(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記自己組織化ペプチドが、N末端アミノ基および/またはC末端カルボキシル基が保護されていてもよい配列番号1または18のアミノ酸配列からなるペプチドから選択される、請求項3に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[A.ゲル]
本発明のゲルは、自己組織化ペプチドと水とを含み、該自己組織化ペプチドの自己組織化によって形成された自己組織化ペプチドゲルである。本明細書において、ゲルとは、粘性的な性質と弾性的な性質とを併せ持つ粘弾性物質を意味する。具体的には、動的粘弾性測定を行なって、貯蔵弾性率G’および損失弾性率G’’を測定したときに、「G’>G’’」となる物質をゲルということができる。
【0011】
本発明のゲルは、自己組織化ペプチドと水とを泡状の気泡分散体になるまで混合し、次いで、脱泡することを含む製造方法によって調製される。このような特定の混合および脱泡を経て得られる自己組織化ペプチド溶液を用いて調製されることにより、本発明のゲルは、ペプチド濃度が同じであっても、従来の製造方法で得られたゲルよりも高い力学的強度を有し得る。なお、本発明のゲルの製造方法については、B項にて詳述する。
【0012】
上記効果が得られる理由は定かではないが、以下のように推測される。すなわち、従来の自己組織化ペプチドゲルの製造方法においては、ゲルへの気泡の混入が透明性および力学的強度の低下につながることおよび混入した気泡の除去に手間がかかることから、超音波照射や撹拌子を用いて穏和に(換言すれば、激しく泡立てることなく)自己組織化ペプチドと水とを混合しており、当該混合によって得られたペプチド溶液を必要に応じてさらに脱泡後、静置してゲル化を行っている。従来の製造方法においても目視にてほぼ透明なペプチド溶液が得られることから、係る穏和な混合によって自己組織化ペプチドが完全に溶解していると判断されていた。しかしながら、実際には、自己組織化ペプチドは完全に溶解しておらず、微視的にはその一部がペプチド分子クラスターを形成しており、当該クラスターが、ファイバー内に取り込まれることで、ファイバーの伸長またはファイバー間相互作用の障害となり、三次元網目構造の形成に悪影響を及ぼしている。これに対し、本発明においては、泡状の気泡分散体が得られるまで激しく撹拌することにより溶液中のクラスターが十分に破壊される。その結果、ペプチドが極めて均一に分散されるので、これらが自己集合することで、クラスターによる障害を有さない、または低減されたファイバーが形成され、これにより、ファイバーの伸長および鎖間相互作用が促進されて、力学的強度の高い三次元網目構造(結果として、ゲル)が形成されると考えられる。
【0013】
本発明のゲルは、好ましくは5〜8、より好ましくは5.5〜7.5、さらに好ましくは6〜7のpHを有する。pHが当該範囲内であると、加熱時における自己組織化ペプチドの加水分解を回避し得るので、高圧蒸気滅菌などの加熱を伴う滅菌処理に供され得る。また、細胞障害性を低減することができる。
【0014】
本発明のゲルは、光路長10mmのセル中、380nm〜780nmの吸光度で測定した可視光透過率が、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。可視光透過率が当該範囲内であると、細胞培養基材として用いた場合に、細胞等を内部に混合した際に観察がしやすくなる。また、眼科用途であれば、視機能を損ねることがなくなる。また、止血材用途であれば、出血部位を確認しながら止血材を適用することや止血の完了を視認することが容易である。
【0015】
[A−1.自己組織化ペプチド]
自己組織化ペプチドとしては、水溶液中においてペプチド分子同士の相互作用を介して自発的に集合してゲルを形成し得る任意の適切なペプチドが用いられ得る。より具体的には、水溶液中においてペプチド分子同士の相互作用を介して自発的に集合して繊維状の分子集合体を形成し、当該分子集合体間の相互作用により三次元網目構造を発達させてゲルを形成し得るペプチドが好ましく用いられ得る。ペプチド分子同士の相互作用としては、例えば、水素結合、イオン間相互作用、ファンデルワールス力等の静電的相互作用および疎水性相互作用が挙げられる。また、繊維状の分子集合体の形成は、顕微鏡観察により確認することができる。
【0016】
自己組織化ペプチドを構成するアミノ酸は、L−アミノ酸であってもよく、D−アミノ酸であってもよい。好ましくはL−アミノ酸である。また、天然アミノ酸であってもよく、非天然アミノ酸であってもよい。低価格で入手可能であり、ペプチド合成が容易であることから、好ましくは天然アミノ酸である。
【0017】
自己組織化ペプチドを構成するアミノ酸残基のpH7.0における電荷の総和は、好ましくは、−3〜−1または+1〜+3であり、より好ましくは、−3、−2、+2または+3である。このように、中性領域において自己組織化ペプチドに含まれるアミノ酸残基の側鎖に由来するプラス電荷とマイナス電荷とが相殺されないことにより、ゲル形成に適した静電的引力及び斥力のバランスが保たれ、その結果として、中性領域で透明かつ安定なゲルを形成し得るからである。なお、本明細書において、「中性領域」とは、6.0〜8.5、好ましくは6.5〜8.0、より好ましくは7.0の領域をいう。
【0018】
各pHにおける上記自己組織化ペプチドの電荷は、例えば、レーニンジャー(Lehninger)〔Biochimie、1979〕の方法に従って算出され得る。レーニンジャーの方法は、例えば、EMBL WWW Gateway to Isoelectric Point Serviceのウェブサイト(http://www.embl−heidelberg.de/cgi/pi−wrapper.pl)上で利用可能なプログラムにより行なわれ得る。
【0019】
本発明に好ましく使用され得る自己組織化ペプチドの具体例としては、下記の式(I)のアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。当該ペプチドを用いることにより、十分な力学的強度を有するゲルが好適に得られ得る。
a
1b
1c
1b
2a
2b
3db
4a
3b
5c
2b
6a
4 (I)
(上記アミノ酸配列中、a
1〜a
4は、塩基性アミノ酸残基であり;b
1〜b
6は、非電荷極性アミノ酸残基および/または疎水性アミノ酸残基であり、ただし、そのうちの少なくとも5個は、疎水性アミノ酸残基であり;c
1およびc
2は、酸性アミノ酸残基であり;dは、疎水性アミノ酸残基である。)
【0020】
上記アミノ酸配列中、a
1〜a
4は、塩基性アミノ酸残基である。塩基性アミノ酸は、好ましくはアルギニン、リシン、またはヒスチジンであり、より好ましくはアルギニンまたはリシンである。これらのアミノ酸は、塩基性が強いからである。a
1〜a
4は、同一のアミノ酸残基であってもよく、異なるアミノ酸残基であってもよい。
【0021】
上記アミノ酸配列中、b
1〜b
6は、非電荷極性アミノ酸残基および/または疎水性アミノ酸残基であり、そのうちの少なくとも5個は、疎水性アミノ酸残基である。疎水性アミノ酸は、好ましくはアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、グリシン、またはプロリンである。非電荷極性アミノ酸は、好ましくはチロシン、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、またはシステインである。これらのアミノ酸は、入手が容易だからである。
【0022】
好ましくは、b
3およびb
4は、それぞれ独立して任意の適切な疎水性アミノ酸残基であり、さらに好ましくはロイシン残基、アラニン残基、バリン残基、またはイソロイシン残基であり、特に好ましくはロイシン残基またはアラニン残基である。
【0023】
好ましくは、b
1〜b
6はすべて疎水性アミノ酸残基である。自己組織化ペプチドが好適にβシート構造を形成し、自己組織化し得るからである。より好ましくは、b
1〜b
6は、それぞれ独立してロイシン残基、アラニン残基、バリン残基、またはイソロイシン残基であり、さらに好ましくはロイシン残基またはアラニン残基である。好ましい実施形態においては、b
1〜b
6のうちの4個以上がロイシン残基であり、より好ましくはそのうちの5個以上がロイシン残基であり、さらに好ましくは全てがロイシン残基である。
【0024】
上記アミノ酸配列中、c
1およびc
2は、酸性アミノ酸残基である。酸性アミノ酸は、好ましくはアスパラギン酸またはグルタミン酸である。これらのアミノ酸は、入手が容易だからである。c
1およびc
2は、同一のアミノ酸残基であってもよく、異なるアミノ酸残基であってもよい。
【0025】
上記アミノ酸配列中、dは、疎水性アミノ酸残基である。dは、好ましくはアラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、またはイソロイシン残基である。
【0026】
1つの好ましい実施形態においては、b
3、d、b
4の連続する3つのアミノ酸残基のうち2つがロイシン残基であり、残りがアラニン残基である。この場合、b
3、d、b
4のいずれがアラニン残基であってもよい。また、別の好ましい実施形態においては、b
3、d、b
4の連続する3つのアミノ酸残基がすべてロイシン残基である。
【0027】
式(I)のアミノ酸配列の好ましい具体例を以下に例示する。
n−RLDLRLALRLDLR−c(配列番号1)
n−RLDLRLLLRLDLR−c(配列番号2)
n−RADLRLALRLDLR−c(配列番号3)
n−RLDLRLALRLDAR−c(配列番号4)
n−RADLRLLLRLDLR−c(配列番号5)
n−RADLRLLLRLDAR−c(配列番号6)
n−RLDLRALLRLDLR−c(配列番号7)
n−RLDLRLLARLDLR−c(配列番号8)
【0028】
本発明に好ましく使用され得る別の自己組織化ペプチドとしては、WO2007/000979に記載のペプチドが挙げられる。すなわち、極性アミノ酸残基と非極性アミノ酸残基とを有する、8〜32個のアミノ酸残基からなる自己組織化ペプチドであって、該極性アミノ酸残基として酸性アミノ酸残基及び塩基性アミノ酸残基を含み、中性領域において、該酸性アミノ酸残基の電荷と該塩基性アミノ酸残基の電荷との総和が−3〜−2、又は+2〜+3であり、中性水溶液中において自己組織化した際に該非極性アミノ酸残基のみが一方の面に配置されたβ−シート構造を形成しうるものであり、該非極性アミノ酸残基が、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基及びグリシン残基からなる群より選択されたアミノ酸残基である自己組織化ペプチドである。なかでも、以下に例示するアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドが好ましい。
n−RASARADARASARADA−c(配列番号9)
n−RANARADARANARADA−c(配列番号10)
n−RAAARADARAAARADA−c(配列番号11)
n−RASARADARADARASA−c(配列番号12)
n−RADARASARASARADA−c(配列番号13)
n−RASARASARASARADA−c(配列番号14)
n−RASARADARASA−c (配列番号15)
n−KASAKAEAKASAKAEA−c(配列番号16)
n−SAEAKAEASAEAKAEA−c(配列番号17)
n−KLSLKLDLKLSL−c (配列番号18)
n−KLALKLDLKLAL−c (配列番号19)
【0029】
さらに、製品名「PuraMatrix
TM」(スリー・ディー・マトリックス社製)等の市販の自己組織化ペプチドを用いることもできる。
【0030】
上記自己組織化ペプチドは、任意の適切な製造方法によって製造され得る。例えば、Fmoc法等の固相法又は液相法等の化学合成方法、遺伝子組換え発現等の分子生物学的方法が挙げられる。なお、自己組織化ペプチドは、精製の過程で任意の適切な塩の形態とされ得るが、本発明においては、塩形態の自己組織化ペプチドを用いることもできる。
【0031】
上記自己組織化ペプチドは、目的等に応じて任意の適切な修飾が施されていてもよい。修飾が行われる部位は、特に限定されず、例えば、自己組織化ペプチドのN末端アミノ基、C末端カルボキシル基、またはその両方が挙げられる。
【0032】
上記修飾としては、修飾後のペプチドが自己組織化能を有する範囲において任意の適切な修飾が選択され得る。例えば、N末端アミノ基のアセチル化、C末端カルボキシル基のアミド化等の保護基の導入;アルキル化、エステル化、またはハロゲン化等の官能基の導入;水素添加;単糖、二糖、オリゴ糖、または多糖等の糖化合物の導入;脂肪酸、リン脂質、または糖脂質等の脂質化合物の導入;アミノ酸またはタンパク質の導入;DNAの導入;その他生理活性を有する化合物等の導入が挙げられる。修飾は1種のみ行われてもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。例えば、上記自己組織化ペプチドのC末端に所望のアミノ酸を導入した付加ペプチドのN末端をアセチル化し、C末端をアミド化してもよい。
【0033】
アミノ酸またはタンパク質が導入される場合、導入されるアミノ酸の数は、好ましくは1〜180であり、より好ましくは1〜50、さらに好ましくは1〜30、特に好ましくは1〜10、最も好ましくは1〜5である。導入するアミノ酸残基数が180を超えると、自己組織化能が損なわれる場合がある。
【0034】
本発明のゲルにおける自己組織化ペプチドの濃度は、組成、用途等に応じて適切に設定され得る。自己組織化ペプチドの濃度は、好ましくは0.1重量%〜10.0重量%、より好ましくは0.5重量%〜5.0重量%、さらに好ましくは1.0重量%〜3.0重量%である。上記範囲の濃度であれば、本発明の効果が好適に得られ得る。
【0035】
[A−2.水]
水としては、イオン交換水、蒸留水等の精製された水が好ましく用いられ得る。
【0036】
本発明のゲルの含水率(%)(=ゲル中の水の重量/ゲルの総重量×100)は、例えば80%〜99.9%、好ましくは85%〜99%であり得る。
【0037】
[A−3.添加物]
本発明のゲルは、必要に応じて任意の適切な添加物をさらに含み得る。添加物の具体例としては、pH調整剤;緩衝剤;等張化剤;塩類;アミノ酸類;ビタミン類;アルコール類;細胞培養用培地成分;蛋白質;薬物等が挙げられる。これらの添加物は、単独で用いられてもよく、二種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0038】
pH調整剤としては、塩酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0039】
緩衝剤としては、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムなどのリン酸塩;ホウ酸、ホウ砂、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムなどのホウ酸塩;クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウムなどのクエン酸塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどの酢酸塩、Tris、HEPES等が挙げられる。
【0040】
等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の塩化物;グルコース、フルクトース、ガラクトース等の単糖;スクロース、トレハロース、マルトース、ラクトース等の二糖;マンニトール、ソルビトール等の糖アルコール;等が挙げられる。
【0041】
塩類としては、上記で例示した添加物以外の任意の適切な塩が用いられ得る。例えば、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。
【0042】
上記添加物の添加量は、その目的等に応じて任意の適切な値に設定され得る。
【0043】
[B.ゲルの製造方法]
本発明のゲルの製造方法は、代表的には、自己組織化ペプチドと水とを混合して、泡状の気泡分散体を得ること(混合工程)、得られた気泡分散体を脱泡して、自己組織化ペプチド溶液を得ること(脱泡工程)、および、得られた自己組織化ペプチド溶液を静置して、自己組織化ペプチドを自己組織化させること(ゲル化工程)を含む。
【0044】
[B−1.混合工程]
混合工程においては、自己組織化ペプチドと水と任意の添加物とを混合して、泡状の気泡分散体、好ましくは均一な細かい泡状(クリーム、ホイップ、メレンゲのような状態)の気泡分散体を得る。
【0045】
混合順序は特に限定されず、構成成分を全て一度に混合することができる。あるいは、自己組織化ペプチドと水とを予備混合した後にpH調整剤等の添加物を加えてさらに混合してもよい。
【0046】
上記混合は、好ましくは機械的せん断力を付与しながら撹拌することによって行われる。機械的なせん断力を付与することにより水中のペプチド分子クラスターが十分に破壊され得る。
【0047】
混合手段としては、任意の適切な撹拌装置が用いられ得る。好ましくは、機械的せん断力の付与を伴う撹拌が可能な撹拌装置が用いられる。係る撹拌装置の具体例としては、櫂型撹拌機、タービン型撹拌機、プロペラ撹拌機、らせん型撹拌機等の撹拌羽根を備える機械式撹拌機が挙げられる。撹拌羽根の種類としては、ピッチドパドル、ピッチドタービン、歯付きタービン、3枚プロペラ、アンカー翼(例:馬蹄形)、リボン翼等が挙げられる。また、撹拌羽根を有さない撹拌装置として、自転公転撹拌装置等の容器回転式撹拌機等を用いることもできる。容器回転式撹拌装置においては、内面に凹凸形状を有する筒状の容器(参考として、
図1(a)〜(m)に、当該容器の一例の概略水平断面図を示す。)が好ましく適用される。なお、当該筒状の容器は、撹拌羽根を備える撹拌装置にも適用可能である。
【0048】
混合工程においては、泡状の気泡分散体が得られる限りにおいて2種以上の異なる混合手段を組み合わせて用いてもよい。例えば、超音波照射と上記機械的せん断力の付与を伴う撹拌とを組み合わせて用いてもよい。また、同じ混合手段による混合を2回以上繰り返してもよい。
【0049】
混合時間、回転数等の混合条件は、ペプチド濃度、撹拌装置の種類等に応じて適切に設定され得る。
【0050】
[B−2.脱泡工程]
脱泡工程においては、得られた気泡分散体を脱泡して、自己組織化ペプチド溶液を得る。なお、本発明において、脱泡は脱気を含み得る。
【0051】
脱泡方法としては、超音波脱気、真空減圧脱気、遠心脱気等の任意の適切な方法が用いられ得る。二種以上の脱泡方法を組み合わせて行ってもよい。
【0052】
脱泡工程は、後述のゲル化工程を兼ねていてもよい。したがって、脱泡の完了時に自己組織化ペプチドの自己組織化が進行または完了していてもよい。
【0053】
[B−3.ゲル化工程]
ゲル化工程においては、得られた自己組織化ペプチド溶液を静置して、自己組織化ペプチドを自己組織化させる。これにより、自己組織化ペプチドゲルが得られる。なお、静置は、自己組織化ペプチドが自己組織化し得る範囲であれば、完全な静置でなくてもよい。
【0054】
自己組織化ペプチド溶液を静置する時間および温度は、特に制限されない。静置する時間は、通常1分以上、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上である。静置する際の温度は、通常4〜50℃、好ましくは15〜45℃である。
【0055】
[B−4.その他の工程]
本発明のゲルの製造方法は、必要に応じて任意の適切な他の工程を含み得る。当該他の工程としては、ろ過等の精製工程、高圧蒸気滅菌、放射線滅菌、乾熱滅菌等の滅菌工程、包装容器への分注工程等が挙げられる。
【0056】
1つの実施形態においては、上記混合工程、脱泡工程およびゲル化工程を経て得られたゲルに物理的刺激を与えて得られるゾルを再度ゲル化させてもよい。すなわち、本発明のゲルの製造方法は、上記混合工程、脱泡工程およびゲル化工程に加えて、ゲル化工程で得られたゲルに物理的刺激を与えてゾルを得ること(ゾル化工程)、および、得られたゾルを静置して、自己組織化ペプチドを再度自己組織化させる工程(再ゲル化工程)を含み得る。必要に応じて、ゾル化工程で得られたゾルを脱泡してもよい。本発明のゲルの製造方法によれば、上記混合工程および脱泡工程を経て得られた自己組織化ペプチド溶液を用いることにより、ペプチド分子クラスターによる障害を有さない、または低減されたファイバーが形成されるので、ファイバーやファイバー間の架橋構造が物理的刺激によって破壊された場合であっても、当該ファイバーやその断片を含むゾル内において力学的強度の高い三次元網目構造(結果として、ゲル)が再度形成され得る。
【0057】
ゾル化工程において、物理的刺激としては、ゲルを形成するファイバーが維持される程度の刺激が好ましい。例えば、超音波照射、ピペッティング、ボルテックス等が挙げられる。ゾル化工程で得られるゾルは、代表的には、脱泡工程で得られる自己組織化ペプチド溶液に比べて流動性が増した状態である。1つの実施形態において、ゾルは、分散粒子として自己組織化ペプチドの繊維状分子集合体(ファイバー)を含む。
【0058】
再ゲル化工程は、ゲル化工程と同様に行われ得る。
【実施例】
【0059】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0060】
[貯蔵弾性率]
動的粘弾性測定装置である回転式レオメーター(TA instruments社製、製品名「ADVANCED RHEOMETER AR 1000」)を用いて、ゲルの貯蔵弾性率G’を測定した。具体的には、以下のとおりである。まず、試料に接触させるためのジオメトリー(アルミニウム製コーン、直径20mm、コーン角1°、ギャップ24μm)と試料台を一定の温度に保つための恒温槽とをレオメーターに取り付けた。次いで、温度:37℃、トルク:1μN・m、周波数:0.5rad/s〜100rad/sの測定条件下、以下の測定手順で1つの試料について3回測定し、1rad/sのときの値の平均値を貯蔵弾性率G’とした。
(1)ピペットを用いて55μLの試料をレオメーターの試料台に配置する。
(2)ジオメトリーを試料台から24μmのギャップまで移動させ、試料と接触させる。
(3)ジオメトリーをわずかに動かし、試料となじませる。
(4)ジオメトリーの動きを止めてから15秒後(この15秒の間に、試料からの溶媒の揮発を防止するためのソルベントトラップを取り付ける)に、測定を開始する。
【0061】
[pH]
pHは、ポータブルpHメーター(堀場製作所社製、製品番号「B−712」)を用いて測定した。
【0062】
[外観]
得られたゲルの外観を目視で観察し、以下の基準で評価した。
良好:気泡および白濁が認められず、透明である。
不良:気泡および/または白濁が認められる。
【0063】
[実施例1]
表1に示す組成の自己組織化ペプチドゲルを調製した。具体的な手順は以下のとおりである。すなわち、自己組織化ペプチド(SPG−178:N末端がアセチル化され、C末端がアミド化された配列番号1のペプチド)およびトレハロース・二水和物を秤量し、
図1に示すような側壁の内面に凹凸形状を有する容器(以下、「凹凸形状容器」と称する)に投入した。次いで、該容器に水を投入し、蓋をした。該容器を自転公転撹拌装置(株式会社シンキー製、製品番号「ARE−310」)にセットし、撹拌モードで30秒処理した。
【0064】
得られた混合液に100mM Na
2CO
3水溶液を添加してpHを調整した後、凹凸形状容器を自転公転撹拌装置(株式会社シンキー製、製品番号「ARE−310」)にセットして撹拌モードで約2分処理した。これにより、メレンゲ状の気泡分散体を得た。
【0065】
得られた気泡分散体を内面に凹凸形状を有さない(内部の水平断面形状が円形である)円筒形の容器に入れ、自転公転撹拌装置(株式会社シンキー製、製品番号「ARE−310」)にセットし、脱泡モードで脱泡した。次いで、該容器を真空ポンプにより減圧下で脱泡および脱気して自己組織化ペプチド水溶液を得た。
【0066】
得られた自己組織化ペプチド水溶液を5gずつシリンジに分注後、シリンジに打栓し、プランジャを装着して、滅菌バッグに入れ、121℃で20分オートクレーブした。オートクレーブ後の自己組織化ペプチド水溶液を常温まで自然冷却し、自己組織化ペプチドゲルを得た。
【0067】
[比較例1]
表1に示す組成の自己組織化ペプチドゲルを調製した。具体的な手順は以下のとおりである。すなわち、自己組織化ペプチド(SPG−178)およびスクロースを秤量し、遠沈管に投入した。次いで、水を投入し、超音波型ホモジナイザー(Sonic&Material,Inc.社製、製品番号「Vibra−Cell VC−505」)を用いて500Wの出力で5分処理して混合した。得られた混合液を目視で確認したところ、細かい泡が所々に混入しているものの、全体としてはほぼ透明の液体であった。
【0068】
得られた混合液を3000rpmで5分遠心分離して脱泡し、さらにアスピレーターを用いて減圧脱気した。脱気後の混合液に50mM Na
2CO
3水溶液を添加してpHを調整した後、超音波型ホモジナイザー(Sonic&Material,Inc.社製、製品番号「Vibra−Cell VC−505」)を用いて500Wの出力で5分処理して混合した。アスピレーターを用いて混合液を減圧脱気し、これにより、自己組織化ペプチド水溶液を得た。
【0069】
得られた自己組織化ペプチド水溶液を5gずつシリンジに分注した。次いで、シリンジに打栓し、プランジャを装着して、滅菌バッグに入れ、121℃で20分オートクレーブした。オートクレーブ後の自己組織化ペプチド水溶液を常温まで自然冷却し、自己組織化ペプチドゲルを得た。
【0070】
[実施例2]
トレハロース・二水和物濃度を変更したこと以外は実施例1と同様の手順で表1に示す組成の自己組織化ペプチドゲルを調製した。
【0071】
[実施例3]
自己組織化ペプチド濃度を変更し、トレハロース・二水和物を除いたこと以外は実施例1と同様の手順で表1に示す組成の自己組織化ペプチドゲルを調製した。
【0072】
[実施例4]
自己組織化ペプチド濃度を変更し、トレハロース・二水和物を除いたこと以外は実施例1と同様の手順で表1に示す組成の自己組織化ペプチドゲルを調製した。
【0073】
[比較例2]
スクロースの代わりにトレハロース・二水和物を用い、その濃度を変更したこと以外は比較例1と同様の手順で表1に示す組成の自己組織化ペプチドゲルを調製した。
【0074】
[比較例3]
自己組織化ペプチド濃度を変更したこと以外は比較例1と同様の手順で表1に示す組成の自己組織化ペプチドゲルを調製した。
【0075】
[比較例4]
自己組織化ペプチド濃度を変更したこと以外は比較例1と同様の手順で表1に示す組成の自己組織化ペプチドゲルを調製した。
【0076】
実施例および比較例で得られたゲルの組成および特性を表1に示す。
【表1】
【0077】
上記のとおり、実施例のゲルは全て、同じ自己組織化ペプチド濃度を有する比較例のゲルよりも顕著に大きな貯蔵弾性率を有している。
【0078】
[参考例1]
実施例2で得られたゲルおよび比較例2で得られたゲルに関して、HATRサンプリングアクセサリーとセレン化亜鉛結晶からなるトラフプレートを設置したフーリエ変換赤外分光光度計(パーキンエルマー社製、製品名「Spectrum One」)を用いて全反射吸収法にて以下の条件でIR測定を行った。IR測定結果のグラフを
図2に示す。
<IR測定条件>
scan number:32回
波数の範囲:400〜4000cm
−1
分解能:4cm
−1
scan range/cm
−1:4000 650(400)
OPD velocity:0.2cm/sec
測定温度:室温
セレン化亜鉛結晶への赤外線入射角:45°
【0079】
図2に示すグラフにおいて、1600〜1500cm
−1のピークはペプチド間で水素結合したアミド基由来であり、ゲル内におけるβシート構造の含有量に対応する。よって、
図2のグラフからは、自転公転撹拌装置を用いて調製された実施例2のゲルの方が、βシート構造がより発達した構造を有することがわかる。βシート構造の発達は、ナノファイバーの形成およびその三次元網目構造への発展に有利であることから、この結果は、上記所定の混合方法が自己組織化ペプチドゲルの強度向上に寄与していることを強く示唆するものである。