(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
剛性を有する伝達部材とともに付加振動系を構成し、回転マスを有するとともに、構造物の振動を抑制するためのマスダンパの性能を試験するマスダンパの試験装置であって、
剛性を有し、当該試験の対象である試験対象マスダンパに直列に連結された支持部材と、
前記試験対象マスダンパ及び前記支持部材を含む振動系に加振力を入力するためのアクチュエータと、
諸元が所定の理想値である前記試験対象マスダンパとしての理想マスダンパ、及び前記支持部材が互いに直列に連結された第1仮想振動系の固有振動数を、所定振動数に近づけるための仮想調整部材が、前記第1仮想振動系に直列に連結された第2仮想振動系に、前記所定振動数の加振力が入力されたと仮定したときの前記仮想調整部材の変位の予測値を、前記第2仮想振動系の振動方程式に基づいて取得する仮想変位取得手段と、
前記所定振動数の加振力を前記振動系に入力するための基本入力変位と、前記取得された仮想調整部材の変位の予測値とに応じて、前記アクチュエータの加振力を制御する制御手段と、
前記試験対象マスダンパの抵抗力であるダンパ抵抗力を検出するダンパ抵抗力検出手段と、
前記制御手段によって制御された前記アクチュエータの加振力が前記振動系に入力されているときに検出された前記ダンパ抵抗力に応じて、前記試験対象マスダンパの性能を表す性能パラメータを算出する性能パラメータ算出手段と、
を備えることを特徴とするマスダンパの試験装置。
前記試験対象マスダンパは、本体部と、当該本体部に対して移動可能な可動部と、前記本体部に対する前記可動部の変位を回転運動に変換した状態で前記回転マスに伝達する伝達機構とをさらに有し、
前記制御手段によって制御された前記アクチュエータの加振力が前記振動系に入力されているときに検出された前記ダンパ抵抗力に応じ、前記第2仮想振動系の振動方程式に基づいて、前記制御手段によって制御される前記アクチュエータの加振力が前記第2仮想振動系に入力されることで発生すると予測される前記理想マスダンパの抵抗力を、前記ダンパ抵抗力の予測値であるダンパ予測抵抗力として算出するダンパ予測抵抗力算出手段と、
前記仮想調整部材の剛性を設定する設定手段と、をさらに備え、
前記仮想変位取得手段は、前記算出されたダンパ予測抵抗力及び前記設定された仮想調整部材の剛性に応じて、前記仮想調整部材の変位の予測値を算出することを特徴とする、請求項1に記載のマスダンパの試験装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態による試験装置1を、これが適用されたマスダンパである試験対象マスダンパ21とともに概略的に示している。この試験対象マスダンパ21は、剛性を有する伝達部材(図示せず)とともに付加振動系を構成し、建物などの構造物の振動を抑制するためのものであり、本出願人による特許第5314201号の
図3などに記載されたマスダンパと同様に構成されている。まず、この試験対象マスダンパ21の構成及び動作について、簡単に説明する。
【0020】
図1及び
図4に示すように、試験対象マスダンパ21は、内筒22、ボールねじ23、回転マス24、及び制限機構25を有している。内筒22は、円筒状の鋼材で構成されている。内筒22の一端部は開口しており、他端部は、自在継ぎ手を介して第1フランジ26に取り付けられている。
【0021】
また、ボールねじ23は、ねじ軸23aと、ねじ軸23aに多数のボール23bを介して回転可能に螺合するナット23cを有している。ねじ軸23aの一端部は、上述した内筒22の開口に収容されており、ねじ軸23aの他端部は、自在継ぎ手を介して第2フランジ27に取り付けられている。また、ナット23cは、軸受け28を介して、内筒22に回転可能に支持されている。なお、
図1では便宜上、ねじ軸23aの符号を省略している。ねじ軸23aは、後述するアクチュエータ6からの加振力が入力されていないときには、
図4に示す所定の中立位置にある。
【0022】
回転マス24は、比重の大きな材料、例えば鉄で構成され、円筒状に形成されている。また、回転マス24は、内筒22及びボールねじ23を覆っており、軸受け29を介して、内筒22に回転可能に支持されている。回転マス24と内筒22の間には、一対のリング状のシール30、30が設けられている。これらのシール30、30、回転マス24及び内筒22によって形成された空間には、シリコンオイルで構成された粘性体31が充填されている。
【0023】
以上のように構成された試験対象マスダンパ21では、内筒22とねじ軸23aの間に相対変位が発生すると、この相対変位がボールねじ23で回転運動に変換された状態で、制限機構25を介して回転マス24に伝達されることによって、回転マス24が回転する。
【0024】
制限機構25は、リング状の回転滑り材25aと、複数のねじ25b及びばね25c(2つのみ図示)で構成されている。試験対象マスダンパ21の軸線方向に作用する荷重(以下「軸荷重」という)が、ねじ25bの締付度合に応じて定まる制限荷重に達するまでは、回転マス24は、ナット23cと一体に回転する。一方、試験対象マスダンパ21の軸荷重が制限荷重に達すると、回転滑り材25aとナット23c又は回転マス24との間に滑りが発生する。
【0025】
次に、
図1及び
図2を参照しながら、試験装置1について説明する。以下の説明では、便宜上、
図1の上側及び下側をそれぞれ「上」及び「下」とし、左側及び右側をそれぞれ「左」及び「右」、手前側及び奥側をそれぞれ「前」及び「後」とする。
図1に示すように、試験装置1は、井桁状に一体に設けられた上下左右のフレーム2、3、4、5と、試験対象マスダンパ21を含む後述する振動系Sに加振力を入力するためのアクチュエータ6と、アクチュエータ6を試験対象マスダンパ21に連結するための連結部材7と、連結部材7を下フレーム3上に左右方向に移動可能に支持するガイド機構8を備えている。連結部材7、ガイド機構8及び試験対象マスダンパ21は、上下左右のフレーム2〜5で区画された空間に配置されている。
【0026】
アクチュエータ6は、例えばソレノイドで構成されており、左フレーム4に取り付けられた本体部6aと、後述するロードセル11を介して連結部材7に連結されたプランジャ6bを有している。アクチュエータ6は、後述する制御装置15(
図2参照)で制御され、それにより、プランジャ6bから加振力が出力される。
【0027】
上記の各フレーム2〜5及び連結部材7は、鋼材で構成されている。右フレーム5には、鋼材で構成された連結部材9を介して、前述した試験対象マスダンパ21の第1フランジ26が連結されており、試験対象マスダンパ21の軸線は、左右方向に延びている。なお、連結部材9を省略して、第1フランジ26を右フレーム5に直接、連結してもよい。また、連結部材7は、下フレーム3の左右方向の中央部に配置されており、連結部材7の右面、すなわちアクチュエータ6と反対側の面には、試験対象マスダンパ21の第2フランジ27が取り付けられている。
【0028】
前記ガイド機構8は、下フレーム3の上面の左右方向の中央部に取り付けられ、左右方向に延びるレール8aと、レール8aに、複数のボール(図示せず)を介して係合するスライド部材8bを有している。スライド部材8bは、レール8aに対して左右方向にのみ移動可能であり、回転不能である。スライド部材8bの上面には、連結部材7が取り付けられている。
【0029】
試験装置1はさらに、連結部材7とアクチュエータ6の間に設けられたロードセル11と、連結部材7の右面に取り付けられた第1変位センサ12と、前記制御装置15を備えている。ロードセル11は、例えばひずみゲージ式のものであり、連結部材7に作用する荷重を、試験対象マスダンパ21の抵抗力(以下「ダンパ抵抗力」という)Pとして検出し、その検出信号を制御装置15に出力する。なお、ロードセル11として、静電容量式のものや他の適当なタイプのものを用いてもよい。また、連結部材7を省略して、アクチュエータ6のプランジャ6bを、ロードセル11を介して第2フランジ27に連結してもよい。
【0030】
第1変位センサ12は、例えばレーザー式のものであり、試験対象マスダンパ21の内筒22に対するねじ軸23aの変位(以下「ダンパ変位」という)xdを検出し、その検出信号を制御装置15に出力する。なお、第1変位センサ12として、接触式のものや他の適当なタイプのものを用いてもよい。制御装置15は、アクチュエータ6を駆動するための電源や、整流器、CPU、RAM、ROM、I/Oインターフェースなどの組み合わせで構成されている。
【0031】
以上の構成の試験装置1では、アクチュエータ6から加振力(例えば正弦波の加振力)が出力されるとともに、このアクチュエータ6の加振力(以下「アクチュエータ加振力」という)が、連結部材7、試験対象マスダンパ21、連結部材9及び右フレーム5から成る振動系Sに入力される。また、制御装置15により、当該アクチュエータ加振力の入力中に検出されたダンパ抵抗力P及びダンパ変位xdに応じて、試験対象マスダンパ21の性能を表す各種の性能パラメータが算出される。
【0032】
この場合、本発明の課題及び課題を解決するための手段で述べたように、右フレーム5や連結部材7の全体の剛性と試験対象マスダンパ21の回転慣性質量とによって定まる振動系Sの固有振動数が、アクチュエータ加振力の振動数よりもかなり高いときには、ロードセル11で検出されるダンパ抵抗力Pに含まれる振動数成分のうち、振動系Sの固有振動数に相当する成分が大きくなる。これにより、検出されたダンパ抵抗力Pに不規則なうねりが表れる結果、ダンパ抵抗力Pに基づいて試験対象マスダンパ21の性能パラメータを適切に算出できなくなる。
【0033】
そこで、本実施形態では、性能パラメータを適切に算出するために、アクチュエータ加振力が、制御装置15により以下に述べるようにして制御される。まず、その制御手法の技術的観点について説明する。
【0034】
本発明の前述した仮想調整部材MVA及び理想マスダンパ21Iが、右フレーム5及び連結部材7、9に直列に連結されていると仮定した場合、右フレーム5及び連結部材7、9の全体を支持部材MSとすると、仮想調整部材MVA、理想マスダンパ21I及び支持部材MSの全体を示すモデル図は、例えば
図3(a)のように表される。この理想マスダンパ21Iは、回転マス24の回転慣性質量や粘性体31の減衰係数などの諸元の各々がカタログに記載の所定の理想値である試験対象マスダンパ21に相当する。また、
図3(a)において、MDSは、理想マスダンパ21Iの内筒及びボールねじから成るばね要素(以下「理想ダンパばね要素」という)である。さらに、仮想調整部材MVAは、支持部材MS及び理想マスダンパ21Iが互いに直列に連結された第1仮想振動系VS1の固有振動数を後述する所定振動数に近づけるためのものである。
【0035】
また、仮想調整部材MVA、支持部材MS及び理想ダンパばね要素MDS全体を全体ばね要素MASとすると、全体ばね要素MAS、理想マスダンパ21Iの回転マス24I及び粘性体31Iを示すモデル図は、例えば
図3(b)のように表される。以下、理想マスダンパ21Iの回転マス24I及び粘性体31Iを総称して、「理想ダンパ要素」という。
【0036】
ここで、仮想調整部材MVAの剛性(ばね定数)をkb1、理想ダンパばね要素MDSの剛性をkb2、支持部材MSの剛性をkb3、全体ばね要素MASの剛性をkbとすると、kbは、kb1・kb2・kb3/(kb1・kb2+kb1・kb3+kb2・kb3)で表される。ここで、全体ばね要素MAS及び理想ダンパ要素に入力されるアクチュエータ加振力による入力変位(以下、単に「入力変位」という)をxとし、アクチュエータ加振力による全体ばね要素MASの変位(以下「全体ばね要素変位」という)をxbとすると、x=xdi+xbが成立する。このxdiは、理想マスダンパ21Iの内筒に対するねじ軸の変位(以下「理想ダンパ変位」という)である。
【0037】
また、理想ダンパ変位xdiの変化速度(xdiの1回微分値。以下「理想ダンパ速度」という)をvdiとし、粘性体31Iのせん断抵抗による非線形粘性減衰係数cdi・(vdi)が、|vdi|のべき乗に比例すると仮定する、すなわち、cdi・(vdi)=cv・|vdi|
α-1であると仮定すると、アクチュエータ加振力が全体ばね要素MAS及び理想ダンパ要素に入力されるときの振動方程式は、次式(1)で表される。
PI=cv・|vdi|
α-1・vdi+mdi・adi=kb(x−xdi)
……(1)
ここで、PIは、理想マスダンパ21Iの抵抗力(以下「理想ダンパ抵抗力」という)であり、mdiは、回転マス24Iの回転慣性質量(等価質量)である。また、adiは、理想ダンパ変位xdiの変化加速度(xdiの2回微分値。以下「理想ダンパ加速度」という)であり、他のパラメータは前述したとおりである。
【0038】
次に、この式(1)で表される振動方程式を、時刻歴応答解析で用いるために、理想ダンパ抵抗力PIの単位時間当たりの変化量(以下「理想ダンパ抵抗力変化量」という)ΔPIの関数で表す。
【0039】
まず、理想マスダンパ21Iの粘性抵抗力cv・sgn(vdi)|vdi|
α(=cv・|vdi|
α-1・vdi)の導関数は、速度と粘性抵抗力との関係において、理想ダンパ速度vdiに対する接線減衰係数cdt(vdi)であり、次式(2)で表される。また、慣性力に関する接線質量は常に、回転マス24Iの回転慣性質量mdiである。
cdt(vdi)=cv・α・|vdi|
α-1 ……(2)
【0040】
これらの接線減衰係数cdt(vdi)及び回転マス24Iの回転慣性質量mdiを用いて、上記の理想ダンパ抵抗力変化量ΔPIは、次式(3)で表される。
ΔPI=cdt(vdi)・Δvdi+mdi・Δadi
=cv・α・|vdi|
α-1・Δvdi+mdi・Δadi ……(3)
ここで、Δvdiは、時刻歴応答解析における1ステップ当たりの理想ダンパ速度vdiの変化量(以下「理想ダンパ速度変化量」という)であり、Δadiは、1ステップ当たりの理想ダンパ加速度adiの変化量(以下「理想ダンパ加速度変化量」という)である。
【0041】
また、理想ダンパ速度変化量Δvdiは、平均加速度法(β=0.25)を用いて、次式(4)で表される。
Δvdi=(Δadi+2・adiz)Δt/2 ……(4)
ここで、Δtは、時刻歴応答解析における1ステップ当たりの時間(各ステップ間の時間。以下「ステップ時間」という)であり、adizは、理想ダンパ加速度adiの前回値、すなわち、前回のステップにおける理想ダンパ加速度adiである。
【0042】
さらに、この式(4)を変形すると、理想ダンパ加速度変化量Δadiは、次式(5)で表される。
Δadi=(2・Δvdi/Δt)−2・adiz ……(5)
【0043】
上記の式(3)〜(5)より次式(6)が得られる。
ΔPI=cr・Δvdi−2・mdi・adiz ……(6)
【0044】
この式(6)における変数crは、次式(7)で表される。
cr=cdt(vdi)+2・mdi/Δt
=cv・α・|vdi|
α-1+2・mdi/Δt ……(7)
【0045】
また、理想ダンパ抵抗力変化量ΔPIは、全体ばね要素MASの剛性kbと、1ステップ当たりの全体ばね要素変位xbの変化量(以下「全体ばね要素変位変化量」という)Δxbとを用いて、次式(8)で表される。
ΔPI=kb・Δxb ……(8)
【0046】
さらに、全体ばね要素変位変化量Δxbは、平均加速度法(β=0.25)を用いて、次式(9)で表される。ここで、Δvbは、全体ばね要素変位変化量Δxbの変化速度(Δxbの1回微分値。以下「全体ばね要素速度変化量」という)である。換言すれば、全体ばね要素速度変化量Δvbは、全体ばね要素変位xbの変化速度(xbの1回微分値。以下「全体ばね要素速度vb」という)の1ステップ当たりの変化量である。また、vbzは、全体ばね要素速度vbの前回値、すなわち、前回のステップにおける全体ばね要素速度vbである。
Δxb=(Δvb+2・vbz)Δt/2 ……(9)
【0047】
さらに、この式(9)を変形すると、全体ばね要素速度変化量Δvbは、次式(10)で表される。
Δvb=(2・Δxb/Δt)−2・vbz ……(10)
【0048】
前記式(6)〜(10)から、理想ダンパ抵抗力変化量ΔPIは、次式(11)で表される。式(11)において、Δvは、入力変位xの変化速度(xの1回微分値。以下「入力速度v」という)の1ステップ当たりの変化量(以下「入力速度変化量」という)である。
ΔPI=cr(Δv−Δvb)−2・mdi・adiz
=(cr・Δv/κ)+(2・cr・vbz/κ)
−(2・mdi・adiz/κ) ……(11)
ここで、κ=1+{(2・cr)/(Δt・kb)}である。
【0049】
また、全体ばね要素速度vb、理想ダンパ加速度adi、及び理想ダンパ速度vdiは、次式(12)、(13)、及び(14)でそれぞれ表される。
vb=vbz+Δvb=(2・Δxb/Δt)−vbz ……(12)
adi=a−ab
=a−{(4・Δxb/Δt
2)−(4・vbz/Δt)−abz}
……(13)
vdi=v−vb=v−{(2・Δxb/Δt)−vbz}
=v−{(2・ΔPI)/(Δt・kb)−vbz} ……(14)
ここで、aは、入力変位xの変化加速度(xの2回微分値。以下「入力加速度」という)であり、abは、全体ばね要素変位xbの変化加速度(xbの2回微分値。以下「全体ばね要素加速度」という)である。また、abzは、全体ばね要素加速度abの前回値、すなわち、前回のステップにおける全体ばね要素加速度abである。
【0050】
また、今回の理想ダンパ抵抗力PIの予測値(以下「理想ダンパ予測抵抗力」という)PIprは、次式(15)で表される。
PIpr=PIprz+ΔPI ……(15)
ここで、PIprzは、理想ダンパ予測抵抗力PIprの前回値、すなわち前回のステップにおける理想ダンパ予測抵抗力PIprである。
【0051】
さらに、今回の仮想調整部材MVAの変位の予測値(以下「仮想調整部材予測変位」という)xb1prは、次式(16)で表される。前述したように、kb1は、仮想調整部材MVAの剛性である。
xb1pr=PIpr/kb1 ……(16)
【0052】
制御装置15は、仮想調整部材MVAが試験対象マスダンパ21を含む振動系Sに直列に連結された仮想の振動系(
図3(a))に入力される入力変位と同等の変位を、アクチュエータ6から振動系Sに入力するために、アクチュエータ加振力による入力変位の目標値xobjを、その基本値xbaseと仮想調整部材予測変位xb1prに応じて算出するとともに、算出された目標値xobjに基づいて、アクチュエータ加振力を制御する。
【0053】
具体的には、制御装置15は、
図5に示すアクチュエータ6を制御するための加振制御処理を実行する。本処理は、前記ステップ時間Δtとしての所定時間(例えば10msec)ごとに、繰り返し実行され、その開始から所定の実行時間(例えば60sec)が経過したときに完了(停止)される。まず、
図5のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、そのときに得られている各種パラメータを、その前回値としてシフトする。これらのパラメータには、後述するようにして算出される基本値xbase、入力速度v、理想ダンパ予測抵抗力PIpr、全体ばね要素速度vb、入力加速度a、理想ダンパ加速度adi、及び理想ダンパ速度vdiが含まれる。
【0054】
次いで、前記式(7)(cr=cv・α・|vdi|
α-1+2・mdi/Δt)によって、変数crを算出する(ステップ2)。この場合、式(7)における変数cv及びαとして、仕様書に記載の試験対象マスダンパ21の諸元の所定の理想値に応じて実験で予め求めた所定値が、用いられる。また、回転マス24Iの回転慣性質量mdiとして、仕様書に記載の所定の理想値が用いられ、ステップ時間Δtとして、上記の所定時間が用いられる。このことは、後述する他のパラメータの算出においても同様に当てはまる。さらに、理想ダンパ速度vdiとして、上記ステップ1でシフトされた理想ダンパ速度の前回値vdizが用いられる。なお、本処理の初回時には、当該算出において、理想ダンパ速度vdiは値0に設定される。
【0055】
次に、本処理の開始時からの経過時間を計時するためのカウンタのカウンタ値Cをインクリメントする(ステップ3)。次いで、カウンタ値Cに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、アクチュエータ6からの今回の入力変位の基本値xbaseを算出する(ステップ4)。このマップは、所定振動数frefの地震波(例えば正弦波の振動波)に基づく入力変位を基本値xbaseとして、カウンタ値Cに関連づけてマップ化したものである。
【0056】
次いで、算出された基本値xbaseなどを用い、次式(17)によって、今回の入力速度vを算出する(ステップ5)。
v={2(xbase−xbasez)/Δt}−vz ……(17)
ここで、xbasez及びvzはそれぞれ、前記ステップ1でシフトされた基本値xbase及び入力速度vの前回値である。なお、当該算出において、本処理の初回時には、xbasez及びvzは値0に設定される。
【0057】
次に、算出された入力速度vから、その前回値vzを減算することによって、入力速度変化量Δvを算出する(ステップ6)。
【0058】
次いで、算出された入力速度変化量Δvと、前記ステップ1でシフトされた全体ばね要素速度の前回値vbz及び理想ダンパ加速度の前回値adizと、前記ステップ2で算出された変数crを用い、前記式(11)(ΔPI=(cr・Δv/κ)+(2・cr・vbz/κ)−(2・mdi・adiz/κ))によって、理想ダンパ抵抗力変化量ΔPIを算出する(ステップ7)。
【0059】
当該ΔPIの算出において、本処理の初回時には、全体ばね要素速度の前回値vbz及び理想ダンパ加速度の前回値adizは、値0に設定される。また、κ=1+{(2・cr)/(Δt・kb)}における全体ばね要素MASの剛性kbは、前述した
図3から明らかなように、次式(18)によって算出された値に予め設定される。
kb=kb1・kb2・kb3
/(kb1・kb2+kb1・kb3+kb2・kb3) ……(18)
【0060】
この場合、理想ダンパばね要素MDS(理想マスダンパ21Iの内筒及びボールねじから成るばね要素)の剛性kb2として、試験対象マスダンパ21の仕様書に記載の諸元に基づく所定値が用いられ、支持部材MS(右フレーム5及び連結部材7、9の全体)の剛性kb3として、各部材の仕様書に基づいて予め求めた所定値が用いられる。また、仮想調整部材MVAは、第1仮想振動系VS1の固有振動数を所定振動数frefに近づけるためのものである。このため、仮想調整部材MVAの剛性kb1は、前記
図3(a)に示す支持部材MS、理想マスダンパ21I及び仮想調整部材MVAが互いに直列に連結された第2仮想振動系VS2の固有振動数fvs2が、前記基本値xbaseとして設定される入力加振波形の所定振動数frefになるように、予め設定される。この場合、第2仮想振動系VS2の固有振動数fvs2は、fvs2=sqrt{kb/mdi}/(2π)で表される。
【0061】
図6は、仮想調整部材MVAの剛性kb1及び全体ばね要素MASの剛性kbを設定するための剛性設定処理を示しており、本処理は、加振制御処理の実行開始の直前に、1回のみ実行される。剛性設定処理では、そのステップ21及び22においてそれぞれ、仮想調整部材MVAの剛性kb1及び全体ばね要素MASの剛性kbが上述したようにして設定される。なお、当該設定にあたり、理想ダンパばね要素MDSの剛性kb2、支持部材MSの剛性kb3、及び所定振動数frefは、オペレータによって制御装置15に入力される。
【0062】
図5に戻り、前記ステップ7に続くステップ8では、ステップ7で算出された理想ダンパ抵抗力変化量ΔPI及び前記ステップ1でシフトされた理想ダンパ予測抵抗力の前回値PIprzを用い、前記式(15)(PIpr=PIprz+ΔPI)によって、今回の理想ダンパ予測抵抗力PIprを算出する。次いで、算出された理想ダンパ予測抵抗力PIprを用い、前記式(16)(xb1pr=PIpr/kb1)によって、仮想調整部材予測変位xb1prを算出する(ステップ9)。この場合にも、上述したようにして設定された仮想調整部材MVAの剛性kb1が用いられる。
【0063】
次に、前記ステップ4で算出された基本値xbaseから、ステップ9で算出された仮想調整部材予測変位xb1prを減算することによって、入力変位の目標値xobjを算出する(ステップ10)。次いで、算出された目標値xobjに基づく制御信号をアクチュエータ6に出力する(ステップ11)。これにより、試験対象マスダンパ21、右フレーム5及び連結部材7、9から成る振動系Sにアクチュエータ6から入力される入力変位が目標値xobjになるように、アクチュエータ加振力が制御される。
【0064】
次に、前記ステップ7で算出された理想ダンパ抵抗力変化量ΔPIを全体ばね要素MASの剛性kbで除算する(前記式(8)参照)ことによって、全体ばね要素変位変化量Δxbを算出する(ステップ12)。この算出手法から明らかなように、全体ばね要素変位変化量Δxbは、今回の制御によるアクチュエータ加振力が入力されることで得られる全体ばね要素変位変化量に相当する。
【0065】
次いで、算出された全体ばね要素変位変化量Δxbと、ステップ時間Δtと、前記ステップ1でシフトされた全体ばね要素速度の前回値vbzを用い、前記式(12)(vb=(2・Δxb/Δt)−vbz)によって、今回の全体ばね要素速度vbを算出する(ステップ13)。次に、前記ステップ5で算出された入力速度vと、前記ステップ1でシフトされた入力速度vの前回値vz及び入力加速度aの前回値azと、ステップ時間Δtを用い、次式(19)によって、今回の入力加速度aを算出する(ステップ14)。
a={2(v−vz)/Δt}−az ……(19)
【0066】
次いで、算出された入力加速度aと、全体ばね要素変位変化量Δxbと、ステップ時間Δtと、全体ばね要素速度の前回値vbzと、前記ステップ1でシフトされた全体ばね要素加速度abの前回値abzを用い、前記式(13)(adi=a−{(4・Δxb/Δt
2)−(4・vbz/Δt)−abz})によって、今回の理想ダンパ加速度adiを算出する(ステップ15)。次に、前記ステップ5で算出された入力速度v、ステップ7で算出された理想ダンパ抵抗力変化量ΔPI、ステップ時間Δt、
図6のステップ22で設定された全体ばね要素MASの剛性kb、前記ステップ1でシフトされた全体ばね要素速度の前回値vbzを用い、前記式(14)(vdi=v−{(2・ΔPI)/(Δt・kb)−vbz})によって、理想ダンパ速度vdiを算出し(ステップ16)、本処理を終了する。
【0067】
以上の算出手法から明らかなように、ステップ13、15及び16でそれぞれ算出される全体ばね要素速度vb、理想ダンパ加速度adi及び理想ダンパ速度vdiは、全体ばね要素変位変化量Δxbと同様、今回の制御によるアクチュエータ加振力が入力されることで得られる全体ばね要素速度vb、理想ダンパ加速度adi及び理想ダンパ速度vdiにそれぞれ相当する。
【0068】
以上のように、加振制御処理では、ステップ13、15及び16でそれぞれ算出された全体ばね要素速度vb、理想ダンパ加速度adi、及び理想ダンパ速度vdiは、次回の本処理の実行時に、前回値として、変数crや理想ダンパ抵抗力変化量ΔPIの算出に用いられる。
【0069】
次に、
図7を参照しながら、制御装置15によって実行される試験対象マスダンパ21を評価するための処理について説明する。本処理は、上述した加振制御処理の実行に続いて、前記所定時間ごとに繰り返し実行される。
【0070】
まず、
図7のステップ31では、最大速度抵抗力Qvを、次のようにして算出する。すなわち、加振制御処理で制御されたアクチュエータ加振力の入力中、ダンパ抵抗力P及びダンパ変位xdに応じ、ねじ軸23aが前記中立位置(
図4参照)にあるときに、すなわち、内筒22に対するねじ軸23aの速度が最大であるときに検出されたダンパ抵抗力Pを、最大速度抵抗力Qvとしてサンプリングする。この場合、ねじ軸23aが、アクチュエータ加振力により左右方向に往復動することから明らかなように、最大速度抵抗力Qvとして、正値の最大速度抵抗力+Qvと、負値の最大速度抵抗力−Qvが得られる。このため、これらの+Qv及び−Qvの各々の絶対値の平均値を、試験対象マスダンパ21の最大速度抵抗力Qvとして算出する。
【0071】
ステップ31に続くステップ32では、試験対象マスダンパ21の減衰係数Ceqを、次のようにして算出する。すなわち、まず、加振制御処理で制御されたアクチュエータ加振力の入力中、ダンパ抵抗力P及びダンパ変位xdを、前記所定時間ごとに、互いに関連づけてサンプリングするとともに、当該サンプリングを、ねじ軸23aが1サイクル分、往復動するまで、すなわち、中立位置に位置していたねじ軸23aが、左右に往復動して中立位置に再度、戻るまで行う。次いで、サンプリングした複数のダンパ抵抗力P及びダンパ変位xdを用いて、次式(20)によって、履歴面積ΔWを算出する。ここで、iは、サンプリングされたダンパ抵抗力P及びダンパ変位xdのサンプリング番号であり、nは、サンプリングされたダンパ抵抗力P及びダンパ変位xdの個数である。
【数1】
【0072】
次に、サンプリングされた複数のダンパ変位xdのうちの最大のものを最大変位xdmaxとして設定するとともに、算出された履歴面積ΔW、最大変位xdmax及びアクチュエータ加振力の前記所定振動数frefを用い、次式(21)によって、試験対象マスダンパ21の減衰係数Ceqを算出する。
Ceq=ΔW/(2π
2・fref・xdmax
2) ……(21)
【0073】
ステップ32に続くステップ33では、試験対象マスダンパ21の回転マス24の回転慣性質量mdを、次のようにして算出する。すなわち、まず、減衰係数Ceqの算出の場合と同様、加振制御処理で制御されたアクチュエータ加振力の入力中、ダンパ抵抗力P及びダンパ変位xdを、所定時間ごとに、互いに関連づけてサンプリングするとともに、当該サンプリングを、ねじ軸23aが1サイクル分、往復動するまで行う。次いで、サンプリングされた複数のダンパ抵抗力Pのうち、ダンパ変位xdが最大になったとき(試験対象マスダンパ21が最も伸びたとき)、又は最小になったとき(試験対象マスダンパ21が最も縮んだとき)にサンプリングされたPを、最大慣性力Qmaxとして設定する。
【0074】
次に、サンプリングされた複数のダンパ変位xdを2回微分することによって、そのときどきにおける内筒22に対するねじ軸23aの加速度を算出するとともに、算出された複数の加速度のうちの最も大きいものを、最大加速度δmaxとして設定する。次いで、設定された最大慣性力Qmaxを、設定された最大加速度δmaxで除算することによって、試験対象マスダンパ21の回転慣性質量mdを算出する。
【0075】
ステップ33に続くステップ34では、試験対象マスダンパ21の性能を次のようにして評価し、本処理を終了する。すなわち、ステップ31で算出された最大速度抵抗力Qvが所定の基準抵抗力よりも小さいという条件、ステップ32で算出された減衰係数Ceqが所定の基準減衰係数よりも小さいという条件、及び、ステップ33で算出された回転慣性質量mdが所定の基準質量よりも小さいという条件の少なくとも1つが成立しているときには、試験対象マスダンパ21の性能が低いと評価される。以下、これらの最大速度抵抗力Qv、減衰係数Ceq及び回転慣性質量mdを総称して適宜、「性能パラメータ」という。
【0076】
以上のように、第1実施形態によれば、剛性を有する右フレーム5及び連結部材7、9から成る支持部材MSが、試験対象マスダンパ21に直列に連結されるとともに、試験対象マスダンパ21及び支持部材MSを含む振動系Sに、アクチュエータ加振力が入力される。また、所定振動数frefの加振力が第2仮想振動系VS2に入力されたと仮定したときの仮想調整部材MVAの変位の予測値である仮想調整部材予測変位xb1prが、第2仮想振動系VS2の振動方程式(前記式(1))から導出された式(11)などに基づいて算出される(
図5のステップ2〜9)。この第2仮想振動系VS2は、理想マスダンパ21Iと、支持部材MSとが直列に連結された第1仮想振動系VS1の固有振動数を所定振動数frefに近づけるための仮想調整部材MVAが、第1仮想振動系VS1に直列に連結された振動系である。
【0077】
さらに、所定振動数frefの加振力を入力するための入力変位の基本値xbaseと、算出された仮想調整部材予測変位xb1prとに応じて、アクチュエータ加振力が制御される(ステップ10、11)。以上のようにしてアクチュエータ加振力を制御することにより、当該アクチュエータ加振力の入力中における試験対象マスダンパ21のダンパ抵抗力Pとして、仮想調整部材MVAが直列に連結された振動系Sに所定振動数frefのアクチュエータ加振力を入力したと仮定した場合における試験対象マスダンパ21のダンパ抵抗力Pと同等の抵抗力を、得ることができる。
【0078】
第1実施形態によれば、上述したように制御されたアクチュエータ加振力が振動系Sに入力されているときに検出された試験対象マスダンパ21のダンパ抵抗力Pに応じて、試験対象マスダンパ21の性能を表す性能パラメータが算出される(
図7のステップ31〜33)。以上により、検出されたダンパ抵抗力Pに含まれる振動数成分のうち、アクチュエータ加振力の振動数に相当する成分を大きくすることができるので、前述したようなうねりを抑制でき、ひいては、ダンパ抵抗力Pに応じた性能パラメータの算出を適切に行うことができる。
【0079】
また、仮想調整部材MVAは、仮想の部材であって、
図1に示すように試験装置1に実際に設けられておらず、前述した従来の試験装置の調整部材は不要である。したがって、その分、性能試験確認の作業を比較的簡単に行えるとともに、構成を簡略化することができる。
【0080】
次に、
図8を参照しながら、第1実施形態の変形例による加振制御処理について説明する。この変形例は、第1実施形態と比較して、仮想調整部材予測変位xb1prの算出手法のみが異なっている。
図8において、
図5と同じ実行内容については、同じステップ番号を付している。
図8に示すように、変形例では、ステップ1、2、5〜8、及び12〜16による処理が省略されており、前記ステップ4において基本値xbaseが算出されると、続くステップ41において、前記ステップ3でインクリメントされたカウンタ値Cに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、仮想調整部材予測変位xb1prが算出される。このマップは、前記式(7)や(11)〜(18)によって予め算出された仮想調整部材予測変位xb1prを、カウンタ値Cに関連づけてマップ化したものである。
【0081】
上記ステップ41に続いて、前記ステップ10及び11を実行し、本処理を終了する。これにより、入力変位の基本値xbaseから仮想調整部材予測変位xb1prを減算することによって、入力変位の目標値xobjが算出されるとともに、算出された目標値xobjに基づく制御信号がアクチュエータ6に出力される。
【0082】
以上のように、上述した変形例によれば、前述した第1実施形態による効果を同様に得ることができるとともに、ステップ1、2、5〜8、及び12〜16による処理が省略されている分、制御装置15の演算負荷を軽減することができる。
【0083】
次に、
図9〜
図11を参照しながら、本発明の第2実施形態による試験装置41について、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図9に示すように、この試験装置41は、第2変位センサ13をさらに備えている。第2変位センサ13は、例えば前記第1変位センサ12と同様のレーザー式のものであり、右フレーム5に設けられていて、振動による右フレーム5の変位を支持部材MSの変位(以下「支持部材変位」という)xb3として検出し、その検出信号を制御装置15に出力する。なお、第2変位センサ13として、接触式のものや他の適当なタイプのものを用いてもよい。
【0084】
また、
図10は、試験装置41の制御装置15によって実行される加振制御処理を示している。同図において、第1実施形態による加振制御処理(
図5)と同じ実行内容の部分については、同じステップ番号を付している。以下、本処理について、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0085】
まず、
図10のステップ51では、前記ステップ1と同様、そのときに得られている各種パラメータを、その前回値としてシフトする。これらのパラメータには、後述するようにして算出される基本値xbase、入力速度v、ダンパ予測抵抗力Ppr、全体ばね要素変位xb、全体ばね要素速度vb、ダンパ速度vd、及びダンパ加速度adが含まれる。
【0086】
次いで、ステップ51でシフトされたダンパ速度の前回値vdzを理想ダンパ速度vdiとして用い、前記式(7)によって、変数crを算出する(ステップ52)。すなわち、この場合の変数crの算出式は、cr=cv・α・|vdz|
α-1+2・mdi/Δtになる。また、第1実施形態と同様、この式における変数cv及びαとして、仕様書に記載の試験対象マスダンパ21の諸元の所定の理想値に応じて実験で予め求めた所定値が、用いられる。また、回転マス24Iの回転慣性質量mdiとして、仕様書に記載の所定の理想値が用いられ、ステップ時間Δtとして、前記所定時間が用いられる。
【0087】
ステップ52に次いで、前記ステップ3〜6を実行し、ステップ6に続くステップ53では、ダンパ抵抗力変化量ΔPを算出する。このダンパ抵抗力変化量ΔPは、試験対象マスダンパ21のダンパ抵抗力Pの所定時間(すなわちステップ時間Δt)当たりの今回の変化量の予測値であり、入力速度変化量Δvと、前記ステップ51でシフトされた全体ばね要素速度の前回値vbz及びダンパ加速度の前回値adzと、前記ステップ52で算出された変数crを用い、前記式(11)を変形した次式(22)によって算出される。なお、変数κに含まれる変数crとして、ステップ52で算出されたcrが用いられることはもちろんである。
ΔP=(cr・Δv/κ)+(2・cr・vbz/κ)
−(2・mdi・adz/κ) ……(22)
【0088】
次いで、算出されたダンパ抵抗力変化量ΔPを、検出されたダンパ抵抗力Pに加算することによって、ダンパ予測抵抗力Pprを算出する(ステップ54、Ppr=P+ΔP)。このダンパ予測抵抗力Pprは、試験対象マスダンパ21の今回のダンパ抵抗力Pの予測値である。次に、算出されたダンパ予測抵抗力Pprを仮想調整部材MVAの剛性kb1で除算することによって、仮想調整部材予測変位xb1prを算出する(ステップ55、xb1pr=Ppr/kb1)。この仮想調整部材MVAの剛性kb1は、第1実施形態と同様にして設定される(
図6)。
【0089】
次に、前記ステップ10を実行し、前記ステップ4で算出された基本値xbaseから、ステップ45で算出された仮想調整部材予測変位xb1prを減算することによって、目標値xobjを算出する。次いで、前記ステップ11を実行し、算出された目標値xobjに基づく制御信号をアクチュエータ6に出力する。
【0090】
ステップ11に続く
図11のステップ56では、上記ステップ54で算出されたダンパ予測抵抗力Pprを理想ダンパばね要素MDSの剛性kb2で除算することによって、ダンパばね要素予測変位xb2prを算出する。このダンパばね要素予測変位xb2prは、試験対象マスダンパ21の内筒22及びボールねじ23から成るばね要素の変位の今回の予測値である。
【0091】
次いで、前記ステップ55及び56でそれぞれ算出された仮想調整部材予測変位xb1pr及びダンパばね要素予測変位xb2prと、検出された支持部材変位xb3とを互いに足し合わせることによって、全体ばね要素変位xbを算出する(ステップ57)。次に、算出された今回の全体ばね要素変位xbから、前記ステップ51でシフトされた全体ばね要素変位の前回値xbzを減算することによって、今回の全体ばね要素変位変化量Δxbを算出する(ステップ58)。
【0092】
次いで、算出された全体ばね要素変位変化量Δxb、ステップ時間Δt、及び、前記ステップ51でシフトされた全体ばね要素速度の前回値vbzを用い、前記式(12)(vb=(2・Δxb/Δt)−vbz)によって、今回の全体ばね要素速度vbを算出する(ステップ59)。次に、検出されたダンパ変位xd、その前回値xdz、ステップ時間Δt、及び前記ステップ51でシフトされたダンパ速度の前回値vdzを用い、次式(23)によって、今回のダンパ速度vdを算出する(ステップ60)。このダンパ速度vdは、ダンパ変位xdの変化速度(xdの1回微分値)である。
vd={2(xd−xdz)/Δt}−vdz ……(23)
【0093】
次いで、算出されたダンパ速度vd、前記ステップ51でシフトされたダンパ速度の前回値vdz、ステップ時間Δt、及び前記ステップ51でシフトされたダンパ加速度の前回値adzを用い、次式(24)によって、今回のダンパ加速度adを算出し(ステップ61)、本処理を終了する。ダンパ加速度adは、ダンパ速度vdの変化速度であり、vdの1回微分値、換言すれば、ダンパ変位xdの2回微分値である。
ad={2(vd−vdz)/Δt}−adz ……(24)
【0094】
以上のように、第2実施形態による加振制御処理では、ステップ59〜61でそれぞれ算出された全体ばね要素速度vb、ダンパ速度vd、及びダンパ加速度adは、次回の本処理の実行時に、前回値として、変数crやダンパ抵抗力変化量ΔPの算出に用いられる。なお、前記ステップ11の実行により制御された今回のアクチュエータ加振力が反映された支持部材変位xb3を用いるために、前記ステップ57における全体ばね要素変位xbの算出に用いられる支持部材変位xb3として、次回の加振制御処理の実行時に検出された支持部材変位xb3を用いてもよい。このことは、ステップ60及び61におけるダンパ速度vd及びダンパ加速度adの算出についても同様であり、当該算出に用いられるダンパ変位xdとして、次回の加振制御処理の実行時に検出されたダンパ変位xdを用いてもよい。
【0095】
以上のように、第2実施形態によれば、試験対象マスダンパ21は、内筒22と、内筒22に対して移動可能なねじ軸23aと、内筒22に対するねじ軸23aの変位を回転運動に変換した状態で回転マス24に伝達するボールねじ23とを有している。また、加振制御処理によって制御されたアクチュエータ加振力が振動系Sに入力されているときに検出されたダンパ抵抗力Pに応じ、第2仮想振動系VS2の振動方程式(前記式(1))に基づいて導出された式(22)などに基づき、試験対象マスダンパ21のダンパ抵抗力Pの予測値であるダンパ予測抵抗力Pprが算出される(
図10のステップ52〜54)。
【0096】
式(22)などから明らかなように、ダンパ予測抵抗力Pprは、加振制御処理によって制御されるアクチュエータ加振力が第2仮想振動系VS2に入力されることで発生すると予測される理想マスダンパ21Iの抵抗力に相当する。換言すれば、このダンパ予測抵抗力Pprは、試験対象マスダンパ21が理想マスダンパ21Iに代えて第2仮想振動系VS2に設けられていると仮定したときに、当該第2仮想振動系VS2に、加振制御処理で制御されるアクチュエータ加振力が入力されることで発生すると予測されるダンパ抵抗力Pの予測値に相当する。
【0097】
さらに、第1実施形態で説明したように仮想調整部材MVAの剛性kb1が設定される(
図6のステップ21)とともに、算出されたダンパ予測抵抗力Ppr及び設定された仮想調整部材の剛性kb1に応じて、仮想調整部材予測変位xb1prが算出される(
図10のステップ55)。前述したように、仮想調整部材MVAが第1仮想振動系VS1に直列に連結されるものであるため、上記のようにダンパ予測抵抗力Ppr及び仮想調整部材の剛性kb1に応じて仮想調整部材予測変位xb1prを算出することにより、当該算出を適切に行うことができる。
【0098】
また、この場合、加振制御処理で制御されたアクチュエータ加振力の入力中に検出された試験対象マスダンパ21のダンパ抵抗力Pに応じたダンパ予測抵抗力Pprを、仮想調整部材予測変位xb1prの算出に用いるので、試験対象マスダンパ21に見合った仮想調整部材予測変位xb1prを適切に算出することができる。
【0099】
さらに、ダンパ加速度adが算出され(
図11のステップ61)、このダンパ加速度adは、ダンパ変位xdの2回微分値であり、換言すれば、筒部22に対するねじ軸23aの加速度である。また、支持部材変位xb3が第2変位センサ13で検出されるとともに、試験対象マスダンパ21の内筒22及びボールねじ23から成るばね要素の変位の今回の予測値であるダンパばね要素予測変位xb2prが算出される(ステップ56)。さらに、仮想調整部材予測変位xb1prと、ダンパばね要素予測変位xb2prと、支持部材変位xb3との総和が、全体ばね要素変位xbとして算出される(ステップ57)とともに、算出された全体ばね要素変位xbを用いて、全体ばね要素変位xbの変化速度(xbの1回微分値)である全体ばね要素速度vbが算出される(ステップ59)。
【0100】
また、加振制御処理によって制御されたアクチュエータ加振力が入力されているときに算出されたダンパ加速度ad及び全体ばね要素速度vbに応じて、ダンパ予測抵抗力Pprが算出される(
図10のステップ53、54、式(22)におけるvbz、abz)。これらのダンパ加速度ad及び全体ばね要素速度vbは、試験対象マスダンパ21のダンパ予測抵抗力Pprと密接な相関を有するので、ダンパ予測抵抗力Pprの算出をより適切に行うことができる。
【0101】
なお、第2実施形態では、ダンパ予測抵抗力Pprを仮想調整部材MVAの剛性kb1で除算することによって、仮想調整部材予測変位xb1prを算出しているが、両者Ppr、kb1に応じた所定のマップ検索によって算出してもよい。また、第2実施形態では、ダンパ速度vd及びダンパ加速度adを算出しているが、センサで検出してもよい。
【0102】
さらに、第2実施形態に関し、前記ステップ52、53及び56〜61に代えて
図5のステップ2、7及び12〜16を実行することにより、ダンパ抵抗力変化量ΔPに代えて理想ダンパ抵抗力変化量ΔPIを算出するとともに、算出されたΔPIを、ステップ54におけるダンパ予測抵抗力Pprの算出に用いてもよい。あるいは、ステップ54におけるダンパ予測抵抗力Pprの算出に、検出されたダンパ抵抗力Pに代えて、ダンパ予測抵抗力Pprの前回値Pprzを用いてもよい。
【0103】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、試験対象マスダンパ21は、制限機構25及び粘性体31を有しているが、両者25、31の少なくとも一方を有していないマスダンパでもよい。粘性体31を有していないマスダンパの場合には、粘性抵抗力cv・sgn(vdi)|vdi|
αに関連するパラメータは値0に設定される。また、実施形態では、本発明における伝達機構は、ボールねじ23であるが、ラックとピニオンの組み合わせから成る伝達機構でもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。