(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491074
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】導電性酸化物焼結体、それを用いたサーミスタ素子及び温度センサ
(51)【国際特許分類】
C04B 35/50 20060101AFI20190318BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20190318BHJP
H01C 7/04 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
C04B35/50
H01B1/08
H01C7/04
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-204134(P2015-204134)
(22)【出願日】2015年10月15日
(65)【公開番号】特開2016-196392(P2016-196392A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2018年3月13日
(31)【優先権主張番号】特願2015-77398(P2015-77398)
(32)【優先日】2015年4月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142686
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 浩貴
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 洋史
(72)【発明者】
【氏名】坂 慎二
(72)【発明者】
【氏名】山口 朋紀
(72)【発明者】
【氏名】沖村 康之
(72)【発明者】
【氏名】西 智広
【審査官】
末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−183075(JP,A)
【文献】
特開平07−099103(JP,A)
【文献】
特許第5053563(JP,B2)
【文献】
特開2012−049330(JP,A)
【文献】
特開2013−199396(JP,A)
【文献】
特開2010−173908(JP,A)
【文献】
特開2007−246381(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/095691(WO,A1)
【文献】
特開2012−043911(JP,A)
【文献】
特開2012−043910(JP,A)
【文献】
特開2013−234105(JP,A)
【文献】
特開2004−221519(JP,A)
【文献】
特開2001−143907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
H01C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3族元素から選ばれる1種以上の元素をM1とし、
Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる1種以上の元素をM2としたとき、
組成式:M1aM2bMncAldCreOfで表されるペロブスカイト型酸化物結晶構造を有する導電性酸化物焼結体であって、
前記元素M1が、Nd,Pr,Smから選ばれる1種以上の元素を主として含み、
前記a,b,c,d,e,fが、
0.600≦a<1.000
0<b≦0.400
0≦c<0.150
0.400≦d<0.950
0.050<e≦0.600
0.50<e/(c+e)≦1.00
2.80≦f≦3.30
を満たすことを特徴とする導電性酸化物焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性酸化物焼結体であって、
前記c,eが、
0.65≦e/(c+e)≦1.00
を満たすことを特徴とする導電性酸化物焼結体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の導電性酸化物焼結体であって、
前記a,b,c,d,e,fが、
0.700≦a<1.000
0<b≦0.300
0≦c<0.140
0.500<d<0.950
0.050<e≦0.500
0.65<e/(c+e)≦1.00
2.80≦f≦3.30
を満たすことを特徴とする導電性酸化物焼結体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性酸化物焼結体であって、
前記元素M1が、Nd,Pr,Smから選ばれる1種以上の元素であり、
前記元素M2が、Ca,Srから選ばれる1種以上の元素であることを特徴とする導電性酸化物焼結体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の導電性酸化物焼結体で形成されたサーミスタ部を備えることを特徴とするサーミスタ素子。
【請求項6】
請求項5に記載のサーミスタ素子を備えることを特徴とする温度センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性酸化物焼結体、及び、それを用いたサーミスタ素子や温度センサ等の装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、抵抗値が温度によって変化する導電性酸化物焼結体を利用したサーミスタ素子が知られている。サーミスタ素子の用途として、自動車エンジンなどの内燃機関からの排ガスの温度測定がある。この用途では、近年、排ガス浄化システムの高精度化に伴い、サーミスタ素子に対して、900℃付近の高温域における耐熱性要求が高まっている。その一方、車載式故障診断システム(OBDシステム)などにおける温度センサの故障(断線)検知のため、エンジンの始動時やキーオン時などの低温下でもその温度を検知可能とすること望まれている。この場合、特に寒冷地では、始動時の温度が氷点下となる場合もあるため、−40℃でも測温可能なサーミスタ素子が望まれている。
【0003】
本願の出願人により開示された特許文献1には、組成式:M1
aM2
bM3
cAl
dCr
eO
f(但し、M1はY,Nd,Ybの一種以上、M2はMg,Ca,Srの1種以上、M3はMn,Feの1種以上)で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する導電性酸化物焼結体を利用したサーミスタ素子が開示されている。このサーミスタ素子では、導電性酸化物焼結体が−40℃〜900℃の広い温度範囲に亘って安定した特性を示すので、この温度範囲において適切に温度を測定することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5053563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本願の発明者は、特許文献1に開示されている導電性酸化物焼結体に関しても、以下の更なる課題があることを見出した。すなわち、一般に、ペロブスカイト型結晶構造を有する導電性酸化物焼結体において、導電性に寄与するのはBサイト元素である。特許文献1のペロブスカイト型結晶構造において、Bサイト原子はM3(Mn,Fe),Al,Crであり、このうちのAlの価数は+3で固定されているため、導電性に寄与するのは主として元素M3(Mn,Fe)又はCrである。また、特許文献1における元素M3の係数cは0.150〜0.600であり、Crの係数eは0.005〜0.050なので、導電性に寄与するのは主として元素M3(Mn,Fe)であることが分かる。しかしながら、MnやFeは比較的価数変化を起こし易い元素であるため、900℃を越える高温になると導電性酸化物焼結体の温度特性が変化してしまい、近年の高耐熱性要求を満足できない恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、ペロブスカイト型酸化物結晶構造を有する導電性酸化物焼結体が提供される。この導電性酸化物焼結体は、3族元素から選ばれる1種以上の元素をM1とし、Mg,Ca,Sr,Baから選ばれる1種以上の元素をM2としたとき、組成式:M1
aM2
bMn
cAl
dCr
eO
fで表されるペロブスカイト型酸化物結晶構造を有する導電性酸化物焼結体である。また、前記元素M1が、Nd,Pr,Smから選ばれる1種以上の元素を主として含み、前記a,b,c,d,e,fが、
0.600≦a<1.000
0<b≦0.400
0≦c<0.150
0.400≦d<0.950
0.050<e≦0.600
0.50<e/(c+e)≦1.00
2.80≦f≦3.30
を満たすことを特徴とする。
この導電性酸化物焼結体では、ペロブスカイト型結晶構造のBサイト元素としてMn,Al,Crを含んでおり、Alを除くMnとCrの合計量に対するCrの含有割合e/(c+e)が0.50〜1.00の範囲となっており、Crが主に導電性に寄与している。MnやFeに比べてCrは価数が安定な元素であるため、熱履歴に対する電気特性の変化を小さくすることができる。そのため、従来に比べて高い耐熱性を有する導電性酸化物焼結体を提供することができる。また、元素M1としてNd,Pr,Smから選ばれる1種以上の元素を主に含むことにより、導電性酸化物焼結体の耐熱性を向上させることができる。
【0008】
(2)上記導電性酸化物焼結体において、前記c,eが、0.65≦e/(c+e)≦1.00を満たすものとしてもよい。
この構成によれば、更に高い耐熱性を有する導電性酸化物焼結体を提供することができる。
【0009】
(3)上記導電性酸化物焼結体において、前記a,b,c,d,e,fが、
0.700≦a<1.000
0<b≦0.300
0≦c<0.140
0.500<d<0.950
0.050<e≦0.500
0.65<e/(c+e)≦1.00
2.80≦f≦3.30
を満たすものとしてもよい。
この構成によれば、更に高い耐熱性を有する導電性酸化物焼結体を提供することができる。
【0010】
(4)上記導電性酸化物焼結体において、前記元素M1が、Nd,Pr,Smから選ばれる1種以上の元素であり、前記元素M2が、Ca,Srから選ばれる1種以上の元素であるものとしてもよい。
この構成によれば、更に高い耐熱性を有する導電性酸化物焼結体を提供することができる。
【0011】
本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、導電性酸化物焼結体を用いて、サーミスタ素子、サーミスタ素子を用いた温度センサなどの各種の装置、及び、導電性酸化物焼結体やサーミスタ素子の製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態としての温度センサの一例を示す部分破断断面図。
【
図2】本発明の一実施形態としてのサーミスタ素子を示す斜視図。
【
図3】サーミスタ素子の製造方法の一例を示すフローチャート。
【
図5】サンプルS6の導電性酸化物焼結体のX線回折結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施形態としての温度センサ200の一例を示す部分破断断面図である。本実施形態の温度センサ200は、感温素子としてのサーミスタ素子202と、このサーミスタ素子202を先端に取り付けるシース部材206と、シース部材206とサーミスタ素子202とを収納する金属チューブ212と、金属チューブ212の一端に溶接された取付部材240と、取付部材240に一端が溶接された筒状部材260と、この筒状部材260に回動自在に外嵌されたナット部材250とを備えている。なお、金属チューブ212の内側には、サーミスタ素子202及びシース部材206の揺動を防止するためにセラミック製のセメント(図示せず)が充填されている。この温度センサ200は、例えば、内燃機関の排気管に装着されて使用される。温度センサ200の先端側に設けられたサーミスタ素子202は、排ガスが流れる排気管内に配置され、排ガスの温度を検出する。
【0014】
図2は、サーミスタ素子202の外観を示す斜視図である。このサーミスタ素子202は、六角形の平面形状を有する板状のサーミスタ部203と、2本の素子電極線204とを備えている。サーミスタ部203は、ペロブスカイト型結晶構造を有する導電性酸化物焼結体で形成されている。この導電性酸化物焼結体の好ましい組成については以下で詳述する。
【0015】
<導電性酸化物焼結体の好ましい組成>
ペロブスカイト型結晶構造を有する導電性酸化物焼結体は、下記(1)式の組成を有することが好ましい。
(M1
aM2
b)(Mn
cAl
dCr
e)O
f …(1)
ここで、M1は、3族元素から選ばれる1種以上の元素、M2はMg,Ca,Sr,Baから選ばれる1種以上の元素、a〜fは係数である。
【0016】
本明細書において、「3族元素」とは、スカンジウム(
21Sc)、イットリウム(
39Y)、ランタノイド(
57La〜
71Lu)、及びアクチノイド(
89Ac〜
103Lr)で構成される元素群を意味する。
【0017】
ペロブスカイト型結晶構造は、一般に組成式ABO
3で表記される。上記(1)式では、元素M1,M2がAサイト元素であり、他の元素Mn,Al,CrがBサイト元素である。上記(1)式の組成を有する結晶が典型的なペロブスカイト型結晶構造を取る場合には、a+b=1,c+d+e=1が成立することが好ましく、fは3±x(xは約0.3)の範囲の値をとることが好ましい。但し、これらの関係は、温度特性に影響が生じない範囲で多少変動してもよい。
【0018】
元素M1としては、3族元素から選ばれる1種以上の元素を利用可能である。但し、元素M1としてNd,Pr,Smから選ばれる1種以上の元素を主とすること、すなわち、元素M1のうち、Nd,Pr,Smから選ばれる1種以上の元素がモル分率で50%以上であることが好ましい。元素M1として主にNd,Pr,Smから選ばれる1種以上の元素を利用すれば、広い温度範囲に亘って安定した特性を得ることが可能であり、また、耐熱性を向上させることができる。元素M1として主としてNd,Pd,Smから選ばれる1種以上の元素を含む場合に特性が安定する理由は、3族元素の中でNdまたはPd,Smのイオン半径が比較的大きく、元素M2(特にCaやSr)のイオン半径との差が小さいので、ペロブスカイト型結晶構造が安定するからであると推定される。
【0019】
上記(1)式の係数a〜fとしては、それぞれ以下を満たすことが好ましい。
0.600≦a<1.000 …(2a)
0<b≦0.400 …(2b)
0≦c<0.150 …(2c)
0.400≦d<0.950 …(2d)
0.050<e≦0.600 …(2e)
0.50<e/(c+e)≦1.00 …(2f)
2.80≦f≦3.30 …(2g)
【0020】
上記(1)、(2a)〜(2g)式を満たす組成を有する導電性酸化物焼結体は、ペロブスカイト型結晶構造のBサイト元素としてMn,Al,Crを含んでおり、MnとCrの合計量に対するCrの含有割合e/(c+e)が0.50〜1.00の範囲となっている。従って、この導電性酸化物焼結体では、Mnでは無く、Crが主に導電性に寄与している。MnやFeに比べてCrは価数が安定な元素であるため、熱履歴に対する電気特性の変化を小さくすることができる。そのため、従来に比べて高い耐熱性を有する導電性酸化物焼結体を提供することが可能である。以下では、上記の含有割合e/(c+e)を「Cr含有比e/(c+e)」とも呼ぶ。
【0021】
なお、耐熱性の観点からは、上記(2f)式の代わりに、0.65≦e/(c+e)≦1.00を満たすことが更に好ましい。こうすれば、Crの含有割合が更に高まるので、更に耐熱性を高めることが可能である。
【0022】
また、上記係数a〜fとして、上記(2a)〜(2g)の代わりに以下を満たすことが更に好ましい。
0.700≦a<1.000 …(3a)
0<b≦0.300 …(3b)
0≦c<0.140 …(3c)
0.500<d<0.950 …(3d)
0.050<e≦0.500 …(3e)
0.65<e/(c+e)≦1.00 …(3f)
2.80≦f≦3.30 …(3g)
この組成では、更に高い耐熱性を有する導電性酸化物焼結体を提供することができる。この点については実験結果に即して後述する。
【0023】
図3は、本発明の一実施形態におけるサーミスタ素子の製造方法を示すフローチャートである。工程T110では、まず、ペロブスカイト型結晶構造を有する導電性酸化物焼結体の原料粉末として、元素M1を含む原料粉末(Y
2O
3,Nd(OH)
3,Pr
6O
11,Sm
2O
3,Yb
2O
3等)と、元素M2を含む原料粉末(MgCO
3,CaCO
3,SrCO
3,BaCO
3)と、その他の元素Mn,Al,Crを含む原料粉末(MnO
2,Al
2O
3,Cr
2O
3等)のうちから選択された粉末材料(全て純度99%以上の市販品)を秤量し、これらの原料粉末を湿式混合して乾燥することにより、原料粉末混合物を調整する。工程T120では、この原料粉末混合物を大気雰囲気下1400℃で2時間仮焼し、仮焼粉末を得る。工程T130では、仮焼粉末の粉砕と造粒を行う。具体的には、例えば、先ず樹脂ポットと高純度アルミナ球石とを用い、エタノールを分散媒として、湿式混合粉砕を行う。次いで、得られたスラリーを湯煎乾燥して、合成粉末を得る。その後、この合成粉末の100重量部に対し、ポリビニルブチラールを主成分とするバインダーを20重量部添加して混合・乾燥する。更に、目開き250μmの篩を通して造粒し、造粒粉末を得る。なお、使用しうるバインダーとしては、上述のポリビニルブチラールに特に限定されず、例えばポリビニルアルコール、アクリル系バインダー等の他の種類のバインダーも利用可能である。バインダーの配合量は、合成粉末100重量部に対して、通常は5〜20重量部であり、10〜20重量部とすることが好ましい。また、バインダーと混合するにあたり、合成粉末の平均粒子径は2.0μm以下としておくのが好ましい。これによって均一に混合することができる。なお、合成粉末の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法を用いて測定される球相当径である。
【0024】
工程T140では、工程T130で得られた造粒粉末を用いて、金型成型法にてプレス成形(プレス圧:4500kg/cm
3)を行い、
図2に示したように、Pt−Rh合金製の一対の素子電極線204の一端側が埋設された六角形板状の成形体を得る。工程T150では、大気中1500℃〜1600℃で2〜4時間焼成することによって、サーミスタ素子202を作製する。
【0025】
図4は、サーミスタ素子の複数のサンプルについて、その導電性酸化物焼結体の組成と各種の特性値とを示す図である。
図4のサンプルS1〜S21は実施例であり、サンプル番号に「*」マークが付されたサンプルS22〜S26は比較例である。これらのサンプルS1〜S26は、
図3の工程に従って作製した。
図4に示した各元素の係数a〜eは、工程T110(
図3)の材料混合時における成分を示している。なお、
図4には係数fの値を記載していないが、蛍光X線分析を用いた各元素の組成比から、2.80≦f≦3.30の範囲内であることを確認した。また、
図5には、サンプルS6の導電性酸化物焼結体のX線回折結果を示した。
【0026】
図4の右端の2つの欄には、各サンプルについての各種の特性値の実験結果を示している。ここでは、B定数:B(−40〜900)と、高温耐久試験前後の指示温度変化量の換算値CT(900)とを示している。
【0027】
B定数(温度勾配係数)は、以下のように測定した。まず、各サンプルのサーミスタ素子202を−40℃(絶対温度T(−40)=233K)の環境下に放置し、その状態での素子電極線204間の初期抵抗値Rs(−40)を測定した。次いで。サーミスタ素子202を、900℃(絶対温度T(900)=1173K)の環境下に放置し、その状態での素子電極線204間の初期抵抗値Rs(900)を測定した。B定数B(−40〜900)は、以下の式に従って算出した。
B(−40〜900)=ln[Rs(900)/Rs(−40)]/[1/T(900)−1/T(−40)] …(4)
【0028】
高温耐久試験前後の指示温度変化の換算値CT(900)は、以下のように測定した。まず、高温耐久試験前の各サンプルを900℃の環境下に放置し、その状態での初期抵抗値Rs(900)を測定した。その後、高温耐久試験として、大気中にて1050℃×50時間保持した。その後、上述と同様にして高温耐久試験後の抵抗値Ra(900)を測定した。そして、高温耐久試験前の初期抵抗値Rsと高温耐久試験後の抵抗値Raから、高温耐久試験による抵抗変化の指示温度変化量の換算値CT(900)を、次式に従って算出した。
CT(900)=[(B(−40〜900)×T(100))/[ln(Ra(900)/Rs(900))×T(900)+B(−40〜900)]]−T(900) …(5)
以下では、この換算値CT(900)を、「温度変化換算値CT(900)」とも呼ぶ。
【0029】
図4に示すように、サンプルS1〜S21は、B定数が2000K〜3000Kの好ましい範囲内にある。このような導電性酸化物焼結体を用いたサーミスタ素子202では、−40℃〜900℃に亘る広い温度範囲において、適切な抵抗値を有するので、適切に温度測定を行うことが可能である。また、サンプルS1〜S21では、温度変化換算値CT(900)の絶対値がすべて3.0deg以下であり、十分に小さい点で非常に良好である。この結果から、サンプルS1〜S21のサーミスタ素子202は、900℃を越える高温域までの広い範囲に渡り、長期的に安定した温度測定が可能であることが解る。
【0030】
比較例のサンプルS22〜S26では、温度変化換算値CT(900)の絶対値が3degを超えているか、又は、B定数が2000K〜3000Kの範囲を外れており、これらの点で実施例のサンプルS1〜S21の方が好ましい。より具体的に言えば、係数a,bが上記(2a),(2b)式の範囲を外れているサンプルS22と、係数cが上記(2c)式の範囲を外れているサンプルS23では、温度変化換算値CT(900)の絶対値が3degよりも大きい。この場合には、900℃以上の高温域にサーミスタ素子202が長時間曝された際の抵抗変化が大きくなり、温度センサに対して近年高まっている耐熱性要求を満足できない恐れがある。また、Cr含有比e/(c+e)の値が上記(2f)式の範囲を外れているサンプルS24は、B定数が3000Kを超えている。この場合には、−40℃〜900℃の温度範囲におけるサーミスタ素子202の抵抗変化が過度に大きくなるので、この温度範囲の全域にわたって適切な抵抗測定が困難となり、適切な温度測定が困難となる。また、係数d,eが上記(2d),(2e)式の範囲を外れているサンプルS25、および、係数c,dが上記(2c),(2d)式の範囲を外れているサンプルS26では、B定数が2000Kよりも小さい。この場合には、−40℃〜900℃の温度範囲全域にわたっての抵抗測定は可能であるが、サーミスタ素子202の抵抗変化が過度に小さくなるため、抵抗値の測定精度が低下してしまい、適切な温度測定が困難となる。サンプルS25,S26では、更に、温度変化換算値CT(900)の絶対値が3degよりも大きいので、高耐熱性要求を満足できない恐れがある。
【0031】
なお、実施例のサンプルS1〜S21のうち、サンプルS2,S16,S18は、温度変化換算値CT(900)の絶対値が1.7deg以上であり、他のサンプルS1,S3〜S15,S17,S19〜S21よりもやや大きい。これらのサンプルS2,S16,S18は、上記(3a)〜(3g)のいずれかから外れており、他のサンプルS1,S3〜S15,S17,S19〜S21は、上記(3a)〜(3g)をすべて満足している。従って、上記(3a)〜(3g)をすべて満足する組成とすれば、更に高い耐熱性を有する導電性酸化物焼結体及びサーミスタ素子を提供できることが理解できる。
【0032】
なお、サンプルS1,S9は、元素M1としてNdの他にY又はYbをそれぞれ含んでいる点で、元素M1としてNdのみを含むサンプルS4と異なっており、他の組成はサンプルS4と同じである。温度変化換算値CT(900)の絶対値は、サンプルS4が0.8であるのに対して、サンプルS1,S9では1.3及び1.6とやや大きな値となっている。従って、耐熱性の観点からは、元素M1をNdのみで構成することが好ましい。元素M1としてNdを用いると耐熱性が向上する理由は、上述したように、Ndは元素M2とのイオン半径差が小さく、ペロブスカイト型結晶構造が安定なためであると推定される。また、サンプルS5,S19,S20は、それぞれ元素M1としてNd,Pr,Smのみを含む点で異なっており、他の組成は同じである。温度変化換算値CT(900)の絶対値は、サンプルS5が0.5であり、サンプルS19が0.7であるのに対して、サンプルS20では1.1とやや大きな値となっている。従って、耐熱性の観点からは、元素M1をPr,Ndから選ばれる1種以上の元素から構成することが更に好ましい。なお、導電性酸化物焼結体(サーミスタ素子)を量産した際の製造バラツキに起因した温度特性のバラツキを抑制する観点を考慮すると、元素M1として主としてNdを含むことがより好ましい。元素M1としてSmを用いると耐熱性が劣る理由は、Pr,Nd,Smの中でSmが最もイオン半径が小さく、ペロブスカイト型結晶構造の安定性が劣るためであると推定される。
【0033】
また、サンプルS10,13では、元素M2としてCaの他にMg又はBaをそれぞれ含んでいる点で、元素M2としてCaのみを含むサンプルS6と異なっており、他の組成はサンプルS6と同じである。温度変化換算値CT(900)の絶対値は、サンプルS6が0.2であるのに対して、サンプルS10,S13では1.2及び1.1とやや大きな値となっている。従って、耐熱性の観点からは、元素M2としてCaを用いることが好ましい。なお、元素M2としてCaの他にSrを含むサンプルS11においても、温度変化換算値CT(900)の絶対値は0.4と小さい値に留まっている。従って、元素M2を、Ca,Srから選ばれる1種以上の元素から構成することが好ましく、Caを主として含むことが更に好ましく、Caのみで構成することが最も好ましい。元素M2としてCaやSrを用いると耐熱性が向上する理由は、CaやSrの方が元素M1(特にNd,Pr,Sm)とのイオン半径差が小さく、ペロブスカイト型結晶構造が安定なためであると推定される。
【0034】
・変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱し
ない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0035】
・変形例1:
上記実施形態では、サーミスタ素子を利用した装置の例として、内燃機関の排ガス温度測定用の温度センサを説明したが、本発明によるサーミスタ素子は、これ以外の任意の装置に利用可能である。
【0036】
・変形例2:
上記実施形態では、素子電極線204としてPt−Rh合金を用いたが、素子電極線の材質はこれに限定されず、例えば、Pt又はPt−Rh合金にSrを含有させた材質やPt−Ir合金を用いたり、Pt以外の他の貴金属を主にした合金を用いたりしても良い。
【0037】
・変形例3:
サーミスタ素子202を金属チューブ212に収納するにあたり、サーミスタ素子202の周囲をガラス封止した状態で、サーミスタ素子202及びシース部材206を金属チューブ212の内側に収納して温度センサを構成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0038】
200…温度センサ
202…サーミスタ素子
203…サーミスタ部
204…素子電極線
206…シース部材
212…金属チューブ
240…取付部材
250…ナット部材
260…筒状部材