(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
油脂と固形分とを含む原料を加熱混合し、油脂の融点を下回る温度に冷却して固化する固形ルウの製造方法であって、(A)固形ルウの全量に対する砂糖の含有量が8質量%以下となるような量の砂糖を含有し、(B)砂糖以外の固形分の含有量に対する油脂の含有量の割合が40質量%以上60質量%以下であり、(C)高甘味度甘味料を含有し、かつ(D)固形ルウの全量に対する小麦粉の含有量が10質量%以上35質量%以下となるような量の小麦粉を含有する前記原料を用い、
流動性を有する原料混合物を焙煎釜、冷却タンク、及び充填機に順次パイプを介して送る形式の、連続式の製造ラインを用いて行うことを特徴とする固形ルウの製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、一般に、カレー等の製造に使用される固形ルウを工業的に製造する際には、常温固体脂と小麦粉とを加熱撹拌混合して小麦粉ルウを調製した後、砂糖及びカレーパウダー等の粉体原料を加え、更に加熱撹拌混合した後に充填機にて容器に充填し、冷却固化して製造する方法が採用されている。従って、固形ルウは、一般に、油脂と、小麦粉、砂糖、及びカレーパウダー等の固形分とから構成されている(例えば、特許文献1参照)。
固形ルウを製造する際における、加熱撹拌混合工程及び容器への充填工程においては、原料混合物に含まれる油脂が加熱により溶融することにより原料混合物に流動性が付与され、流動性を有する原料混合物が製造ライン上に配置された各製造装置に送られる。そして、最終的には、流動性を帯びたままの状態で充填機により容器に充填され、冷却・固化されて固形ルウとなる。
このため、固形ルウの原料の配合に当たっては、加熱された原料混合物が製造ラインを十分円滑に流れる程度の流動性が得られるよう、原料混合物の総量に対する常温固体油脂の割合が一定以上になるように、配合設計がなされてきた。特に、固形ルウの配合設計にあたっては、油脂の量を減量しすぎると、原料混合物の流動性が低下し、原料混合物を製造ラインに円滑に流すことが出来なくなって、固形ルウの生産が困難になることがわかった。
【0003】
ところで、従来知られているように、上記のような製造方法により製造された固形ルウは、板チョコレートのような形態のものとして容器に充填・収容されて市場に流通し、家庭などでは一定量の固形ルウに水を加え、希釈して煮込むことにより、カレーソース等の所定量のルウを使用した食品に調製される。このため、固形ルウが減容化されれば、嵩張らず軽量化された容器入り固形ルウを提供することができ、資源の使用量や流通時のCO
2排出量を低減できるとともに、家庭でルウを使用した食品を調理する際にも、その取り扱いがより容易になる。
更に、固形ルウを減容化すれば、同じ容量の原料から固形ルウを製造する際に、より多くの人に割り当て可能な量(皿数)の製品を製造することが可能になる。このような場合、固形ルウの製造に要する時間も短縮可能で、原料混合物の加熱に要するエネルギー量も低減可能であるため、省資源、省エネルギーの観点からも好ましいものとなる。
なお、一般に、容器入り固形ルウ製品のパッケージには、「10皿分」等、調理後の食品を割り当て可能な最大人数が表示されている。「減容化(コンパクト化)」とは、調理した食品を同量ずつ同じ人数に割り当てる場合、固形ルウの容量をより低減することを意味する。一般に、固形ルウを減容化するために、油脂や各種固形分の含有量を低減させた場合、固形ルウ製造時の原料混合物の流動性や、風味や香味のバランスが損なわれることが従来知られていた。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
<固形ルウ>
本発明の固形ルウは、油脂と固形分とを含む原料を加熱混合し、油脂の融点を下回る温度に冷却して固化したものであって、(A)固形ルウの全量に対する砂糖の含有量が8質量%以下であり、(B)砂糖以外の固形分の含有量に対する油脂の含有量の割合が40質量%以上60質量%以下であり、(C)高甘味度甘味料を含有するものである。
なお、本明細書において、「固形分」とは、固形ルウを構成する成分のうち、油脂と水分とを除いた成分を指す。
【0010】
[油脂]
固形ルウは、油脂と固形分とを含む原料を加熱混合して製造する。固形ルウの製造に使用可能な油脂としては、従来公知の油脂を用いることができ、特に限定されるものではないが、天然油脂、加工油脂、植物油脂及びこれらの混合物のいずれをも用いることができ、具体的には、バター、マーガリン、豚脂、牛脂、及びこれらの混合物等を挙げることができる。
本発明においては、砂糖以外の固形分の含有量に対する油脂の含有量の割合を40質量%以上60質量%以下、好ましくは40質量%以上57質量%以下、更に好ましくは40質量%以上55質量%以下とする。上記含有量で固形ルウ中における油脂の含有量を調整すると共に、砂糖の含有量を所定量以下に低減させることにより、固形ルウの減容化を効果的に実現することができ、なおかつ固形ルウの調製時における原料混合物の流動性を十分に担保でき、固形ルウの製造適性を良好なものとすることができる。前記の割合を満たした上で、固形ルウ全体に対する油脂の含有量は、27質量%以上37質量%以下であることが好ましく、28質量%以上35質量%以下とすることが好ましい。固形ルウ全体に対する油脂の含有量は、前述の油脂の他に、調味原料等に含まれる油脂を含めた油脂の総質量が、固形ルウの質量に対して占める割合を指す。上記の油脂の含有量は、おおよそ包装容器に表示される脂質の割合に相当する。
また、固形ルウ中の砂糖の含有量を所定量以下に低減させると共に、砂糖以外の固形分の含有量に対する油脂の含有量を特定の割合とすることにより固形ルウの減容化を実現する結果、調理品一皿あたりに使用される固形ルウの油脂の含有量が低減される。調理品一皿あたりに使用される固形ルウの油脂の含有量は、好ましくは3.5質量%以上6.5質量%以下、更に好ましくは4.0質量%以上6.0質量%以下となる。このように、油脂が減らされた固形ルウを使用することで、調理品中の油脂含量が低減され、調理品における香辛料等による香味を向上させる効果を得ることができる。
【0011】
[固形分]
本発明の固形ルウには、油脂と固形分とが含有されるが、本発明において固形分は、砂糖と砂糖以外の固形分とに分類される。
固形分は、固形ルウ中の油脂及び水を除いた部分を指す。固形ルウ全体に対する固形分の含有量は、(固形ルウの質量−固形ルウ中の油脂及び水の含有量)÷固形ルウの質量、によって求められる。この場合に、固形ルウ中の油脂及び水の含有量は、例えば固形ルウの包装容器に表示される脂質の割合と、分析される固形ルウの水の割合とに基づいて求めることができる。
(砂糖)
一般に、ホワイトソースやシチュー、カレーソース等のルウを使用した食品に使用される固形ルウにおいては、その風味を良好なものとするため、一定量以上の砂糖を添加することが一般的であった。しかしながら、本発明においては、固形ルウの製造に使用される砂糖の量を、所定量以下に低減することにより、固形分を低減し、相対的に油脂の量を減らして、固形ルウの減容化を実現することができ、固形ルウ製造時の原料混合物の流動性を損なうことがない。
なお、固形ルウ全体に占める砂糖の含有量を低減させた場合、固形ルウを使用した調理品の砂糖による風味が低下する場合がある。本発明においては、砂糖の減量分にあわせて、所定量の高甘味度甘味料を添加することにより、固形ルウを使用した調理品の風味が低下することを防止できる。
(砂糖の含有量)
固形ルウの全量に対する砂糖の含有量は、8質量%以下であり、6質量%以下であることが好ましい。固形ルウの全量に対する砂糖の含有量を、上記範囲内のものとすることにより、固形ルウの製造時における原料混合物の流動性を損なうことなく、固形ルウの減容化を実現することができる。固形ルウには砂糖を含有しなくてもよく、固形ルウの減容化及び風味調整の目的に沿って、砂糖を適宜の量、含有させてもよい。
【0012】
(砂糖以外の固形分)
砂糖以外の固形分としては、例えば、高甘味度甘味料、小麦粉、油脂の風味を有する香料等の香料、及び調味原料等を挙げることができる。
(高甘味度甘味料)
本発明の固形ルウは高甘味度甘味料を含有する。本発明において使用可能な高甘味度甘味料としては、特に限定されるものではなく、従来公知の高甘味度甘味料を使用することができるが、具体的には、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ネオテーム、グリチルリチン、ステビア抽出物等を挙げることができる。本発明においては、これらの高甘味度甘味料の中でも、特にスクラロース、アセスルファムカリウム、及びネオテームを使用することが好ましく、スクラロースを使用することが更に好ましい。
高甘味度甘味料の含有量は、本発明の固形ルウ全体の甘味量が、砂糖換算量で6質量%以上20質量%以下となるように調整することが好ましく、8質量%以上16質量%以下となるように調整することが更に好ましい。高甘味度甘味量の含有量を、固形ルウ全体の甘味量が上記の範囲内のものとなるように調整することにより、固形ルウを使用して得られる調理品の風味を良好なものとすることができる。
固形ルウ中における高甘味度甘味料の使用量は、固形ルウの砂糖換算量での甘味量が前記の範囲内のものとなるように適宜設定すればよいが、スクラロースの場合、0.005質量%以上0.020質量%以下であることが好ましく、0.008質量%以上0.017質量%以下であることが更に好ましい。
【0013】
(小麦粉)
本発明の固形ルウは、小麦粉を含んでいてもよい。小麦粉としては、一般的に、中力粉、強力粉、準強力粉、及び薄力粉からなる群から選ばれた少なくとも一種を使用することができる。また、小麦粉に代えて、小麦粉以外の澱粉原料として、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、及びもち米澱粉、並びにこれらの加工澱粉を使用してもよい。
本発明の固形ルウにおける小麦粉の使用量は、10質量%以上35質量%以下であることが好ましく、15質量%以上31質量%以下であることが更に好ましい。小麦粉の使用量を上記範囲内のものとすることにより、固形ルウを使用した調理品の粘度を好適な範囲内のものとすることができる。なお、固形ルウを使用した調理品の粘度(60℃でB型粘度計を用いて測定した粘度)は、500mPa・s以上5000mPa・s以下であることが好ましく、1000mPa・s以上3000mPa・s以下であることが更に好ましい。
(調味原料)
本発明の固形ルウは、更に、調味原料を含有していてもよい。調味原料としては、食塩、粉乳、香辛料、オニオンパウダー等の野菜パウダー、その他の粉体、植物性原料のペースト状物(例えば、トマトペースト、ポテトペースト、リンゴペースト、オニオンペースト、カボチャペースト、ブロッコリーペースト等)等を挙げることができる。これらの調味原料の添加量は、当業者が適宜設定することができる。
(香辛料)
調味原料である香辛料は、1種類の香辛料を単独で加えてもよく、複数種の香辛料を混合して加えてもよい。複数種の香辛料を混合したものとしては、例えば、カレーパウダーを挙げることが出来る。香辛料としては、例えば、カルダモン、クローブ、ナツメグ、フェヌグリーク、ローレル、フェンネル、コリアンダー、クミン、キャラウェー、タイム、セージ、陳皮、胡椒、唐辛子、マスタード、ジンジャー、ターメリック、パプリカ等を挙げることができる。なお、カレーパウダーは、上記の香辛料から選ばれる2種以上、好ましくは5種以上を含むことが好ましい。
(油脂の風味を有する香料)
本発明の固形ルウは、ルウを使用した調理品に油感を付与するため、油脂の風味を有する香料を含有することが好ましい。油脂の風味を有する香料としては、ラクトン類を使用することが好ましく、δ−トリデカラクトン、δ−テトラデカラクトン、δ−ヘキサデカラクトン、及びδ−オクタデカラクトンからなる群から選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。
油脂の風味を有する香料の含有量は、0.005質量%以上0.015質量%以下であることが好ましい。
【0014】
[固形ルウの製造方法]
本発明の固形ルウは、前記の原料を使用して常法により製造することができる。例えば、油脂と固形分とを含む原料を加熱混合し、油脂の融点を下回る温度に冷却固化して製造することができる。工業的に製造する際には、実施例で用いた連続式の製造ライン等を採用すればよい。
なお、本発明の固形ルウは、その調理の際の使用量に応じた充填量で容器に充填され、包装されることが好ましい。固形ルウの充填・密封にあたっては、調理品一皿あたりに使用される固形ルウの質量が19.0g以下、好ましくは17.5g以下となるように充填され、包装容器に斯かる質量と割り当て量(皿数)が表示されることが好ましい。
本発明には、油脂と固形分とを含む原料を加熱混合し、油脂の融点を下回る温度に冷却して固化する固形ルウの製造方法であって、(A)固形ルウの全量に対する砂糖の含有量が8質量%以下であり、(B)砂糖以外の固形分の含有量に対する油脂の含有量の割合が40質量%以上60質量%以下であり、(C)高甘味度甘味料を含有する前記原料を用いることを特徴とする固形ルウの製造方法、が含まれる。
[調理品]
本発明の固形ルウは、ルウを使用した調理品の調製のために使用することができる。そのような調理品としては、ホワイトソース、シチュー、カレーソース等を挙げることができるが、これらの中でも、カレーソースが好ましい。従って、本発明の固形ルウは、カレー固形ルウであることが好ましい。
【実施例】
【0015】
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0016】
<実施例1から5、比較例1から3>
表1に示した配合比率により、小麦粉及び油脂を焙煎処理して得られた小麦粉ルウと、他の原料とを、焙煎釜において90℃で30分間加熱混合して流動性が付与された原料混合物を得た後、これを冷却タンクで一旦60℃まで冷却し、流動性を有するルウを充填機によりトレイ状容器に充填して固形カレールウを製造した。
なお、固形カレールウの製造にあたっては、流動性を有する原料混合物を焙煎釜、冷却タンク、及び充填機に順次パイプを介して送る形式の、連続式の製造ラインを用いて行った。
なお、流動性を有するルウをトレイ状の容器に充填する場合、各実施例、比較例において、一皿分の固形カレールウに同等量の小麦粉及び調味原料が配合され、甘味量が同等量になるように充填量を調整した(表1に記載の「一皿当たり配合量」の項を参照)。即ち、各実施例及び比較例の固形カレールウを用いて調理したカレーソースの味が同等の味になるように、容器への充填量を適宜調整した。ただし、比較例3は、砂糖が少量でスクラロースを含まないため甘味量が少量となった。
(原料の配合比率)
表1に記載の原料の配合比率は、各実施例及び比較例について、製造ラインに送る原料の配合比率(質量%)を示す。
なお、表1に記載の「油脂の風味を有する香料」は、特開2011−83264で示されるδ−ラクトン類を有効成分として含む油脂感増強剤を用いた。「調味原料」は、カレーパウダー20質量%、食塩40質量%、粉乳15質量%、野菜パウダー15質量%、及びブイヨン10質量%で構成した。
【0017】
【表1】
【0018】
なお、表中の各評価項目について、以下に説明する。
[油脂/砂糖以外の固形分の割合]
油脂の質量が、スクラロース、油脂の風味を有する香料、小麦粉、及び調味原料を合せた質量に対して占める割合を示す。
[固形カレールウの評価]
(容量(g/皿))
カレーソース一皿分(一人前)を調理するために必要となる固形カレールウのグラム数を示す。
(一皿あたり配合量(g))
固形カレールウ一皿分に含まれる各原料のグラム数を示す。
(甘味量(g/皿))
固形カレールウ一皿分に含まれる甘味量を砂糖換算量(砂糖のみによる甘味量とした場合の砂糖の含有量)による質量として示した。
(減容化率(%))
各試験区の固形カレールウの容量(g/皿)が、比較例2の固形カレールウの容量(g/皿)に対して占める割合を示す。
【0019】
[調理したカレーソースの評価]
固形カレールウは、常法により、水及び具材を煮込んだものに加えてカレーソースに調理した。調理したカレーについて、以下の基準で風味・香味を評価した。
(風味)
カレーソースを食した場合における、中後半に感じられる甘味と油脂感による味の厚みを以下の基準に従い、5段階で評価した。
5:最良の味の厚みを感じる
4:味の厚みを感じる
3:4に劣るが味の厚みを感じる
2:味に甘味と油脂感が不足する
1:味に甘味と油脂感を感じない
(香味)
香辛料の香味、辛味と、香辛料が引き立てるカレーソースの風味を以下の基準に従い、5段階で評価した。
5:最良の香辛料の香味、辛味を感じ、香辛料が引き立てるカレーソースの豊かな風味を感じる
4:香辛料の香味、辛味を感じ、香辛料が引き立てるカレーソースの豊かな風味を感じる
3:4より弱いが香辛料の香味、辛味、カレーソースの風味を感じる
2:香辛料の香味、辛味、カレーソースの風味が弱く感じにくい
1:香辛料の香味、辛味、カレーソースの風味がさらに弱く感じにくい
【0020】
[固形カレールウの製造にかかる性能について]
(100t当たり皿数(万食))
固形カレールウ100tを工業的に製造した場合に、何皿(何万食)分の製品が得られるかを示した。
(製造適性)
各試験区の原料を用いて、前記の連続式の製造ラインで固形カレールウを製造した場合の製造適性を以下に示す3段階の基準により評価した。
◎:原料の流動性があり、製造ラインを連続的に流して処理することができた
○:原料の流動性がやや悪いが、製造ラインを連続的に流して処理することができた
×:原料の流動性が悪く、製造ラインを連続的に流して処理することができなかった
【0021】
表1から明らかなように、本発明の固形ルウは、減容化を効果的に実現させつつも、製造時の原料混合物の流動性が十分に維持されて製造適性が損なわれること無く、風味や香味のバランスにも優れるものであった。