特許第6490942号(P6490942)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6490942
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】摩擦材組成物、摩擦材及び摩擦部材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20190318BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   C09K3/14 520F
   C09K3/14 520K
   F16D69/02 CZAB
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-210027(P2014-210027)
(22)【出願日】2014年10月14日
(65)【公開番号】特開2016-79252(P2016-79252A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】391033078
【氏名又は名称】日本ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100118072
【弁理士】
【氏名又は名称】醍醐 美知子
(72)【発明者】
【氏名】海野 光朗
(72)【発明者】
【氏名】光本 真理
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−109369(JP,A)
【文献】 特開2002−226834(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/066968(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/034878(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/158917(WO,A1)
【文献】 特開2000−219873(JP,A)
【文献】 特開2005−113130(JP,A)
【文献】 Wear,Vol.266, No.1-2,pp.266-274 (2009).
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
F16D 49/00 − 71/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合剤、有機充填材、無機充填材および繊維基材を含む摩擦材組成物であって、
該摩擦材組成物中に元素としての銅を含まない、または銅の含有量が0.5質量%以下であり、
平均粒径の異なる人造黒鉛を組合わせて含有し、前記人造黒鉛のうち、平均粒径の小さい人造黒鉛の平均粒径が50nm〜30μmで、かつ平均粒径が大きい人造黒鉛の平均粒径が150μm〜600μmであることを特徴とする摩擦材組成物。
【請求項2】
前記人造黒鉛のうち、平均粒径の小さい人造黒鉛の平均粒径が23μm〜30μmであることを特徴とする請求項1に記載の摩擦材組成物。
【請求項3】
前記人造黒鉛の含有量が2〜20質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の摩擦材組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金を用いて形成される摩擦部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の制動に用いられるディスクブレーキパッド等の摩擦材に適した摩擦材組成物、特にアスベストを含まないノンアスベスト摩擦材組成物に関する。また、該摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等には、その制動のためにディスクブレーキパッド、ブレーキライニング等の摩擦材が使用されている。摩擦材は、ディスクローター、ブレーキドラム等の対面材と摩擦することにより、制動の役割を果たしている。そのため、摩擦材には、良好な摩擦係数、耐摩耗性(摩擦材の寿命が長いこと)、強度、音振性(ブレーキ鳴きや異音が発生しにくいこと)等が要求される。摩擦係数は車速、減速度やブレーキ温度によらず安定であることが要求される。
【0003】
また近年では、摩擦材中に使用される銅が、ブレーキの摩耗粉として飛散し、河川、湖や海洋汚染等の原因となっており、使用を制限する動きが高まっている。銅は繊維や粉末の形態で摩擦材に配合され、熱伝導率の付与や耐摩耗性改善に有効な成分である。摩擦材の熱伝導率が低下すると、そのため、銅を含有しない組成においては、熱伝導率が低下すると、高温での制動時に摩擦界面の熱が拡散せずに、摩擦材の摩耗量の増大や不均一な温度上昇が原因のブレーキ振動の発生などが増加するといった問題があった。
【0004】
このような銅の使用を制限する動きの中、銅を含有しない摩擦材組成における熱伝導率や耐摩耗性を改善するために、熱伝導の高い黒鉛や酸化マグネシウムを添加する手法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−322183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、銅を含有しない摩擦材組成における熱伝導率や耐摩耗性を改善するために、熱伝導の高い黒鉛や酸化マグネシウムを添加するものであるが、多量の黒鉛の添加は特に高速制動における摩擦係数の低下を引き起こし、ブレーキの重要特性である制動性能が損なわれることとなる。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みなされたもので、環境有害性の高い銅を含有せずとも、熱伝導率が高く、かつ良好な耐摩耗性、高速制動における摩擦係数を示す摩擦材組成物を得ることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、黒鉛の種類と熱伝導率、耐摩耗性、高速制動時の摩擦係数の関連性を以下のように考察し、課題解決の手段を見出した。平均粒径が小さい人造黒鉛ほど摩擦材中で熱伝導経路を形成しやすく、熱伝導率を向上しやすい。また、平均粒径が大きい人造黒鉛ほど耐摩耗性に優れる。本発明品はこれら一長一短のある平均粒径の異なる人造黒鉛を組合わせることで、熱伝導率と耐摩耗性を両立できるだけでなく、高速制動時の摩擦係数を向上させることができることを見出した。
【0009】
本発明はこの知見に基づくものであり、本発明の摩擦材組成物は、結合剤、有機充填材、無機充填材および繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中に元素としての銅を含まない、または銅の含有量が0.5質量%以下であり、平均粒径の異なる人造黒鉛を組合わせて含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の摩擦材組成物においては、前記人造黒鉛のうち、平均粒径の小さい人造黒鉛の平均粒径が50nm〜30μmで、かつ平均粒径が大きい人造黒鉛の平均粒径が150μm〜600μmであることが好ましい。また、前記人造黒鉛の含有量が2〜20質量%であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の摩擦材は、上記の本発明の摩擦材組成物を成形してなるものであることを特徴とし、本発明の摩擦部材は、上記の本発明の摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金を用いて形成されるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、自動車用ディスクブレーキパッド等の摩擦材に用いた際に、環境負荷の高い銅を用いることなく、熱伝導率、耐摩耗性、高速制動における摩擦係数が両立して高い摩擦材組成物、摩擦材及び摩擦部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材について詳述する。なお、本発明の摩擦材組成物は、アスベストを含まない、いわゆるノンアスベスト摩擦材組成物である。
【0014】
[摩擦材組成物]
本実施形態の摩擦材組成物は、銅を含有しない、もしくは、銅を含有する場合であっても銅の含有量が0.5質量%以下であることを第1の骨子とし、銅に替えて熱伝導率の付与や耐摩耗性改善に有効な成分として人造黒鉛を用いるとともに、粒径の異なる人造黒鉛を組み合わせて用いることを第2の骨子とする。
【0015】
(人造黒鉛)
本発明の摩擦材組成物は、平均粒径の異なる人造黒鉛を含有する。人造黒鉛とは、鱗片状黒鉛など天産の天然黒鉛と比較して人工的に製造した黒鉛のことで、合成黒鉛や合成グラファイトとも呼ばれる。
【0016】
人造黒鉛は熱伝導率が高く、本発明の摩擦材組成物においては、人造黒鉛を銅に替えて用いることで熱伝導率を確保する。しかしながら、多量の人造黒鉛の添加は摩擦材の摩擦係数の低下を招くため、摩擦係数の低下の影響を最小としつつ熱伝導率の確保を行うため、人造黒鉛として粒径の小さいもの、すなわち平均粒径の小さい人造黒鉛を用いる。粒径の小さい人造黒鉛は、摩擦材中に均一に分散することで、熱伝導経路を形成し、摩擦材表面で発生する熱を良好に逃がすこができるようになる。しかしながら、粒径が小さい人造黒鉛のみでは潤滑作用が充分でなく、耐摩耗性が低下する。このため、本発明の摩擦材組成物においては、潤滑作用が大きい粒径の大きい人造黒鉛、すなわち平均粒径の大きい人造黒鉛を同時に添加して、平均粒径の異なる人造黒鉛を組み合わせて用いることで、摩擦材の耐摩耗性を確保する。
【0017】
平均粒径の異なる人造黒鉛のうち、平均粒径の小さい人造黒鉛の平均粒径を50nm〜30μm、かつ平均粒径が大きい人造黒鉛の平均粒径が150μm〜600μmとすることが熱伝導率、耐摩耗性、高速制動における摩擦係数の観点で好ましい。また、人造黒鉛の含有量は、平均粒径の大きいもの、小さいものの総量として2〜20質量%とすることが高速制動時の摩擦係数の観点で好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。
【0018】
(結合材)
結合剤は、摩擦材用組成物に含まれる有機充填材、無機充填材及び繊維基材などを一体化し、強度を与えるものである。本発明の摩擦材用組成物に含まれる結合材としては、特に制限は無く、通常、摩擦材の結合材として用いられる熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0019】
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂;アクリルエラストマー分散フェノール樹脂及びシリコーンエラストマー分散フェノール樹脂などの各種エラストマー分散フェノール樹脂;アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂及びアルキルベンゼン変性フェノール樹脂などの各種変性フェノール樹脂などが挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。特に、良好な耐熱性、成形性及び摩擦係数を与えることから、フェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0020】
本発明の摩擦材組成物中における、結合材の含有量は、5〜20質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることがより好ましい。結合材の含有量を5〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の強度低下をより抑制でき、また、摩擦材の気孔率が減少し、弾性率が高くなることによる鳴きなどの音振性能悪化をより抑制できる。
【0021】
(有機充填剤)
有機充填材は、摩擦材の音振性能や耐摩耗性などを向上させるための摩擦調整剤として含まれるものである。本発明の摩擦材組成物に含まれる有機充填材としては、上記性能を発揮できるものであれば特に制限はなく、通常、有機充填材として用いられる、カシューダストやゴム成分などを用いることができる。
【0022】
上記カシューダストは、カシューナッツシェルオイルを硬化させたものを粉砕して得られる、通常、摩擦材に用いられるものであればよい。
【0023】
上記ゴム成分としては、例えば、タイヤゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、塩素化ブチルゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、などが挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【0024】
本発明の摩擦材組成物中における、有機充填材の含有量は、1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましく、3〜8質量%であることが特に好ましい。有機充填材の含有量を1〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の弾性率が高くなること、鳴きなどの音振性能の悪化を避けることができ、また耐熱性の悪化、熱履歴による強度低下を避けることができる。
【0025】
(無機充填材)
無機充填材は、摩擦材の耐熱性の悪化を避けるためや、耐摩耗性を向上させるため、摩擦係数を向上する目的で添加される摩擦調整剤として含まれるものである。本発明の摩擦材用組成物は、通常、摩擦材に用いられる無機充填剤であれば特に制限はない。
【0026】
上記無機充填材としては、例えば、硫化錫、硫化ビスマス、二硫化モリブデン、硫化鉄、三硫化アンチモン、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、硫酸バリウム、コークス、マイカ、バーミキュライト、硫酸カルシウム、タルク、クレー、ゼオライト、ムライト、クロマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、シリカ、ドロマイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、粒状または板状のチタン酸塩、珪酸ジルコニウム、γアルミナ、二酸化マンガン、酸化亜鉛、四三酸化鉄、酸化セリウム、ジルコニアなどを用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。粒状または板状のチタン酸塩としては、6チタン酸カリウム、8チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム、チタン酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0027】
無機充填材としては、本発明の人造黒鉛以外に通常摩擦材に用いられる鱗片状黒鉛などの天然黒鉛を用いることができるが、高い摩擦係数を得るため、含有量は5質量%以下または含まないことが好ましい。
【0028】
本発明の摩擦材組成物中における、無機充填材の含有量は、30〜80質量%であることが好ましく、40〜70質量%であることがより好ましく、50〜60質量%であることが特に好ましい。無機充填材の含有量を30〜80質量%の範囲とすることで、耐熱性の悪化を避けることができ、摩擦材のその他成分の含有量バランスの点でも好ましい。
【0029】
(繊維基材)
繊維基材は、摩擦材において補強作用を示すものである。
【0030】
本発明の摩擦材組成物は、通常、繊維基材として用いられる、無機繊維、金属繊維、有機繊維、炭素系繊維などを用いることができ、これらを単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
上記無機繊維としては、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、鉱物繊維、ガラス繊維、シリケート繊維などを用いることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これら、無機繊維の中では、SiO、Al、CaO、MgO、FeO、NaOなどを任意の組み合わせで含有した生分解性鉱物繊維が好ましく、市販品としてはLAPINUS FIBERS B.V製のRoxulシリーズなどが挙げられる。
【0032】
上記金属繊維としては、通常、摩擦材に用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、アルミ、鉄、鋳鉄、亜鉛、錫、チタン、ニッケル、マグネシウム、シリコン、銅、黄銅などの金属または合金を主成分とする繊維を用いることができる。また、これらの金属若しくは合金は、繊維形状以外に、粉末の形状で含有しても良い。しかし、銅および銅を含有する合金は、環境有害性の観点で含有しないことが好ましい。
【0033】
上記有機繊維としては、アラミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維、フェノール樹脂繊維などを用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
上記炭素系繊維としては、耐炎化繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、活性炭繊維などを用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
本発明の摩擦材組成物における、繊維基材の含有量は、摩擦材組成物において5〜40質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましく、5〜15質量%であることが特に好ましい。繊維基材の含有量を5〜40質量%の範囲とすることで、摩擦材としての最適な気孔率が得られ、鳴き防止ができ、適正な材料強度が得られ、耐摩耗性を発現し、成形性をよくすることができる。
【0036】
[摩擦材]
本実施形態の摩擦材は、本発明の摩擦材組成物を一般に使用されている方法で成形して製造することができ、好ましくは加熱加圧成形して製造される。詳細には、例えば、本発明の摩擦材組成物をレーディゲミキサー(「レーディゲ」は登録商標)、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー(「アイリッヒ」は登録商標)等の混合機を用いて均一に混合し、この混合物を成形金型にて予備成形し、得られた予備成形物を成形温度130〜160℃、成形圧力20〜50MPa、成形時間2〜10分間の条件で成形し、得られた成形物を150〜250℃で2〜10時間熱処理することで製造される。また更に、必要に応じて塗装、スコーチ処理、研磨処理を行うことで製造される。
【0037】
[摩擦部材]
本実施形態の摩擦部材は、上記の本実施形態の摩擦材を摩擦面となる摩擦材として用いてなる。上記摩擦部材としては、例えば、下記の構成が挙げられる。
(1)摩擦材のみの構成
(2)裏金と、該裏金の上に摩擦面となる本発明の摩擦材組成物からなる摩擦材とを有する構成
(3)上記(2)の構成において、裏金と摩擦材との間に、裏金の接着効果を高めるための表面改質を目的としたプライマー層、及び、裏金と摩擦材との接着を目的とした接着層を更に介在させた構成
【0038】
上記裏金は、摩擦部材の機械的強度の向上のために、通常、摩擦部材として用いるものであり、材質としては、金属又は繊維強化プラスチック等、具体的には、鉄、ステンレス、無機繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック等が挙げられる。プライマー層及び接着層は、通常、ブレーキシュー等の摩擦部材に用いられるものであればよい。
【0039】
本実施形態の摩擦材組成物は、熱伝導率や耐摩耗性、摩擦係数に優れるため、自動車等のディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の上張り材として特に有用であるが、摩擦部材の下張り材として成形して用いることもできる。なお、「上張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材であり、「下張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材と裏金との間に介在する、摩擦材と裏金との接着部付近のせん断強度、耐クラック性向上等を目的とした層のことである。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の摩擦材組成物、摩擦材及び摩擦部材について、実施例及び比較例を用いて更に詳細に説明するが、本発明は何らこれらに制限されるものではない。
【0041】
[実施例1〜11及び比較例1〜3]
(ディスクブレーキパッドの作製)
表1に示す配合比率に従って材料を配合し、実施例1〜11及び比較例1〜3の摩擦材組成物を得た。実施例および比較例にて用いた人造黒鉛を以下に示す。なお、表中の配合比率は質量%である。
【0042】
・人造黒鉛1:Asbury Carbon社製「Nanographite」(平均粒径100nm)
・人造黒鉛2:TIMCAL社製「KS15」(平均粒径8μm)
・人造黒鉛3:TIMCAL社製「KS75」(平均粒径23μm)
・人造黒鉛4:日本黒鉛工業株式会社製「PAG−80」(平均粒径270μm)
・人造黒鉛5:日本黒鉛工業株式会社製「PAG−60」(平均粒径350μm)
・人造黒鉛6:TIMCAL社製「T150−600」(平均粒径430μm)
【0043】
この摩擦材組成物をレーディゲミキサー(株式会社マツボー製、商品名:レーディゲミキサーM20)で混合し、得られた混合物を成形プレス(王子機械工業株式会社製)で予備成形した。得られた予備成形物を成形温度140〜160℃、成形圧力30MPa、成形時間5分間の条件で、成形プレス(三起精工株式会社製)を用いて鉄製の裏金(日立オートモティブシステムズ株式会社製)と共に加熱加圧成形した。得られた成形品を200℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、500℃のスコーチ処理を行って、実施例1〜11及び比較例1〜3のディスクブレーキパッドを得た。なお、実施例及び比較例では、裏金の厚さ6mm、摩擦材の厚さ11mm、摩擦材投影面積52cmのディスクブレーキパッドを作製した。
【0044】
【表1】
【0045】
(熱伝導率)
京都電子工業製Kemtherm QTM-D3を用い、ブレーキパッドの摩擦材表面の熱伝導率をプローブ法で測定した。
【0046】
(耐摩耗性)
耐摩耗性は、自動車技術会規格JASO C427に基づき測定し、ブレーキ温度100℃、車速50km/h、減速度0.3Gの制動1000回相当の摩擦材の摩耗量を評価し、高温での耐摩耗性とした。
【0047】
(高速制動時の摩擦係数)
摩擦係数は、自動車技術会規格JASO C406に基づき測定し、第2効力試験の車速130km/h、減速度0.3Gにおける摩擦係数の平均値を評価した。なお、上記耐摩耗性、摩擦係数の評価はダイナモメーターを用い、イナーシャ7kgf・m・secで評価を行った。また、ベンチレーテッドディスクロータ((株)キリウ製、材質FC190)、一般的なピンスライド式のコレットタイプのキャリパを用いて実施した。
【0048】
銅を含有せず、平均粒径の異なる人造黒鉛を組合わせで含有する実施例1〜11は、銅を含有せず平均粒径の異なる人造黒鉛を組合わせで含有しない比較例1に対し高い熱伝導率と良好な耐摩耗性を示し、銅を含有する比較例2と同等以上の熱伝導率、耐摩耗性、高速制動時の摩擦係数を示した。また、銅を含有し、平均粒径の異なる人造黒鉛を組合わせで含有する比較例3と含有しない比較例2とでは高速制動時の摩擦係数、耐摩耗性、熱伝導率に殆ど差が無い。以上より、銅を含有しない組成において平均粒径の異なる人造黒鉛を組合わせで含有させることにより、高速制動時の摩擦係数を下げることなく熱伝導率、耐摩耗性を効果的に向上させることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の摩擦材組成物は、従来品と比較して、環境負荷の高い銅を含有せずに、熱伝導率、耐摩耗性、高速制動時の摩擦係数が高いため、該摩擦材組成物は乗用車用ブレーキパッド等の摩擦材及び摩擦部材に好適である。