【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はこのように、ガラス材料の可視範囲における耐久性のある反射防止処理の方法であって、該方法が、電子サイクロトロン共鳴(ECR)源によって発生される気体の1価及び多価イオンのビームによる照射によって構成され、前記ガラス材料の処理の温度はガラス転移温度以下であり、気体の前記1価及び多価イオンの、単位表面積あたりの注入量は、前記注入された層の屈折率nが、(n1*n2)
1/2(n1は空気の指数でありn2はガラスの指数である)と略等しくなるような、気体の1価及び多価イオンの原子濃度が得られるように、10
12個/cm
2から10
18個/cm
2までの範囲内で選択され;加速電圧は、p*λ/4*nと等しい注入厚さt(tは、注入された気体の1価及び多価イオンの原子濃度が1%以上である注入領域に対応する注入厚さ、pは整数、λは入射波長、nは注入された層の指数)が得られるように、5kVから1000kVまでの範囲内で選択される、方法を提供する。
【0012】
本発明者らは、電子サイクロトロン共鳴(ECR)源によって発生される気体の1価及び多価イオンのビームによる照射を含む、可視範囲における耐久性のある反射防止処理方法が、気体の1価イオンのビームによる照射を含む方法よりも効果的であることを確認することができた。
【0013】
一の実施形態によれば、気体の1価及び多価イオンの前記ビームは、10%の多価イオン、又は10%よりも多くの多価イオンを含む。
【0014】
一の実施形態によれば、前記イオンビームの気体の前記1価及び多価イオンは、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)及びキセノン(Xe)からなる希ガス群の元素のイオンから選択される。
【0015】
別の実施形態によれば、前記イオンビームの気体の前記1価及び多価イオンは、窒素(N
2)及び酸素(O
2)からなる群の気体のイオンから選択される。
【0016】
気体の1価及び多価イオンの単位表面積あたりの注入量は、前記注入された層の屈折率nが、(n1*n2)
1/2(n1は空気の指数でありn2はガラスの指数である)と略等しくなるような、気体の1価及び多価イオンの原子濃度が得られるように、10
12個/cm
2から10
18個/cm
2までの範囲内で選択され、注入された層の屈折率は、ジオプターによって離間された媒体の指数の積の平方根に略等しい値に向かって低下される。これは、以下の式に反映される:n=(n1*n2)
1/2(式中、n1は空気の指数(n1=1)でありn2はガラスの指数);ソーダ石灰ガラスの場合(n2=1.54)、注入された層の指数(n)は1.24に略等しい必要がある。
【0017】
本発明者らは、計算によって、注入されたイオンの原子濃度と観察された光学指数の低下との間に比例関係が存在するはずだと推定する。そしてこの関係はおよそ以下のようになる:
N=n1*x1+n2*x2 ここでx1+x2=1
式中x1は注入された層内のシリコン(ガラスを構成する原子の大部分を占める)平均原子濃度に対応し、x2は注入された層内に存在するイオンの平均原子濃度に対応する。
これは以下のように表すこともできる:
N=n1+(n2−n1)*x2
指数n=1.24に近づけるためには、この式に基づいて、約50%のイオン(x2=0.5)を注入する必要があるだろう。
【0018】
本発明者らによる実験結果は、結果(すなわち、イオンの原子濃度約10%)を得るために必要とされるイオンの数が5分の1であることを示す。
これは、以下の経験式で表される:
N=n1+(n2−n1)*5*x2
【0019】
詳細には述べないが、理論と実験との間のこの差は、気体で満たされたナノ空洞の形成に加えて起きる、隙間の形成と凝集が、媒体の密度を低下させ、実際には屈折率を低下させることによって説明され得る。
【0020】
一の実施形態によれば、(n1*n2)
1/2にきわめて近い屈折率(n)を得るために、本発明の方法では、気体の約10%という最高の原子濃度を達成することが推奨される。
【0021】
注入された層の屈折率の4倍によって割られた入射波長の整数倍に対応する注入厚さを得るため、気体の1価及び多価イオンの加速電圧は、したがって、5kV(キロボルト)から1000kV(キロボルト)の間で選択される。以下においては、注入厚さとは、イオンの原子濃度が1%以上である注入領域を指す。
これは次の式によって表される:
t=p*λ/4*n 式中tは注入厚さ、pは整数、λは入射波長、nは注入された層の指数((n1*n2)
1/2に等しい)。
【0022】
可視範囲を示す黄色の単色波(560nmに等しい波長)では、注入厚さはp*(560/4*1.24)(式中pは整数)、すなわちp*100nmにおおよそ等しくなくてはならない。p=1の場合、注入厚さは100nmに等しく、p=2の場合、注入厚さは200nmに等しい。
【0023】
本発明の方法によって推奨される処理は、入射波の反射係数の50%以上、実際には90%以上もの低下をもたらす。これは、n1=1(空気)及びn=(n2)
1/2である本発明の方法を採用することによって、また、式R
m=(n
2−n2)
2/(n
2+n2)
2によって最低反射係数R
mを算出することによって、パラメータを調整すればR
mが理想的な値0、すなわち無反射、に近づくと予測されるからである。
【0024】
比較として、フッ化マグネシウム(MgF
2)を蒸着した層の指数は1.35(1.24よりわずかに高い)である。MgF
2蒸着による別の反射防止処理は、反射係数を4%から1.2%へと低下させる、すなわち反射係数を60%低下させる。
【0025】
一の実施形態によれば、ガラス材料は、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、及びキセノン(Xe)からなる元素群に属する重希ガスイオンとして知られる気体の1価及び多価イオンで処理されるこの処理の目的は、気体の1価及び多価の希ガスイオンがガラスの密度を低下させる効果を有する領域を作成することである。この層は、下層にある正常なガラスのそれよりも低い屈折率を特徴とする。
【0026】
本発明による気体の1価及び多価イオンの選択、ならびにこれら気体の1価及び多価イオンによる照射の条件の選択は、反射係数の低下と透過係数の向上とによって表されるガラス材料の屈折率の低下を有利に実現することを可能にする。これらの性質は、例えば光電池の性能向上、又は平板状タッチスクリーンの反射軽減のために非常に重要である。
【0027】
本発明者らは、加速電圧と、気体の1価及び多価イオンの単位表面積あたりの注入量とに関して本発明によって選択された範囲が、気体の1価及び多価イオンの照射によって反射の低減(すなわち反射係数の低下)が可能となるような実験条件の選択を可能にすることを確認できた。
【0028】
更に、本発明者らは、本発明による方法が低温、具体的には室温、で実行可能であることと、該方法の遂行中、ガラス材料の温度がその転移温度以下に保たれるのが望ましいことを確認できた。そのため、ガラス材料がその本体内で、その機械的性質に悪影響を及ぼす結晶学的変化を起こすことを有利に防止できる。
【0029】
気体の1価及び多価イオンの単位表面積あたりの注入量の、本発明による注入量範囲内での選択は、想定されるガラス材料からなる試料が、例えばHe、Ne、Ar、Kr、Xe、N
2、又はO
2といった気体の1価及び多価イオンのうちの一つによって照射される、先行するキャリブレーション段階によって行われてよい。このガラス材料の照射は、材料の様々な領域において、気体の1価及び多価イオンの、本発明による範囲内における複数の注入量で行われてよい。その後、処理済みの領域は、処理済みの表面における多かれ少なかれ目立った反射に応じた適切な注入量を選択するために、観察される。
【0030】
処理済みの領域のこのような観察は、例えば反射光(例えばネオン管)の入射角10°での裸眼による観察といった単純な観察技術、もしくは干渉分光法のようなより複雑な技術によって行うことができる。
【0031】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、注入厚さの屈折率の低下というこの現象は、屈折率が1にきわめて近い注入された気体で満たされた「ナノ空洞」の出現によって説明可能であると考えられる。これは、気体の1価及び多価イオンが化学的に不活性であり、特定の原子濃度閾値未満(1%未満と推定される)でガラス内に溶解されるためである。この濃度閾値を上回った途端に、気体で満たされたナノ空洞が形成され、注入された層の指数の低下につながる。
【0032】
組み合わせられ得る別の実施形態によれば:
・気体の1価及び多価イオンの単位表面積あたりの注入量は10
15個/cm
2以上、例えば10
16個/cm
2以上である;
・気体の1価及び多価イオンの加速電圧は5kVから200kVの間である;
・気体の1価及び多価イオンのビームは10%の多価イオン、又は10%よりも多くの多価イオンを含む;
・加速電圧は、p*100nm(pは整数)に等しい注入厚さが得られるように選択される;
・気体の1価及び多価イオンの、単位表面積あたりの注入量は、注入されるイオンの原子濃度が10%(±5%の不確実性)に等しくなるように選択される;一の実施形態によれば、気体の1価及び多価イオンの、単位表面積あたりの注入量の選択と、加速電圧の選択とは、あらかじめ行われる計算によって行われ、該計算が、注入されるイオンの原子濃度を10%(±5%の不確実性)に等しくするための気体の1価及び多価イオンの単位表面積あたりの注入量を、注入深さに応じた選択されたイオンの注入プロファイルから評価することを可能にする;
・ガラス材料が、気体の1価及び多価イオンのビームに対して、0.1mm/sと1000mm/sとの間である速度V
Dで移動可能である;一の実施形態によれば、ガラス材料の同一領域が、気体の1価及び多価イオンの前記ビームの下方で、N(複数)回にわたり、速度V
Dで移動される。
【0033】
本発明によれば、気体の1価及び多価イオンは、コンパクトかつエネルギー消費が少ないという利点のある電子サイクロトロン共鳴(ECR)源によって発生される。
【0034】
本発明は更に、上記の実施形態のいずれかによる処理方法でイオンが注入された面を1以上含み、可視範囲における入射波の反射が半分未満に低減されるガラス部品をも対象とする。
【0035】
本発明は更に、タッチスクリーン、眼鏡レンズ、光学装置のレンズ、建築物の窓、及び光ファイバーからなる群から選択されるバルクガラス部品を処理するための、上記の実施形態のいずれかによる処理方法の利用をも対象とする。