(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6490832
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】車両用機械式真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 18/344 20060101AFI20190318BHJP
F04C 25/02 20060101ALI20190318BHJP
F04C 29/02 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
F04C18/344 351U
F04C25/02 L
F04C18/344 321
F04C29/02 311M
【請求項の数】10
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-546979(P2017-546979)
(86)(22)【出願日】2015年3月25日
(65)【公表番号】特表2018-507980(P2018-507980A)
(43)【公表日】2018年3月22日
(86)【国際出願番号】EP2015056452
(87)【国際公開番号】WO2016150505
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2017年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】515069336
【氏名又は名称】ピアーブルグ パンプ テクノロジー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Pierburg Pump Technology GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】ペローニ,ジョルジオ
(72)【発明者】
【氏名】スクアルチーニ,ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】アルメニオ, ジャコモ
【審査官】
大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第02/030726(WO,A1)
【文献】
特開平7−127587(JP,A)
【文献】
特開昭64−29685(JP,A)
【文献】
国際公開第03/036094(WO,A2)
【文献】
特開2008−169792(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第0320795(EP,A2)
【文献】
国際公開第2014/102650(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/344
F04C 25/02
F04C 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ室(11)を取り囲み、ポンプロータ(16)を回転可能に支持するハウジング機構(9)を備え、前記ポンプロータ(16)が、軸受部(35)と中空部(36)とを有したロータ本体(22)を備える車両用機械式真空ポンプ(10)であって、
前記ロータ本体(22)は、
径方向に移動可能なポンプベーン(18)を支持するベーンスリット(19)を、前記中空部(36)に備えると共に、
前記ハウジング機構(9)の円筒状の軸受面(37)と共に摩擦軸受(38)を構成する円柱状の軸受面(39)を、前記軸受部(35)に備え、
前記ロータ本体(22)の前記軸受部(35)は、潤滑用環状溝(60)を備え、
前記ハウジング機構(9)の前記軸受面(37)には、前記潤滑用環状溝(60)が延在する横断平面上にあって前記潤滑用環状溝(60)に対向する潤滑用流入口(66)が設けられ、
前記潤滑用流入口(66)は、前記車両用機械式真空ポンプ(10)の前記ハウジング機構(9)に設けられた潤滑剤ポンプ接続部(70)に直接的に接続され、
前記潤滑用環状溝(60)は、前記潤滑用環状溝(60)と前記ベーンスリット(19)とを流体的に接続する連通路(62)により、前記ベーンスリット(19)に流体的に接続され、
前記連通路(62)は、前記ロータ本体(22)に設けられて前記ベーンスリット(19)に直接接続して形成された、軸線方向に沿う連通溝である
ことを特徴とする車両用機械式真空ポンプ。
【請求項2】
前記潤滑用環状溝(60)は、前記摩擦軸受(38)の前記ポンプ室(11)の側にある軸線方向一端に対し、前記摩擦軸受(38)の軸線方向他端よりも軸線方向で近接して位置することを特徴とする請求項1に記載の車両用機械式真空ポンプ。
【請求項3】
前記中空部(36)における前記ロータ本体(22)の径(dR)は、前記軸受部(35)における前記ロータ本体(22)の径(dB)と同一であり、前記ロータ本体(22)の外周面が、前記ロータ本体(22)の全長にわたり、段のない円柱を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用機械式真空ポンプ。
【請求項4】
前記ロータ本体(22)は、樹脂からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用機械式真空ポンプ。
【請求項5】
前記ポンプロータ(16)の軸線方向一端部が径方向で支持される一方、前記ポンプロータ(16)の軸線方向他端部が径方向で支持されないように、単一の前記摩擦軸受(38)が設けられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両用機械式真空ポンプ。
【請求項6】
前記ベーンスリット(19)は、前記ポンプベーン(18)の軸線方向一端面が、前記ハウジング機構(9)に軸線方向で直に接するように、軸線方向一端が軸線方向に開口することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両用機械式真空ポンプ。
【請求項7】
前記ベーンスリット(19)は、前記ポンプベーン(18)の前記軸線方向一端面が、前記ハウジング機構(9)のカバーリッド(14)に軸線方向で直に接するように、軸線方向一端が軸線方向に開口することを特徴とする請求項6に記載の車両用機械式真空ポンプ。
【請求項8】
前記ロータ本体(22)は、前記ハウジング機構(9)の軸線方向環状軸受面(41)によって、軸線方向で支持される軸線方向環状軸受面(42)を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両用機械式真空ポンプ。
【請求項9】
前記ベーンスリット(19)は、樹脂製の前記ロータ本体(22)に挿入された金属製の別体のスリット部材(20)によって形成されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の車両用機械式真空ポンプ。
【請求項10】
前記ロータ本体(22)の前記軸受部(35)は、前記ポンプロータ(16)を駆動手段に機械的に連結可能とする機械的連結機構(50)を備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の車両用機械式真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ室を取り囲み、ポンプロータを回転可能に支持するハウジング機構を有した車両用機械式真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用機械式真空ポンプは、車両のエンジンによって機械的に駆動される。車両用エンジンは、多くの場合、内燃機関である。
【0003】
特許文献1は、中空部と軸受部とを有するポンプロータを備えた車両用機械式真空ポンプを開示する。ロータ本体には、ポンプロータの軸線方向一端側に、ポンプハウジングの軸受面と共に摩擦軸受を構成する円柱状の軸受面が設けられる。ポンプの潤滑は、最初にロータ内部に注入される潤滑剤によって行われる。潤滑剤は、ポンプロータとベーンまたはポンプハウジングとの間の隙間を通り、ロータ内部からポンプ室内に押し出される。この潤滑剤は、加圧された空気と共に排気口から排気室内に圧送される。更に、潤滑剤は、排気室から、ポンプハウジングの円筒状の軸受面に形成された環状溝内に送給される。摩擦軸受における潤滑剤の圧力は、特に、ポンプの吐出空気圧に直接依存したものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0264749号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、車両用機械式真空ポンプの気密性について、特性及び信頼性の改善を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、請求項1に記載する特徴を有した車両用機械式真空ポンプによって達成される。
【0007】
請求項1によれば、車両用機械式真空ポンプは、ポンプ室を取り囲むハウジング機構を備える。ハウジング機構は、中心軸線方向において軸受部と中空部とに機能的に区分されるロータ本体を有したポンプロータを回転可能に支持する。ロータ本体は、径方向に移動可能なポンプベーンを支持するベーンスリットを中空部に備える。また、ロータ本体は、ハウジング機構の円筒状の軸受面と共に摩擦軸受を構成する円柱状の軸受面を軸受部に備える。ロータ本体の軸受部は、潤滑用環状溝を備える。ハウジング機構の軸受面には、潤滑用環状溝が延在する横断平面上にあって径方向で潤滑用環状溝に対向して配置された潤滑用流入口が設けられる。
【0008】
潤滑用環状溝に対向する潤滑用流入口は、車両用機械式真空ポンプのハウジング機構に設けられた潤滑剤ポンプ接続部に、流体的に直接的に接続される。潤滑剤ポンプ接続部は、車両用機械式真空ポンプの回転部分に設けられるものではなく、車両用機械式真空ポンプの非回転部分に設けられる。ここで、「流体的に直接的に接続される」とは、潤滑剤ポンプ接続部からの潤滑剤が、実質的に空気を伴わず、且つ潤滑剤ポンプから車両用機械式真空ポンプに伝わるままの流体圧力を実質的に有していることを意味する。空気を伴わない潤滑剤は、潤滑用流入口から潤滑用環状溝内に流入する。
【0009】
このような構成により、摩擦軸受における潤滑剤圧力が、潤滑剤ポンプによって車両用機械式真空ポンプのハウジング機構の潤滑剤流入口で得られる潤滑剤圧力に相当するものとなることが確実となる。これにより、摩擦軸受が、一定の比較的高い潤滑剤圧力で常に潤滑される状態が確実に得られる。摩擦軸受における潤滑剤は、比較的高い圧力を有するので、摩擦軸受における潤滑剤圧力が、ポンプ室内の空気圧力より低下するのを防止することができる。従って、加圧された空気が、ポンプ室から摩擦軸受の隙間に流入することはなく、ポンプ室の確実で良好な気密性を、車両用機械式真空ポンプのこの領域において実現することができる。
【0010】
潤滑用環状溝は、潤滑用環状溝とベーンスリットとを流体的に接続する連通路により、ベーンスリットに流体的に接続される。連通路は、ロータ本体の外面に設けられ
てベーンスリットに直接接続して形成された、軸線方向に沿う連通溝で実現される。連通路は、径方向に形成されたベーンスリットと、ポンプベーンとの間の隙間が、高い圧力の潤滑剤で満たされるよう、ロータ本体のベーン部のための潤滑剤の供給を行う。
【0011】
潤滑用環状溝は、摩擦軸受のポンプ室側にある軸線方向一端に対し、摩擦軸受の軸線方向他端よりも近接して位置するのが好ましい。潤滑用環状溝は、摩擦軸受の軸線方向一端から、摩擦軸受の3分の1の範囲内に位置することにより、ロータ本体の軸受部よりも中空部に近接して位置するのが好ましい。潤滑用環状溝を、中空部に近く配置するほど、摩擦軸受のこの領域における気密性についての特性が良好となる。
【0012】
本発明の好ましい態様によれば、中空部におけるロータ本体の径d
Rは、軸受部におけるロータ本体の径d
Bと同一であり、ロータ本体の外周面が、ロータ本体の実質的に全長にわたり、段のない円柱を形成する。円柱状のロータ本体は単純な構造となり、製造における費用効果も高い。摩擦軸受の径が比較的大きくなるので、摩擦軸受の機械的特性も比較的高いものとなる。
【0013】
ロータ本体は、樹脂からなり、射出成形により製造されるのが好ましい。樹脂製のロータ本体は比較的軽量となり、ロータの加減速の際に、金属製のロータ本体を用いる場合ほどはエネルギを消費しない。従って、車両用機械式真空ポンプの機械的連結機構は、より良好に摩耗や損傷を防止可能となる。
【0014】
ポンプロータの軸線方向一端部が径方向で支持される一方、ポンプロータの軸線方向他端部は軸受による径方向での支持がなされないように、単一の摩擦軸受が設けられるのが好ましい。ポンプロータには、片持ち式の軸受構造が設けられる。単一の軸受のみが設けられるので、真空ポンプの構造が単純化され、製造における費用効果が一層高まる。
【0015】
ベーンスリットは、ベーンの軸線方向一端面が、ハウジング機構、好ましくはハウジングのカバーリッドに軸線方向で直に接するように、軸線方向一端が軸線方向に開口する。
【0016】
本発明のもう1つの好ましい態様によれば、ロータ本体は、ハウジング機構の軸線方向環状軸受面によって、軸線方向で支持される軸線方向環状軸受面を備える。これら2つの軸線方向環状軸受面は、ロータ本体の中空部の側とは反対側となる軸線方向一端部に位置する軸線方向摩擦軸受を構成する。環状の軸線方向摩擦軸受より径方向内側となる部分には、ロータ本体の軸線方向一端部に設けられた機械的連結機構を、駆動手段の対応する連結機構に接続できるようにするため、ハウジング機構の壁が設けられていない。車両用機械式真空ポンプを車両用のエンジンに組み付けた場合、エンジンの連結機構がポンプ側の機械的連結機構を介してポンプロータを駆動する。
【0017】
ベーンスリットは、樹脂製のロータ本体に挿入されて固定された金属製の別体のスリット部材によって形成される。樹脂製のロータ本体により、比較的軽量のポンプロータとすることが可能となる一方、金属製のスリット部材により、変位するベーンに対し、耐久性を有した永続的な支持構造を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】車両用機械式真空ポンプの中心軸線方向に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る車両用機械式真空ポンプの一実施形態を、添付の図面に基づき説明する。
【0020】
図1は、例えばエアブレーキ用サーボ機構に負圧を供給するために、100mbar(10kPa)以下の全圧を得る車両用の機械式真空ポンプ10を示している。機械式真空ポンプ10は、車両用エンジン、例えば内燃機関によって機械的に駆動される。
【0021】
機械式真空ポンプ10は、静止したハウジング機構9を備え、ハウジング機構9は、回転可能なポンプロータ16を支持すると共に、実質的に収容している。ハウジング機構9は、ポンプロータ16を径方向において取り囲む複合体のハウジング本体12と、ハウジング機構9の軸線方向一端部を閉塞する別体のカバーリッド14とを備える。
【0022】
ポンプロータ16は、樹脂製のロータ本体22を備え、このロータ本体22は、実質的に円柱状をなしており、ロータ本体22の全長にわたり、段のない外周面を有している。このため、中空部36におけるロータ本体22の外径d
Rは、軸受部35におけるロータ本体22の外径d
Bと同一となっている。
【0023】
ロータ本体22は、中心軸線に沿って、2つの機能的部位、即ち軸受部35及び中空部36に区分される。中空部36において、ロータ本体22には、径方向に移動可能なポンプベーン18を支持するベーンスリット19が設けられ、ポンプベーン18は、ハウジング本体12が形成するポンプ室11内で、ロータ本体22と共に一体的に回転する。本実施形態において、ベーンスリット19は、別部材として樹脂製のロータ本体22に固定された金属製のスリット部材20によって形成される。
【0024】
ロータ本体22の軸受部35には、径方向で支持を行う摩擦軸受38を、ハウジング本体12の円筒状の軸受面37と共に構成する円柱状の軸受面39が設けられる。ロータ本体22は、ポンプロータ16の軸線方向一端部のみが摩擦軸受38によって支持され、ポンプロータ16の軸線方向他端部には径方向で支持する軸受を設けないようにして、片持ち状態で支持される。
【0025】
軸受側のロータ本体22の端面には、軸線方向環状軸受面42が設けられ、これに対応してハウジング本体12により形成される軸線方向環状軸受面41によって、軸線方向環状軸受面42が軸線方向で支持されるようになっている。これら軸線方向環状軸受面42及び軸線方向環状軸受面41は、共に中心軸線方向で支持を行う環状の軸線方向摩擦軸受を構成する。軸受側のロータ本体22の端面の中央部分には、ポンプ駆動手段の連結機構に連結するための機械的連結機構50が設けられる。これとは反対側のロータ本体22の端面は、カバーリッド14によって軸線方向で支持されるようになっている。
【0026】
ロータ本体22は、軸受部35に潤滑用環状溝60が設けられる。この潤滑用環状溝60は、軸線方向でロータ本体22の中空部36に近接して配置され、本実施形態の場合、中空部36に近接する側の摩擦軸受38の4分の1の領域に配置されている。ロータ本体22の外周面には、軸線方向に沿って延在する連通路62が設けられ、金属製のスリット部材20には、これに続けて軸線方向に沿って延在する連通路64が設けられており、潤滑用環状溝60とベーンスリット19との間に、これら2つの連通路62,64を介して流体的な接続が得られるようになっている。
【0027】
ハウジング本体12側の軸受面37には、潤滑用環状溝60に径方向で対向することにより、潤滑用環状溝60が延在する横断平面上に位置する潤滑用流入口66が設けられている。この潤滑用流入口66は、ハウジング本体12内に形成された潤滑剤通路68を介し、ハウジング本体12の潤滑剤ポンプ接続部70に流体的に直接的に接続されている。機械式真空ポンプ10を車両用エンジンに搭載する場合、潤滑剤ポンプ接続部70は、潤滑剤導管72を介して潤滑剤ポンプ74に流体的に接続される。潤滑剤ポンプ74は、潤滑剤タンク76から、機械式真空ポンプ10の潤滑剤ポンプ接続部70に液体の潤滑剤を送給する。
【0028】
潤滑剤ポンプ74がポンプ作動すると、潤滑剤が潤滑剤ポンプ接続部70に送給され、潤滑剤通路68及び潤滑用流入口66を介し、直ちに潤滑用環状溝60に供給される。これにより、潤滑剤は、摩擦軸受38の2つの軸受面37,39の間の円筒状の隙間に充填された後、ポンプ室11内に流入する。この潤滑剤の一部は、連通路62及び連通路64を介してベーンスリット19に流入することにより、ポンプベーン18とベーンスリット19との間の潤滑を行う。