特許第6490869号(P6490869)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6490869心筋組織再生用3次元構造体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6490869
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】心筋組織再生用3次元構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20190318BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20190318BHJP
   C07K 14/475 20060101ALI20190318BHJP
   C12N 9/48 20060101ALI20190318BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20190318BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20190318BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20190318BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20190318BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20190318BHJP
   A61L 27/26 20060101ALI20190318BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20190318BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20190318BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20190318BHJP
   B32B 9/02 20060101ALI20190318BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20190318BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20190318BHJP
   A61K 38/18 20060101ALN20190318BHJP
【FI】
   C12N5/071
   C12N5/0775
   C07K14/475
   C12N9/48
   A61L27/36 400
   A61L27/36 130
   A61L27/36 320
   A61L27/38 120
   A61L27/38 200
   A61L27/40
   A61L27/22
   A61L27/54
   A61L27/26
   A61L27/50
   A61L27/52
   A61P9/00
   B32B9/02
   B32B5/26
   !A61P43/00 107
   !A61K38/18
   !A61P43/00 121
【請求項の数】23
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-501841(P2018-501841)
(86)(22)【出願日】2016年3月25日
(65)【公表番号】特表2018-515129(P2018-515129A)
(43)【公表日】2018年6月14日
(86)【国際出願番号】KR2016003079
(87)【国際公開番号】WO2016153320
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2017年10月5日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0042418
(32)【優先日】2015年3月26日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517336290
【氏名又は名称】ティーアンドアール バイオファブ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】T & R BIOFAB CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ドンウ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ジナ
(72)【発明者】
【氏名】パク,フンジュン
【審査官】 飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/017579(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/192290(WO,A1)
【文献】 PATI, Falguni et al.,NATURE COMMUNICATIONS,2014年,vol. 5, article. 3935
【文献】 Transplantation,2010年,vol. 89, no. 6,p. 686-693
【文献】 Biomaterials,2017年,vol. 112,p. 264-274
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)脱細胞化された細胞外基質を含む組織工学用構造体形成溶液、および心臓前駆細胞を含む第1バイオプリンティング用組成物と、前記組織工学用構造体形成溶液、間葉幹細胞および血管内皮成長因子を含む第2バイオプリンティング用組成物を交互に一方向で一つの層に印刷して第1バイオプリント層および第2バイオプリント層を製造し、それらを交互に積層して配置して3次元構造体を形成する段階;および
(b)前記3次元構造体を熱的ゲル化してゲル化3次元構造体を得る段階を含み、
前記(a)段階は、熱的ゲル化が起こらない温度で行い、
前記(b)段階で熱的ゲル化を起こす温度で行う、
心筋組織再生用3次元構造体の製造方法。
【請求項2】
前記脱細胞化された細胞外基質は、心臓組織から由来した請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1バイオプリンティング用組成物および前記第2バイオプリンティング用組成物中の脱細胞化された細胞外基質は、独立してそれぞれの総重量に対して、1ないし4重量%の含有量で存在する請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記心臓前駆細胞は、第1バイオプリンティング用組成物中、10ないし10cells/mlの範囲で存在する請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記間葉幹細胞は、第2バイオプリンティング用組成物中、10ないし10cells/mlの範囲で存在する請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記血管内皮成長因子は、第2バイオプリンティング用組成物中、50ないし1000ng/mlの範囲で存在する請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記組織工学用構造体形成溶液は、pH6.5ないし7.5の範囲を有し、酸および蛋白質分解酵素をさらに含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記組織工学用構造体形成溶液は、
バイオプリンティング組成物の総重量に対して、
酸0.03ないし30重量%;および蛋白質分解酵素0.1ないし0.4重量%;
を含む請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記組織工学用構造体形成溶液は、
酢酸および塩酸からなる群から選択された1種以上の酸;
ペブシンおよびマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)からなる群から選択された1種以上の蛋白質分解酵素;および
pH調節剤;をさらに含む請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物は、独立して、
血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cells)、血管内皮細胞(endothelial cells)および心筋細胞(cardiomyocytes)からなる細胞群より選択された1種以上の細胞;および
線維芽細胞成長因子(fibroblast growth factor、FGF)、血小板由来成長因子(platelet−derived growth factor、PDGF)、アンジオポエチン−1(angiopoietin−1)、形質転換成長因子−ベータ(transforming growth factor beta、TGF−β)、エリスロポエチン(erythropoietin、EPO)、幹細胞因子(stem cell factor、SCF)、表皮成長因子(epidermal growth factor、EGF)およびコロニー刺激因子(colony stimulating factor、CSF)からなる成長因子群より選択された1種以上の成長因子;
をさらに含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物は、独立して、
基質金属蛋白分解酵素(matrix metalloproteinase、MMP)および基質金属蛋白分解阻害酵素(tissue inhibitor matrix metalloproteinase、TIMP)からなる酵素群より選択された1種以上の酵素をさらに含む請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物は、独立して、15℃で測定されたせん断率(shear rate)1 s−1での粘度が1ないし30Pa・Sの範囲である請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
前記第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物は、独立して、架橋剤をさらに含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項14】
前記架橋剤は、第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物に独立してそれぞれの組成物の総重量に対して、0.001ないし0.1重量%の含有量で含まれる請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記製造方法は、架橋化反応をさらに含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項16】
前記架橋化は、15℃以下で1ないし10分間行われることを特徴とする請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記熱的ゲル化は、25℃ないし37℃で行う請求項1に記載の製造方法。
【請求項18】
前記心筋組織再生用3次元構造体は、50ないし1000μmの厚さを有する請求項1に記載の製造方法。
【請求項19】
第1バイオプリンティング用組成物と、第2バイオプリンティング用組成物を印刷して製造される第1バイオプリント層および第2バイオプリント層を熱的ゲル化して形成された心筋組織再生用3次元構造体であって、
前記第1バイオプリンティング用組成物は、脱細胞化された細胞外基質を含む組織工学用構造体形成溶液および心臓前駆細胞を含み、
前記第2バイオプリンティング用組成物は、前記組織工学用構造体形成溶液、間葉幹細胞および血管内皮成長因子を含み、
前記第1バイオプリント層および第2バイオプリント層は、独立して、第1バイオプリンティング用組成物と第2バイオプリンティング用組成物を交互に一方向で一つの層に印刷して製造される、心筋組織再生用3次元構造体。
【請求項20】
前記第1バイオプリント層および第2バイオプリント層を形成するために印刷されたバイオプリンティング用組成物は繊維、テープ、または織物形態である請求項19に記載の心筋組織再生用3次元構造体。
【請求項21】
前記第1バイオプリント層および第2バイオプリント層が、それぞれ一方向繊維形態であり、前記第1バイオプリント層および第2バイオプリント層が互いに一定の交差角を有するように積層される請求項19に記載の心筋組織再生用3次元構造体。
【請求項22】
前記心筋組織再生用3次元構造体は、50ないし1000μmの厚さを有する請求項19に記載の心筋組織再生用3次元構造体。
【請求項23】
前記心筋組織再生用3次元構造体は、1rad/sでのモデュラスが1ないし100kPaである請求項19に記載の心筋組織再生用3次元構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心筋組織再生用3次元構造体およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、脱細胞化された細胞外基質および架橋剤を含む組織工学用構造体形成溶液および心臓前駆細胞を含む第1バイオプリンティング用組成物と、前記組織工学用構造体形成溶液、間葉系幹細胞および血管内皮成長因子を含む第2バイオプリンティング用組成物で印刷および架橋化して第1バイオプリント層および第2バイオプリント層を交互に配置して3次元構造体を形成する段階;および前記架橋された3次元構造体を熱ゲル化して架橋−ゲル化3次元構造体を得る段階;を含む心筋組織再生用3次元構造体の製造方法および心筋組織再生用3次元構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元プリンティングは複雑な形状を有する組織(tissue)や臓器(organ)の医療データから得られた任意形状情報をG−codeに変換した後、積層工程(layer−by−layer process)により複雑な骨格構造を構築することをいう。このような3次元プリンティングはまた「3次元バイオプリンティング(three−dimensional bioprinting、3D bioprinting)」ともいう。例えば、「多軸組織臓器プリンティングシステム」は、代表的な3次元プリンティング技術の一つとして、材料を空圧で噴射する空圧式シリンジ2つとステップモータ(step motor)を用いてナノリットル単位で精密に噴射するピストン式シリンジの2つからなっており、多様な材料を同時に利用することができる。
【0003】
通常、PLA(Polylactic Acid)、PGA(Poly−glycolic Acid)、PLGA(Poly−lactic−co−glycolid Acid)、PCL(Polycaprolactone)、あるいはこれらの混合物のような熱可塑性生体適合性高分子を空圧式シリンジに装着して構造体を製作する。また、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン、アルジネート、ケト酸またはフィブリン(fibrin)等からなるヒドロゲルをピストン式シリンジを利用して3次元構造体を製作する。
【0004】
バイオプリンティングは、細胞−含有媒体の分配を必要としているため、バイオプリンティングの重要な側面は、プリンティング工程が細胞適合性(cytocompatible)でなければならない。このような制限は、水性または水性ゲル環境で行わなければならない必要性があるため、材料の選択を減少させる。したがって、ゼラチン、ゼラチン/ケト酸、ゼラチン/アルジネート、ゼラチン/フィブロネクチン、ルトロール F127(Lutrol F127)/アルジネート、およびアルジネートなどの材料を用いたヒドロゲルが肝から骨に至るまで多様な組織を製造するためのバイオプリンティングに使用されている。バイオプリンティングに使用される前記ヒドロゲルまたはヒドロゲルと細胞の混合物などは「バイオインク(bioink)」ともいう。
【0005】
一般に、細胞は全体培養期間の間、元の置かれた位置に特異的に継続して位置しており、これは細胞が周囲のアルジネートゲルマトリックスを維持したり分解できないからである(Fedorovich, N. E. et al. Tissue Eng.13,1905−1925(2007))。したがって、細胞−プリント構造体のバイオプリンティングに関するいくつかの成功報告があったとしても、最小限の細胞−材料相互作用(cell−material interactions)および劣等な(inferior)組織形成は最も重要な問題である。実際に、これら材料は天然の細胞外基質(extracellular matrices、ECMs)の複雑性を現わすことができず、そのために生体組織の典型的な細胞−細胞連結(cell−cell connections)および3次元(three−dimensional、3D)細胞構成を有する微細環境を再現するには十分でない。
【0006】
したがって、前記ヒドロゲル中の細胞は、生体内で生きている組織の固有の形態および機能を表せない。したがって、細胞の母組織(parent tissue)と類似の天然の微細環境を細胞に提供できるなら理想的であろう。脱細胞化された細胞外基質(decellularized extracellular matrix、dECM)は、このようにするための最善の選択であり、これはいかなる天然のあるいは人工材料も天然の細胞外基質の特性のすべてを再現することができないからである。
【0007】
さらに、各組織のECMは組成(composition)および局所解剖学(topology)の観点から独特であり、前記組成および解剖学特性は、常駐する細胞(resident cells)と微細環境の間の力動的で、かつ相互的な相互作用により生成される。組織および臓器から分離された細胞とECMの最近研究では、選択された細胞機能および表現型(phenotype)を保存するために組織特異性(tissue specificity)の必要性を強調している(Sellaro, T. L. et al. Tissue Eng. Part A 16, 1075−1082(2010); Petersen, T. H. et al. Science 329, 538−541(2010); Uygun, B. E. et al. Nat. Med. 16, 814−821(2010); Ott, H. C. et al. Nat. Med. 16, 927−933(2010); Flynn, L. E. Biomaterials 31, 4715−4724(2010))。
【0008】
得られたdECM材料は、典型的に皮膚、小腸粘膜下組織(small intestinal submucosa)を含む多様な組織から2次元(two−dimensional、2D)スキャフォールドとして加工され、初期段階で浸透性またはシーディングされた細胞は支持性血管ネットワーク(supporting vascular network)ができる時まで生存のために酸素および栄養素の拡散に依存する。
【0009】
しかし、プリンティングされた組織類似体構造は、栄養素の流れを許容するように開放された多孔性3D構造を考案する製造方法を必要とする。本発明者らは、3D構造組織の成長に適した最適化された微細環境を提供できるdECMバイオインクを用いた細胞−担持(cell−laden)構造のプリンティングのための3次元プリンティング方法を開発したことがあり、前記細胞−担持構造は固有の細胞形態および機能を再現することができる(Falguni Pati, et al., Nat Commun.5, 3935 (2014))。
【0010】
一方、虚血性心疾患は、全世界的に非常に高い有病率を示しており、単一疾患全体の死亡原因中に1位を占めている。韓国も社会経済的な発電と西欧化された生活習慣によって虚血性心疾患患者が急増している。さらに重症の末期心不全患者の場合、心臓移植術や機械的左心室補助装置以外には完治法がないのが実情である。しかし、供与臓器の不足、臓器確保の困難、高い死亡率および高価の治療備用などの問題点を有している。
【0011】
幹細胞の多分化能(multipotency)を用いた治療法は、損傷された組織再生を根本的に治療できるものとして期待されている。最近は成体幹細胞を血管内皮細胞およびその他間質細胞と配合したり多様なハイドローゼルと混合して注入することによって、心筋細胞への分化を促進し、細胞が病変から離脱する現象を防止し、心臓疾患治療の効率を高める研究が多様に進められている。また、幹細胞または幹細胞と多様な成体細胞を利用して細胞シート(cell sheets)を製作することによって、幹細胞の生体環境を模写して細胞間の相互作用を極大化する研究も活発に進められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の一例は、脱細胞化された細胞外基質および架橋剤を含む組織工学用構造体形成溶液、および心臓前駆細胞を含む第1バイオプリンティング用組成物と、前記組織工学用構造体形成溶液、間葉系幹細胞および血管内皮成長因子を含む第2バイオプリンティング用組成物を印刷および架橋化して第1バイオプリント層および第2バイオプリント層を交互に配置して3次元構造体を形成する段階;および前記架橋された3次元構造体を熱ゲル化して架橋−ゲル化3次元構造体を得る段階を含む心筋組織再生用3次元構造体の製造方法に関する。
【0013】
本発明のまた他の一例は、第1バイオプリンティング用組成物と、第2バイオプリンティング用組成物を印刷して製造される第1バイオプリント層および第2バイオプリント層を架橋化し、熱ゲル化して形成された心筋組織再生用3次元構造体に関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、心筋組織の微細環境(microenvironment)が実現された3次元構造体の製造方法を開発するために多様な研究を行った。これに、本発明者らは、脱細胞化された細胞外基質および心臓前駆細胞(cardiac progenitor cells)を含むバイオプリンティング用組成物と脱細胞化された細胞外基質、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells)、および血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor、VEGF)を含むバイオプリンティング用組成物を交互に用いた積層工程による3次元プリンティングを行った時、心筋組織の微細環境を効果的に実現できることを発見した。特に、このような3次元プリンティング方法は、心臓前駆細胞を構造体内に均等に位置させるだけでなく、構造体内に血管細胞からなる血管ネットワークを実現することによって、細胞の生存能を長期間維持させることができるため、心筋内部への細胞伝達効率を顕著に向上させることができることを発見した。
【0015】
これに、本発明の一例としては、
(a)脱細胞化された細胞外基質および架橋剤を含む組織工学用構造体形成溶液および心臓前駆細胞を含む第1バイオプリンティング用組成物と、前記組織工学用構造体形成溶液、間葉系幹細胞および血管内皮成長因子を含む第2バイオプリンティング用組成物で印刷および架橋化して第1バイオプリント層および第2バイオプリント層を交互に配置して3次元構造体を形成する段階;および
(b)前記架橋された3次元構造体を熱ゲル化して架橋−ゲル化3次元構造体を得る段階;
を含む心筋組織再生用3次元構造体の製造方法に関する。
【0016】
前記のように脱細胞化された細胞外基質および心臓前駆細胞を含む第1バイオプリンティング用組成物と;脱細胞化された細胞外基質、間葉系幹細胞および血管内皮成長因子を含む第2バイオプリンティング用組成物を交互に用いるプリンティングによる積層工程を行って製造される3次元構造体は、心臓前駆細胞が構造体内に均等に位置しているだけでなく、構造体内に血管細胞からなる血管ネットワークを実現することによって、心筋組織の微細環境を効果的に実現することができ、細胞の生存能を長期間維持させることができるので、心筋内部への細胞伝達効率を顕著に向上させることができる効果がある。
【0017】
前記脱細胞化された細胞外基質(decellularized extracellular matrix)は、心臓組織から由来したものであり得る。具体的には、体外に排出された心臓組織を脱細胞化することによって得られえ、人間、豚、牛、ウサギ、犬、ヤギ、羊、鶏、馬などの哺乳動物から排出された組織を脱細胞化することによって得られえ、好ましくは豚から得られた組織、さらに好ましくは豚から得られた心臓組織を脱細胞化することによって得られるが、これに限定されるものではない。
【0018】
前記脱細胞化は、公知の方法、例えば、Ott, H. C. et al. Nat. Med. 14, 213−221(2008), Yang, Z. et al. Tissue Eng. Part C Methods 16, 865−876(2010)等に開示された方法を用いるか、あるいは若干変形して行い得る。好ましくは、本発明者らが報告した脱細胞化方法、つまり、Falguni Pati, et al., Nat Commun.5, 3935 (2014)に開示された脱細胞化方法を用いて行うことができる。前記脱細胞化された細胞外基質は、通常凍結乾燥された粉末形態で保管され得る。
【0019】
前記脱細胞化された細胞外基質の使用量は、特に制限されないが、例えば、組成物の総重量に対して1ないし4重量%、1ないし3重量%、2ないし4重量%、好ましくは2ないし3重量%の含有量で用いられ得る。例えば、第1バイオプリンティング用組成物中の前記脱細胞化された細胞外基質は、第1バイオプリンティング用組成物の総重量に対して、1ないし4重量%の含有量で存在し得;第2バイオプリンティング用組成物中の前記脱細胞化された細胞外基質は、第2バイオプリンティング用組成物の総重量に対して、1ないし4重量%の含有量で存在し得る。前記範囲から外れて含有量が少ない場合は、材料が積層されない問題点が発生し、含有量が高い場合は、内部に封入された細胞が死滅する問題点が発生する。
【0020】
前記心臓前駆細胞および血管内皮細胞は、人を含む動物から由来した細胞であって商業的に購入することが可能であり、公知の方法によって培養、増殖させることができる。
【0021】
前記心臓前駆細胞は、第1バイオプリンティング用組成物中、10ないし10cells/ml、10ないし10cells/ml、10ないし5X10cells/ml、好ましくは10ないし5X10cells/mlの範囲で存在し得る。前記範囲から外れて含有量が少ない場合は、効能が低い問題点が発生し、含有量が高い場合は、細胞を囲んでいるバイオインク−脱細胞化された細胞外基質を架橋させても脱細胞化された細胞外基質が架橋されず、3次元形状を維持させることができない問題点が発生する。
【0022】
前記間葉系幹細胞は、第2バイオプリンティング用組成物中、10ないし10cells/ml、10ないし10cells/ml、10ないし5X10cells/ml、好ましくは10ないし5X10cells/mlの範囲で存在し得る。前記範囲から外れて含有量が少ない場合は、効能が低い問題点が発生し、含有量が高い場合は、細胞を囲んでいるバイオインク−脱細胞化された細胞外基質を架橋させても脱細胞化された細胞外基質が架橋されず、3次元形状を維持させることができない問題点が発生する。
【0023】
また、前記血管内皮成長因子は、第2バイオプリンティング用組成物中、50ないし1000ng/ml、50ないし900ng/ml、50ないし800ng/ml、50ないし700ng/ml、50ないし600ng/ml、50ないし500ng/ml、50ないし400ng/ml、50ないし300ng/ml、50ないし200ng/ml、100ないし1000ng/ml、100ないし900ng/ml、100ないし800ng/ml、100ないし700ng/ml、100ないし600ng/ml、100ないし500ng/ml、100ないし400ng/ml、100ないし300ng/ml、好ましくは100ないし200ng/mlの範囲で存在し得る。前記範囲から外れて含有量が少ない場合は、効能が低い問題点が発生し、含有量が高い場合は、過度な血管形成による問題点が発生する。
【0024】
第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物は、効率的な3次元プリンティングのため、pH6.5ないし7.5の範囲を有する粘弾性の均一な溶液の形態を有することが好ましい。
【0025】
したがって、前記組織工学用構造体形成溶液は、酸;蛋白質分解酵素;およびpH調節剤をさらに含み得る。前記酸、蛋白質分解酵素、およびpH調節剤は、水性媒質中に含まれたものであり得るが、これに限定されるものではない。
【0026】
また、前記酸は、酢酸および塩酸からなる群より選択された1種以上の酸であり得るが、これに限定されるものではない。前記酸は、脱細胞化された細胞外基質を溶解する機能を遂行し、好ましくは酢酸、塩酸などが用いられ得、さらに好ましくは、0.01ないし10M、0.01ないし9M、0.01ないし8M、0.01ないし7M、0.01ないし6M、0.01ないし5M、0.01ないし4M、0.01ないし3M、0.01ないし2M、0.01ないし1M、0.1ないし10M、0.1ないし9M、0.1ないし8M、0.1ないし7M、0.1ないし6M、0.1ないし5M、0.1ないし4M、0.1ないし3M、0.1ないし2M、0.1ないし1M酢酸水溶液、例えば、約0.5Mの酢酸水溶液、または0.01ないし10M、0.01ないし9M、0.01ないし8M、0.01ないし7M、0.01ないし6M、0.01ないし5M、0.01ないし4M、0.01ないし3M、0.01ないし2M、0.01ないし1M、0.01ないし0.1Mの塩酸水溶液、例えば、約0.01Mの塩酸水溶液の形態で用いることができる。
【0027】
前記蛋白質分解酵素は、脱細胞化された細胞外基質のテロペプタイト(telopeptide)の消化(digestion)機能を遂行し、ペブシンおよびマトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase)からなる群から選択された1種以上であり得るが、これに限定されるものではない。前記蛋白質分解酵素の使用量は、脱細胞化された細胞外基質の含有量に応じて相異するが、例えば、脱細胞化された細胞外基質100mgに対して5ないし30mg、5ないし25mg、10ないし30mg、好ましくは10ないし25mgの比率で用いられ得る。
【0028】
前記pH調節剤は、脱細胞化された細胞外基質の溶解のために使用された酸を中和させて組成物のpHをpH6.5ないし7.5、pH6.6ないし7.4、pH6.7ないし7.3、pH6.8ないし7.2、pH6.9ないし7.1、好ましくはpH7の範囲で調節するためのものであり、例えば、水酸化ナトリウムであり得るが、これに限定されるものではない。
【0029】
一実施例において、第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物は、独立して、それぞれの組成物の総重量に対して、酢酸および塩酸からなる群から選択された1種以上の酸0.03ないし30重量%;ペブシンおよびマトリックスメタロプロテアーゼからなる群から選択された1種以上の蛋白質分解酵素0.1ないし0.4重量%;およびpH調節剤をさらに含み得る。
【0030】
第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物は、それぞれ独立して、細胞、成長因子および酵素からなる群より選択された1種以上をさらに含み得る。
【0031】
前記細胞は、血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cells)、血管内皮細胞(endothelial cells)および心筋細胞(cardiomyocytes)からなる群より選択された1種以上であり得る。
【0032】
前記成長因子は、線維芽細胞成長因子(fibroblast growth factor、FGF)、血小板由来成長因子(platelet−derived growth factor、PDGF)、アンジオポエチン−1(angiopoietin−1)、形質転換成長因子−ベータ(transforming growth factor beta、TGF−β)、エリスロポエチン(erythropoietin、EPO)、幹細胞因子(stem cell factor、SCF)、表皮成長因子(epidermal growth factor、EGF)およびコロニー刺激因子(colony stimulating factor、CSF)からなる群より選択された1種以上であり得る。
【0033】
前記酵素は、基質金属蛋白分解酵素(matrix metalloproteinase、MMP)および基質金属蛋白分解阻害酵素(tissue inhibitor of matrix metalloproteinase、TIMP)からなる群より選択された1種以上であり得る。
【0034】
一例で、前記第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物はそれぞれ独立して、
血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cells)、血管内皮細胞(endothelial cells)および心筋細胞(cardiomyocytes)からなる細胞群より選択された1種以上の細胞;および
線維芽細胞成長因子(fibroblast growth factor、FGF)、血小板由来成長因子(platelet−derived growth factor、PDGF)、アンジオポエチン−1(angiopoietin−1)、形質転換成長因子−ベータ(transforming growth factor beta、TGF−β)、エリスロポエチン(erythropoietin、EPO)、幹細胞因子(stem cell factor、SCF)、表皮成長因子(epidermal growth factor、EGF)およびコロニー刺激因子(colony stimulating factor、CSF)からなる成長因子群より選択された1種以上の成長因子;
をさらに含み得る。
【0035】
また、前記1種以上の細胞および1種以上の成長因子をさらに含む第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物は、それぞれ独立して、
基質金属蛋白分解酵素(matrix metalloproteinase、MMP)および基質金属蛋白分解阻害酵素(tissue inhibitor matrix metalloproteinase、TIMP)からなる酵素群より選択された1種以上の酵素をさらに含み得る。
【0036】
前記成長因子は、血管成長補充物(endothelial cell growth supplement、ECGS)の形態で含まれるものであり得るが、これに限定されるものではない。
【0037】
第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物は、せん断率が増加するほど粘度が低くなる粘弾性物質であることが好ましく、例えば、約15℃で測定される時、せん断率(shear rate)1 s−1での粘度が1ないし30Pa・Sの範囲であるのが好ましい。前記粘度は、水性媒質(例えば、水、蒸溜水、PBS、生理食塩水など)の量を適切に調節することによって調節され得る。
【0038】
前記第1バイオプリンティング用組成物と第2バイオプリンティング用組成物を交互に用いるプリンティングは、公知の3次元プリンティング方法(例えば、「多軸組織臓器プリンティングシステム」を用いたプリンティング方法)を用い、Falguni Pati, et al., Nat Commun.5, 3935 (2014)等に開示された方法により行うことができ、例えば、多軸組織臓器プリンティングシステムの2個のシリンジを用いて前記プリンティングを行い得る。
【0039】
つまり、ポリカプロラクトンフレームワーク(polycaprolactone(PCL)framework)をシリンジにロードし、約80℃で加熱して重合体を溶融させる。前記プレゲル形態の3次元プリンティング用組成物を他のシリンジにロードし、温度を約15℃以下、好ましくは約4ないし10℃に維持させる。PCLフレームワークの製作(fabrication)のために400ないし650kPa範囲で空気圧(pneumatic pressure)を加える。前記プレゲル形態の組成物をプランジャー系低容量噴射システム(plunger−based low−dosage dispensing system)を用いて噴射する。
【0040】
また、前記第1バイオプリンティング用組成物と第2バイオプリンティング用組成物を交互に用いるプリンティングは、ポリカプロラクトンフレームワークを用いることなく、前記プレゲル形態の組成物のみをプランジャー系低容量噴射システム(plunger−based low−dosage dispensing system)を用いて噴射することによって行われることもできる。
【0041】
一実施例において、前記第1バイオプリンティング用組成物と第2バイオプリンティング用組成物を交互に用いる積層は、第1バイオプリンティング用組成物と第2バイオプリンティング用組成物を互いに一定の交差角を有するように配列して積層し得る。
【0042】
また、前記第1バイオプリンティング用組成物と第2バイオプリンティング用組成物は、繊維、テープ、または織物形態でプリンティングされ得る。
【0043】
一例として前記第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物は、それぞれ繊維形態で一つの層にプリンティングされ、前記一つの層は、第1バイオプリンティング用組成物がプリンティングされた繊維と第2バイオプリンティング用組成物がプリンティングされた繊維が、互いに交代された一方向繊維形態で製造された層であり得、また他の層は、前記層と一定の交差角を有するように積層されたものであり得る。つまり、0度方向1層90度方向1層を重ねて積層した構造であり得、このような積層形態の一例は図3に示す。
【0044】
一実施例において、前記架橋剤は、リボフラビンであり得る。前記リボフラビンは、第1バイオプリンティング用組成物または第2バイオプリンティング用組成物の総重量に対して、0.001ないし0.1重量%、好ましくは0.01ないし0.1重量%の含有量で存在し得る。前記範囲を設定した理由は、心臓組織と類似の機械的特性を示す効果があるからである。
【0045】
また、前記それぞれの積層工程は、前記プリンティングおよびUVA下での架橋化により行われ得る。前記プリンティングおよびUVA下での架橋化を繰り返して行うことによって、つまり、積層工程(layer−by−layer process)を行うことによって、3次元構造体形状が形成される。
【0046】
高い安全性を有するリボフラビンを架橋剤として用いて3次元プリンティングおよびUVA下での架橋化による積層工程を行い3次元構造体形状を製作した後、得られた3次元構造体形状を熱ゲル化することによって、高い機械的強度を均一に有する3次元構造体を製造できる効果がある。
【0047】
前記UVA下での架橋化は、315ないし400nm、325ないし390nm、335ないし380nm、345ないし370nm、355ないし365nm、好ましくは約360nm波長のUVAを用い得る。
【0048】
また、前記UVA下での架橋化は、1ないし10分、1ないし9分、1ないし8分、1ないし7分、1ないし6分、1ないし5分、1ないし4分、2ないし10分、2ないし9分、2ないし8分、2ないし7分、2ないし6分、2ないし5分、2ないし4分、好ましくは約3分間行い得る。
【0049】
つまり、リボフラビンの使用を含む架橋−熱ゲル化方法(crosslinking−thermal gelation)によって高い機械的強度を均一に有する3次元構造体を製造できるということが本発明によって明らかになった。したがって、リボフラビンを用いる前記架橋−熱ゲル化方法によって高い機械的強度を提供できるだけでなく、グルタルアルデヒド(glutaraldehyde)のような毒性架橋剤の使用を必要とし、また、3次元構造体の内部には不均一な架橋を引き起こすプリント−後架橋(post−print crosslinking)の問題点を回避することができる。
【0050】
したがって、前記3次元構造体は1rad/sでのモデュラスが1ないし100kPa、1ないし90kPa、1ないし80kPa、1ないし70kPa、1ないし60kPa、1ないし50kPa、1ないし40kPa、1ないし30kPa、1ないし20kPa、例えば、10.58kPaであり得る。前記範囲を設定した理由は、心臓筋と類似の機械的強度で周辺環境を模写する効果があるからである。
【0051】
一実施例において、第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物は、独立して、それぞれの組成物の総重量に対して、リボフラビン0.001ないし0.1重量%;酢酸および塩酸からなる群から1種以上選択された酸0.03ないし30重量%;ペブシンおよびマトリックスメタロプロテアーゼからなる群から1種以上選択された蛋白質分解酵素0.1ないし0.4重量%;およびpH調節剤をさらに含み得る。
【0052】
前記実現例による第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物は、
【0053】
酢酸および塩酸からなる群から選択された1種以上の酸溶液に脱細胞化された細胞外基質を添加する段階;
【0054】
ペブシンおよびマトリックスメタロプロテアーゼからなる群から選択された1種以上の蛋白質分解酵素を添加する段階;および
【0055】
リボフラビン、pH調節剤および心臓前駆細胞(第1バイオプリンティング組成物の場合)、またはリボフラビン、pH調節剤、間葉系幹細胞および血管内皮成長因子(第2バイオプリンティング組成物の場合)を添加する段階;
を含む製造方法によって製造され得る。
【0056】
前記蛋白質分解酵素を加えた溶液を得る段階は、蛋白質分解酵素を加えた後、攪拌を行い得、前記攪拌は、脱細胞化された細胞外基質の完全な溶解を達成する時まで行うことができ、例えば、通常24ないし48時間の間行われ得るが、これに制限されるわけではない。
【0057】
前記印刷および架橋化は、ゲル化を防止するために15℃以下で行われ得、例えば、4ないし15℃、好ましくは4ないし10℃の低温で行われることが好ましい。
【0058】
また、前記熱ゲル化は、15℃超過で行われ得、例えば、20℃以上、25℃以上、好ましくは、20℃ないし50℃、20℃ないし40℃、20℃ないし37℃、25℃ないし50℃、25℃ないし40℃、さらに好ましくは、25℃ないし37℃の温度で行われ得る。
【0059】
前記製造方法によって製造される第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物は、pH−調節されたプレゲル(pH−adjusted pre−gel)形態であって、約4℃で冷蔵保管することが好ましい。
【0060】
また、前記熱ゲル化は、15℃超過で行われ得、例えば、20℃以上、25℃以上、好ましくは、20℃ないし50℃、20℃ないし40℃、20℃ないし37℃、25℃ないし50℃、25℃ないし40℃、さらに好ましくは、25℃ないし37℃の温度で行われ得る。前記範囲を設定した理由は、脱細胞化された細胞外基質を物理的に架橋する効果があるからである。前記熱ゲル化は、インキュベータ(humid incubator)内で行い得る。
【0061】
また、前記熱ゲル化は、5ないし60分、10ないし50分、15ないし40分、好ましくは20ないし30分間行い得る。前記範囲を設定した理由は、物理的架橋化反応が起こるのに要求される範囲であるからである。
【0062】
前記製造方法によって製造された3次元構造体の厚さは、伝達しようとする細胞の量に応じて調節することができ、50ないし1000μm、50ないし900μm、50ないし800μm、50ないし700μm、50ないし600μm、50ないし500μm、100ないし1000μm、100ないし900μm、100ないし800μm、100ないし700μm、100ないし600μm、100ないし500μm、200ないし1000μm、200ないし900μm、200ないし800μm、200ないし700μm、200ないし600μm、200ないし500μm、300ないし1000μm、300ないし900μm、300ないし800μm、300ないし700μm、300ないし600μm、300ないし500μm、400ないし1000μm、400ないし900μm、400ないし800μm、400ないし700μm、400ないし600μm、400ないし500μmの厚さ、例えば、500μmの厚さを有し得る。
【0063】
前記製造方法は、心臓前駆細胞を構造体内に均等に位置させるだけでなく、構造体内に血管細胞からなる血管ネットワークを実現することによって、細胞の生存能を長期間維持させることができ、心筋内部への細胞伝達効率を顕著に向上させることができ、心臓前駆細胞が構造体内に均等に位置した場合を図9に示した。
【0064】
本発明の他の一例は、心筋組織再生用3次元構造体に関する。
前記心筋組織再生用3次元構造体は、脱細胞化された細胞外基質および架橋剤を含む組織工学用構造体形成溶液、および心臓前駆細胞を含む第1バイオプリンティング用組成物と、前記組織工学用構造体形成溶液、間葉系幹細胞および血管内皮成長因子を含む第2バイオプリンティング用組成物を印刷および架橋化によって交互に積層された構造を1以上含み得る。
【0065】
第1バイオプリンティング用組成物、第2バイオプリンティング用組成物、脱細胞化された細胞外基質、心臓前駆細胞、間葉系幹細胞、血管内皮成長因子に関する事項は前述したとおりである。
【0066】
前記第1バイオプリンティング用組成物と第2バイオプリンティング用組成物が印刷および架橋化によって交互に積層された構造は、第1バイオプリンティング用組成物と第2バイオプリンティング用組成物を互いに一定の交差角を有するように配列して積層された構造であり得る。また、前記第1バイオプリンティング用組成物と第2バイオプリンティング用組成物は、繊維、テープ、または織物形態でプリンティングされ得る。
【0067】
一例として、それぞれの層は、前記第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物は、それぞれ繊維形態で一つの層に印刷され、前記一つの層は、第1バイオプリンティング用組成物が印刷された繊維と第2バイオプリンティング用組成物が印刷された繊維が互いに交代された一方向繊維形態で製造された層であり得、また他の層は、前記層と一定の交差角を有するように積層されたものであり得る。つまり、0度方向1層90度方向1層を重ねて積層した構造であり得る。前記それぞれの層が1回ずつ積層された構造は、約50μmの厚さであり得る。
【0068】
前記3次元構造体の厚さは、伝達しようとする細胞の量に応じて調節することができ、50ないし1000μm、50ないし900μm、50ないし800μm、50ないし700μm、50ないし600μm、50ないし500μm、100ないし1000μm、100ないし900μm、100ないし800μm、100ないし700μm、100ないし600μm、100ないし500μm、200ないし1000μm、200ないし900μm、200ないし800μm、200ないし700μm、200ないし600μm、200ないし500μm、300ないし1000μm、300ないし900μm、300ないし800μm、300ないし700μm、300ないし600μm、300ないし500μm、400ないし1000μm、400ないし900μm、400ないし800μm、400ないし700μm、400ないし600μm、400ないし500μmの厚さ、例えば、500μmの厚さを有し得る。
【発明の効果】
【0069】
本発明は、特定細胞、つまり、心臓前駆細胞(cardiac progenitor cells)および/または間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells)と血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor、VEGF)を含むバイオプリンティング用組成物(ら)を用いて3次元プリンティングを行うことによって、心筋組織の微細環境を効果的に実現することができる。
【0070】
また、本発明の製造方法は、心臓前駆細胞を構造体内に均等に位置させるだけでなく、構造体内に血管細胞からなる血管ネットワークを実現することによって、細胞の生存能を長期間維持させることができ、心筋内部への細胞伝達効率を顕著に向上させることができる。したがって、本発明の製造方法は、虚血性心疾患を含む多様な心臓疾患の治療のための3次元構造体の製造に有用に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】本発明の一実施例による心臓組織から得られた脱細胞化された細胞外基質(hdECM)の写真である。
図2】本発明の一実施例による心臓組織から得られた脱細胞化された細胞外基質(hdECM)の光学顕微鏡写真および組織染色写真である。
図3】本発明の一実施例により製造された3次元構造体の模式図である。
図4】本発明の一実施例によるPCLフレームワーク(PCL framework)を用いて製造された3次元構造体の形状を示す写真である。
図5】本発明の一実施例により製造された3次元構造体をラット心筋梗塞モデルに移植した後、構造体移植前および移植8週後に撮影した心臓超音波(echocardiography)m−mode写真である。
図6】本発明の一実施例により製造された3次元構造体をラット心筋梗塞モデルに移植した後、構造体移植前、移植4週後、および移植8週後に、測定した心機能を数値化して示す写真である。
図7】本発明の一実施例により製造された3次元構造体を移植した後、8週後に、犠牲にして組織学的分析を行った結果であって、マッソントリクローム染色(masson’s trichrome staining)を行って心筋組織の繊維化程度および心筋壁厚さの変化を観察した写真である。
図8】本発明の一実施例により免疫蛍光染色(immunofluorescence staining)による心筋梗塞部位の機能性心筋の再生程度および血管再生程度を示す写真である。
図9】本発明の一実施例により製造された心筋組織再生用3次元構造体内に心臓前駆細胞が均等に位置した場合を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下、本発明を下記の実施例によってさらに詳しく説明する。しかし、これら実施例は、本発明を例示するためのものだけであり、本発明の範囲はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0073】
製造例1:第1バイオプリンティング用組成物の製造
1−1:脱細胞化された細胞外基質の製造
脱細胞化された細胞外基質は、豚の心臓組織を用いてFalguni Pati, et al., Nat Commun.5, 3935 (2014)に開示された方法により製造した(以下、「hdECM」)。前記製造されたhdECMは、最終的に凍結乾燥して使用前まで冷凍保管した。前記製造されたhdECMの光学顕微鏡写真および組織染色写真を図2に示した。
【0074】
1−2:プレゲル(pre−gel)状態の組織工学用構造体製造溶液の製造
前記得られた凍結乾燥されたhdECMに液体窒素を注ぎ、モルタルおよび乳棒で粉砕した。前記得られたhdECM粉末(330mg)を0.5M酢酸水溶液(10ml)に添加した後、ペブシン(33mg)(P7125、Sigma−Aldrich)を加えた後、常温で48時間攪拌した。得られた溶液の温度を10℃以下に維持し、リボフラビン(2mg)を加えて10℃以下に冷却させた10M NaOH溶液を滴加してpHを約pH7に調節した。前記得られたプレゲル(pre−gel)状態の組織工学用構造体製造溶液は、約4℃で冷蔵保管した。
【0075】
1−3:プレゲル(pre−gel)状態の組織工学用構造体製造溶液と細胞を含むプリンティング組成物の製造
プリンティング工程を行う直前に前記プレゲル状態の組織工学用構造体製造溶液に心臓前駆細胞5X10cells/mlを添加して第1バイオプリンティング用組成物を製造した。前記心臓前駆細胞は、人間心筋組織由来の心臓前駆細胞、韓国釜山大学校医学専門大学院、生理学教室から得たものである。
【0076】
製造例2:第2バイオプリンティング用組成物の製造
2−1:脱細胞化された細胞外基質の製造
脱細胞化された細胞外基質は、豚の心臓組織を用いてFalguni Pati, et al., Nat Commun.5, 3935 (2014)に開示された方法により製造した(以下、「hdECM」)。前記製造されたhdECMは、最終的に凍結乾燥して使用前まで冷凍保管した。前記製造されたhdECMの光学顕微鏡写真および組織染色写真を図2に示した。
【0077】
2−2:プレゲル(pre−gel)状態の組織工学用構造体製造溶液の製造
前記得られた凍結乾燥されたhdECMに液剤窒素を注ぎ、モルタルおよび乳棒で粉砕した。0.5M酢酸水溶液(10ml)にhdECM粉末(330mg)を添加した後、ペブシン(33mg)(P7125、Sigma−Aldrich)を加えた後、常温で48時間攪拌した。得られた溶液の温度を10℃以下に維持し、リボフラビン(2mg)を加えて10℃以下に冷却させた10M NaOH溶液を滴加してpHを約pH7に調節した。前記得られたプレゲル(pre−gel)状態の組織工学用構造体溶液は、約4℃で冷蔵保管した。
【0078】
2−3:プレゲル(pre−gel)状態の組織工学用構造体製造溶液と細胞を含むプリンティング組成物の製造
プリンティング工程を行う直前に前記プレゲル状態の組織工学用構造体溶液に間葉系幹細胞5X10cells/mlと血管内皮成長因子(製品番号:293−VE−10、R&D systems社)(100ng/ml)をそれぞれ添加して第2バイオプリンティング用組成物を製造した。前記間葉系幹細胞は(下鼻甲介 (inferior turbinate)由来間葉系幹細胞、韓国カトリック大学校耳鼻咽喉科学教室)から得たものである。
【0079】
比較例1:組織工学用3次元構造体の製造
製造例1で得られた第1バイオプリンティング用組成物を用いてFalguni Pati, et al., Nat Commun.5, 3935 (2014)に開示された方法により3次元構造体を製作した。
【0080】
具体的には、PCLフレームワーク(polycaprolactone(PCL)framework)を多軸組織臓器プリンティングシステム(Jin−Hyung Shim et al., J. Micromech. Microeng. 22 085014 (2012))のシリンジ(第1シリンジ)にロードし、約80℃で加熱して重合体を溶融させた。製造例1で得られたプレゲル状態の第1バイオプリンティング用組成物を他のシリンジ(第2シリンジ)にロードし、温度を約10℃以下に維持させた。第1シリンジに約600kPaの空気圧を加えて約100um以下の線幅を有して、約300umの空隙を有する120um厚さの薄いPCLフレームワークを製作して、PCLフレームワークの上に第2シリンジの内容物を噴射した後、約360nmのUVAを3分間照射して架橋化した。その後、第2シリンジの内容物の噴射および前記架橋化による積層工程(layer−by−layer process)を行い、3次元構造体形状を形成した。得られた3次元構造体形状を約37℃のインキュベータ(humid incubator)に入れて30分間維持させて熱ゲル化させて3次元構造体(「CPC printed」という)を製造した。得られた3次元構造体は、約300ないし400um厚さを有する。
【0081】
実施例1:組織工学用3次元構造体の製造
製造例1および2で得られた第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物を用いて3次元構造体を製作した。
具体的には、PCLフレームワーク(polycaprolactone(PCL)framework)を多軸組織臓器プリンティングシステム(Jin−Hyung Shim et al., J. Micromech. Microeng. 22 085014 (2012))のシリンジ(第1シリンジ)にロードし、約80℃で加熱して重合体を溶融させた。製造例1で得られたプレゲル形態の第1バイオプリンティング用組成物および製造例2で得られた第2バイオプリンティング用組成物を他のシリンジ(それぞれ、第2、3シリンジ)にロードし、温度を約10℃以下に維持させた。第1シリンジに約600kPaの空気圧を加えて約100um以下の線幅を有して、約300umの空隙を有する120um厚さの薄いPCLフレームワークを製作し、PCLフレームワークの上に第2シリンジの内容物を噴射した後、約360nmのUVAを3分間照射して架橋化した。その後、第2、3シリンジの内容物の噴射および前記架橋化による積層工程(layer−by−layer process)を行い、3次元構造体形状を形成した。
【0082】
得られた3次元構造体形状を約37℃のインキュベータ(humid incubator)に入れて30分間維持して熱ゲル化させて組織工学用3次元構造体(「CPC/MSC printed」という)を製造した。得られた3次元構造体は、約300ないし400umの厚さを有して、その形状は図3のとおりである。
【0083】
試験例1.リボフラビン添加有無によるモデュラス(complex modulus)の測定
製造例1で得られたプレゲル形態の溶液を約360nmのUVAを3分間照射して架橋化した後、約37℃のインキュベータ(humid incubator)に入れて30分間維持して熱ゲル化を誘導してヒドロゲルを形成させた(架橋ヒドロゲルA)。また、リボフラビンを用いないことを除いては製造例1と同様な方法で製造したプレゲル状態の組織工学用構造体製造溶液を約37℃のインキュベータ(humid incubator)に入れて30分間維持して熱ゲル化を誘導してヒドロゲルを形成させた(ヒドロゲルB)。
【0084】
その後、得られたそれぞれのヒドロゲルに対して、頻度(frequency)1rad/sでの複素モデュラス(complex modulus)を測定し、その結果は下記表1のとおりである。
【表1】
【0085】
前記表1の結果から分かるように、本発明による架橋ヒドロゲルAは、1rad/sでのモデュラスが10.58kPaであって、架橋なしにゲル化処理だけを行ったヒドロゲルBに比べて架橋化によって約30倍以上の強度向上を示すことが分かった。
【0086】
試験例2.
4ないし5週齢のラット(重量:300±30g)の胸部を切開して、左前下行枝(Left Anterior Descending artery、LAD)の永久的な結紮(permanent ligation)を行い心筋梗塞を誘発した。
【0087】
7日後に、比較例1で製造した3次元構造体(CPC printed)および実施例3で製造した3次元構造体(CPC/MSC printed)をそれぞれ8mm直径の大きさで切断し、心筋梗塞部位に移植した後、封止した(それぞれn=7)。移植後、4週および8週目に心臓超音波を撮影して左心室内径(left ventricle diameter、LV diameter)を確認して、その結果を図5に示し、心筋の機能を示す左心室駆出係数(left ventricle ejection fraction、LVEF)および区画短縮率(fractional shortening、FS)を計算してstudent T−testによる実験群間の有意性評価を行い、その結果を図6に示した。
【0088】
図5および6から確認できるように、実施例3の本発明による3次元構造体移植4週および8週後、いかなる処理も行っていない実験群(対照群)対比左心室内径が顕著に減った。また、CPCグループに比べてCPC/MSCグループで左心室収縮機能が有意に増加したことを観察することができ、これは、構造体によって心臓リモデリング(cardiac remodeling)が阻害することを示す。
【0089】
移植8週後のネズミの心臓を摘出して個体ごとに同じ位置(心臓のapexからbase方向に約1/3地点)で組織を獲得した後(3um厚さ)マッソントリクローム染色を実施した。当該染色法を用いて心臓筋(赤色)と心筋梗塞部位の瘢痕組織(青色)を区別して、その結果を図7に示した。
【0090】
図7から確認できるように、本発明により製造した3次元構造体移植8週後の左心室内壁の厚さが対照群に比べて厚く維持され、心筋梗塞部位の瘢痕組織(scar tissue)の形成が少なかった。また、比較例1のように第1バイオプリンティング用組成物単独で形成させた3次元構造体(CPC printed)に比べて、実施例3のように第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物で形成させた3次元構造体(CPC/MSC printed)を移植した時、瘢痕組織形成がさらに効果的に抑制され、左心室内壁は厚さが薄くならずに維持された。
【0091】
図8から確認できるように、本発明により製造した3次元構造体を移植した心筋梗塞部位に心筋組織の収縮性を代表するベータミオシン重鎖(β−myosin heavy chain、βMHC)と血管形成を代表する分化クラスタ31(CD31)の発現量が顕著に増加し、特に第1バイオプリンティング用組成物および第2バイオプリンティング用組成物で形成させた3次元構造体(CPC/MSC printed)(実施例3)を移植した時、その効果がさらに極大化された。
【0092】
したがって、本発明の製造方法によって製造された3次元構造体は、構造体内に血管ネットワークを実現することによって(つまり、心筋組織の微細環境を効果的に実現することによって)、細胞の生存能を長期間維持させることができ、心筋内部への細胞伝達効率を顕著に向上させる可能性があることを確認した。
図1
図2
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図5
図6
図7
図8
図9