(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491103
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】新生児スクリーニングにおけるガラクトース血症の診断方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/66 20060101AFI20190318BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20190318BHJP
G01N 27/62 20060101ALI20190318BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
G01N33/66 Z
G01N30/06 E
G01N27/62 V
G01N33/48 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-544362(P2015-544362)
(86)(22)【出願日】2013年11月28日
(65)【公表番号】特表2016-509197(P2016-509197A)
(43)【公表日】2016年3月24日
(86)【国際出願番号】DK2013000084
(87)【国際公開番号】WO2014086361
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2016年11月14日
(31)【優先権主張番号】PA201200767
(32)【優先日】2012年12月3日
(33)【優先権主張国】DK
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507006422
【氏名又は名称】スタテンス セールム インスティトゥート
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】コーエン,アリー シエラ
【審査官】
赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−505277(JP,A)
【文献】
特表平11−501901(JP,A)
【文献】
特開2009−145169(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0228704(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0274563(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
G01N 27/62
G01N 30/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
妨害ヘキソース一リン酸のカルボニル基を酸化、還元、またはアミンとの反応により修飾することにより、新生児からの初期血液サンプル中のGAL−1−P濃度を決定する方法であって、前記新生児からのサンプルが、前記新生児の出生の5日後よりも早く採取されることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記カルボニル基の前記還元が、前記サンプルにホウ水素化ナトリウムを添加することにより達成されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記カルボニル基の前記酸化が、前記サンプルと、硝酸、トレンス剤、またはフェーリング剤と、を反応させることにより達成されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記サンプルをヒドラジンと反応させることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、前記ヒドラジンが、N2H4、モノメチルヒドラジン、1,1−ジメチルヒドラジン、1,2−ジメチルヒドラジン、イソニアジド、イプロニアジド、ヒドララジン、フェネルジン、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン、またはフェニルヒドラジンから選択されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記血液サンプル中の前記GAL−1−P濃度が質量分析により測定されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生後5〜7日未満に新生児から採取された血液サンプル中のGAL−1−P濃度を決定することによるガラクトース血症の診断方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
ガラクトース血症は、命にかかわる先天性代謝異常である。それは、ガラクトース−1−リン酸ウリジルトランスフェラーゼ(GALT)酵素の欠損により引き起こされる。GALTは、ガラクトースの代謝に重要であり、ガラクトース−1−リン酸(GAL−1−P)をグルコース−6−リン酸(GLC−6−P)に変換する重要なステップを触媒する。ガラクトース血症の患者では、この変換が非常に少ないかまたは存在しないため、GAL−1−Pおよびその代謝物が有害レベルに達する。
【0003】
多くの国々では、ガラクトース血症のスクリーニングは、国家の新生児スクリーニングプログラムの一部である。現在、酵素活性試験(すなわちボイトラー試験)が、ガラクトース血症のスクリーニングに用いられる主要な方法である(Beutler E,Baluda MC.A simple spot screening test for galactosemia.J Lab Clin Med 1966;68:137−141)。ボイトラー試験の主要な利点は、代謝物濃度ではなく酵素活性を測定することである。その主要な欠点は、酵素活性が損なわれていないことを必要とすることである。酵素は、熱感受性であり、過度の熱により不活性になって、偽陽性をもたらす可能性がある。また、ボイトラー試験は、それ自体のサンプルを必要とする。それを他のスクリーニング試験と多重化することはできない。
【0004】
ガラクトース血症をスクリーニングする場合、バイオマーカーとして代謝物を使用することも可能である。質量分析を用いたバイオマーカーベースのガラクトース血症のスクリーニングは、国際公開第0210740号パンフレットにすでに記載されている。簡潔に述べると、疾患のバイオマーカーとして高いレベルのヘキソース一リン酸が使用される。これは、ガラクトース血症によりヘキソース一リン酸であるGAL−1−Pの高いレベルがもたらされるという事実に基づく。理想的には、スクリーニングは、GAL−1−Pのみに基づくべきである。しかしながら、質量分析(MS)では、異なるタイプのヘキソース一リン酸を区別することができない。それらを区別するために質量スペクトル決定前に液体クロマトグラフィーを使用することが可能であるが(LC−MS)、これは、高いサンプルスループットの要件に起因して新生児スクリーニングでは実用的でない。バイオマーカーとして全ヘキソース一リン酸を使用する論理的根拠は、ガラクトース血症の患者では、GAL−1−Pレベルが、すべての他のヘキソース一リン酸のレベルよりも高い状態になることにある。全ヘキソース一リン酸の異常濃度は、ガラクトース血症の明確な指標となる。この手法は、ガラクトース含有食品を摂取している患者を検出するのに有効である。母乳、牛乳、および乳ベース食品は、1,1−グルコシド結合により連結されたガラクトースおよびグルコース単位からなるラクトースを含有する。それは、消化管内でガラクトースとグルコースとに迅速に変換される。したがって、普通食の新生児は、高レベルのガラクトースに晒され、ガラクトース血症を有する場合、そのGAL−1−Pレベルは、劇的に増加するであろう。
【0005】
しかしながら、出生時、新生児には、いくつかのタイプのヘキソース一リン酸、主にGLC−6−Pが低レベルで存在する。GLC−6−Pの存在は、全ヘキソース一リン酸の測定時、バックグラウンドレベルの原因となり、結果的に、スクリーニング方法の特異性および感度に有害な影響を及ぼす。ヘキソース一リン酸方法を適正に機能させるために、GAL−1−Pのレベルは、陽性サンプルを検出できるようにGLC−6−Pのレベルを実質的に上回らなければならない。GAL−1−Pのレベルは、ガラクトース血症の患者では出生時に高いが、レベルは、ガラクトース含有食品の摂取の数日後に劇的に高くなるにすぎない。典型的には、出生の3〜5日後に定常状態が得られる。子供がサンプリング前に有意量のガラクトースを摂取している必要があるという事実は、スクリーニングの主要な欠点である。多くの国々では、新生児スクリーニングサンプルは、3〜5日未満に採取され、さらに、一部の新生児は、授乳問題を有しており、より後の時点で定常状態のレベルに達する。
【0006】
先に述べたように、GAL−1−Pレベルは、ガラクトース血症患者では出生時にすでに高い。GLC−6−Pの存在により形成されるバックグラウンドを除去できれば、新生児でガラクトース血症をスクリーニングすることが可能であろう。本発明は、GAL−1−Pに影響を及ぼすことなくGLC−6−Pを化学的に枯渇させることにより、サンプリング時点に関係なく、GAL−1−Pの質量分析測定を用いてガラクトース血症のスクリーニングを可能にする手段を提供する。さらなる利点は、MSによる新生児スクリーニングが多重化を可能にすることである。すなわち、1つのサンプルでいくつかのスクリーニング試験の組合せが可能である。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、GAL−1−Pレベルの分析をより特異的なものにする。妨害化合物の除去により、質量分析を用いたガラクトース血症の新生児スクリーニングにおいてGAL−1Pレベルのより特異的な、したがって、より正確な決定が可能になる。このことは、GAL−1Pの定常状態にまだ達していない子供(すなわち、生後5〜7日未満)からのサンプルを研究する場合、非常に重要である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、単糖の線形と環形との間の平衡を示す。
【
図2】
図2は、ガラクトースのカルボニル基の還元を示す。
【
図3】
図3は、ガラクトースのカルボニル基の酸化を示す。
【
図4】
図4は、アミンとガラクトースとの反応を示す。
【
図5】
図5は、GAL−1−Pに対する検量線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ヘキソース一リン酸のカルボニル基を修飾することにより、新生児からの初期血液サンプル中のGAL−1−P濃度を決定する方法を開示する。カルボニル基の修飾は、酸化、還元、またはアミンとの反応により行われる。
【0010】
カルボニル基の還元は、好ましくは、ホウ水素化ナトリウム(sodium borohydrate)をサンプルに添加することにより達成され、カルボニル基の酸化は、好ましくは、サンプルと硝酸またはトレンス剤またはフェーリング剤とを反応させることにより達成される。カルボニル基は、好ましくは、サンプル中のヘキソース一リン酸とヒドラジンとを反応させることにより修飾される。ヒドラジンは、N
2H
4、モノメチルヒドラジン、1,1−ジメチルヒドラジン、1,2−ジメチルヒドラジン、イソニアジド、イプロニアジド、ヒドララジン、フェネルジン、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン、またはフェニルヒドラジンから選択される、
【0011】
新生児からのサンプルは、通常、出生の3〜5日後に採取されるが、本方法によれば、サンプルは、出生直後に採取可能である。血液サンプル中のGAL−1−P濃度は、好ましくは、質量分析により測定される
【0012】
本発明は、1位が修飾されていないすべての糖の化学的枯渇に基づく。単糖は、線形と環形との間で平衡状態にある。この平衡は、5位のヒドロキシル基が1位と結合を形成して、糖がケト基の位置と1位との間に酸素架橋を形成する、アノマー化として知られるプロセスに基づく(
図1)。アルデヒド基は、後続的にヒドロキシル基を形成する。ケト基の酸素は、ヒドロキシル基として存在する炭水化物の他の酸素よりもかなり反応性が高いため、線形では、糖は、はるかに反応性が高い。官能基を糖の1位に付加した場合(1位修飾)、もはや線形に変換できなくなり、環形にロックされる。糖が環形にロックされた場合、もはやケト反応性を持たなくなる。
【0013】
本発明では、主にアルデヒドおよびケトンと反応するがヒドロキシル基と反応しない試薬を分析前にサンプルと反応させる。1位が修飾されていない糖はすべて、反応して他の化合物を形成するであろう。
【0014】
これにより、GAL−1−Pのレベルに影響を及ぼすことなく、GLC−6−Pを枯渇させることが可能である。このことは、GLC−6−Pが反応後にもはやサンプル中に存在しないであろうことを意味する。したがって、1位修飾されたヘキソース一リン酸のみが、全ヘキソース一リン酸の測定に寄与するであろう。本発明は、1位が修飾されている糖のカルボニル(すなわち、アルデヒド基またはケト基)基が化学反応から保護されるという事実を利用する。使用される化学反応は、ヒドロキシル基の酸素に影響を及ぼすことなく、カルボニル基を標的とする。利用可能ないくつかの周知の化学反応が存在する。それらは、一般的には、次のクラス、すなわち、当業者には周知であろうカルボニル基の還元もしくは酸化またはアミンとの反応に分類される。
【0015】
カルボニル基の還元、たとえば、ホウ水素化ナトリウム還元。NaBH4は、多くの有機カルボニルを還元して、ケトンおよびアルデヒドをアルコールに変換するであろう。金属水素化物還元ならびにアルデヒドおよびケトンへの有機金属付加はいずれも、カルボニル炭素の酸化状態を減少させるため、還元として分類されうる。よく知られているように、それらは、求電子炭素への強求核種の攻撃により進行する。カルボニル化合物からアルコールまたは炭化水素のいずれかへの他の有用な還元が、異なる機構により起こりうる。たとえば、水素化(Pt、Pd、Ni、またはRu触媒)、ジボランとの反応、およびヒドロキシル溶媒中またはアミン溶媒中でのリチウム、ナトリウム、またはカリウムによる還元はすべて、カルボニル化合物をアルコールに変換することが報告されてきた。しかしながら、高収率でより清浄な生成物が得られることから、一般的には、複合金属水素化物がそのような変換に好適である。
【0016】
カルボニル基の酸化、たとえば、硝酸、トレンス試薬、またはフェーリング試薬。カルボニル基の炭素原子は、比較的高い酸化状態を有する。このことは、これまでに記載された反応のほとんどが、酸化状態の変化を引き起こさないか(たとえば、アセタールおよびイミンの形成)、または還元を行うか(たとえば、有機金属付加および脱酸素化)のいずれかであるという事実に現れる。最も一般的かつ特徴的な酸化反応は、アルデヒドからカルボン酸への変換である。好ましい酸化剤は、酸化剤としてのAg(+)およびCu(2+)である。
【0017】
アミンとの反応、たとえば、シッフ塩基の形成またはヒドラジンとの反応。アルデヒドおよびケトンとアンモニアまたは第1級アミンとの反応は、シッフ塩基(C=N官能基を有する化合物)としても知られるイミン誘導体を形成する。糖の1位のカルボニル基(すなわち、アルデヒド基またはケト基)を修飾するのに好ましいアミンは、ヒドラジン(N
2H
4)であるが、任意のヒドラジン誘導体を使用することが可能である。多くの置換ヒドラジンが公知であり、いくつかは天然に存在する。いくつかの例としては、以下のものが挙げられる。
・ヒドラジン分子上の水素原子の1つがメチル基(CH3)で置換されたモノメチルヒドラジン。ヒドラジン分子の対称性により、どの水素原子が置換されたかは問題とならない。
・1,1−ジメチルヒドラジン(非対称ジメチルヒドラジン、UDMH)および1,2−ジメチルヒドラジン(対称ジメチルヒドラジン)は、2個の水素原子がメチル基で置換されたヒドラジンである。
・イソニアジド、イプロニアジド、ヒドララジン、およびフェネルジンは、分子がヒドラジン様構造を含有する化合物である。
・2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(2,4−DNPH)は、通常、有機化学および臨床化学でケトンおよびアルデヒドの試験に使用される。
・最初に発見されたヒドラジンであるフェニルヒドラジン(C6H5NHNH2)。
【0018】
これらの反応は、さまざま分子質量を有する化合物を生成するため、質量分析で容易に識別可能である。これにより、ガラクトース暴露に依存せずに、GAL−1−Pの高いレベルを決定することが可能になる。タンデム質量分析は、広範にわたる化合物を単一サンプルで同時に分析可能であるという事実に基づいて、新生児スクリーニングで広く使用される。これにより、単一の分析でいくつかの疾患をスクリーニングすることが可能になる。スクリーニングに導入される化学反応はいずれも、好ましくは、他のアナライトの分析を妨害してはならない。これを達成するために、本発明者らは、ヒドラジンを使用することを選択したが、ガラクトース血症のスクリーニング自体を改良するために、任意のカルボニル特異的試薬を使用することが可能であった。
【0019】
新生児スクリーニングでは、チロシン血症のスクリーニングを可能にすべく、ヒドラジンが広く使用される。この場合、ヒドラジンは、質量分析により決定できるように、タンパク質に結合したスクシニルアセトンを放出させるべく使用される。この手法の根拠は、チロシン血症では、過剰なスクシニルアセトンが生成されることにある。スクシニルアセトンの高い血中レベルは、チロシン血症の魅力的なバイオマーカーであろうが、スクシニルアセトンは、血液中に多量に存在するタンパク質と急速に反応する。スクシニルアセトンは、タンパク質と共有結合を形成する。ヒドラジンは、タンパク質との結合を破壊することによりスクシニルアセトンを放出するように反応する。このようにして、スクシニルアセトンは、タンパク質に対する反応性があるにもかかわらず、バイオマーカーとして使用可能である。こうしたヒドラジンの使用は、本発明者らがガラクトース血症のスクリーニングで利用するものとは基本的に異なる。本発明者らは、妨害化合物のレベルを低下させるべくヒドラジンを使用するが、チロシン血症のスクリーニングにおけるヒドラジンの機能は、バイオマーカーのレベルを増加させることである。
【0020】
ヒドラジンは、新生児スクリーニングで利用される他のバイオマーカーを妨害しないことが知られている。したがって、ヒドラジンは、他の新生児スクリーニングアナライトを妨害することなく本方法の感度および選択率を向上させるため、ガラクトース血症のスクリーニングの魅力的な試薬である。
【0021】
タンデム質量分析では、最初に、質量電荷比に従ってアナライトが選択される。それらは、後続的にフラグメント化されて、特定のフラグメントが検出される。質量電荷比とフラグメント質量との組合せは、トランジションとして知られる。トランジションの使用により、2つの化学的性質、分子質量、および断片化パターンに基づいて、化合物の特異的決定が可能である。ヘキソース一リン酸はすべて、同様に同一の質量およびフラグメントを有するため、質量分析のみで異なるヘキソース一リン酸(HMP)を区別することはできない。オンライン液体クロマトグラフィーを用いて、質量分析前にHMPを分離することが可能である。こうして、種々のHMPを区別することが可能である。しかしながら、これは、時間がかかり、新生児スクリーニングでは実用的でない。1位が修飾されていないすべてのHMP(最も重要にはGLC−6P)を化学的に枯渇させると、クロマトグラフィーを必要とすることなく本方法の特異性が増加する。
【0022】
本発明によれば、ガラクトースへの暴露レベルにかかわらず、疾患のバイオマーカーとして代謝物GAL−1−Pを用いて、質量分析によりガラクトース血症のスクリーンが可能である。ガラクトース血症の患者では、GAL−1−Pレベルは高い。しかしながら、GAL−1−PのレベルがGLC−6−Pのレベルを十分に上回るのは、ガラクトースに暴露した後にすぎない。HMPはすべて、同様に同一の質量およびフラグメントを有する(すなわち、同一のトランジションを有する)。したがって、GLC−6Pは、ガラクトースへの暴露前に存在する軽度の上昇をマスキングするバックグラウンドを提供する。主要なガラクトース源は、乳および乳製品中に高濃度で存在するラクトースである。ラクトースは、摂取時、迅速にグルコースとガラクトースとに変換される。ガラクトース血症患者は、一般的には、ガラクトースへの暴露の3〜5日後にGAL−1Pの定常状態に達する。したがって、GLC−6Pをサンプルから除去しないかぎり、GAL−1Pを用いたガラクトース血症の質量分析スクリーニングは、5日後に採取されたサンプルを用いた場合にのみ実現可能であるにすぎない。多くのスクリーニングプログラムでは、この時間の前にサンプルが採取される。また、ガラクトースに暴露されなかった子供(たとえば、グルコース点滴による供給、乳に対するアレルギー)は、スクリーニングできない。
【0023】
1位が修飾されていないすべてのHMPと反応する試薬を添加することにより、他のHMPに起因するバックグラウンドシグナルは、除去される。化学反応により、化合物の質量に変化を生じるとともに、どのようにフラグメント化するかも変化する。このことは、HMPに用いられるトランジション中に、もはやシグナルを提供しないであろうことを意味する。これにより、ガラクトース暴露に関係なく、したがってサンプリング時点に関係なく、ガラクトース血症をスクリーニングすることが可能になる。
【実施例】
【0024】
実施例1:
サンプル
使用するサンプルは、濾紙上の乾燥血液スポット(DBS)である。血清、血漿、または全血のサンプルを使用することも可能である。使用した陽性は、デンマーク新生児スクリーニングサンプルのバイオバンクDBSであり、バイオバンク中に含有されるガラクトース血症のすべての公知の症例を代表する。新生児スクリーニングサンプルは、2008年末まで6〜7日目に採取された。2009年、サンプリング日は、出生の48〜72時間後に変更された。幸運にも、サンプルのうちの3つは、より初期のサンプリング時点で採取される十分に新しいものである(表1中に「*」が付されている)。ガラクトース血症に関してヘテロ接合体、ガラクトース血症に関してホモ接合体、およびガラクトース血症に関して陰性であることが知られている患者からのDBSを分析した。陰性のDBSは、正常サンプルおよび他の障害の患者からのサンプルの両方であった。
【0025】
標準
57.1mmol/LのGAL−1Pを含有するGAL−1P標準の標準溶液を生理食塩水溶液(水中の0.9g/LのNaCl)中に調製した。その溶液をキャリブレーターの調製に使用した。
【0026】
キャリブレーター
EDTAを含有する10mLベノジェクトチューブ中に血液を採取する。GALT活性を低減するために血液を冷却する。280μLの標準を1720μLの冷却血液に添加して、8mmol/LのGAL−1Pの最終濃度を提供する。一連の1対1希釈を行って、4、2、1、0.5、0.25、0.125、および0.0625mmol/LのGAL−1Pを含有する血液を得る。各75μlを標準新生児スクリーニング濾紙上にピペット添加する。ガラクトース血症新生児に通常見いだされる範囲さらには正常新生児に見いだされる範囲をカバーするように、キャリブレーターの濃度範囲を選択した。キャリブレーターを室温で一晩乾燥させる。乾燥後、サンプルを4Cで貯蔵した。
【0027】
抽出緩衝液
2つの異なる抽出緩衝液、すなわち、ヒドラジンを含むものおよび含まないものを調製した。抽出緩衝液は両方とも、80%のメタノールと20%の水とからなり、1.3mmol/Lの
13C
6−Gal−1Pを含有する。他のメタノール−水の比を使用することが可能であった。また、アセトニトリル−水さらにはいくつかの他の溶媒系を使用することも可能であった。1〜30mmol/Lの範囲内の濃度を使用することが可能である。ヒドラジンを試薬として使用するため、正確な濃度は、それほど重要ではなく、過剰量を使用することのみが重要である。
【0028】
抽出
直径3.2mmのディスクをDBSから打ち抜いて、マイクロタイタープレートのウェル内に入れる。100μLの抽出緩衝液を各ウェルに添加する。抽出緩衝液の厳密な量は、重要ではないが、同一量の内部標準を1組の各サンプルに添加することは、きわめて重要である。このことは、同一量の抽出緩衝液をすべてのウェルに添加することにより、最も容易に保証される。抽出時、サンプルを室温で穏やかに振盪させる。抽出後、抽出物を新しいプレートに移す。プレートを40〜50℃で少なくとも45分間インキュベートし、ヒドラジン反応を行わせる。この時点で、抽出物は、分析の準備ができている。この実施例では、再現性のある結果が保証されるように、すべてのサンプルを2回打ち抜いた。1組のサンプルは、ヒドラジンを含む抽出緩衝液で抽出し、1組のサンプルは、ヒドラジンを含まない抽出緩衝液で抽出した。これにより、ヒドラジンの影響を観測することが可能になる。
【0029】
分析
1525μLCポンプおよび2777Cオートサンプラーを備えたWater Quattroマイクロ三連四重極質量分析計でサンプルを分析した。ESIイオン化プローブを用いてフローインジェクション分析モードでシステムを操作した。30μLのサンプルを注入した。任意の体積の抽出物を注入することが可能であった 次のトランジション、すなわち、Gal−1Pに対して295.1/79.1および
13C
6−Gal−1Pに対して265.1/79.1をモニターした。
【0030】
結果
検量線は、
図5に示されるように、全濃度範囲にわたり直線状であった。Gal−1Pヘテロ接合体での平均濃度は、ヒドラジンを用いないときは3.0およびヒドラジンを用いたときは3.5であった。Gal−1Pホモ接合体での平均濃度は、ヒドラジンを用いないときは1.4およびヒドラジンを用いたときは1.5であった。Gal−1P陰性での平均濃度は、ヒドラジンを用いないときは0.19およびヒドラジンを用いたときは0.01であった。ヒドラジンの添加により、陽性のレベルに影響を及ぼすことなく、陰性サンプルの測定でHMPのレベルが低下することは、かなり明らかである。
【0031】
国際公開第0210740号パンフレットでは、正常サンプルおよび他の疾患を有する患者からのサンプルのHMPのメジアン濃度は、<0.10〜0.94)の範囲内であることが見いだされた。ガラクトース血症患者からのサンプルは、2.6〜5.2nmol/Lの範囲内であることが見いだされた。これらのサンプルもまた、デンマーク新生児スクリーニングバイオバンクから得たものであった。しかしながら、国際公開第0210740号パンフレットで使用されたサンプルはすべて、サンプリング時点が5〜7日であった。したがって、ガラクトース血症患者からのサンプルはすべて、定常状態のレベルを含有するはずである。本発明者らは、ヒドラジン処理を用いなかったとき、ガラクトース血症に関して陰性である患者からのサンプルでのレベルが、同等であることを見いだしている。ヒドラジン処理を用いた場合、非ガラクトース血症患者からのサンプル中のHMPのレベルは、劇的に低下し、<0.1nmol/Lである。このことは、2〜3日で採取された陽性サンプルの1つでは、非常に重要である。サンプルY38421は、0.59nmol/L(ヒドラジン処理を用いたときは0.56nmol/L)のHMP濃度を有する。ヒドラジン処理を用いなかったときは、このサンプルは、十分に正常範囲内にあり、正常サンプルと区別することはできないであろう。このため、ヒドラジンを用いずにタンデムMSを使用してサンプルをスクリーニングした場合、偽陰性になるおそれがある。実際に、より後のサンプリング日を有する3つのサンプル、すなわち、PK93−1820225、PK96−1900262、およびPK98−1610299は、誤って分類されるおそれがある。それらはすべて、0.94nmol/L未満であるため、ヒドラジンを用いない場合、HMPの正常範囲内に入る。ヒドラジンを用いてGAL−1P以外の他のHMP化合物を枯渇させることにより、これらのサンプルを陽性として区別することが可能である。ヒドラジン処理を用いなかったとき、陰性サンプルの1つ(10DEC18R065)が2.0nmol/LのHMP濃度を有していたため、正常な範囲を優に超えるとみなされるおそれがあることもまた、興味深い。ヒドラジン処理の後、このサンプルは、測定不能なレベルのHMPを有する。この場合、サンプルは、ヒドラジン処理を用いなかったときは偽陽性になるおそれがあり、ヒドラジン処理を用いたときは適正に陰性と指定される。
