(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来ロータリジョイントにあっては、オイルシールがメカニカルシールの回転密封環を利用して構成されているために、当該回転密封環を構成要素とするメカニカルシールのシール機能(メカニカルシール機能)に悪影響を及ぼす等の問題が生じる。
【0007】
各オイルシールにおける環状シール部材と回転密封環の外周面との相対回転摺接部分が発熱することから、当該回転密封環の端面(密封端面)が静止密封環との相対回転摺接により発熱することとも相俟って、当該回転密封環の密封端面にメカニカルシール機能に悪影響を及ぼす大きな熱歪が生じる虞れがある。すなわち、回転密封環の密封端面及び外周面が静止密封環及び環状シール部材との相対回転摺接により発熱し、その発熱量が異なることから当該回転密封環の密封端面と外周面とに温度差が生じ、これら密封端面及び外周面と当該回転密封環における密封端面と反対側の端面とで当該端面が発熱しないことから大きな温度差が生じて、当該回転密封環の表面温度が不均一となり、その結果、密封端面に大きな熱歪が生じる虞れがある。
【0008】
また、各オイルシールは、ゴム製の環状シール部材を炭化ケイ素製の回転密封環の外周面に接触させることによりシール機能(以下「オイルシール機能」という)を発揮するように構成されたものであるが、炭化ケイ素との摩擦係数が高いことから、環状シール部材と回転密封環との相対回転摺接部分においては、当該部分が冷却水により潤滑されていても、摩耗が発生し、オイルシール機能を長期に亘って確保することが困難である。特に、冷却流体空間の上部においては冷却水が存在しないエア溜まりが生じることがあり、上位のオイルシールで環状シール部材と回転密封環との接触部分において冷却水による潤滑が良好に行われない場合がある。したがって、当該接触部分においては摩耗、発熱が顕著に生じて、下位のオイルシールが正常にオイルシール機能を発揮している場合にも冷却流体空間のシールが良好に行われず、しかも上位のオイルシールを構成する回転密封環と静止密封環との接触面に熱歪を生じて当該両密封環によるメカニカルシール機能も低下する虞れがある。このように、ケース体と回転軸体との回転軸線が上下方向に延びているロータリジョイントにあっては、上位のオイルシールの信頼性が低く、オイルシール機能が極めて不安定なものとなり、加えて最上位のメカニカルシールによるメカニカルシール機能も安定しない。
【0009】
本発明は、従来ロータリジョイントにおける上記した問題を解決すべくなされたもので、両オイルシールによるオイルシール機能及びその一部を構成する回転密封環によるメカニカルシール機能を長期に亘って良好且つ安定して発揮できるロータリジョイントを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、筒状のケース体とこれに同心をなして相対回転自在に連結した回転軸体との対向周面間に、ケース体に設けた静止密封環と回転軸体に設けた回転密封環との対向端面である密封端面の相対回転摺接作用によりシールするように構成された複数個のメカニカルシールを両体の回転軸線方向に密封環が縦列し且つその密封環群の両端部に回転密封環が位置するように配設して、隣接するメカニカルシールでシールされた通路接続空間を形成すると共に、当該通路接続空間と当該メカニカルシールで区画された空間であって一対のオイルシールによりシールされた冷却流体空間を形成し、両体に当該通路接続空間を介して連通する流体通路を形成し、各オイルシールが、前記密封環群の端部に位置する回転密封環とケース体に固定されて当該回転密封環の外周面に圧接する弾性材製の環状シール部材とで構成されているロータリジョイントにおいて、上記の目的を達成すべく、特に、各オイルシールを構成する回転密封環の外周面及びその両端面の一方であって密封端面と反対側の端面に、当該回転密封環の構成材に比して熱伝導係数及び硬度が大きい材料からなるコーティング層を一連に形成しておくことを提案するものである。
【0011】
本発明のロータリジョイントの好ましい実施の形態にあっては、ケース体に、冷却流体空間に冷却流体を循環供給させる冷却流体給排通路が形成されており、前記両体の回転軸線が上下方向に延びている。而して、各オイルシールを構成する回転密封環には、密封端面及び/内周面にも前記コーティング層が一連に形成されていることが好ましい。また、4個以上のメカニカルシールが設けられている場合においては、少なくとも1つのメカニカルシールの回転密封環とこれに隣接するメカニカルシールの回転密封環とが両端面を密封端面とする1個の回転密封環で兼用されていることが好ましい。この場合において、前記兼用されている回転密封環の両密封端面に当該回転密封環の構成材に比して熱伝導係数及び硬度が大きい材料からなるコーティング層が形成されていることが好ましく、更には回転密封環の内外周面の一方にも当該コーティング層が一連に形成されていることが好ましい。また、オイルシールを構成する回転密封環を含む各回転密封環の密封端面及び各静止密封環の密封端面の少なくとも一方に当該密封環の構成材に比して熱伝導係数及び硬度が大きい材料からなるコーティング層を形成しておくことが好ましい。また、前記両体の流体通路を前記通路接続空間により接続してなる一連の流路を流動する流体が超純水若しくは純水である場合又は金属イオンの溶出を嫌う流体である場合においては、各密封環における当該流体と接触する面に当該密封環の密封端面を含めて前記コーティング層が一連に形成されており、且つ当該密封環以外の部材であって当該流路を構成する部材における当該流体と接触する面又は部分がプラスチックで構成されていることが好ましい。何れの場合においても、上記した各コーティング層はダイヤモンドで構成しておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のロータリジョイントにあっては、各オイルシールにおいて弾性材製の環状シール部材が相対回転摺接する回転密封環の外周面に当該回転密封環の構成材に比して熱伝導係数及び硬度が大きい材料からなるコーティング層を形成することによって、当該環状シール部材と回転密封環との相対回転摺接部分で発生する摩耗量及び発熱量を可及的に減少させることができ、両オイルシール又は一方のオイルシールがドライ雰囲気にある場合にも両オイルシールによるオイルシール機能を長期に亘って良好に確保できる。さらに、当該回転密封環における密封端面と反対側の端面に前記コーティング層を一連に形成して、オイルシールの相対回転摺接部分における発生熱をコーティング層により非密封端面に速やかに伝熱させることによって、当該回転密封環の両端面である静止密封環との相対回転摺接により発熱する密封端面とその反対側の端面との温度差を可及的に小さくして、当該密封端面におけるメカニカルシール機能に悪影響を与えるような大きな熱歪の発生を可及的に防止することができる。かかる効果は、特に、コーティング層をダイヤモンドで構成しておくことによって顕著に発揮される。
【0013】
したがって、本発明によれば、オイルシール機能及びメカニカルシール機能を長期に亘って良好に発揮させることができ、従来ロータリジョイントに比して耐久性、信頼性に優れた極めて実用的なロータリジョイントを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明に係るロータリジョイントの一例を示す断面図であり、
図2は
図1と異なる位置で断面した当該ロータリジョイントの断面図であり、
図3は
図1の要部を拡大して示す詳細断面図であり、
図4は
図3と異なる
図1の要部を拡大して示す詳細断面図である。なお、以下の説明において、上下とは
図1〜
図4における上下をいうものとする。
【0016】
図1及び
図2に示すロータリジョイントは、筒状のケース体1とこれに同心をなして相対回転自在に連結した回転軸体2とを具備し、両体1,2の対向周面間に、複数個のメカニカルシール3…を両体1,2の回転軸線方向(以下、単に「軸線方向」という)つまり上下方向に縦列させて配置して、隣接するメカニカルシール3,3でシールされた通路接続空間4を形成すると共に、当該通路接続空間4とメカニカルシール3で区画された空間であって一対のオイルシール5,5でシールされた冷却流体空間6を形成し、両体1,2に通路接続空間4を介して連通する流体通路7,8(
図2参照)を形成してなる竪型のものであり、CMP装置等の回転機器の相対回転部材間での流体流動を行わしめるものである。なお、以下の説明において、上下とは
図1〜
図4の上下をいう。
【0017】
ケース体1は、
図1及び
図2に示す如く、中心線が上下方向に延びる円形内周部を有するもので、上下方向に複数個の環状部分に分割された筒状構造をなす。ケース体1は、回転機器の固定側部材(例えば、CMP装置の装置本体)に取り付けられる。
【0018】
回転軸体2は、
図1及び
図2に示す如く、軸線が上下方向に延びる円柱状の軸本体21と、これに上下方向に所定間隔を隔てて縦列状に嵌合固定された複数個のスリーブ22…と軸本体21の上端部に嵌合固定された有底筒状のベアリング受体23とで構成されており、ベアリング受体23とケース体1の上端部との間及び軸本体21の下端部に形成された大径のベアリング受部21aとケース体1の下端部との間に夫々装填した上下一対のベアリング9a,9bによりケース体1の内周部に同心状をなして相対回転自在に支持されている。回転軸体2は、軸本体21の下端部において回転機器の回転側部材(例えば、CMP装置のトップリング又はターンテーブル)に取り付けられる。
【0019】
各メカニカルシール3は、
図1に示す如く、回転軸体2に固定した回転密封環31とこれに対向してケース体1に軸線方向に移動可能に保持された静止密封環32とこれを回転密封環31に押圧接触させるスプリング33とを具備して、両密封環31,32の対向端面である密封端面31a,32aの相対回転摺接作用によりその相対回転摺接部分の内周側領域である通路接続空間4とその外周側領域である冷却流体空間6とをシールするように構成された端面接触形のメカニカルシールである。この例では、
図1及び
図2に示す如く、4個のメカニカルシール3…を全密封環31…,32…が回転軸線方向に縦列し且つその密封環群31…,32…の両端部に回転密封環31,31が位置する状態で配置されている。すなわち、両回転密封環31,31間に静止密封環32,32が位置するダブルシール配置の一対のメカニカルシール3,3からなる2組のメカニカルシールユニットを軸線方向に縦列配置してある。
【0020】
各回転密封環31は、両体1,2の回転軸線(以下、単に「軸線」という)と同心をなす断面方形の円環状体であり、
図3及び
図4に示す如く、静止密封環32が接触する端面を軸線に直交する平滑な円環状平面である密封端面31aに構成してある。この例では、1個のメカニカルシールの回転密封環31とこれに隣接するメカニカルシールの回転密封環31とを、
図4に示す如く、両端面を密封端面31a,31aとする1個の回転密封環31で兼用している。すなわち、上下方向に縦列する回転密封環群31…のうち両端部(上下端部)に位置する回転密封環(以下「端部回転密封環31A」という)を除いて、回転密封環31の両端面を密封端面31a,31aに構成してある。
【0021】
各回転密封環31,31Aは、
図1及び
図2に示す如く、隣接する回転密封環31との相互間隔をスリーブ22によって規制された状態で回転軸体2の軸本体21に嵌合固定されている。すなわち、各回転密封環31,31Aは、
図1に示す如く、ベアリング受体23をボルト24により軸本体21に締め付けることにより、スリーブ22を介してベアリング受部21aとベアリング受体23との間に挟圧固定されており、軸線方向に等間隔を隔てた縦列状態で回転軸体2に固定されている。なお、各スリーブ22の両端内周部と軸本体21との間には、
図4に示す如く、軸本体21と回転密封環31,31Aとの嵌合部分をシールするOリング25が装填されている。
【0022】
各静止密封環32は、
図4に示す如く、軸線と同心をなす断面略L字状の円環状体であり、先端突出部の端面を軸線に直交する平滑な円環状平面である密封端面32aに構成してある。静止密封環32の密封端面32aは、径方向面幅(シール面幅)を回転密封環31,31Aの密封端面31aの径方向面幅より小さくしたもので、当該密封端面31aの径方向中央部ないし略径方向中央部に接触している。すなわち、静止密封環32の密封端面32aの内径は回転密封環31,31Aの密封端面31aの内径より大きく且つその外径は回転密封環31,31Aの密封端面31aの外径より小さく設定されている。各静止密封環32は、
図1及び
図4に示す如く、ケース体1の内周部に突出する環状壁11にOリング32bを介して軸線方向に移動可能に内嵌保持されており、さらに
図1に示す如く、その外周部に形成した係合凹部に環状壁11から軸線方向に突出するドライブピン32cを係合させることにより、軸線方向への相対移動を所定範囲で許容された状態でケース体1に相対回転不能に保持されている。なお、この例では、
図1に示す如く、全ドライブピン32cが環状壁11,11に軸線方向に貫通支持されたドライブバーで兼用されている。
【0023】
スプリング33は、
図1に示す如く、各メカニカルシールユニットにおいて、環状壁11を軸線方向に貫通する連通孔11aに装填されていて、両静止密封環32,32を各回転密封環31,31Aへと押圧附勢する共通部材とされている。
【0024】
両体1,2には、
図2に示す如く、各通路接続空間4に連通する流体通路7,8が形成されており、この例では、両体1,2間に両流体通路7,8と通路接続空間4とにより両体1,2間で流体Fを矢印方向(実線又は破線で示す矢印方向)に各別に流動させる2個の流路R,Rが形成されている。ケース体1の各流体通路7はケース体1を径方向に貫通して形成されており、その一端部が環状壁11の内周面において通路接続空間4に開口すると共にその他端部が回転機器の固定側部材に形成された流体通路に接続される。回転軸体2に形成された各流体通路8は、軸本体21とスリーブ22との対向周面間に形成された環状のヘッダ空間8aと、スリーブ22を径方向に貫通してヘッダ空間8aと通路接続空間4とを連通する複数個の連通孔8b…と、軸本体21をその下端部から軸線方向に貫通してヘッダ空間8aに開口する流体通路本体8cとで構成されており、流体通路本体8cの下端部が回転機器の回転側部材に形成された流体通路に接続される。なお、各密封環31,31A,32の構成材は流路Rを流動する流体Fの性状等のロータリジョイント使用条件に応じて選択され、一般に炭化ケイ素等のセラミックスや超硬合金(タングステンカーバイド)等で構成される。
【0025】
両オイルシール5,5は、
図1及び
図2に示す如く、両ベアリング9a,9b間に配置されており、軸線方向に並列する密封環群31…,32…の両端部(上下端部)に位置する端部回転密封環31A,31Aとケース体1の内周部に固定されて端部回転密封環31A,31Aの外周面に圧接するゴム等の弾性材製の環状シール部材51とからなる。環状シール部材51は周知のものであり、
図3に示す如く、金属材(SUS304等)製の補強金具51aが埋設されてケース体1の内周部に内嵌固定された本体部と、端部回転密封環31Aの外周面にガータスプリング51bで緊縛、圧接されてシール機能(オイルシール機能)を発揮するリップシール部とからなる。
【0026】
両体1,2の対向周面間には、各メカニカルシール3における両密封端面31a,32aの相対回転摺接部分の外周側領域及び当該外周側領域間を仕切る環状壁11に形成された連通孔11aで構成される空間であって両オイルシール5,5でシールされた冷却流体空間6が形成されており、冷却流体空間6には適宜の冷却流体Cが循環供給されるようになっている。この例では、冷却流体Cとして常温水等の液体が使用されている。すなわち、ケース体1には、
図1に示す如く、冷却流体空間6の上下端部に開口して冷却流体Cを給排する冷却流体供給通路6a及び冷却流体排出通路6bが形成されていて、冷却流体Cを冷却流体空間6に循環供給するようになっている。なお、ケース体1には、
図1に示す如く、オイルシール5,5とベアリング9a,9bとの間において両体1,2の対向周面間に開口するドレン13a,13bが形成されている。
【0027】
而して、各オイルシール5を構成する端部回転密封環31Aの外周面及びその両端面の一方であって密封端面31aと反対側の端面(以下「非密封端面」という)31bには、本発明に従って、
図1〜
図3に示す如く、端部回転密封環31Aの構成材に比して熱伝導係数及び硬度が大きく且つ摩擦係数が小さな材料からなるコーティング層10a,10bが一連に形成されている。すなわち、コーティング層は、各端部回転密封環31Aの外周面を全面的に被覆する外周面コーティング層10aとこれに連なって当該端部回転密封環31Aの非密封端面31bを全面的に被覆する非密封端面コーティング層10bとからなる。なお、以下の説明において、密封環とこれに被覆形成されたコーティング層とを区別する必要があるときは、前者を密封環母材という。
【0028】
この例では、コーティング層10a,10bの構成材として、端部回転密封環31Aの構成材(密封環母材の構成材)がセラミックス、超硬合金等の如何なる密封環構成材であっても、これより熱伝導係数及び硬度が大きく且つ摩擦係数が小さなダイヤモンドが使用されている。なお、ダイヤモンドコーティング層10a,10bの形成は、熱フィラメント化学蒸着法、マイクロ波プラズマ化学蒸着法、高周波プラズマ法、直流放電プラズマ法、アーク放電プラズマジェット法、燃焼炎法等のコーティング方法によって行われる。
【0029】
以上のように構成されたロータリジョイントにあっては、各オイルシール5において環状シール部材51が相対回転摺接する端部回転密封環31Aの外周面にその構成材(密封環母材の構成材)より硬度が大きく且つ摩擦係数が小さい材料の外周面コーティング層10aを形成してあることから、従来ロータリジョイントのように環状シール部材と端部回転密封環の外周面(密封環母材の外周面)とが直接に相対回転摺接する場合に比して、両者31A,51の相対回転摺接部分で発生する摩耗量や発熱量が少なくなる。特に、外周面コーティング層10aが上記した如くダイヤモンドで構成される場合には、ダイヤモンドが自然界に存在する固体物質で最も硬質のものであり、摩擦係数が炭化ケイ素等のあらゆる密封環構成材に比して極めて低い(一般に、ダイヤモンドの摩擦係数は0.03(μ)であり、あらゆる密封環構成材に比して遥かに低摩擦係数のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)よりも更に10%以上低い)ものであることから、環状シール部材51と外周面コーティング層10aとの相対回転摺接によって生じる摩耗や発熱は極めて少ない。
【0030】
ところで、冷却流体空間6に供給された冷却流体Cによって環状シール部材51と外周面コーティング層10aとの相対摺接部分が潤滑、冷却されるため、当該相対摺接部分における摩耗、発熱の更なる減少が期待されるが、かかる摩耗、発熱の減少に対する冷却流体Cの潤滑、冷却による寄与率は外周面コーティング層10aによる寄与率(コーティング層10aを形成することよって摩擦力が低減され且つ耐摩耗性が向上することによる寄与率)に比して極めて小さい。したがって、仮に冷却流体空間6に冷却流体Cが供給されていない場合(例えば、冷却流体空間6の冷却流体Cが大気又は窒素ガス等の気体である場合)にも、つまり環状シール部材51と外周面コーティング層10aとの相対回転摺接部分がドライ雰囲気にある場合にも、当該相対回転摺接部分における摩耗、発熱は冷却流体空間6に冷却流体Cが供給されている場合と同様に十分に減少される。このため、冷却流体空間6に冷却流体Cを供給する場合にあって、上位のオイルシール5における当該相対回転摺接部分が冒頭で述べた如くエア溜まりの発生によりドライ雰囲気となるときにも、当該オイルシール5によるオイルシール機能が、常に冷却流体Cと接触する下位のオイルシール5によるオイルシール機能と同等に発揮され、両オイルシール5,5の耐久性やオイルシール機能に殆ど差はない。すなわち、エア溜まりの発生により上位のオイルシール5の耐久性やオイルシール機能が下位のオイルシール5に比して著しく低下するようなことがなく、両オイルシール5,5が長期に亘って良好なオイルシール機能を発揮する。
【0031】
また、コーティング層10a,10bは端部回転密封環31Aの構成材料より熱伝導率の高い材料で構成されており、端部回転密封環31Aの非密封端面31bには外周面コーティング層10aに連なる非密封端面コーティング層10bが被覆形成されていることから、各環状シール部材51と端部回転密封環31Aの外周面に形成した外周面コーティング層10aとの相対回転摺接によって発生する熱は、外周面コーティング層10aから端部回転密封環31Aの密封環母材へと伝わるよりも早く非密封端面コーティング層10bへと伝わって、当該密封環母材の非密封端面31bを加熱することになる。このため、静止密封環32との相対回転摺接によって発熱する端部回転密封環31Aの密封端面31aとその反対側の端面(非密封端面)31bとの温度差が小さくなり、端部回転密封環31Aの両端面(密封環母材の両端面)31a,31bに大きな温度差が生じることがない。その結果、端部回転密封環31Aの密封端面31aにメカニカルシール機能に悪影響を及ぼすような大きな熱歪が生じる虞れがない。特に、コーティング層10a,10bが上記の如くダイヤモンドで構成される場合には、ダイヤモンドが全ての固体物質で最も熱伝導率が高く、端部回転密封環31Aの構成材であるセラミックスや超硬合金等のあらゆる密封環構成材に比して熱伝導率が極めて高いものである(例えば、炭化ケイ素の熱伝導率が70〜120W/mKであるのに対し、ダイヤモンドの熱伝導率は1000〜2000W/mKである)から、上記した効果はより顕著に発揮されることになる。
【0032】
以上のように、本発明に係るロータリジョイントによれば、従来ロータリジョイントに比して、オイルシール5,5の耐久性が向上すると共に、環状シール部材51と端部回転密封環31Aとの相対回転摺接による発熱が端部回転密封環31Aの密封端面31aにおける熱歪発生を誘発、助長するようなことがなく、オイルシール5によるシール面を端部回転密封環31Aの外周面で構成していることによるメカニカルシール機能への悪影響を排除することができる。
【0033】
なお、本発明の構成は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の基本原理を逸脱しない範囲で適宜に改良、変更することができる。
【0034】
例えば、本発明は、上記した如く両体1,2の回転軸線が上下方向に延びる竪型のロータリジョイントに限定されず、当該回転軸線が水平方向に延びる横型のロータリジョイントにも好適に適用することができる。また、上記した如く2個の流路R,Rを有するロータリジョイントに限定されず、メカニカルシール3の数を増減させた1個の流路Rを有するロータリジョイント又は3個以上の流路Rを有するロータリジョイントにも好適に適用することができる。さらに、本発明のロータリジョイントにあっては、メカニカルシール群3…のうち回転密封環31,31を兼用するメカニカルシール数は任意に設定することができ、特開2002−5380公報に開示される如く、すべてのメカニカルシール3の回転密封環31を兼用しない独立のものに構成しておいてもよい。
【0035】
さらに、コーティング層は、外周面コーティング層10a及び非密封端面コーティング層10bに加えて、
図5又は
図6に示す如く、各端部回転密封環31Aの内周面又は密封端面31aにも形成しておくことができる。
【0036】
すなわち、
図5に示すものでは、各端部回転密封環31Aの内周面に非密封端面コーティング層10bに連なる内周面コーティング層10cを形成してある。この場合、環状シール部材51との相対回転摺接により発熱する外周面コーティング層10aから非密封端面コーティング層10bを経て内周面コーティング層10cに伝熱され、端部回転密封環31の密封端面31aを除く表面(密封環母材の内外周面及び非密封端面)が同一温度ないし略同一温度に加熱される。したがって、静止密封環32との相対回転摺接により発熱する端部回転密封環31Aの密封端面31aとこれを除く密封環母材の表面部分との温度差が小さくなり、つまり密封環母材の表面が略均一温度となり、当該密封端面31aにおける熱歪の発生が可及的に防止される。
【0037】
また、
図6に示すものでは、各端部回転密封環31Aの密封端面31aに外周面コーティング層10aに連なる密封端面コーティング層10dを形成してある。この場合、両密封端面31a,32aの相対回転摺接による摩耗、発熱が可及的に抑制される。しかも、一連のコーティング層10a,10b,10dにより密封環母材の外周面及び両端面31a,31bが均一温度となり、密封端面31aにおける熱歪の発生が更に効果的に抑制される。
【0038】
図5及び
図6に示すものにおける上記した効果は、コーティング層10a,10b,10c,10dをダイヤモンドで構成しておくことにより、より顕著に発揮される。
【0039】
また、端部回転密封環31A以外の各回転密封環31についても、密封環母材より熱伝導係数及び硬度が大きく且つ摩擦係数が小さな材料(ダイヤモンドが最適する)からなるコーティング層を被覆形成しておくことができる。例えば、
図7に示す如く、各回転密封環31,31Aの密封端面31aにコーティング層10d,10eを形成しておくと、静止密封環32の密封端面32aとの相対回転摺接による摩耗、発熱を効果的に抑制することができる。しかも、回転密封環31,31Aの密封端面31aの径方向面幅に比して静止密封環32の密封端面32aの径方向面幅が小さいことから、静止密封環32の密封端面32aに発生する熱が相手密封端面31aのコーティング層10d,10eに移行、吸収されて、当該密封端面32aの温度が低下する。一方、相手密封端面31aに形成されたコーティング層10d,10eにおいては、静止密封環32の密封端面32aとの接触部分から内外周側に食み出した部分が流路Rを通過する流体F及び冷却流体Cと接触していることから、当該密封端面32aとの相対回転摺接により発生した熱は当該食み出した部分から流体F及び冷却流体Cへと放熱され、冷却される。したがって、回転密封環31,31A及び静止密封環32の何れについても密封端面31a,32aの温度が低下して、熱歪の発生が効果的に抑制される。特に、
図7に示す如く、両端面を密封端面31a,31aとする回転密封環31においては、密封環母材の両端面31a,31aが静止密封環32,32との相対回転摺接によって発熱するため、これらの熱が密封環母材の熱歪を誘発する虞れが高いが、当該熱が密封環母材に伝熱される前にコーティング層10e,10eから放熱されることから、密封環母材における熱歪の発生が可及的に抑制され、良好なメカニカルシール機能を発揮することができる。
【0040】
ところで、両端面を密封端面31a,31aとする回転密封環31においては、一方の密封端面31aと他方の密封端面31aとで静止密封環32との相対回転摺接による発熱量が異なり、当該回転密封環31の両端面31a,31aに大きな温度差が生じることがあるが、かかる場合、密封環母材に熱歪が生じて両密封端面31a,31aにメカニカルシール機能に悪影響を及ぼすような熱歪が生じる虞れがある。このような場合には、
図8に示す如く、当該回転密封環31の内外面の一方に両端面31a,31aのコーティング層10e,10eに連なるコーティング層10fを形成しておくことが好ましい。このようにすれば、両端面31a,31aのコーティング層10e,10eがコーティング層10fを介して均一温度となり、つまり密封環母材の両端面31a,31aが同一温度となり上記した問題が可及的に防止される。特に、
図8に示す如く、冷却流体Cに接触する回転密封環31の外周面にコーティング層10fを形成した場合には、コーティング層10e,10fと冷却流体Cとの接触面積が増大して放熱、冷却作用が促進され、密封端面31a,31aの熱歪が更に効果的に抑制される。
【0041】
また、各静止密封環32の密封端面32aに上記したコーティング層と同様のコーティング層を形成しておくことができ、さらに
図9に示す如く、各静止密封環32の表面において冷却流体Cと接触する部分に、密封端面32aを含めて、当該静止密封環32の構成材より熱伝導係数及び硬度が大きく且つ摩擦係数が小さな材料(ダイヤモンドが最適する)からなるコーティング層10gを形成しておいてもよい。このようにすれば、回転密封環31,31Aとの相対回転摺接による摩耗、発熱を効果的に抑制できると共に、冷却流体Cによる静止密封環32の冷却、放熱が促進され、メカニカルシール機能が長期に亘って良好に発揮される。
【0042】
また、各静止密封環32にコーティング層を被覆形成しておく場合にあって、流路Rを通過する流体Fが冷却流体空間6の冷却流体Cより冷却機能が優れるとき(例えば、流体Fが冷却流体Cより低温の液体であるとき等)ときには、
図10に示す如く、各静止密封環32の表面において当該流体Fと接触する部分に、密封端面32aを含めて、上記コーティング層10gと同一材料からなるコーティング層10hを形成しておくことが好ましい。また、静止密封環32に接触する2種の流体が異相流体である場合(流路Rの流体F及び冷却流体Cの一方が液体であり、他方が気体である場合)においては、両流体C,Fの温度が同一又は略同一である場合を含めて冷却機能は液体が気体より優れているため、
図9又は
図10に示す如く、液体である流体と接触する静止密封環32の表面部分に上記コーティング層10g又は10hを被覆形成しておくことが好ましい。なお、何れの場合においても、
図7、
図8又は
図10に示す如く、各回転密封環31,31Aの密封端面31aに前記コーティング層10d,10eを構成しておくことによって、メカニカルシール機能が更に向上する。
【0043】
ところで、CMP装置等の半導体分野で使用される回転機器にあっては、超純水若しくは純水又は金属イオンの溶出を嫌う流体が使用され、これらの流体をロータリジョイントによりコンタミネーションを生じることなく流動させる必要があるため、ロータリジョイントの流路を流動する流体と接触するメカニカルシール構成部材をパーティクルや金属イオンが発生し難い炭化ケイ素やプラスチックで構成しておくことが提案されている。例えば、特開2003−200344公報に開示される如く、各密封環を炭化ケイ素で構成すると共に密封環以外のロータリジョイント構成部材であって流路を流動する流体と接触する部材をエンジニアリング・プラスチック等のプラスチックで構成しておくのである。しかし、このようなロータリジョイントでは、密封環を金属イオンを溶出する虞れのある超硬合金等で構成しておくことができず、密封環の構成材選択範囲が大幅に制限されることになる。また、密封環が炭化ケイ素で構成されている場合にあって、ロータリジョイントの流路を流動する流体が超純水や純水であるときには、これとの接触により当該密封環にエロージョン・コロージョンが発生する虞れがある。このような場合には、
図10に示す如く、流路Rを流動する流体Fと接触する各密封環31,31A,32の表面部分に密封端面31a,32aを含めて電気絶縁性を有し且つ化学的、物理的に安定なダイヤモンドによる前記コーティング層10d,10e,10hを一連に形成しておけばよい。なお、
図10に示す例では、各回転密封環31,31Aにおける流体Fと接触する表面部分は端面(密封端面)31aのみである。このようにしておけば、密封環31,31A,32を金属イオンが溶出する虞れのある超硬合金等や超純水、純水との接触によりエロージョン・コロージョンを発生する虞れのある炭化ケイ素等で構成することができ、密封環31,31A,32の構成材選択範囲が制限されることがない。この場合、当該密封環31,31A,32以外のロータリジョイント部材であって流路Rを構成する部材における当該流体Fと接触する面又は部分はプラスチック(例えば、フッ素樹脂やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)等のエンジニアリング・プラスチック)でコーティング又は構成しておく。このように構成しておけば、流路Rを流動する流体Fが超純水若しくは純水である場合又は金属イオンの溶出を嫌う流体である場合にも、上記した問題は生じない。