特許第6490761号(P6490761)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6490761
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】アンモニア性窒素含有排水の消毒方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/50 20060101AFI20190318BHJP
   A01N 59/08 20060101ALI20190318BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20190318BHJP
   A01N 43/64 20060101ALI20190318BHJP
   A01N 59/06 20060101ALI20190318BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20190318BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20190318BHJP
   C02F 1/76 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   C02F1/50 550L
   A01N59/08 A
   A01N59/00 C
   A01N43/64 105
   A01N59/00 Z
   A01N59/06 Z
   A01N25/00 102
   A01P1/00
   C02F1/50 510A
   C02F1/50 520P
   C02F1/50 531L
   C02F1/50 531P
   C02F1/50 532C
   C02F1/50 532E
   C02F1/50 532H
   C02F1/50 540B
   C02F1/50 540D
   C02F1/76 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-155968(P2017-155968)
(22)【出願日】2017年8月10日
(65)【公開番号】特開2019-34262(P2019-34262A)
(43)【公開日】2019年3月7日
【審査請求日】2018年10月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】稲村 准一
(72)【発明者】
【氏名】仲田 弘明
(72)【発明者】
【氏名】林 秀明
(72)【発明者】
【氏名】力石 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】三山 義輝
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/175006(WO,A1)
【文献】 特開2016−209837(JP,A)
【文献】 特開2004−244372(JP,A)
【文献】 特表2005−519089(JP,A)
【文献】 特開2005−088005(JP,A)
【文献】 特表平11−506139(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/019117(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/50
C02F 1/70− 1/78
A01N 25/00
A01N 43/64
A01N 59/00
A01N 59/06
A01N 59/08
A01P 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア性窒素を含有する排水に、水中で次亜塩素酸イオン(OCl)を発生する薬剤(A)と、水中で臭化物イオン(Br)を発生する薬剤(B)と、を添加して前記排水中の大腸菌及び大腸菌群を殺菌するアンモニア性窒素含有排水の消毒方法であって、前記排水中のアンモニア性窒素濃度に応じて、前記薬剤(A)中Clと、前記薬剤(B)中Brとのモル比を調節して、前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)を前記排水に添加することを特徴とし、
前記排水中のアンモニア性窒素濃度が30mg/L以下の場合には、前記薬剤(A)中Clと、前記薬剤(B)中Brとのモル比がBr/Cl<1.0となる量で前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)を前記排水に添加し、
前記排水中のアンモニア性窒素濃度が30mg/Lを超える場合には、前記薬剤(A)中Clと、前記薬剤(B)中Brとのモル比がBr/Cl≧1.0となる量で前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)を前記排水に添加する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記薬剤(A)は、次亜塩素酸塩、ジクロロイソシアヌル酸またはその塩、トリクロロイソシアヌル酸またはその塩、及び次亜塩素酸カルシウム(さらし粉)から選択される1種以上を含み、
前記薬剤(B)は、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化アンモニウム、及び臭化カルシウムから選ばれる1種以上を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)は、前記排水に添加する前には反応させないことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)は、固体として前記排水に添加される、ことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)は、それぞれ別個の溶液として前記排水に添加される、ことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)を含む混合溶液として前記排水に添加する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア性窒素含有排水の消毒方法に関し、特に、下水処理場、ポンプ場、雨水吐き口から公共用水域に放流されるアンモニア性窒素を含む排水中の大腸菌又は大腸菌群を殺菌処理する消毒方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理場は、家庭や工場から排出される汚水等を無害化して公共用水域に放流するための施設であるが、設計値を上回る降雨があった場合には、中継基地であるポンプ場や雨水吐き口から、雨水の混ざった汚水(以下、雨天時下水という)が、数十秒から数分で、十分に処理されない状態で公共用水域に放流される。この場合、粗大浮遊物やSS(suspended substance:浮遊物質)が公共用水域に放流されるために、美観上問題となる場合があるばかりか、水質汚濁防止法に定める放流基準値(3000CFU/mL以下)を大幅に上回る大腸菌群や大腸菌が検出される場合がある。
【0003】
下水処理場においても、流入下水が処理能力を大幅に上回る場合には、一部の雨天時下水を簡易処理し放流する場合がある。この場合、細菌の殺菌が十分に実施されないため、水質汚濁防止法に定める放流基準値(3000CFU/mL以下)を大幅に上回る大腸菌群や大腸菌が検出される場合がある。これらは、特に合流式下水道にみられる現象であるが、分流式下水道においても、土壌性大腸菌群や粗大浮遊物が流入するため、それらが越流して公共水域に放流された場合には、合流式下水道と同様の問題が生じていた。
【0004】
下水処理場での消毒は、「下水道施設計画・設計指針と解説」(日本下水道協会発行、2009年版)によれば、次亜塩素酸ナトリウム、液化塩素、塩素化イソシアヌル酸、次亜塩素酸カルシウムなどの塩素剤を用い、それらを混和池で、15分以上、下水と接触させることによって大腸菌群を消毒する方法が示されている。また、「下水道施設計画・設計指針と解説」には、オゾンや紫外線による消毒についても記載されている。更に、数万mの貯留池を設けて雨天時下水を一時貯留し、貯留量以上の降雨量によって越流が起こった場合には、上記の塩素系消毒剤を用いて消毒を行う方法も提案されている。
【0005】
しかし、塩素系消毒剤は、雨天時下水のように降雨強度が大きく短時間で公共用水域に放流される場合には排水との接触時間が短いため殺菌作用が十分に発揮されないこと、及びアンモニア性窒素含有量が多い排水においては、塩素とアンモニア性窒素とが反応してクロラミンを形成しやすく、殺菌作用が低減することから、水質汚濁防止法で定める基準値以下に大腸菌群数を減少させることができないという問題、及び、クロラミンが公共用水域に結合性塩素として長時間残留して環境に悪影響を与えるという問題などがある。そのため、たとえば、次亜塩素酸ナトリウムに対して臭化ナトリウムを等モル以上添加して形成される次亜臭素酸若しくは次亜臭素酸塩の溶液を排水に添加する消毒方法(特許文献1)、(A)次亜塩素酸ナトリウム又は1,3−ジクロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、(B)臭化ナトリウム又は臭化カリウム、及び(C)L−アスコルビン酸、グリコール酸又はグリオキシル酸を(A)次亜塩素酸:(B)臭化物イオン=1:1〜1:5(モル比)及び(A)次亜塩素酸:(C)=1:0.05〜1:1(モル比)となる量で含む消毒水を排水に添加する消毒方法(特許文献2)、次亜塩素酸、臭化物及び5,5−ジメチルヒダントインを1:(0.2〜3):(0.2〜0.9)(モル比)で用い、次亜塩素酸類と5,5−ジメチルヒダントインとの反応により残存した次亜塩素酸類に対応して臭化物を混合して形成される次亜臭素酸及びN−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントインを含む水溶液である殺微生物剤(特許文献3)など次亜臭素酸を用いる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−12425号公報
【特許文献2】特許4398161号公報
【特許文献3】特開2009−226409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来提案されている次亜臭素酸を用いる方法であっても、アンモニア性窒素を含む排水の殺菌効果が不十分で、大腸菌群の放流基準値3000CFU/mL以下に処理できないことや、大腸菌を十分に殺菌できないことがあった。
【0008】
本発明は、アンモニア性窒素を含む排水中の大腸菌及び大腸菌群の殺菌処理を確実、簡易、且つ経済的に行う方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
大腸菌とはEsherichia coliであり、大腸菌群とはEsherichia coli以外にCitrobacter属、Enterobacter属、Klebsiella属などを含む。大腸菌群は糞便汚染の指標であり、腸管系病原菌(チフス菌、赤痢菌等)に対する安全性を確認するための検査項目である。本発明者らは、反応して次亜臭素酸塩を生成する2種以上の薬剤を組み合わせて各薬剤の添加量を排水中のアンモニア性窒素濃度に応じて調整することにより、従来の大腸菌群のみを指標とする殺菌作用ばかりでなく、大腸菌も指標とする殺菌作用が発揮されることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明によれば下記実施態様のアンモニア性窒素含有排水中の大腸菌及び大腸菌群を殺菌処理するアンモニア性窒素含有排水の消毒方法が提供される。具体的態様は以下のとおりである。
[1]アンモニア性窒素を含有する排水に、水中で次亜塩素酸イオン(OCl)を発生する薬剤(A)と、水中で臭化物イオン(Br)を発生する薬剤(B)と、を添加して前記排水中の大腸菌及び大腸菌群を殺菌するアンモニア性窒素含有排水の消毒方法であって、前記排水中のアンモニア性窒素濃度に応じて、前記薬剤(A)中Clと、前記薬剤(B)中Brとのモル比を調節して、前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)を前記排水に添加することを特徴とする方法。
[2]前記排水中のアンモニア性窒素濃度が30mg/L以下の場合には、前記薬剤(A)中Clと、前記薬剤(B)中Brとのモル比がBr/Cl<1.0となる量で前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)を前記排水に添加し、前記排水中のアンモニア性窒素濃度が30mg/Lを超える場合には、前記薬剤(A)中Clと、前記薬剤(B)中Brとのモル比がBr/Cl≧1.0となる量で前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)を前記排水に添加することを特徴とする[1]に記載の方法。
[3]前記薬剤(A)は、次亜塩素酸塩、ジクロロイソシアヌル酸またはその塩、トリクロロイソシアヌル酸またはその塩、及び次亜塩素酸カルシウム(さらし粉)から選択される1種以上を含み、前記薬剤(B)は、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化アンモニウム、及び臭化カルシウムから選ばれる1種以上を含む、ことを特徴とする[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)は、前記排水に添加する前には反応させないことを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)は、固体として前記排水に添加される、ことを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)は、それぞれ別個の溶液として前記排水に添加される、ことを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[7]前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)を含む混合溶液として前記排水に添加する、ことを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、排水中のアンモニア性窒素濃度に応じて最適な次亜臭素酸塩による大腸菌及び大腸菌群の殺菌作用を利用することにより、従来提案されている次亜塩素酸塩に対して等モル以上の臭化物を添加して形成する消毒剤及び殺菌方法や、有機酸又はヒダントインなどの第3成分を添加する殺菌剤及び殺菌方法と比較して短時間でより優れた大腸菌群や大腸菌に対する殺菌効果を発揮することができ、かつ経済的である、アンモニア性窒素含有排水中の大腸菌及び大腸菌群を殺菌処理する消毒方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の消毒方法を下水処理場に適用する場合の処理フローを示す説明図である。
図2】本発明の消毒方法を雨水ポンプ所に適用する場合の処理フローを示す説明図である。
図3】大腸菌群の殺菌効果に関する排水中アンモニア性窒素濃度と薬剤(A)中Clに対する薬剤(B)中Brのモル比との関係を示すグラフである。
図4】大腸菌の殺菌効果に関する排水中アンモニア性窒素濃度と薬剤(A)中Clに対する薬剤(B)中Brのモル比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
本発明は、アンモニア性窒素を含有する排水に、水中で次亜塩素酸イオン(OCl)を発生する薬剤(A)と、水中で臭化物イオン(Br)を発生する薬剤(B)と、を添加してアンモニア性窒素含有排水中の大腸菌又は大腸菌群を殺菌処理する消毒方法を提供する。
【0014】
従来の方法は、次亜塩素酸塩1モルに対して金属臭化塩1モル以上を混合して形成される次亜臭素酸塩溶液を排水に添加するが、本発明は、排水中のアンモニア性窒素濃度に応じて、水中で次亜塩素酸イオン(OCl)を発生する薬剤(A)中Clと、水中で臭化物イオン(Br)を発生する薬剤(B)中Brとのモル比を調製することを特徴とする。具体的には、排水中アンモニア性窒素濃度が30mg/L以下の場合には、薬剤(A)中のClに対して薬剤(B)中のBrのモル比Br/Clが1.0未満、好ましくは0.5以下、0.2以上となる量で前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)をアンモニア性窒素含有排水に添加し、排水中アンモニア性窒素濃度が30mg/Lを超える場合には、薬剤(A)中のClに対して薬剤(B)中のBrのモル比Br/Clが1.0以上、好ましくは1.5以上、2.0以下となる量で前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)をアンモニア性窒素含有排水に添加することを特徴とする。排水中のアンモニア性窒素濃度に応じて、薬剤(A)及び薬剤(B)の添加比率を調整することにより、最適な殺菌作用を経済的に達成し得る。
【0015】
前記薬剤(A)は、次亜塩素酸塩、ジクロロイソシアヌル酸またはその塩、トリクロロイソシアヌル酸またはその塩、及び次亜塩素酸カルシウム(さらし粉)から選択される1種以上を含み、前記薬剤(B)は、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化アンモニウム、及び臭化カルシウムから選ばれる1種以上を含むことが好ましく、任意の薬剤(A)と薬剤(B)の組合せを用いることができる。薬剤(A)の塩としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、ジクロロイソシアヌル酸カリウム、トリクロロイソシアヌル酸ナトリウム、トリクロロイソシアヌル酸カリウムなどを好適に用いることができる。薬剤(A)と薬剤(B)との組合せは、次亜塩素酸ナトリウムと臭化ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム(さらし粉)と臭化ナトリウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムと臭化ナトリウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムと臭化カリウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムと臭化カルシウムなどを好適に用いることができる。
【0016】
前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)は、前記排水に添加する前には反応させないことが好ましい。薬剤(A)及び薬剤(B)を個別に排水に添加することにより、排水の水質に応じたBr/Clモル比の制御が容易である。このため、それほど大量ではない降雨が長期間にわたり続き、雨水量が多くなり下水が希釈された場合や、降雨量が少なくなり下水の滞留時間が長くなる場合など、経時的に変化する状況であっても、薬剤(A)及び薬剤(B)の添加量を個別に制御し、好適なモル比で供給することができる。
【0017】
一方、被処理水の水質変動が小さく、アンモニア性窒素濃度が安定している場合、薬剤(A)と薬剤(B)の混合比率を変化させる必要はなく、一定比率における運転制御が可能となる。この場合、薬剤(A)と薬剤(B)の添加量を別個に制御する必要がないので混合してから添加することができる。薬剤(A)と薬剤(B)を混合してから添加することにより、被処理水への添加ラインを1系統とすることができ、運転管理や注入量を制御し易くなる。
【0018】
前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)は別個の固体として、あるいは混合された固体として、前記排水に添加されることが好ましい。先行技術文献に開示されているような2種類の薬剤をあらかじめ混合して調製した溶液を排水に添加する場合には、溶解装置、溶液貯留槽、溶液注入装置など付属装置が多くなるため設備全体が大型化し、装置構成が複雑になり、管理コストが増大するが、薬剤(A)及び薬剤(B)を固体のまま直接排水に添加することにより、溶液を添加する場合に必要となる設備やコストが不要となる。
【0019】
あるいは、前記薬剤(A)及び前記薬剤(B)はそれぞれ別個に調製された溶液として排水に添加してもよい。この場合、薬剤(A)及び薬剤(B)の別個の溶液として容易に定量供給することができる。
【0020】
あるいは、薬剤(A)及び薬剤(B)をあらかじめ混合して調製した混合溶液として添加してもよい。被処理水の流動性が著しく低く、薬剤添加位置における薬剤(A)と薬剤(B)の接触効率が低い場合、または、薬剤(A)と薬剤(B)の溶解性が低い場合には、あらかじめ混合して調整した混合液として添加することにより殺菌効果を高めることができる。 図1に、本発明の消毒方法を下水処理場に適用する場合の処理フローを示す。図中「○」はバルブを示す。通常の下水処理場では、排水は第一沈殿池、曝気槽、第二沈殿池により処理された後、河川に放流される。大量の雨水が流入する場合には、曝気槽及び第二沈殿池における処理能力を超えるため、第一沈殿池における処理の後、雨天時簡易放流水として河川に放流される。本発明の消毒方法は、この雨天時簡易放流水に、薬剤(A)及び薬剤(B)を好ましくは固体のまま、個別に添加する。薬剤(A)と薬剤(B)の添加量は、雨天時簡易放流水の放流ラインに設けられたアンモニア性窒素検出器(NH−Nセンサー)により検出されるアンモニア性窒素濃度に応じて、演算子により決定される。具体的には、アンモニア性窒素濃度が30mg/L以下の場合には、薬剤(A)中Clと薬剤(B)中Brのモル比:Br/Clが1.0未満、好ましくはBr/Clが0.5以下、0.2以上とし、アンモニア性窒素濃度が30mg/Lを超える場合には、薬剤(A)中Clと薬剤(B)中Brのモル比:Br/Clが1.0以上、好ましくは2.0以下とする。河川への放流の前に、雨天時簡易放流水の残留ハロゲン濃度を測定し、残留ハロゲン濃度が高い場合には薬剤(A)及び(B)の全注入量を減らすことが好ましい。
【0021】
図2に、本発明の消毒方法を雨水ポンプ所に適用する場合の処理フローを示す。図中「○」はバルブを示す。通常の雨水ポンプ所では、雨水は、沈砂池及びポンプ井にて処理された後、河川に放流される。本発明の消毒方法は、沈砂池に、薬剤(A)及び薬剤(B)を好ましくは固体のまま、個別に添加する。薬剤(A)と薬剤(B)の添加量は、雨水を沈砂池に供給するラインに設けられたアンモニア性窒素検出器(NH−Nセンサー)により検出されるアンモニア性窒素濃度に応じて、演算子により決定される。具体的には、アンモニア性窒素濃度が30mg/L以下の場合には、薬剤(A)中Clと薬剤(B)中Brのモル比:Br/Clが1.0未満、好ましくはBr/Clが0.5以下、0.2以上とし、アンモニア性窒素濃度が30mg/Lを超える場合には、薬剤(A)中Clと薬剤(B)中Brのモル比:Br/Clが1.0以上、好ましくは2.0以下とする。河川への放流の前に、雨水処理放流水の残留ハロゲン濃度を測定し、残留ハロゲン濃度が高い場合には薬剤(A)及び(B)の全注入量を減らすことが好ましい。
【0022】
図1及び2において、Cl供給機からの薬剤(A)及びBr供給機からの(B)の注入量は、演算子によって制御する。演算子は、排水中のアンモニア性窒素濃度に加えて、降雨量、降雨時間、雨天時簡易放流開始時間又は雨水ポンプ運転開始時間などの外部因子からの信号を受けて、薬剤(A)及び(B)のモル比に加えて全注入量を制御することが好ましい。薬剤(A)及び(B)は固体のまま投入されることが好ましく、例えば特開2004−18013号公報に開示されている粉体供給設備などを用いて投入することができる。また、薬剤(A)及び(B)は、別個の溶液として、あるいはあらかじめ混合して溶液として供給されてもよい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
試験水として、降雨量7mm/時の降雨の際の雨天時簡易放流水を用いた。試験水の性状を表1に示す。
【0024】
試験水1Lをビーカーに採取し、ジャーテスターにセットして120rpmで撹拌しながら、表2に示す種類及び比率で薬剤(A)及び(B)を添加し、3分後に撹拌を停止して試験水を100ml採取した。採取後速やかに、試験水の一部を遊離残留塩素濃度及び全残留塩素濃度の分析に供し、試験水の一部をチオ硫酸ナトリウム入り滅菌瓶に採取した。滅菌瓶に採取した試験水を用いて大腸菌数(クロモアガーECC培地、平板培養法)及び大腸菌群数(デソキシコール酸塩培地、平板培養法)の測定を行った。
【0025】
また、表1に示す試験水に対して所定量の塩化アンモニウムを添加して、表2に示すアンモニア性窒素濃度に調整し、同様の測定を行った。結果を表2に示す。
用いた薬剤は以下のとおりである。
薬剤(A)
・ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム
ネオクロール・60(四国化成製、有効塩素含有量64.48%、白色結晶性固体)
・さらし粉
高度さらし粉(日本ソーダ工業会規格JSIA07-1-1998 I種、有効塩素70%以上)
・次亜塩素酸ナトリウム
次亜塩素酸ソーダ試薬(和光純薬工業 試薬特級 有効塩素12%)
・トリクロロイソシアヌル酸
ネオクロール・90(四国化成製、有効塩素含有量90%、白色結晶性固体)
薬剤(B)
・臭化ナトリウム(和光純薬工業 試薬特級)
・臭化アンモニウム(和光純薬工業 試薬特級)
・臭化カルシウム(和光純薬工業 試薬特級)
・臭化カリウム(和光純薬工業 試薬特級)
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
排水中アンモニア性窒素濃度が30mg/L以下の場合、薬剤(A)中Clに対して薬剤(B)中Brをモル比1.0未満とすることにより、大腸菌数及び大腸菌群数ともに減少しており、放流基準値(3,000CFU/mL以下)を満たすが、薬剤(A)中Clに対して薬剤(B)中Brをモル比1.0以上とすると、大腸菌群数が放流基準値を満たしていないことがわかる。
【0029】
一方、排水中アンモニア性窒素濃度が30mg/Lを超える場合、薬剤(A)中Clに対して薬剤(B)中Brをモル比1.0以上とすることにより、大腸菌数及び大腸菌群数ともに減少しており、放流基準値(3,000CFU/mL以下)を満たすが、薬剤(A)中Clに対して薬剤(B)中Brをモル比1.0未満とすると、大腸菌群数が放流基準値を満たしていないことがわかる。
【0030】
また、従来法である5,5−ジメチルヒダントインを添加した比較例18及び19では、アンモニア性窒素濃度が30mg/L以下の場合、薬剤(A)中Clに対して薬剤(B)中Brをモル比1.0未満としても、排水中アンモニア性窒素濃度が30mg/Lを超える場合、薬剤(A)中Clに対して薬剤(B)中Brをモル比1.0以上としても、大腸菌群数が放流基準値を満たしていない。薬剤(A)及び薬剤(B)から生成される次亜臭素酸塩及び次亜塩素酸塩が5,5−ジメチルヒダントインと反応し、5,5−ジメチルヒダントインの塩素化物及び臭素化物が生成され、酸化活性が弱まることに起因すると推察される。
【0031】
次に、表1に示す試験水に対して、所定量の塩化アンモニウムを添加してアンモニア性窒素濃度を5mg/L、25mg/L及び40mg/Lとした試験水3種を調製し、次亜塩素酸ナトリウム及び臭化カリウムのモル比を表3に示すように変えてそれぞれ固体のまま別個に添加し、消毒効果を比較した。結果を表3及び図3〜4に示す。
【0032】
【表3】
図1
図2
図3
図4