
・測定手段によって測定、もしくは推定器によって推定される阻害流量Q
cの値
・ポンプ装置の既知特性(特にポンプ曲線f
1、f
2。つまり、各ポンプによって生み出される圧力と機械的な力を、発生する速度と流量の関数として表現したもの。)
・アプリケーションデータ(例えば、タンクR内の液体の体積V、タンクRの断面積S、最大高さh
max、各ポンプの公称速度ω
n。)
【0043】
関数f
1、f
2は、ポンプの特性曲線を規定する(H=f
1(ω,Q)、及びPmec=f
2(ω,Q))。それらは、解析的補間関数(analytical interpolation function)、もしくは数値データのテーブルであってよい。関数g
1は、ポンプ速度の変動の全範囲(0から公称速度ω
nまで)にわたって、タンク内の液体の体積のために消費されるエネルギ/体積を表す。関数g
1は、それら二つの変数の関数として規定され得るが、数値データのテーブルであってもよい。これは、上述のデータから、制御ユニットの第1計算モジュールMod1によって決定される。
【0044】
制御ユニットは次いで、決定モジュールMod2を実行する。このモジュールでは、あるH
pumpの値に対して、タンクRの注入または排出プロセスの際にポンプ装置EPが消費する電気エネルギを最小化することができる、ポンプ装置EPに適用される最適速度ω
optを決定する。この決定モジュールMod2が決定する最適速度ω
optは、上記の関係式(13)を満たす。
【0045】
ブロックBL1は、阻害流量Q
cの測定手段、もしくは推定器であってよい。
【0046】
阻害流量の推定器の例は、以下のシステムによって与えられる。
【数21】
【数22】
ここで、Vと、
【数23】
は既知の変数であり、
【数24】
と
【数25】
は推定データである。
【0047】
本発明をさらに分かり易くするため、以下二つの例を扱う。第一の例では、次の条件が選択される。
・阻害流量がゼロ(Q
c=0)。
・1つのシングルポンプセル(pump_1)を有するポンプ装置。
関係式(10)は、
【数26】
となる。
・アクチュエータと電動モータの損失は無視する。
関係式(2)は、
【数27】
となる。
【0048】
注入エネルギを最適化することは、(13)の関係式を解くことになる。
【数28】
これは下記と同等である。
【数29】
または、
【数30】
【0049】
定義により、ポンプの効率は次の比率で規定される。
【数31】
【0050】
最適速度は、次の関係式で規定される。
【数32】
【0051】
公称速度
【数33】
での最適効率点がこの式の解となる。親和性(affinity)の法則によりこの解を拡張することができ、よって最適速度は下記の式で表される。
【数34】
ここで、
・ω
opt=ある静圧H
pumpに対して、ポンプが回転すべき最適速度
・ω
n=ポンプの公称速度
・H
pump_1=ポンプの静圧
・H
BEP=公称速度における最適動作点(最適効率点)に相当する静圧
【0052】
第二の例では、次の条件が選択される。
・阻害流量がゼロではない。
・ポンプ装置はN個のシングルポンプセルを有する。
ここで、N個のアクチュエータは同一である。N個のポンプは同一で、同じ速度で回転する。
関係式(10)は、
【数35】
となる。
・アクチュエータと電動モータの損失は無視する。
関係式(2)は、
【数36】
となる。
【0053】
よって、上記の関係式(13)を解くことになる。
【数37】
これは下記と同等である。
【数38】
【0055】
つまり、上記のマルチポンプシステムに与える阻害流量の影響は、ポンプの数に反比例する。
【0056】
よって、N個のポンプの全消費エネルギは、Q
ceq = Q
c/Nである単一のシングルポンプの消費エネルギと同等であると推定される。
【0057】
ポンプ効率の式を導入することにより、次の式が得られる。
【数40】
【0058】
これにより、以下の式が導かれる。
【数41】
【0059】
この式は、各ポンプ個々の最適点
【数42】
ではない点において、ポンプシステムの最適点が得られるということを示している。
【0060】
最適速度は、下記の式を解くことで得られる。
【数43】
【0061】
ポンプ容積の関数(すなわちその圧力とその速度の関数)としてのポンプの電力と、ポンプの容積の関数(すなわちその圧力とその速度の関数)としてのポンプの流量と、阻害流量とが既知であれば、次の式を計算することができる。
【数44】
【0062】
この解は、この式を打ち消す速度を求めることによって得られる。
【0063】
この第二の例から
図4が得られる。
図4は、高さの関数として(つまり、ポンプの静圧の関数として)最適速度ω
optの変化を表した複数の曲線を示す。それぞれの曲線は、ある特定の阻害流量Q
cで求めた。矢印f1は、阻害流量Q
cの増加を示す。尚、
図4では、阻害流量Q
cの増加によって、最適速度の再調整が必要になる。よって、阻害流量を考慮することは、ポンプ装置の消費電気エネルギを最小化するために必要である。
【0064】
図5及び
図6は、ポンプの数が1つ、2つ、3つの場合において、ある静圧H
pumpに対する(つまり体積に対する)、阻害流量Q
cの関数としての最適速度、及び消費エネルギを示す。
【0065】
図5及び
図6から明らかなように、ある同一の阻害流量Q
cに対しては、高い最適速度で1つのシングルポンプを動作させるより、低い最適速度で3つのポンプを動作させるほうが有利に働く。例えば、
図5に示すように、ポンプの公称流量60%における阻害流量に対しては、3つのポンプを約2700rpmの最適速度で駆動するほうが(曲線C1)、2つのポンプを約2800rpmの最適速度で駆動するより(曲線C2)消費電気エネルギが少なく、また、1つのポンプを約4700rpmの最適速度で駆動するよりも(曲線C3)電気エネルギが少ない。
【0066】
例えば
図6に示すように、1.5kWhの電気エネルギの消費は、ポンプが1つの場合(曲線C4)は25%の阻害流量、ポンプが2つの場合(曲線C5)は50%の阻害流量、ポンプが3つの場合(曲線C6)は75%の阻害流量を発生させることを可能にする。よって、消費電気エネルギを最小化するためには最適速度で複数のポンプを一つの最適速度で駆動するほうが有利だと分かる。