特許第6491033号(P6491033)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491033
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】モルタル及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20190318BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   C04B35/66
   F27D1/00 K
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-93248(P2015-93248)
(22)【出願日】2015年4月30日
(65)【公開番号】特開2016-210636(P2016-210636A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2018年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 泰次郎
(72)【発明者】
【氏名】末川 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕太郎
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−126605(JP,A)
【文献】 特開昭59−069478(JP,A)
【文献】 特開平03−141166(JP,A)
【文献】 特開平07−267745(JP,A)
【文献】 特開平10−101442(JP,A)
【文献】 特開昭56−005381(JP,A)
【文献】 特開2010−070422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00−28/36
C04B 35/66
F27D 1/00−1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
築炉用耐火物の接合部に施工される耐火性のモルタルであって、
ベアリング効果を有する粒子と、ベアリング効果を有しない粒子とを含み、
前記ベアリング効果を有する粒子のうち最大径のものは、前記ベアリング効果を有しない粒子のうち最大径のものよりも粒子径が大きく、前記ベアリング効果を有する粒子のうち最大径のものは、築炉用耐火物の接合部の目地厚み相当の粒子径であることを特徴とするモルタル。
【請求項2】
前記ベアリング効果を有する粒子は球状粒子であることを特徴とする請求項1に記載のモルタル。
【請求項3】
前記球状粒子の最大径をd(mm)としたとき、前記球状粒子を当該モルタルの10dcm当たり1個以上含むことを特徴とする請求項2に記載のモルタル。
【請求項4】
前記ベアリング効果を有する粒子は、前記ベアリング効果を有しない粒子よりも高い圧縮強度を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のモルタル。
【請求項5】
モルタルを築炉用耐火物の接合部に施工するモルタルの施工方法において、
前記築炉用耐火物の接合面上に、ベアリング効果を有する粒子と、ベアリング効果を有しない粒子とを含み、前記ベアリング効果を有する粒子のうち最大径のものは、前記ベアリング効果を有しない粒子のうち最大径のものよりも粒子径が大きいモルタルを塗布し、その塗布後の接合面100cmの領域内に、前記ベアリング効果を有する粒子であって当該粒子のうち最大径のものが前記築炉用耐火物の接合部の目地厚み相当の粒子径であるものを少なくとも1個以上配置することを特徴とするモルタルの施工方法。
【請求項6】
前記ベアリング効果を有する粒子は、前記ベアリング効果を有しない粒子よりも高い圧縮強度を有するものを使用することを特徴とする請求項5に記載のモルタルの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煉瓦、プレキャストブロック等の築炉用耐火物により築炉する際に、その築炉用耐火物の接合部に施工する耐火性のモルタル、及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、煉瓦、プレキャストブロック等の築炉用耐火物により築炉する際、これら築炉用耐火物を所定の位置へ正確に設置する技術の確立が望まれていた。築炉用耐火物は、例えば大きさが長さ1m×幅1m×高さ0.5m程度で、重量が300kg程度の大型の重量物であるところ、従来、一般的な大型の重量物の搬送、位置決めにはクレーンを用いる技術があるものの、クレーンによる揚重のみでは所定の位置へ正確に設置できない問題があった。このため、特許文献1に記載されているような位置決め装置の適用や、特許文献2に記載されているような重量物横押し装置の適用が提案されている。
【0003】
しかし、特許文献1に記載の位置決め装置は、築炉用耐火物のように積層の上下にモルタルで接合構造をとるためには、モルタルが位置決め装置に付着固化してしまい接合部の信頼性が低下することから採用できない。また、特許文献2の重量物横押し装置では微調整方向が一方向のみであり、しかも、押送機構の反力を受ける部分が必要であるところ、築炉用耐火物により築炉する際には、このような反力を受ける部分を設けることは困難であるため、同様に採用できない。
【0004】
したがって、築炉用耐火物においては、特別な装置を使用することなく、作業者の人力によって設置位置の微調整をできる技術が望まれる。
【0005】
また、築炉耐火物の築炉においては、築炉耐火物の荷重により築炉耐火物の接合部の目地厚みが潰れないようにする必要もあり、築炉耐火物の接合部の目地厚みを確保できる技術も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−130219号公報
【特許文献2】特開平10−183581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、特別な装置を使用することなく作業者の人力によって、築炉用耐火物の設置位置の微調整を可能とし、かつ、築炉耐火物の接合部の目地厚みを確保できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、築炉用耐火物の接合部に施工するモルタルに、その築炉用耐火物に対してベアリング効果を有する粒子を使用しようと考えた。そして、築炉用耐火物の接合部において、その築炉用耐火物に対してベアリング効果を有する粒子のうち最大径を有するものは、築炉耐火物用の接合部の目地厚み相当の粒子径であることが必要と考え、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明によれば、次のモルタル及びその施工方法が提供される。
【0009】
(1)築炉用耐火物の接合部に施工される耐火性のモルタルであって、
ベアリング効果を有する粒子と、ベアリング効果を有しない粒子とを含み、
前記ベアリング効果を有する粒子のうち最大径のものは、前記ベアリング効果を有しない粒子のうち最大径のものよりも粒子径が大きく、前記ベアリング効果を有する粒子のうち最大径のものは、築炉用耐火物の接合部の目地厚み相当の粒子径であることを特徴とするモルタル。
【0010】
(2)前記ベアリング効果を有する粒子は球状粒子であることを特徴とする(1)に記載のモルタル。
【0011】
(3)前記球状粒子の最大径をd(mm)としたとき、当該球状粒子を当該モルタルの10dcm当たり1個以上含むことを特徴とする(2)に記載のモルタル。
【0012】
(4)前記ベアリング効果を有する粒子は、前記ベアリング効果を有しない粒子よりも高い圧縮強度を有することを特徴とする(1)から(3)のいずれか一項に記載のモルタル。
【0013】
(5)モルタルを築炉用耐火物の接合部に施工するモルタルの施工方法において、
前記築炉用耐火物の接合面上に、ベアリング効果を有する粒子と、ベアリング効果を有しない粒子とを含み、前記ベアリング効果を有する粒子のうち最大径のものは、前記ベアリング効果を有しない粒子のうち最大径のものよりも粒子径が大きいモルタルを塗布し、その塗布後の接合面100cmの領域内に、前記ベアリング効果を有する粒子であって当該粒子のうち最大径のものが前記築炉用耐火物の接合部の目地厚み相当の粒子径であるものを少なくとも1個以上配置することを特徴とするモルタルの施工方法。
【0014】
(6)前記ベアリング効果を有する粒子は、前記ベアリング効果を有しない粒子よりも高い圧縮強度を有するものを使用することを特徴とする(5)に記載のモルタルの施工方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、モルタルにベアリング効果を有する粒子を含み、この粒子のうち最大径のものは築炉用耐火物の接合部の目地厚み相当の粒子径であるので、特別な装置を使用することなく作業者の人力によって築炉用耐火物の設置位置の微調整が可能となり、かつ、築炉耐火物の接合部の目地厚みを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】球状粒子の圧縮強度の測定方法を示す図である。
図2】築炉用耐火物の設置位置の微調整の容易性を評価する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のモルタルは、ベアリング効果を有する粒子を含み、この粒子のうち最大径のものは、築炉用耐火物の接合部の目地厚み相当の粒子径であることを特徴とする。ベアリング効果を有する粒子は、築炉用耐火物の微調整が可能となる粒子であれば形状は問わない。例えば、ベアリング効果を有する粒子としては、球状、円柱状、卵型状のものが挙げられる。ベアリング効果を有する粒子のうち最大径のものについては、粒子の重心が最も低い位置となったときにおける鉛直方向の寸法を最大径と定義とした。
【0018】
また、ベアリング効果を有する粒子が球状粒子の場合、球状粒子の最大径をd(mm)としたとき、モルタルの10dcm当たり1個以上含むのが好ましい。これは、本発明のモルタルを施工した築炉用耐火物の接合部において、その接合面100cmの領域内に球状粒子が1個以上含まれるようにすると、よりベアリング効果を発揮し得るからである。
すなわち、本発明のモルタルを施工した築炉用耐火物の接合部の目地厚みは、ベアリング効果を奏する粒子のうち最大径を有する粒子径と実質的に等しくなるので、球状粒子がモルタルの10dcm(10cm×10cm×d/10cm)当たり1個以上含まれていれば、接合面100cmの領域内に球状粒子が1個以上含まれることになる。
【0019】
ここで、例えば、特開昭62−207744号公報や特開平10−101442号公報に開示されているように、モルタルに球状粒子を添加することは公知であるが、この球状粒子は、モルタル自体の流動性を向上させるために使用されており、築炉用耐火物の設置位置の微調整を可能とし、築炉耐火物の接合部の目地厚みを確保できる効果を狙ったものではない。すなわち、単に球状粒子を使用するだけでは、接合部の築炉用耐火物に対しては十分なベアリング効果は得られず、本発明のように、ベアリング効果を有する粒子の最大径のものが、築炉用耐火物の接合部の目地厚み相当の粒子径であることにより、初めて接合部の築炉用耐火物に対して十分なベアリンク効果が得られ、かつ、築炉耐火物の接合部の目地厚を確保する効果が得られる。
【0020】
なお、ベアリング効果を有する粒子が球状である場合、よりベアリング効果を発揮する点から、球状粒子の真円度(最大径−最小径)/最大径は30%以下であることが好ましい。
【0021】
また、ベアリング効果を有する粒子が球状粒子の場合、球状粒子の個数は上述のとおりモルタルの10dcm当たり又は接合面100cmの領域内に1個以上であればよく、その個数の上限はベアリング効果の点からは制限はない。一方、築炉用耐火物の接合面100cmに配列できる球状粒子の個数の上限は計算上、(100/d)×(100/d)=10000/d(個)であるから、この個数を実質的な上限と考えることができる。
【0022】
本発明のモルタルは、築炉用耐火物の接合部に直接的に施工することができる。すなわち、モルタルを築炉用耐火物の接合面上に塗布することができる。
【0023】
一方、本発明では、築炉用耐火物の接合面上にモルタルを塗布し、その塗布後の接合面にベアリング効果を有する粒子を配置することもできる。この場合、その塗布後の接合面100cmの領域内にベアリング効果を有する粒子であって最大径のものが築炉用耐火物の接合部の目地厚み相当の粒子径であるものを少なくとも1個以上配置すれば、本発明のモルタルを使用した場合と同様の効果を得ることができる。
【0024】
また、ベアリング効果を有する粒子は、モルタル中のベアリング効果を有しない粒子よりも高い圧縮強度を有することが好ましい。ベアリング効果を有する粒子が築炉用耐火物の微調整を安定的に奏することができるようにするためである。
【0025】
また、ベアリング効果を有する粒子のうち最大径のものは、施工対象である築炉用耐火物の接合部の目地厚み相当の粒子径であるので、築炉耐火物の接合部の目地厚を確保できる効果も奏する。
【0026】
なお、本発明において、モルタルを構成する粒子の材質は、特に限定されず、築炉用耐火物の接合部に一般的に使用されている材質であれば、問題なく使用できる。また、築炉耐火物の接合部の目地厚み相当の粒子径以外の小径の粒子を使用することもできる。
【実施例】
【0027】
表1に示す本発明の実施例及び比較例のモルタルについて、人力による築炉用耐火物の設置位置の微調整の容易性を評価した。
【0028】
モルタルを構成する耐火骨材としては、最大径が1mmの珪石を使用した。また、ベアリング効果を有する粒子としては、ガラスビーズ及び鋳物砂を使用した。ガラスビーズは球状であり、鋳物砂は卵型状である。これらのベアリング効果を有する粒子の最大径はいずれも4mmであり、築炉用耐火物の接合部の目地厚み相当の粒子径である。なお、本実施例において耐火骨材(珪石)はベアリング効果を有しないものとする。
【0029】
これらの耐火骨材及びベアリング効果を有する粒子(球状粒子、卵型状粒子)の圧縮強度は、珪石が50MPa、ガラスビーズが180MPa、鋳物砂が80MPaであった。なお、耐火骨材(珪石)の圧縮強度はJIS R 2575に準拠して測定した。また、ガラスビーズ、鋳物砂の圧縮強度は、微小圧縮試験機(MCT−510(島津製作所))を用いて測定した。具体的には、図1に示すように、試料台に試料として粒子を散布し、圧子により1粒ずつ圧縮試験を行い、5回(5粒)の圧縮試験の平均値を圧縮強度とした。
【0030】
また、人力による築炉用耐火物の設置位置の微調整の容易性は、図2に示す要領で評価した。すなわち、モルタル1を、下段の築炉用耐火物2の上面(接合面)に6mm程度の厚みで塗布し、その上に上段の築炉用耐火物2をクレーンで吊り下げて設置した。その後、ロードセル3を固定したジャッキ4を上段の築炉用耐火物2の側端面にセットした。築炉用耐火物2をセットした際に端部からはみ出したモルタルは鏝にて除去した。
【0031】
そして、モルタル1の塗布完了(上段の築炉用耐火物2の設置)から10分経過後にジャッキ4を回転することにより、上段の築炉用耐火物2へ水平方向の外力を付与し、上段の築炉用耐火物2が水平方向に動いた時のロードセル3の荷重を測定した。
【0032】
このロードセル3の荷重により、人力による築炉用耐火物の設置位置の微調整の容易性を評価した。すなわち、ロードセル3の荷重が2N(ニュートン)未満の場合を「容易」、2N以上3N未満の場合を「可能」、3N以上の場合を「不可」とした。
【0033】
なお、築炉用耐火物2としては、長さ0.25m×幅0.25m×高さ0.6mで重量が86kgのプレキャストブロックを使用した。また、築炉用耐火物2の接合部の厚みを、モルタルの塗布完了から24時間経過後に測定したところ、いずれも4mmであった。
【0034】
【表1】
【0035】
表1中の実施例1〜4は本発明のモルタルを施工した例で、人力による築炉用耐火物の設置位置の微調整の容易性は、「容易」又は「可能」であった。また、実施例4より、目地厚相当の粒子より小径の粒子を含む場合であっても、人力による築炉用耐火物の微調整は可能であることがわかる。
【0036】
これに対して、比較例1は、目地厚相当の粒子より小径のガラスビーズのみを含む例である。人力による築炉用耐火物の設置位置の微調整の容易性は「不可」であった。比較例2は、ベアリング効果を有する粒子を使用しなかった例である。当然ではあるが、人力による築炉用耐火物の設置位置の微調整の容易性は「不可」であった。
【符号の説明】
【0037】
1 モルタル
2 築炉用耐火物
3 ロードセル
4 ジャッキ
図1
図2