【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0038】
1.測定方法
(1)融点、ガラス転移温度
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7を用い、昇温速度20℃/分で350℃まで昇温した後、350℃で5分間保持し、その後、100℃/分で20℃まで降温し、20℃にて5分間保持後、350℃まで20℃/分でさらに昇温した(2nd Scan)。そして、2nd Scanで観測される結晶融解ピークのピークトップ温度を融点とし、ガラス転移に由来する2つの折曲点の温度の中間点をガラス転移温度とした。
【0039】
(2)相対粘度
96質量%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dL、25℃で測定した。
【0040】
(3)引張強度、引張弾性率
得られた樹脂組成物のペレットを十分に乾燥した後、ファナック社製射出成形機(S−2000i)を用いて、シリンダー温度(Tm+15℃)、金型温度(Tm−190℃)の条件で、ISO 3167に準拠して、多目的試験片を作製した。
得られた多目的試験片を用いて、ISO527−1に準拠して、引張強度や引張弾性率を測定した。
【0041】
(4)荷重たわみ温度
(3)で得られた多目的試験片を用いて、ISO75−1、2に準拠して、荷重1.80MPaで荷重たわみ温度を測定した。
【0042】
(5)吸水率
得られた樹脂組成物のペレットを十分に乾燥した後、ファナック社製射出成形機(S―2000i)を用いて、シリンダー温度(Tm+15℃)、金型温度(Tm−190℃)の条件で、幅60mm×長さ60mm×厚み3mmの板状試験片を作製した。
得られた板状試験片を、23℃の条件で蒸留水に24時間浸漬し、表面の水分をふき取った後、三菱化学社製カールフィシャー水分計を用いて、150℃の気化条件にて、吸水率を測定した。
【0043】
(6)成形収縮率
(5)で得られた板状試験片を用いて、23℃で24時間静置後、静置前後の成形収縮率を測定した。
なお、射出方向をMD、平板表面に平行かつ射出方向と垂直の方向をTDとした。
表において、成形収縮率が5%以上の場合は、「>5」と表示する。
成形収縮率は、MD、TDともに1.0%以下を合格とした。
【0044】
(7)ブリスターの発生の有無、異方寸法変化率比
得られた樹脂組成物のペレットを十分に乾燥した後、ファナック社製射出成形機(S−2000i)を用いて、シリンダー温度(Tm+15℃)、金型温度(Tm−190℃)の条件で、幅20mm×長さ20mm×厚み0.5mmの平板試験片を作製した。金型は、20mm×0.5mmの面にフィルムゲートを有するものを用いた。
得られた平板試験片を85℃×85%RHにて168時間静置した。
その後、150℃で1分間加熱した後、100℃/分の速度で265℃まで昇温して10秒間保持する処理した。
上記熱処理後、目視でブリスターの発生の有無を確認した。
射出方向をMD、平板表面に平行かつ射出方向と垂直の方向をTDとして、上記熱処理前後の成形品寸法から、MD、TDそれぞれの寸法変化率を求め、以下の式により、異方寸法変化率比を求めた。
異方寸法変化率比=(TDの寸法変化率)/(MDの寸法変化率)
異方寸法変化率比は、2.0以下を合格とした。
【0045】
(8)体積固有抵抗値
得られた樹脂組成物のペレットを十分に乾燥した後、ファナック社製射出成形機(S−2000i)を用いて、シリンダー温度(Tm+15℃)、金型温度(Tm−190℃)の条件で、直径φ100mm,厚み1.6mmの円板試験片を作製した。
得られた円板試験片を用いて、23℃で50%RH環境下に24時間静置後、同環境下においてJIS−K−6911に準拠して、エレクトロメーター(アドバンテスト社製R8340)およびレジスティビティ・チャンバ(アドバンテスト社製R12704A)を用いて体積固有抵抗値を測定した。
体積固有抵抗値は、10
10Ω・cm以下を合格とした。
【0046】
(9)耐摩耗性評価
得られた樹脂組成物のペレットを十分に乾燥した後、ファナック社製射出成形機(S―2000i)を用いて、シリンダー温度(Tm+15℃)、金型温度(Tm−190℃)の条件で、JIS−K7218に規定される中空円筒試験片を作製した。作製後は吸湿しないようにすぐに絶乾状態で保管した。
得られた中空円筒試験片について、JIS−K7218に準拠して、23℃50%RHの環境下、TOYO BALDEIN社製鈴木式摩擦摩耗試験装置EMF−III−E型を用いて連続すべり摩耗試験を実施した。相手材は金属S45C製の中空円筒試験片(樹脂組成物の中空円筒試験片と同形状)、荷重は5kgf、すべり速度は0.5m/s、すべり距離は5.4kmとした。
連続すべり摩耗試験終了後、試験片を120℃で4時間乾燥して水分を除去し、比摩耗量を測定した。
比摩耗量は、40mm
3/(km・kN)以下を合格とした。
【0047】
2.原料
実施例および比較例で用いた原料を以下に示す。
【0048】
(1)ジカルボン酸成分
・TPA:テレフタル酸
【0049】
(2)ジアミン成分
・ODA:1,8−オクタンジアミン
・DA:1,10−デカンジアミン
・DDA:1,12−ドデカンジアミン
・NDA:1,9−ノナンジアミン
【0050】
(3)モノカルボン酸成分
・STA:ステアリン酸(分子量:284)
・BA:安息香酸(分子量:122)
・CA:カプロン酸(分子量:116)
【0051】
(4)重合触媒
・SHP:次亜リン酸ナトリウム一水和物
【0052】
(5)熱可塑性樹脂
・半芳香族ポリアミド(A−1)
[工程(i)]
TPA粉末4560質量部、SHP9質量部、STA490質量部を、リボンブレンダー式の反応装置に入れ、窒素密閉下、ダブルヘリカル型の攪拌翼を用いて回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、100℃に加温したDA4950質量部を、33質量部/分の速度で、2.5時間かけて連続的(連続液注方式)にTPA粉末に添加し反応物を得た。原料モノマーのモル比は、DA:TPA:STA=47.4:49.6:3.0(原料モノマーの末端基の当量比率はDA:TPA:STA=48.1:50.4:1.5)であった。
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、引き続き工程(i)で用いたリボンブレンダー式の反応装置内で、窒素気流下、230℃に昇温し、230℃で5時間加熱して重合し半芳香族ポリアミド(A−1)を得た。
【0053】
・半芳香族ポリアミド(A−2)〜(A−6)
樹脂組成を表1のように変更する以外は、半芳香族ポリアミド(A−1)を製造した場合と同様の操作をおこなって、半芳香族ポリアミドを得た。
【0054】
表1に、半芳香族ポリアミド(A−1)〜(A−6)の樹脂組成およびその特性値を示す。
【0055】
【表1】
【0056】
・脂肪族ポリアミド(ポリアミド66)(A−7)
ユニチカ社製A125J、融点265℃
【0057】
・脂肪族ポリアミド(ポリアミド6)(A−8)
ユニチカ社製A1030BRL、融点225℃
【0058】
・ポリカーボネート(A−9)
三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンS−2000、ガラス転移点150℃
【0059】
(6)強化材(B)
・ガラス繊維(B−1)
日本電気硝子社製T−249H、繊維径10.5μm×繊維長3μm
・ウォラストナイト(B−2)
NYCO社製NYGLOS 8、繊維径8μm×繊維長136μm
・タルク(B−3)
日本タルク社製MSZ−C、アミノシランで表面処理したもの、平均粒径11μm
・炭素繊維(B−4)
三菱レイヨン社製TR06NEB4J、繊維径7μm×繊維長 6mm
(7)カーボンナノファイバー(C)
・CNT−1(C−1)
ナノシル社製MWCNT NC−7000、カーボンナノチューブ、平均径9.5nm、平均長さ1.5μm
・CNT−2(C−2)
クムホ社製MWCNT K−NANOs−100T、カーボンナノチューブ、平均径8〜15nm、平均長さ 26μm
【0060】
実施例1
半芳香族ポリアミド(A−1)58質量部を、ロスインウェイト式連続定量供給装置CE−W−1型(クボタ社製)を用いて計量し、スクリュー径26mm、L/D50の同方向二軸押出機TEM26SS型(東芝機械社製)の主供給口に供給して、溶融混練をおこなった。途中、サイドフィーダーよりウォラストナイト20質量部とタルク20質量部とCNT−1(C−1)2質量部を供給し、さらに混練をおこなった。ダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。押出機のバレル温度設定は、(半芳香族ポリアミドの融点+5℃)〜(半芳香族ポリアミドの融点+15℃)、スクリュー回転数250rpm、吐出量25kg/時間とした。
【0061】
実施例2〜
12、比較例2、4〜11 ポリアミド樹脂組成物の組成を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作をおこなってポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
【0062】
実施例1〜
12、比較例1〜11
、参考例1の樹脂組成およびその特性値を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
比較例1
ポリアミド樹脂組成物の組成を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作をおこなったが、強化材の配合量が多かったため溶融混練が困難となり、ペレットを得ることができなかった。
【0065】
比較例3
ポリアミド樹脂組成物の組成を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作をおこなったが、カーボンナノファイバーの配合量が多かったため溶融混練が困難となり、ペレットを得ることができなかった。
【0066】
実施例1〜
12の樹脂組成物は、本発明の要件を満たしていたため、引張強度、引張弾性率、荷重たわみ温度が高く、成形収縮率、異方寸法変化率比が小さかった。また、体積固有抵抗値が高く、比摩耗量が少なかった。
実施例1、比較例5、6、10の対比から、分子量が140以上の脂肪族モノカルボン酸を含む半芳香族ポリアミドに、カーボンナノファイバーを用いることにより、体積平均抵抗値が相乗的に高くなり、比摩耗量が相乗的に少なくなっていることがわかる。
実施例6、比較例11の対比から、ナノファイバーにより帯電防止性を付与した場合は、炭素繊維により帯電防止機能を付与した場合よりも、ほぼ同じ体積平均抵抗を有しているにもかかわらず、異方寸法変化率比が小さいことがわかる。
実施例1、11、12と
参考例1の対比から、特定ジアミンを用いた半芳香族ポリアミドの方が、特定ジアミンを用いていない半芳香族ポリアミドよりも、ブリスター特性等の耐熱性が優れていることがわかる。
【0067】
比較例2の樹脂組成物は、強化材の配合量が本発明で規定する量よりも少なかったため、引張強度が低かった。
比較例4の樹脂組成物は、カーボンナノファイバーの配合量が本発明で規定する量よりも少なかったため、体積固有抵抗値が大きく、比摩耗量が多かった。
比較例5、6の樹脂組成物は、それぞれ、安息香酸、カプロン酸(分子量140未満)を含有する半芳香族ポリアミドを用いたため、体積固有抵抗値が高く、比摩耗量が多かった。
比較例7の樹脂組成物は、ポリアミド66を用いたため、ブリスターが発生した。また、異方寸法変化率比が大きく、比摩耗量も多かった。
比較例8の樹脂組成物は、ポリアミド6を用いたため、ブリスターが発生した。また、異方寸法変化率比が大きく、比摩耗量も多かった。
比較例9の樹脂組成物は、ポリカーボネートを用いたため、異方寸法変化率比が大きく、比摩耗量が多かった
比較例10の樹脂組成物は、カーボンナノファイバーを用いなかったため、体積固有抵抗値が高く、比摩耗量が多かった。
比較例11の樹脂組成物は、カーボンナノファイバーを用いなかったため、異方寸法変化率比が大きかった。