特許第6490541号(P6490541)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝電機サービス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6490541-高周波半導体装置 図000002
  • 特許6490541-高周波半導体装置 図000003
  • 特許6490541-高周波半導体装置 図000004
  • 特許6490541-高周波半導体装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6490541
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】高周波半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/02 20060101AFI20190318BHJP
   H03F 1/32 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   H03F1/02
   H03F1/32
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-166635(P2015-166635)
(22)【出願日】2015年8月26日
(65)【公開番号】特開2017-46146(P2017-46146A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000235
【氏名又は名称】特許業務法人 天城国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 治夫
【審査官】 緒方 寿彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−004821(JP,A)
【文献】 特開2011−172060(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/090712(WO,A1)
【文献】 特開2005−277572(JP,A)
【文献】 特開2014−081241(JP,A)
【文献】 特開2010−041634(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0293251(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00− 3/72
H04B 1/02− 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歪み補償回路と、
前記歪み補償回路に接続され、高周波信号の電力を増幅させる高周波半導体増幅回路と、
を備え、
前記高周波半導体増幅回路は、
GaN基板に設けられた第1の高周波半導体増幅素子と、
GaAs基板に設けられた第2の高周波半導体増幅素子と、
前記第1の高周波半導体増幅素子または前記第2の高周波半導体増幅素子に前記高周波信号を供給する第1のスイッチと、
前記高周波信号の一部に基づいて第1のスイッチの動作を制御するスイッチ制御部と、
を具備し、
前記スイッチ制御部は、前記高周波信号が所定のデューティ比より大きいとき、前記高周波信号を前記第1の高周波半導体増幅素子に供給し、前記高周波信号が所定のデューティ比以下のとき、前記高周波信号を前記第2の高周波半導体増幅素子に供給するように、前記第1のスイッチの動作を制御する、高周波半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、高周波半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置の最大探知距離付近といった、レーダ装置から遠方の対象物を検知するためには、レーダ装置から出射される高周波信号としては、パルス幅が長く、デューティ比が大きい、S/N比が高い高周波信号が要求される。このため、通常のレーダ装置においては、電力付加効率が高い窒化ガリウム基板を用いた高周波半導体増幅回路(GaN−APM)が使用される。
【0003】
他方、レーダ装置の最小探知距離付近といった、レーダ装置近傍の対象物を検知するためには、レーダ装置から出射される高周波信号としては、パルス幅が短く、かつデューティ比が小さい高周波信号が要求される。
【0004】
しかし、このように高周波信号のパルス幅を小さくし、デューティ比を小さくすると、電波法上の帯域外領域におけるスプリアスが厳しくなる。GaN−AMPの線形性は悪く、裸特性でのパルス変調時の電波法の帯域外スプリアスレベル改善量は2dB程度と小さい。このため、通常のレーダ装置においては、GaN−AMPの前段に大型の歪み補償回路を設けた高周波半導体装置が適用されている。
【0005】
例えばレーダ装置等に適用されるような、歪み補償回路と高周波半導体増幅回路とによって構成される高周波半導体装置においては、近年、高い電力付加効率を有したまま、小型化されることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−112351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実施形態は、小型かつ高い電力付加効率を有する高周波半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る高周波半導体装置は、歪み補償回路と、前記歪み補償回路に接続され、高周波信号の電力を増幅させる高周波半導体増幅回路と、を備える。前記高周波半導体増幅回路は、GaN基板に設けられた第1の高周波半導体増幅素子と、GaAs基板に設けられた第2の高周波半導体増幅素子と、前記第1の高周波半導体増幅素子または前記第2の高周波半導体増幅素子に前記高周波信号を供給する第1のスイッチと、前記高周波信号の一部に基づいて第1のスイッチの動作を制御するスイッチ制御部と、を具備する。前記スイッチ制御部は、前記高周波信号が所定のデューティ比より大きいとき、前記高周波信号を前記第1の高周波半導体増幅素子に供給し、前記高周波信号が所定のデューティ比以下のとき、前記高周波信号を前記第2の高周波半導体増幅素子に供給するように、前記第1のスイッチの動作を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る高周波半導体装置を示す電気ブロック図である。
図2】実施形態に係る高周波半導体装置のスイッチ制御部を示す電気ブロック図である。
図3A】スイッチ制御部の半波整流回路に入力される高周波信号の波形図と、スイッチ制御部の比較器に入力される電圧信号の波形図と、の関係を示す図である。
図3B】スイッチ制御部の半波整流回路に入力される高周波信号の波形図と、スイッチ制御部の比較器に入力される電圧信号の波形図と、の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、実施形態に係る高周波半導体装置を、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、実施形態に係る高周波半導体装置を示す電気ブロック図である。この高周波半導体装置10は、歪み補償回路20および高周波半導体増幅回路30、によって構成されている。
【0012】
歪み補償回路20は、高周波半導体装置10の入力端子11、および高周波半導体増幅回路30の入力端子31、に接続されており、高周波半導体増幅回路30において、マイクロ波信号等の高周波信号に付加される歪み量に応じて、高周波信号を予め歪ませる。予め歪んだ高周波信号を高周波半導体増幅回路30に入力することにより、高周波半導体増幅回路30は、高周波信号の歪みを打ち消す。したがって、高周波半導体装置10の出力端子12からは、歪みの少ない高周波信号を出力することができる。
【0013】
高周波半導体増幅回路30は、歪み補償回路20から出力される高周波信号の電力を増幅する回路であって、窒化ガリウム基板(GaN基板)に設けられた第1の高周波半導体増幅素子32、およびガリウムヒ素基板(GaAs基板)に設けられた第2の高周波半導体増幅素子33、を備える。第1の高周波半導体増幅素子32は、高い電力付加効率を有するが線形性が悪く、出力される高周波信号の歪み量は多くなる。反対に、第2の高周波半導体増幅素子33は、線形性が良好で、出力される高周波信号の歪み量は少ないが、電力付加効率は悪い。
【0014】
高周波半導体増幅回路30は、このような2種類の高周波半導体増幅素子32、33を適宜選択して使用できるようになっている。
【0015】
この高周波半導体増幅回路30は、方向性結合器34、第1のスイッチ35、および第2のスイッチ36、を備える。
【0016】
方向性結合器34は、高周波半導体増幅回路30に入力される高周波信号を所定の分岐比で2分岐する。この方向性結合器34は、例えば2本の信号線を所定距離だけ近接配置することによって構成される。
【0017】
方向性結合器34の一方の出力端子は、第1のスイッチ35の入力端子に接続されている。第1のスイッチ35の一方の出力端子は、GaN基板に設けられた第1の高周波半導体増幅素子32の入力端子に接続されており、第1のスイッチ35の他方の出力端子は、GaAs基板に設けられた第2の高周波半導体増幅素子33の入力端子に接続されている。
【0018】
第1のスイッチ35は、方向性結合器34において分岐された一方の高周波信号を、第1の高周波半導体増幅素子32または第2の高周波半導体増幅素子33に供給する。本実施形態において、この第1のスイッチ35は、PINダイオードを用いたSPDT(Single Pole Double Throw)スイッチであるが、第1のスイッチ35はSPDTスイッチに限定されない。
【0019】
第1の高周波半導体増幅素子32の出力端子および第2の高周波半導体増幅素子33の出力端子は、第2のスイッチ36の入力端子に接続されている。
【0020】
第2のスイッチ36は、第1のスイッチ35に連動して動作し、第1の高周波半導体増幅素子32または第2の高周波半導体増幅素子33から出力される高周波信号を、高周波半導体増幅回路30の出力信号として出力する。本実施形態において、この第2のスイッチ36は、第1のスイッチ35と同様に、PINダイオードを用いたSPDT(Single Pole Double Throw)スイッチであるが、第2のスイッチ36はSPDTスイッチに限定されない。
【0021】
ここで、高周波半導体装置10に入力される高周波信号が、所定の値より大きいデューティ比であり所定の値より長いパルス幅を有する高周波信号であるとき、第1のスイッチ35は、GaN基板に設けられた第1の高周波半導体増幅素子32に接続される。また、高周波半導体装置10に入力される高周波信号が、所定のデューティ比以下であり、所定のパルス幅以下の高周波信号であるとき、第1のスイッチ35は、GaAs基板に設けられた第2の高周波半導体増幅素子33に接続される。
【0022】
この結果、高周波半導体装置10に入力される高周波信号が所定のデューティ比より大きいとき、この高周波信号は、第1のスイッチ35を介して、第1の高周波半導体増幅素子32に入力される。第1の高周波半導体増幅素子32において電力を増幅した高周波信号は、第1のスイッチ35に連動して動作する第2のスイッチ36を介して出力される。
【0023】
また、高周波半導体装置10に入力される高周波信号が所定のデューティ比以下のとき、この高周波信号は、第1のスイッチ35を介して、第2の高周波半導体増幅素子33に入力される。第2の高周波半導体増幅素子33において電力を増幅した高周波信号は、第1のスイッチ35に連動して動作する第2のスイッチ36を介して出力される。
【0024】
このように動作する第1のスイッチ35および第2のスイッチ36は、スイッチ制御部40によって制御される。スイッチ制御部40の入力端子は、方向性結合器34の他方の出力端子に接続される。そして、スイッチ制御部40の出力端子は、第1のスイッチ35の制御端子および第2のスイッチ36の制御端子に接続される。
【0025】
このスイッチ制御部40は、高周波半導体装置10に入力される高周波信号のデューティ比に応じて制御信号を生成し、その制御信号を第1のスイッチ35および第2のスイッチ36に供給することによって、第1のスイッチ35および第2のスイッチ36の動作を制御する。
【0026】
図2は、スイッチ制御部を示す電気ブロック図である。このスイッチ制御部40は、半波整流回路50および比較器60によって構成されている。
【0027】
半波整流回路50は、検波器51、インピーダンス変換器52、積分器53、をこの順に直列に接続することによって構成されており、方向性結合器34から出力される高周波信号を半波整流し、高周波信号を、この信号のデューティ比に応じた電圧信号Vに変換する。なお、検波器51は、一般にダイオードによって構成される高インピーダンス回路であるため、半波整流回路50にはインピーダンス変換器52が用いられているが、インピーダンス変換器52については、必ずしも必要ではない。
【0028】
比較器60は、半波整流回路50から出力される電圧信号Vと基準電圧Vbとがそれぞれ入力される2個の入力端子と、これらの差分電圧(V−VbまたはVb−V)に応じた制御信号を出力する出力端子と、を備えており、例えばオペアンプ回路によって構成されている。
【0029】
図3Aおよび図3Bはそれぞれ、半波整流回路に入力される高周波信号の波形図と、比較器に入力される電圧信号の波形図と、の関係を示す図である。各図(a)は半波整流回路に入力される高周波信号の波形図を示し、各図(b)は比較器に入力される電圧信号の波形図を示す。
【0030】
高周波半導体装置10に所定の値より高いデューティ比であり、所定の値より広いパルス幅Thを有する高周波信号が入力された場合、図3A(a)に示すように、このような高周波信号が半波整流回路50に入力される。半波整流回路50は、図3A(b)に示すように、この高周波信号を電圧信号Vに変換して出力する。半波整流回路50から出力された電圧信号Vは、比較器60に入力される。
【0031】
比較器60は、入力される電圧信号Vと基準電圧Vbとを比較し、例えば電圧信号Vが基準電圧Vbより大きいとき、これらの差分電圧(V−Vb)に応じた制御信号を出力する。
【0032】
反対に、高周波半導体装置10に所定の値以下のデューティ比であり、所定の値以下の短いパルス幅Tlを有する高周波信号が入力された場合、図3B(a)に示すように、このような高周波信号が半波整流回路50に入力される。半波整流回路50は、図3B(b)に示すように、この高周波信号を電圧信号Vに変換して出力する。半波整流回路50から出力された電圧信号Vは、比較器60に入力される。
【0033】
比較器60は、入力される電圧信号Vと基準電圧Vbとを比較する。例えば電圧信号Vが基準電圧Vbより小さいとき、比較器60は、制御信号を出力しない。
【0034】
以上に説明したように、スイッチ制御部40は、高周波半導体装置10に入力される高周波信号のデューティ比が所定の値より大きいとき、制御信号を生成し、その制御信号を第1のスイッチ35および第2のスイッチ36に供給することによって、第1のスイッチ35および第2のスイッチ36を、第1の高周波半導体増幅素子32に接続させる。また、スイッチ制御部40は、高周波半導体装置10に入力される高周波信号のデューティ比が所定の値以下のとき、制御信号を生成せず、第1のスイッチ35および第2のスイッチ36を、第2の高周波半導体増幅素子33に接続された状態に維持する。
【0035】
なお、比較器60は、電圧信号Vが基準電圧Vb以上のとき、制御信号を出力せず、電圧信号Vが基準電圧Vbより小さいとき、これらの差分電圧(Vb−V)に応じた制御信号を出力するように構成されてもよい。このとき、スイッチ制御部40は、高周波半導体装置10に入力される高周波信号のデューティ比が所定の値以上のとき、制御信号を生成せず、第1のスイッチ35および第2のスイッチ36を、第1の高周波半導体増幅素子32に接続された状態に維持し、高周波半導体装置10に入力される高周波信号のデューティ比が所定の値より小さいとき、制御信号を生成し、その制御信号を第1のスイッチ35および第2のスイッチ36に供給することによって、第1のスイッチ35および第2のスイッチ36を、第2の高周波半導体増幅素子33に接続させてもよい。
【0036】
以上に説明したように、本実施形態に係る高周波半導体装置10によれば、高周波半導体装置10に所定のデューティ比より大きい高デューティ比の高周波信号が入力されたとき、その高周波信号の電力は、GaN基板を用いた第1の高周波半導体増幅素子32によって増幅される。高周波半導体装置10の電力付加効率は、高デューティ比が入力された場合の運用時が支配的であるため、高デューティ比の高周波信号が入力されたときに、その信号の電力を、GaN基板を用いた第1の高周波半導体増幅素子32によって増幅することにより、高い電力付加効率を有する高周波半導体装置10を提供することができる。
【0037】
また、本実施形態に係る高周波半導体装置10によれば、高周波半導体装置10に所定のデューティ比以下の低デューティ比の高周波信号が入力されたとき、その高周波信号の電力は、GaAs基板を用いた第2の高周波半導体増幅素子33によって増幅される。GaAs基板を用いた第2の高周波半導体増幅素子33は、GaN基板を用いた第1の高周波半導体増幅素子32と比較して良好な線形性を有しており、第2の高周波半導体増幅素子33から出力される高周波信号の混変調歪は、第1の高周波半導体増幅素子32から出力される高周波信号の混変調歪と比較して、5〜10dB程度小さい。このため、低デューティ比の高周波信号を第2の高周波半導体増幅素子33によって増幅することにより、裸特性でのパルス変調時の電波法の帯域外スプリアスレベル改善量を大きくできる。その結果、歪み補償回路20として、簡易で小型の歪み補償回路を適用することができる。したがって、小型の高周波半導体装置10を提供することができる。
【0038】
なお、GaAs基板を用いた第2の高周波半導体増幅素子33の電力付加効率は、GaN基板を用いた第1の高周波半導体増幅素子32と比較して小さい。しかし、低デューティ比の高周波信号は、レーダ装置近傍の対象物を検知するための信号であるため、高S/N比であることを必ずしも要求されない。したがって、低デューティ比の高周波信号の電力については、電力付加効率の悪い第2の高周波半導体増幅素子33を用いて増幅しても、ほとんど問題にはならない。
【0039】
以上に、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
10・・・高周波半導体装置
11・・・入力端子
12・・・出力端子
20・・・歪み補償回路
30・・・高周波半導体増幅回路
31・・・入力端子
32・・・第1の高周波半導体増幅素子
33・・・第2の高周波半導体増幅素子
34・・・方向性結合器
35・・・第1のスイッチ
36・・・第2のスイッチ
40・・・スイッチ制御部
50・・・半波整流回路
51・・・検波器
52・・・インピーダンス変換器
53・・・積分器
60・・・比較器
図1
図2
図3A
図3B