特許第6490766号(P6490766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6490766
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】貫通孔防火措置構造
(51)【国際特許分類】
   F16L 5/02 20060101AFI20190318BHJP
【FI】
   F16L5/02 E
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-168479(P2017-168479)
(22)【出願日】2017年9月1日
(62)【分割の表示】特願2013-4870(P2013-4870)の分割
【原出願日】2013年1月15日
(65)【公開番号】特開2017-207212(P2017-207212A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2017年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000119830
【氏名又は名称】因幡電機産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】古賀 誠一
【審査官】 大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−007892(JP,A)
【文献】 特開2002−181262(JP,A)
【文献】 特開2005−088559(JP,A)
【文献】 実開平06−007755(JP,U)
【文献】 特表平10−505267(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3148209(JP,U)
【文献】 特開2005−351305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L3/00−5/14
A62C3/16
E04B1/94
H02G3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火構造体側に属する貫通孔の内周面とこれに挿通された長尺体の外側面との間の隙間を粘着性の耐火材を用いて当該耐火材が前記貫通孔の内周面に密着又は略密着する状態で閉塞してある貫通孔防火措置構造であって、
前記耐火材とこれに対応する前記長尺体の外側面との間に、前記耐火材に対する前記長尺体の長手方向での移動を許容する摺動案内層が形成されており、
前記摺動案内層が、前記耐火材の表面よりも摩擦係数が小さい低摩擦面を有するシート状体で構成されているとともに、前記貫通孔に環状に充填された前記耐火材の内周面と前記長尺体の外側面との間に、前記耐火材の粘着力を喪失させ且つ前記低摩擦面が内側を向く状態となるように設けられている貫通孔防火措置構造。
【請求項2】
耐火構造体側に属する貫通孔の内周面とこれに挿通された複数本の長尺体の外側面との間の隙間を粘着性の耐火材で閉塞してある貫通孔防火措置構造であって、
前記耐火材とこれに対応する前記長尺体の外側面との間に、前記耐火材に対する前記長尺体の長手方向での移動を許容する摺動案内層が形成されており、
前記摺動案内層が、前記耐火材の表面よりも摩擦係数が小さい低摩擦面を有するシート状体で構成されているとともに、前記貫通孔に環状に充填された前記耐火材の内周面と前記長尺体の外側面との間に、前記耐火材の粘着力を喪失させ且つ前記低摩擦面が内側を向く状態となるように設けられ、さらに、
前記摺動案内層が、複数本の前記長尺体の束の輪郭形状に沿って筒状に巻き付けられているとともに、押込み充填される前記耐火材により、互いに隣接する2本の前記長尺体どうしの間の谷部に入り込んでいる貫通孔防火措置構造。
【請求項3】
前記摺動案内層が、前記耐火材の内周面と前記長尺体の外側面との間に密着又は略密着状態で設けられている請求項1又は2に記載の貫通孔防火措置構造。
【請求項4】
前記摺動案内層を構成する前記シート状体が、可撓性を有し、前記長尺体に外装可能に構成されている請求項1から3のいずれか一項に記載の貫通孔防火措置構造。
【請求項5】
前記摺動案内層が、前記耐火材の内周面に貼り付けられている請求項1からのいずれか一項に記載の貫通孔防火措置構造。
【請求項6】
前記長尺体が複数本設けられ、
前記摺動案内層が、複数本の前記長尺体の束の輪郭形状に沿って筒状に巻き付けられているとともに、押込み充填される前記耐火材により、互いに隣接する2本の前記長尺体どうしの間の谷部に入り込んでいる請求項に記載の貫通孔防火措置構造。
【請求項7】
前記耐火材が、ゴム成分を含む樹脂成分と熱膨張性黒鉛と無機充填剤とを含有し、粘着性を備えたパテ状の熱膨張性組成物で構成されている請求項1からのいずれか一項に記載の貫通孔防火措置構造。
【請求項8】
耐火構造体の貫通孔に挿通状態で配置される耐火スリーブに形成された貫通孔の内周面とこれに挿通された長尺体の外側面との間の隙間を粘着性の耐火材で閉塞してある貫通孔防火措置構造であって、
粘着性の前記耐火材が、前記耐火スリーブの端部に、前記耐火スリーブと前記長尺体とに亘って巻き付けられており、
前記耐火材とこれに対応する前記長尺体の外側面との間に、前記耐火材に対する前記長尺体の長手方向での移動を許容する摺動案内層が形成されており、
前記摺動案内層が、前記耐火材の表面よりも摩擦係数が小さい低摩擦面を有するシート状体で構成されているとともに、前記耐火材のうち前記耐火スリーブの端部よりも前記長手方向の外側に位置する部分と、これに対応する前記長尺体の外側面との間に、前記耐火材の粘着力を喪失させ且つ前記低摩擦面が内側を向く状態となるように設けられている貫通孔防火措置構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁や床等の耐火構造体側に属する貫通孔、例えば、耐火構造体自体に貫通形成されている貫通孔又はそれに貫設されている耐火スリーブによって形成される貫通孔に、ケーブルや空調配管等の長尺体を挿通し、この長尺体の外側面と貫通孔の内周面との間の隙間を粘着性の耐火材で閉塞してある貫通孔防火措置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の貫通孔防火措置構造では、耐火構造体側に属する貫通孔の内周面と長尺体の外側面との間の隙間を閉塞する耐火材が経年劣化によって落下したり、或いは、長尺体に伝播する振動等によって落下することを防止するために、一般に、貫通孔の内周面及び長尺体の外側面との密着性に優れた粘着性の耐火材が使用されている。
【0003】
例えば、耐火構造体自体に貫通孔が形成されている場合では、この貫通孔の内周面と長尺体の外側面との間の隙間に、粘着性の耐火材として、パテ状の耐火材又は巻回装着可能な帯状の耐火材が密着状態で充填されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、耐火構造体に貫設された耐火スリーブによって貫通孔が形成されている場合は、耐火材として、テープ基材の片面に粘着性のある耐火材層を形成してある耐火テープを使用して、この耐火テープを、耐火スリーブの端部側の外周面と長尺体の外側面とにわたって巻き付けるとともに、耐火テープにおける長尺体側の貼付け部位を針金により外方側から長尺体に縛り付けている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−351305号公報
【特許文献2】特開2007−312599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前者の貫通孔防火措置構造の場合では、地震等の外力に起因して長尺体に長手方向への移動力が作用したとき、この長尺体の外側面に密着している耐火材も貫通孔の内周面に対して変形しながら引き摺り出され、貫通孔の内周面と長尺体の外側面との間の耐火閉塞機能が低下又は喪失する可能性があった。
【0007】
また、後者の貫通孔防火措置構造の場合でも、地震等の外力に起因して長尺体に長手方向への移動力が作用したとき、長尺体の外側面と耐火テープとの接合部位よりも接合力の弱い耐火テープと耐火テープとの接合部位で変形や剥離現象が発生し、耐火スリーブの内周面と長尺体の外側面との間の耐火閉塞機能が低下又は喪失する可能性があった。
【0008】
本発明は、上述の実状に鑑みて為されたものであって、その主たる課題は、地震等の外力に起因して長尺体に長手方向への移動力が作用しても、長尺体の外側面と貫通孔の内周面との間の隙間を閉塞する耐火材を施工当初の状態に極力維持して、所期の耐火閉塞機能を発揮することのできる貫通孔防火措置構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による第1の特徴構成は、耐火構造体側に属する貫通孔の内周面とこれに挿通された長尺体の外側面との間の隙間を粘着性の耐火材で閉塞してある貫通孔防火措置構造であって、
前記耐火材とこれに対応する長尺体の外側面との間に、前記耐火材に対する長尺体の長手方向での移動を許容する摺動案内層が形成されている点にある。
【0010】
上記構成によれば、地震等の外力に起因して長尺体に長手方向への移動力が作用したとき、耐火材と長尺体の外側面との間に形成されている摺動案内層により、この摺動案内層に対して長尺体が長手方向に摺動するため、長尺体の移動力が耐火材に作用することを抑制することができる。
【0011】
したがって、地震等の外力に起因して長尺体に長手方向への移動力が作用しても、耐火材と長尺体との相対移動によって耐火材の施工当初の閉塞状態を維持し易くなり、耐火材による所期の耐火閉塞機能を発揮させることができる。
【0012】
本発明による第2の特徴構成は、前記摺動案内層が耐火材と長尺体の外側面との間に密着又は略密着状態で形成されている点にある。
【0013】
上記構成によれば、地震等の外力に起因して長尺体に長手方向への移動力が作用しても、耐火材と長尺体との相対移動によって耐火材の施工当初の閉塞状態を維持するための摺動案内層を設けながらも、この摺動案内層が耐火材と長尺体の外側面との間に密着又は略密着状態で形成されているため、通常時においても、長尺体の外側面と貫通孔の内周面との間の隙間を良好に閉塞することができる。
【0014】
本発明による第3の特徴構成は、前記摺動案内層が、長尺体に外装可能な筒状体から構成されている点にある。
【0015】
上記構成によれば、摺動案内層を構成する筒状体によって長尺体の全周を覆うから、この摺動案内層が長尺体の周方向の一部に形成されている場合に比して、地震等の外力に起因して長尺体に長手方向の移動力が作用したとき、耐火材に対する長尺体の移動が円滑になり、耐火材を施工当初の閉塞状態により維持し易くなる。
【0016】
本発明による第4の特徴構成は、前記摺動案内層が、長尺体に外装可能な可撓性のシート状体から構成されている点にある。
【0017】
上記構成によれば、長尺体にシート状体を巻回装着するだけで摺動案内層を形成することができるから、施工現場での貫通孔の防火措置を能率良く経済的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態の貫通孔防火措置構造の施工状態を示す縦断面図
図2】第1実施形態の貫通孔防火措置構造の施工状態を示す横断面図
図3】第2実施形態の貫通孔防火措置構造の施工状態を示す縦断面図
図4】第2実施形態の貫通孔防火措置構造の施工状態を示す横断面図
図5】第3実施形態の貫通孔防火措置構造の施工状態を示す破断斜視図
図6】第3実施形態の貫通孔防火措置構造の施工状態を示す縦断面図
図7】第3実施形態の耐火テープの拡大断面図
図8】第3実施形態の貫通孔防火措置構造の施工工程図
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔第1実施形態〕
図1図2に示す貫通孔防火措置構造では、耐火構造体(防火区画体)の一例である鉄筋コンクリート壁1に直接貫通形成されている貫通孔1aに、1本又は複数本のケーブルや空調配管等のケーブル・配管類(長尺体の一例)3が挿通され、このケーブル・配管類3の外側面と貫通孔1aの内周面との間の環状の隙間には、柔軟性、粘着性を有する熱膨張性の耐火材Bを充填して、この耐火材Bでケーブル・配管類3の外側面と貫通孔1aの内周面との間の隙間を閉塞してある。
【0020】
耐火材Bは、ポリブタジエン、ポリブデン等のゴム成分を含む樹脂成分と熱膨張性黒鉛及び無機充填剤とを含有する耐熱性、熱膨張性、柔軟性、粘着性を備えたパテ状の熱膨張性組成物4から構成され、施工作業性の良好化を図りながらも、火災発生時には熱膨張し、軟化変形又は燃焼するケーブル・配管類3の外側面と貫通孔1aの内周面との間の隙間から火炎が流入することを防止するとともに、燃焼後の残渣が形崩れしないで閉塞状態を維持する。
【0021】
そして、パテ状の熱膨張性組成物4とこれに対応するケーブル・配管類3の外側面との間に、パテ状の熱膨張性組成物4に対するケーブル・配管類3の長手方向での移動を許容する摺動案内層Aが形成され、この摺動案内層Aはパテ状の熱膨張性組成物4とケーブル・配管類3の外側面との間に密着又は略密着状態で形成されている。
【0022】
摺動案内層Aは、各ケーブル・配管類3における貫通孔1a内に位置する部位に、少なくともケーブル・配管類3の外側面と接触する内側面が低摩擦係数の平滑面に形成してある樹脂製シートや樹脂製フイルム、紙等の可撓性の摺動案内シート状体5を筒状に密着状態で巻付けて接着剤やテープ等の止着手段で筒状体に保形することにより構成されている。
【0023】
各ケーブル・配管類3の貫通孔1aの挿通部位に摺動案内シート状体5を筒状に密着又は略密着状態で巻付けたのち、この筒状体に保形されている摺動案内シート状体5の外周面と貫通孔1aの内周面との環状の隙間にパテ状の熱膨張性組成物4を密着又は略密着状態で充填する。
【0024】
摺動案内シート状体5が環状に充填されたパテ状の熱膨張性組成物4の内周面側の粘着面全域に貼付けられているため、ケーブル・配管類3の外側面に対する粘着力(接着力)が摺動案内シート状体5に奪われて喪失している。
【0025】
しかも、この摺動案内シート状体5におけるケーブル・配管類3との接触面である内側面は低摩擦係数の平滑面に形成されているため、地震等の外力に起因してケーブル・配管類3に引抜き側又は押込み側への移動力が作用したとき、貫通孔1aの内周面と摺動案内シート状体5との間に位置するパテ状の熱膨張性組成物4の充填状態を施工当初の状態に維持又は略維持したまま、この摺動案内シート状体5に対してケーブル・配管類3のみが摺動案内されることになる。
【0026】
尚、上述の第1実施形態では、摺動案内シート状体5におけるケーブル・配管類3の挿通方向での装着長さを、貫通孔1aの貫通長さ又はパテ状の熱膨張性組成物4におけるケーブル・配管類3の挿通方向での充填長さと同一に構成したが、この摺動案内シート状体5の装着長さを、貫通孔1aの貫通長さ又はパテ状の熱膨張性組成物4の填長さよりも大又は小に構成してもよい。
【0027】
また、上述の第1実施形態では、摺動案内シート状体5をケーブル・配管類3に筒状に巻付けたが、この摺動案内シート状体5をケーブル・配管類3の外周面における周方向の一部に接触する状態で環状に充填されたパテ状の熱膨張性組成物4の内周面側の粘着面に貼付けてもよい。
【0028】
さらに、上述の第1実施形態では、摺動案内層aを可撓性の摺動案内シート状体5から構成したが、この摺動案内層Aを、ケーブル・配管類3に対して径方向外方から装着可能な複数の分割筒状部から構成される硬質の摺動案内筒状体から構成してもよい。
【0029】
摺動案内層Aとしては、パテ状の熱膨張性組成物4とこれに対応するケーブル・配管類3の外側面との間の摩擦力を、パテ状の熱膨張性組成物4と貫通孔1aとの間の摩擦力よりも小に構成して、パテ状の熱膨張性組成物4に対するケーブル・配管類3の長手方向での移動を許容するものであってもよい。
【0030】
〔第2実施形態〕
上述の第1実施形態では、摺動案内層Aを構成する摺動案内シート状体5を、貫通孔1aに挿通された複数本のケーブル・配管類3の各々に巻回装着したが、図3図4に示すように、貫通孔1aに挿通された複数本のケーブル・配管類3を一つに束ねた状態で摺動案内シート状体5を巻回装着してもよい。
【0031】
この場合も、摺動案内シート状体5を、一つに束ねられたケーブル・配管類3の輪郭形状に沿って筒状に巻付けたのち、この摺動案内シート状体5の外周面と貫通孔1aの内周面との環状の隙間にパテ状の熱膨張性組成物4を押込み充填することにより、摺動案内シート状体5を一つに束ねられているケーブル・配管類3の隣接間に形成されている略V状の谷部にまで入り込ませた状態で密着又は略密着させることになる。
【0032】
尚、その他の構成は、第1実施形態で説明した構成と同一であるから、同一の構成箇所には、第1実施形態と同一の番号を付記してそれの説明は省略する。
【0033】
また、この第2実施形態では、摺動案内層aを可撓性の摺動案内シート状体5から構成したが、この摺動案内層Aを、複数のケーブル・配管類3を一つに束ねたときの輪郭形状に対応する内面形状を備え、且つ、一つに束ねられたケーブル・配管類3に対して径方向外方から装着可能な複数の分割筒状部から構成される硬質の摺動案内筒状体から構成してもよい。
【0034】
〔第3実施形態〕
図5図8に示す貫通孔防火措置構造では、耐火構造体(防火区画体)の一例である鉄筋コンクリート壁1に貫通形成されている貫通孔1aに、ケーブル・配管類3を挿通するための貫通孔2を形成する鋼製電線管等の耐火スリーブSが、それの両端部が外方に突出する状態で貫設され、この耐火スリーブSの外周面と鉄筋コンクリート壁1の貫通孔1aの内周面との間には、モルタル等の耐火性の充填材Mが充填されている。
【0035】
また、耐火スリーブSの両端部には、図6図8に示すように、ケーブル・配管類3を保護するための合成樹脂製又は金属製のブッシング6が嵌合固定され、一方のブッシング6の外周面6aとこれが嵌合固定されている側の耐火スリーブSの端部から導出されるケーブル・配管類3の外側面とにわたって、粘着性の耐火材Bの一例で、自己粘着性のある熱膨張性耐火層7Aをテープ基材7Bの片面に形成してなる耐火テープ7が巻き付けられ、この耐火テープ7によって耐火スリーブSで形成される貫通孔2の内周面とケーブル・配管類3の外側面との間が閉塞されている。
【0036】
各ブッシング6は、耐火スリーブSの外周面の端部に外嵌される外嵌筒部6Aと、耐火スリーブSの内周面の端部に内嵌される内嵌筒部6B、及び、これら両者6A,6Bを耐火スリーブSの端面を迂回する状態で繋ぐ繋ぎ部6Cとからなり、内嵌筒部6Bが外嵌筒部6Aよりも長尺に構成されている。
【0037】
耐火テープ7は、図7に示すように、アルミニウム箔をテープ基材7Bとして、その片面に、ブチルゴムを主成分とする樹脂成分と熱膨張性黒鉛及び無機充填材とを含有する樹脂組成物からなる耐熱性、熱膨張性、柔軟性、粘着性を備えたパテ状の熱膨張性耐火層7Aを形成してある。
【0038】
耐火テープ7の熱膨張性耐火層7Aの表面をもって構成される粘着面7aは、耐火スリーブSの一端部側の外周面を構成するブッシング6の外嵌筒部6Aの外周面6aに貼付けられる第1貼付け領域W1と、ブッシング6の繋ぎ部6Cの外端面6bからケーブル・配管類3の外側面までの部位に貼付けられる第2貼付け領域W2、及び、ケーブル・配管類3の外側面に貼付けられる第3貼付け領域W3とからなる。
【0039】
そして、図7図8に示すように、耐火テープ7の熱膨張性耐火層7Aの第3貼付け領域W3とこれに対応するケーブル・配管類3の外側面との間には、パテ状の耐火テープ7に対するケーブル・配管類3の長手方向(引抜き側及び押込み側)での移動を許容する摺動案内層Aが形成され、この摺動案内層Aはパテ状の熱膨張性組成物4とケーブル・配管類3の外側面との間に密着又は略密着状態で形成されている。
【0040】
摺動案内層Aは、耐火テープ7の熱膨張性耐火層7Aの第3貼付け領域W3に、少なくともケーブル・配管類3の外側面と接触する内側面が低摩擦係数の平滑面に形成してある樹脂製シートや樹脂製フイルム、紙等の可撓性の摺動案内シート状体8を貼り付けることにより構成されている。
【0041】
摺動案内シート状体8が耐火テープ7の粘着面7aにおける第3貼付け領域W3の全域に貼付けられているため、ケーブル・配管類3の外側面に対する粘着力(接着力)が摺動案内シート状体8に奪われて喪失している。
【0042】
しかも、この摺動案内シート状体8におけるケーブル・配管類3との接触面である内側面は低摩擦係数の平滑面に形成されているため、地震等の外力に起因してケーブル・配管類3に長手方向(特に、引抜き側)の移動力が作用したとき、耐火スリーブS側のブッシング6の外周面と耐火テープ7との巻付け状態を施工当初の状態に維持又は略維持したまま、この耐火テープ7の熱膨張性耐火層7Aの第3貼付け領域W3に貼り付けられている摺動案内シート状体8に対してケーブル・配管類3のみが移動することになる。
【0043】
したがって、地震等の外力に起因してケーブル・配管類3に長手方向への移動力が作用しても、耐火テープ7とケーブル・配管類3との相対移動によって耐火テープ7の巻付け状態を施工当初の巻付け状態に維持し易くなり、耐火テープ7による所期の耐火閉塞機能を発揮させることができる。
【0044】
前記耐火テープ7のテープ基材7Bにおける第3貼付け領域W3に対応する部位には、当該耐火テープ7をケーブル・配管類3の外側面に縛り着ける緊締具の一例である針金又は被覆針金9が設けられている。
【0045】
この針金又は被覆針金9の縛り付けによる接合力は、耐火テープ7の粘着面7aと耐火スリーブSのブッシング6の外周面との接合力(接着力)よりも小に設定してあり、地震等の外力に起因してケーブル・配管類3に長手方向への移動力が作用したとき、耐火スリーブSの外周面側と耐火テープ7との施工当初の巻付け状態を維持又は略維持したまま、この耐火テープ7に対するケーブル・配管類3の移動を許容することになる。
【0046】
尚、この第3実施形態では、耐火スリーブSの端部に嵌合固定されて一体化されている付属部材の一例であるブッシング6と、それから導出されるケーブル・配管類3の外側面とにわたって耐火テープ7を巻き付けたが、ブッシング6等の付属部材が存在しない場合には、耐火スリーブSの外周面の端部とこれから導出されるケーブル・配管類3の外側面とにわたって耐火テープ7を巻き付けることになる。
【0047】
上述の第3実施形態では、耐火スリーブSの一方の端部に一体的に設けられているブッシング(付属部材)6とそれから導出されるケーブル・配管類3の外側面とにわたって耐火テープ7を巻回したが、耐火スリーブSの両端部のブッシング(付属部材)6とそれから導出されるケーブル・配管類3の外側面とにわたってそれぞれ耐火テープ7を巻回してもよい。
【0048】
上述の第3実施形態では、耐火テープ7の粘着面7aにおける第3貼付け領域W3の全域に摺動案内シート状体8を貼り付けて、ケーブル・配管類3の外側面に対する粘着力(接着力)を無くしたが、耐火テープ7の粘着面7aにおける第3貼付け領域W3の一部に摺動案内シート状体8を貼り付けて、地震等の外力に起因して配管類3に引抜き側への移動力が作用したとき、耐火スリーブSの外周面と耐火テープ7との施工当初の巻付け状態を維持又は略維持したまま、この耐火テープ7に対してケーブル・配管類3のみが移動し得る条件下において、ケーブル・配管類3の外側面に対する適度の接着力を有するように構成してもよい。
【0049】
この場合、耐火テープ7の粘着面7aにおける第3貼付け領域W3の一部の粘着力(接着力)と、針金又は被覆針金9の縛り付け力との和が接合力を構成することになるが、この総和の接合力は、耐火テープ7の粘着面7aと耐火スリーブSのブッシング6の外周面との接合力(接着力)よりも小に構成されている。
【0050】
上述の第3実施形態では、前記耐火テープ7のテープ基材7Bにおける第3貼付け領域W3に対応する部位に、当該耐火テープ7をケーブル・配管類3の外側面に縛り付ける緊締具の一例である針金又は被覆針金9を設けたが、金属製の鎖等を用いてもよい。
また、耐火テープ7をケーブル・配管類3の外側面に縛り付ける針金等の緊締具を省略した形態で実施してもよい。
【0051】
上述の第3実施形態では、耐火スリーブSの端部側の外周面とそれから導出されるケーブル・配管類3の外側面とにわたって耐火テープ7を巻き付けたが、耐火スリーブSの内周面の端部側とこれに対面するケーブル・配管類3の外側面との環状の隙間に粘着性、柔軟性を有するパテ状の耐火材を充填してもよい。
【0052】
〔その他の実施形態〕
(1)上述の実施形態では、鉄筋コンクリート壁1の貫通孔防火措置構造について説明したが、耐火構造体(防火区画体)としては、鉄筋コンクリート床又はALCパネル製(補強鉄筋を配置した軽量のコンクリートパネル)の壁又は床、或いは、石膏ボード製の中空壁等であってもよい。
【0053】
(2) 粘着性を備えた耐火材としては、従来から存在する種々の耐火組成物を使用することができる。
【0054】
(3)上述の実施形態では、摺動案内層Aをシート状体又は分割構造の硬質の摺動案内筒状体から構成したが、長尺体3の外側面と接触する耐火材Bの接触面に、硬化時に平滑面を形成する平滑剤を塗布して摺動案内層Aを構成してもよい。
【符号の説明】
【0055】
A 摺動案内層
B 耐火材
1 耐火構造体(鉄筋コンクリート壁)
1a 貫通孔
2 貫通孔
3 長尺体(ケーブル・配管類)
4 熱膨張性組成物(耐火材)
5 シート状体(摺動案内シート状体)
7 耐火テープ(耐火材)
8 シート状体(摺動案内シート状体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8