特許第6490987号(P6490987)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トンボ鉛筆の特許一覧

<>
  • 特許6490987-スライドノック式筆記具 図000002
  • 特許6490987-スライドノック式筆記具 図000003
  • 特許6490987-スライドノック式筆記具 図000004
  • 特許6490987-スライドノック式筆記具 図000005
  • 特許6490987-スライドノック式筆記具 図000006
  • 特許6490987-スライドノック式筆記具 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6490987
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】スライドノック式筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 24/18 20060101AFI20190318BHJP
【FI】
   B43K24/18 100
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-38622(P2015-38622)
(22)【出願日】2015年2月27日
(65)【公開番号】特開2016-159467(P2016-159467A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2018年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134589
【氏名又は名称】株式会社トンボ鉛筆
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【弁理士】
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【弁理士】
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(72)【発明者】
【氏名】今井 拓治
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−107227(JP,A)
【文献】 英国特許出願公告第00988403(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 24/18
B43K 24/12
B43K 24/16
B43K 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドノック式筆記具において、筆記芯の出没を行うノック部材が、筒軸内に設けられ前記筒軸の軸線方向に摺動し得る摺動部材と、この摺動部材に組付けされている操作部材とから構成され、前記両部材が組付けられた状態において、相互に一方の部材が他方の部材に対して、前記筒軸の軸線方向の応力を及ぼしておらず、
前記両部材の組付けが、前記両部材のいずれか一方に設けられた、前記筒軸の軸線方向の内向きに突出する係止部が、他方の部材に設けられた前記軸線方向の外向きに突出する係止爪を乗り越えることでなされるようにしたことを特徴とするスライドノック式筆記具。
【請求項2】
スライドノック式筆記具において、筆記芯の出没を行うノック部材が、筒軸内に設けられ前記筒軸の軸線方向に摺動し得る摺動部材と、この摺動部材に組付けされている操作部材とから構成され、前記操作部材を前記軸線方向に操作した場合における筆記芯の前記筒軸からの繰出し、または前記筒軸への没入の少なくともいずれか一方の初期操作時においては操作部材のみが軸線方向に摺動し、次いで前記摺動部材が操作部材とともに軸線方向に摺動するように、前記摺動部材と前記操作部材とが組付けされていることを特徴とするスライドノック式筆記具。
【請求項3】
摺動部材と操作部材の組付けが、前記両部材のいずれか一方に設けられた、筒軸の軸線方向の内向きに突出する係止部が、他方の部材に設けられた前記軸線方向の外向きに突出する係止爪を乗り越えることでなされるようにした請求項2記載のスライドノック式筆記具。
【請求項4】
組付けされた摺動部材と操作部材の組付け内部において、筒軸の軸線方向における前記摺動部材と前記操作部材との間に間隙を設けた請求項1〜3のいずれかに記載のスライドノック式筆記具。
【請求項5】
摺動部材に筒軸の軸線方向と直交する側面視においてほぼT字状の係止爪を設け、この係止爪の前記軸線方向の寸法を幅方向の寸法よりも大きくするとともに、操作部材の係止部を、前記操作部材に前記筒軸の径方向に貫通する挿入孔を設けるとともに、この挿入孔内に前記軸線方向の内向きに突出する係止部を設けることによって形成し、前記両部材の組付けが、前記係止部が前記係止爪を乗り越えることでなされようにした請求項1〜4のいずれかに記載のスライドノック式筆記具。
【請求項6】
組付けされた摺動部材と操作部材の組付け内部において、筒軸の軸線方向における前記摺動部材と前記操作部材との間に間隙を設け、この間隙内に弾性緩衝部材を配設した請求項1〜5のいずれかに記載のスライドノック式筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドノック式筆記具に関し、特に筆記芯の出没を行うノック部材の組付けに関する。
【背景技術】
【0002】
スライドノック式の多色・複合筆記具においては、たとえば特許文献1、2に示されるように、ノック部材が、筒軸内に設けられ前端に筆記芯が着脱自在に挿着された摺動部材と、この摺動部材に組付けされている操作部材とよりなるものが広く使用されている。操作部材は、筒軸側面に設けられたスリット状開口部を介して、摺動部材に組付けされている。
【0003】
特許文献1においては、摺動部材に設けた嵌合孔に、操作部材に設けた円柱状や角柱状の嵌合ピンを筒軸の径方向に嵌合させることで両部材の組付けがなされている。 また、特許文献2では、摺動部材に設けた雌ねじに、操作部材に設けた雄ねじを螺合することによって両部材の組付けがなされている。
【0004】
しかし、特許文献1の組付け形態では、嵌合孔と嵌合ピン間に常に嵌合応力が負荷された状態にあるため、経時変化によるクリープ現象で嵌合力が弱くなり、筆記芯の出没を行う際の軸線方向にかかる操作荷重や、収納時のノック部材と筒軸間の衝撃で操作部材が摺動部材から外れてしまう問題があった。
【0005】
また、特許文献1、2の組付け形態の場合、摺動部材や操作部材のノック部材に設けた嵌合孔、ピン、ねじ部等は、非常に小さいものであるため、前記出没・収納時にかかる荷重や衝撃の反復により、これらのピン、雄ねじ部等の係止部が破損し易いという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3939196号公報
【特許文献2】特開2003−11583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記の現状に鑑み、ノック部材を構成する摺動部材と操作部材の
組付けに関して、経時変化によるクリープ現象等で嵌合力が弱くなり、出没・収納時にかかる荷重や衝撃の反復により生ずる操作部材の外れや嵌合部の破損という問題を解消する組付け形態を備えるスライドノック式筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、前記課題は、次のような手段によって解決される。
【0009】
(1)スライドノック式筆記具において、筆記芯の出没を行うノック部材が、筒軸内に設けられ前記筒軸の軸線方向に摺動し得る摺動部材と、この摺動部材に組付けされている操作部材とから構成され、前記両部材が組付けられた状態において、相互に一方の部材が他方の部材に対して、前記筒軸の軸線方向の応力を及ぼしておらず、前記両部材の組付けが、前記両部材のいずれか一方に設けられた、前記筒軸の軸線方向の内向きに突出する係止部が、他方の部材に設けられた前記軸線方向の外向きに突出する係止爪を乗り越えることでなされるようにしたことを特徴とするスライドノック式筆記具とする。
このような構成とすることにより、摺動部材と操作部材が組付けられた状態において、相互に一方の部材が他方の部材に対して、筒軸の軸線方向の応力を及ぼしていないため、経時変化によるクリープ現象等が生ずることがなく、これに起因して嵌合力が弱くなり、出没・収納時にかかる荷重や衝撃の反復により、操作部材が外れるという問題を解消することができる。
また、このような構成とすることにより、摺動部材と操作部材の両部材を容易に組付けることができる。
【0010】
(2)スライドノック式筆記具において、筆記芯の出没を行うノック部材が、筒軸内に設けられ前記筒軸の軸線方向に摺動し得る摺動部材と、この摺動部材に組付けされている操作部材とから構成され、前記操作部材を前記軸線方向に操作した場合における筆記芯の前記筒軸からの繰出し、または前記筒軸への没入の少なくともいずれか一方の初期操作時においては操作部材のみが軸線方向に摺動し、次いで前記摺動部材が操作部材とともに軸線方向に摺動するように、前記摺動部材と前記操作部材とが組付けされていることを特徴とするスライドノック式筆記具とする。
このような構成とすることにより、摺動部材と操作部材が組付けられた状態において、相互に一方の部材が他方の部材に対して、筒軸の軸線方向の応力を及ぼしていないこととなる。このため、前記(1)項と同様な効果が奏される。
【0011】
(3)前記(2)項において、摺動部材と操作部材の組付けが、前記両部材のいずれか一方に設けられた、筒軸の軸線方向の内向きに突出する係止部が、他方の部材に設けられた前記軸線方向の外向きに突出する係止爪を乗り越えることでなされるようにする。
このような構成とすることにより、摺動部材と操作部材の両部材を容易に組付けることができる。
【0012】
(4)前記(1)〜(3)のいずれかにおいて、組付けされた摺動部材と操作部材の組付け内部において、筒軸の軸線方向における前記摺動部材と前記操作部材との間に間隙を設ける。
このような構成とすることにより、前記操作部材を前記軸線方向に操作した場合における筆記芯の前記筒軸からの繰出し、または前記筒軸への没入の少なくともいずれか一方の初期操作時においては操作部材のみが軸線方向に摺動し、次いで前記摺動部材が操作部材とともに軸線方向に摺動するように、両部材を組付けることができる。すなわち、前記操作部材を筒軸の軸線方向に操作した場合の初期操作時に前記操作部材のみが摺動することにより、前記間隙が消失して操作部材が摺動部材に当接し、これにより摺動部材が操作部材とともに摺動する。
【0013】
(5)前記(1)項〜(4)のいずれかにおいて、摺動部材に筒軸の軸線方向と直交する側面視においてほぼT字状の係止爪を設け、この係止爪の前記軸線方向の寸法を幅方向の寸法よりも大きくするとともに、操作部材の係止部を、前記操作部材に前記筒軸の径方向に貫通する挿入孔を設けるとともに、この挿入孔内に前記軸線方向の内向きに突出する係止部を設けることによって形成し、前記両部材の組付けが、前記係止部が前記係止爪を乗り越えることでなされようにする。
このような構成とすることにより、摺動部材の係止爪、特に筒軸の軸線方向の強度が向上し、また操作部材の係止部も挿入孔内にあるため、筆記芯の出没・収納時にかかる荷重や衝撃の反復による破損を可及的に防止することができるとともに、摺動部材と操作部材の両部材を容易に組付けることができる。
【0014】
(6)前記(1)項〜(5)のいずれかにおいて、組付けされた摺動部材と操作部材の組付け内部において、筒軸の軸線方向における前記摺動部材と前記操作部材との間に間隙を設け、この間隙内に弾性緩衝部材を配設するようにする。
このような構成とすることにより、前記間隙の存在により生ずる虞がある操作部材6のがたつきを防止することができる。また、弾性緩衝部材を配設した場合、操作部材6を筒軸4の軸線方向に操作したときの初期操作時には、操作部材6の摺動により前記弾性緩衝部材が弾性変形し、次いで摺動部材5が操作部材6とともに摺動することとなる
【発明の効果】
【0015】
本発明のスライドノック式筆記具は、ノック部材を構成する摺動部材と操作部材の組付けに関して、経時変化によるクリープ現象等で嵌合力が弱くなり、出没・収納時にかかる荷重や衝撃の反復により生ずる操作部材の外れや嵌合部の破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明を実施した芯格納状態のスライドノック式筆記具を示し、(a)は斜視図、(b)は(a)におけるb〜b線断面図である。
図2】本発明を実施した芯出し状態のスライドノック式筆記具を示し、(a)は斜視図、(b)は(a)におけるb〜b線断面図である。
図3図1(b)における要部の拡大断面図である。
図4図2(b)における要部の拡大断面図である。
図5】摺動部材の拡大斜視図である。
図6】操作部材を示し、(a)はその拡大斜視図、(b)は(a)におけるb〜b線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。
図1は、本発明を実施した芯格納状態のスライドノック式筆記具1を示
し、(a)は斜視図、(b)は(a)におけるb〜b線断面図である。
図2は、本発明を実施した芯出し状態のスライドノック式筆記具を示
し、(a)は斜視図、(b)は(a)におけるb〜b線断面図である。
なお、本実施例では、ボールペン芯とシャープペン芯を備える多芯筆記具について示してある。
図3は、図1(b)における要部の拡大断面図である。図4は、図2(b)における要部の拡大断面図である。
【0018】
本発明において、筆記芯2の出没を行うノック部材3は、筒軸4内に設けられ前記筒軸4の軸線方向に摺動し得る摺動部材5と、この摺動部材5に組付けされている操作部材6とから構成される。
【0019】
図5は、摺動部材5の拡大斜視図、図6は、操作部材6を示し、(a)はその拡大斜視図、(b)は(a)におけるb〜b線断面図である。
【0020】
摺動部材5は、図5に示すように、筒軸4の軸線方向に長尺な摺動部材本体5aの前端に、筆記芯2を着脱可能に装着する筆記芯装着部5bが設けられるとともに、摺動部材本体5aの後端部近傍に筒軸4の外側向きに、筒軸4の軸線方向と直交する側面視においてほぼT字状の係止爪5cが設けられている。
この係止爪5cは、前部爪部5dと後部爪部5eを有する。前記係止爪5cは、ほぼ板状をなしており、筒軸4の軸線方向の寸法は幅方向の寸法よりも大きく形成されている。このような構成とすることにより、係止爪5cにおける前記軸線方向の強度が向上し、筆記芯2の出没・収納時に負荷される荷重や衝撃の反復による破損を可及的に防止することができる。
【0021】
操作部材6は、図6に示すように、長さが、摺動部材5の係止爪5cよりも少し大きい部材からなり、筒軸4の径方向に貫通する挿入孔6aが設けられている。操作部材6の係止部6b、6cは、前記挿入孔6a内に筒軸4の軸線方向の内向きに突出する係止部6b、6cを設けることによって形成されている。
【0022】
摺動部材5と操作部材6の組付けは、操作部材6に設けた係止部6b、6cが、摺動部材5に設けた係止爪5cを乗り越えることによりなされる。すなわち、図3において二点鎖線で示すように、まず操作部材6の後部係止部6cを、摺動部材5の後部爪部5eに係合させ、次いで操作部材6の前部を矢印Fで示す方向に押圧して、操作部材6の前部係止部6bを、摺動部材5の前部爪部5dに係合させることにより、操作部材6に設けた係止部6b、6cが、摺動部材5に設けた前部爪部5d、後部爪部5eを乗り越えることができる。このようにすることにより、摺動部材5と操作部材6の両部材を容易に組付けることができる。
【0023】
一般には、筒軸4内に予め配設した摺動部材5に対して、筒軸4の筒面後部に設けられた軸線方向に長手の開口部7を介して、操作部材6を外方から組付けることによってノック部材3が構成される。
【0024】
組付けられたノック部材3は、図3に示すように、通常は、摺動部材5と操作部材6の組付け内部において、筒軸4の軸線方向における摺動部材5と操作部材6との間に間隙L1、L2、L3、L4が存在しうるように設計されている。また、図4においては、間隙L1、L2、L4は存在するが、間隙L3は存在しない。換言すれば、操作部材6を筒軸4の軸線方向に操作した場合の初期操作時において、操作部材6と摺動部材5とが相対的な運動が可能であればよい。詳しくは、操作部材6を筒軸4の軸線方向に操作した場合における筆記芯2の前記筒軸4からの繰出し、または前記筒軸4への没入の少なくともいずれか一方の初期操作時においては操作部材6のみが軸線方向に摺動し、次いで操作部材6が摺動部材5に組付け内部において当接することにより、摺動部材5が操作部材6とともに摺動するように、摺動部材5と操作部材6とが組付けされていればよい。
【0025】
このような構成とすることにより、摺動部材5と操作部材6の両部材が組付けられた状態において、相互に一方の部材が他方の部材に対して、筒軸4の軸線方向の応力を及ぼしていないこととなる。このように相互に一方の部材が他方の部材に対して応力を及ぼしていないため、経時変化によるクリープ現象等が生ずることがなく、これに起因して嵌合力が弱くなり、出没・収納時にかかる荷重や衝撃の反復により、操作部材6が外れるという問題を解消することができる。
【0026】
また、本発明は更に別の実施例として、組付けされた摺動部材5と操作部材6の組付け内部において、筒軸4の軸線方向における摺動部材5と操作部材6との間に間隙を設け、この間隙内に弾性緩衝部材を配設することもできる。
【0027】
このような構成とすることにより、前記間隙の存在により生ずる虞がある操作部材6のがたつきを防止することができる。また、弾性緩衝部材を配設した場合、操作部材6を筒軸4の軸線方向に操作したときの初期操作時には、操作部材6の摺動により前記弾性緩衝部材が弾性変形し、次いで摺動部材5が操作部材6とともに摺動することとなる。
【0028】
また、実施例として、摺動部材に係止爪、操作部材に係止部を設けた場合について説明したが、これとは逆に摺動部材に係止部、操作部材に係止爪を設けてもよい。たとえば、摺動部材に挿入孔を設けて、この挿入孔内に筒軸の軸線方向の内向きに突出する係止部を設け、操作部材に外向きの係止爪を設ける形態としてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 スライドノック式筆記具
2 筆記芯
3 ノック部材
4 筒軸
5 摺動部材
5a 摺動部材本体
5b 筆記芯装着部
5c 係止爪
5d 前部爪部
5e 後部爪部
6 操作部材
6a 挿入孔
6b 係止部(前部係止部)
6c 係止部(後部係止部)
7 開口部





図1
図2
図3
図4
図5
図6