【実施例】
【0032】
実施例1.KCCM10910P基盤ファージ受容体が不活性化されたトレオニン生産菌株の作製
ファージ受容体が不活性化されたトレオニン生産菌株を作製するために、親菌株として、KCCM10910P(韓国登録特許第10−0966324号)を使用し、各ファージ受容体に係わる遺伝子の不活性化用カセットを作製して形質転換を行った。
【0033】
1−1.nfrA遺伝子が不活性化されたトレオニン菌株作製
nfrA遺伝子が不活性化された菌株作製のために、nfrA不活性化用カセットを作製した。該カセットは、Datsenko KAらが開発したラムダレッド組換え酵素(lambda Red recombinase)を利用した突然変異作製技法である1段階不活性化(one step inactivation)方法を使用したものであり(Proc Natl Acad Sci USA., (2000) 97: 6640-6645)、遺伝子内部への挿入を確認するためのマーカーとしては、pUCprmfmloxCのクロラムフェニコール(Chloramphenicol)遺伝子を使用した(大韓民国公開特許:2009−007554)。
【0034】
nfrA遺伝子(配列番号39)の一部分、及びpUCprmfmloxC遺伝子のクロラムフェニコール耐性遺伝子の一部の塩基配列を有するDNAを得るために、配列番号2と3のプライマーを利用して、約1.1kb DNA断片を得た。そのために、PCR premix kit(BIONEER社製、以下、同一である)を使用して、重合酵素連鎖反応(PCR:polymerase chain reaction)を行い、条件は、95℃で30秒の変性(denaturation)、56℃で30秒のアニーリング(annealing)、及び72℃で1分の伸張(elongation)からなるサイクルを27回反復遂行した。前記PCR結果物を、0.8%アガロースゲルで電気泳動した後、溶離させて得て、それをテンプレートとして、配列番号1と4とのプライマーを利用して、前述のような条件でPCRを行い、約1.2kbのDNA断片を得て、それを0.8%アガロースゲルで電気泳動した後、溶離させて得て、最終的にnfrA不活性化カセットを作製した。
【0035】
nfrAが不活性化されたトレオニン菌株を作製するために、Datsenko KAらが開発した方法(Proc Natl Acad Sci USA., (2000) 97: 6640-6645)によって、pKD46で形質転換された対象トレオニン生産菌株KCCM10910Pを、コンピテントな状態で製造した後、前記獲得されたnfrA不活性化カセットDNAを導入して形質転換させた。
【0036】
得られた菌株は、クロラムフェニコール耐性を有しているLBプレートで選別した。それは、ゲノム上の不活性化カセットのnfrA相同配列両側外側のDNA配列を有する配列番号5と6とのプライマーを利用して、PCR結果物のサイズが2.8kbから1.5kbに小さくなるコロニーを選別した。
【0037】
クロラムフェニコール耐性を有した一次組換え菌株は、pKD46を除去した後、pJW168を導入し、クロラムフェニコールマーカー遺伝子を菌体から除去する(Gene, (2000) 247, 255-264)。最終菌株は、プライマー5と6とを利用したPCRを介して得られたDNAの結果物が、0.4kbにサイズが小さくなることを確認して作製された。これを介して、nfrA遺伝子が不活性化されたL−トレオニン生産菌株、KCCM10910PΔnfrAを作製した。
【0038】
1−2.nfrB遺伝子が不活性化されたトレオニン菌株の作製
nfrB(配列番号41)遺伝子が不活性化された菌株を作製するために、nfrB不活性化用カセットを作製した。nfrB不活性化用カセットは、前記実施例1−1のnfrA不活性化カセット作製のような方法によって作製され、配列番号8,9のプライマーを利用して、約1.1kbのDNA断片を得て、配列番号7,10を利用して、約1.2kbのDNA断片を作製した。
【0039】
nfrBが不活性化されたトレオニン菌株の作製方法は、前記実施例1−1と同一方法によって行われ、配列番号11と12とのプライマーを利用して、PCR結果物のサイズを確認し、nfrBが不活性化されたL−トレオニン生産菌株、KCCM10910PΔnfrBを作製した。
【0040】
1−3.nfrAB遺伝子が不活性化されたトレオニン菌株の作製
nfrAB(配列番号43)遺伝子が不活性化された菌株の作製のために、前記1−1において記述されたnfrA不活性化カセット作製のような方法で、nfrAB不活性化用カセットを作製した。使用プライマーとして、配列番号2,9を利用して、約1.1kbのDNA断片を得て、配列番号1,10を利用して、約1.2kbのDNA断片を作製した。
【0041】
nfrABが不活性化されたトレオニン菌株の作製方法は、前記実施例1−1と同一方法によって行われ、配列番号5と12とのプライマーを利用して、PCR結果物のサイズを確認し、最終的に、nfrABが不活性化されたL−トレオニン生産菌株KCCM10910PΔnfrABを作製した。
【0042】
1−4.tsx遺伝子が不活性化されたトレオニン菌株の作製
tsx(配列番号44)遺伝子が不活性化された菌株を作製するために、前記1−1において記述されたnfrA不活性化カセット作製のような方法で、tsx不活性化用カセットを作製した。使用プライマーは、配列番号13,14を利用して、約1.1kbのDNA断片を得て、配列番号15,16を利用して、約1.2kbのDNA断片を作製した。
【0043】
tsxが不活性化されたトレオニン菌株の作製方法は、前記実施例1−1と同一方法によって行われ、配列番号17と18とのプライマーを利用して、PCR結果物のサイズを確認し、最終的に、L−トレオニン生産菌株KCCM10910PΔtsxを作製した。
【0044】
1−5.fhuA遺伝子が不活性化されたトレオニン菌株の作製
fhuA(配列番号46)遺伝子が不活性化された菌株を作製するために、fhuA不活性化用カセットを作製した。該カセットは、前記記述された技法である1段階不活性化(one step inactivation)方法を利用するように作製され、fhuAと相同性を有する塩基配列のDNA断片を得るために、それぞれ配列番号19及び20、配列番号21及び22を利用して、PCR結果物を得た。また、クロラムフェニコール耐性を有する塩基配列を含むDNA断片を獲得するために、配列番号23と24とを利用して、PCR結果物を得た。そのようにして得た3つのPCR結果物を、0.8%アガロースゲル(agarose gel)で電気泳動した後、溶離させて得て、該3つの結果物をテンプレートにして、配列番号19と22とを使用してPCRを行い、fhuA不活性化カセットを作製した。
【0045】
fhuAが不活性化されたトレオニン菌株を作製するために、前記実施例1−1と同一方法によって行われ、配列番号25と26とのプライマーを利用して、PCR結果物のサイズを確認し、最終的に、fhuAが不活性化されたL−トレオニン生産菌株KCCM10910PΔfhuAを作製した。
【0046】
1−6.lamB遺伝子が不活性化されたトレオニン菌株の作製
lamB遺伝子(配列番号48)が不活性化された菌株を作製するために、前記実施例1−1で記述された方法で、配列番号27,28を利用して、約1.1kbのDNA断片を得て、配列番号29,30を利用して、約1.2kbのDNA断片を作製した。
【0047】
lamBが不活性化されたトレオニン菌株の作製方法は、前記実施例1−1において記述された方法と同一方法によってなり、配列番号31と32とのプライマーを利用して、PCR結果物のサイズを確認し、最終的に、lamBが不活性化されたL−トレオニン生産菌株KCCM10910PΔlamBを作製した。
【0048】
1−7.btuB遺伝子が不活性化されたトレオニン菌株の作製
btuB遺伝子(配列番号50)が不活性化された菌株作製のために、前記実施例1−1で記述された方法で、btuB不活性化用カセットを作製した。使用プライマーは、配列番号33,34を利用して、約1.1kbのDNA断片を得て、配列番号35,36を利用して、約1.2kbのDNA断片を作製した。
【0049】
btuBが不活性化されたトレオニン菌株を作製するために、トレオニン菌株の作製方法は、前記実施例1−1において記述された方法と同一方法によって行われ、配列番号37と38とのプライマーを利用して、PCR結果物のサイズを確認し、最終的に、btuBが不活性化されたL−トレオニン生産菌株KCCM10910PΔbtuBを作製した。
【0050】
実施例2.組換え微生物のL−トレオニン生産性比較
前記実施例1で製造した組換え微生物を、表1のトレオニン力価培地を利用して、三角フラスコで培養し、L−トレオニン生産性を確認した。
【0051】
【表1】
【0052】
33℃培養基でLB固体培地中で一晩中培養した実施例1で作製された大腸菌7種の菌株、及びKCCM10910Pを、それぞれ表1の25mL力価培地に1白金耳ずつ接種した後、それを33℃、200rpmの培養基で48時間培養した。
【0053】
【表2】
【0054】
表2に記載されているようにnfrA、nfrB、nfrAB、tsx及びfhuAの各不活性化菌株は、親菌株であるKCCM10910P対比で、糖消耗速度が向上しながら、48時間収率が下がらないということを確認した。一方、lamBとbtuBとの不活性化菌株は、親菌株対比で、糖消耗速度が類似しているか、あるいは小幅下がり、48時間の培養時、トレオニン濃度も、いずれも類似しているということを確認した。nfrA、nfrB及びnfrABの不活性化菌株は、培養結果が同一に示され、2つの遺伝子のうちいずれか一つだけ欠損した場合と、2つの遺伝子が同時に欠損した場合とにおいて、いずれも同じ結果を示すということを確認した。
【0055】
実施例3.有効変異組み合わせ菌株の作製、及びL−トレオニン生産能の比較
3−1.nfrAB、fhuA同時不活性化、nfrAB、tsx同時不活性化、及びnfrAB、tsx、fhuA同時不活性化菌株の作製
糖消費能が上昇したnfrAB、fhuA、tsxの不活性化特徴を組み合わせた場合の糖消費能追加向上いかんを確認するために、KCCM10910PΔnfrABΔfhuA、KCCM10910PΔnfrABΔtsx及びKCCM10910PΔnfrABΔtsxΔfhuAを作製した。そのために、実施例1−3で作製されたKCCM10910PΔnfrABを基に、実施例1で作製したような方法で、fhuA及びtsxをそれぞれ同時不活性化させた菌株を作製した(KCCM10910PΔnfrABΔfhuA及びKCCM10910PΔnfrABΔtsx)。また、KCCM10910PΔnfrABΔtsxを基にfhuAを不活性化させ、最終的に、KCCM10910PΔnfrABΔtsxΔfhuAを作製した。
【0056】
表2から確認されるように、nfrA,nfrB,nfrAB不活性化菌株は、その効果が同一であると判断されるので、有効変異組み合わせ菌株の作製においては、nfrABが、不活性化を基に、tsx,fhuA不活性化を進めた。しかし、その効果は、nfrAかnfrBだけ不活性化させた場合と、2つの遺伝子を同時不活性化させた場合とにおいて、いずれも同一であると見られる。
【0057】
3−2.有効変異組み合わせ菌株のL−トレオニン生産能比較
前述のところで作製された有効変異統合株のL−トレオニン生産能を比較するために、表1の培地を利用して、前述のところにおいて記述された方法と同一に培養を進め、その結果は、表3の通りである。
【0058】
【表3】
【0059】
糖消費能が上昇したnfrAB、fhuA、tsxの不活性化特徴を組み合わせて作製したKCCM10910PΔnfrABΔfhuA菌株、KCCM10910PΔnfrABΔtsx菌株及びKCCM10910PΔnfrABΔtsxΔfhuA菌株の力価評価の結果、nfrAB単独変異に、fhuAやtsxを追加して不活性化させた場合、糖消費能が上昇するということを確認した。ここで、糖消費能が上昇したように見える前記形質転換された大腸菌KCCM10910PΔnfrABを「CA03−8253P」と命名し、KCCM 11501Pとして、20013年12月13日に韓国微生物保存センター(KCCM:Korean Culture Center of Microorganisms)に寄託した(受託番号KCCM11501P)。
【0060】
実施例4.KCCM−10132基盤ファージ受容体不活性化菌株の作製及びトレオニン生産能比較
4−1.KCCM−10132基盤ファージ受容体不活性化菌株の作製
実施例1及び実施例3のような方法で、実施例1で作製された7種の不活性化カセットを利用して、同一にKCCM−10132菌株を基にして、ファージ受容体不活性化菌株10種を作製した(表4)。KCCM−10132菌株は、韓国登録特許第10−0270510号において記述された菌株であり、大腸菌由来トレオニン生産能が付与された菌株である。
【0061】
4−2.KCCM−10132基盤ファージ受容体不活性化菌株の作製トレオニン生産能比較
実施例2において記述された方法で、表1の培地を利用して、実施例4−1で作製されたKCCM−10132基盤ファージ受容体不活性化菌株10種と、親菌株KCCM−10132とのトレオニン生産能を比較評価進行した。
【0062】
【表4】
【0063】
表4に記載されているように、nfrA,nfrB,nfrAB,tsx,fhuA不活性化菌株は、親菌株であるKCCM−10132対比で、糖消耗速度が向上しながら、48時間収率が下がらないということを確認した。一方、lamBとbtuBとの不活性化菌株は、親菌株対比で、糖消耗速度が類似しているか、あるいは小幅遅延し、48時間の培養時、トレオニン濃度は、類似しているということを確認した。また、nfrAB、fhuA、及びnfrAB、tsxの同時不活性化菌株、nfrAB,tsx,fhuAの同時不活性化菌株は、nfrAB単独不活性化菌株対比で、糖消耗速度が改善するということが確認された。
【0064】
実施例5.KCCM11166P基盤ファージ受容体不活性化菌株の作製及びトリプトファン生産能比較
5−1.KCCM11166P基盤ファージ受容体不活性化菌株の作製
実施例1で作製された7種の不活性化カセットを利用して、実施例1のような方法で、KCCM11166P(大韓民国登録特許10−1261147)を基にして、ファージ受容体が不活性化されたトリプトファン生産菌株7種を作製した。
【0065】
5−2.KCCM11166P基盤ファージ受容体不活性化菌株の作製及びトリプトファン生産能比較
実施例5−1で作製されたKCCM11166P基盤ファージ受容体が不活性化されたトリプトファン生産菌株7種の生産能を評価するために、表5の培地を利用して進めた。そのために、菌体を白金耳で接種した後、LB固体培地で一晩培養し、表5のような組成を有する25mlのフラスコ力価培地に、1白金耳ずつ接種した。菌株接種後、37℃、200rpmで48時間培養し、そこから得られた結果を表6に示した。
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
表6から分かるように、nfrA,nfrB,nfrAB,tsx,fhuA欠失の場合、菌株のトリプトファン生産量は、類似しており、糖消耗速度が速くなったということを確認することができる。一方、lamb、btuBの場合には、トリプトファン生産量や糖消耗速度の変化は見られなかった。
【0069】
実施例6.有効変異組み合わせ菌株の作製及びL−トリプトファン生産能比較
6−1.nfrAB,fhuA同時不活性化、nfrAB,tsx同時不活性化、及びnfrAB,tsx,fhuA同時不活性化されたL−トリプトファン生産菌株の作製
糖消費能が上昇したnfrAB、fhuA、tsxの不活性化特徴を組み合わせた場合の糖消費能追加向上いかんをトリプトファン生産菌株で確認するために、KCCM11166PΔnfrABΔfhuA、KCCM11166PΔnfrABΔtsx及びKCCM11166PΔnfrABΔtsxΔfhuAを作製した。
【0070】
6−2.有効変異組み合わせ菌株のL−トリプトファン生産能比較
前記6−1で作製された3種菌株のL−トリプトファン生産能を比較するために、表5の培地を利用して、実施例5において記述された方法と同一に培養を進め、その結果は、下記表7の通りである。
【0071】
【表7】
【0072】
作製された有効変異組み合わせトリプトファン生産菌株の力価評価結果、nfrAB単独変異に、fhuAとtsxとを追加不活性化させたとき、nfrAB単独変異対比で、糖消耗能が上昇するということを確認した。
【0073】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であるならば、本発明が、その技術的思想や必須特徴を変更せずとも、他の具体的な形態で実施されるということを理解することができるであろう。それと係わり、本明細書で記述された実施例及び試験例は、全ての面において例示的なものであり、本発明の範囲を制限するものではないと理解されなければならない。本発明の範囲は、前述の詳細な説明よりは、特許請求の範囲の意味、範囲及びその等価概念から導み出される全ての変更、または変形された形態が本発明の範囲に含まれると解釈されなければならない。