特許第6491030号(P6491030)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491030
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】斜ケーブルの定着構造
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/14 20060101AFI20190318BHJP
   E01D 11/04 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   E01D19/14
   E01D11/04
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-88394(P2015-88394)
(22)【出願日】2015年4月23日
(65)【公開番号】特開2016-204996(P2016-204996A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096611
【弁理士】
【氏名又は名称】宮川 清
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 裕生
(72)【発明者】
【氏名】浅井 洋
(72)【発明者】
【氏名】諸橋 明
(72)【発明者】
【氏名】桑野 昌晴
(72)【発明者】
【氏名】平 喜彦
(72)【発明者】
【氏名】春日 昭夫
【審査官】 西田 光宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−051432(JP,A)
【文献】 特開2002−348813(JP,A)
【文献】 実開平02−099125(JP,U)
【文献】 特開平06−123336(JP,A)
【文献】 特開2006−241901(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0255272(US,A1)
【文献】 米国特許第05121518(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00
E01D 11/00
E01D 11/04
E01D 19/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜張橋の主塔上部から橋桁の軸線方向(以下、橋軸方向)における一方側及び他方側の斜め下方に張架されて前記橋桁を吊り支持する複数の斜ケーブルを、前記主塔上部に定着する斜ケーブルの定着構造であって、
板面が橋軸方向となるように配置され、前記橋桁の軸線と直角方向(以下、橋軸直角方向)に間隔を開けて互いに対向するように配置された2つの連結部鋼板と、これらの連結部鋼板の橋軸方向における端縁を連結するように接合され、なめらかに湾曲した曲面を形成する湾曲部鋼板とを備え、平断面が閉じた形状となった鋼殻と、
該鋼殻の内側の橋軸方向における一方側の端部付近及び他方側の端部付近でそれぞれが該鋼殻の湾曲部鋼板と密着するように形成された第1のコンクリートブロック及び第2のコンクリートブロックと、を有し、
前記斜ケーブルの上端部は、前記湾曲部鋼板に設けられた挿通孔を貫通し、
前記主塔上部から橋軸方向における前記一方側に張架されて前記橋桁を吊り支持する斜ケーブルの上端部が前記第1のコンクリートブロックに定着され、
前記主塔上部から橋軸方向における前記他方側に張架されて前記橋桁を吊り支持する斜ケーブルの上端部が前記第2のコンクリートブロックに定着されていることを特徴とする斜ケーブルの定着構造。
【請求項2】
前記鋼殻の外側に密着する外側コンクリート部と、
橋軸方向における前記鋼殻の両端付近で橋軸直角方向へほぼ水平に配置され、緊張力が導入された状態で両端部が前記外側コンクリート部に定着される横締め緊張材と、を有することを特徴とする請求項1に記載の斜ケーブルの定着構造。
【請求項3】
前記鋼殻の外側に密着する外側コンクリート部と、
橋軸直角方向へほぼ水平に配置され、緊張力が導入された状態で、両端部が前記外側コンクリート部に定着される横締め緊張材と、を有し、
前記横締め緊張材は、前記鋼殻に設けられた開口に挿通され、該鋼殻の内側にある第1のコンクリートブロック又は第2のコンクリートブロック内を貫通するものであることを特徴とする請求項1に記載の斜ケーブルの定着構造。
【請求項4】
前記第1のコンクリートブロック又は第2のコンクリートブロックから前記鋼殻に設けられた鉄筋挿通孔を経て前記外側コンクリート部に連続する鉄筋が配置されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の斜ケーブルの定着構造。
【請求項5】
前記外側コンクリート部には、前記鋼殻の外側で該鋼殻の外周面と間隔を開け、該鋼殻の外側を囲むように周方向の鉄筋が配置されていることを特徴とする請求項2から請求項4までのいずれかに記載の斜ケーブルの定着構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の一形式である斜張橋の主塔上部に形成され、橋桁を吊り支持するための斜ケーブルを定着する構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
斜張橋は、橋脚上に立設された主塔の上部から橋桁の軸線方向(以下、橋軸方向)における斜め下方に斜ケーブルを張架し、この斜ケーブルによって橋桁を吊り支持するものである。そして、大規模な斜張橋の多くは、主塔から橋軸方向の前後双方に複数の斜ケーブルを張架して橋脚の両側に伸びた橋桁を支持する。このような斜張橋では、主塔の上部に橋軸方向の双方からのケーブルが定着されるとともに、複数の斜ケーブルが上下方向に配列して定着される。特に、一般にエクストラドーズド形式と称される斜張橋では主塔の高さが小さく、複数のケーブルの上下方向における間隔が小さくなっているため、主塔の上部では多くの斜ケーブルが小さな間隔で定着される。そして、主塔の両側に張架された斜ケーブルの引張力は、双方の斜ケーブル間で互いに伝達され、双方の水平方向成分が相殺される。したがって、斜ケーブルの定着部では橋軸方向の双方に張架された斜ケーブルから伝達される大きな引張力を確実に伝達することができる強固な構造が求められている。
【0003】
主塔上部に設けられる斜ケーブルの定着構造としては、例えば特許文献1又は特許文献2に開示されるものがある。
特許文献1に記載されている斜ケーブルの定着構造は、橋軸方向の双方から斜ケーブルが定着される箱状の鋼部材を備え、この鋼部材によって橋軸方向の双方に張架された斜ケーブルの引張力を相互間で伝達するものである。
【0004】
特許文献2に記載の斜ケーブルの定着構造は、橋軸方向に2枚の鋼側板が配置され、これらの周囲を巻きたてるようにコンクリート部材が形成されている。橋軸方向の双方に張架された斜ケーブルは、2枚の鋼側板の間で鋼からなる位置決め板を介してコンクリート部材に定着される。そして、双方に張架された斜ケーブルの引張力の水平成分は、該コンクリート部材からずれ止め部材によって一体となった鋼側板に伝達され、双方の斜ケーブルの相互間で相殺されるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−348813号公報
【特許文献2】特開2007−51432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている斜ケーブルの定着構造では、斜ケーブルが定着される部分に箱状となった鋼部材が用いられており、これらの鋼部材の変形を抑えるために高い剛性が必要となる。このため、鋼材の重量が大きくなるとともに、鋼部材の形成に溶接等の加工が多く必要となる。
また、特許文献2に記載されている斜ケーブルの定着構造では、斜ケーブルがコンクリート部材に定着され、2つの鋼側板の外側面に設けられたスタッドジベルを介してコンクリート部材から鋼側板に引張力が伝達されるものとなっている。このため、スタッドジベルと設けるための加工に多くの労力が必要になる。また、コンクリート部材の寸法が大きくなり、コンクリート部材を補強するために多くの鉄筋を配置する必要がある。
【0007】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、橋軸方向の双方に張架される斜ケーブルから主塔に伝達される引張力の水平成分を双方の斜ケーブル間で円滑に伝達して相殺することができるとともに、施工が容易となる斜ケーブルの定着構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、 斜張橋の主塔上部から橋桁の軸線方向(以下、橋軸方向)における一方側及び他方側の斜め下方に張架されて前記橋桁を吊り支持する複数の斜ケーブルを、前記主塔上部に定着する斜ケーブルの定着構造であって、 板面が橋軸方向となるように配置され、前記橋桁の軸線と直角方向(以下、橋軸直角方向)に間隔を開けて互いに対向するように配置された2つの連結部鋼板と、これらの連結部鋼板の橋軸方向における端縁を連結するように接合され、なめらかに湾曲した曲面を形成する湾曲部鋼板とを備え、平断面が閉じた形状となった鋼殻と、 該鋼殻の内側の橋軸方向における一方側の端部付近及び他方側の端部付近でそれぞれが該鋼殻の湾曲部鋼板と密着するように形成された第1のコンクリートブロック及び第2のコンクリートブロックと、を有し、 前記斜ケーブルの上端部は、前記湾曲部鋼板に設けられた挿通孔を貫通し、 前記主塔上部から橋軸方向における前記一方側に張架されて前記橋桁を吊り支持する斜ケーブルの上端部が前記第1のコンクリートブロックに定着され、 前記主塔上部から橋軸方向における前記他方側に張架されて前記橋桁を吊り支持する斜ケーブルの上端部が前記第2のコンクリートブロックに定着されている斜ケーブルの定着構造を提供する。
【0009】
この斜ケーブルの定着構造では、斜ケーブルの引張力は第1のコンクリートブロック及び第2のコンクリートブロックにそれぞれ伝達される。そして、それぞれのコンクリートブロックに巻きまわすように湾曲した鋼殻の湾曲部鋼板に周方向の引張力となって伝達される。湾曲部鋼板に生じた周方向の引張力は連結部鋼板に伝達され、主塔から橋軸方向の双方に張架された斜ケーブルの引張力は、水平方向成分の多くが連結部鋼板を介して相殺される。
【0010】
このように斜ケーブルの引張力の水平方向成分がコンクリートブロックから鋼殻の湾曲部鋼板に引張力として円滑に伝達されることにより、鋼殻は大きな曲げ剛性を有するものである必要はなく、鋼殻の鋼材使用量が低減される。また、両側へ張架された斜ケーブルの引張力を相互間で伝達する部分を簡単な形状及び構造とすることが可能となる。
また、斜ケーブルの引張力は、鋼殻の湾曲した形状によって伝達されるので、鋼殻の湾曲部鋼板とコンクリートブロックとの間に設けるずれ止めが不要又は低減することが可能となり、加工のための労力が低減される。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の斜ケーブルの定着構造において、 前記鋼殻の外側に密着する外側コンクリート部と、 橋軸方向における前記鋼殻の両端付近で橋軸直角方向へほぼ水平に配置され、緊張力が導入された状態で両端部が前記外側コンクリート部に定着される横締め緊張材と、を有するものとする。
【0012】
この斜ケーブルの定着構造では、横締め緊張材によって外側コンクリート部に橋軸直角方向の圧縮力が作用するともに、鋼殻の湾曲部鋼板にも橋軸直角方向の力が作用する。湾曲部鋼板は、斜ケーブルが貫通する挿通孔によって断面が欠損しているが、上記横締め緊張材によって導入される圧縮力で湾曲部鋼板に作用する引張力が低減され、湾曲部鋼板の補強効果が得られる。
また、鋼殻が密着する外側コンクリート部によって覆われ、鋼殻の腐食が防止されるとともに、外側コンクリート部によって斜ケーブルの引張力の鉛直方向成分が主塔下部及び橋脚に伝達される。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の斜ケーブルの定着構造において、 前記鋼殻の外側に密着する外側コンクリート部と、 橋軸直角方向へほぼ水平に配置され、緊張力が導入された状態で、両端部が前記外側コンクリート部に定着される横締め緊張材と、を有し、 前記横締め緊張材は、前記鋼殻に設けられた開口に挿通され、該鋼殻の内側にある第1のコンクリートブロック又は第2のコンクリートブロック内を貫通するものとする。
【0014】
この斜ケーブルの定着構造では、横締め緊張材によって導入される圧縮力によって、外側コンクリート部が鋼殻に強く押し付けられるとともに、鋼殻が内側のコンクリートに押し付けられる。これにより鋼殻、コンクリートブロック及び外側コンクリート部が強固に一体化される。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項2又は請求項3に記載の斜ケーブルの定着構造において、 前記第1のコンクリートブロック又は第2のコンクリートブロックから前記鋼殻に設けられた鉄筋挿通孔を経て前記外側コンクリート部に連続する鉄筋が配置されているものとする。
【0016】
この斜ケーブルの定着構造では、鉄筋が鋼殻の内側のコンクリートブロックから外側コンクリート部に連続して配置された鉄筋によって、コンクリートブロックと外側コンクリート部の一体性が向上する。
【0017】
請求項5に係る発明は、請求項2から請求項4までのいずれかに記載の斜ケーブルの定着構造において、 前記外側コンクリート部には、前記鋼殻の外側で該鋼殻の外周面と間隔を開け、該鋼殻の外側を囲むように周方向の鉄筋が配置されているものとする。
【0018】
この斜ケーブルの定着構造では、斜ケーブルの引張力によって鋼殻の周方向に生じる引張力の一部が鋼殻の外側に配置された鉄筋によって負担される。したがって、鋼殻が補強され、鋼殻の周方向に作用する負荷が低減される。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明に係る斜ケーブルの定着構造では、主塔から橋軸方向の双方に張架される斜ケーブルによって主塔に作用する引張力の水平方向成分を、双方の斜ケーブル間で円滑に伝達して相殺することができるとともに、斜ケーブル定着部の施工を容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態である斜ケーブルの定着構造を好適に採用することができるエクストラドーズド形式の斜張橋を示す概略側面図である。
図2】本発明の第1の実施形態であって、図1に示す斜張橋の主塔に適用された斜ケーブルの定着構造を示す立断面図である。
図3図2に示す斜ケーブルの定着構造の平断面図である。
図4図3に示す斜ケーブルの定着構造の変形例を示す平断面図である。
図5】本発明の第2の実施形態である斜ケーブルの定着構造を示す立断面図である。
図6図5に示す斜ケーブルの定着構造の平断面図である。
図7】本発明の第3の実施形態である斜ケーブルの定着構造を示す立断面図である。
図8図7に示す斜ケーブルの定着構造の平断面図である。
図9】鋼殻及びコンクリートブロックを貫通するように配置される横締め緊張材の他の配置例を示す平断面図である。
図10】本発明に係る斜ケーブルの定着構造で採用することができる鉄筋配置の例を示す平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明の定着構造を好適に採用することができるエクストラドーズド形式の斜張橋を示す概略側面図である。
この斜張橋は、橋台1及び橋脚2の上に架け渡された橋桁3と、橋脚2上に立ち上げられた主塔4と、この主塔4の上部から橋桁3の軸線方向における双方の斜下方に張架され、橋桁3を斜め方向に吊り支持する複数の斜ケーブル5,6とを有するものである。
エクストラドーズド形式の斜張橋は橋桁3の曲げ剛性を比較的大きくするとともに、主塔4の高さを小さく抑えたものであり、斜ケーブル5,6の傾斜角は小さくなっている。
【0022】
上記橋桁3は、橋脚2の直上に柱頭部横桁(図示しない)を有し、橋桁3と橋脚2とは一体に連続してラーメン構造を形成するものとなっている。そして、上記主塔4は、橋桁3の柱頭部横桁が設けられた位置の上に、一体に連続して立ち上げられたものである。
なお、上記橋桁3はプレストレストコンクリートからなる箱型断面となっているが、橋桁3の構造はこのような構造に限定されるものではなく、コンクリートと鋼との合成構造となっているもの、ウエブにプレキャスト板を用いたもの、トラス構造となったもの等、他の形態の橋桁であってもよい。また、鋼によって形成された箱桁等であってもよい。
【0023】
図2図1に示す斜張橋の主塔4の上部であって斜ケーブルが定着された部分の立断面図である。また、図3はこの主塔4のケーブル定着部における平断面図である。
この主塔4は、橋脚2と一体となった橋桁3から連続して立ち上げられた脚部7と、この脚部上に設けられたケーブル定着部8とを備え、ケーブル定着部8は、斜ケーブル5,6が定着される第1のコンクリートブロック11及び第2のコンクリートブロック12と、これらのコンクリートブロックを囲むように設けられた鋼殻13と、この鋼殻13の周囲を覆うように形成された外側コンクリート部14と、を有するものとなっている。
【0024】
上記脚部7は、鉄筋コンクリート構造となっており、橋桁3と一体に連続し、斜ケーブル5,6から作用する鉛直方向の力を、橋桁3を介して橋脚2に伝達するものである。
鋼殻13及びコンクリートブロック11,12は、上記脚部7の上に支持され、鋼殻13はアンカーボルト15によって脚部7に固定されている。
【0025】
上記鋼殻13は、平断面の形状が半円状に湾曲するように加工された2つの湾曲部鋼板13aと、これらを連結する2つの連結部鋼板13bとで主要部が構成されており、これらの湾曲部鋼板13aと連結部鋼板13bとで、平断面の形状が橋軸方向に長軸を有する長円形となっている。つまり、橋軸方向の両端部にある湾曲部鋼板13aは、鉛直方向に軸線を有する円筒形を軸線に沿って2分割した円筒曲面を有するものであり、周方向の両端縁にそれぞれ連結部鋼板13bが接続されて、平断面が閉じた形状となるものである。
上記湾曲部鋼板13a及び連結部鋼板13bの厚さは、斜ケーブル5,6に作用する引張力、斜ケーブルを張架する角度、斜ケーブルの本数等によって適宜に設定することができ、例えば厚さが22mm程度の鋼板を用いることができる。
【0026】
上記ケーブル定着部8が備える2つのコンクリートブロック11,12は、上記鋼殻13の内側における橋軸方向の両端部で該鋼殻13の内面と密着するように形成されている。つまり、鋼殻13が所定の位置に設置された後、湾曲部鋼板13a及び連結部鋼板13bの一部に密着するようにコンクリートを打設して形成されたものである。そして、一方側へ張架される斜ケーブル5が第1のコンクリートブロック11に定着され、他方側へ張架される斜ケーブル6が第2のコンクリートブロック12に定着されている。第1のコンクリートブロックと第2のコンクリートブロックとの間は、斜ケーブル5,6をそれぞれ第1のコンクリートブロック又は第2のコンクリートブロックに定着する作業及び張力を調整する作業等を可能とする空間16が形成されており、この空間16の両側で、斜ケーブル5,6の定着部が対向するものとなっている。
【0027】
それぞれのコンクリートブロック11,12の平断面の形状は、斜ケーブル5,6の定着位置の後方側では湾曲部鋼板13aの形状に倣って湾曲した形状となっており、斜ケーブル5,6の定着側では、斜ケーブル5,6の軸線とほぼ直角となるように定着面が形成されている。そして、2つのコンクリートブロック11,12が対向する面は斜ケーブル5,6を張架する傾斜角にしたがって傾斜しており、複数の斜ケーブル5,6を上下に配列するために斜ケーブル毎に段差を設けて定着面が形成されている。このような定着面は鋼殻13の内部に、鋼殻13より薄い鋼板によって定着面の形状の型枠を形成し、この鋼板型枠17と鋼殻13とで囲まれた範囲にコンクリートを打設することによって形成される。鋼板型枠17は撤去することなく、コンクリートブロック11,12と一体とするものである。
なお、コンクリートブロック11,12内には鉄筋を配置し、斜ケーブル5,6から作用する支圧力等に対してひび割れが生じないようにするのが望ましい。
【0028】
斜ケーブル5,6は、上記湾曲部鋼板13a及び第1のコンクリートブロック11又は第2のコンクリートブロック12を貫通し、2つのコンクリートブロック11,12と2つの連結部鋼板13bとで囲まれた空間16内で、コンクリートブロック11,12に定着されている。鋼殻13の斜ケーブル5,6が貫通する位置には挿通孔が設けられ、コンクリートブロック11,12には管部材19が埋め込まれており、斜ケーブル5,6の上方の端部は上記鋼殻13の挿通孔から上記管部材19に挿通され、所定の緊張力を導入した状態で定着具20により定着されたものである。
【0029】
第1のコンクリートブロック11及び第2のコンクリートブロック12にはそれぞれ複数で同数の斜ケーブルが定着されており、最上段に定着された斜ケーブルから最下段に定着されたケーブルにかけて徐々に傾斜角が増大するように張架される。第1のコンクリートブロック11に定着される斜ケーブル5と第2のコンクリートブロック12に定着される斜ケーブル6とは、それぞれが対となっており、これらの対となる斜ケーブルはほぼ同じ高さに定着されている。
【0030】
上記斜ケーブル5,6が上下方向に配列して定着されるのに対応して、上記鋼殻13は、図2に示すように、分割線21によって上下方向に積み重ねるように配置された複数の部分に分割されている。それぞれの分割部分には1対又は2対以上の斜ケーブル5,6から引張力が伝達され、その水平成分をほぼ分割部分ごと相殺するものとなっている。鉛直方向には分割された部分間の境界で、上段の分割部分の下端縁と下段の分割部分の上端縁とが突き合わされるように対向しているが連続するものではなく、鉛直方向の力が伝達されることを期待するものとはなっていない。したがって、対向する下端縁と上端縁とは精密な加工は施されていない。
なお、分割部分のそれぞれを所定の位置に配置した後、上段の分割部分の下端縁と下段の分割部分の上端縁とを溶接等によって接合してもよい。
【0031】
上記外側コンクリート部14は、鋼殻13を所定の位置に配置した後に、この鋼殻13と密着するようにコンクリートを打設して形成されたものである。鋼殻13の外周面には、ずれ止め部材22が溶接によって固定されており、これを埋め込むようにコンクリートを打設することによって、外側コンクリート部14は鋼殻13と一体となって挙動するものとなっている。したがって、外側コンクリート部14は、斜ケーブル5,6から作用する鉛直方向の成分を、鋼殻13の内側のコンクリートブロック11,12とともに負担することができ、主塔4の脚部7に鉛直方向の力が円滑に伝達される。また、外側コンクリート部14によって主塔4の曲げ剛性が増大し、主塔4の曲げによる応力度が低減される。特に、両側に張架される斜ケーブルが平面視において同一直線上にないときには、主塔に橋軸直角方向の曲げモーメントが生じるが、外側コンクリート部が曲げモーメントに対して有効に抵抗するものとなる。
【0032】
上記外側コンクリート部14には鉄筋(図示しない)が配置されており、鋼殻13の外周面に沿って水平方向の鉄筋を配置することにより、鋼殻13の周方向に生じる引張力の一部を負担させることもできる。
また、鋼殻13の外周面に設ける上記ずれ止め部材22は、例えば、棒状の鋼部材を溶接等によって取り付けたスタッドジベルとすることができる。また、鋼プレートを溶接によって接合するものであってもよい。この鋼プレートには鉄筋挿通孔を設けておき、鋼殻13の外側に配置した鉄筋を、上記鋼プレートに設けられた鉄筋挿通孔に挿通して配置することもできる。
【0033】
外側コンクリート部14を形成するために行うコンクリートの打設は、鋼殻13を上下に積み重ねるように配置し、内側にコンクリートブロック11,12を形成した後であって、斜ケーブル5,6に引張力が導入される前に行うのが望ましい。このとき橋軸方向の中央部14aは、後打ち部としてコンクリートの打設を行わず、橋軸方向に2つに分割された部分14bを先行してコンクリートの打設を行う。そして、斜ケーブル5,6の引張力が導入された後に、中央部14aのコンクリートを打設する。これにより、斜ケーブル5,6の引張力で鋼殻13が変形して外側コンクリート部14にひび割れが生じるのを抑制することができる。
【0034】
このような斜ケーブルの定着構造では、斜ケーブル5,6が定着されたコンクリートブロック11,12は、これらを囲むように形成された鋼殻13によって連結され、斜ケーブル5,6から橋軸方向の両側で互いに反対方向へ作用する力が鋼殻13を介して相互間に伝達される。これによって斜ケーブル5,6から主塔4の上部に作用する引張力の水平方向の成分が、両側に張架された斜ケーブル5,6の相互間で相殺され、主塔4に大きな水平力が一方向に作用することが回避される。
一方、斜ケーブル5,6から伝達される引張力の鉛直方向の成分は、上下方向に連続するコンクリートブロック11,12及び外側コンクリート部によって下方に伝達され、主塔の脚部7から橋桁3を介して橋脚2に支持される。
【0035】
また、斜ケーブル5,6が定着されたコンクリートブロック11,12から鋼殻13に作用する水平方向の力は、湾曲した形状によって鋼殻13の湾曲部鋼板13aの引張力として伝達され、コンクリートブロック11,12と鋼殻13とを一体とするためのずれ止め部材等を多く設けなくても円滑に力の伝達が行われる。したがって、斜ケーブル定着部の構造は簡単なものとなり、施工性を良好なものとすることができる。
【0036】
図2及び図3に示す斜ケーブルの定着構造では、鋼殻13の周囲を覆うように外側コンクリート部14が設けられているが、図4に示すように外側コンクリート部を設けることなく、鋼殻13が露出する構造であってもよい。このような定着構造でも鋼殻13、コンクリートブロック11,12は同じものを用いることができ、斜ケーブル5,6を同様に定着することができる。
ただし、外側コンクリート部を設けないので、鋼殻13の外側にはずれ止め部材は設けることなく、防錆等の処理を行う必要がある。
【0037】
図5は、本発明の第2の実施形態である斜ケーブルの定着構造を示す立断面図であり、図6は、同じ定着構造の平断面図である。
この斜ケーブルの定着構造は、図2及び図3に示す定着構造と同じ鋼殻33、コンクリートブロック31,32及び外側コンクリート部34を有するものであり、斜ケーブル5,6は鋼殻34に設けられた挿通孔を貫通して第1のコンクリートブロック31又は第2のコンクリートブロック32に定着されている。そして、この斜ケーブルの定着構造では、外側コンクリート部34に、橋軸方向と直角で水平となるように複数の横締め緊張材41が配置されている。横締め緊張材41は鋼殻33の外側であって、橋軸方向における鋼殻33の両端と近接するように配置され、主塔上部から斜め下方に張架される複数の斜ケーブル5,6の間、最も上位にある斜ケーブルの上側、最も下位にある斜ケーブルの下側にそれぞれ配置されている。そして、この横締め緊張材41に導入される緊張力によって、橋軸方向における鋼殻33の両端部付近で外側コンクリート部34に橋軸直角方向の圧縮力が予め導入されている。
【0038】
上記横締め緊張材41には鋼棒が用いられており、外側コンクリート部34に埋め込まれたシース(図示しない)内に挿通され、外側コンクリート部34を形成するコンクリートが硬化した後に緊張力が導入される。コンクリートは横締め緊張材41の少なくとも一方の端部が露出するように打設され、緊張力の導入後に外側コンクリート部34内に埋め込まれたものである。
【0039】
このような斜ケーブルの定着構造では、横締め緊張材41によって外側コンクリート部34には橋軸直角方向の圧縮力が導入されるともに、外側コンクリート部34からずれ止め部材37を介して又は外側コンクリート部34と鋼殻33との接触部分から直接に橋軸と直角方向の力が伝達され、湾曲部鋼板33aが橋軸方向に最も突き出した位置付近で、この湾曲部鋼板33aの周方向に圧縮する方向の力が作用する。これにより、斜ケーブル5,6の引張力によって湾曲部鋼板33aの周方向に作用する引張力の一部が相殺され、湾曲部鋼板33aの負荷が低減される。湾曲部鋼板33aは斜ケーブル5,6が貫通する挿通孔によって断面が欠損しているが、上記横締め緊張材41の緊張力によって圧縮方向の力が作用し、湾曲部鋼板33aに生じる引張応力度が過大となるのを抑制することが可能となる。
【0040】
図7は、本発明の第3の実施形態である斜ケーブルの定着構造を示す立断面図であり、図8は、図7に示す定着構造の平断面図である。
この斜ケーブルの定着構造は、図2及び図3に示す定着構造と同じ鋼殻53、コンクリートブロック51,52及び外側コンクリート部54を有するものであり、斜ケーブル5,6は第1のコンクリートブロック51又は第2のコンクリートブロック52に定着されている。この斜ケーブルの定着構造では、複数の横締め緊張材61が橋軸方向と直角で水平となるように配置され、外側コンクリート部54から鋼殻53及びコンクリートブロック51,52を貫通するものとなっている。これらの横締め緊張材61は、鋼殻53の湾曲部鋼板53aを貫通する位置に配置されており、鋼殻の湾曲部鋼板53aに設けられた開口に挿通されて両端部は外側コンクリート部54に定着されている。
これらの横締め緊張材61は、定着部から斜め下方に張架される複数の斜ケーブル5,6の間、最も上位にある斜ケーブルの上側、最も下位にある斜ケーブルの下側にそれぞれ配置されている。
【0041】
上記横締め緊張材61は、図5及び図6に示す定着構造と同様に、鋼棒が用いられており、シース(図示しない)内に挿通されて、コンクリートブロック51,52、外側コンクリート部54を形成するためのコンクリートが硬化した後に緊張力が導入される。
【0042】
このような斜ケーブルの定着構造では、横締め緊張材61によって外側コンクリート部54には橋軸直角方向の圧縮力が導入されるともに、外側コンクリート部54が鋼殻53に押し付けられ、鋼殻53は内側のコンクリートブロック51,52に圧接される。そして、橋軸方向における鋼殻53の両端部では、湾曲部鋼板53aの周方向に圧縮しようとする力が伝達される。これにより、斜ケーブル5,6の引張力によって湾曲部鋼板53aの周方向に作用する引張力の一部が相殺され、湾曲部鋼板53aの負荷が低減される。
また、コンクリートブロック51,52と鋼殻53とが圧接されていることにより、斜ケーブル5,6からコンクリートブロック51,52に伝達された力は上記圧接部分から鋼殻53に伝えられ、湾曲部鋼板53aの橋軸方向に突き出した部分の引張応力度が低減される。
【0043】
図7及び図8に示す実施の形態では、横締め緊張材61が湾曲部鋼板53aを貫通するものとなっているが、図9に示すように橋軸方向における斜ケーブル5,6の定着位置に近いところ、つまり連結部鋼板53bに近い位置、又は連結部鋼板53bを貫通する位置に横締め緊張材62を配置するものであってもよい。このように横締め緊張材62を配置するときには、鋼殻53がコンクリートブロック51,52に強く圧接されることになり、鋼殻52とコンクリートブロック51,52の接触面で伝達される力が増大する。ただし、鋼殻53の橋軸方向における両端部で鋼殻53の周方向に圧縮する力は減少する。
なお、図9に示すように配置する横締め緊張材62は、図8に示すように横締め緊張材61が配置された定着構造に併せて配置することもできる。
【0044】
図10は、本発明の実施形態である斜ケーブルの定着構造で採用することができる、コンクリートブロック51,52及び外側コンクリート部54の鉄筋の配置例を示す平断面図である。
鉄筋は、鋼殻の内側のコンクリートブロック内と外側コンクリート部内とに分離して配置することもできるが、図10に示すように鋼殻53を貫通してコンクリートブロック51,52と外側コンクリート部54とに連続するように鉄筋を配置することができる。
コンクリートブロック51,52及び外側コンクリート部54には上下方向及び水平方向に鉄筋が配置され、コンクリートブロック51,52から外側コンクリート部54に連続するように配置される鉄筋63は、鋼殻53に設けられた鉄筋挿通孔を貫通し、橋軸方向及び橋軸と直角方向へほぼ水平に配置されるものとなっている。そして、これらの鉄筋と交差するように上下方向の鉄筋64が配置されている。このように鉄筋が配置されることによって鋼殻53の内側のコンクリートブロック51,52と鋼殻53の外側の外側コンクリート部54との一体性を高くすることができる。
【0045】
コンクリートブロック51,52及び外側コンクリート部54には、上記鋼殻53を貫通する鉄筋63の他、外側コンクリート部54の表面に沿って鉄筋66が配置されるとともに、鋼殻53の外周面に沿って該鋼殻を周方向に囲むように鉄筋65を配置することができる。鋼殻53の外周面に沿って周方向に配置された鉄筋65は、閉じた形状に連続し、周方向の引張力に抵抗することができるものである。このような鉄筋65は、斜ケーブル5,6の引張力がコンクリートブロック51,52に作用し、鋼殻53の周方向に引張力が生じたときに、周方向の引張力の一部を負担することができる。
【0046】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で他の形態として実施することができる。
例えば、本実施の形態では、エクストラドーズド形式の斜張橋に適用したが、エクストラドーズド形式の斜張橋に限定されるものではなく、高い主塔と剛性の小さい橋桁を有する斜張橋に適用することもできる。また、斜ケーブルの本数、配置する角度等は適宜に決定することができ、これに対応して主塔の形状及び寸法は適宜に設計することができる。
【符号の説明】
【0047】
1:橋台、 2:橋脚、 3:橋桁、 4:主塔、 5,6:斜ケーブル、 7:主塔の脚部、 8:主塔のケーブル定着部、
11:第1のコンクリートブロック、 12:第2のコンク7リートブロック、 13:鋼殻、 13a:鋼殻の湾曲部鋼板、 13b:鋼殻の連結部鋼板、 14:外側コンクリート部、 15:アンカーボルト、 16:2つのコンクリートブロックと鋼殻とで囲まれた空間、 17:鋼板型枠、 19:管部材、 20:斜ケーブルの定着具、 21:鋼殻の分割線、 22:ずれ止め部材、
31:第1のコンクリートブロック、 32:第2のコンクリートブロック、 33:鋼殻、 33a:鋼殻の湾曲部鋼板、 33b:鋼殻の連結部鋼板、 34:外側コンクリート部、 35:アンカーボルト、 37:ずれ止め部材、
41:横締め緊張材、
51:第1のコンクリートブロック、 52:第2のコンクリートブロック、 53:鋼殻、 53a:鋼殻の湾曲部鋼板、 53b:鋼殻の連結部鋼板、 54:外側コンクリート部、 55:アンカーボルト、 57:ずれ止め部材、
61,62:横締め緊張材、 63:鋼殻を貫通して配置された鉄筋、 64:上下方向の鉄筋、 65:鋼殻を周方向に囲むように配置された鉄筋、 66:外側コンクリート部の表面に沿って配置された鉄筋

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10