特許第6491223号(P6491223)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ レシット・ソイルの特許一覧

特許6491223機械トルク生成装置および関連する運動機構
<>
  • 特許6491223-機械トルク生成装置および関連する運動機構 図000014
  • 特許6491223-機械トルク生成装置および関連する運動機構 図000015
  • 特許6491223-機械トルク生成装置および関連する運動機構 図000016
  • 特許6491223-機械トルク生成装置および関連する運動機構 図000017
  • 特許6491223-機械トルク生成装置および関連する運動機構 図000018
  • 特許6491223-機械トルク生成装置および関連する運動機構 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491223
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】機械トルク生成装置および関連する運動機構
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/18 20060101AFI20190318BHJP
   F16H 21/16 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   F16H25/18 Z
   F16H21/16
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-553205(P2016-553205)
(86)(22)【出願日】2014年11月6日
(65)【公表番号】特表2016-537595(P2016-537595A)
(43)【公表日】2016年12月1日
(86)【国際出願番号】TR2014000414
(87)【国際公開番号】WO2015069208
(87)【国際公開日】20150514
【審査請求日】2017年10月16日
(31)【優先権主張番号】2013/13065
(32)【優先日】2013年11月11日
(33)【優先権主張国】TR
(73)【特許権者】
【識別番号】516135324
【氏名又は名称】レシット・ソイル
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100137039
【弁理士】
【氏名又は名称】田上 靖子
(74)【代理人】
【識別番号】100168594
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】レシット・ソイル
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−97397(JP,A)
【文献】 特開2010−159146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/18
F16H 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定リンクを含む9つのリンク(1,2,3,4,5,6,7,8,9)、6つの回転ジョイント、2つの直動ジョイント、および4つのシリンダ−イン−スロットジョイントからなり、
前記固定リンクが第1リンク(1)であり、
平面的、すなわち前記9つのリンク(1,2,3,4,5,6,7,8,9)が同じ平面内、または複数の平行な平面内で移動するものであり
1リンクと第2リンクと(1,2)が回転ジョイントによって連結され、第1リンクと第3リンクと(1,3)が直動ジョイントによって連結され、第1リンクと第4リンクと(1,4)が回転ジョイントによって連結され、第1リンクと第5リンクと(1,5)が直動ジョイントによって連結され、第2リンクと第6リンクと(2,6)が回転ジョイントによって連結され、第2リンクと第8リンクと(2,8)が回転ジョイントによって連結され、第3リンクと第6リンクと(3,6)がシリンダ−イン−スロットジョイントによって連結され、第3リンクと第7リンクと(3,7)がシリンダ−イン−スロットジョイントによって連結され、第4リンクと第7リンクと(4,7)が回転ジョイントによって連結され、第4リンクと第9リンクと(4,9)が回転ジョイントによって連結され、第5リンクと第8リンクと(5,8)がシリンダ−イン−スロットジョイントによって連結され、第5リンクと第9リンクと(5,9)がシリンダ−イン−スロットジョイントによって連結される機構において、
前記機構の運動寸法および関数f(p),g(p)が、条件
【数1】
を満たすことを特徴とする、機構。
【請求項2】
固定リンクを含む9つのリンク(1,2,3,4,5,6,7,8,9)、6つの回転ジョイント、2つの直動ジョイント、および4つのシリンダ−イン−スロットジョイントからなり、
前記固定リンクが第1リンク(1)であり、
平面的であり
1リンクと第2リンクと(1,2)が回転ジョイントによって連結され、第1リンクと第3リンクと(1,3)が直動ジョイントによって連結され、第1リンクと第4リンクと(1,4)が回転ジョイントによって連結され、第1リンクと第5リンクと(1,5)が直動ジョイントによって連結され、第2リンクと第6リンクと(2,6)が回転ジョイントによって連結され、第2リンクと第8リンクと(2,8)が回転ジョイントによって連結され、第3リンクと第6リンクと(3,6)がシリンダ−イン−スロットジョイントによって連結され、第3リンクと第7リンクと(3,7)がシリンダ−イン−スロットジョイントによって連結され、第4リンクと第7リンクと(4,7)が回転ジョイントによって連結され、第4リンクと第9リンクと(4,9)が回転ジョイントによって連結され、第5リンクと第8リンクと(5,8)がシリンダ−イン−スロットジョイントによって連結され、第5リンクと第9リンクと(5,9)がシリンダ−イン−スロットジョイントによって連結される機構において、
前記機構の運動寸法が条件(E10)〜(E22)を実質的に満たすことによって、少なくとも前記機構の運動の特定の部分に関して、前記機構の実際の自由度が、
【数2】
によって与えられる自由度よりも大きいことを特徴とする、機構。
【請求項3】
第1リンクと第2リンクと(1,2)を連結する前記回転ジョイントをシリンダ−イン−スロットジョイントで置き換えることによって得られる機構において、
第1リンク(1)上での第2リンク上の点(Oの軌跡が原点(Oを通過する任意の直線に一致し、
第2リンク(2)が第1リンク(1)に対して、軸とy軸とを含む面に垂直で前記点(Oを通過するz軸に平行な軸を中心に回転できるようにしたことを特徴とする、請求項1または2に記載の機構。
【請求項4】
第1リンクと第3リンクと(1,3)を連結する前記直動ジョイントをシリンダ−イン−スロットジョイントで置き換えることによって得られる機構において、
第1リンク1(1)上での前記y軸上の点U3の軌跡が前記y軸に一致し、
第3リンク(3)が第1リンク(1)に対して、軸とy軸とを含む面に垂直で前記点U3を通過するz軸に平行な軸を中心に回転できるようにしたことを特徴とする、請求項1または2に記載の機構。
【請求項5】
第1リンクと第4リンクと(1,4)を連結する前記回転ジョイントをシリンダ−イン−スロットジョイントで置き換えることによって得られる機構において、
第1リンク(1)上での第4リンク上の点(Oの軌跡が原点(Oを通過する任意の直線に一致し、
第4リンク(4)が第1リンク(1)に対して、軸とy軸とを含む面に垂直で前記点(Oを通過するz軸に平行な軸を中心に回転できるようにしたことを特徴とする、請求項1または2に記載の機構。
【請求項6】
第1リンクと第5リンクと(1,5)を連結する前記直動ジョイントをシリンダ−イン−スロットジョイントで置き換えることによって得られる機構において、
第1リンク(1)上での前記y軸上の点U5の軌跡が前記y軸に一致し、
第5リンク(5)が第1リンク(1)に対して、軸とy軸とを含む面に垂直で前記点U5を通過するz軸に平行な軸を中心に回転できるようにしたことを特徴とする、請求項1または2に記載の機構。
【請求項7】
運動学的置換、すなわち請求項1から6のいずれか一項に記載の機構のいずれか1つにおいて第1リンク(1)の固定を解除して、代わりに第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、または第9リンク(2,3,4,5,6,7,8,9)のいずれか1つを前記固定リンクとすることによって得られることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の機構。
【請求項8】
1もしくは複数のばね(10)、および/または1もしくは複数の緩衝装置が前記機構の任意の2つのリンクの間に取り付けられ、前記機構が1または複数のアクチュエータを有することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の機構。
【請求項9】
前記機構が任意の所望のトルク変動を生成可能な機械トルク生成装置(11)として使用されることを可能にする1または複数のばね(10)が、第1リンクと第3リンクと(1,3)の間、および第1リンクと第5リンクと(1,5)の間に取り付けられ、
前記各リンクの慣性パラメータが、
【数3】
によって与えられる条件を満たし、
前記各リンクに作用する外力および外力モーメントが、条件
【数4】
を満たすことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の機構。
【請求項10】
外力または外力モーメントT(θ)、F(s)、T(θ)、およびF
)がそれぞれ、第2、第3、第4、および第5リンク(2,3,4,5)に加えられ、
前記各リンクの慣性パラメータが条件(E26〜E44)を満たし、
前記各リンクに作用する外力モーメントが条件(E48)および条件
(s)⇔(y軸) (E55)
(s)⇔(y軸) (E56)
(s)=F(s) (E57)
を満たすことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コスト、保守コスト、およびエネルギー消費が可能な限り低減され、アクチュエータを何ら含まず、任意の望ましいトルク変動を生成可能な機械トルク生成装置(MTG:mechanical torque generator)に関する。また本発明は、MTGが導かれる元となっている3つの新規な運動機構によって達成され、液圧でおよび空気圧で作動される機械、内燃機関、ならびに圧縮機などの多くの異なる用途において使用され、MTGと同様の利点を有し、アクチュエータを含み得る汎用機構にも関する。
【背景技術】
【0002】
文献には、1自由度の平面機構が多数存在しており、それらの入力リンクは並進式であるが、出力リンクは回転式である。例えば、図1においては、1自由度の平面機構であるスライダクランク機構が示されており、入力パラメータおよび出力パラメータが、sおよびθによって示されている。この機構では、運動寸法(kinematic dimensions)、使用されるばねの自由長さ、およびばね定数kを適切に設計することによって、任意の所望のトルクT(θ)、および、式(E1)によって与えられる任意の入力−出力関係を、近似的に生成することが可能である。式(E1)によって与えられる入力−出力関係および所望のトルクT(θ)は、スライダクランク機構においては近似的にのみ生み出され得るが、カム対および/またはシリンダ−イン−スロット(cylinder in slot)ジョイントを含む機構を使用することによって、物理的制約が許す限りは、何ら近似を行うことなく(すなわち正確に所望の様式で)、任意の所望の入力−出力関係および任意の所望のトルクを生成することが可能である。
【0003】
図1において示されるスライダクランク機構は、1つの直動ジョイントおよび1つの回転ジョイントによって基礎に連結される。これらの2つのジョイントにおいて生じる反力、反力モーメント、および摩擦力は、基礎に及ぼされる振動力および振動モーメントを構成する。上述された振動力および振動モーメントは、生成されるT(θ)のトルク、ダランベールの原理によって運動中のリンクに作用する慣性力および慣性モーメント、ならびにリンクの重量によって決まることになる。一般に、この種類の用途では、振動力および振動モーメントの大部分は、T(θ)のトルクならびに慣性力および慣性モーメントに起因するものである。また、振動力および振動モーメントに対するリンクの重量の寄与は、相対的により小さくなる。
【0004】
よく知られているように、振動力および振動モーメントは、機構を基礎に連結する軸受において、望ましくない騒音および振動を引き起こす。これらの理由により、機構は、不快なほどに騒音の多い様式で作動し、軸受は急速に摩耗してしまう。騒音および振動を防止するためにとられる方策は、完全に満足のいく解決法を提供することはできないにもかかわらず、システムのコストを高くする。さらに、機構を基礎に連結する2つのジョイントにおける摩擦によって余分なエネルギーが消費され、このことは機構のエネルギー消費に悪影響を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的の1つは、
機構を基礎に連結するジョイントにおける反力、反力モーメント、および摩擦力の大部分がリンクの重量のみに起因することで、当該ジョイントにおける摩耗が最小化されるように、
機構を基礎に連結するジョイントにおける反力、反力モーメント、および摩擦力の大部分がリンクの重量のみに起因することで、当該ジョイントの寿命が最大化されるように、
機構を基礎に連結するジョイントの寿命が可能な限り最大化されていることで、当該ジョイントの保守コストが最小化されるように、
これらのジョイントにおける反力、反力モーメント、および摩擦力の大部分がリンクの重量のみに起因することで、基礎に伝達される振動力および振動モーメントが最小化されるように、
基礎に伝達される振動力および振動モーメントが最小化されていることで、機構によって生成される騒音が最小化されるように、
基礎に伝達される振動力および振動モーメントが最小化されていることで、基礎に伝達される振動が最小化されるように、
基礎に伝達される騒音および振動が可能な限り最小化されていることで、機構における騒音および振動を防止することに関連するコストが最小化されるように、
機構を基礎に連結するジョイントにおける摩擦力の大部分がリンクの重量のみに起因することで、機構のエネルギー消費が最小化されるように、
アクチュエータを何ら使用することなくばねのみを使用することによって、任意の所望のトルク変動を生成可能な、機械トルク生成装置を実現することである。
【0006】
本発明の別の目的は、
機構を基礎に連結するジョイントにおける反力、反力モーメント、および摩擦力の大部分がリンクの重量のみに起因することで、当該ジョイントにおける摩耗が最小化されるように、
機構を基礎に連結するジョイントにおける反力、反力モーメント、および摩擦力の大部分がリンクの重量のみに起因することで、当該ジョイントの寿命が最大化されるように、
機構を基礎に連結するジョイントの寿命が可能な限り最大化されていることで、当該ジョイントの保守コストが最小化されるように、
これらのジョイントにおける反力、反力モーメント、および摩擦力の大部分がリンクの重量のみに起因することで、基礎に伝達される振動力および振動モーメントが最小化されるように、
基礎に伝達される振動力および振動モーメントが最小化されていることで、機構によって生成される騒音が最小化されるように、
基礎に伝達される振動力および振動モーメントが最小化されていることで、基礎に伝達される振動が最小化されるように、
基礎に伝達される騒音および振動が可能な限り最小化されていることで、機構における騒音および振動を防止することに関連するコストが最小化されるように、
機構を基礎に連結するジョイントにおける摩擦力の大部分がリンクの重量のみに起因することで、機構のエネルギー消費が最小化されるように、
出力リンクの回転運動が、入力リンクの並進運動の任意の所望の関数として得られ、
液圧でまたは空気圧で作動される機械、内燃機関、および圧縮機などの多くの異なる分野で使用することができる、汎用機構を実現することである。
【0007】
本発明の別の目的は、
機構を第1リンクに連結する4つのジョイントにおける反力、反力モーメント、および摩擦力の大部分が、リンクの重量、第1リンクにのみ作用する外力、外力モーメント、慣性力、および慣性モーメントに起因することで、当該4つのジョイントにおける摩耗が最小化されるように、
機構を第1リンクに連結する4つのジョイントにおける反力、反力モーメント、および摩擦力の大部分が、リンクの重量、第1リンクにのみ作用する外力、外力モーメント、慣性力、および慣性モーメントに起因することで、当該4つのジョイントの寿命が最大化されるように、
機構を第1リンクに連結する4つのジョイントの寿命が可能な限り最大化されていることで、当該4つのジョイントの保守コストが最小化されるように、
機構を第1リンクに連結する4つのジョイントにおける摩擦力の大部分が、リンクの重量、第1リンクにのみ作用する外力、外力モーメント、慣性力、および慣性モーメントに起因することで、機構のエネルギー消費が最小化されるように、
あるジョイントにおける相対回転運動が、別のジョイントにおける相対並進運動の任意の所望の関数として得られ、
液圧でまたは空気圧で作動される機械、内燃機関、および圧縮機などの多くの異なる分野で使用することができる、汎用機構を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
機構は、ジョイントによって互いに連結されたリンクからなり、かつ運動および/または力をある場所から別の場所に伝達するために使用される、機械的システムである。高い反力および反力モーメント、ならびに機構のジョイントにおいて生じる高い摩擦力および摩擦モーメントは、軸受の早い摩耗を引き起こすだけでなく、機構のエネルギー消費をも増大させる。さらに機構は、それが取り付けられる基礎に振動力および振動モーメントを及ぼす。この振動力および振動モーメントは、機構を基礎に連結するジョイントにおいて生じる反力、反力モーメント、摩擦力、および摩擦モーメントに起因し、基礎での望ましくない振動および騒音を引き起こす。
【0009】
本明細書において説明される発明は、(その実際の使用に関する限り)1自由度の、過拘束の(overconstrained)(すなわち恒久的に臨界形態にある(in permanently critical form))、新規な平面機構に関し、その入力リンクは並進するが、その出力リンクは固定された軸を中心に回転する。本明細書において、入力リンクおよび出力リンクは、基礎にジョイントで連結される任意の2つのリンクを指す。入力リンクが機構を作動させるリンクであるとする典型的な仮定は採用されない。上述された最初の機構の出力リンクの回転運動は、入力リンクの並進運動の任意の所望の関数として得られる。さらに、この新規な機構の運動寸法、リンクの慣性パラメータ、および負荷条件が特定の条件を満たすならば、基礎に伝達される振動力、基礎に伝達される振動モーメント、および機構を基礎に連結するジョイントにおける摩擦力は、これらがリンクの重量のみによって決まることになるので、最小化される。摩擦力が最小化されるので、機構のエネルギー消費は最小化される。本発明に係る機械トルク生成装置は、任意の所望のトルクを生成可能であり、機構を基礎に連結するジョイントにおいて基礎に伝達される振動力、基礎に伝達される振動モーメント、摩擦力、ひいては機構のエネルギー消費を最小化するものであり、上述された新規な機構のいくつかのリンクの間にばねを取り付けることによって得られる。
【0010】
本明細書においてEqMTG1&2機構と称される機構は、MTG機構において第1リンクと第2リンクとを互いに連結する回転ジョイントをシリンダ−イン−スロットジョイントで置き換えることによって得られる機構である。これは、恒久的な臨界形態ではない(すなわち過拘束ではない)機構である。このシリンダ−イン−スロットジョイントは、第1リンク上で、点(Oの経路をx軸に一致させる。また、このシリンダ−イン−スロットジョイントはさらに、第2リンクを第1リンクに対して、点(Oを通過するz軸に平行な軸を中心に回転させる。ここで(Oは、第2リンク上の原点Oを示す(図2を参照)。MTG機構およびEqMTG1&2機構の運動寸法および入力運動(input motions)が同じである場合、2つの機構の運動は同一になる。
【0011】
一方、EqMTG1&3機構は、MTG機構から第1リンクと第3リンクとを連結する直動ジョイントをシリンダ−イン−スロットジョイントによって置き換えることによって得られる、恒久的な臨界形態ではない(すなわち過拘束ではない)別の機構である。このシリンダ−イン−スロットジョイントは、第1リンク上で、点U3の経路を、y軸に一致させる。また、このシリンダ−イン−スロットジョイントはさらに、第1リンクに対して第3リンクを、点U3を通過するz軸に平行な軸を中心に回転させる。ここでU3は、y軸上に位置付けられる第3リンク上の点を示す。EqMTG1&2機構と同様に、MTG機構およびEqMTG1&3機構の運動寸法および入力運動が同じである場合、2つの機構の運動は同一になる。MTG機構における場合のように、EqMTG1&2機構およびEqMTG1&3機構の運動寸法、リンクの慣性パラメータ、および負荷条件が特定の条件を満たすならば、機構を基礎に連結するジョイントにおいて基礎に伝達される振動力、基礎に伝達される振動モーメント、および摩擦力が最小化され、さらにこのことにより機構のエネルギー消費が最小化される。
【0012】
MTG機構、EqMTG1&2機構、およびEqMTG1&3機構が導かれる元になる運動機構から運動学的置換(kinematic inversion)の方法によって得られる機構は全て、MTG機構、EqMTG1&2機構、およびEqMTG1&3機構と同様の利点を有する。運動学的置換方法によって得られるこれらの機構では、あるジョイントにおける相対回転運動が、別のジョイントにおける相対並進運動の任意の所望の関数として得られる。さらに、上述された機構の運動寸法、リンクの慣性パラメータ、および負荷条件が特定の条件を満たすならば、これらの機構の第1リンクを第2、第3、第4、および第5リンクに連結する4つのジョイントの各々における、反力、反力モーメント、およびクーロン摩擦力の大部分が、第1リンクに作用する外力および外力モーメント、ならびにダランベールの原理によって第1リンクに作用する慣性力および慣性モーメントから生じることになる。また、これらの大部分は、第1リンク以外のリンクに作用している外力および外力モーメント、ならびに第1リンク以外のリンクの加速度から独立しているであろう。
【0013】
本発明の目的を達成するように実現される「機械トルク生成装置および関連する運動機構」は、以下に列挙する添付の図面において示されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】文献に存在するスライダクランク機構の概略図である。
図2】本発明に係る機械トルク生成装置(11)の概略図である。
図3】本発明に係る機械トルク生成装置(11)において使用されるジョイントを示す表である。
図4】機械トルク生成装置(11)において第1リンクとび第3リンクと(1,3)を連結する直動ジョイントをシリンダ−イン−スロットジョイントと置き換えることによって得られる、等価な機械トルク生成装置1&3(EqMTG1&3)(12)と称される機構の概略図である。
図5】負荷条件に関してのみ機械トルク生成装置(11)とは異なる、摩擦および振動が最小の−あらゆる回転に対して並進する(MinFaS−TaR)(13)機構の概略図である。
図6】機械トルク生成装置(11)機構およびMinFaS−TaR(13)機構が満たさねばならない条件を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面において示される全ての部品には番号が付されており、以下に列挙される対応物を指している。
1.第1リンク
2.第2リンク
3.第3リンク
4.第4リンク
5.第5リンク
6.第6リンク
7.第7リンク
8.第8リンク
9.第9リンク
10.ばね
11.機械トルク生成装置
12.等価な機械トルク生成装置−1&3機構
13.摩擦および振動が最小の−あらゆる回転に対して並進する機構
【0016】
機械トルク生成装置(11)の概略図が、図2において与えられている。MTG(11)には、第1リンクとして示される基礎を含む全部で9つのリンクが存在する。Oy1、O、O、O、O、O、O、O、およびOの座標系は、第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、および第9リンク(1,2,3,4,5,6,7,8,9)に結び付けられる基準系であり、x軸およびx軸はx軸に平行であり、一方でy軸およびy軸はy軸に平行である。図をこれ以上複雑にしないように、第6、第7、第8、および第9リンク(6,7,8,9)に属するx軸およびy軸は、図2には示されていない。
【0017】
MTG(11)において使用されるジョイントが、図3において示されている。この表において、R、P、およびCはそれぞれ、回転ジョイント、直動ジョイント、およびシリンダ−イン−スロットジョイントを表す。図3を用いて、どのリンクが他のどのリンクに、どの種類のジョイントを用いて連結されるかを見て取ることが可能である。例えば、図3において与えられる9×9行列の第5行によると、第5リンク(5)が、第1、第8、および第9(1,8,9)に、それぞれ直動ジョイント、シリンダ−イン−スロットジョイント、およびシリンダ−イン−スロットジョイントによって連結されることが見て取れる。
【0018】
MTG(11)において使用される第6リンクのローラ(6)は、第3リンク(3)の溝内を移動する。LO3Rと表示された(図2を参照)、この溝のちょうど真ん中に位置付けられるカーブは、第3リンク上での第6リンク(6)上の点Aの軌跡である。ここで、Aは、第6リンク(6)上の点Aを表す。汎用的にいえば、Pはi番目のリンク上の点Pを規定する。ここで、点Bは、第3リンク(3)上のカーブLO3Lに従う。同様に、点DおよびCは、それぞれ第5リンク(5)上のカーブLO5RおよびカーブLO5Lに沿って移動する。
【0019】
機械トルク生成装置(11)の出力リンクは、第2リンクおよび第4リンク(2,4)であり、これらの角度位置は、θ(t)によって示される。一方、図2におけるトルクT(θ)およびT(θ)は、機械トルク生成装置(11)によって生成されたトルク(すなわち生成装置の出力)を示す。これらのトルクは互いに等しいはずなので(式(E48)を参照)、いずれのトルクもT(θ)によって表すことができる。使用されるシンボルから理解できるように、トルクT(θ)およびT(θ)は出力リンクの角度位置によって決まる。
【0020】
図2においては、固定された筐体(1)と第3リンク(3)との間に、ばね定数kを有するばね(10)が存在する。一方、筐体と第5リンク(5)との間のばね(10)のばね定数は、kとして示される。
【0021】
機械トルク生成装置(11)は、平面機構であり、その入力リンクは並進運動を実行し、出力リンクは固定された軸を中心とした回転運動を実行し、その実際の自由度は1であり、入力リンクの位置s(t)と出力リンクの角度位置θ(t)との間の任意の関係を得ることが可能であり(図2を参照)、MTGの運動寸法が適切に設計されるとき、この関係は以下の数式として表されうる。
θ=f(s) (E1)
ここで、f(s)はsによって決まる任意の関数を表象し、この関数およびその導関数は連続的なものになる。さらに、所望の入力−出力関係は、所望であれば式(E1)の代わりにs=g(θ)として表されることに留意されたい。
【0022】
MTG(11)を使用することによって、所望の入力−出力関係を生成することに加えて、機械トルク生成装置(11)の運動寸法、使用されるばねの自由長さ、ならびにばね定数kおよびばね定数kを適切に設計することによって、任意の所望のトルクT(θ)を生成することも可能である。
【0023】
機械トルク生成装置(11)の自由度を求めるために、以下の式が使用されうる。
【0024】
【数1】
【0025】
ここで、F、λ、l、およびjはそれぞれ、機構の自由度、機構が動作する空間の自由度、機構のリンクの個数、および機構のジョイントの個数を表し、fは、ジョイントiの自由度である。MTG(11)は平面機構であるので、以下のようになる。
λ=3 (E3)
【0026】
さらに、図2および図3を使用して、以下が得られる。
l=9 (E4)
j=12 (E5)
【0027】
図3に示されるように、MTG(11)には、6つの1自由度の回転ジョイント、2つの1自由度の直動ジョイント、および4つの2自由度のシリンダ−イン−スロットジョイントが存在する。したがって、以下が得られる。
【0028】
【数2】
【0029】
式(E3)〜(E6)を式(E2)に代入すると、以下が得られる。
F=4 (E7)
【0030】
一方、機構の現実の自由度は、以下のようになるであろう。
=5 (E8)
【0031】
式(E2)を使用することによって得られる自由度と現実の自由度との間の差の理由は、MTG(11)が、恒久的に臨界形態にある機構であることである。換言すれば、MTG(11)において使用される特別な運動寸法[式(E10)〜(E22)を参照]のために、MTG(11)のジョイントに起因する拘束は、互いから独立していない。これらの特別な運動寸法のため、基礎(1)に固定されたO座標系に関する、点A、B、C、およびDの座標(図2を参照)は、第6、第7、第8、および第9リンクのローラ(6,7,8,9)の中心であり、運動の全体を通して、それぞれ(x,y)、(−x,y)、(−x,−y)、および(x,−y)である。
【0032】
一方、機構の使用が考慮されるとき、機械トルク生成装置の実際の自由度は
g,p=F−4=1 (E9)
であるといえるが、これは、点A、B、C、およびDをそれぞれ通過するz軸に平行な軸を中心とした第6、第7、第8、および第9リンク(6,7,8,9)の回転が、用途において重要性を持たないことによる。
【0033】
MTG(11)において使用される上述された特別な運動寸法が、以下に列挙されている。
【0034】
【数3】
【0035】
式(E11)〜(E13)における記号「⇔」は、「一致する」を意味することを意図されている。一方、式(E14)において、r、r、r、およびrはそれぞれ、第6、第7、第8、および第9リンクのローラ(6,7,8,9)の半径を表す。(xLO_3R,yLO_3R)は、O系に関する、カーブLO3R上の点のx座標およびy座標を表す。一方、(xLO_3L,yLO_3L)は、O系に関する、カーブLO3L上の点のx座標およびy座標を表す。同様に、(xLO_5R,yLO_5R)および(xLO_5L,yLO_5L)はそれぞれ、O系に関する、カーブLO5RおよびカーブLO5L上の点のx座標およびy座標を示す。一方、pはパラメータを表し、その下限および上限はpminおよびpmaxである。換言すれば、以下のようなパラメータpに対する制約が存在する。
min≦p≦pmax (E23)
【0036】
最後に、fおよびgは、カーブLO3R、LO3L、LO5R、およびLO5Lを規定するために使用される2つの関数である。ここで、以下の関数は、連続的であるはずである。
【0037】
【数4】
【0038】
MTG(11)の運動寸法が式(E10)〜(E22)によって与えられる条件を満たすならば、トルク生成装置の運動全体を通して、以下のようになる。
【0039】
【数5】
【0040】
図2において、角度∠Kおよび長さOは、それぞれθ(t)およびs(t)として示されている。
【0041】
MTG(11)のリンクの慣性パラメータによって満たされるべき条件も存在する。これらの条件は、以下に列挙されている。
【0042】
【数6】
【0043】
ここで、G、m、xG_i、およびyG_iはそれぞれ、重心、質量、i番目のリンクリンクに連携されたO系に関する重心のx座標、およびリンクiのO系に関する重心のy座標を表す。一方、IG_iは、Gから延びるzに平行な軸に関するi番目のリンクの慣性モーメントである。
【0044】
最後に、MTG(11)に加えられる外力および外力モーメントによって満たされるべき条件(図2を参照)が、以下に与えられる。
【0045】
【数7】
【0046】
式(E47)において、ベクトルFk_uおよびベクトルFk_lはそれぞれ、ばね定数kおよびkを有するばね(10)によって第3リンクおよび第5リンク(3,5)に加えられる力を示す。
【0047】
ここで、等価な機械トルク生成装置(EqMTG:Equivalent Mechanical Torque Generator)−1&2と名付けられる平面機構を検討する。第1リンクと第2リンクと(1,2)を連結するジョイントの種類を除いて、EqMTG1&2図2において示されるMTGとは、同じ機構である。MTGでは、第2リンク(2)と基礎(1)との間に、回転ジョイントが存在する。一方、EqMTG1&2では、第2リンク(2)と基礎(1)とが、2自由度のシリンダ−イン−スロットジョイントによって互いに連結される。このシリンダ−イン−スロットジョイントは、第1リンク(1)上で、点(Oの経路をx軸[または、原点(Oを通過するいずれかの直線]に一致させる。また、このシリンダ−イン−スロットジョイントはさらに、第2リンク(2)を第1リンク(1)に対して、点(Oを通過するz軸に平行な軸を中心に回転させる。ここで、(Oは、第2リンク(2)上の原点Oを表す。さらに、EqMTG1&2機構の運動寸法は、条件(E10)〜(E22)を満たす。EqMTG1&2機構の自由度が式(E2)を使用することによって計算されるとき、以下が得られる。
F=5 (E49)
【0048】
このようにして得られた自由度は、EqMTG1&2機構の実際の自由度である。このため、MTG(11)機構とは対照的に、EqMTG1&2機構は、恒久的に臨界形態にある機構ではない。EqMTG1&2機構およびMTG(11)機構の運動寸法および入力運動が同じである場合、これらの機構の運動も同じになる。
【0049】
図4では、等価な機械トルク生成装置(EqMTG)−1&3(12)と称される平面機構が示されている。図4におけるカーブC13は、半径bおよび中心U3を有する円上に存在する。ここで、U3は、第3リンク(3)上に存在しかつy軸上に位置付けられる点を表す。EqMTG1&3(12)と図2において示されるMTG(11)とを比較すると、第1リンクと第3リンクと(1,3)を連結するジョイントの種類を除いて、これらの機構が同じであることが理解されるであろう。MTG(11)においては、第3リンク(3)と基礎(1)との間に、直動ジョイントが存在する。一方、EqMTG1&3(12)においては、第3リンク(3)と基礎(1)とは、シリンダ−イン−スロットジョイントによって互いに連結される。このシリンダ−イン−スロットジョイントは、リンク(1)上で、点U3の経路をy軸に一致させる。また、このシリンダ−イン−スロットジョイントはさらに、第3リンク(3)を第1リンク(1)に対して、点U3を通過するz軸に平行な軸を中心に回転させる。さらに、EqMTG1&3機構(12)の運動寸法は、条件(E10)〜(E22)を満たす。EqMTG1&2機構と同様に、EqMTG1&3機構(12)は、恒久的な臨界形態にはない5自由度の機構である。ここでも、EqMTG1&2機構の場合のように、EqMTG1&3(12)機構およびMTG(11)機構の運動寸法および入力運動が同じである場合、EqMTG1&3(12)機構およびMTG(11)機構の運動も同じになる。
【0050】
一方で、等価な機械トルク生成装置−1&4(EqMTG1&4)機構は、EqMTG1&2機構と同様に、MTG(11)において第4リンク(4)と基礎(1)とを連結する回転ジョイントを排除し、これをシリンダ−イン−スロットジョイントと置き換えることによって得られる。このシリンダ−イン−スロットジョイントは、第1リンク(1)上で、点(Oの経路を、x軸[または、原点(Oを通過するいずれかの線]に一致させる。また、このシリンダ−イン−スロットジョイントはさらに、第4リンクを第1リンク(1)に対して、点(Oを通過するz軸に平行な軸を中心に回転させる。ここで、(Oは、第4リンク(4)上の原点Oを表す。EqMTG1&3機構と同様に、等価な機械トルク生成装置−1&5(EqMTG1&5)機構は、MTG(11)において第5リンク(5)と基礎(1)とを連結する直動ジョイントを排除し、これをシリンダ−イン−スロットジョイントに置き換えることによって得られる。このシリンダ−イン−スロットジョイントは、第1リンク(1)上で、点(Uの経路をy軸に一致させる。また、このシリンダ−イン−スロットジョイントはさらに、第5リンク(5)を第1リンク(1)に対して、点(U5)を通過するz軸に平行な軸を中心に回転させる。ここで、(U5)は、第5リンク(5)上に存在しかつy軸上に位置付けられる点を表す。EqMTG1&4機構およびEqMTG1&5機構は、EqMTG1&2およびEqMTG1&3(12)と同じ特性を有する。
【0051】
ここで、図4に示される(EqMTG1&3)(12)機構に関連して、以下に与えられる6つの条件を検討する。
(C1) 機構の運動寸法が、式(E10)〜(E22)を満たす。
(C2) 機構の慣性パラメータが、式(E26)〜(E44)を満たす。
(C2) 機構の負荷条件が、式(E45)〜(E48)を満たす。
(C4) 重力加速度g(ベクトル)がゼロである。
(C5) 第6、第7、第8、および第9リンク(6,7,8,9)を第2リンクおよび第4リンク(2,4)に連結する4つの回転ジョイントの摩擦関連特性が互いに等しい。
(C6) 第6、第7、第8、および第9リンク(6,7,8,9)を第3リンクおよび第5リンク(3,5)に連結する4つのシリンダ−イン−スロットジョイントの摩擦関連特性が互いに等しい。
【0052】
上記の条件が満たされる場合、機構を基礎(1)に連結するジョイントにおける全ての反力および反力モーメントが、常に[すなわち、任意の所与の入力運動s(t)に対して、式(E1)によって与えられる任意の所与のθ=f(s)の関係に対して、および任意の時間tに対して]以下のように得られるであろう。
【0053】
【数8】
【0054】
ここで、ベクトルF1i(t)およびベクトルM1i(t)[i=2,3,4,5]は、回転ジョイント、直動ジョイント、またはシリンダ−イン−スロットジョイントに起因して生じる、基礎によってi番目のリンクに及ぼされる反力および反力モーメントを表す。一方、F1iおよびF1iは、力F1i(ベクトル)のx成分およびy成分を示す。さらに、ベクトルi、ベクトルj、およびベクトルkは、x軸、y軸、およびz軸に平行な単位ベクトルである。式(E50)〜(E54)から明らかに理解できるように、EqMTG1&3機構(12)によって基礎(1)に伝達される振動力および振動モーメントのz成分はゼロである。さらに、機構を基礎に連結する4つのジョイントの各々における反力および反力モーメントはゼロであるので、これらのジョイントの各々におけるクーロン摩擦力もゼロになる。なお、ここで、EqMTG1&3(12)によって生み出されるトルクがどのようであれ、またEqMTG1&3(12)のリンクの加速度がどのようであれ、振動力、振動モーメント、および摩擦力は依然としてゼロである。
【0055】
EqMTG1&3(12)機構が満たさねばならない条件、すなわち上で与えられた条件C1〜C6が、EqMTG1&2機構、EqMTG1&4機構、およびEqMTG1&5機構においても同様に、生成されるトルクT(θ)およびリンクの加速度から独立してである満たされる場合、機構を基礎に連結する4つのリンクの各々において基礎に伝達される振動力、基礎に伝達される振動モーメント、およびクーロン摩擦力はゼロになる。
【0056】
既に説明されたように、図2において示されているMTG(11)は、恒久的に臨界形態にある機構である。この理由により、機構の動的な力の分析は、静的な不確定性を含む問題になる。換言すれば、機構の動的な力の分析を行うためには、剛体力学から得られた方程式に加えて、リンクの柔軟性から生じる変形方程式も必要である。この理由により、剛体力学から得られる方程式のみが使用されるとき、MTG(11)の動的な力の分析は、無数の解を生むことになる。MTG(11)が、先立って与えられたEqMTG1&3機構(12)に関連する6つの条件(すなわち条件C1〜C6)を満たす場合、上記の解は、EqMTG1&2機構、EqMTG1&3(12)機構、EqMTG1&4機構、およびEqMTG1&5機構の動的な力の分析の解、すなわち式(E50)〜(E54)によって与えられる解をも含む。このため、MTG(11)のリンクの柔軟性を適切に設計することにより、機構を基礎に連結する4つのジョイントの各々において基礎に伝達される振動力、基礎に伝達される振動モーメント、およびクーロン摩擦力を、ゼロまたはほぼゼロにすることも可能である。
【0057】
MTG(11)機構、EqMTG1&2機構、EqMTG1&3(12)機構、EqMTG1&4機構、およびEqMTG1&5機構に関連する6つの条件のうちの1つである条件(C4)が満たされない(すなわち重力加速度gがゼロではない)場合、機構を基礎に連結する4つのジョイントの各々において基礎に伝達される振動力、基礎に伝達される振動モーメント、およびクーロン摩擦力は、ゼロにはならないものの、基本的にはこれらは、リンクの重量のみに起因し、生成されたトルクT(θ)およびリンクの加速度から独立しているであろう。
【0058】
図5では、負荷に関してのみMTG(11)とは異なる機構が示されている。この機構では、MTG(11)において存在する2つのばね(10)が排除されている。そして、代わりに外力F(s)およびF(s)が加えられている。上記2つの外力は、以下で与えられる条件を満たすものとする。
(s)⇔(y軸) (E55)
(s)⇔(y軸) (E56)
(s)=F(s) (E57)
【0059】
図5において与えられる機構は、摩擦および振動が最小の−あらゆる回転に対して並進する機構(MinFaS−TaR:Minimum Friction and Shaking−Translation to any Rotation)(13)と称される。この機構は、MTG(11)機構と同様に、恒久的に臨界形態にある。MTG(11)機構およびMinFaS−TaR(13)機構の、運動寸法、慣性パラメータ、および負荷条件によって満たされるべき条件は、図6に示される表において与えられる。
【0060】
ここで、EqMTG1&3(12)機構と同様に、等価な、摩擦および振動が最小の−あらゆる回転に対して並進する−1&3(EqMinFaS−TaR1&3)機構と称される機構について検討する。第1リンクと第3リンク(1および3)とを連結するジョイントの種類を除いて、EqMinFaS−TaR1&3機構とMinFaS−TaR(13)機構とは同じである。MinFaS−TaR(13)では、第3リンク(3)と基礎(1)との間に直動ジョイントが存在する。一方、EqMinFaS−TaR1&3機構では、第3リンク(3)と基礎(1)とが、シリンダ−イン−スロットジョイントによって連結されている。このシリンダ−イン−スロットジョイントは、リンク(1)上で点U3が従う経路を、y軸に一致させる。また、このシリンダ−イン−スロットジョイントはさらに、第3リンク(3)を第1リンク(1)に対して、点U3を通過するz軸に平行な軸を中心に回転させる。ここで、U3は、y軸上に位置付けられる第3リンク(3)上の点を表す。MinFaS−TaR(13)機構とは対照的に、EqMinFaS−TaR1&3機構は、恒久的に臨界形態にある機構ではない。EqMinFaS−TaR1&3機構およびMinFaS−TaR(13)機構の運動寸法および入力運動が同じである場合、これらの機構の運動も同じである。
【0061】
EqMinFaS−TaR1&2機構、EqMinFaS−TaR1&4機構、およびEqMinFaS−TaR1&5機構も、EqMinFaS−TaR1&3機構と同様に規定される。(機構を基礎に連結する4つのジョイントの各々において基礎に伝達される振動力、基礎に伝達される振動モーメント、およびクーロン摩擦力に関連する)MTG(11)機構、EqMTG1&2機構、EqMTG1&3(12)機構、EqMTG1&4機構、およびEqMTG1&5機構に関して先立ってなされた主張は全て、MinFaS−TaR(13)機構、EqMinFaS−TaR1&2機構、EqMinFaS−TaR1&3機構、EqMinFaS−TaR1&4機構、およびEqMinFaS−TaR1&5機構に関しても有効である。換言すれば、MinFaS−TaR(13)機構、EqMinFaS−TaR1&2機構、EqMinFaS−TaR1&3機構、EqMinFaS−TaR1&4機構、およびEqMinFaS−TaR1&5機構において、機構を基礎に連結する4つのジョイントの各々において基礎に伝達される振動力、基礎に伝達される振動モーメント、およびクーロン摩擦力は、基本的にはリンクの重量のみに起因するであろう。
【0062】
既に説明されたように、負荷条件が考慮されない場合、図2および図5において示されるMTG(11)機構およびMinFaS−TaR(13)機構は相違しない。換言すれば、運動学的な観点からは、MTG(11)機構およびMinFaS−TaR(13)機構は、同じ機構である。いずれの機構も、[6つの回転ジョイント、2つの直動ジョイント、および4つのシリンダ−イン−スロットジョイントを図3の表に従って使用して、9つのリンクを互いに連結することによって得られ、運動寸法が条件(E10)〜(E22)を満たす]平面運動機構から、第1リンク(1)を運動不可能にすることによって(すなわち第1リンク(1)を基礎とすることによって)得られる。本明細書においては、上述された新規な運動機構は、2つの最適な回転ジョイントおよび2つの最適な直動ジョイントを有する運動機構(Kinematic Chain with 2 Optimum Revolute and 2 Optimum Prismatic Joints)(KCw2ORa2OPJ)と称される。KCw2ORa2OPJは恒久的に臨界形態にある機構であるので、この機構から運動学的置換方法を使用することによって得られる全ての機構も、恒久的に臨界形態にある機構になる。
【0063】
本明細書において、負荷条件を除いて相違しないEqMTG1&3(12)機構およびEqMinFaS−TaR1&3機構が導かれる元となっている運動機構は、2つの最適な回転ジョイントおよび2つの最適な直動ジョイントを有する等価な運動機構−1&3(EqKCw2ORa2OPJ1&3:Equivalent Kinematic Chain with 2 Optimum Revolute and 2 Optimum Prismatic Joints-1&3)と称される。EqKCw2ORa2OPJ1&3は、その運動寸法が条件(E10)〜(E22)を満たしており、恒久的な臨界形態にはない平面運動機構であるので、この運動機構から運動学的置換の方法を使用することによって得られる全ての機構も、恒久的な臨界形態ではない機構になる。
【0064】
同様に、[負荷条件が考慮されなければ全く相違しない]EqMTG1&2機構およびEqMinFaS−TaR1&2機構が導かれる元になる運動機構は、本明細書では、2つの最適な回転ジョイントおよび2つの最適な直動ジョイントを有する等価な運動機構−1&2(EqKCw2ORa2OPJ1&2)と称される。さらに、EqMTG1&4機構およびEqMinFaS−TaR1&4機構が導かれる元になる運動機構、ならびにEqMTG1&5機構およびEqMinFaS−TaR1&5機構が導かれる元になる運動機構は、本明細書においてはそれぞれ、2つの最適な回転ジョイントおよび2つの最適な直動ジョイントを有する等価な運動機構−1&4(EqKCw2ORa2OPJ1&4)、および2つの最適な回転ジョイントおよび2つの最適な直動ジョイントを有する等価な運動機構−1&5(EqKCw2ORa2OPJ1&5)と称される。EqKCw2ORa2OPJ1&2、EqKCw2ORa2OPJ1&4、およびEqKCw2ORa2OPJ1&5の平面運動機構は、それらの運動寸法が条件(E10)〜(E22)を満たしており、恒久的な臨界形態ではない運動機構であるので、これらの運動機構から運動学的置換の方法を使用することによって得られる機構も、恒久的な臨界形態ではない機構になる。
【0065】
運動機構EqKCw2ORa2OPJ1&2およびEqKCw2ORa2OPJ1&4は、実際には同じ運動機構であるが、本明細書においては、表記をこれ以上複雑にしないように異なる名称を有する。同じ理由により、運動機構EqKCw2ORa2OPJ1&3およびEqKCw2ORa2OPJ1&5は、異なる運動機構ではないが、本明細書においては異なる名称を有する。
【0066】
EqKCw2ORa2OPJ1&2運動機構、EqKCw2ORa2OPJ1&3運動機構、EqKCw2ORa2OPJ1&4運動機構、およびEqKCw2ORa2OPJ1&5運動機構から運動学的置換の方法によって得られる全ての機構が、条件(C1)〜(C6)を満たすならば、第1リンク(1)を第2、第3、第4、および第5リンク(2,3,4,5)に連結する4つのジョイントの各々における反力および反力モーメントならびにクーロン摩擦力は、第1リンク(1)のみに作用する外力および外力モーメント、ならびにダランベールの原理によって第1リンク(1)に作用する慣性力および慣性モーメントから生じることになる。換言すれば、EqMTG1&2機構、EqMTG1&3(12)機構、EqMTG1&4機構、およびEqMTG1&5機構と同様に、上述された4つのジョイントにおける反力、反力モーメント、およびクーロン摩擦力は、第1リンク(1)以外のリンクの加速度、ならびにT(θ)、T(θ)、ベクトルFk_uおよびベクトルFk_lから独立したものになる。
【0067】
既に説明されたように、運動機構KCw2ORa2OPJから得られる機構は、恒久的に臨界形態にある機構になる。この理由により、これらの機構の動的な力の分析は、静的な不確定性を含む問題をもたらすであろう。一方、KCw2ORa2OPJ運動機構から運動学的置換の方法を用いて得られる機構が条件(C1)〜(C6)を満たす場合、そしてさらに、MTG(11)機構と同様に、リンクの柔軟性が適切な様式で設計されている場合、第1リンク(1)を第2、第3、第4、および第5リンク(2,3,4,5)に連結する2つの回転ジョイントおよび2つの直動ジョイントの各々における反力および反力モーメントならびにクーロン摩擦力の大部分が、第1リンク(1)のみに作用する外力および外力モーメント、ならびにダランベールの原理によって第1リンク(1)に作用する慣性力および慣性モーメントから生じることになる。換言すれば、上述された4つのジョイントにおける、反力、反力モーメント、およびクーロン摩擦力の大部分が、第1リンク(1)以外のリンクの加速度、ならびにT(θ)、T(θ)、ベクトルFk_uおよびベクトルFk_lから独立したものになる。
【0068】
運動機構EqKCw2ORa2OPJ、EqKCw2ORa2OPJ1&2、EqKCw2ORa2OPJ1&3、EqKCw2ORa2OPJ1&4、およびEqKCw2ORa2OPJ1&5において、条件(C4)が満たされない場合、すなわち重力加速度がゼロでない場合、第1リンクをその他のリンクに連結する4つのジョイントの各々における反力および反力モーメントならびにクーロン摩擦力はさらに、リンクの重量にも依存することになる。
【0069】
知られているように、実際の用途では、直動ジョイントによって互いに連結される2つのリンクは、加圧された油または気体を収容するピストン−シリンダ対と等価である。この理由により、運動学的置換の方法を使用して、2つの直動ジョイントを有する運動機構EqKCw2ORa2OPJ、EqKCw2ORa2OPJ1&2、EqKCw2ORa2OPJ1&4、ならびに1つの直動ジョイントを有する運動機構EqKCw2ORa2OPJ1&3およびEqKCw2ORa2OPJ1&5から得られることになる機構は、液圧でまたは空気圧で作動される機械、内燃機関、および圧縮機などの多くの異なる分野において有用であると期待される。上述された機構では、任意の数のアクチュエータが使用されてもよい。さらに、機構における任意の2つのリンクの間に、ばねおよび/または緩衝装置が取り付けられてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6