特許第6491089号(P6491089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6491089シクロデキストリンを使用するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491089
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】シクロデキストリンを使用するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/724 20060101AFI20190318BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20190318BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20190318BHJP
   A61P 3/04 20060101ALN20190318BHJP
   A61P 25/00 20060101ALN20190318BHJP
   A61P 27/02 20060101ALN20190318BHJP
   A61P 9/10 20060101ALN20190318BHJP
   A61P 9/04 20060101ALN20190318BHJP
   A61P 9/12 20060101ALN20190318BHJP
   A61P 9/00 20060101ALN20190318BHJP
   A61P 1/16 20060101ALN20190318BHJP
   A61P 3/06 20060101ALN20190318BHJP
   A61P 1/18 20060101ALN20190318BHJP
【FI】
   A61K31/724
   A61P3/10
   A61P13/12
   !A61P3/04
   !A61P25/00
   !A61P27/02
   !A61P9/10 101
   !A61P9/10
   !A61P9/04
   !A61P9/12
   !A61P9/00
   !A61P1/16
   !A61P3/06
   !A61P1/18
【請求項の数】56
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-505963(P2015-505963)
(86)(22)【出願日】2013年4月12日
(65)【公表番号】特表2015-512949(P2015-512949A)
(43)【公表日】2015年4月30日
(86)【国際出願番号】US2013036484
(87)【国際公開番号】WO2013155485
(87)【国際公開日】20131017
【審査請求日】2016年4月11日
(31)【優先権主張番号】61/624,087
(32)【優先日】2012年4月13日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516200541
【氏名又は名称】エル アンド エフ リサーチ,リミテッド ライアビリティー カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】フォーノニ,アレシア
(72)【発明者】
【氏名】メルシャー−ゴメス,サンドラ
【審査官】 六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−323443(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/012473(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/142988(WO,A1)
【文献】 特表2012−505251(JP,A)
【文献】 特開2009−298820(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/043630(WO,A1)
【文献】 特表2010−508372(JP,A)
【文献】 特表2008−528610(JP,A)
【文献】 特表2008−523096(JP,A)
【文献】 特開2006−191830(JP,A)
【文献】 特表2007−516257(JP,A)
【文献】 J.Biol.Chem.,1995年,270(29),p.17250-17256
【文献】 Pharmaceutical Research,1991年,8(1),p.9-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33−33/44
A61K 9/00−9/72
A61K 47/00−47/48
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病性腎症および糖尿病性腎疾患から選択される腎臓障害を治療する、予防する、または寛解させるための、非経口投与に適した医薬品の製造における、活性薬剤としてのヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの使用であって、前記医薬品が有効量のヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを含むことを特徴とする使用。
【請求項2】
請求項1に記載の使用において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、腎臓細胞の細胞または形質膜中の脂質量を低下させることを特徴とする使用。
【請求項3】
請求項2に記載の使用において、前記脂質がコレステロールであることを特徴とする使用。
【請求項4】
請求項3に記載の使用において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、腎臓細胞におけるコレステロール蓄積に関係する細胞の流入メカニズムを阻害するまたは細胞の流出メカニズムを増加させることを特徴とする使用。
【請求項5】
請求項3に記載の使用において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、腎臓細胞における細胞コレステロール蓄積を低下させるために、スフィンゴ脂質酵素を調整することを特徴とする使用。
【請求項6】
請求項4に記載の使用において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、腎臓細胞における細胞コレステロール合成経路にさらに干渉することを特徴とする使用。
【請求項7】
請求項1に記載の使用において、前記非経口投与が筋肉内、腹腔内、静脈内(全身性)、皮下、経皮、吸入、局所、および鼻内から選択されることを特徴とする使用。
【請求項8】
請求項1に記載の使用において、前記医薬品が、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンおよび少なくとも1つの薬学的に許容できる賦形剤またはビヒクルを含むことを特徴とする使用。
【請求項9】
請求項1に記載の使用において、前記医薬品が、シクロデキストリンでない有効量の第2の活性薬剤、および賦形剤またはビヒクルをさらに含むことを特徴とする使用。
【請求項10】
請求項9に記載の使用において、前記第2の活性薬剤が、抗糖尿病薬、コレステロール生合成阻害剤、コレステロール吸収阻害剤、胆汁酸捕捉剤、ナイアシンまたはナイアシン誘導体、フィブラート、コレステリルエステルトランスフェラーゼタンパク質、およびアセチル補酵素Aアセチルトランスフェラーゼ阻害剤または生物製剤から選択されることを特徴とする使用。
【請求項11】
請求項9に記載の使用において、前記第2の活性薬剤が、免疫抑制薬、インスリン、スルホニルウレア、グリプチン、メトホルミン、チアゾリジンジオン、インスリン感受性改善薬、インクレチン類似体、DPP4阻害剤、VEG干渉薬、成長因子、抗炎症薬、ビタミンD誘導体、RAS系遮断薬、およびアルドステロン遮断薬から選択されることを特徴とする使用。
【請求項12】
腎臓細胞または腎臓細胞の形質膜におけるコレステロールの蓄積によって引き起こされる腎臓障害状態を治療する、阻害する、予防する、または寛解させるための、非経口投与に適した医薬品の製造における、活性薬剤としてのヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの使用であって、前記細胞におけるコレステロールの蓄積が糖尿病性腎症および糖尿病性腎疾患において起こり、前記医薬品が有効量のヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを含むことを特徴とする使用。
【請求項13】
請求項12に記載の使用において、細胞におけるコレステロールの蓄積が、糖尿病性腎症または糖尿病性腎疾患に起因することを特徴とする使用。
【請求項14】
請求項12に記載の使用において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが腎臓細胞または腎臓細胞の形質膜中の脂質量を低下させることを特徴とする使用。
【請求項15】
請求項12に記載の使用において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、コレステロール蓄積に関係する細胞の流入メカニズムを阻害するまたは細胞の流出メカニズムを増加させることを特徴とする使用。
【請求項16】
請求項12に記載の使用において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、細胞コレステロール蓄積を低下させるために、スフィンゴ脂質酵素を調整することを特徴とする使用。
【請求項17】
請求項16に記載の使用において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、細胞コレステロール合成経路にさらに干渉することを特徴とする使用。
【請求項18】
請求項12に記載の使用において、前記非経口投与が筋肉内、腹腔内、静脈内(全身性)、皮下、経皮、吸入、局所、および鼻内から選択されることを特徴とする使用。
【請求項19】
請求項12に記載の使用において、前記医薬品が、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンおよび少なくとも1つの薬学的に許容できる賦形剤またはビヒクルを含むことを特徴とする使用。
【請求項20】
請求項12に記載の使用において、前記医薬品が、シクロデキストリンでない第2の活性薬剤、および賦形剤またはビヒクルをさらに含むことを特徴とする使用。
【請求項21】
請求項20に記載の使用において、前記第2の活性薬剤が、抗糖尿病薬、コレステロール生合成阻害剤、コレステロール吸収阻害剤、胆汁酸捕捉剤、ナイアシンまたはナイアシン誘導体、フィブラート、コレステリルエステルトランスフェラーゼタンパク質、およびアセチル補酵素Aアセチルトランスフェラーゼ阻害剤または生物製剤から選択されることを特徴とする使用。
【請求項22】
請求項20に記載の使用において、前記第2の活性薬剤が、免疫抑制薬、インスリン、スルホニルウレア、グリプチン、メトホルミン、チアゾリジンジオン、インスリン感受性改善薬、インクレチン類似体、DPP4阻害剤、VEG干渉薬、成長因子、抗炎症薬、ビタミンD誘導体、RAS系遮断薬、およびアルドステロン遮断薬から選択されることを特徴とする使用。
【請求項23】
腎臓細胞または腎臓細胞の形質膜中の細胞コレステロール蓄積によって引き起こされる障害、症状または関連性の状態を治療する、阻害する、予防する、または寛解させるための組成物において、前記組成物が糖尿病性腎症または糖尿病性腎疾患の治療のための組成物であり、前記組成物が、非経口投与に適しており、有効量のヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンおよび薬学的に許容できる賦形剤またはビヒクルを含むことを特徴とする組成物。
【請求項24】
請求項23に記載の組成物において、前記組成物が、前記組成物中の医薬品薬剤として、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンから本質的になることを特徴とする組成物。
【請求項25】
請求項23に記載の組成物において、前記組成物が、シクロデキストリンでない第2の医薬品薬剤をさらに含むことを特徴とする組成物。
【請求項26】
請求項25に記載の組成物において、前記第2の医薬品薬剤が、抗糖尿病薬、コレステロール生合成阻害剤、コレステロール吸収阻害剤、胆汁酸捕捉剤、ナイアシンまたはナイアシン誘導体、フィブラート、コレステリルエステルトランスフェラーゼタンパク質、およびアセチル補酵素Aアセチルトランスフェラーゼ阻害剤または生物製剤から選択されることを特徴とする組成物。
【請求項27】
請求項25に記載の組成物において、前記第2の医薬品薬剤が、免疫抑制薬、インスリン、スルホニルウレア、グリプチン、メトホルミン、チアゾリジンジオン、インスリン感受性改善薬、インクレチン類似体、DPP4阻害剤、VEG干渉薬、成長因子、抗炎症薬、ビタミンD誘導体、RAS系遮断薬、およびアルドステロン遮断薬から選択されることを特徴とする組成物。
【請求項28】
請求項23に記載の組成物において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、筋肉内、腹腔内、静脈内(全身性)、皮下、経皮、吸入、局所、および鼻内から選択されるルートによって投与されるように用いられることを特徴とする組成物。
【請求項29】
請求項28に記載の組成物において、前記投与のルートが、皮下であることを特徴とする組成物。
【請求項30】
請求項23に記載の組成物において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、約2mg/kg/日〜約20,000mg/kg/週の範囲にわたる用量で投与されるように用いられることを特徴とする組成物。
【請求項31】
請求項23に記載の組成物において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、1週間当たり少なくとも2回〜1日当たり約3回まで投与されるように用いられることを特徴とする組成物。
【請求項32】
腎臓細胞または腎臓細胞の形質膜中の細胞脂質蓄積によって引き起こされる障害、状態またはそれに起因する症状の治療のための製造品において、
前記障害または状態が糖尿病性腎症および糖尿病性腎疾患から選択され、前記製造品が組成物を容器中に含み、前記組成物が非経口投与に適したヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを含み、前記容器が前記組成物の使用のための書面の説明書と共にパッケージされることを特徴とする製造品。
【請求項33】
請求項32に記載の製造品において、前記障害または状態が、糖尿病性腎疾患またはそれに関係する状態もしくは症状であることを特徴とする製造品。
【請求項34】
請求項32に記載の製造品において、前記細胞における脂質が、コレステロールであることを特徴とする製造品。
【請求項35】
請求項23に記載の組成物において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、筋肉内、腹腔内、静脈内(全身性)、皮下、経皮、吸入、局所、および鼻内から選択されるルートによる投与のために製剤化されたものであることを特徴とする組成物。
【請求項36】
請求項35に記載の組成物において、前記投与のルートが、皮下であることを特徴とする組成物。
【請求項37】
請求項23に記載の組成物において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、約2mg/kg/日〜約20,000mg/kg/週の範囲にわたる用量による投与のために製剤化されたものであることを特徴とする組成物。
【請求項38】
請求項23に記載の組成物において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、1週間当たり少なくとも2回〜1日当たり約3回までの投与のために製剤化されたものであることを特徴とする組成物。
【請求項39】
請求項30に記載の組成物において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、約20mg/kg/日〜約20,000mg/kg/週の範囲にわたる用量で投与されるように用いられることを特徴とする組成物。
【請求項40】
請求項30に記載の組成物において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、約20mg/kg/日〜約4,000mg/kg/週の範囲にわたる用量で投与されるように用いられることを特徴とする組成物。
【請求項41】
請求項30に記載の組成物において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、約2mg/kg/日〜約4,000mg/kg/週の範囲にわたる用量で投与されるように用いられることを特徴とする組成物。
【請求項42】
請求項37に記載の組成物において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、約20mg/kg/日〜約20,000mg/kg/週の範囲にわたる用量による投与のために製剤化されたものであることを特徴とする組成物。
【請求項43】
請求項37に記載の組成物において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、約20mg/kg/日〜約4,000mg/kg/週の範囲にわたる用量による投与のために製剤化されたものであることを特徴とする組成物。
【請求項44】
請求項37に記載の組成物において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、約2mg/kg/日〜約4,000mg/kg/週の範囲にわたる用量による投与のために製剤化されたものであることを特徴とする組成物。
【請求項45】
請求項20に記載の使用において、前記障害が糖尿病性腎症または糖尿病性腎疾患であることを特徴とする使用。
【請求項46】
請求項28に記載の組成物において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、筋肉内、腹腔内、静脈内(全身性)または皮下から選択されるルートによる投与用に製剤化されたものであることを特徴とする組成物。
【請求項47】
請求項35に記載の組成物において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが、筋肉内、腹腔内、静脈内(全身性)または皮下から選択されるルートによる投与用に製剤化されたものであることを特徴とする組成物。
【請求項48】
請求項1に記載の使用において、前記医薬品が、筋肉内、腹腔内、静脈内(全身性)または皮下から選択されるルートによる投与用に製剤化されたものであることを特徴とする使用。
【請求項49】
請求項12に記載の使用において、前記医薬品が、筋肉内、腹腔内、静脈内(全身性)または皮下から選択されるルートによる投与用に製剤化されたものであることを特徴とする使用。
【請求項50】
請求項1に記載の使用において、前記医薬品が糖尿病性腎症または糖尿病性腎疾患の治療のためであることを特徴とする使用。
【請求項51】
請求項12に記載の使用において、前記医薬品が糖尿病性腎症または糖尿病性腎疾患の治療のためであることを特徴とする使用。
【請求項52】
糖尿病性腎症および糖尿病性腎疾患から選択される腎臓障害を治療するための医薬品の製造における、活性薬剤としてのヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの使用であって、前記医薬品が有効量のヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを含み、前記医薬品が、筋肉内、腹腔内、静脈内(全身性)または皮下から選択されるルートによる投与用に製剤化されたものであることを特徴とする使用。
【請求項53】
請求項46に記載の組成物において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンがリン酸緩衝液中に製剤化されたものであることを特徴とする組成物。
【請求項54】
請求項47に記載の組成物において、前記ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンがリン酸緩衝液中に製剤化されたものであることを特徴とする組成物。
【請求項55】
請求項48に記載の使用において、前記医薬品がリン酸緩衝液中に製剤化されたものであることを特徴とする使用。
【請求項56】
請求項49に記載の使用において、前記医薬品がリン酸緩衝液中に製剤化されたものであることを特徴とする使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、一般に、形質膜および細胞のコレステロールおよび/または脂質を低下させるための、シクロデキストリンまたはその誘導体などのような化合物をその必要がある患者に対して投与することによって、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病、またはそれに関係する合併症の予防、治療、治癒、または逆転のために、形質膜および細胞のコレステロールを低下させるための方法に関する。
【0002】
肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病前症、および糖尿病は、これらすべての流行性の医学的状態が、心臓血管に関する罹患および死についての主な危険因子となるように、多大な医療費を伴う世界的な流行病に相当する。
【0003】
血漿コレステロールレベル、特に低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールレベルの上昇が、冠動脈心疾患、発作、末梢血管疾患、腎疾患、アテローム性動脈硬化症、および高血圧の発症において重要な役割を果たすことが十分に確立されている。臨床試験は、血漿におけるコレステロール濃度を減少させることが、心臓血管に関する罹患および死に多大な影響を及ぼすことを実証した。そのため、全身性の高コレステロール血症の治療上のコントロールは、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病前症、および糖尿病の臨床上の管理および治療において極めて重要である。
【0004】
血管関連性の障害における全身性の高コレステロール血症の調整が広く研究されているが、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病前症、および糖尿病の標的器官における形質膜および細胞のレベルでの局所的なコレステロール蓄積を低下させるための戦略は、研究されていない。
【0005】
肥満、メタボリックシンドローム、または糖尿病を有する患者におけるコレステロールの蓄積は、膵臓、筋肉、肝臓、血管、腎臓などのようないくつかの器官において記載されているが、これらの器官における局所的なコレステロールの蓄積の機能的な影響は、確立されていないままである。
【0006】
臨床上のおよび実験的な腎臓病の両方において、たとえば、コレステロールの腎臓部の蓄積は、糸球体硬化症の発症と関連し、糖尿病のラット由来の腎臓は、コレステロール蓄積によって特徴づけられる。コレステロールの過剰な蓄積は、細胞のアクチン細胞骨格の調整、いくつかの循環因子(インスリン、IGF、VEGF、任意の成長因子、アポリポタンパク質、アディポカイン、内分泌性ホルモン)に対する有足細胞の応答の調整、局所的に産生される炎症性サイトカイン、ケモカイン、およびそれらの受容体、インテグリンの調整、免疫応答(TLRおよびB7−1−CD80のような共刺激分子を通して媒介されるものなど)の調整、またはアポトーシス促進性および抗アポトーシス性の細胞死経路の調整を含む、いくつかのメカニズムを通しての細胞機能に対して有害となり得る。
【0007】
さらに、発明者らは、糖尿病において重度に冒される腎臓細胞である有足細胞機能の修飾物質としてのスフィンゴ脂質関連性の酵素(酸性スフィンゴミエリナーゼ様ホスホジエステラーゼ3b、SMPDL3b)の重要な役割を最近実証した。同様に、スフィンゴ糖脂質は、糖尿病のラットの腎臓において蓄積する。しかしながら、タンパク尿または糖尿病性腎疾患などのような他の腎臓関連性の疾患における形質膜または細胞のコレステロールの除去の有益な効果を示す有効なデータは、まだない。
【0008】
そのため、必要なことは、疾患において観察される、形質膜および細胞のコレステロールの蓄積を調整することができる介入方法である。次いで、そのような方法は、糖尿病、糖尿病前症、メタボリックシンドローム、肥満、またはその症状のような状態を治療する、阻害する、または寛解させるための予防的なおよび治療上の戦略において有用であってもよい。
【0009】
シクロデキストリン(CD)は、α、β、またはγ−(1,4)グルコシド結合によって付加される6つ以上のD−(+)グルコピラノース単位を含有する環状オリゴ糖である。シクロデキストリンが、それらの特有の構造により、様々な疎水性分子と複合体を形成することができることが示された。シクロデキストリン誘導体は、たとえば、培養細胞からコレステロールを除去するために、研究所において広汎に使用されており、それらは、薬剤を可溶化するためのそれらの能力について医薬品産業においてよく知られている。
【0010】
誘導体化されていないシクロデキストリンは、無脂肪バター、卵、および乳製品などのような、コレステロールを含まない製品を作製するために、食品産業の至る所で使用されている。ヒドロキシプロピル−ベータ−シクロデキストリン(HPβCD)は、アジアおよびヨーロッパの国々において食品において使用するためのGRAS(Generally Recognized As Safe)物質として認識されており、米国において同様の認可に向けて検討されているところである。世界中の何百万人もの人々は、食べ物、化粧品、および家庭用品において少量のシクロデキストリン化合物に毎日曝露されている。CD誘導体は、CTD Holdings Inc.(http://cyclodex.com/)から入手可能である。薬理学的研究は、CD誘導体のコレステロール枯渇能力が、スタチンのコレステロール枯渇能力に対しておよそ20倍優れていることを示唆した。
【0011】
シクロデキストリンに対するこの一般的な曝露に加えて、療法におけるCDの使用についての安全性および効能の可能性もまた、認識された。たとえば、2009年4月、US Food and Drug Administration(FDA)は、ニーマン ピック障害と呼ばれるまれな脳破壊性のコレステロール疾患を有する双子に、彼らの血流へのHPβCDの毎週の静脈内注入を受けさせるInvestigational New Drug(IND)プロトコールを承認した。しかしながら、後の研究は、ヒドロキシプロピル−ベータ−シクロデキストリンが血流から脳に横断しないことを発見した。そして2010年9月23日、FDAは、ニーマン ピックC型(NPC)で瀕死の6歳の一卵性双生児の少女の脳にTrappsol(登録商標)Cyclo(商標)(HPβCD)を導入するためのIND申請の許可を認めた。
【0012】
この適用および投与のルートについてのIND提出物の概要は、アドレス(http://addiandcassi.com/wordpress/wp−content/uploads/2009/09/Hydroxy−Propyl−Beta−Cyclodextrin−HPBCD−Summary.pdf)で公的に入手可能である。
【0013】
以前に記載されなかったことは、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病前症、および糖尿病または任意の関連性の合併症の細胞のコレステロールまたは脂質を低下させるためのCDおよびCD誘導体の使用である。
【0014】
好都合に、シクロデキストリン化合物は、コレステロール合成経路に影響を及ぼすことによって(スタチンがするように)ではなく、主として、コレステロール蓄積に関係する流出メカニズムを増加させることによって作用することが現在発見されている。
【0015】
この発見は、シクロデキストリン化合物が、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病前症、および糖尿病または任意の関連性の合併症の予防および治癒のために、より広く利用されることを可能にする。さらに、シクロデキストリン誘導体またはスタチン以外の化合物のクラスに属する任意の細胞コレステロール低下薬(ピコリン酸クロム、肝臓X受容体アゴニストなど)もまた、本明細書において記載される方法において使用することができる。
【0016】
細胞のコレステロールを調整するためのある新規な戦略は、発明者らが、細胞のコレステロール含有量および細胞機能を調整することを実証した、SMPDL3B(スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ酸性様3B)などのようなスフィンゴ脂質関連性の酵素の調整を含む。
【発明の概要】
【0017】
本発明は、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病前症、糖尿病、糖尿病性腎疾患、またはそれに関係する状態もしくは症状を予防する、治療する、治癒する、または逆転させるのに十分な時間および用量で、形質膜または細胞のコレステロール/脂質を低下させるように、シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体などのような化合物をその必要がある患者に対して投与するための方法に関する。
【0018】
一般に、本発明は、糖尿病(1型)、糖尿病(2型)、糖尿病前症、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病性腎症、糖尿病性腎疾患、糖尿病性ニューロパシー、糖尿病性網膜症、糖尿病関連性の微小血管合併症、糖尿病関連性の大血管合併症、アテローム性動脈硬化症、末梢血管疾患、冠動脈疾患、鬱血性心不全、心肥大、心筋梗塞、内皮機能不全および高血圧、発作、脳血管発作、心筋梗塞、心臓発作、心臓血管に関する事故、脂肪肝、脂肪性肝炎、NASH、ならびにインスリン抵抗性、糖尿病性腎疾患、肥満、ならびにメタボリックシンドロームから選択される状態に罹患している患者における細胞または細胞の形質膜における脂質含有量を低下させるための方法であって、細胞の脂質含有量を低下させる化合物の有効量を患者に対して投与するステップを含む方法に関する。
【0019】
より詳細に、本発明の方法は、細胞の流入メカニズムの阻害を含むまたは細胞のコレステロール蓄積を低下させるスフィンゴ脂質酵素の調整を含む、コレステロール蓄積に関係する細胞の流出メカニズムを増加させる。方法はまた、細胞のコレステロール合成経路に対する干渉を含むことができる。
【0020】
好ましくは、本発明の方法の有用な化合物は、シクロデキストリンまたはシクロデキストリンの誘導体である。より好ましくは、シクロデキストリンまたはその誘導体は、ヒドロキシプロピル−ベータ−シクロデキストリン(HPβCD)である。
【0021】
本発明は、記載される状態または症状を治療する、予防する、または寛解させるのに有用な医薬組成物をさらに企図する。本発明による組成物は、医薬品有効成分(active pharmaceutical ingredient)(API)として、本明細書において記載される少なくとも1つのシクロデキストリンおよび注射可能な投与のための薬学的に許容できるビヒクルを含む。好ましくは、本発明の組成物は、ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン(HPβCD)またはそのアナログ、誘導体、異性体、もしくは塩を含む。
【0022】
本発明の組成物は、2つ以上の活性成分を含むことができ、活性成分は、2つ以上のレチノイド化合物とすることができるまたは非レチノイド化合物と組み合わせた1つまたは複数のレチノイド化合物を含むことができる。活性成分は、順次または同時に投与することができる。
【0023】
本発明の方法の好ましい適用は、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病前症、糖尿病、糖尿病性腎疾患、またはそれに関係する状態もしくは症状などのような症状をそのような状態に罹患しているまたはかかりやすい患者において治療する、阻害する、または予防するステップを含む。
【0024】
方法は、筋肉内、腹腔内、静脈内(全身性)、皮下、経皮、経口、直腸、吸入、局所、および鼻内などのような、投与の一般的なルートによって、シクロデキストリンまたはシクロデキストリンの誘導体などのような化合物の有効量を投与するステップを含む。投与の好ましいルートは、皮下である。
【0025】
本発明の方法に従って化合物を投与するための投薬範囲は、1週間当たり3〜5回、約2〜20mg/kg/日〜約4000mg/kg(合計約20,000mg.kg/週まで)を含み、1週間当たり少なくとも2回〜1日当たり約3回まで投与することができる。
【0026】
好ましくは、方法は、単一の活性成分として化合物を投与するステップを用い、同じクラスの化合物の2つ以上の化合物が、単一の成分と考えられる。たとえばHPβCDおよびHPβCDの誘導体の投与は、両方ともシクロデキストリンのクラスのものであるが、本発明の目的のために、単一の活性成分または単一のシクロデキストリンと考えられる。典型的に、化合物は、活性成分および少なくとも1つの薬学的に許容できる賦形剤またはビヒクルを含む組成物として投与される。
【0027】
その代わりに、方法は、2つ以上の医薬品有効成分の使用を用いることができ、組成物が、2つの活性成分を含み、それぞれが、異なるクラスの化合物に由来し、化合物の少なくとも1つが、シクロデキストリンである。たとえば、方法は、1つまたは複数のシクロデキストリンまたはその誘導体を含む第1の活性成分およびシクロデキストリンでもその誘導体でもない第2の活性成分および好ましくは薬学的に許容できる賦形剤またはビヒクルを投与するステップを含むことができる。本発明の目的のために、薬学的に許容できる賦形剤は、保存剤を含むことができる。
【0028】
第2の活性成分は、抗糖尿病薬、コレステロール生合成阻害剤、コレステロール吸収阻害剤、胆汁酸捕捉剤、ナイアシンまたはナイアシン誘導体、フィブラート、コレステリルエステルトランスフェラーゼタンパク質、およびアセチル補酵素Aアセチルトランスフェラーゼ阻害剤または生物製剤(biologic)から選択することができる。その代わりに、第2の活性成分は、免疫抑制薬、インスリン、スルホニルウレア、グリプチン(gliptin)、メトホルミン、チアゾリジンジオン、インスリン感受性改善薬、インクレチン類似体、DPP4阻害剤、VEG干渉薬(VEG−interfering agent)、成長因子、抗炎症薬(antinflammatory)、ビタミンD誘導体、RAS系遮断薬、およびアルドステロン遮断薬から選択することができる。
【0029】
本発明の方法は、細胞または細胞の形質膜におけるコレステロールの蓄積によって引き起こされる状態もしくは症状または二次的な状態を治療する、阻害する、予防する、または寛解させるステップをさらに含む。これらの状態は、上記に列挙され、参照によって本明細書において組み込まれる。本発明のこの実施形態は、コレステロール蓄積に関係する細胞の流入メカニズムまたは細胞の流出メカニズムに影響を及ぼすことによってコレステロールの細胞の蓄積を低下させる化合物の有効量を、状態もしくは症状または二次的な状態に罹患している患者に対して投与するステップを含むことができる。方法は、細胞のコレステロール蓄積を低下させるためにスフィンゴ脂質酵素の調整を含むことができ、細胞のコレステロール合成経路に対する干渉をもたらすステップをさらに含むことができる。
【0030】
そのうえ、本発明は、コレステロールの細胞の蓄積によって引き起こされる症状または関連性の状態を治療する、阻害する、予防する、または寛解させるための組成物を含み、組成物が、少なくとも1つのシクロデキストリンまたはシクロデキストリンの誘導体および薬学的に許容できる賦形剤またはビヒクルの有効量を含む。
【0031】
組成物は、シクロデキストリンでもシクロデキストリンの誘導体でもない第2の医薬品有効成分をさらに含み得る。第2の活性成分は、抗糖尿病薬、コレステロール生合成阻害剤、コレステロール吸収阻害剤、胆汁酸捕捉剤、ナイアシンまたはナイアシン誘導体、フィブラート、コレステリルエステルトランスフェラーゼタンパク質、およびアセチル補酵素Aアセチルトランスフェラーゼ阻害剤または生物製剤とすることができる。
【0032】
その代わりに、第2の活性成分は、免疫抑制薬、インスリン、スルホニルウレア、グリプチン、メトホルミン、チアゾリジンジオン、インスリン感受性改善薬、インクレチン類似体、DPP4阻害剤、VEG干渉薬、成長因子、抗炎症薬、ビタミンD誘導体、RAS系遮断薬、およびアルドステロン遮断薬とすることができる。
【0033】
商業上の使用において、化合物、組成物、および組成物を使用するための方法は、容器中に含有されているように、組成物を含む製品または製造品に関して有用であり、容器が、本明細書において記載されるように、脂質の細胞の蓄積によって引き起こされる状態またはそれに起因する症状を治療するための方法に従って化合物または組成物を使用するための書面の説明書と共にパッケージされる。
【0034】
好ましい製造品は、本発明の化合物または組成物および細胞のコレステロール蓄積または細胞のコレステロール蓄積と関連する状態もしくは症状を治療する際のその使用について指示する書面の説明書を含む。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、CDが、インビボにおいて糖尿病を改善し、詳細には、1−コレステロールがヒドロキシプロピル−ベータ−シクロデキストリン(CD)の皮下注射によって枯渇し、実験動物における糖尿病および肥満を回復させ、エクスビボにおいてヒト島細胞機能を改善することを示す実験の結果を示す図である。
図2図2は、CDが、インビボにおいて糖尿病性腎疾患から保護し、詳細には、2−コレステロールがヒドロキシプロピル−ベータ−シクロデキストリン(CD)の皮下注射によって枯渇し、アルブミン尿、腎臓重量、および糖尿病性腎疾患の組織学的な特徴を改善することを示す実験の結果を示す図である。
図3図3は、4−コレステロール蓄積が、正常で健康なコントロールおよび腎疾患を有していない(DKD−)糖尿病の患者と比較した場合に、糖尿病および糖尿病性腎疾患(DKD+)を有する患者の血清に対して曝露された有足細胞において起こることを示す図である。
図4図4は、CDが、DKD+血清に対する曝露の後に観察される変化から有足細胞を防御し、詳細には、CDによるコレステロール枯渇が、糖尿病性腎疾患を有する患者の血清に対して曝露された正常腎臓細胞(ヒト有足細胞)において観察される細胞泡状突起、コレステロール蓄積、および細胞アポトーシスなどのような、いくつかの表現型の変化を予防することを示すことを示す図である。
図5図5は、スフィンゴ脂質関連性の酵素、たとえばSMPDL3bの発現が、腎臓などのような標的器官において糖尿病において増加し、脂質依存性の損傷を引き起こすことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
血漿中のコレステロールレベル、特に低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールの上昇が、糖尿病の微小血管合併症および大血管合併症の発症において重要な役割を果たすことが知られている。しかしながら、患者におけるコレステロールレベルを低下させるための現在利用可能な治療は、肝臓におけるコレステロールの合成を遮断することによって(スタチン)、循環系へのコレステロールの再吸収を予防することによって(胆汁酸樹脂、コレステロール吸収阻害剤)、またはHDLコレステロールを増加させることによって(フィブラート、ナイアシン誘導体、コレステリルエステル転送タンパク質[CETP]阻害剤)、血漿LDLを低下させることを目的とする。形質膜または細胞のコレステロールを低下させることを目的とする現在使用されている医薬品は、肝臓x受容体アゴニスト(LXR)を除いてないが、これは、ヒトにおいて安全であることがまだ分かっていない。
【0037】
本発明の一実施形態は、糖尿病(1型または2型)、糖尿病前症、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病性腎症、糖尿病性腎疾患、糖尿病性ニューロパシー、糖尿病性網膜症、糖尿病関連性の微小血管合併症、糖尿病関連性の大血管合併症、アテローム性動脈硬化症、末梢血管疾患、冠動脈疾患、鬱血性心不全、心肥大、心筋梗塞、内皮機能不全および高血圧、発作、脳血管発作、心筋梗塞、心臓発作、心臓血管に関する事故、脂肪肝、脂肪性肝炎、NASH、インスリン抵抗性を含むリストから選択することができる代謝障害に関する。
【0038】
本発明の他の実施形態において、腎臓関連性の障害を予防する、治療する、治癒する、または逆転させるために使用される薬剤が、細胞の形質膜および細胞のコレステロール含有量を低下させる任意の薬剤である。
【0039】
薬剤は、様々な方法でこれによって個人に対して投与することができる。投与のルートは、筋肉内、腹腔内、静脈内(全身性)、皮下(単独でまたは比較的大量の皮下薬剤の投与を容易にする薬剤と組み合わせて)、経皮、経口、直腸、吸入、局所、および鼻内ルートを含む。薬剤は、薬学的に許容できるキャリヤ、希釈剤、賦形剤、およびビヒクルとしての他の生物学的に活性な作用物質または構成成分と一緒に投与することができる。
【0040】
本明細書において記載されるシクロデキストリンは、医薬組成物に製剤することができる。一態様において、化合物が、当技術分野において知られている技術を使用して調製された、医薬組成物を産生するための少なくとも1つの薬学的に許容できるキャリヤと組み合わせることができる。一態様において、組成物が、薬学的に許容できるキャリヤと化合物を混合することによって調製される。混合されることとなる構成成分に依存して、構成成分は、化学的にまたは物理的に互いに相互作用してもよいまたはしなくてもよい。
【0041】
本明細書において提供される組成物は、希釈剤、バインダー、およびその他同種のものなどのような賦形剤を含む、1つまたは複数の薬学的に許容できるキャリヤと一緒に、少なくとも1つのシクロデキストリンを含むように製剤されてもよく、所望されるように、安定剤、保存剤、可溶化剤、およびバッファーなどのような添加剤をさらに含むことができる。
【0042】
医薬組成物は、活性成分に加えて、キャリヤ、シックナー、希釈剤、バッファー、保存剤、界面活性剤、およびその他同種のものを含んでいてもよい。医薬組成物はまた、本発明によるレチノイド化合物および1つまたは複数の抗菌薬、抗炎症薬、麻酔薬、またはその他同種のものなどのような2つ以上の活性成分を含んでいてもよい。薬学的に許容できるキャリヤは、当業者らに知られている。これらは、たいてい、典型的に、生理学的pHの滅菌水、食塩水、および緩衝液などのような溶液を含めて、ヒトに対する投与のための標準的なキャリヤとなるであろう。
【0043】
医薬組成物は、局所的もしくは全身性の治療が所望されるかどうかに依存してまたは治療されることとなるエリアに依存して、多くの方法での投与のために製剤されてもよい。投与は、当業者らによって容易に理解されるように、眼に(ophthalmically)、腟内に(vaginally)、直腸に、鼻腔内にを含めて、局所とすることができ、皮膚またはその他同種のものに適用することができる。
【0044】
実用的な使用において、提供される本発明の化合物は、混合物中の活性成分として、従来の医薬品合成技術により、医薬キャリヤまたはビヒクルと組み合わせることができる。使用されるキャリヤは、投与について所望される投薬形態、たとえば経口、非経口(静脈内を含む)、尿道、腟、経鼻、皮膚、局所、経皮、肺、深肺(deep lung)、吸入、口腔内、舌下投与、またはその他同種のものに依存して形成することができる。
【0045】
水溶液中の場合、好ましいように、提供されるシクロデキストリン組成物は、任意の生理学的に許容できるpH、一般に約pH4〜約pH7であってもよい食塩水、酢酸、リン酸、クエン酸、酢酸、または他の緩衝剤によって適切にバッファーされてもよい。リン酸緩衝食塩水、食塩水、および酢酸緩衝液ならびにその他同種のものなどのように、緩衝剤の組み合わせもまた、用いられてもよい。食塩水の場合には、0.9%生理食塩水が、用いられてもよい。酢酸、リン酸、クエン酸、酢酸、およびその他同種のものの場合には、50mM溶液が、用いられてもよい。緩衝剤に加えて、適した保存剤が、細菌および他の微生物の増殖を予防するまたは制限するために用いられてもよい。用いられてもよいあるそのような保存剤は、0.05%塩化ベンザルコニウムである。
【0046】
投与のための調製物は、滅菌水性または非水性溶液、懸濁液、およびエマルションを含む。水性または非水性キャリヤの例は、食塩水およびバッファーされた媒体を含めて、水、アルコール性溶液/水溶液、エマルション、または懸濁液を含む。非経口ビヒクルは、塩化ナトリウム溶液、リンガーデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンガー、または不揮発性油を含む。
【0047】
静脈内ビヒクルは、体液および栄養素補液、電解質補液(リンガーデキストロースに基づくものなど)、ならびにその他同種のものとすることができる。たとえば抗菌剤、酸化防止剤、キレート剤、および不活性ガスならびにその他同種のものなどのような保存剤ならびに他の添加剤もまた、存在してもよい。
【0048】
局所投与のための製剤は、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、点滴剤、坐剤、噴霧剤、液剤、および散剤を含んでいてもよい。従来の医薬キャリヤ、水性、粉末、または油性ベース、シックナー、およびその他同種のものは、必要であってもよいまたは望ましくてもよい。特定の症例における活性化合物の実際の好ましい量は、利用されている特定の化合物、製剤される特定の組成物、適用のモード、ならびに治療されている特定の位置および哺乳動物により変動するであろうということが十分に理解されるであろう。
【0049】
経口投薬形態のための組成物を調製する際に、たとえば、たとえば懸濁液、エリキシル剤、および水剤などのような経口液体調製物の場合には、水、グリコール、油、アルコール、調味料、保存剤、着色料、およびその他同種のものまたはたとえば散剤、硬および軟カプセル剤、ならびに錠剤などのような経口固体調製物の場合には、デンプン、糖、結晶セルロース、希釈剤、顆粒化剤、潤滑剤、バインダー、崩壊剤、およびその他同種のものなどのようなキャリヤなどのような典型的な医薬媒体が、用いられてもよい。
【0050】
固体投与製剤については、デンプン、糖、脂肪酸、およびその他同種のものなどのような、様々な濃化剤、増量剤、充填剤(bulking)、およびキャリヤ添加剤のいずれかが、用いられてもよい。製剤賦形剤は、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、ヒドロキシセルロース、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、マンニトール、塩化ナトリウム、およびクエン酸ナトリウムを含んでいてもよい。注射または他の液体投与製剤については、少なくとも1つまたは複数のバッファー成分を含有する水が好ましく、安定剤、保存剤、および可溶化剤もまた、用いられてもよい。
【0051】
本発明の提供される化合物が、乾燥また粒子形態をしていてもよいこともまた、企図される。ある実施形態において、粒子が、約0.5〜6.0μmであり、粒子が、肺表面上に定着し、吐き出されないのに十分な質量を有するが、それらが肺に到達する前に気道の表面上に堆積しないほど十分に小さい。様々な異なる技術のいずれかが、乾燥粉末微粒子を作製するために使用されてもよく、マイクロ製粉、噴霧乾燥、および凍結乾燥が後続する急速冷凍エアロゾルを含むが、これらに限定されない。
【0052】
医薬製剤については、様々な定量放出(measured−release)、緩効性、または持効性製剤および添加剤のいずれかが、用いられてもよく、施薬は、制御、遅効性、長期、緩効性、または持続性放出製剤と一般に称される、ある期間にわたって、提供される化合物の送達を達成するように製剤されてもよいこともまた、企図される。たとえばゼラチン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/または他のセルロース賦形剤が、持効性製剤またはより緩効性の製剤を提供するために、とりわけ皮下および筋肉内注射による投与のために、含まれていてもよい。
【0053】
提供される本発明のシクロデキストリンは、持効性注射用製剤の、注射、典型的に、臀部または三角筋へのなどのような皮下または筋肉内注射によって治療的に投与されてもよい。一実施形態において、提供される本発明の化合物が、ポリ(エチレングリコール)3350などのようなPEGならび任意選択で、塩、ポリソルベート80、pHを調節するための水酸化ナトリウムまたは塩酸、およびその他同種のものなどのような賦形剤を含むが、これらに限定されない、1つまたは複数のさらなる賦形剤および保存剤と共に製剤される。
【0054】
製剤は、適用、投与、または注射が、提供される化合物の濃度および量、製剤において使用されるポリマーの生物分解速度、および当業者らに知られている他の因子に依存して、毎日、毎週、毎月、または他の定期的な方式で必要とされるようなものであってもよい。
【0055】
他の実施形態において、腎臓関連性の障害を予防する、治療する、治癒する、または逆転させるために使用される薬剤が、シクロデキストリンまたはその誘導体もしくはアナログのいずれかである。
【0056】
他の実施形態において、シクロデキストリンが、患者における高血糖症(空腹時または食後)を予防する、治療する、または低下させるために使用される。
【0057】
本開示はまた、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病前症、および糖尿病関連性の障害を予防する、治療する、治癒する、または逆転させるための手段として、任意の器官の任意の細胞における形質膜または細胞のコレステロール含有量を低下させるための方法にも関する。
【0058】
一実施形態において、形質膜または細胞のコレステロール含有量が、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病前症、および糖尿病関連性の腎臓障害を予防する、治療する、治癒する、または逆転させるための手段として、身体の任意の細胞において低下させられる。本発明の化合物または組成物は、糖尿病によって冒されたまたは糖尿病の発症の原因となる中枢または末梢器官の細胞または細胞の形質膜におけるコレステロール蓄積を治療する、阻害する、予防する、低下させる、または逆転させるために、シクロデキストリンを用いることができる。
【0059】
他の実施形態において、形質膜または細胞のコレステロール含有量が、グルコース刺激インスリン放出障害、局所的なもしくは全身性の炎症、および/または膵島に対する自己免疫性の攻撃を予防する、治療する、治癒する、または逆転させるために、膵臓ベータ細胞において低下させられる。
【0060】
他の実施形態において、シクロデキストリンまたはその誘導体が、形質膜コレステロールを細胞から少なくとも部分的に枯渇させるために、単独でまたは免疫抑制薬、インスリン、スルホニルウレア、グリプチン、メトホルミン、TZD、もしくは任意のインスリン感受性改善薬、インクレチン類似体およびDPP4阻害剤、VEGFおよび他の成長因子に干渉する作用物質、抗炎症性医薬品、ビタミンD誘導体、RAS系およびアルドステロンの遮断薬などのような、現在使用されているもしくは糖尿病の予防および治療のために研究されている他の薬剤と組み合わせて使用される。
【0061】
他の実施形態において、ヒドロキシプロピルベータシクロデキストリン(HPβCD)が、約2〜約20mg/kg/日の範囲にわたる用量でマウスに対して投与される場合、安全であり、1週間当たり3回〜5回、約4,000mg/kgまでの量で投与することができる(合計約20,000mg/kg/週)。
【0062】
他の実施形態において、ヒドロキシプロピルベータシクロデキストリン(HPβCD)が、1週間当たり3回、4000mg/kgもの高用量で皮下に投与された場合、安全である。
【0063】
他の実施形態において、シクロデキストリン、その誘導体、または任意の他の形質膜もしくは細胞のコレステロール降下薬が、HMG−CoAレダクターゼ阻害剤などのようなコレステロール生合成阻害剤と組み合わせて使用される。HMG−CoAレダクターゼ阻害剤薬剤は、シンバスタチン、アトルバスタチン、ロバスタチン、ロスバスタチン、メバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン、セリバスタチン、リバスタチン、イタバスタチン(Itavastatin)、またはZD−4522などのような薬剤を含む。
【0064】
他の実施形態において、シクロデキストリン、その誘導体、または任意の他の形質膜もしくは細胞のコレステロール降下薬が、エゼチミブ、SCH−48461などのようなコレステロール吸収阻害剤と組み合わせて使用される。
【0065】
他の実施形態において、シクロデキストリン、その誘導体、または任意の他の形質膜もしくは細胞のコレステロール降下薬が、胆汁酸捕捉剤および樹脂(コレスチポール、コレスチラン、コレキストラン、コレスチラミン、コレセベラム)と組み合わせて使用される。
【0066】
他の実施形態において、シクロデキストリン、その誘導体、または任意の他の形質膜もしくは細胞のコレステロール降下薬が、ナイアシンおよびニセリトロール、ニコフラノース、ナイアシン、ニコチニルアルコール、アシピモックスなどのようなナイアシン誘導体と組み合わせて使用される。
【0067】
他の実施形態において、シクロデキストリン、その誘導体、または任意の他の形質膜もしくは細胞のコレステロール降下薬が、フェノブラート、シンフィブラート、ロニフィブラート、シプロフィブラート、クリノフィブラート、クロフィブリド、エトフィブラート、クロフィブレート、ベザフィブレート、クロフィブラートアルミニウム、ゲムフィブロジルなどのようなフィブラートと組み合わせて使用される。
【0068】
他の実施形態において、シクロデキストリン、その誘導体、または任意の他の形質膜もしくは細胞のコレステロール降下薬が、ダルセトラピブ、トルセトラピブ、アナセトラピブなどのようなコレステリルエステル転送タンパク質(CETP)阻害剤と組み合わせて使用される。
【0069】
他の実施形態において、シクロデキストリン、その誘導体、または任意の他の形質膜もしくは細胞のコレステロール降下薬が、アセチル補酵素Aアセチルトランスフェラーゼ(ACAT)阻害剤(アバシミベなど)またはミクロソームトリグリセリド輸送阻害剤(microsomal triglyceride transport inhibitor)と組み合わせて使用される。
【0070】
これらの併用治療はまた、1つまたは複数の肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病前症、ならびにアテローム性動脈硬化症、インスリン抵抗性、高脂血症、高トリグリセリド血症、異脂肪血症、高LDL、および低HDLからなる群から選択される糖尿病関連性の障害の治療またはコントロールに有効であってもよい。
【実施例】
【0071】
実験結果は、ATP結合カセット輸送体ABCA1のダウンレギュレーションと関連するコレステロールの増加が、1型糖尿病およびアルブミン尿(DKD+)を有する患者の血清に曝露された正常ヒト有足細胞において、正常アルブミン尿(DKD−)および同様の持続期間の糖尿病および脂質プロファイルを有する糖尿病患者と比較した場合に起こることを示した。ABCA1の糸球体ダウンレギュレーションは、初期のDKD(n=70)を有する患者由来の生検材料において、正常な生体ドナー(n=32)と比較した場合に確認された。
【0072】
シンバスタチンによるコレステロール合成の阻害ではなくシクロデキストリン(CD)によるコレステロール流出の誘発は、患者血清に対して曝露された後にインビトロにおいて観察される有足細胞傷害を予防した。糖尿病BTBR−ob/obマウスに対するCDの皮下投与は、安全であり、アルブミン尿、糸球体間質の拡大、腎臓重量、および皮質コレステロール含有量を低下させた。これに、空腹時インスリン、血中グルコース、体重、インビボにおける糖耐性の改善、およびインビトロにおけるヒト島におけるグルコース刺激インスリン放出改善が後続した。
【0073】
発明者らのデータは、コレステロール逆転送障害は、臨床上および実験的DKDの特徴をなし、有足細胞機能にネガティブに影響を与えることを示唆する。CDによる治療は、安全であり、インビトロおよびインビボにおいて有足細胞機能を保護するのに、エクスビボにおいてヒト膵臓ベータ細胞を寛解させるのに、ならびにインビボにおいて糖尿病の代謝制御を改善するのに有効である。
【0074】
発明者らは、DKDにおける新しい経路および標的を同定するために、24時間、4%患者血清に対して分化ヒト有足細胞を曝露させる、以前に確立された細胞ベースのアッセイを使用した。DKDを有する患者の血清に曝露された有足細胞は、循環コレステロールに非依存性であった、ABCA1発現のダウンレギュレーションと関連するコレステロール蓄積の増加を示した。過剰なコレステロール沈着は、T1DおよびT2Dのげっ歯動物モデルの糸球体において実際に記載されており、DKD発症および進行の一因となり得る。
【0075】
研究設計および方法
患者血清および腎臓生検材料。血清サンプルは、10人の健康なコントロールおよびフィンランド糖尿病性腎症研究(FinnDiane)のT1Dを有する20人の患者から得た。T1Dは、40歳前の糖尿病の発病および診断の1年以内に開始された永久的インスリン治療として定義した。尿アルブミン排出速度(AER)は、正常AER(<30mg/24時間)、ミクロアルブミン尿(≧30<300mg/24時間)、およびマクロアルブミン尿(≧300mg/24時間)として定義した。空腹時グルコース値は、Hemocueデバイス(Hemocue、フィンランド)を使用して測定した。血清脂質は、Konelabアナライザー(Thermo Scientific、フィンランド)により決定した。他の生化学的分析は、認可された病院検査室(HUSLAB、ヘルシンキ)において実行した。糸球体mRNA発現プロファイルについては、腎臓生検組織は、インフォームドコンセントを得た後に70人の南西部のアメリカインディアンから得た。移植前、健康な生体ドナー(n=32)、膜性腎症(n=21)、および巣状分節性糸球体硬化症(n=18)患者由来のヒト腎生検材料は、European Renal cDNA Bankから得た。
【0076】
マイクロアレイ分析およびPCR。インビトロ実験のために、lllumina技術は、2〜3人の患者それぞれ(コントロール、DKD−、およびDKD+)由来の血清の4つの独立したプールに曝露されたヒト有足細胞におけるmRNA発現を研究するために利用した。糸球体mRNA発現プロファイルは、記載されるように、Affymetrix GeneChipアレイにより実行した。
【0077】
ヒト有足細胞培養。ヒト有足細胞は、培養し、以前に記載されるように分化させ、実験前に0.2%FBS中で血清を欠乏させた。患者血清を利用した場合、欠乏させた細胞は、24時間、4%患者血清に曝露させた。インスリン処理実験については、100nmolインスリンを、患者血清に対する曝露の15分後に培養培地に追加した。シクロデキストリンまたはスタチン処理実験については、血清を欠乏させたヒト有足細胞を、5mMメチル−ベータ−シクロデキストリン(CD、Sigma)またはシンバスタチン(1μΜ、Sigma)により1時間前処理した。
【0078】
免疫蛍光染色。チャンバースライドにおいて培養した細胞は、37℃で30分間、4%PFAにより固定し、0.1%Triton X−100により透過処理し、マウス抗ホスホ−カベオリン(pY14、BD Biosciences)、抗活性RhoA(New East Biosciences)、または抗ビメンチン(Sigma)抗体に対する曝露を後続した。蛍光検出は、Alexa Fluor二次抗体(Invitrogen)を使用して実行した。コレステロール決定については、フィリピン(Sigma)染色を記載されるように実行した。F−アクチンは、ローダミンファロイジン(Invitrogen)によって視覚化した。状態当たり200の連続した細胞について研究した。スライドは、DAPI強化封入剤(Vectashield)により調製し、共焦点顕微鏡によって分析した。
【0079】
アポトーシス分析。アポトーシスは、メーカーの説明書に従ってカスパーゼ−3/CPP32比色定量アッセイキット(Biovision)を使用して評価した。カスパーゼ3活性は、細胞数に対して標準化し、コントロールに対する倍数変化として表した。
【0080】
コレステロール含有量の決定。コレステロールエステルは、酵素アッセイを使用して、総コレステロールおよび遊離コレステロールの間の差異として決定し、細胞タンパク質含有量に対して標準化した。脂肪滴の細胞含有量は、オイルレッドO(ORO)を使用して決定した。細胞は、上記に記載されるように、固定し、透過処理し、PBSおよび60%イソプロパノール中で洗浄し、室温で15分間、ORO(イソプロパノール中0.5% ORO、1:3に希釈)におけるインキュベーションおよび1分間のヘマトキシリンによる対比染色を後続した。200の連続した細胞に対するOROポジティブ細胞の割合を、明視野顕微鏡によって計算した。
【0081】
ウェスタンブロッティングおよびluminex。細胞溶解物収集およびウェスタンブロッティングを、以前に記載されるように実行した。以下の一次抗体を使用した:ウサギポリクローナル抗MyD88(Cell Signaling)、ウサギポリクローナル抗リン酸化(Y473)もしくは抗全AKT(Cell Signaling)、マウスモノクローナル抗rhoA(Santa Cruz)、またはマウスモノクローナル抗Gapdh(6C5、Calbiochem)抗体。二次抗マウスIgG−HRPまたは/および抗ウサギIgG−HRPコンジュゲート(Promega)を使用した。画像獲得は、化学発光イメージャーSRX−101A(Konica Minolta medical imaging、USA)を使用して実行し、バンド濃度測定は、ImageJソフトウェア(NIH)を使用して分析した。その代わりに、リン酸化/全AKTは、以前に報告されるように、luminex技術を使用して定量化した。
【0082】
定量的リアルタイムPCR(QRT−PCR)。有足細胞RNAは、RNAeasy Mini Kit(Qiagen)を使用して抽出した。逆転写は、メーカーのプロトコールに従って、大容量cDNA逆転写酵素キット(Applied Biosystems)を使用して実行した。QRT−PCRは、PerfeCTa(登録商標) SYBR(登録商標) Green FastMix(Quanta Biosciences)を使用して、StepOnePlusリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)において実行した。相対的遺伝子発現は、2^−ΔCtとして決定し、ΔCtは、標的遺伝子およびGapdhのサイクル閾値(Ct)の値の間の差異とする。半定量的発現分析のために、PCRを実行し、ゲル電気泳動によって分析した。増幅産物の強度は、ImageJソフトウェア(NIH)を使用して決定し、値を標準化し、GAPDHに対する遺伝子発現における倍数変化として表した。以下のプライマーを使用した。
【0083】
BTBR ob/obマウス治療および分析。BTBR ob/obマウスは、Jackson Laboratoriesから購入した。マウスは、5か月間、1週間当たり3回、以前に報告されるように、4,000mg/kg CDまたは食塩水を皮下注射した。尿を収集し、体重および血糖(OneTouch)について毎週決定した。群当たり6匹のマウスを分析した。動物の手順はすべて、Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC)よって承認された。等張食塩水灌流の後に、右の腎臓を、コレステロール含有量決定およびmRNA抽出のために摘出した。組織学的分析のために、一方の左腎極は、OCT中に包埋し、別の極は、4% PFA中で固定し、パラフィン包埋した。血液サンプルは、Comparative Laboratory Core Facility、University of Miamiにおいて、CBC、脂質パネル、AST、ALT、アルカリ性ホスファターゼ、GGT、およびBUNについて分析した。血清クレアチニンは、以前に記載される方法を使用して、BirminghamのUAB−UCSD O’Brien Core Center、University of Alabamaで、タンデム質量分析によって決定した。尿アルブミン含有量は、ELISA(Bethyl Laboratories)によって測定した。尿クレアチニンは、Jaffe法(Stanbio)に基づくアッセイによって評価した。値は、アルブミンμg/クレアチニンmgとして表す。空腹時血漿インスリンは、ELISA(Mercodia、SW)によって決定した。腹腔内ブドウ糖負荷試験(IPGTT)は、治療の4か月後に実行し、5時間の絶食後に、血中グルコースは、ベースライン時におよびグルコースボーラス(1.5g/kg)の180分後まで記録した。インスリン感受性については、血糖を、ベースライン時におよび4mU/gの短時間作用性インスリンの腹腔内注射の150分後までモニターした。4つの異なる単離由来のヒト島を、1時間、0.5mM CDにより前処理し、グルコースおよびKClに応じたインスリン放出を決定するために、以前に記載されたように灌流した。
【0084】
組織診断、糸球体間質の拡大の評価、および糸球体表面積。4μm厚組織切片の過ヨウ素酸−シッフ(PAS)染色を実行した。切片当たり20の糸球体を、2人の盲検の独立した調査者によって実行した半定量分析(スケール0〜4)によって、糸球体間質の拡大について分析した。糸球体の表面は、それぞれの遭遇した糸球体において輪郭を描き、平均表面積を記載されるように計算した。
【0085】
SMPDL3bウェスタンブロットは、発明者らが以前に報告したように実行した。SMPDL3b過剰発現およびノックダウン細胞系もまた、以前に報告されており、上記に記載されるように、コレステロール含有量およびRhoA発現の決定のために現在利用されている。
【0086】
統計分析。データは、平均および標準偏差として示す。4〜8つの独立した実験を、インビトロにおける研究のために実行した。群当たり6匹のマウスを、インビボ実験のために使用した。統計分析は、一元配置ANOVAにより実行した。一元配置ANOVAが統計的有意性を示した場合、結果は、多重比較のためのTukeyの調整の後にt−検定を使用して比較した。結果は、p<0.05で統計的に有意であると考えた。
【0087】
結果
臨床検査室測定および患者集団。発明者らは、血清サンプルの収集の時に臨床的特徴に基づいて3つの群に分けた30人の男性対象について研究した。研究対象に、
1)糖尿病性腎疾患を有していない(DKD−)患者として定義される、T1D、正常アルブミン尿、および正常クレアチニンを有する10人の患者、
2)糖尿病性腎疾患を有する(DKD+)患者として定義される、T1D、アルブミン尿、およびクレアチニン異常を有する10人の患者、
3)10人の健康なコントロールを含めた。3つの群は、年齢、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、およびトリグリセリドについて有意に異なっていなかった。すべての患者は、レニン−アンギオテンシン−アルドステロン系を遮断するための作用物質を服用していた。糖尿病の持続期間、空腹時血糖値、およびHbA1Cは、DKD+およびDKD−患者の間で有意に異なっていなかった。平均推定糸球体濾過率(eGFR)は、DKD−において101ml/分/1.73m2、Cにおいて97ml/分/1.73m2、およびDKD+群において43ml/分/1.73m2であった。DKD(平均eGFR 98ml/分/1.73m2)を有する5人の患者から7年前から収集していた血清を、選択した実験において利用した。
【0088】
DKD+血清に曝露された有足細胞は、特徴的なcDNAサインを有する。RNAは、発明者らが以前に報告したように、患者血清の存在下において培養した分化有足細胞から抽出した。cDNAマイクロアレイ分析は、DKD−処理有足細胞と比較した場合にDKD+処理有足細胞において改変された主な経路が、アクチンリモデリング、インスリンシグナル伝達、サイトカインシグナル伝達(主としてTLR4、TNF、およびIL1を通して)ならびにアポトーシスに関与する遺伝子を含んだことを明らかにした。発明者らは、タンパク質レベルでこれらの結果を検証し、ウェスタンブロッティングによって、DKD+処理有足細胞において、MyD88発現が増加し、インスリンがAKTをリン酸化する能力が損なわれ、また、切断カスパーゼ3の量が増加したことを実証した。
【0089】
DKDを有する患者の血清に曝露された正常ヒト有足細胞は、細胞泡状突起を示す。DKDを有する患者の血清に曝露された有足細胞に、形質膜からの細胞骨格の局所的な分離(泡状突起)と共に、著しいアクチン細胞骨格リモデリングが起こり、これは、ファロイジン染色(F−アクチン)および明視野画像の両方において明らかであり、また、これは、発明者らが巣状分節状糸球体硬化症において報告したものと非常に異なっていた。細胞泡状突起の定量分析(分析した合計200の連続した細胞のうち泡状突起を有する細胞のパーセンテージ)は、DKD+血清に曝露された細胞の80%であったが、DKD−血清に曝露された細胞のわずか20%およびコントロールにおける5%であったこの表現型を明らかにした。細胞泡状突起には、細胞泡状突起の部位での活性RhoAの再分布および全RhoAの増加が伴った。最終的にDKDを発症した、T1Dおよび正常GFRを有する5人の患者から収集された歴史的な血清が、患者がマクロアルブミン尿および低GFRと共にDKDを確立した平均7 2年後に収集された同じ患者由来の血清と培養有足細胞における同じ程度の細胞泡状突起を引き起こしたので、細胞泡状突起は、DKD+群におけるGFRの低下の結果ではなかった。
【0090】
DKD+血清に曝露された有足細胞および初期の糖尿病を有する患者由来の糸球体におけるコレステロール逆転送障害。炎症、インスリン抵抗性、アポトーシス、および細胞骨格リモデリングが、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH症候群)の病因における脂質の細胞内蓄積によって関連づけられ、コレステロールの蓄積が、DKDを有するマウスの腎臓の皮質において記載されているので、発明者らは、DKDを有する患者の血清の存在下において培養した有足細胞が、細胞内コレステロールを蓄積するかどうかを調査した。発明者らは、DKD−およびDKD+処理細胞におけるOROおよびフィリピンポジティブ細胞の数が増加し、DKD+処理細胞においてより多かったことを実証することができた。総コレステロール、遊離コレステロール、およびコレステロールエステルの定量分析は、コントロール対象由来の血清により処理した細胞と比較した場合に、DKD+処理細胞におけるコレステロールエステルの有意な増加を明らかにした。LDL受容体およびHMG−CoAレダクターゼ発現が変化しなかったが、ABCA1 mRNA発現がDKD+処理有足細胞においてダウンレギュレートされたので、この増加は、おそらく、コレステロール流出障害によるものであった。次いで、発明者らは、32人の正常生体ドナーと比較した場合の、T2Dおよび初期のDKDを有する、さらに70人の患者由来の糸球体における脂質関連性の遺伝子のmRNA発現について研究し、DKDにおけるABCA1の有意なダウンレギュレーションを実証した。興味深いことに、ABCA1が、膜性腎症(MN、n=21)および巣状分節性糸球体硬化症(FSGS、n=18)などのような、他のタンパク尿糸球体疾患において調節されなかったので、ABCA1 mRNA発現のダウンレギュレーションは、DKDだけの特徴であった。
【0091】
シクロデキストリンは、インビトロにおいて有足細胞を防御する。DKD+血清に対する培養中の有足細胞の曝露が、コレステロール流出を担う輸送体であるABCA1発現の減少と関連する総コレステロールの蓄積をもたらしたので、発明者らは、続いて、シクロデキストリンが、DKDを有する患者由来の血清に対する曝露の後に観察されるアクチン細胞骨格リモデリングおよび細胞泡状突起から有足細胞を防御するであろうという仮説について試験した。発明者らは、CDが、フィリピンポジティブ細胞の数を低下させ、接着点部位へのリン酸化カベオリンの局在化を保護したことを実証することができた。定量的コレステロール分析は、CDが、DKD+処理有足細胞において総コレステロールおよびコレステロールエステルの蓄積を予防したことを示した。さらに、CDによる細胞内コレステロール蓄積の予防はまた、DKD+誘発性のアポトーシス、インスリン抵抗性、およびMyD88発現をも予防した。有足細胞におけるシンバスタチンによるHMG−CoAレダクターゼの遮断はDKD+誘発性のアクチン細胞骨格リモデリングを防御しなかった。
【0092】
CDの皮下投与は、DKDの発症からBTBR ob/obマウスを防御する。BTBR(ブラックアンドタン、短尾)ob/ob(レプチン欠損)マウスは、進行性DKDのマウスモデルとして記載されている。予備的な毒性学研究に基づいて用量および投与のモードを確立した後に、発明者らは、5か月間、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(CD、4,000mg/体重kg)の3回の毎週の注射による皮下投与により4週齢のBTBRマウスを処理した。アルブミン排泄速度における変化は、ホモ接合体のマウスにおいて処理開始の2か月後まで観察されなかったが、3か月目に、アルブミン/クレアチニン比の有意なダウンレギュレーションが、未処理BTBR ob/obマウスと比較した場合に、CD処理マウスにおける午前のスポット尿サンプル(p<0.001)において観察された。この減少は、屠殺(処理の開始の5か月後)まで持続した。屠殺時に、CD処理マウスは、腎臓重量の低下を示した。CDは、腎臓皮質におけるABCA1 mRNA発現に影響を及ぼさなかったが、総コレステロールの有意な低下をもたらした。血中尿素窒素(BUN)およびクレアチニンは、CD処理によって有意に影響を及ぼされなかった。しかしながら、CD処理は、糸球体の表面積に影響を及ぼすことなく、糸球体間質の拡大の低下をもたらした。
【0093】
処理の4か月後、発明者らはまた、体重の低下をも観察し、これに、不規則な血糖の同時の改善が伴った。さらに、屠殺時に収集した血清は、空腹時血漿インスリンおよび空腹時血糖値の有意な改善を示した。屠殺の1週間前に実行したIPGTTは、ホモ接合体コントロールと比較した場合に、CD処理ホモ接合体マウスにおいて改善した。同様のインスリン感受性試験にもかかわらず改善が観察されたので、発明者らは、ヒト島細胞の4つの異なる調製物の機能に対する低用量CDの効果について分析した。グルコース刺激インスリン放出における有意な改善が、未処理ヒト島と比較した場合に、CD処理ヒト島において観察された。島細胞機能に対するCDの有益な効果が膵島におけるABCA1発現の調整と関連するかどうかを決定するために、発明者らは、ウサギポリクローナルABCA1抗体(Dr.A.Mendezからの寄贈)を使用して、免疫蛍光染色を実行し、分析した膵臓当たりの平均蛍光強度としてABCA1発現を決定した。ホモ接合体BTBR ob/obマウス由来の膵臓は、ヘテロ接合体同腹仔(p<0.001)と比較した場合に、有意に減少したABCA1発現によって特徴づけられ、CD処理は、ホモ接合体BTBR ob/ob(p<0.001)およびヘテロ接合体BTBR ob/+マウス(p<0.01)の膵臓において、ABCA1発現を有意に増加させた。げっ歯動物およびヒトにおいて他のシクロデキストリン誘導体を使用していると同時に、溶血性貧血および肝毒性が記載されているので、また、発明者らは、5か月の期間、高用量CDを投与したので、発明者らは、屠殺時に、ヘモグロビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、およびガンマ−グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)について研究した。長期にわたるCD投与による異常は、観察されず、CDの長期にわたる使用には、有害な副作用が伴わないことを示した(表を参照されたい)。
【0094】
本発明の効能および/または安全性は、本明細書に添付される図に対する参照によって示すことができ、その説明文を、下記に提供する。
【0095】
図1は、CDがインビボにおいて糖尿病を改善することを支持する、行った実験または研究の結果を示す、(a)〜(i)までの一連のパネルを示す図である。図1のパネルのそれぞれを詳細に参照すると、(a、b)1週間当たり3回、ホモ接合体およびヘテロ接合体BTBR ob/obマウス(群当たりn=6)に対して皮下に投与されたCDは、処理の開始の4か月後に始まる、体重における有意な低下をもたらした(平均±SD)。p<0.05、**p<0.01。(c)ホモ接合体BTBR ob/obマウスに対して投与したCDは、処理の開始の4か月後に始まる、不規則な血糖における有意な低下(平均±SD)をもたらした。(d、e)空腹時血漿インスリンおよびグルコース濃度の棒グラフによる分析(平均±SD)。空腹時血漿インスリン(**p<0.01;***p<0.001)(d)および空腹時血糖値(**p<0.01)(e)は、ヘテロ接合体コントロールと比較した場合に、ホモ接合体マウスにおいて有意に増加した。増加は、CD処理によって予防された(##p<0.01)。(f)CD処理の開始の5か月後に実行したIPGTTは、未処理BTBR ob/obマウスと比較した場合に、CD処理BTBR ob/obマウスにおける糖耐性の改善を示した。(g)CD処理は、BTBR ob/obマウスにおいて、単一用量の短時間作用性インスリン(4mU/g)に対する感受性に影響を及ぼさなかった。(h)4人の独立したドナー由来のヒト膵島における代表的な灌流実験およびグルコース刺激インスリン放出に対する0.5mM CDの効果を実証する曲線下面積(AUC)の棒グラフによる分析(**p<0.01)。(i)ABCA1についての免疫蛍光染色は、未処理同腹仔と比較した場合の、CD処理BTBR ob/obマウスの膵臓におけるABCA1発現の増加を明らかにする(図1i、左)。棒グラフによる分析(図1i、右)は、ホモ接合体BTBR ob/obマウスから単離した膵臓が、ヘテロ接合体同腹仔(###p<0.001)と比較した場合に、ABCA1発現の有意な減少によって特徴づけられることを示す。CD処理は、ホモ接合体BTBR ob/ob(***p<0.001)およびヘテロ接合体BTBR ob/+マウス(**p<0.01)の膵臓において、ABCA1発現を有意に増加させた。
【0096】
図2は、CDが、インビボにおいて糖尿病性腎疾患から保護することを支持する(a)〜(i)までのパネルを示す図である。(a)1週間当たり3回、皮下に、ホモ接合体およびヘテロ接合体BTBR ob/obマウス(群当たりn=6)に対して投与したCDが、処理の開始の3か月後に始まる、アルブミン/クレアチニン比(平均±SD)における低下をもたらした。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。(b)腎臓重量(平均±SD)は、ホモ接合体マウスにおいて有意に増加し(***p<0.001)、また、そのような増加は、CD処理によって予防された(##p<0.01)。(c)ホモ接合体およびヘテロ接合体BTBR ob/obマウスの腎臓皮質におけるABCA1 mRNA発現に対するCDの効果についての棒グラフによる分析(平均±SD)。(d)ホモ接合体およびヘテロ接合体BTBR ob/obマウスの腎臓皮質における総コレステロール含有量に対するCDの効果の棒グラフによる分析(平均±SD)。(e、f)血清BUNおよびクレアチニン濃度が、マウスのCD処理の後に変わらないことを示す棒グラフによる分析(平均±SD)。測定は、屠殺時にマウスから得られた血清に対して実行した。(g)CDまたはビヒクルによる処理の5か月後のホモ接合体およびヘテロ接合体BTBR ob/obマウス由来の腎臓切片の代表的なPAS染色。(h、i)CDまたはビヒクルによる処理の5か月後のホモ接合体およびヘテロ接合体BTBR ob/obマウスのPAS染色腎臓切片についての糸球体間質の拡大のスコア(h)および糸球体の表面積(i)棒グラフによる分析(平均±SD)は、2人の盲検の独立した調査者によって評価した。* DKD+対Cを比較した場合の、p<0.05。# CD処理対未処理マウスを比較した場合の、p<0.05。
【0097】
図3(a)〜(i)において、結果により、コレステロール蓄積が、DKD+血清に対して曝露された有足細胞において起こることが示される。(a)CおよびDKD−血清と比較した場合の、DKD+血清に対して曝露された有足細胞の代表的なオイルレッドO染色。黒色矢印は、主な脂肪滴蓄積のスポットを示す。(b)CおよびDKD−と比較した場合の、DKD+血清に対して曝露された有足細胞の代表的なフィリピン染色(オレンジ)およびリン酸化カベオリン染色(緑色)。(c)DKD−およびDKD+血清に対する曝露の両方が、培養ヒト有足細胞における有意な脂肪滴蓄積を引き起こすことを実証する、DKD−、DKD+を有する10人の患者由来の血清のプールに対してまたはコントロール由来の血清のプールに対して曝露された有足細胞におけるオイルレッドOポジティブ細胞の棒グラフによる定量分析(平均±SD)。*p<0.05、***p<0.001。(d、e、f)CおよびDKD−と比較した場合に、DKD+血清のプールに対して曝露された有足細胞における酵素反応を介して決定される、総コレステロール(Tot C)、遊離コレステロール(Free C)、およびコレステロールエステル(Est C)の棒グラフによる分析(平均±SD)。p<0.05。(g、h、i)個々の患者血清に対して曝露された有足細胞における、LDL受容体、HMG−CoAレダクターゼ、およびABCA1発現についての定量的RT PCR分析(平均±SD)。***p<0.001。(j)32人の生体ドナーと比較した場合の、初期のDKDを有する70人の患者、膜性腎症(MN)を有する21人の患者、および巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)を有する18人の患者における脂質関連性の遺伝子の糸球体遺伝子発現の転写分析。数字は、生体ドナーと比較した場合の、疾患における倍数変化を表す。
【0098】
図4パネル(a)〜(f)は、CDが、DKD+血清に対する曝露の後に観察される変化から有足細胞を防御することを示す図である。(a)CDの存在(CD)または非存在(コントロール)下における、CおよびDKD−血清と比較した場合の、DKD+血清に対して曝露された正常ヒト有足細胞の代表的なファロイジン(赤色)およびリン酸化カベオリン(緑色)共焦点画像。DAPI(青色)は、核を同定するために使用した。(b、c)CおよびDKD−血清と比較した場合の、DKD+血清に対して曝露されたCD処理(+)対未処理(−)有足細胞における、総コレステロール(B)およびコレステロールエステル(C)に対するCDの効果について棒グラフによる分析(平均±SD)。* DKD+対Cを比較した場合のp<0.05。# 同じ群におけるCD処理対未処理有足細胞を比較した場合のp<0.05。(d、e、f)CおよびDKD−血清と比較した場合の、DKD+血清に対して曝露されたCD処理(+)対未処理(−)有足細胞における切断カスパーゼ3、インスリン刺激AKTリン酸化、およびMyD88発現についての棒グラフによる分析(平均±SD)。DKD+対Cを比較した場合の*p<0.05および**p<0.01。# 同じ群におけるCD処理対未処理有足細胞を比較した場合のp<0.05。
【0099】
図5パネル(a)〜(f)は、スフィンゴ脂質関連性の酵素、つまりSMPDL3bの発現が、腎臓などのような標的器官において糖尿病において増加し、脂質依存性の損傷を引き起こすことを示す図である。(a)32人の生体ドナーと比較した場合の、DKDを有する12人の患者におけるSMPDL3bの糸球体遺伝子発現についての転写分析。数字は、生体ドナーと比較した場合の、疾患における倍数変化を表す。* p<0.05。(b)健康なコントロール(C)またはDKDを有する(DKD+)年齢および性別が一致する糖尿病患者またはDKDを有していない(が、同じ糖尿病持続期間および血漿脂質プロファイルを有する)糖尿病患者由来の血清の存在下において培養した正常ヒト有足細胞におけるSMPDL3bタンパク質発現についての代表的なウェスタンブロットおよび相対的棒グラフ分析。p<0.05。(c、d)通常の培地(コントロール)またはTNFαを補足した培地において培養した正常ヒト有足細胞におけるならびにSMPDL3bを過剰発現する有足細胞(SMPDL3b OE)における代表的なオイルレッドO染色ならびにオイルレッドO、コレステロール、トリグリセリド、およびリン脂質についての棒グラフ分析。* コントロールに対してTNFa処理またはSMPDL3b OEを比較した場合のp<0.05。### SMPDL3b OE対空ベクター(EV)コントロールにおけるオイルレッドO染色を比較した場合のp,0.001。(□)SMPDL3bを発現停止させた細胞(SMPDL3b KD)において予防された現象である、DKD+血清に対して曝露された正常ヒト有足細胞におけるアクチン細胞骨格リモデリングを実証する代表的なファロイジン染色。(f)SMPDL3b KDヒト有足細胞が、DKD+血清に対する曝露の後に観察されるRhoA発現の増加に対して抵抗性であることを実証する代表的なウェスタンブロットおよび棒グラフによる分析。* p<0.05。
【0100】
結論
強力なコレステロール受容体である2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(2−HPβCD)は、インビボおよびインビトロにおいて、コレステロールを捕捉し、かつ、コレステロール依存性の損傷から糖尿病、糖尿病前症、メタボリックシンドローム、および肥満によって冒される任意の細胞を防御するのに有効な方法である。
【0101】
関連する発明が、本明細書における本開示の精神の範囲内にあることが認識される。また、発明者らを本請求項または本開示に限定するよう意図される手抜かりは、本出願にない。本発明のある好ましいおよび代替の実施形態は、本発明を開示する目的のために記載されたが、開示される実施形態に対する修飾を、当業者らが考えついてもよい。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5