特許第6491111号(P6491111)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ケルテックの特許一覧

特許6491111反射防止ガラス材料を製造するための気体の1価又は多価イオンのビームによる処理方法
<>
  • 特許6491111-反射防止ガラス材料を製造するための気体の1価又は多価イオンのビームによる処理方法 図000007
  • 特許6491111-反射防止ガラス材料を製造するための気体の1価又は多価イオンのビームによる処理方法 図000008
  • 特許6491111-反射防止ガラス材料を製造するための気体の1価又は多価イオンのビームによる処理方法 図000009
  • 特許6491111-反射防止ガラス材料を製造するための気体の1価又は多価イオンのビームによる処理方法 図000010
  • 特許6491111-反射防止ガラス材料を製造するための気体の1価又は多価イオンのビームによる処理方法 図000011
  • 特許6491111-反射防止ガラス材料を製造するための気体の1価又は多価イオンのビームによる処理方法 図000012
  • 特許6491111-反射防止ガラス材料を製造するための気体の1価又は多価イオンのビームによる処理方法 図000013
  • 特許6491111-反射防止ガラス材料を製造するための気体の1価又は多価イオンのビームによる処理方法 図000014
  • 特許6491111-反射防止ガラス材料を製造するための気体の1価又は多価イオンのビームによる処理方法 図000015
  • 特許6491111-反射防止ガラス材料を製造するための気体の1価又は多価イオンのビームによる処理方法 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491111
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】反射防止ガラス材料を製造するための気体の1価又は多価イオンのビームによる処理方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 23/00 20060101AFI20190318BHJP
【FI】
   C03C23/00 D
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-557498(P2015-557498)
(86)(22)【出願日】2014年2月12日
(65)【公表番号】特表2016-511736(P2016-511736A)
(43)【公表日】2016年4月21日
(86)【国際出願番号】FR2014050272
(87)【国際公開番号】WO2014125211
(87)【国際公開日】20140821
【審査請求日】2017年1月24日
(31)【優先権主張番号】1300336
(32)【優先日】2013年2月15日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】515219425
【氏名又は名称】ケルテック
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】ブサルド デニス
(72)【発明者】
【氏名】ゲルナレ フレデリック
【審査官】 和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−092691(JP,A)
【文献】 特開平06−100334(JP,A)
【文献】 特開平01−167262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス材料の可視範囲における耐久性のある反射防止処理の方法であって、
前記方法が、電子サイクロトロン共鳴(ECR)源によって発生される気体の1価及び多価イオンのビームによる照射によって構成され、
前記ガラス材料の処理の温度はガラス転移温度以下であり、
気体の前記1価及び多価イオンの、単位表面積あたりの注入量は、前記注入された層の屈折率nが、(n1*n2)1/2(n1は空気の屈折率でありn2はガラスの屈折率である)と略等しくなるような、気体の1価及び多価イオンの原子濃度が得られるように、1012個/cmから1018個/cmまでの範囲内で選択され、
加速電圧は、p*λ/4*nと等しい注入厚さt(tは、注入された気体の1価及び多価イオンの原子濃度が1%以上である注入領域に対応する注入厚さ、pは整数、λは入射波長、nは注入された層の屈折率)が得られるように、5kVから1000kVまでの範囲内で選択される、
方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記イオンビームの気体の前記1価及び多価イオンは、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)及びキセノン(Xe)からなる群の元素のイオンから選択される、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記イオンビームの気体の前記1価及び多価イオンは、窒素(N)及び酸素(O)からなる群の気体のイオンから選択される、方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法であって、気体の1価及び多価イオンの前記ビームは、10%の多価イオン、又は10%よりも多くの多価イオンを含む、方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法であって、気体の1価及び多価イオンの、単位表面積あたりの前記注入量は、注入されるイオンの原子濃度が10%(±5%の不確実性)に等しくなるように選択される、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、気体の1価及び多価イオンの、単位表面積あたりの前記注入量の前記選択及び前記加速電圧の前記選択は、あらかじめ行われる計算によって行われ、前記計算は、注入されるイオンの原子濃度を10%(±5%の不確実性)に等しくするための気体の1価及び多価イオンの単位表面積あたりの前記注入量を、注入深さに応じた選択されたイオンの注入プロファイルから評価することを可能にする、方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法であって、前記ガラス材料は、気体の1価及び多価イオンの前記ビームに対して、0.1mm/sと1000mm/sとの間である速度Vで移動可能である、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記ガラス材料の同一領域は、気体の1価及び多価イオンの前記ビームの下方で、N(複数)回にわたり、速度Vで移動される、方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法であって、前記ガラス材料は、ソーダ石灰ガラスの群から選択される、方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法でイオンが注入された面を1以上含むガラス部品の製造方法であって、前記可視範囲における入射波の反射が半分未満に低減される、製造方法。
【請求項11】
タッチスクリーン、眼鏡レンズ、光学装置のレンズ、建築物の窓、及び光ファイバーからなる群から選択されるバルクガラス部品を処理するための、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の処理方法の利用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、気体の1価又は多価イオンのビームによるガラス材料の処理方法である。この方法は、長期にわたり、反射を低減すること、及び、可視範囲の波長のスペクトルにおける光透過率を向上することを目的とする。本発明の方法は、特に、レンズ又は板ガラスの透明基板の表面に適用され、98%超の可視光透過率を特徴とする反射防止性能を該表面に付与することを目的とする。これらの条件下で、前記表面は可視範囲における優れた反射防止性能を呈する。
【背景技術】
【0002】
ガラス表面は入射光の約95.5%を反射し、実際、光電池のエネルギー効率を低下させる、又は、コンピュータや携帯電話の平板状スクリーンを見づらくさせることが周知である。
【0003】
ガラス表面におけるこの光の反射は、90°の入射角でジオプターを通過する光線について、以下の反射(R)及び透過(T)係数を与えるフレネルの関係式によってより一般的に説明される:
R=((n2−n1)/(n2+n1));T=4 n1*n2/(n2+n1)
式中、n1及びn2はジオプターによって離間された媒体の反射指数である。
R+T=1であることが知られている(エネルギー保存則)。
【0004】
空気(n1=1)及びガラス(n2=1.54)について、これらの式によればR=0.045及びT=1−R=0.955(4.5%のみ反射され、95.5%が透過される)となる。
【0005】
2つの面からなるガラス片についてはその2倍、2×4.5%=9%の損失がある。この光エネルギーの損失は、光電池用途において無視できないものである。
【0006】
金属酸化物を用いた蒸着による反射防止加工が存在するが、この利用は比較的複雑かつ高価である。例えば、レンズに関しては、金属酸化物の薄膜を真空下(10−5torr)で、オングストローム単位の精度で蒸着する加工が挙げられる。無塵室において、レンズはまず洗浄ラインで洗浄され、その後超音波で乾燥される。レンズは支持体に取り付けられ、処理室に入れられる。より低温で酸化物を蒸発(昇華)させるために、室内は真空にされる。蒸発は酸化物の加熱によるジュール効果によって、又は電子銃を用いて行われてよい。品質の完璧な制御と、真空、蒸発速度、及び蒸着される層厚の測定とが必要である。厚さは当然ながら一定であるべきである。フッ化マグネシウムMgF(指数1.38)及び氷晶石NaAlF(指数1.35)といったその他のより安価なPVD蒸着も存在するが、その屈折率は理想的な指数に近づいているものの未だ完全に理想的とは言えず、本発明の方法がそれを可能にし得る。
【0007】
「ガラス」とは、脆弱な(もろい)、可視光に対して透過的な硬質の材料又は合金を意味すると理解される。一般にガラスは、酸化ケイ素(シリカ、SiO)と、砂という存在の主要な構成要素であるフラックスとで構成される。全ての種類のガラスの中で最も一般的なのはソーダ石灰ガラスである。物理的観点からは、ガラスは、ガラス転移現象を呈する非晶質材料(すなわち、非結晶性の材料)である。非常に高温であり得るその転移温度未満において、ガラスはガラス質の状態で存在する。
【0008】
これは、好ましくは、妥当なコストでこのようなガラス材料の大量提供を可能にするような産業規模で容易に実行可能な方法による、非常に長期にわたって反射防止性能を付与するガラス材料の表面処理方法の必要性を生じる。
【0009】
文献US5250098号は、イオンビームの照射から成るガラス材料の可視範囲における耐久性のある反射防止処理の方法を開示し、使用されるイオンは1価である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、比較的安価で、多数の用途に対応して表面を処理することを可能にする、ガラス材料の処理方法を提供することである。これらの用途の中でも、タッチスクリーン、眼鏡レンズ、光学装置のレンズ、建築物の窓、又は光ファイバーが言及される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はこのように、ガラス材料の可視範囲における耐久性のある反射防止処理の方法であって、該方法が、電子サイクロトロン共鳴(ECR)源によって発生される気体の1価及び多価イオンのビームによる照射によって構成され、前記ガラス材料の処理の温度はガラス転移温度以下であり、気体の前記1価及び多価イオンの、単位表面積あたりの注入量は、前記注入された層の屈折率nが、(n1*n2)1/2(n1は空気の指数でありn2はガラスの指数である)と略等しくなるような、気体の1価及び多価イオンの原子濃度が得られるように、1012個/cmから1018個/cmまでの範囲内で選択され;加速電圧は、p*λ/4*nと等しい注入厚さt(tは、注入された気体の1価及び多価イオンの原子濃度が1%以上である注入領域に対応する注入厚さ、pは整数、λは入射波長、nは注入された層の指数)が得られるように、5kVから1000kVまでの範囲内で選択される、方法を提供する。
【0012】
本発明者らは、電子サイクロトロン共鳴(ECR)源によって発生される気体の1価及び多価イオンのビームによる照射を含む、可視範囲における耐久性のある反射防止処理方法が、気体の1価イオンのビームによる照射を含む方法よりも効果的であることを確認することができた。
【0013】
一の実施形態によれば、気体の1価及び多価イオンの前記ビームは、10%の多価イオン、又は10%よりも多くの多価イオンを含む。
【0014】
一の実施形態によれば、前記イオンビームの気体の前記1価及び多価イオンは、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)及びキセノン(Xe)からなる希ガス群の元素のイオンから選択される。
【0015】
別の実施形態によれば、前記イオンビームの気体の前記1価及び多価イオンは、窒素(N)及び酸素(O)からなる群の気体のイオンから選択される。
【0016】
気体の1価及び多価イオンの単位表面積あたりの注入量は、前記注入された層の屈折率nが、(n1*n2)1/2(n1は空気の指数でありn2はガラスの指数である)と略等しくなるような、気体の1価及び多価イオンの原子濃度が得られるように、1012個/cmから1018個/cmまでの範囲内で選択され、注入された層の屈折率は、ジオプターによって離間された媒体の指数の積の平方根に略等しい値に向かって低下される。これは、以下の式に反映される:n=(n1*n2)1/2(式中、n1は空気の指数(n1=1)でありn2はガラスの指数);ソーダ石灰ガラスの場合(n2=1.54)、注入された層の指数(n)は1.24に略等しい必要がある。
【0017】
本発明者らは、計算によって、注入されたイオンの原子濃度と観察された光学指数の低下との間に比例関係が存在するはずだと推定する。そしてこの関係はおよそ以下のようになる:
N=n1*x1+n2*x2 ここでx1+x2=1
式中x1は注入された層内のシリコン(ガラスを構成する原子の大部分を占める)平均原子濃度に対応し、x2は注入された層内に存在するイオンの平均原子濃度に対応する。
これは以下のように表すこともできる:
N=n1+(n2−n1)*x2
指数n=1.24に近づけるためには、この式に基づいて、約50%のイオン(x2=0.5)を注入する必要があるだろう。
【0018】
本発明者らによる実験結果は、結果(すなわち、イオンの原子濃度約10%)を得るために必要とされるイオンの数が5分の1であることを示す。
これは、以下の経験式で表される:
N=n1+(n2−n1)*5*x2
【0019】
詳細には述べないが、理論と実験との間のこの差は、気体で満たされたナノ空洞の形成に加えて起きる、隙間の形成と凝集が、媒体の密度を低下させ、実際には屈折率を低下させることによって説明され得る。
【0020】
一の実施形態によれば、(n1*n2)1/2にきわめて近い屈折率(n)を得るために、本発明の方法では、気体の約10%という最高の原子濃度を達成することが推奨される。
【0021】
注入された層の屈折率の4倍によって割られた入射波長の整数倍に対応する注入厚さを得るため、気体の1価及び多価イオンの加速電圧は、したがって、5kV(キロボルト)から1000kV(キロボルト)の間で選択される。以下においては、注入厚さとは、イオンの原子濃度が1%以上である注入領域を指す。
これは次の式によって表される:
t=p*λ/4*n 式中tは注入厚さ、pは整数、λは入射波長、nは注入された層の指数((n1*n2)1/2に等しい)。
【0022】
可視範囲を示す黄色の単色波(560nmに等しい波長)では、注入厚さはp*(560/4*1.24)(式中pは整数)、すなわちp*100nmにおおよそ等しくなくてはならない。p=1の場合、注入厚さは100nmに等しく、p=2の場合、注入厚さは200nmに等しい。
【0023】
本発明の方法によって推奨される処理は、入射波の反射係数の50%以上、実際には90%以上もの低下をもたらす。これは、n1=1(空気)及びn=(n2)1/2である本発明の方法を採用することによって、また、式R=(n−n2)/(n+n2)によって最低反射係数Rを算出することによって、パラメータを調整すればRが理想的な値0、すなわち無反射、に近づくと予測されるからである。
【0024】
比較として、フッ化マグネシウム(MgF)を蒸着した層の指数は1.35(1.24よりわずかに高い)である。MgF蒸着による別の反射防止処理は、反射係数を4%から1.2%へと低下させる、すなわち反射係数を60%低下させる。
【0025】
一の実施形態によれば、ガラス材料は、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、及びキセノン(Xe)からなる元素群に属する重希ガスイオンとして知られる気体の1価及び多価イオンで処理されるこの処理の目的は、気体の1価及び多価の希ガスイオンがガラスの密度を低下させる効果を有する領域を作成することである。この層は、下層にある正常なガラスのそれよりも低い屈折率を特徴とする。
【0026】
本発明による気体の1価及び多価イオンの選択、ならびにこれら気体の1価及び多価イオンによる照射の条件の選択は、反射係数の低下と透過係数の向上とによって表されるガラス材料の屈折率の低下を有利に実現することを可能にする。これらの性質は、例えば光電池の性能向上、又は平板状タッチスクリーンの反射軽減のために非常に重要である。
【0027】
本発明者らは、加速電圧と、気体の1価及び多価イオンの単位表面積あたりの注入量とに関して本発明によって選択された範囲が、気体の1価及び多価イオンの照射によって反射の低減(すなわち反射係数の低下)が可能となるような実験条件の選択を可能にすることを確認できた。
【0028】
更に、本発明者らは、本発明による方法が低温、具体的には室温、で実行可能であることと、該方法の遂行中、ガラス材料の温度がその転移温度以下に保たれるのが望ましいことを確認できた。そのため、ガラス材料がその本体内で、その機械的性質に悪影響を及ぼす結晶学的変化を起こすことを有利に防止できる。
【0029】
気体の1価及び多価イオンの単位表面積あたりの注入量の、本発明による注入量範囲内での選択は、想定されるガラス材料からなる試料が、例えばHe、Ne、Ar、Kr、Xe、N、又はOといった気体の1価及び多価イオンのうちの一つによって照射される、先行するキャリブレーション段階によって行われてよい。このガラス材料の照射は、材料の様々な領域において、気体の1価及び多価イオンの、本発明による範囲内における複数の注入量で行われてよい。その後、処理済みの領域は、処理済みの表面における多かれ少なかれ目立った反射に応じた適切な注入量を選択するために、観察される。
【0030】
処理済みの領域のこのような観察は、例えば反射光(例えばネオン管)の入射角10°での裸眼による観察といった単純な観察技術、もしくは干渉分光法のようなより複雑な技術によって行うことができる。
【0031】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、注入厚さの屈折率の低下というこの現象は、屈折率が1にきわめて近い注入された気体で満たされた「ナノ空洞」の出現によって説明可能であると考えられる。これは、気体の1価及び多価イオンが化学的に不活性であり、特定の原子濃度閾値未満(1%未満と推定される)でガラス内に溶解されるためである。この濃度閾値を上回った途端に、気体で満たされたナノ空洞が形成され、注入された層の指数の低下につながる。
【0032】
組み合わせられ得る別の実施形態によれば:
・気体の1価及び多価イオンの単位表面積あたりの注入量は1015個/cm以上、例えば1016個/cm以上である;
・気体の1価及び多価イオンの加速電圧は5kVから200kVの間である;
・気体の1価及び多価イオンのビームは10%の多価イオン、又は10%よりも多くの多価イオンを含む;
・加速電圧は、p*100nm(pは整数)に等しい注入厚さが得られるように選択される;
・気体の1価及び多価イオンの、単位表面積あたりの注入量は、注入されるイオンの原子濃度が10%(±5%の不確実性)に等しくなるように選択される;一の実施形態によれば、気体の1価及び多価イオンの、単位表面積あたりの注入量の選択と、加速電圧の選択とは、あらかじめ行われる計算によって行われ、該計算が、注入されるイオンの原子濃度を10%(±5%の不確実性)に等しくするための気体の1価及び多価イオンの単位表面積あたりの注入量を、注入深さに応じた選択されたイオンの注入プロファイルから評価することを可能にする;
・ガラス材料が、気体の1価及び多価イオンのビームに対して、0.1mm/sと1000mm/sとの間である速度Vで移動可能である;一の実施形態によれば、ガラス材料の同一領域が、気体の1価及び多価イオンの前記ビームの下方で、N(複数)回にわたり、速度Vで移動される。
【0033】
本発明によれば、気体の1価及び多価イオンは、コンパクトかつエネルギー消費が少ないという利点のある電子サイクロトロン共鳴(ECR)源によって発生される。
【0034】
本発明は更に、上記の実施形態のいずれかによる処理方法でイオンが注入された面を1以上含み、可視範囲における入射波の反射が半分未満に低減されるガラス部品をも対象とする。
【0035】
本発明は更に、タッチスクリーン、眼鏡レンズ、光学装置のレンズ、建築物の窓、及び光ファイバーからなる群から選択されるバルクガラス部品を処理するための、上記の実施形態のいずれかによる処理方法の利用をも対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0036】
本発明のその他の特徴及び利点が、添付の図面によって図示される非限定的な実装例についての説明において明らかになるだろう。
図1図1a及び1bは、反射防止層がある場合とない場合の入射波の伝播を示す図である。
図2】注入深さに応じた様々なイオンの注入プロファイルを示す図である。
図3】注入深さに応じた様々なイオンの注入プロファイルを示す図である。
図4】特定の加速電圧についての、イオン注入量に応じた処理後の向上G(%)の変動を示す図である。
図5】注入深さに応じた様々なイオンの注入プロファイルを示す図である。
図6】特定の加速電圧についての、イオン注入量に応じた処理後の向上G(%)の変動を示す図である。
図7】注入深さに応じた様々なイオンの注入プロファイルを示す図である。
図8】特定の加速電圧についての、イオン注入量に応じた処理後の向上G(%)の変動を示す図である。
図9】注入深さに応じた様々なイオンの注入プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の実装の例によれば、ソーダ石灰ガラスの試料が研究の対象とされており、一部の試料には1価及び多価のヘリウムイオン、別の試料には1価及び多価のアルゴンイオン、更に別の試料には窒素Nの1価及び多価イオンが用いられた。
【0038】
これらの気体の1価及び多価イオンが、ECR源から放出された。
【0039】
ソーダ石灰ガラスの分類には、シリカSiO、一般的にCaO及びNaOの形状で製造に用いられるカルシウム及びナトリウム、を基にしたガラスが含まれる。これらのガラスは最も広く用いられているものであり、瓶や窓ガラスの製造に用いられ、ガラス製造のおよそ90%を占める。
【0040】
本発明者らは、以下によって第1シリーズの試験を行った。
・He及びHe2+イオンを含む1価及び多価のヘリウムイオンのビーム、強度1mA;加速電圧35kV;Heエネルギー35keV、He2+エネルギー70keV。処理注入量は1016、3×1016、及び6×1016個/cmに等しい。
・Ar、Ar2+、及びAr3+イオンを含む1価及び多価のアルゴンイオンのビーム、強度1mA;加速電圧35kV;Arエネルギー35keV、Ar2+エネルギー70keV、Ar3+エネルギー105keV。処理注入量は1016、5×1016、及び1017個/cmに等しい。
【0041】
処理された試料はビームに対して移動速度120mm/s、リターンごとの横方向の進行4mm(ビームの直径40mmの10%)で移動する。処理は、必要な注入量を達成するために、複数回にわたって行われる。
【0042】
試料表面の反射防止性能は、ガラス表面への像の反射を観察することで、裸眼によって定性的に評価可能であり、また、干渉計測法を用いることによって定量的にも評価可能である:例えば、560nmの単色光が両面を処理されたガラス薄片に特定の入射角で投射され、レンズの焦点面で入れ子になった一組の環の形で得られた像が分析される。薄片のジオプターの反射係数は、明環の細さを測定することで推定可能である(最大強度である中程の高さ)。
【0043】
本発明者らは、異なる注入量で処理された、僅かに傾いた表面上のネオン管の光の反射を裸眼で観察することによる定性試験を行った。このネオン管の反射された像は約10°の角度で観察された。
【0044】
これらの定性試験から、より低いコントラストに関するネオンの反射は、アルゴンの場合には3×1016個/cm、ヘリウムの場合には1017個/cm程度の注入量で見られるようになることが判明する。
【0045】
本発明者らによって作成された半経験的データに基づいた多価イオンの注入のシミュレータで行われた試験では、上掲の処理条件において、以下、ヘリウム(注入プロファイルは図2を参照)については表1、アルゴン(注入プロファイルは図3を参照)については表2に示すような結果が得られた。
【表1】
【表2】
【0046】
本発明の方法によって推奨されるように、イオンの加速電圧の調整は、注入厚さを約100nmの倍数に調整するように計算される。これらの挿入値(加速電圧、注入量)は経験的調整段階において、反射係数の最適な低下を可能にする正確な干渉法(上述の方法を参照)を用いてより細かく調整できる。
【0047】
図1aは、ジオプターを通過する間、入射波(I)が伝送波(T)と強反射波(R)とに分割される様子を実線で示す。図1bは本発明の方法によって形成された反射防止層(AR)が反射波(R)を弱く返す様子を点線で示す。
【0048】
図2は、He及びHe2+イオンのビーム、ならびに35kVの加速電圧によって得られた1017個/cmの注入量に対応するヘリウムイオンの注入プロファイルを示す。He/He2+イオンの分布は90%/10%である。オングストロームで表される注入深さが横軸に、%で表される注入されたヘリウムイオンの原子濃度が縦軸に示される。約200nm(すなわち100nmの2倍)の注入厚さにおいて、ヘリウムイオンの原子濃度は約10%(±5%)に達する。注入厚さは、注入されたヘリウムイオンの原子濃度が1%以上である領域に該当する。実験によって確認されたとおり、これらの特徴は注入層に反射防止性能を付与する。
【0049】
図3は、Ar、Ar2+及びAr3+イオンのビーム、ならびに35kVの加速電圧によって得られた3*1016個/cmの注入量に対応するアルゴンイオンの注入プロファイルを示す。Ar/Ar2+/Ar3+イオンの分布は60%/30%/10%である。オングストロームで表される注入深さが横軸に、%で表される注入されたヘリウムイオンの原子濃度が縦軸に示される。約100nm(すなわち100nmの1倍)の注入厚さにおいて、アルゴンイオンの原子濃度は約10%(±5%)に達する。注入厚さtは、注入されたヘリウムイオンの原子濃度が1%以上である領域に対応する。実験によって確認されたとおり、これらの特徴は注入層に反射防止性能を付与する。
【0050】
更に、反射防止処理を評価するべく、ソーダ石灰ガラスに属するガラス製のジオプターを通じた光の透過の処理後の増加G(%)をより高い精度で定量化するための特性評価手段を用いて第2シリーズの試験が行われた。定義として、Gは、処理後の光透過係数の増加(つまり、処理前と処理後の透過係数の差)に対応する増加(%)を表す。
【0051】
用いられたイオンは、窒素(N)とアルゴン(Ar)の2種類であった。
【0052】
窒素については、加速電圧を20及び35kVに調整することで、2種類の処理深さが試験された。
【0053】
アルゴンについては、1種類の加速電圧は35kVの1種類のみが採用された。
【0054】
各種類のイオンについて、異なる加速電圧で、複数の注入量が採用された。結果を以下の表に示す:
【表3】
【表4】
【表5】
【0055】
図4は、窒素(N)による20kVでの処理後の増加G(%)を縦軸に、異なる注入量を1017個/cmの単位で横軸に示した。光透過係数が96%から98%へと2%増加しつつも光反射係数が4%から2%へと半分に減っていることから、0.4×1017個/cmの注入量が特に好適であると思われる。線Aは、注入されたイオンの原子濃度が10%に等しくなる注入量を示し、線B及びCはそれぞれ、注入されたイオンの原子濃度が5%と15%に等しくなる注入量を示す。光透過の最大増大に対応する、この曲線の飽和閾値は線A上に位置する。線B及びCはこの閾値の両側に位置する。
【0056】
図5は、N、N2+、及びN3+イオンのビームと加速電圧20kVで得られた、0.5*1017個/cmの注入量に対応する窒素イオンでシミュレーションされた注入プロファイルを示す。N/N2+/N3+イオンの分布は58%/31%/11%に等しいと推定される。オングストロームで表される注入深さは横軸に、%で表される注入された窒素イオンの原子濃度は縦軸に示される。窒素イオンの原子濃度は、約200nm(すなわち、100nmの2倍)の注入厚さにわたって約10%に達する。注入厚さtは、注入された窒素イオンの原子濃度が1%以上である領域に対応する。実験は、注入されるイオンの最大濃度と処理深さとに関するこれらの処理特性が、窒素イオンを注入された層に反射防止性能を付与することを実証する。
【0057】
図6は、窒素(N)による35kVでの処理後の増加G(%)を縦軸に、異なる注入量を1017個/cmの単位で横軸に示した。ここでも、光透過係数が96%から97.7%へと1.7%増加しつつも光反射係数が4%から2.3%へと約半分に減っていることから、0.75×1017個/cmの注入量が特に好適であると思われる。線Aは、注入されたイオンの原子濃度が10%に等しくなる注入量を示し、線B及びCはそれぞれ、注入されたイオンの原子濃度が5%と15%に等しくなる注入量を示す。光透過の最大増大に対応する曲線の頂点は、線A上に位置する。線B及びCはこの頂点の両側に位置する。
【0058】
図7は、N、N2+、及びN3+イオンのビームと加速電圧35kVで得られた、0.75*1017個/cmの注入量に対応する窒素イオンでシミュレーションされた注入プロファイルを示す。N/N2+/N3+イオンの分布は58%/31%/11%に等しいと推定される。オングストロームで表される注入深さは横軸に、%で表される注入された窒素イオンの原子濃度は縦軸に示される。窒素イオンの原子濃度は、約300nm(すなわち、100nmの3倍)の注入厚さにわたって約10%に達する。注入厚さtは、注入された窒素イオンの原子濃度が1%以上である領域に対応する。実験は、注入されるイオンの最大濃度と処理深さとに関するこれらの処理特性が、窒素イオンを注入された層に反射防止性能を付与することを実証する。
【0059】
図8は、アルゴン(Ar)による35kVでの処理後の増加G(%)を縦軸に、異なる注入量を1017個/cmの単位で横軸に示した。光透過係数が96%から97.9%へと1.9%増加しつつも光反射係数が4%から2.1%へと約半分に減っていることから、0.75×1017個/cm、実際にはより少なくてもよい、の注入量が特に好適であると思われる。線Aは、注入されたイオンの原子濃度が15%に等しくなる注入量を示し、線B及びCはそれぞれ、注入されたイオンの原子濃度が10%と20%に等しくなる注入量を示す。光透過の最大増大に対応する、この曲線の飽和閾値は、濃度が予想された10%よりもやや高い15%である線A上に位置する。しかしながら、曲線は、0.5×1017cm以上の注入量から得られた有限個の結果による外挿の結果であることが指摘される。この外挿は、0.75×1017個/cm未満(例えば、0.1、0.2、及び0.5×1017個/cm)のより少ない注入量で得られた結果により補完及び精密化される必要がある。この場合、飽和閾値が、10%の周辺である注入されるイオンの原子濃度に対応する約0.5×1017個/cmの周辺に位置する少ない注入量の範囲へと移動する可能性が高く、予想により近づく。
【0060】
図9は、Ar、Ar2+及びAr3+イオンのビームと加速電圧35kVで得られた、0.75*1017個/cmの注入量に対応するアルゴンイオンでシミュレーションされた注入プロファイルを示す。Ar/Ar2+/Ar3+イオンの分布は66%/24%/10%に等しいと推定される。オングストロームで表される注入深さは横軸に、%で表される注入された窒素イオンの原子濃度は縦軸に示される。アルゴンイオンの原子濃度は、約100nm(すなわち、100nmの1倍)の注入厚さにわたって約15%に達する。注入厚さtは、注入された窒素イオンの原子濃度が1%以上である領域に対応する。実験は、注入されるイオンの最大濃度と処理深さとに関するこれらの処理特性が、アルゴンイオンを注入された層に反射防止性能を付与することを実証する。
【0061】
この処理方針から、窒素が、ヘリウムやアルゴン等の希ガスイオンで得られるものに比肩する反射防止性能の獲得を可能にすることが明らかになる。詳細には述べないが、これは、希ガスの場合と同様、窒素N分子で満たされたナノ空洞の形成によって説明可能であるかもしれない。予備研究は、酸素(O)等、その他の二原子気体でも同じ効果が得られることを示している。
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9