(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491054
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】構造材の変形量評価装置および方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/16 20060101AFI20190318BHJP
【FI】
G01B11/16 Z
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-129400(P2015-129400)
(22)【出願日】2015年6月29日
(65)【公開番号】特開2017-15417(P2017-15417A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 満
(72)【発明者】
【氏名】鶴来 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】石田 公一
【審査官】
八木 智規
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−81199(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/218561(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00−11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸領域が表面に形成された構造材を被測定物として、該構造材における変形を検知するための構造材の変形量評価装置であって、
前記構造材の表面の前記凹凸領域に光を照射するための光照射部と、前記凹凸領域で反射、散乱した反射散乱光の波長を測定する光観察部と、前後する複数の光観察結果から得られた前記反射散乱光の波長差を用いて前記構造材における変形を検知する判断部を備え、
前記判断部は、前記光照射部から照射された光が前記凹凸領域で反射、散乱して前記光観察部に至る反射散乱光の角度と、前記光観察部で検知する反射散乱光の波長の間の相関特性を、複数の形状の前記凹凸領域について保持しており、変形量を推定することを特徴とする構造材の変形量評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の構造材の変形量評価装置であって、
前記光照射部から照射される光が所定の波長分布を有する光であることを特徴とする構造材の変形量評価装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の構造材の変形量評価装置であって、
前記凹凸領域が前記被測定物を構成する材料の表面に凹凸形状を直接形成していることを特徴とする構造材の変形量評価装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の構造材の変形量評価装置であって、
前記被測定物を構成する材料よりも加工し易い材料層を前記被測定物の表面に設け、この材料層に凹凸形状を形成して前記凹凸領域を形成していることを特徴とする構造材の変形量評価装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の構造材の変形量評価装置であって、
予め凹凸形状を付与して形成した部材を前記被測定物の表面に装着して前記凹凸領域を形成していることを特徴とする構造材の変形量評価装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の構造材の変形量評価装置であって、
前記光観察部は前記凹凸領域で反射、散乱した光の輝度、色、および波長分布のうち少なくともひとつ以上を観察することを特徴とする構造材の変形量評価装置。
【請求項7】
凹凸領域が表面に形成された構造材を被測定物として、該構造材における変形を検知するための構造材の変形量評価方法であって、
前記構造材の表面の前記凹凸領域に光を照射し、前記凹凸領域で反射、散乱した反射散乱光の波長を測定し、前後する複数の光観察結果から得られた前記反射散乱光の波長差を用いて前記構造材における変形を検知するとともに、
照射された光が前記凹凸領域で反射、散乱するときの反射散乱光の角度と、反射散乱光の波長の間の相関特性を、複数の形状の前記凹凸領域について保持しており、変形量を推定することを特徴とする構造材の変形量評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温、高放射線量のような過酷環境下など、高精度な測定機器の設置が難しい箇所で使用される構造材の変形量評価装置および方法に係り、特に、構造材の変形量を簡便な方法で評価することが可能な構造材の変形量評価装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントや化学プラントなど運転中に高温環境で使用する機器では定常運転時や、起動停止や負荷変動などの非定常運転による繰り返し負荷が加わることで、機器を構成する金属部材に対してクリープやクリープ疲労などの高温で特徴的な損傷が生じることが想定される。このような損傷が蓄積すると金属部材の組織内部では微視的なき裂が成長して部材の強度を低下させ、最終的に部材の変形や破損などの破壊的現象を引き起こす。そこで通常は、機器の負荷条件に応じたマスターカーブを作成し、そこから予測した寿命を基にして機器の構造設計がなされる。この寿命管理などのためには、最初の段階として、構造材におけるひずみなどの変化を検知する必要がある。
【0003】
ひずみなどの変化を検知するにあたり、以下のことを考慮すべきである。長期間に渡って運転する高温機器の損傷状態は、逐次変化する運転条件や負荷条件による損傷の累積に依存する。このため、損傷の程度をあらかじめ精度良く予測することは容易ではない。そのため、運用中の機器の部材を逐次評価することで、損傷状態を精度良く把握するための技術が求められている。
【0004】
また機器の運用を阻害することなく損傷状態を評価するには、非破壊的な計測手法を用いることが望ましい。例えば部材表面に接触させた探触子から超音波を発信し、部材内部を通過した超音波の変調を計測して損傷状態を評価することが考えられる。また、ひずみゲージや変位計などで部材表面の変形量、変位量を継続的に計測し続けることで、部材に生じる応力分布などの推定のほか、損傷の進行に伴う部材の異常な変形を検知することもできると考えられる。
【0005】
ただし、初めに述べたように機器の利用環境が高温下であったり、原子力発電プラントのように高放射線に晒されたりする苛酷環境においては、計測のために要員が立ち入ることは容易でない。また、計測装置の耐久性の点などからこれを設置できる場所や条件も限られてしまう。
【0006】
このような状況を鑑み、高温、高線量などの苛酷環境下でも、評価対象機器の変形や変位を比較的簡便に測定可能な計測手法が望まれている。
【0007】
構造材における変化を検出する技術として、被測定物である構造材に光を照射しその反射散乱光を計測することで検出することが知られている。例えば特許文献1は、再帰反射性ビーズを有効に活用して、木材、金属材、樹脂材などのひずみ(変形)を簡便に測定できる方法を提供するものであり、「物体のひずみを測定するに当り、被測定物体の測定面に再帰反射性ビーズを均一に付着させ、当該付着面に光を照射して、その反射量をひずみの発生前と発生後とで対比することにより、ひずみを測定する。」としている。
【0008】
また特許文献2によれば、「所定間隔置きで黒色の棒線が複数本形成された反射板が設けられた反射体を被計測物の表面に貼り付け、この反射体上に投光用光ファイバーにより光を照射し、この反射体上で反射した光を受光用光ファイバーで受光し、そしてこの受光した光量またはこの光量に対応する歪量を表示装置にて表示する」ようにした歪計測方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−139273号公報
【特許文献2】特開平8−101022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1において、再帰反射性ビーズは入射した光を同じ方向に反射させる機能を有しており、ここではビーズを付着させた被測定物体が変形した時に、単位面積当たりに占めるビーズ面積が変化して、反射光量が変わることを利用したものである。また特許文献2は、反射板を貼り付けた被測定物が変形した時に、測定エリアに含まれる黒色線の割合によって反射光量が変わることを利用したものである。
【0011】
特許文献1、特許文献2はいずれも、光が照射された領域中の反射体(特許文献1のビーズ)または非反射体(特許文献2の黒色線)の占める割合が変わることに伴う光量の変化を評価対象としている。しかしながらこれらの方法では、評価対象領域における変化が周辺の環境全体の明るさの変動などと相殺されて、精度良く測定するのが困難である。
【0012】
以上のことから本発明においては、苛酷環境下で稼動する機器や構造材の変形、変位を適正に計測、評価するに有効な構造材の変形量評価装置および方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、凹凸領域が表面に形成された構造材を被測定物として、構造材における変形を検知するための構造材の変形量評価装置であって、構造材表面の凹凸領域に光を照射するための光照射部と、凹凸領域で反射、散乱した光の波長を測定する光観察部と、前後する複数の光観察結果から得られた反射散乱光の波長差を用いて構造材における変形を検知する判断部を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、凹凸領域が表面に形成された構造材を被測定物として、構造材における変形を検知するための構造材の変形量評価方法であって、構造材表面の凹凸領域に光を照射し、凹凸領域で反射、散乱した光の波長を測定し、前後する複数の光観察結果から得られた反射散乱光の波長差を用いて構造材における変形を検知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被測定物に連動して凹凸領域が変形することで生じる反射、散乱光を観察することで被測定物の変形、変位を評価することができる。特に、被測定物の変形量、変位量と光学特性との相関を予め把握しておけば、高精度な計測機器を用いなくても変形量を精度良く評価することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例1に係る構造材の変形量評価装置を示す模式図であり構造材設置時などの初期状態を示す図。
【
図2】本発明の実施例1に係る構造材の変形量評価装置を示す模式図であり観測時状態を示す図。
【
図3】本発明の変形量評価方法における光観察部の角度と観察される光の主な波長との相関を示す模式図。
【
図4】本発明の実施例2に係る構造材の変形量評価装置を示す模式図であり構造材設置時などの初期状態を示す図。
【
図5】本発明の実施例2に係る構造材の変形量評価装置を示す模式図であり観測時状態を示す図。
【
図6】本発明の変形量評価方法における光観察部の角度と観察される光の主な波長との相関を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る構造材の変形量評価方法および変形量評価装置の実施形態を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明の実施例1に係る構造材の変形量評価方法および変形量評価装置について、
図1から
図3を用いて説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施例に係る構造材の変形量評価装置20を示している。変形量評価装置20は、被測定物10の表面に設けられ、被測定物10の変形に追従して変形可能な凹凸領域1を監視している。変形量評価装置20は、この凹凸領域1の表面の法線方向から光を照射するための光照射部2と、凹凸表域1に照射されて散乱、反射した光を観察するために凹凸領域1の法線に対して角度θをなす位置に設置した光観察部3、光観察部が検知した波長を用いて波長の変化量を求める判断部4等により概略構成されている。
【0020】
ここで凹凸領域1の表面に設けられた凹凸形状は、光照射部2から照射される光が可視光線(波長380〜780ナノメートル)であるならば、照射された光の回折、干渉を生じさせるため光の波長と同等かそれより小さい寸法の凹凸形状を付与しておくが、この凹凸形状は評価方法に応じて適宜に設定することができる。例えば柱状、穴状、ラメラ状(襞状)等があげられるが、本発明では凹凸領域1に照射した光の回折や干渉を利用するため、凹凸形状はランダム配置ではなく、所望の機能に応じた規則的配置にすることが望ましい。
【0021】
光照射部2は、例えば可視域の連続的な波長分布を含む白色光を照射するランプを用いることができる。また、光観察部3としては、例えば凹凸領域1表面で反射、散乱した光の色をカラー画像で判別できるカメラを用いることができる。
【0022】
次に、構造材の変形量評価方法について説明する。
図1において光照射部2から凹凸領域1に照射された白色光は、凹凸領域1の表面に付与された凹凸形状の作用で回折、干渉を受けて散乱し、凹凸領域1の法線と角度θをなす位置に設けた光観察部3で波長λ1の散乱光として観察され、判断部4には最初の波長として波長λ1が記憶される。ここで
図1の状態を被測定物10である構造材設置時などの初期状態とする。初期状態では被測定物10の高さ方向長さがH1であり、被測定物10の高さ方向に設置された凹凸領域1の高さ方向長さがX1であったとする。
【0023】
これに対し、
図2は初期状態から時間経過後の観測時状態を示している。この間に、被測定物10は何らかの理由で高さ方向長さがH2に変位し、これに伴い被測定物10の高さ方向に設置された凹凸領域1の高さ方向長さもX2に変位しているものとする。この場合に光照射部2と光観察部3の間の配置関係に変化がないものとする。この場合には、凹凸領域1の凹凸形状が高さ方向変位の影響により変化していることを受けて、光観察部3では波長λ2の散乱光として観察され、判断部4には観察時の波長として波長λ2が記憶され、以後の比較処理に用いられることになる。このケースでの凹凸領域1の凹凸形状は、例えば1ナノメートルピッチの凹凸が1.2ナノメートルピッチの凹凸に変形したことを想定している。
【0024】
図3は、本発明者らが検証した、凹凸領域1の法線となす角度θと、その際に光観察部3で観察された光の色を波長λに置き換えて表した相関を示している。横軸が角度θ、縦軸が波長λであり、角度θが大きいほど散乱光の波長が長くなり赤に近づく傾向を示している。またこの特性では飽和の傾向を示し、かつ凹凸領域1の形状によって異なる飽和傾向の特性を示している。ここで形状Aおよび形状Bはそれぞれ類似の形状であって寸法が異なるサンプルの結果であるが、この結果から角度θが同じであっても凹凸形状が変わると観察される光の主な波長λが変化し、光の色が変化するということを表している。
【0025】
つまり、
図1において光観察部3で観察された形状Aについての散乱光の主な波長がλ1であった場合に、
図2のように被測定物10の縦方向の寸法がH1からH2まで伸びるのに伴って凹凸領域1の寸法がX1からX2まで伸びたことで凹凸形状が変化し、その後に光観察部3によって観察された形状Bの散乱光の主な波長はλ2に変化し、この間で波長Δλ12の変化分を生じるということを本発明では捕えている。判断部4では、
図1の初期状態の波長λ1と
図2の観察時の波長λ2を比較しており、この差分の値に応じて位置などの変化を検知し、さらには変位の方向や大きさを演算により求める。
【0026】
ここまで述べてきたように、本発明の構成によって凹凸領域1の変形を散乱光の波長λの変化によって評価できる。特に
図3で示したようにパターン形状の違いと散乱光の波長λとの相関を予め調査しておき、光観察部3で実際に観察された光の波長と比較すれば、被測定物10に生じている変形量を定量的に評価することも可能であり、被測定物10の変形量を散乱光の色の違いで判定できることになる。
【0027】
このために判断部4には、
図3の特性を記憶しておき、波長差から変形の発生を検知し、かつ予め定めておいた波長差と変形量の関係から、構造材における変形の大きさを推定、出力することが可能となる。
【0028】
このことは、実際のプラント機器において本発明を適用することで、被測定物表面に設けた凹凸領域のほか、例えばランプ2と監視カメラ3という比較的簡便な装置によって、被測定物の変形量を評価できることを意味している。
【実施例2】
【0029】
本発明の実施例2に係る構造材の変形量評価方法について、
図4から
図6を用いて説明する。
【0030】
図4、
図5の変形量評価装置は、基本的に実施例1で説明した変形量評価装置と同じ構成のものである。
図1、
図2では、高さ方向変位Hを検知することについて述べたが、
図4、
図5では、横方向の幅Wが変化したことを検知している。被測定物表面に設けた凹凸領域1の位置が変化する場合においても、本発明の変形量評価装置を用いて、構造材の変形量を評価する方法について説明する。
【0031】
図4において、実施例2の変形量評価装置は前述の実施例1の変形量評価装置と同様に、被測定物10表面に設けた凹凸領域1と、凹凸領域1に光を照射する光照射部2と、凹凸表域1から散乱、反射した光を観察する光観察部3、光観察部3が検知した波長を用いて波長の変化量を求める判断部4等により概略構成されている。実施例2では実施例1とは異なり、被測定物10が当初
図4のように幅W1であったものが、
図5のように水平方向に伸びて幅W2となり、凹凸領域1が元の位置からΔだけ光照射部3に近付く法線方向に変位したことを示している。
【0032】
このように凹凸領域1が法線方向にΔだけ変位する前後において、凹凸領域1が光観察部3の視野内に収まっている場合には、図に示すように凹凸領域1の法線方向と光観察部3の設置方向の角度がθaであるのに対して、凹凸領域1が変位した後の光観察部3の設置方向の角度は
図5に示すようにθbに変化する。ここで
図6は、
図3と同じ角度θと波長の相関を示す図であるが、上記の現象は
図6において、同じパターン形状(たとえば形状A)であっても、角度θがθaからθbに変わると波長λがλaからλbに変わり、Δλabの変化を生じることを示している。
【0033】
つまり、
図4において光観察部3で観察された散乱光の主な波長がλaであった場合に、
図5のように凹凸領域1の位置が変化して光観察部3の設置方向の角度θがθaからθbに変化することで、光観察部3によって観察された散乱光の主な波長はλbに変化し、この間で波長Δλabの変化分を生じる。よって、前述した実施例1と同様に、被測定物10の変位量を評価できるといえる。
【0034】
ここまで、被測定物の変形量や変位量を、被測定物表面に設けた凹凸領域1と光照射部2、光観察部3、判断部4によって評価できることを述べた。ただし、実際のプラントにおいては凹凸領域1の変形と変位の両者が重畳する場合もあり得る。そのような場合には、例えば本発明の評価装置20を被測定物の複数の位置に配置し、それぞれの測定結果を組み合わせて互いに補正してもよいし、本発明の評価装置20以外で得られた情報を用いて補正してもよい。
【0035】
ところで、実施例2では被測定物の変形に伴う凹凸領域1の変位について説明したが、被測定物の設置位置のずれによって凹凸領域が変位する場合もある。この場合、被測定物の変形量を評価していることにはならないが、一方で、被測定物10が設置された位置の評価に用いることができる。例えばプラント機器の構造物や、各種配管とこれをサポートする部材などが本来の正しい位置に設置されているかどうかを評価、判定することができ、本発明の変形量評価装置および評価方法がプラント全体の健全性を維持するうえで有効な技術であるといえる。
【実施例3】
【0036】
実施例1、実施例2では
図3、
図6の特性を説明した。この特性を利用すると、単なる変形の検出ではなく、一歩進めて変形量の情報に換算して得ることが可能となる。
【0037】
例えば
図3において、角度θが同じ状態のまま波長のみがΔλ12だけ変化したとする。また前提として初期の形状がAであり、複数形状の特性を保有しているものとすると、その中から変化量Δλ12を参考にして形状Bの特性を特定することができる。この場合に形状A,Bは長さの概念を有する情報であるので、長さの差として変形量を推定することができる。
【0038】
また
図6において、角度θが変化して、かつ波長がΔλabだけ変化したとする。この前提としては角度の変化を検知していることであり、角度の変化と波長の変化が形状Aの特性上で合致するのであれば、角度の情報から、変形量を推定することができる。なお、角度の変化と波長の変化が形状Aの特性上で合致しない場合には、さらに他の形状の情報も含めた判断により複合的な形状の変位を推定することが可能である。
【0039】
以上、本発明の変形量評価装置および方法に関する実施形態について説明したが、本発明はこれらの構成に限定されるものではない。
【0040】
例えば、
図1および
図2で光照射部2を凹凸領域1の法線方向に対してある角度をなす位置に設置しても、光観察部3に対して散乱光が到達すれば評価可能である。また、光照射部2と光観察部3を逆の位置に入れ替えても光学的に等価であって問題は無く、光照射部2から凹凸領域1に照射して生じた散乱光が光観察部3に到達する限り、設置場所の状態に応じて凹凸領域1、光照射部2、光観察部3の相対的な位置を変更して構わない。
【0041】
また、前述の実施例は凹凸領域1、光照射部2、光観察部3の各位置を固定することを想定しているが、例えば光観察部3が凹凸領域1の法線となす角度θを連続的に変化できるようにして、角度θと観察した波長λとの分布を測定すれば、より多くのデータを得ることができる。また、
図1において変形が生じる上下方向だけでなく、図示しない紙面垂直方向にも光観察部3を設置すれば、各方向への変形量を同時に評価することができる。あるいは一台の光観察部3が凹凸領域1を中心として回転できるようにすれば各方向からのデータを連続的に入手することも可能になる。
【0042】
次に、被測定物10表面に凹凸領域1を設ける方法であるが、被測定物表面に凹凸形状を直接に付与してもよい。ただし、本発明は光の回折や干渉を利用するために概ね1マイクロメートル以下の微細な凹凸形状が必要であり、これを機械加工で形成することは難しい。そこで例えば、半導体やMEMSなどの加工技術で微細な凹凸パターンを形成した金型を予め作製し、これを被測定物10表面に押圧もしくは打刻して微細凹凸形状を転写し、凹凸領域1を形成してもよい。被測定物10がステンレスなど硬質で打刻が難しい材料である場合には、被測定物10の表面にアルミニウムなど相対的に軟質な材料の層を蒸着やスパッタで形成し、この層に微細凹凸形状を転写して凹凸領域1を形成しても良い。
【0043】
また、被測定物10の表面に直接に凹凸領域1を形成するのではなく、予め微細凹凸形状を付与したシート状部材を被測定物10の表面に貼り付けて使用しても良い。このシート状部材は、例えば半導体プロセスで凹凸形状を形成したシリコンウエハ原版の表面にニッケルめっきを施した後、シリコンウエハ原版を除いて得られるニッケルめっきレプリカを用いることができる。また、使用環境によってはニッケルめっきの代わりに、ポリイミドなど比較的耐熱性の良好な樹脂材料性レプリカを用いることもできる。
【0044】
さらに、ここまでは連続的な波長分布を有する白色光を用いる場合について述べたが、白色光の代わりに概ね単一の波長を有するレーザ光のような光を用いることも考えられる。レーザ光の場合、凹凸領域1に照射されると凹凸形状に応じた特定の角度に反射することになる。そこで、光観察部3の位置を調整してレーザ光を観察できたときの角度θから、被測定物の変形量や変位量を評価することが可能になる。あるいは、被測定物10が正常な形状もしくは位置にある場合に凹凸領域1から反射した光が観察できる位置に光観察部3を固定しておき、被測定物10の形状もしくは位置に異常を生じた場合には凹凸領域1から反射した光の光量が減少するか観察できなくなるようにして、異常の有無を検知することもできる。
【0045】
また本発明においては、波長の変化、つまり色の変化を利用しているが具体的に波長(=色)の変化を把握する手法は既に知られた多くの手法を採用可能であるので、ここでの詳細説明は割愛する。なお本明細書において単に波長という場合には、波長の変化により変化する色などの情報を含む総合的な概念として説明している。
【0046】
先に述べた特許文献の技術と本発明とでは、大きく以下の2点で相違している。相違の第1点は、被測定物に凹凸領域を設けてここを監視対象部位とした点である。第2点は、凹凸領域の変形や変位量で定まる反射光の色、波長に着目した点である。この点について、特許文献では、光が照射された領域中の反射体(特許文献1のビーズ)または非反射体(特許文献2の黒色線)の占める割合が変わることに伴う光量の変化を評価対象としている。
【0047】
これにより、被測定物に連動して凹凸領域が変形することで生じる反射、散乱光を観察することで被測定物の変形、変位を評価することができる。特に、被測定物の変形量、変位量と光学特性との相関を予め把握しておけば、高精度な計測機器を用いなくても変形量を精度良く評価することが可能である。特に周辺環境の明るさなどの影響を受けにくいものとすることができる。
【符号の説明】
【0048】
1:凹凸領域
2:光照射部
3:光観察部
4:判断部
10:被測定物
20:変形量評価装置