特許第6490933号(P6490933)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6490933
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】原料液、飲料及びこれらに関する方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 3/00 20060101AFI20190318BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   C12C3/00
   A23L2/00 B
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-191842(P2014-191842)
(22)【出願日】2014年9月19日
(65)【公開番号】特開2016-59353(P2016-59353A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉永 晃子
【審査官】 小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】 J. Inst. Brew., 2010, Vol.116, No.4, p.332-338
【文献】 Food Chem., 2010, Vol.123, p.1219-1226
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 1/00−13/06;C12F 3/00−5/00;
C12H 1/00− 1/22;C12J 1/00−1/10;
C12L 3/00−11/00
A23L 2/00− 2/84
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料の製造に使用される原料液の製造方法であって、
総量Ftの原液に、総量Htのホップ原料と、総量Atの酸とを添加して煮沸する調製工程を含み、
前記調製工程は、下記部分調製(a)及び(b)を含
(a)部分量Faの前記原液に、部分量Haの前記ホップ原料と、部分量Aaの前記酸とを添加して煮沸する(ただし、次の関係式「Fa<Ft」、「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」及び「0≦Aa<At×(Fa/Ft)」が成立する。);
(b)部分量Fbの前記原液に、部分量Hbの前記ホップ原料と、部分量Abの前記酸とを添加して煮沸する(ただし、次の関係式「Fb<Ft」、「0<HbHt×(Fb/Ft)×0.55」及び「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」が成立する。);
前記部分調製(a)で調製された原料液の苦味価を、前記ホップ原料の部分量Haで除して得られる苦味価付与率が、前記関係式「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」及び「0≦Aa<At×(Fa/Ft)」に代えて次の関係式「Ht×(Fa/Ft)=Ha<Ht」及び「0<Aa=At×(Fa/Ft)」が成立する以外は前記部分調製(a)と同一の条件で原料液を調製する対照部分調製(a)の苦味付与率より高くなり、且つ
前記部分調製(b)で調製された原料液の苦味価を、前記ホップ原料の部分量Hbで除して得られる苦味価付与率が、前記関係式「0<Hb≦Ht×(Fb/Ft)×0.55」及び「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」に代えて次の関係式「0<Hb=Ht×(Fb/Ft)」及び「At×(Fb/Ft)=Ab<At」が成立する以外は前記部分調製(b)と同一の条件で原料液を調製する対照部分調製(b)の苦味付与率より高くなるように、
前記部分調製(a)及び(b)を行う、
ことを特徴とする原料液の製造方法。
【請求項2】
飲料の製造に使用される原料液の製造方法であって、
総量Ftの原液に、総量Htのホップ原料と、総量Atの酸とを添加して煮沸する調製工程を含み、
前記調製工程は、下記部分調製(a)及び(b)を含み:
(a)部分量Faの前記原液に、部分量Haの前記ホップ原料と、部分量Aaの前記酸とを添加して煮沸する(ただし、次の関係式「Fa<Ft」、「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」及び「0≦Aa<At×(Fa/Ft)」が成立する。);
(b)部分量Fbの前記原液に、部分量Hbの前記ホップ原料と、部分量Abの前記酸とを添加して煮沸する(ただし、次の関係式「Fb<Ft」、「0<Hb≦Ht×(Fb/Ft)×0.55」及び「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」が成立する。);、
前記製造される原料液の苦味価を、前記ホップ原料の総量Htで除して得られる苦味価付与率が、前記部分調製(a)を前記関係式「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」及び「0≦Aa<At×(Fa/Ft)」に代えて次の関係式「Ht×(Fa/Ft)=Ha<Ht」及び「0<Aa=At×(Fa/Ft)」が成立する以外は同一の条件で行い、且つ前記部分調製(b)を前記関係式「0<Hb≦Ht×(Fb/Ft)×0.55」及び「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」に代えて次の関係式「0<Hb=Ht×(Fb/Ft)」及び「At×(Fb/Ft)=Ab<At」が成立する以外は同一の条件で行う対照方法における前記苦味付与率より高くなるように、前記原料液を製造する、
ことを特徴とする原料液の製造方法。
【請求項3】
前記製造される原料液の苦味価を、前記ホップ原料の総量Htで除して得られる苦味価付与率が、前記部分調製(a)を前記関係式「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」及び「0≦Aa<At×(Fa/Ft)」に代えて次の関係式「Ht×(Fa/Ft)=Ha<Ht」及び「0<Aa=At×(Fa/Ft)」が成立する以外は同一の条件で行い、且つ前記部分調製(b)を前記関係式「0<Hb≦Ht×(Fb/Ft)×0.55」及び「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」に代えて次の関係式「0<Hb=Ht×(Fb/Ft)」及び「At×(Fb/Ft)=Ab<At」が成立する以外は同一の条件で行う対照方法における前記苦味付与率より高くなるように、前記原料液を製造する
ことを特徴とする請求項1に記載の原料液の製造方法。
【請求項4】
前記部分調製(b)における前記酸の前記部分量Abについて、次の関係式「At×(Fb/Ft)×1.5<Ab≦At」が成立する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の原料液の製造方法。
【請求項5】
前記部分調製(b)における煮沸は、前記関係式「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」に代えて次の関係式「At×(Fb/Ft)=Ab<At」が成立する場合のpHより0.20以上低いpHで開始する
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の原料液の製造方法。
【請求項6】
原料液を使用する飲料の製造方法であって、
請求項1乃至のいずれかに記載の方法により前記原料液を製造することを含む
ことを特徴とする飲料の製造方法。
【請求項7】
ホップ原料から、飲料の製造に使用される原料液又は前記原料液を使用して製造される前記飲料への苦味の移行を向上させる方法であって、
前記原料液の製造に含まれる、総量Ftの原液に、総量Htの前記ホップ原料と、総量Atの酸とを添加して煮沸する調製工程において、下記部分調製(a)及び(b)を行
(a)部分量Faの前記原液に、部分量Haの前記ホップ原料と、部分量Aaの前記酸とを添加して煮沸する(ただし、次の関係式「Fa<Ft」、「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」及び「0≦Aa<At×(Fa/Ft)」が成立する。);
(b)部分量Fbの前記原液に、部分量Hbの前記ホップ原料と、部分量Abの前記酸とを添加して煮沸する(ただし、次の関係式「Fb<Ft」、「0<HbHt×(Fb/Ft)×0.55」及び「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」が成立する。);
前記部分調製(a)で調製された原料液の苦味価を、前記ホップ原料の部分量Haで除して得られる苦味価付与率が、前記関係式「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」及び「0≦Aa<At×(Fa/Ft)」に代えて次の関係式「Ht×(Fa/Ft)=Ha<Ht」及び「0<Aa=At×(Fa/Ft)」が成立する以外は前記部分調製(a)と同一の条件で原料液を調製する対照部分調製(a)の苦味付与率より高くなり、且つ
前記部分調製(b)で調製された原料液の苦味価を、前記ホップ原料の部分量Hbで除して得られる苦味価付与率が、前記関係式「0<Hb≦Ht×(Fb/Ft)×0.55」及び「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」に代えて次の関係式「0<Hb=Ht×(Fb/Ft)」及び「At×(Fb/Ft)=Ab<At」が成立する以外は前記部分調製(b)と同一の条件で原料液を調製する対照部分調製(b)の苦味付与率より高くなるように、
前記部分調製(a)及び(b)を行う、
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
ホップ原料から、飲料の製造に使用される原料液又は前記原料液を使用して製造される前記飲料への苦味の移行を向上させる方法であって、
前記原料液の製造に含まれる、総量Ftの原液に、総量Htの前記ホップ原料と、総量Atの酸とを添加して煮沸する調製工程において、下記部分調製(a)及び(b)を行い:
(a)部分量Faの前記原液に、部分量Haの前記ホップ原料と、部分量Aaの前記酸とを添加して煮沸する(ただし、次の関係式「Fa<Ft」、「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」及び「0≦Aa<At×(Fa/Ft)」が成立する。);
(b)部分量Fbの前記原液に、部分量Hbの前記ホップ原料と、部分量Abの前記酸とを添加して煮沸する(ただし、次の関係式「Fb<Ft」、「0<Hb≦Ht×(Fb/Ft)×0.55」及び「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」が成立する。);、
前記製造される原料液の苦味価を、前記ホップ原料の総量Htで除して得られる苦味価付与率が、前記部分調製(a)を前記関係式「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」及び「0≦Aa<At×(Fa/Ft)」に代えて次の関係式「Ht×(Fa/Ft)=Ha<Ht」及び「0<Aa=At×(Fa/Ft)」が成立する以外は同一の条件で行い、且つ前記部分調製(b)を前記関係式「0<Hb≦Ht×(Fb/Ft)×0.55」及び「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」に代えて次の関係式「0<Hb=Ht×(Fb/Ft)」及び「At×(Fb/Ft)=Ab<At」が成立する以外は同一の条件で行う対照方法における前記苦味付与率より高くなるように、前記原料液を製造する、
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料液、飲料及びこれらに関する方法に関し、特に、ホップ原料を使用する原料液、飲料及びこれらに関する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ビール、発泡酒、ビール風飲料といった発酵アルコール飲料の製造において、ホップは、麦汁を煮沸する際に添加され、その結果、当該ホップ由来の苦味が当該麦汁に移行することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−139671号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Schuster/Weinfurtner/Narziss : Die Bierbrauerei, Zweiter Band, Die Technologie der Wurzebereitung, 7. Aufl., Enke (1992), pp.274
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、pHが低下すると、ホップに由来する苦味の移行効率が低下する(非特許文献1参照)。この点、ホップに加え、さらに酸を添加して煮沸を行う場合には、当該ホップに由来する苦味の移行に改善の余地があると考えられた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、ホップに由来する苦味の効果的な移行を達成する原料液、飲料及びこれらに関する方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る原料液の製造方法は、飲料の製造に使用される原料液の製造方法であって、総量Ftの原液に、総量Htのホップ原料と、総量Atの酸とを添加して煮沸する調製工程を含み、前記調製工程は、下記部分調製(a)及び(b)を含む:(a)部分量Faの前記原液に、部分量Haの前記ホップ原料と、部分量Aaの前記酸とを添加して煮沸する(ただし、次の関係式「Fa<Ft」、「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」及び「0≦Aa<At×(Fa/Ft)」が成立する。);(b)部分量Fbの前記原液に、部分量Hbの前記ホップ原料と、部分量Abの前記酸とを添加して煮沸する(ただし、次の関係式「Fb<Ft」、「0<Hb<Ht×(Fb/Ft)」及び「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」が成立する。);ことを特徴とする。本発明によれば、ホップに由来する苦味の効果的な移行を達成する原料液の製造方法を提供することができる。
【0008】
また、前記部分調製(b)における前記ホップ原料の前記部分量Hbについて、次の関係式「0<Hb≦Ht×(Fb/Ft)×0.65」が成立することとしてもよい。また、前記部分調製(b)における前記酸の前記部分量Abについて、次の関係式「At×(Fb/Ft)×1.5<Ab≦At」が成立することとしてもよい。また、前記部分調製(b)における煮沸は、前記関係式「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」に代えて次の関係式「At×(Fb/Ft)=Ab<At」が成立する場合のpHより0.20以上低いpHで開始することとしてもよい。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る飲料の製造方法は、原料液を使用する飲料の製造方法であって、前記いずれかの方法により前記原料液を製造することを含むことを特徴とする。本発明によれば、ホップに由来する苦味の効果的な移行を達成する飲料の製造方法を提供することができる。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る原料液は、前記いずれかの原料液の製造方法により製造されたことを特徴とする。本発明によれば、ホップに由来する苦味の効果的な移行が達成された原料液を提供することができる。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る飲料は、前記飲料の製造方法により製造されたことを特徴とする。本発明によれば、ホップに由来する苦味の効果的な移行が達成された飲料を提供することができる。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る方法は、ホップ原料から、飲料の製造に使用される原料液又は前記原料液を使用して製造される前記飲料への苦味の移行を向上させる方法であって、前記原料液の製造に含まれる、総量Ftの原液に、総量Htの前記ホップ原料と、総量Atの酸とを添加して煮沸する調製工程において、下記部分調製(a)及び(b)を行う:(a)部分量Faの前記原液に、部分量Haの前記ホップ原料と、部分量Aaの前記酸とを添加して煮沸する(ただし、次の関係式「Fa<Ft」、「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」及び「0≦Aa<At×(Fa/Ft)」が成立する。);(b)部分量Fbの前記原液に、部分量Hbの前記ホップ原料と、部分量Abの前記酸とを添加して煮沸する(ただし、次の関係式「Fb<Ft」、「0<Hb<Ht×(Fb/Ft)」及び「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」が成立する。);ことを特徴とする。本発明によれば、ホップに由来する苦味の効果的な移行を達成する方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ホップに由来する苦味の効果的な移行を達成する原料液、飲料及びこれらに関する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る実施例1において、苦味価付与率を評価した結果を示す説明図である。
図2】本発明の一実施形態に係る実施例2において、苦味価付与率を評価した結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0016】
本実施形態に係る方法(本方法)の一つは、飲料の製造に使用される原料液の製造方法であって、総量Ftの原液に、総量Htのホップ原料と、総量Atの酸とを添加して煮沸する調製工程を含み、当該調製工程は、下記部分調製(a)及び(b)を含む:(a)部分量Faの当該原液に、部分量Haの当該ホップ原料と、部分量Aaの当該酸とを添加して煮沸する(ただし、次の関係式「Fa<Ft」、「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」及び「0≦Aa<At×(Fa/Ft)」が成立する。);(b)部分量Fbの当該原液に、部分量Hbの当該ホップ原料と、部分量Abの当該酸とを添加して煮沸する(ただし、次の関係式「Fb<Ft」、「0<Hb<Ht×(Fb/Ft)」及び「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」が成立する。)。本実施形態に係る原料液は、この方法により製造される。
【0017】
原液の量については、次の関係式「Fa+Fb≦Ft」が成立する。また、次の関係式「Fa=Fb」、「Fa>Fb」及び「Fa<Fb」のいずれが成立してもよい。ホップ原料の量及び酸の量については、それぞれ次の関係式「Ha+Hb≦Ht」及び「Aa+Ab≦At」も成立する。ホップ原料及び酸の量は、例えば、製造される原料液1kLあたりに使用される量であることとしてもよい。
【0018】
本方法の他の一つは、原料液を使用する飲料の製造方法であって、本実施形態に係る原料液の製造方法により当該原料液を製造することを含む。本実施形態に係る飲料は、この方法により製造される。
【0019】
本方法のさらに他の一つは、ホップ原料から、飲料の製造に使用される原料液又は当該原料液を使用して製造される当該飲料への苦味の移行を向上させる方法であって、当該原料液の製造に含まれる、総量Ftの原液に、総量Htの当該ホップ原料と、総量Atの酸とを添加して煮沸する調製工程において、下記部分調製(a)及び(b)を行う:(a)部分量Faの当該原液に、部分量Haの当該ホップ原料と、部分量Aaの当該酸とを添加して煮沸する(ただし、次の関係式「Fa<Ft」、「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」及び「0≦Aa<At×(Fa/Ft)」が成立する。);(b)部分量Fbの当該原液に、部分量Hbの当該ホップ原料と、部分量Abの当該酸とを添加して煮沸する(ただし、次の関係式「Fb<Ft」、「0<Hb<Ht×(Fb/Ft)」及び「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」が成立する。)。
【0020】
原料液の製造においてホップ原料及び酸が添加される原液は、水であってもよいし、水と所定の原料とを使用して調製された溶液であってもよい。原液は、例えば、植物原料を使用して調製されてもよい。この場合、原液は、例えば、水(例えば、20℃〜90℃の水)と植物原料を混合して調製される。
【0021】
植物原料は、飲料の製造に使用される植物由来の原料であれば特に限られないが、穀類(例えば、大麦、小麦、米類及びとうもろこしからなる群より選択される1種以上)、豆類及びいも類からなる群より選択される1種以上を含んでもよい。これら穀類、豆類及びいも類は、発芽させたもの(例えば、大麦麦芽、小麦麦芽、発芽豆類)であってもよく、発芽させていないものであってもよい。
【0022】
原液は、植物原料の一部又は全部として、麦芽及び/又は麦芽エキスを使用して調製されてもよい。麦芽は、大麦麦芽及び/又は小麦麦芽であってもよい。大麦麦芽及び小麦麦芽は、それぞれ大麦及び小麦を発芽させることにより得られる。麦芽エキスは、麦芽から、糖分及び窒素分を含むエキス分を抽出することにより得られる麦芽抽出物である。麦芽エキスは、市販の麦芽エキスであってもよい。原液が、麦芽を含む植物原料を使用して調製される場合、当該植物原料は、1〜100重量%の麦芽を含んでもよく、1〜99重量%の麦芽を含んでもよく、20〜90重量%の麦芽を含んでもよい。
【0023】
原液が、麦芽を使用して調製される場合、当該原液は、糖化を行って調製されてもよい。糖化は、少なくとも水と麦芽とを混合して得られた混合液を、当該麦芽に含まれる消化酵素(例えば、デンプン分解酵素、タンパク質分解酵素)が働く温度(例えば、30〜90℃)に維持することにより行う。
【0024】
原液は、アルコール発酵を行うことなく調製されてもよい。原液は、アルコール濃度が0.005体積%未満であってもよい。原液は、ホップ原料を使用することなく調製されてもよい。原液は、ホップ原料以外の植物原料を使用して調製されてもよい。原液は、麦芽及び/又は麦芽エキスを使用し、ホップ原料を使用することなく調製されてもよい。
【0025】
ホップ原料は、原料液又は飲料にホップ由来の苦味を付与するものであれば特に限られないが、例えば、プレスホップ(乾燥させたホップの球果を圧縮して得られる)、ホップパウダー(乾燥させたホップの球果を粉砕して得られる)、ホップペレット(当該ホップパウダーをペレット状に圧縮成形して得られる)及びホップエキス(ホップをエタノール又は炭酸ガスで抽出して得られる)からなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0026】
また、ホップ原料は、ホップのルプリンを含んでもよい。ホップのルプリンを含むホップ原料は、プレスホップ、ホップパウダー及びホップペレットからなる群より選択される1種以上であってもよい。ホップのルプリンを含むホップ原料を使用する場合、さらにホップエキスを使用してもよい。
【0027】
原液に添加する酸は、当該原液に添加されることで、当該原液のpHを低下させるものであれば特に限られないが、例えば、乳酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸及び酒石酸からなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0028】
そして、本方法において、原液にホップ原料及び酸を添加して煮沸する調製工程は、上述のとおり、少なくとも部分調製(a)及び(b)を含む、複数回の部分調製によって行われる。なお、ホップ原料及び酸が添加された原液の煮沸は、例えば、当該原液を100℃以上に加熱することにより行う。
【0029】
ここで、複数回の部分調製を行う場合の一般的な方法としては、原液、ホップ原料及び酸をそれぞれ等分して使用する部分調製を複数回行うことが考えられる。すなわち、総量Ftの原液に、総量Htのホップ原料と、総量Atの酸とを添加して煮沸する調製工程を、Nt回(Ntは2以上の整数)の部分調製により行う場合には、部分量Ft/Ntの原液に、部分量Ht/Ntのホップ原料と、部分量At/Ntの酸とを添加して煮沸する部分調製をNt回行うことになる。
【0030】
また、原液を等分しない場合の一般的な方法としては、各部分調製においては、原液の部分量に対する、ホップ原料の部分量及び酸の部分量の比率を、当該原液の総量に対する、当該ホップ原料の総量及び当該酸の総量の比率に一致させて行うことが考えられる。すなわち、総量Ftの原液に、総量Htのホップ原料と、総量Atの酸とを添加して煮沸する調製工程を、複数回の部分調製により行う場合、1つの部分調製においては、部分量Fpの原料液に対して、ホップ原料の総量Htに、原液の総量Ftに対する当該部分量Fpの比率(Fp/Ft)を乗じて得られる量(Ht×(Fp/Ft))のホップ原料と、酸の総量Atに当該比率を乗じて得られる量(At×(Fp/Ft))の酸とを添加することになる。
【0031】
これに対し、本実施形態では、上述した一般的な方法における部分調製とは異なる2種類の部分調製(a)及び(b)を行う。まず部分調製(a)において、次の関係式「Fa<Ft」、「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」及び「0≦Aa<At×(Fa/Ft)」が成立するよう、部分量Faの原液に、部分量Haのホップ原料と、部分量Aaの酸とを添加して煮沸する。
【0032】
すなわち、部分調製(a)において部分量Faの原液に添加されるホップ原料の部分量Haは、当該ホップ原料の総量Htに、原液の総量Ftに対する当該部分量Faの比率(Fa/Ft)を乗じて得られる量(Ht×(Fa/Ft))より大きい。
【0033】
また、部分調製(a)において部分量Faの原液に添加される酸の部分量Aaは、当該酸の総量Atに、原液の総量Ftに対する当該部分量Faの比率を乗じて得られる量(At×(Fa/Ft))より小さい。
【0034】
なお、上記関係式より、部分調製(a)においては、酸を添加しなくてもよい(Aa=0)。すなわち、部分調製(a)は、次の部分調製(a1)及び/又は(a2)であるともいえる:(a1)部分量Faの原液に、部分量Haのホップ原料と、部分量Aaの酸とを添加して煮沸する(ただし、次の関係式「Fa<Ft」、「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」及び「0<Aa<At×(Fa/Ft)」が成立する。);、(a2)部分量Faの原液に、酸を添加することなく、部分量Haのホップ原料を添加して煮沸する(ただし、次の関係式「Fa<Ft」、「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」が成立する。)。
【0035】
一方、部分調製(b)においては、次の関係式「Fb<Ft」、「0<Hb<Ht×(Fb/Ft)」及び「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」が成立するように、部分量Fbの原液に、部分量Hbのホップ原料と、部分量Abの酸とを添加して煮沸する。
【0036】
すなわち、部分調製(b)において部分量Fbの原液に添加されるホップ原料の部分量Hbは、ホップ原料の総量Htに、原液の総量Ftに対する当該部分量Fbの比率(Fb/Ft)を乗じて得られる量(Ht×(Fb/Ft))より小さい。
【0037】
また、部分調製(b)において部分量Fbの原液に添加される酸の部分量Abは、酸の総量Atに、原液の総量Ftに対する当該部分量Fbの比率を乗じて得られる量(At×(Fb/Ft))より大きい。
【0038】
なお、上記関係式より、部分調製(b)における酸の部分量Abは、酸の総量Atであってもよい(Aa=At)。この場合、他の部分調製においては、酸を添加しないこととなる。また、部分調製(b)における酸の部分量Abは、酸の総量Atより小さくてもよい(Aa<At)。この場合、他の部分調製の少なくとも1つ(例えば、部分調製(a))において、少量の酸を添加することとなる。
【0039】
本方法において、原液をNt等分して、Nt回の部分調製を行う場合には、次の関係式「Fa=Fb=(Ft/Nt)」が成立するため、部分調製(a)は、次の関係式「(Ht/Nt)<Ha<Ht」及び「0≦Aa<(At/Nt)」が成立するよう行い、部分調製(b)は、次の関係式「0<Hb<(Ht/Nt)」及び「At/Nt<Ab≦At」が成立するように行うことになる。
【0040】
なお、部分調製(a)における原液の部分量Faと、部分調製(b)における原液の部分量Fbとは、同一であってもよいが、これに限られず、異なっていてもよい。ただし、次の関係式「Fa/Fb=0.1〜10.0」が成立することとしてもよく、好ましくは「Fa/Fb=0.2〜5.0」が成立し、より好ましくは「Fa/Fb=0.5〜2.0」が成立する。
【0041】
本方法においては、上述のような部分調製(a)及び(b)を含む調製工程を行って、飲料の製造に使用される原料液を製造する。すなわち、例えば、部分調製(a)において得られる煮沸後の原液と、部分調製(b)において得られる煮沸後の原液とを混合することにより、原料液を得る。
【0042】
また、部分調製(a)において得られる煮沸後の原液と、部分調製(b)において得られる煮沸後の原液と、さらに他の成分とを混合して、原料液を得てもよい。他の成分は、例えば、糖類、食物繊維、酸味料、色素、香料、甘味料及び苦味料からなる群より選択される1種以上である。
【0043】
本方法においては、アルコール発酵を行うことなく原料液を製造してもよい。また、アルコール濃度が0.005体積%未満の原料液を製造してもよい。
【0044】
本方法において、上述のような部分調製(a)及び(b)を含む調製工程を行って原料液を製造することにより、ホップ原料から、当該原料液、又は当該原料液を使用して製造される飲料への効果的な苦味の移行が達成される。苦味は、苦味価(BU:Bitter Unit)として評価される。
【0045】
すなわち、例えば、本方法においては、部分調製(a)で調製された部分原料液の苦味価を、ホップ原料の部分量Haで除して得られる苦味価付与率が、上記関係式「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」及び「0≦Aa<At×(Fa/Ft)」に代えて次の関係式「Ht×(Fa/Ft)=Ha<Ht」及び「0<Aa=At×(Fa/Ft)」が成立する以外は上記部分調製(a)と同一の条件で部分原料液を調製する対照部分調製(a)の苦味付与率より高くなり、且つ部分調製(b)で調製された部分原料液の苦味価を、ホップ原料の部分量Hbで除して得られる苦味価付与率が、上記関係式「0<Hb<Ht×(Fb/Ft)」及び「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」に代えて次の関係式「0<Hb=Ht×(Fb/Ft)」及び「At×(Fb/Ft)=Ab<At」が成立する以外は上記部分調製(b)と同一の条件で部分原料液を調製する対照部分調製(b)の苦味付与率より高くなる。
【0046】
具体的に、例えば、本方法においては、上述のようにして得られる部分調製(a)の苦味価付与率が、上記対照部分調製(a)の苦味付与率を100%とする相対値として、101%以上であり、且つ上述のようにして得られる部分調製(b)の苦味価付与率が、上記対照部分調製(b)の苦味価付与率を100%とする相対値として、101%以上であることとしてもよい。
【0047】
また、上記部分調製(a)の苦味価付与率が、上記対照部分調製(a)の苦味付与率を100%とする相対値として、102%以上であり、且つ上記部分調製(b)の苦味価付与率が、上記対照部分調製(b)の苦味価付与率を100%とする相対値として、102%以上であることとしてもよい。
【0048】
また、上記部分調製(a)の苦味価付与率が、上記対照部分調製(a)の苦味付与率を100%とする相対値として、103%以上であり、且つ上記部分調製(b)の苦味価付与率が、上記対照部分調製(b)の苦味価付与率を100%とする相対値として、103%以上であることとしてもよい。
【0049】
また、本方法においては、造される原料液の苦味価を、ホップ原料の総量Htで除して得られる苦味価付与率が、部分調製(a)を上記関係式「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」及び「0≦Aa<At×(Fa/Ft)」に代えて次の関係式「Ht×(Fa/Ft)=Ha<Ht」及び「0<Aa=At×(Fa/Ft)」が成立する以外は同一の条件で行い、且つ部分調製(b)を上記関係式「0<Hb<Ht×(Fb/Ft)」及び「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」に代えて次の関係式「0<Hb=Ht×(Fb/Ft)」及び「At×(Fb/Ft)=Ab<At」が成立する以外は同一の条件で行う対照方法における当該苦味付与率より高くなることとしてもよい。
【0050】
具体的に、例えば、本方法においては、上述のようにして得られる苦味価付与率が、上記対照方法の苦味付与率を100%とする相対値として、101%以上であってもよく、102%以上であってもよく、103%以上であってもよい。
【0051】
なお、原料液の苦味価は、次のようにして測定される(文献「改訂 BCOJビール分析法 2013年増補改訂、ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編、公益財団法人日本醸造協会発行」の「7.12 苦味価」及び「8.15 苦味価(IM)」参照)。まず、原料液をろ過する。ろ過後の原料液に含まれる苦味成分(主にイソα酸)をイソオクタン(2,2,4−トリメチルペンタン)で抽出する。苦味成分を含むイソオクタン層の波長275nmにおける吸光度を、純粋なイソオクタンを対照として、分光光度計で測定する。測定された吸光度に係数50を乗じて得られた値を、原料液の苦味価として得る。なお、分光光度計としては、紫外部測定が可能で、スリット幅を2mm以下にできるものを使用し、光路長10mmの石英セルを使用する。
【0052】
本方法の調製工程に含まれる部分調製(a)の回数及び部分調製(b)の回数は、それぞれ1回以上であれば、特に限られない。すなわち、本方法の調製工程は、1回以上の部分調製(a)と、1回以上の部分調製(b)とを含む。
【0053】
また、本方法における調製工程は、苦味価の移行が向上する範囲であれば、部分調製(a)及び(b)に加えて、さらに他の部分調製を含んでもよい。また、本方法の調製工程は、1回以上の部分調製(a)と、1回以上の部分調製(b)とから構成される(他の部分調製を含まない。)こととしてもよい。
【0054】
本方法においては、上記部分調製(b)におけるホップ原料の部分量Hbについて、次の関係式「0<Hb≦Ht×(Fb/Ft)×0.65」が成立することとしてもよい。すなわち、部分調製(b)におけるホップ原料の部分量Hbは、当該ホップ原料の総量Htに、原液の総量Ftに対する部分量Fbの比率(Fb/Ft)を乗じて得られる量の0.65倍以下であることとしてもよい。さらに、この場合、次の関係式「0<Hb≦Ht×(Fb/Ft)×0.60」、「0<Hb≦Ht×(Fb/Ft)×0.55」又は「0<Hb≦Ht×(Fb/Ft)×0.50」が成立することとしてもよい。
【0055】
ホップ原料の部分量Hbについて上記関係式が成立することにより、当該ホップ原料に由来する苦味をより効果的に移行させることができる。なお、ホップ原料の部分量Hbの下限値は特に限られないが、例えば、次の関係式「Ht×(Fb/Ft)×0.01≦Hb」が成立することとしてもよい。
【0056】
また、本方法において、ホップ原料の総量Htは、苦味価として20以上であることとしてもよく、25以上であってもよい。
【0057】
また、本方法においては、ホップ原料の総量Htが苦味価として20以上、又は25以上であり、且つ部分調製(b)におけるホップ原料の部分量Hbについて、上記関係式「0<Hb≦Ht×(Fb/Ft)×0.65」、「0<Hb≦Ht×(Fb/Ft)×0.60」が成立することとしてもよい。さらに、これらの場合、部分調製(b)におけるホップ原料の部分量Hbについて、次の関係式「0<Hb≦Ht×(Fb/Ft)×0.55」又は「0<Hb≦Ht×(Fb/Ft)×0.50」が成立することとしてもよい。なお、ホップ原料の総量Htの苦味価の上限値は特に限られないが、当該苦味価は、例えば、100以下であることとしてもよい。
【0058】
また、本方法では、上記部分調製(b)において、ホップ原料の部分量Hbは、苦味価として19.5以下であることとしてもよい。さらに、この場合、ホップ原料の部分量Hbは、苦味価として18.0以下であってもよいし、16.5以下であってもよいし、15.0以下であってもよい。
【0059】
部分調製(b)におけるホップ原料の部分量Hbが苦味価として上記範囲であることにより、当該ホップ原料に由来する苦味をより効果的に移行させることができる。なお、ホップ原料の部分量Hbの苦味価の下限値は特に限られないが、例えば、0.3以上であってもよい。
【0060】
さらに、本方法においては、ホップ原料の総量Htが、苦味価として20以上、又は25以上であり、且つ部分調製(b)におけるホップ原料の部分量Hbは、苦味価として19.5以下であることとしてもよい。さらに、これらの場合、部分調製(b)におけるホップ原料の部分量Hbは、苦味価として18.0以下、16.5以下又は15.0以下であることとしてもよい。
【0061】
また、本方法において、部分調製(b)における酸の部分量Abについて、次の関係式「At×(Fb/Ft)×1.5≦Ab≦At」が成立することとしてもよい。すなわち、部分調製(b)における酸の部分量Abは、酸の総量Atに、原液の総量Ftに対する部分量Fbの比率(Fb/Ft)を乗じて得られる量(At×(Fb/Ft))の1.5倍以上であることとしてもよい。さらに、この場合、次の関係式「At×(Fb/Ft)×2.0≦Ab≦At」、「At×(Fb/Ft)×2.5≦Ab≦At」又は「At×(Fb/Ft)×3.0≦Ab≦At」が成立することとしてもよい。
【0062】
また、本方法において、酸の総量Atは、総量Ftの原液に添加された場合に煮沸前のpHが3.50〜6.00の範囲となる量であることとしてもよい。すなわち、この場合、総量Ftの原液に、総量Htのホップ原料と、当該総量Ftの原液に添加された場合に煮沸前のpHが3.50〜6.00の範囲となる総量Atの酸とを添加して煮沸する。また、この場合、酸の総量Atは、総量Ftの原液に添加された場合に煮沸前のpHが4.00〜5.80の範囲となる量であることが好ましく、4.80〜5.40の範囲となる量であることがより好ましい。
【0063】
さらに、本方法においては、酸の総量Atは、総量Ftの原液に添加された場合に煮沸前のpHが3.50〜6.00の範囲、4.00〜5.80の範囲又は4.80〜5.40の範囲となる量であり、且つ部分調製(b)における酸の部分量Abについて、上記関係式「At×(Fb/Ft)×1.5≦Ab≦At」が成立することとしてもよい。さらに、これらの場合、部分調製(b)における酸の部分量Abについて、次の関係式「At×(Fb/Ft)×2.0≦Ab≦At」、「At×(Fb/Ft)×2.5≦Ab≦At」又は「At×(Fb/Ft)×3.0≦Ab≦At」が成立することとしてもよい。
【0064】
また、本方法において、部分調製(b)における煮沸は、上記関係式「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」に代えて次の関係式「At×(Fb/Ft)=Ab<At」が成立する場合のpHより0.20以上低いpHで開始することとしてもよい。
【0065】
すなわち、部分調製(b)における煮沸前のpHは、上記関係式「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」が成立する部分量Abに代えて、上記関係式「At×(Fb/Ft)=Ab<At」が成立する部分量Abの酸を添加した場合(酸の総量Atに、原液の総量Ftに対する部分量Fbの比率を乗じて得られる量(At×(Fb/Ft))である部分量Abで酸を添加した場合)の煮沸前pHよりも、0.20以上低いこととしてもよい。
【0066】
さらに、この場合、部分調製(b)における煮沸は、上記関係式「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」に代えて次の関係式「At×(Fb/Ft)=Ab<At」が成立する場合のpHより0.25以上低いpHで開始してもよく、0.30以上低いpHで開始してもよく、0.35以上低いpHで開始してもよく、0.40以上低いpHで開始してもよい。
【0067】
また、本方法においては、酸の総量Atは、総量Ftの原液に添加された場合に煮沸前のpHが3.50〜6.00の範囲、4.00〜5.80の範囲又は4.80〜5.40の範囲となる量であり、且つ部分調製(b)における煮沸は、上記関係式「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」に代えて次の関係式「At×(Fb/Ft)=Ab<At」が成立する場合のpHより0.20以上低いpHで開始することとしてもよい。さらに、これらの場合、部分調製(b)における煮沸は、上記関係式「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」に代えて次の関係式「At×(Fb/Ft)=Ab<At」が成立する場合のpHより0.25以上低いpHで開始してもよく、0.30以上低いpHで開始してもよく、0.35以上低いpHで開始してもよく、0.40以上低いpHで開始してもよい。
【0068】
なお、これらの場合の煮沸前のpHの下限値は特に限られないが、例えば、部分調製(b)における煮沸は、上記関係式「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」に代えて次の関係式「At×(Fb/Ft)=Ab<At」が成立する場合のpHより1.5低いpH以上のpHで開始することとしてもよい。
【0069】
本実施形態に係る飲料の製造方法において、当該飲料は、上述のようにして製造された原料液を使用して製造される。すなわち、例えば、原料液のアルコール発酵を行うことにより、飲料を製造する。アルコール発酵は、例えば、原料液に酵母(例えば、ビール酵母)を添加して行う。なお、本方法において、原料液のアルコール発酵を行ってビールを製造する場合、当該原料液は、ビールの製造における冷麦汁(酵母を添加する麦汁)に相当する。
【0070】
アルコール発酵は、酵母が添加された原料液を所定の温度(例えば、5℃〜40℃)で所定の時間(例えば、1日〜14日)維持することにより行う。アルコール発酵開始時の原料液における酵母の密度は、例えば、1×10個/mL〜3×10個/mLである。さらに、アルコール発酵に続いて、熟成を行うこととしてもよい。熟成は、アルコール発酵後の原料液をさらに所定の温度(例えば、−3℃〜20℃)で所定の時間(例えば、1日〜100日)維持することにより行う。
【0071】
また、例えば、アルコール発酵を行うことなく、原料を使用して飲料を製造する。この場合、例えば、アルコール発酵を行うことなく、原料液に他の成分を添加して、飲料を製造する。他の成分は、例えば、糖類、食物繊維、酸味料、色素、香料、甘味料及び苦味料からなる群より選択される1種以上である。
【0072】
飲料は、アルコール飲料であってもよい。アルコール飲料は、アルコール濃度が1体積%以上(アルコール分1度以上)(例えば、1〜20体積%又は1〜10体積%)の飲料である。アルコール飲料のアルコール濃度は、1体積%以上であれば特に限られないが、3体積%以上(例えば、3〜20体積%又は3〜10体積%)であってもよく、4体積%超(例えば、4体積%超、20体積%以下、又は4体積%超、10体積%以下)であってもよく、4.1体積%以上(例えば、4.1〜20体積%又は4.1〜10体積%)であってもよい。
【0073】
アルコール飲料は、例えば、上述のようなアルコール発酵を行って製造してもよく、又はアルコール発酵を行うことなく原料液にアルコール(例えば、エタノール)を添加して製造してもよい。
【0074】
飲料は、ノンアルコール飲料であってもよい。ノンアルコール飲料は、アルコール濃度が1体積%未満の発泡性飲料である。ノンアルコール飲料のアルコール濃度は、1体積%未満であれば特に限られないが、0.5体積%未満であってもよく、0.05体積%未満であってもよく、0.005体積%未満であってもよい。
【0075】
ノンアルコール飲料は、例えば、アルコール発酵を行うことなく、原料液に他の成分を添加して製造してもよく、又は上述のようなアルコール発酵を行った後、アルコールを除去する処理を施して製造してもよい。
【0076】
飲料は、発泡性飲料であってもよい。発泡性飲料は、泡立ち特性及び泡持ち特性を含む泡特性を有する飲料である。すなわち、発泡性飲料は、例えば、炭酸ガスを含有する飲料であって、グラス等の容器に注いだ際に液面上部に泡の層が形成される泡立ち特性と、その形成された泡が一定時間以上保たれる泡持ち特性とを有する飲料である。
【0077】
発泡性飲料は、例えば、アルコール発酵、炭酸水の使用、及びカーボネーション処理からなる群より選択される1つ以上の方法を使用して製造してもよい。
【0078】
飲料は、発泡性アルコール飲料であることとしてもよい。発泡性アルコール飲料は、上述のような泡特性を有するアルコール飲料である。飲料は、発泡性ノンアルコール飲料であることとしてもよい。発泡性ノンアルコール飲料は、上述のような泡特性を有するノンアルコール飲料である。
【0079】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0080】
まず、麦芽を使用して原液を調製した。すなわち、粉砕された大麦麦芽及び大麦に50℃の湯を加えてタンパク休止を行い、得られた混合液を65℃で維持することにより、糖化を行った。次いで、糖化後の混合液から大麦麦芽及び大麦の穀皮を除去した。こうして、原液を得た。
【0081】
一方、ホップ原料としては、ホップペレット及びホップエキスを用意し、酸としては、乳酸を用意した。乳酸の添加は、乳酸を90w/w%含む水溶液(以下、「90%乳酸」という。)を添加することにより行った。
【0082】
ホップ原料の総量Htは苦味価として108.4であり、酸の総量Atは0.72(90%乳酸L/kL)であった。ここで、酸の添加量として、0.72(90%乳酸L/kL)は、製造される原料液1kLあたり、90%乳酸を0.72L添加したことを表す。
【0083】
そして、本実施例では、所定の総量Ft(kL)の原液に、上記総量Htのホップ原料と、上記総量Atの酸とを添加して煮沸する調製工程において、2回の部分調製(a)と1回の部分調製(b)とからなる3回の部分調製を行った(Nt=3)。なお、各部分調製では、総量Ftの原液を3等分した、部分量Ft/3(総量Ftの3分の1)の原液を使用した。
【0084】
まず、例1−a1として、次の関係式「(Ht/Nt)<Ha<Ht」及び「0=Aa<(At/Nt)」が成立するよう、部分量Ft/3の原液に、酸を添加することなく(Aa=0)、部分量Haのホップ原料を添加して煮沸する部分調製(a)を行った。
【0085】
具体的には、部分量Ft/3の原液に、酸を添加することなく、苦味価として47.6の部分量のホップ原料を添加して、当該ホップ原料を含むpH5.43の原液を調製した。次いで、この原液のpHを煮沸前pHとして測定した。その後、原液の煮沸を80分間行い、部分原料液を得た。また、例1−a2として、上記例1−a1と同様に部分調製(a)を行い、部分原料液を得た。
【0086】
さらに、例1−bとして、次の関係式「0<Hb<Ht/Nt)」及び「(At/Nt」<Ab=At」が成立するよう、部分量Ft/3の原液に、部分量Hbのホップ原料と、部分量Abの酸とを添加して煮沸する部分調製(b)を行った。
【0087】
具体的には、部分量Ft/3の原液に、苦味価として13.2の部分量のホップ原料と、0.72(90%乳酸L/kL)の酸とを添加して、pH4.76の原液を調製した。次いで、この原液のpHを煮沸前pHとして測定した。その後、原液の煮沸を80分間行い、部分原料液を得た。
【0088】
そして、上記部分調製(a)及び(b)で得られた3つの部分原料液を混合して、原料液を得た。また、この原料液の苦味価を測定した。
【0089】
一方、対照として、所定総量の原液、苦味価として109.5の総量のホップ原料及び総量0.72(90%乳酸L/kL)の酸をそれぞれ3等分して使用して部分調製を3回行い、原料液を製造した。
【0090】
すなわち、対照では、上記関係式「Ht×(Fa/Ft)<Ha<Ht」及び「0≦Aa<At×(Fa/Ft)」に代えて次の関係式「Ht×(Fa/Ft)=Ha<Ht」及び「0<Aa=At×(Fa/Ft)」が成立する以外は上記部分調製(a)と同一の条件で、及び上記関係式「0<Hb<Ht×(Fb/Ft)」及び「At×(Fb/Ft)<Ab≦At」に代えて次の関係式「0<Hb=Ht×(Fb/Ft)」及び「At×(Fb/Ft)=Ab<At」が成立する以外は上記部分調製(b)と同一の条件で部分原料液を調製した。
【0091】
具体的に、対照1−1、対照1−2及び対照1−3のそれぞれにおいて、部分量Ft/3の部分原液に、苦味価として36.5の部分量のホップ原料と、部分量0.24(90%乳酸L/kL)の酸とを添加して、pH5.16の原液を調製した。次いで、この原液のpHを煮沸前pHとして測定した。その後、原液の煮沸を80分間行い、部分原料液を得た。
【0092】
そして、上記3回の部分調製で得られた3つの部分原料液を混合して、原料液を得た。また、この原料液の苦味価を測定した。
【0093】
さらに、対照1−1、対照1−2及び対照1−3における苦味価付与率を100%とする相対値として、例1−a1、例1−a2及び例1−bの「苦味価付与率(%/対照)」を算出した。すなわち、まず対照1−1、対照1−2及び対照1−3のそれぞれにおいて、製造された部分原料液の苦味価を、使用されたホップ原料の部分量で除して苦味価付与率を算出した。なお、これら3つの対照における苦味価付与率は同一であった。一方、例1−a1において、製造された部分原料液の苦味価を、使用されたホップ原料の部分量で除して苦味価付与率を算出した。そして、この例1−a1の苦味価付与率を、上記の対照における苦味価付与率で除して、100を乗じることにより、当該例1−a1の「苦味価付与率(%/対照)」を算出した。具体的に、例1−a1の苦味価付与率は、次の式により算出した:「苦味価付与率(%/対照)=[(例1−a1の苦味価付与率)/(対照例の苦味価付与率)]×100」。同様にして、例1−a2及び例1−bの「苦味価付与率(%/対照)」も算出した。
【0094】
なお、本実施例に先立って予備的に行った試験により、後述のとおり、対照における苦味価付与率が上記例1−a1、例1−a2及び例1−2より低くなることが予測された。このため、上記対照では、最終的に原料液及び飲料に付与される苦味価を例1−a1、例1−a2及び例1−2の苦味価と同等とするため、当該例1−a1、例1−a2及び例1−2より多い総量のホップ原料を使用した。
【0095】
図1には、各部分調製について、添加したホップ原料の苦味価としての総量及び酸の量(90%乳酸L/kL)と、煮沸前pHと、上述のようにして算出された苦味価付与率(%/対照)とを示す。
【0096】
図1に示すように、部分調製(a)を行った例1−a1及び例1−a2においては、煮沸前pHが対照のそれより高い5.43となり、苦味価付与率(%/対照)は104.9%となった。この部分調製(a)における苦味価付与率の向上は、対照より煮沸前pHが高くなったことにより、ホップ原料に由来する苦味の移行が向上した結果と推測された。
【0097】
一方、部分調製(b)を行った例1−2においては、煮沸前pHが対照のそれより低い4.76となったが、苦味価付与率(%/対照)は107.3%となった。この煮沸前pHの低下にもかかわらず苦味価付与率が高くなるという意外な結果は、適切な量のホップ原料を添加したことによるものと推測された。
【0098】
そして、部分調製(a)及び(b)のいずれにおいても苦味価付与率が向上した結果、当該部分調製(a)及び(b)を含む本方法において、製造された原料液の苦味価を、使用されたホップ原料の総量で除して算出される苦味価付与率は、当該部分調製(a)及び(b)を含まない対照方法の苦味価付与率に比べて向上した。
【実施例2】
【0099】
本実施例では、上述した実施例1の部分調製(b)(例1−b)において苦味価移行率が向上した結果に関し、当該部分調製(b)におけるホップ原料の適切な添加量について検討した。
【0100】
すなわち、まず対照2として、上述の実施例1と同様に原液を調製し、当該原液に、苦味価として30.0の量のホップ原料と、0.24(90%乳酸L/kL)の酸とを添加して煮沸した。
【0101】
これに対し、例2−1〜例2−8として、上記原液に、対照より少ない8種類の量のホップ原料と、対照より多い一定量の酸とを添加して煮沸した。具体的には、苦味価として5.0〜20.0の量のホップ原料と、0.72(90%乳酸L/kL)の酸とを添加した。そして、上述の実施例1と同様に、苦味価付与率(%/対照)を評価した。
【0102】
図2には、各例について、添加したホップ原料の苦味価としての総量及び酸の量(90%乳酸L/kL)と、煮沸前pHと、苦味価付与率(%/対照)とを示す。
【0103】
図2に示すように、例2−1〜例2−8においては、いずれも煮沸前pHは、対照2のpHより低い4.43〜4.46の範囲内であり、大差なかった。しかしながら、ホップ原料を苦味価として、対照2における30の約0.67倍である20.0添加した例2−8においては、苦味価付与率(%/対照)が87.2%と低下した。
【0104】
これに対し、ホップ原料を苦味価として、例2−8より少ない5.0〜15.0添加した例2−1〜例2−7においては、苦味価付与率(%/対照)が104.3〜118.8%と高くなった。
【0105】
したがって、対照に比べて煮沸前のpHが低くなる部分調製(b)においては、ホップ原料の部分量を、図2に示される知見に基づき決定される、当該対照より少ない特定の範囲内とすることにより、苦味価移行率を効果的に向上させることができると考えられた。
【0106】
そして、例えば、対照2のようにホップ原料を苦味価として30、酸を0.43(90%乳酸L/kL)添加する部分調製を複数回繰り返して原料液を製造する場合に比べて、上述した実施例1の例1−a1及び例1−a2のように、より多い量のホップ原料と、より少ない量の酸とを添加して、より高いpHで煮沸を行う部分調製(a)と、上記例2−1〜例2−7のように、より少ない特定量のホップ原料と、より多い量の酸とを添加して、より低いpHで煮沸を行う部分調製(b)とを行う場合の方が、より高い苦味価付与率を達成できると考えられた。
図1
図2