(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491244
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】耐UV性超疎水性コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 127/12 20060101AFI20190318BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20190318BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20190318BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20190318BHJP
C09D 7/48 20180101ALI20190318BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20190318BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20190318BHJP
H01B 3/40 20060101ALI20190318BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20190318BHJP
B05D 7/20 20060101ALI20190318BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20190318BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20190318BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20190318BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20190318BHJP
H01B 3/30 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
C09D127/12
C09D163/00
C09D7/62
C09D7/61
C09D7/48
C09D5/16
C09K3/18 101
C09K3/18 102
H01B3/40 M
B05D5/00 Z
B05D7/20
B05D7/24 301T
B32B27/30 D
B32B27/38
B32B27/18 A
B32B27/18 Z
H01B3/30 N
【請求項の数】24
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-575029(P2016-575029)
(86)(22)【出願日】2015年6月20日
(65)【公表番号】特表2017-529409(P2017-529409A)
(43)【公表日】2017年10月5日
(86)【国際出願番号】US2015036840
(87)【国際公開番号】WO2015200146
(87)【国際公開日】20151230
【審査請求日】2017年2月8日
(31)【優先権主張番号】62/015,771
(32)【優先日】2014年6月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593097764
【氏名又は名称】サウスワイヤー・カンパニー・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】SOUTHWIRE COMPANY,LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100106448
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 伸介
(72)【発明者】
【氏名】ユーシン・ハウィグ
【審査官】
仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−041484(JP,A)
【文献】
特開平07−186322(JP,A)
【文献】
特開2011−148107(JP,A)
【文献】
特開平01−110140(JP,A)
【文献】
特表2010−514599(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/092835(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0264093(US,A1)
【文献】
特開2004−068815(JP,A)
【文献】
特開2013−189569(JP,A)
【文献】
特開2001−011372(JP,A)
【文献】
特開2003−336005(JP,A)
【文献】
特開2008−056750(JP,A)
【文献】
特開2001−192850(JP,A)
【文献】
特表2017−508023(JP,A)
【文献】
特表2017−514928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 127/12
C09D 163/00
C09D 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材用のコーティング組成物であって、
フルオロポリマー又はエポキシポリマー樹脂を含むポリマーバインダ;
1つ又は複数の疎水性二酸化ケイ素組成物であって、二酸化ケイ素よりも高い疎水性を有する化合物を規定するように疎水性ポリマー官能基を結合させた二酸化ケイ素を含む前記疎水性二酸化ケイ素組成物;
二硫化モリブデン;並びに
酸化亜鉛及び二酸化チタンから選ばれる少なくとも一つのUV保護剤
を含む、前記コーティング組成物。
【請求項2】
前記ポリマーバインダは、75℃〜350℃のガラス転移温度又は融点を有する、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記バインダは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)及びポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)からなる群から選択される少なくとも1つのフルオロポリマーを含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記バインダは、20℃〜27℃の温度及び硬化の開始前において、1センチポアズ〜25000センチポアズの粘度を有する少なくとも1つのエポキシポリマー樹脂を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記コーティング組成物は、少なくとも50重量%の前記ポリマーバインダ、0.5重量%〜15重量%の前記1つ又は複数の疎水性二酸化ケイ素組成物、0.1重量%〜15重量%の二硫化モリブデン、及び0.1重量%〜10重量%の前記1つ又は複数のUV保護剤を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記UV保護剤のうちの少なくとも1つは酸化亜鉛を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記1つ又は複数の疎水性二酸化ケイ素組成物は、アルキル、アルコキシ、シリル、アルコキシシリル及びシロキシからなる群から選択される少なくとも1つの官能基を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
前記1つ又は複数の疎水性二酸化ケイ素組成物は、メチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、オクチルシラン、ヘキサデシルシラン、メタクリルシラン、ジメチルジクロロシラン(DDS)及びオクタメチルシクロテトラシロキサンからなる群から選択される少なくとも1つの官能基を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
請求項1に記載のコーティング組成物でコーティングされたコンダクタケーブル。
【請求項10】
前記コンダクタケーブルは裸線架空コンダクタケーブルである、請求項9に記載のコンダクタケーブル。
【請求項11】
前記コンダクタケーブルは、アルミニウム、鋼鉄、又は炭素繊維ポリマー複合材料を含む、請求項9に記載のコンダクタケーブル。
【請求項12】
前記コンダクタケーブルの外側表面が、厚さ0.00001インチ〜0.030インチの前記コーティング組成物でコーティングされる、請求項9に記載のコンダクタケーブル。
【請求項13】
前記コンダクタケーブルは接地裸線ワイヤである、請求項9に記載のコンダクタケーブル。
【請求項14】
前記コンダクタは、銅、アルミニウム又はアルミニウム合金を含む剛性コンダクタ材料を含む、請求項9に記載のコンダクタ。
【請求項15】
複数の素線ワイヤを含むコンダクタケーブルであって、少なくとも1つの前記素線ワイヤは、請求項1に記載のコーティング組成物でコーティングされる、前記コンダクタケーブル。
【請求項16】
基材用のコーティング組成物であって、
バインダであって:
1つ若しくは複数のフルオロポリマー;又は
1つ若しくは複数のエポキシポリマー樹脂
を含む前記バインダ;
1つ又は複数の疎水性二酸化ケイ素組成物であって、二酸化ケイ素よりも高い疎水性を有する化合物を規定するように疎水性ポリマー官能基を結合させた二酸化ケイ素を含む前記疎水性二酸化ケイ素組成物;
二硫化モリブデン;及び
酸化亜鉛及び二酸化チタンから選ばれる少なくとも一つのUV保護剤
を含み、
前記コーティング組成物が少なくとも150時間の期間にわたって少なくとも1W/m2のUV照射で曝露された後の前記コーティング組成物上に形成された水滴の接触角が、少なくとも140°である、前記コーティング組成物。
【請求項17】
前記コーティング組成物が少なくとも470時間の期間にわたって少なくとも1W/m2のUV照射で曝露された後の前記コーティング組成物上に形成された水滴の前記接触角が、少なくとも140°である、請求項16に記載のコーティング組成物。
【請求項18】
基材表面にコーティング組成物を提供する方法であって、
ポリマーバインダ、
1つ又は複数の疎水性二酸化ケイ素組成物であって、二酸化ケイ素よりも高い疎水性を有する化合物を規定するように疎水性ポリマー官能基を結合させた二酸化ケイ素を含む前記疎水性二酸化ケイ素組成物、
二硫化モリブデン、並びに
酸化亜鉛及び二酸化チタンから選ばれる少なくとも一つのUV保護剤
の混合物を前記基材表面に塗布して、前記基板表面上に前記コーティング組成物を形成するステップを含み、
前記ポリマーバインダは、フルオロポリマー又はエポキシポリマー樹脂を含む、前記方法。
【請求項19】
前記基材表面は、裸線架空コンダクタケーブルの外側表面の一部分を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記混合物は、液体キャリア中で形成され、
前記混合物を前記基材表面に塗布する前記ステップは、さらに:
前記混合物を含む前記液体キャリアを前記基材表面に塗布するステップ
を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記基材表面を乾燥させて、前記液体キャリアを除去することにより、前記基材表面に付着した前記混合物を含む前記コーティング組成物を形成するステップをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記ポリマーバインダは、1つ又は複数のエポキシポリマー樹脂を含み、さらに:
前記基材表面に塗布した前記液体キャリア中の前記1つ又は複数のエポキシポリマー樹脂を硬化させるステップ
を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記混合物を前記基材表面に塗布するステップは、さらに:
前記混合物を乾燥粉体として前記基材表面に塗布するステップ;及び
前記基材表面を加熱して、前記基材表面に付着した前記混合物を含む前記コーティング組成物を形成するステップ
を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記混合物を前記基材表面に塗布するステップは、前記混合物の塗布前に前記基材表面に対していずれの摩擦を実施することなく行われる、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年6月23日出願の米国仮特許出願第62/015771号、名称「耐UV性超疎水性コーティング組成物(UV‐Resistant Superhydrophobic Coating Compositions)」に対する優先権を主張するものであり、上記仮特許出願の開示全体は、参照により本出願に援用される。
【0002】
本発明は、架空送電線用の裸線架空コンダクタ、及び裸線接地ワイヤを含むコンダクタ等の基材のためのコーティングに関する。
【背景技術】
【0003】
架空送電線は、長距離に及ぶ送電及び電力分配を提供する。送電線は典型的には、塔及び/又はポールによって支持され、これにより、地面から安全な距離に懸架されて、送電作業中のエネルギ供給された線との危険な接触が防止される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンダクタ等の基材に対して、氷の蓄積に対する耐性を有し、撥水効果を有し、自浄作用を有し、(例えばUV曝露による、並びに酸性雨及び他の汚染への曝露による)外部環境からの摩耗に対する耐性を有する、十分なコーティングを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
コーティング組成物は、ポリマーバインダ、1つ又は複数の疎水性二酸化ケイ素組成物、及び1つ又は複数のUV防護剤を含む。上記ポリマーバインダは、フルオロポリマー又はエポキシポリマー樹脂を含むことができる。ある例示的実施形態では、上記ポリマーバインダは1つ又は複数のフルオロポリマーを含む。別の例示的実施形態では、上記ポリマーバインダは1つ又は複数のエポキシポリマー樹脂を含む。更なる例示的実施形態では、上記ポリマーバインダは、1つ又は複数のフルオロポリマーと1つ又は複数のエポキシポリマー樹脂との混合物を含む。ある例示的実施形態では、上記コーティング組成物はまた、二硫化モリブデンも含むことができる。上記コーティング組成物は、裸線架空コンダクタの外側表面といった、基材表面に塗布される。
【0006】
本発明のこれらの及び/又は他の特徴、態様及び利点は、添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読むとより良く理解される。上記図面中では、全ての図を通して同様の記号は同様の部品を表す。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本出願に記載のコーティングが塗布されるアルミニウムコンダクタ鋼鉄支持型(aluminum conductor steel supported:ACSS)丸線(round wire:RW)コンダクタケーブルを示す、部分断面側面図である。
【0008】
【
図2】
図2は、本出願に記載のコーティングが塗布されるアルミニウムコンダクタ鋼鉄支持型(ACSS)トラップワイヤ(trap wire:TW)コンダクタケーブルを示す、部分断面側面図である。
【0009】
【
図3】
図3は、本出願に記載のタイプのコーティング組成物を含む
図1のコンダクタケーブルを示す、部分断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本出願に記載されるように、コンダクタ用の耐UV性超疎水性コーティングは、耐熱性及び耐化学性を有し、耐透過性であり、好適な可撓性も有しながら十分な硬度及び靭性を有する新規の組成物から形成され、適度に軽量である。このコーティング組成物には、耐摩擦特性も付与できる。上記コーティング組成物は、疎水性ポリマーバインダ、1つ又は複数の疎水性シリカ組成物、摩擦軽減剤及び/又は1つ若しくは複数のUV保護剤を含むことができる。本出願に記載されるように、上記コーティング組成物は、湿潤型技法(例えばスプレーコーティング、ブラシ塗装、ローラ塗装又は他のいずれの好適な湿潤型塗布)及び乾燥型技法(例えば乾燥粉体コーティング)といった、いずれの好適な技法によって、基材表面に塗布できる。
【0011】
上記コーティング組成物は、送電線に典型的に使用される裸線架空コンダクタ(すなわち地面上方に懸架された架空電線)といった、電力の架空送達のための送電ケーブルに対して特に好適である。本発明のコーティング組成物を塗布できる裸線架空コンダクタのタイプの例としては、アルミニウムコンダクタ鋼鉄支持型(ACSS)ケーブル、アルミニウムコンダクタ鋼鉄補強型(aluminum conductor steel reinforced:ACSR)ケーブル、アルミニウムコンダクタ複合体支持型(aluminum conductor composite supported:ACCS)ケーブル、アルミニウムコンダクタ複合体補強型(aluminum conductor composite reinforced:ACCR)ケーブル、及びアルミニウムコンダクタ鋼鉄コア(aluminum conductor composite core:ACCC)ケーブルが挙げられるがこれらに限定されず、これらはそれぞれ、丸線(RW)タイプ、トラップワイヤ(TW)タイプ及び/又は他のいずれの好適なコンダクタタイプの電気用素線又はワイヤを含んでよい。例えば上記コーティング組成物は、ACSS/AWコンダクタ、ACSR/TWコンダクタ、ACSR/RWコンダクタ、ACSR/AWコンダクタ、AACコンダクタ、AAC/TWコンダクタ、ACARコンダクタ、AAACコンダクタ、耐運動性コンダクタ、並びに他のタイプのコンダクタを含むがこれらに限定されない裸線架空コンダクタタイプに対して提供でき、上記他のタイプのコンダクタとしては、Southwire Company(米国ジョージア州)から商品名VR2(登録商標)、HS285及びC
7として市販されているコンダクタが挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
上記コンダクタは、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、鋼鉄、鋼鉄合金、ポリマー複合体(例えば、熱可塑性ポリマーマトリックス等のポリマーマトリックス中に埋入された炭素繊維を含む炭素繊維ポリマー複合体コア(ここで上記炭素繊維ポリマー複合体コアは、米国特許第9012781号に記載されているタイプのものであってよく、上記特許の開示は参照によりその全体が本出願に援用される)、並びに/又はコンダクタコア及び/若しくはコンダクタの他のいずれの部分を構成する他のいずれの好適なタイプの導電性若しくは非導電性材料のうちの、いずれの1つ又は組み合わせを含むことができる。さらに、上記コーティング組成物を他のいずれの基材に塗布することによって、超疎水性及びUV保護を上記基材にも提供できることに留意されたい。上記コンダクタは、上記コンダクタの長さで延在する1つ又は複数の導電性素線又はワイヤを備えることができるコア部材を含むことができ、上記導電性ワイヤは、上記コンダクタの中心軸に沿ったいずれの好適な構成又は配列で配設できる。例えばコンダクタは、複数のワイヤの1つ又は複数の層を備えるコア部材を含むことができ、各層内の上記ワイヤは、いずれの好適な様式で配設される(例えば互いに撚られている、層内で一体に巻き付く、等)。上記コア部材はさらに、上記コア部材の中央の単一の中心素線又はワイヤと、上記中心ワイヤの周りに延在する複数のワイヤの1つ又は複数の層とを含むことができる。またさらに、上記コア部材は、コアケーブル又は素線(これは導電性であっても非導電性であってもよい)、及び上記コアケーブル又は素線の周りに延在する1つ又は複数の導電性素線又はワイヤを含むことができる。上記導電性ワイヤ及び/又はコアケーブル若しくは素線は、約1mm以下から約5cm以上までの断面寸法(すなわちワイヤの長さを横断する寸法、例えば円形断面を有するワイヤに関しては直径)を有するワイヤを含む、いずれの好適な寸法を有することができる。コンダクタの外側横断方向断面(例えば外径)もまた、特定の用途によって大幅に変動してよく、コンダクタによっては約5cm以下から約30cm以上の直径を有することができる。
【0013】
ACSS RWケーブルのある例示的実施形態を
図1に示し、ACSS TWケーブルのある例示的実施形態を
図2に示す。各実施形態において、ACSSケーブルは、鋼鉄ワイヤと、上記鋼鉄ワイヤのコア部分の周りに周方向に整列されたアルミニウムワイヤ4の2つ以上の層とを含む、ケーブルの中心又はコア部分2を有する、同心に整列又は層形成された素線又はワイヤを含む(例えば上記アルミニウムワイヤは、1350‐0(完全に軟化するようにアニーリングされた状態)の硬度を有することができる)。アルミニウムワイヤ4‐1は、
図1に示すACSS RWケーブルタイプに関して示されているような円形又は丸みを帯びた構成を有し、アルミニウムワイヤ4‐2のうちの少なくともいくつかは、
図2に示すACSS TWケーブルタイプに関する、概ね台形の形状を有する。ケーブル内の鋼鉄及びアルミニウムワイヤを、合金又は他のいずれの好適なコーティングでコーティングすることによって、腐食を防止し、ワイヤに対するその他の保護を提供し、ケーブル内の送電性能を増強できる。さらに、ケーブル内のワイヤは、純粋なアルミニウム、1つ若しくは複数のアルミニウム合金、銅及び/又は他の好適な導電性材料を含むことができ、これによって送電性能を増強できる。コアワイヤは、鋼鉄、コーティング済み鋼鉄、アルミニウム、アルミニウム合金及び/又は他の複合材料を含むことができる。コーティング組成物はさらに、最外層、及び/又はコンダクタの個々のワイヤのうちの1つ若しくは複数に塗布できる。コンダクタは中実の単一コンダクタ(例えば裸線接地銅ワイヤ等の裸線接地ワイヤ)、又は多素線コンダクタとすることができる。上記多素線コンダクタは、複数のワイヤの単一の層、又は複数のワイヤの複数の層を備えることができる。特定のACSS RW及びACSS TWケーブルタイプは、例えばSouthwire Company(米国ジョージア州)から市販されている。ACSSケーブルは、架空配電線における使用のために設計され、このようなケーブルは、最高約250°の高温において強度の損失なく継続的に動作するよう構成される。さらに、これらのケーブルタイプは単なる例示を目的として提供されており、本出願に記載のコーティングは、これらのケーブルタイプとの実装に限定されず、他のいずれのタイプの裸線架空コンダクタ及び他のタイプのコンダクタをコーティングするために使用できることに留意されたい。
【0014】
コンダクタコーティング組成物は、疎水性ポリマーベース又はバインダといったポリマーベース又はバインダを含む。好ましくは、本発明によるコーティング組成物を形成するために好適なポリマーバインダのタイプとしては、熱可塑性フルオロポリマー及び熱硬化性ポリマー樹脂(エポキシポリマー樹脂等)が挙げられる。例えばポリマーバインダは1つ若しくは複数のフルオロポリマーを含むことができ、ポリマーバインダは1つ若しくは複数のエポキシポリマー樹脂を含むことができ、又はポリマーバインダは、1つ若しくは複数のフルオロポリマーと1つ若しくは複数のエポキシポリマー樹脂との混合物を含むことができる。
【0015】
ポリマーバインダ材料は好適には、コーティング組成物の使用に関する異なる複数の用途に応じて、幅広い温度において安定である必要がある。例えばコンダクタ用のコーティング組成物は、(例えば電気的付加又はコンダクタ部材を流れる電流による)コンダクタ部材の温度上昇に耐えるために、十分に高い熱安定性又は等級(rating)を有する必要がある。ポリマーバインダ材料の作用発現(onset)又は軟化は、ポリマーバインダ材料のガラス転移温度(T
g)及び/又はポリマーバインダの融点(T
m)(すなわち上記ポリマーが固体から液体に変化する温度点)とも呼ばれ、これは、内部コンダクタ部材から放散される熱に耐えられるよう、十分に高い必要がある。フルオロポリマー及び/又はエポキシポリマー樹脂を含むポリマーバインダ材料に関して好適なT
g又はT
m値は、約75℃〜約350℃、例えば約100℃〜約300℃、約150℃〜約280℃、及び/又は約200℃〜約250℃とすることができる。
【0016】
ポリマーバインダは、コーティング組成物の主要部分(すなわちコーティング組成物の50重量%以上)を構成する。特にポリマーバインダは、コーティング組成物の少なくとも約60重量%、コーティング組成物の少なくとも約70重量%、コーティング組成物の少なくとも約80重量%、又はコーティング組成物の少なくとも約90重量%を構成できる。
【0017】
上記コーティング組成物の一部として実装するために好適なタイプの熱可塑性フルオロポリマーバインダの、いくつかの非限定的な例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、並びにこれらの組み合わせ(例えばPTFE、PVDF及びPHFPのうちの1つ又はいずれの組み合わせ)が挙げられる。本発明のコーティング組成物のバインダを形成するために好適な、PTFE、PVDF及びPHFPのうちの1つ又は複数を含む、フルオロポリマーのいくつかの具体的な例は、商品名DYNEON THV 500G(3M Corporation)、DYNEON FEP 6322(3M Corporation)、Dupont FEP 9494(DuPont Corporation)及びDupont FEP 106(Dupont Corporation)として市販されている。DYNEON THVフルオロポリマー組成物はPTFE、PVDF及びPHFPを含み、FEPフルオロポリマー組成物はPTFE及びPHFPを含む。ある例示的実施形態では、フルオロポリマーバインダは、バインダの約0〜約70重量%のTHVフルオロポリマー(PTFE、PVDF及びPHFP)と、バインダの約30〜約90重量%のFEPフルオロポリマー(PTFE及びPHFP)を含む。別の例示的実施形態では、フルオロポリマーバインダは、その全体又は略全体がFEPフルオロポリマー(PTFE及びPHFP)からなる。
【0018】
上記コーティング組成物の一部として実装するために好適なタイプの熱硬化性ポリマー樹脂の、いくつかの非限定的な例は、グリシジルエポキシポリマー樹脂及び非グリシジルエポキシポリマー樹脂等のエポキシポリマー樹脂である。グリシジルエポキシポリマー樹脂は、好適なジヒドロキシ化合物、二塩基酸又はジアミンと、エピクロロヒドリンとの縮合反応によって調製でき、非グリシジルエポキシポリマー樹脂は、好適なポリマー化合物中のオレフィン二重結合の過酸化によって形成できる。グリシジルエポキシポリマー樹脂は、グリシジル‐アミンポリマーの組み合わせ、グリシジル‐エステルポリマーの組み合わせ、及びグリシジル‐エーテルポリマーの組み合わせを含むことができる。グリシジルエポキシポリマー樹脂のいくつかの具体的な例としては、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFEPエポキシ樹脂、ビスフェノールSエポキシ樹脂及びノボラック(フェノール‐ホルムアルデヒド)エポキシ樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。非グリシジルエポキシポリマー樹脂としては、脂肪族ポリマー及び/又は脂環式ポリマーを挙げることができる。コーティング組成物の形成における使用に好適な熱硬化性エポキシポリマー樹脂は、いずれの1つ又は複数のタイプのグリシジルエポキシポリマー、いずれの1つ又は複数のタイプの非グリシジルエポキシポリマー、並びにグリシジル及び非グリシジルエポキシポリマーのいずれの1つ又は複数の組み合わせを含むことができ、ここで上記エポキシポリマー樹脂はさらに、エポキシポリマー樹脂の化学構造の一部を形成する、いずれの個数の好適な官能基(例えば脂肪族基及び芳香族基)を含むことができる。
【0019】
コーティング組成物のポリマーバインダの一部又は全体として使用するための、1つ又は複数の特定の熱硬化性エポキシポリマー樹脂の選択は、コーティング組成物に関する特定の用途に左右される。単一若しくは一液型エポキシ樹脂(すなわち樹脂のみ)、又は二液型樹脂(すなわち触媒若しくは硬化剤等の更なる添加物を含む樹脂)であるエポキシポリマー樹脂を選択でき、上記エポキシポリマー樹脂の硬化は、環境温度(例えば約20℃〜約27℃)又はいずれの高温(例えば約280℃もの高さの硬化温度)を含むいずれの所望の温度で行うことができる。コーティング組成物のポリマーバインダの一部又は全体として使用するために、照射硬化(例えば紫外線すなわちUV硬化)プロセスによって硬化されるエポキシポリマー樹脂も選択でき、上記硬化プロセスが開始されると、エポキシポリマー樹脂を照射(例えばUV照射)に曝露することによってエポキシポリマー樹脂を硬化させる。
【0020】
いずれの好適な1つ又は複数のタイプの溶媒を利用して、エポキシポリマー樹脂を、コーティングされる表面への塗布のための液体(すなわち硬化前)状態で提供できる。あるいはエポキシポリマー樹脂を、いずれの溶媒を実質的に含まない、又は溶媒を含まないものとすることができる(例えばポリマーバインダを形成するために、約5重量%以下、例えば1重量%以下のいずれの溶媒をエポキシポリマー樹脂と組み合わせる)。
【0021】
1つ若しくは複数の特定の溶媒、及び/又は1つ若しくは複数のタイプの特定のエポキシポリマー樹脂の選択は、コーティングされる表面への塗布に関して望ましいエポキシポリマー樹脂材料の特定の粘度に基づくものであってよい。特に、(例えば特定のエポキシ化学族、特定のポリマー構造、及び/若しくはエポキシポリマーに付着する1つ若しくは複数の特定のポリマー官能基に基づく)特定のエポキシポリマー樹脂の1つ若しくは組み合わせ、並びに/又は上記エポキシポリマー樹脂と組み合わされる1つ若しくは複数の溶媒の選択に基づいて、広範な粘度及び/又は熱硬化若しくは硬化温度プロファイル(すなわち温度対時間)を得ることができ、これによって、所望の粘度及び/又は硬化温度プロファイルを、コーティング組成物を基材表面に塗布する特定の用途に基づいて得ることができる。熱硬化又は硬化した構造を得るための、(一定程度の架橋及び粘度の上昇をもたらすポリマー官能基の重合反応を含む)1つ又は複数のエポキシポリマー樹脂の硬化は、1つ又は複数のエポキシポリマー樹脂のタイプの選択に基づいて調整できる。特に、コーティング組成物が、特定の用途に基づくいずれの好適な温度及び硬化時間で熱硬化又は硬化するように、1つ又は複数のエポキシポリマー樹脂を選択できる。例えば、いくつかの用途に関しては、比較的低い(例えば環境)温度においてコーティング組成物中のエポキシポリマー樹脂の硬化を達成することが望ましい場合があり、その一方で他の用途に関しては、高温、又は比較的高い温度で硬化を達成することが望ましい場合がある。典型的には、高温におけるエポキシポリマー樹脂の硬化は、より短い硬化時間(すなわち加速された硬化プロセス)に対応する。
【0022】
さらに、エポキシポリマー樹脂化合物の1つ又は組み合わせ(例えば混合)の選択は、機械的特性、高い熱完全性(例えば劣化することなく十分な高温に耐えられること)、屋外又は他の厳しい(例えば超高温及び/若しくは低温)環境における腐食耐性等、特定の用途のための(例えば本出願に記載の架空送電線のコーティングのための)、得られるコーティング組成物に関する所望の特性に基づいて選択できる。
【0023】
様々な異なるタイプのエポキシポリマー樹脂、並びに上記様々なタイプに関連する様々な化学的及び機械的特性を想定すると、コーティング組成物のポリマーバインダを形成するために、1つ又は複数の特定のタイプのエポキシポリマー樹脂を選択することによって、上記コーティング組成物に(特に、厳しい屋外環境に曝露される表面上で使用するためのコーティング組成物に)硬化プロファイル、熱安定性及び腐食耐性といった所望の特性を付与できる。
【0024】
エポキシポリマー樹脂は、例えば1つ又は複数の溶媒と組み合わせることにより、液体(すなわち硬化前)状態で提供でき、これにより、コーティング組成物を形成するための他の添加剤又は構成成分との混合又は組み合わせ(例えば疎水性二酸化ケイ素組成物、二硫化モリブデン等の摩擦軽減剤、及び/若しくはUV保護剤との組み合わせ)をさらに容易にすることができ、これにより、基材表面上でのコーティング及び硬化前の液体エポキシポリマー樹脂中の他の構成成分の略均一な分散を達成できる。さらに、液体状態の1つ又は複数のエポキシポリマー樹脂を含むコーティング組成物は、ローラによって、ブラシによって、好適な噴霧技法によって(例えばスプレーガンによって)、コーティング組成物を含有する浴又はリザーバ中での基材表面の浸漬(dipping or submersion)等を含むがこれらに限定されないいずれの好適な様式で、基材表面に塗布できる。
【0025】
本出願に記載のコーティング組成物中のポリマーバインダとして使用できる好適なエポキシポリマー樹脂のいくつかの例としては、環境温度(例えば約20℃〜約27℃)並びに硬化の開始前(及び/又は最初の作用発現時)において、約1センチポアズ(cP)〜約25000cP、例えば約50cP〜約15000cP、又は100約cP〜約11000cP、さらには約200cP〜約6000cPの粘度を有するエポキシポリマー樹脂が挙げられる。
【0026】
本出願に記載のコーティング組成物中のポリマーバインダとして使用できる好適なエポキシポリマー樹脂の他の例としては、以下のような硬化スケジュールを有するエポキシポリマー樹脂が挙げられる:環境温度(例えば約20℃〜約27℃)である硬化温度(例えばエポキシポリマー樹脂の硬化プロセスの活性化が起こる温度)において、約5時間〜約2週間、例えば約12時間〜約1週間及び/又は約24時間〜約48時間の硬化時間(例えばエポキシポリマー樹脂の初期粘度における最初の作用発現から、初期粘度より高いエポキシポリマー樹脂の最終粘度における最終硬化又は熱硬化状態までの時間);約200℃〜約280℃(例えば約250℃の温度)の硬化温度において、約4時間以下の硬化時間;約200℃〜約280℃(例えば約250℃の温度)の硬化温度において、約1時間以下の硬化時間;並びに約200℃〜約280℃(例えば約250℃の温度)の硬化温度において、約30分以下(例えば20分以下)の硬化時間。
【0027】
本出願に記載のコーティング組成物中のポリマーバインダとして使用できる熱硬化性エポキシポリマー樹脂のいくつかの具体例としては:Resolcoat GC‐HT210、Resolcoat GC‐HT180、Resolcoat HTG240、Resolcoat HTG210及びResolcoat HTG180(Resoltech、フランス)の商品名で市販されている二液型エポキシポリマー樹脂;Supreme 10HT、Supreme 3HT‐80及びSupreme EP17HT‐LOの商品名で市販されている単一又は一液型エポキシポリマー樹脂、並びにSupreme 45HTQ(Masterbond,Inc.、米国ニュージャージー州)の商品名で市販されている二液型エポキシポリマー樹脂;Hysol(登録商標)9340及びE‐90FL(商標)(Loctite Corporation、米国コネチカット州)の商品名で市販されている二液型エポキシポリマー樹脂;Duralco(商標)4538、Duralco(商標)4525及びDuralco(商標)4461(Cotronics Corporation、米国ニューヨーク州)の商品名で市販されている単一又は一液型エポキシポリマー樹脂;並びにBONDiT(商標)B‐46、BONDiT(商標)B‐45、BONDiT(商標)B‐482、BONDiT(商標)B481及びBONDiT(商標)B‐4811(Reltek LLC米国カリフォルニア州)の商品名で市販されている単一又は一液型エポキシポリマー樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本出願に記載のポリマーバインダ(すなわちフルオロポリマー及び/又はエポキシポリマー樹脂)は、疎水性、したがって、撥水性となるように選択できる。これらのポリマーバインダを利用して形成されるコーティングの疎水性は、コーティングの表面上に形成される水滴の接触角に関連して説明できる。特に、本発明のコーティング上に形成される水滴の接触角は、90°超である。コーティング表面上に形成される水滴の接触角の程度が大きくなることは、疎水性の度合いが大きくなること(すなわち、より疎水性であること)と相関する。ポリマーバインダは、1つ若しくは複数のフルオロポリマー、1つ若しくは複数のエポキシポリマー樹脂、及び/又は1つ若しくは複数のフルオロポリマーと1つ若しくは複数のエポキシポリマー樹脂との組み合わせを利用して形成でき、ここで、コーティング組成物に対して、(例えば基材に塗布されたコーティング組成物の表面上に形成された水滴の接触角によって定義されるような)所望の疎水性を含む所望の特性をもたらす特定のポリマーバインダを利用できる。
【0029】
フルオロポリマーの1つ若しくは組み合わせ、及び/又はエポキシポリマー樹脂の1つ若しくは組み合わせの選択に加えて、コーティング組成物の疎水性は、コーティング組成物中に疎水性二酸化ケイ素又はシリカ(疎水性SiO
2)、特に疎水性ヒュームドシリカ又は焼成シリカを供給することによって増強できる(すなわちコーティング表面上の水滴の接触角が増大する)。疎水性SiO
2は、コーティング組成物の約15重量%以下の量、例えばコーティング組成物の約0.5重量%〜約15重量%以下の量、又はコーティング組成物の約0.5重量%〜約9重量%以下の量で供給できる。
【0030】
本出願において使用される場合、用語「疎水性シリカ(hydrophobic silica)」又は「疎水性シリカ組成物(hydrophobic silica composition)」は、疎水性官能基をシリカに結合させることによって、処理前のシリカに対して高い程度の疎水性を有する(すなわち、より疎水性の)組成物を得るために、有機界面活性剤及び/又はポリマーで処理されたシリカ(すなわち二酸化ケイ素)を指す。例えばシリカの表面に結合する、アルキル、アルコキシ、シリル、アルコキシシリル、シロキシ基を含むがこれらに限定されないいずれの1つ又は複数のポリマー官能基を含むように、シリカを疎水化することによって、疎水性ヒュームドシリカ又は焼成シリカを得ることができる。疎水性シリカはまた、例えば四塩化ケイ素又は石英砂の火炎熱分解によって製造されるシリカである、ヒュームドシリカ又は焼成シリカからも形成できる。ヒュームドシリカ又は焼成シリカは、低いバルク密度及び高い表面積を有する粉体をもたらす分岐粒子へと溶融された非晶質シリカを含む。例示的実施形態では、疎水性シリカは、約80m
2/g〜約300m
2/gのBET(Brunauer,Emmett and Teller)表面積を有することができる。他の例示的実施形態では、疎水性シリカはゼロを超える炭素含有量(ここで炭素含有量ゼロは、炭素含有ポリマーで処理されていないシリカを表す)、例えば少なくとも約0.5重量%の炭素含有量、少なくとも約1.0重量%の炭素含有量、又は少なくとも約1.5重量%の炭素含有量を有することができる。例えば疎水性シリカは、約0.5重量%〜約7.0重量%の炭素含有量を有することができる。
【0031】
本出願に記載のコーティング組成物中に使用するための疎水性シリカを形成するためにシリカ(及び/又はヒュームドシリカ若しくは焼成シリカ)と結合するために好適なポリマー官能基のいくつかの具体例としては、メチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、オクチルシラン、ヘキサデシルシラン、メタクリルシラン、ジメチルジクロロシラン(DDS)及びオクタメチルシクロテトラシロキサンが挙げられる。コーティング組成物に添加するための、それぞれ特定の官能基を含む1つ又は複数の特定のタイプの疎水性シリカの選択は、コーティング組成物の疎水性を修正できる量又は度合いを制御する。換言すると、コーティング組成物の疎水性は、コーティング組成物に添加するための1つ又は複数の特定のタイプの疎水性シリカ組成物の選択及び量に基づいて、正確に修正又は「微調整(fine tuned)」できる。
【0032】
本発明のコーティング組成物に添加できる、様々なグレードの1つ又は複数の好適な疎水性シリカ組成物のいくつかの非限定的な具体例は:官能基としてHMDS、PDMS、オクチルシラン、ヘキサデシルシラン、メタクリルシラン、DDS又はオクタメチルシクロテトラシロキサンを有し、かつAEROSIL R104、AEROSIL R106、AEROSIL R202、AEROSIL R208、AEROSIL R504、AEROSIL R711、AEROSIL R805、AEROSIL R812、AEROSIL R812S、AEROSIL R972、AEROSIL R974、AEROSIL R816、AEROSIL R7200及びAEROSIL R8200(Evonik Industries AG、ドイツ)の商品名で市販される疎水性シリカ組成物;官能基としてメチルクロロシラン又はHMDSを有し、かつHDK H13L、HDK H15、HDK H17、HDK H18、HDK H20、HDK H30及びHDK H2000(Wacker Chemie AG、ドイツ)の商品名で市販される疎水性シリカ組成物;並びに官能基としてHMDS、DDS、又はPDMSを有し、かつCAB‐O‐SIL TS‐530、CAB‐O‐SIL TS‐610、CAB‐O‐SIL TS‐622及びCAB‐O‐SIL TS‐720(Cabot Corporation、米国ジョージア州)の商品名で市販される疎水性シリカ組成物である。
【0033】
コーティング組成物中に1つ又は複数の疎水性シリカ組成物を供給することにより、基材表面をコーティングした上記組成物上に形成される水滴に関する接触角の、130°以上(例えば少なくとも約140°、少なくとも約150°、少なくとも約160°又はさらに大きい角度)までの増大が得られ、したがって、コーティング組成物は超疎水性となる。
【0034】
二硫化モリブデン(MoS
2)等の摩擦軽減剤を供給することにより、コーティング組成物をさらに増強できる。摩擦軽減剤は、コーティング組成物の摩擦係数を低下させて、コーティング組成物を、より丈夫で、コーティング表面上の摩擦によって引き起こされる摩耗に対してより高い耐久性を有するものとする。例えば、コーティング組成物をコンダクタ表面に塗布する実施形態では、コーティング組成物に添加された摩擦軽減剤は、コンダクタの設置中のコーティングへの損傷を最小化する。摩擦軽減剤は、コーティング組成物の約0.1重量%〜約15重量%(例えばコーティング組成物の約0.1重量%〜約10重量%、又はコーティング組成物の約5重量%〜約10重量%)の量で供給できる。本発明のコーティング組成物に添加できる、二硫化モリブデンの形態の好適な摩擦軽減剤のいくつかの非限定的な例は、MCLUBE(McGee Industries)の商品名で市販されている製品、及びNoah Technologies Corporation(米国テキサス州)から市販されているMoS
2製品である。
【0035】
長期間にわたるUV照射への曝露後であっても、コーティング組成物がその疎水特性を維持する、又は実質的に維持するよう、増強されたUV保護並びに日光及び他の外部環境要素に対する耐摩耗性を提供するために、コーティング組成物中に酸化亜鉛(ZnO)又は二酸化チタン(TiO
2)等の少なくとも1つのUV保護剤も供給できる。上記1つ又は複数のUV保護剤は、コーティング組成物の約0.1重量%〜約10重量%、例えばコーティング組成物の約0.1重量%〜約6重量%の量で供給できる。コーティング組成物中に供給できる酸化亜鉛製品のいくつかの非限定的な例は、ZANO(Umicore Zinc Chemicals)及びZ‐COTE(BASF Corporation)の商品名で市販されている。
【0036】
コーティング組成物は、本出願に記載の構成成分(ポリマーバインダ、1つ若しくは複数の疎水性シリカ組成物、1つ若しくは複数のUV保護剤及び/又は摩擦軽減剤)を、いずれの好適な様式で、好適なキャリア溶液(例えばイソプロピルアルコール)、又は上記構成成分を溶液中に十分に分散させる(例えば構成成分の均一な分散を促進する)及び/若しくは溶解させる他のいずれの好適な有機溶液/溶媒と混合することによって形成できる。続いて上記混合物を、いずれの好適な塗布技法(例えばスプレーコーティング、ローラ又はブラシによる塗布、溶液混合物中での基材表面の浸漬等)を利用して、コンダクタ(又は他のいずれの好適な)表面に塗布できる。
【0037】
フルオロポリマーバインダを利用する場合、塗布されたコーティングを続いて十分に乾燥させて液体キャリアを除去することにより、乾燥粉体コーティングを表面に付着させる。乾燥後、基材を、フルオロポリマーバインダの融点付近の又は融点を超える好適な温度において、好適な期間だけベーキングし、組成物を流れさせ、冷却後に基材表面に適切に付着させることにより、基材上に、結果として生じたコーティング組成物を得る。エポキシポリマー樹脂を利用する場合、塗布されたコーティングを好適な硬化温度で、上記エポキシポリマーが熱硬化するために十分な時間だけ硬化させる。ポリマーバインダとして、1つ又は複数のフルオロポリマー及び1つ又は複数のエポキシポリマーの組み合わせを利用する場合、乾燥及び/又は加熱の好適な組み合わせを適用して、バインダ中の1つ又は複数のエポキシポリマー構成成分の好適な硬化、並びにバインダ中の1つ又は複数のフルオロポリマー構成成分の好適な流れ、固化及び付着を達成してよい。
【0038】
本発明によるコーティング組成物の形成のいくつかの非限定的な例を、実施例1〜5において説明する。特に実施例1〜4は、1つ又は複数のフルオロポリマーを含むポリマーバインダを含むコーティング組成物の形成について説明しており、ここで上記コーティング組成物はさらに、基材表面に塗布される。実施例5は、1つ又は複数のエポキシポリマー樹脂を含むポリマーバインダを含むコーティング組成物の形成について説明している。
【0040】
150グラムのイソプロピルアルコールキャリア溶液中で、45グラムのDyneon THV500Gフルオロポリマー(3M Corporation)を、45グラムのDupont FEP9494フルオロポリマー(Dupont Corporation)、5グラムのAEROSIL R8200ヒュームドシリカ(Evonik Industries AG)、5グラムのMcLube MOS2‐98二硫化モリブデン(McGee Industries)及び1グラムのZano 20酸化亜鉛(Umicore Zinc Chemicals)と組み合わせた。溶液中に存在する構成成分が比較的均質な組み合わせとなることを保証するために、これらの構成成分を溶液中で好適に混合した。
【0041】
アルミニウムプレート試料を(例えばプレートの表面へのコーティングの噴霧によって)上記溶液でコーティングした。各プレート上のコーティングの厚さは、約3ミル〜約8ミルであった。表面コーティング済みプレートを、環境温度(例えば約25℃)において少なくとも30分間乾燥させ、続いて上記プレートを空気循環オーブン内で、約300℃で約10分間ベーキングした。結果として得られた、アルミニウムプレート試料に付着したコーティング組成物は、以下のような組成を有していた:
【0043】
アルミニウムプレート上に形成されたコーティング組成物に関して、水滴の接触角を測定した。測定された接触角は少なくとも約140°であり、いくつかの接触角は約150°超(例えば約160°以上もの大きさ)であった。
【0045】
特定の構成成分及び重量組成を、結果として得られるコーティング組成物が以下のようなものとなるように修正した以外は、実施例1に関して記載したものと同様の様式で、組成物を形成してアルミニウムプレートに塗布した。
【0048】
特定の構成成分及び重量組成を、結果として得られるコーティング組成物が以下のようなものとなるように修正した以外は、実施例1に関して記載したものと同様の様式で、組成物を形成してアルミニウムプレートに塗布した。
【0051】
特定の構成成分及び重量組成を、結果として得られるコーティング組成物及び測定される平均接触角の値が以下のようなものとなるように修正した以外は、実施例1に関して記載したものと同様の様式で、複数の組成物を形成してアルミニウムプレートに塗布した。
【0053】
以上の実施例は、アルミニウム表面へのコーティング組成物の塗布を示しているが、これらの組成物はいずれの金属又は他の(例えば有機)基材表面、特に均一なコーティング組成物を形成するためのフルオロポリマーの十分な溶融を保証する乾燥温度(例えば300℃)に耐えることができる基材表面に塗布できることに留意されたい。
【0055】
液体状態の以下のエポキシポリマー樹脂を、疎水性シリカ、酸化亜鉛及び二硫化モリブデンと、以下の重量百分率で組み合わせることによって、複数のエポキシポリマー樹脂系コーティング組成物(合計15種)を調製した。
【0057】
1つ又は複数のエポキシポリマーバインダを含む実施例5の各コーティング組成物は、ブラシ又はローラを使用する等のいずれの好適な塗布技法によって、基材表面にコーティングできる。塗布後、コーティング組成物は、使用された異なるタイプのエポキシポリマーバインダに関連する規格値に応じて、好適な硬化プロファイル(すなわち好適な硬化温度及び時間)で硬化する。
【0058】
結果として得られたコーティング組成物は、これら組成物が塗布される基材表面に、効果的な疎水性を提供する(例えばコーティング済み基材表面上の水滴に関する接触角は、90°超、典型的には少なくとも140°となる)。
【0059】
本出願に記載のコーティング組成物は、実施例1〜4に関して本出願において記載したものと同一の様式で、コンダクタの外側表面又はその一部分に(例えば丸みを帯びた又は円形の外側表面に)塗布でき、ここでは、上記コーティング組成物をキャリア溶液及び/又は溶媒中で形成した後、例えばスプレーコーティング、ローラコーティング、ブラシコーティング、又はコンダクタの浸漬によって塗布して、コンダクタの外側表面部分をコーティングした後、好適な時間だけ乾燥(例えば風乾及び/若しくは加熱乾燥)並びに/又は硬化させて、乾燥した及び/又は熱硬化若しくは硬化したコーティング組成物をコンダクタ表面に付着させることができる。
【0060】
ある代替実施形態では、乾燥粉体コーティング技法を利用して、コーティングを構成成分の粉体混合物として堆積させた後、コンダクタを(例えば300℃で十分な時間、例えば約10分間)加熱又はベーキングして、コンダクタ外側表面へのコーティング組成物の付着を得ることができる。
【0061】
コーティング組成物は優れたUV保護を提供し、疎水性及び他のコーティング組成物特性は、UV照射に長期間曝露しても実質的に維持されるか、又は変化しない。以下の例は、コーティング組成物の疎水性に対する、UV照射への曝露の影響を示す。
【0063】
実施例4からの組成物Aの4つの試料を、350時間の期間にわたって、約1.05ワット/平方メートル(W/m
2)の用量のUV照射に供し、各試料に関連する接触角の測定を、開始時(UV曝露前)及びUV曝露の350時間後に記録した。
【0065】
この結果が示すように、(測定された平均接触角によって示される)コーティング組成物試料の疎水性のレベルは、UV照射への350時間の曝露後、わずかな量又は程度しか変化しなかった。
【0067】
実施例1に関して記載したものと同様の様式で、ただし組成物中に二硫化モリブデンを供給せずに、以下の組成物を調製し、アルミニウム基材上にコーティングした。上記組成物を、470時間までの期間にわたって、約1.05W/m
2の用量のUV照射に供し、各組成物に関連する接触角の測定を、開始時(UV曝露前)及びUV曝露の470時間までの様々な時点において記録した。
【0069】
結果は、フルオロポリマー等の1つ又は複数のポリマーバインダ、UV保護剤(酸化亜鉛等)及び疎水性シリカを含むコーティング組成物が、長期間のUV照射への曝露後であっても、優れた疎水性に加えて優れたUV保護を提供することを示している。これは、上の表で提供した、測定された接触角のデータによって示されており、上記表では、2つの組成物に関する接触角は、2470時間までのUV照射への曝露後に、わずかな程度しか変化していない。
【0070】
以上の実施例のタイプのもの等のコーティング組成物は、耐摩擦性を問題にしなくてよいものの疎水性が望まれる基材表面をコーティングするために使用でき、ここで上記疎水性は長期間のUV曝露後に劣化しない。例えばこれらのコーティング組成物は、UV曝露によって劣化しない疎水性が望まれる場合がある、航空機の翼又は他の構造的構成部品に塗布できる。
【0071】
コーティングされる丸みを帯びた又は非平面の表面を有するコンダクタ又は他の構造体に関して、コーティング組成物に二硫化モリブデンを添加すると、実施例8の試験データに示すように、摩擦に対する上記組成物の耐性がさらに増強される。
【0073】
実施例1に関して記載したものと同様の様式で、4つのコーティング組成物を調製し、アルミニウム表面上に塗布した。上記組成物の構成成分及びその重量百分率を以下の表に挙げる。各組成物に関して、二硫化モリブデンの量を変化させて、摩擦試験に供した後のコーティング組成物の摩耗に対する結果的な影響を決定した。特に、Sutherland摩耗試験器を用い、重さ2711グラム、接触面積1.75インチ×2インチのヘッドを用いた。上記試験器のために使用した摩擦材は、粗度#3のRhodes Americanスチールウールであった。異なる摩擦時間にわたって同一の試料の超疎水性の程度を決定することによって、試験を実施した。各測定時点の間に、試料をイソプロピルアルコール(IPA)で洗浄し、いずれの付着しなかった材料を除去し、その後150°Fオーブンに入れ、IPAの完全な除去を保証するために十分な時間(例えば約2〜3分)だけ加熱した。
【0074】
この試験では、依然として超疎水性を呈する、摩擦済みコーティング表面の面積の、上記超疎水性を呈さない摩擦済みコーティング表面の残りの面積に対する百分率を測定することによる試験において、超疎水性の程度を決定した。例えば摩擦試験の開始前、各コーティング済み表面は、100%の超疎水性の程度を呈し、これは、摩擦試験に供される全表面積が超疎水性である(例えばコーティングの表面上に形成される水滴に関する接触角が130°以上である)ことを意味する。各摩擦時間後、コーティング済み基材の片側を、選択した角度だけ支持表面から持ち上げ、多数の水滴を摩擦済み領域の異なる複数の位置に滴下して、摩擦済み領域のどのセクションにおいて水滴が表面に付着したか(これは既に超疎水性ではない摩擦済み領域の部分又はセクションを示す)、及び摩擦済み領域のどのセクションにおいて水滴が流れ落ち、摩擦済み表面に付着しなかったかを決定した。したがって、例えば、疎水性の程度80%は、コーティング済み表面の摩擦済み領域の80%に関して、上記領域に水滴が全く付着しなかったことを示す(したがって、上記摩擦済み領域の80%が依然として超疎水性であることを示す)。換言すると、コーティング済み表面の摩擦済み領域の20%に関して、上記表面に滴下した水滴が上記摩擦済み領域に付着した(したがって、摩擦済み領域のこれらの1つ又は複数の位置からのコーティングの劣化又は完全な除去の結果として、摩擦済み領域の20%に関する超疎水性が失われたことを示している)。
【0075】
異なる複数の組成物及び摩擦試験の結果を示す試験データを以下に挙げる。
【0077】
上記試験データから、二硫化モリブデンが、摩擦に対するコーティング組成物の保護を提供すること、より多量の二硫化モリブデンをコーティング組成物中に供給すると、より強い摩擦力により長期間耐えることができ、その一方である程度のレベルの疎水性を維持できる、より丈夫な組成物となることが明らかである。
【0078】
上記コーティング組成物は、コンダクタ(例えばACSS裸線架空コンダクタ)又は他の好適な基材に、いずれの好適な厚さで塗布できる。架空裸線コンダクタに好適なコーティング組成物の非限定的な厚さの例は、約0.1ミル(0.00001インチ)〜約30ミル(0.030インチ)であり、好ましい厚さの範囲は約1.0ミル(0.0010インチ)〜約10ミル(0.010インチ)である。例えば上記コーティング組成物は、
図1及び2に示すケーブルタイプの外側表面6‐1又は6‐2の一部分又は全体に塗布できる。
図3は、
図1のコンダクタの外側(丸みを帯びた又は非平面の)表面に塗布される、本出願に記載のコーティング組成物10の例示的実施形態を示す。上述のように、本発明のコーティング組成物は、例えば(上述のACSSケーブルのいずれか等の)コンダクタ内の1つ又は複数の個々の素線又はワイヤに対して、上記個々のワイヤを他のワイヤと組み合わせてコンダクタを形成する前に塗布できる。さらに上記コーティング組成物は、様々な異なる直径又は断面寸法を有するいずれの1つ又は複数のタイプの剛性コンダクタ(例えば接地ワイヤ、又は他のいずれのタイプの剛性コンダクタ)に塗布できる。
【0079】
本出願に記載のコーティング組成物を用いたコンダクタのコーティングにより、疎水性、UV保護及び/又は耐摩擦特徴に加えて、多数の有益な特徴が提供される。例えば、架空コンダクタに関して腐食が問題となり得る特定の環境(空気又は周囲環境中の塩分含有量が高い、沿岸付近の地域)において、本出願に記載のコーティング組成物は、このような腐食性環境条件に曝露されるコンダクタケーブルのいずれの腐食を防止する、又は有意に制限するためのバリアを提供する。コンダクタケーブルが光沢のある金属表面を有するような他の状況では、従来の技術は、表面を摩擦(粗化)して表面を非鏡面反射性とする(これにより、架空ケーブル線による航空機又は他の空中設備に対する光の反射を排除又は低減する)、加工ステップを適用する。コーティング済みコンダクタは、コーティングされるコンダクタに非鏡面反射性外側表面を提供するため、本出願に記載のコーティング組成物を利用してコンダクタをコーティングすることにより、光沢のあるコンダクタの表面を摩擦する必要も軽減される。したがって、上記コーティングのコンダクタは、コンダクタに非鏡面反射性を依然として提供しながら、コンダクタの摩擦されていない表面をコーティングできる。
【0080】
本出願において、本開示の発明を、1つ又は複数の具体的な実施例において具現化されたものとして例示及び説明したが、本開示の発明は、ここで示した詳細に限定されることを意図したものではない。というのは、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な修正を本開示の発明に実施してよいためである。したがって、本発明を広範に、また本開示の範囲と矛盾しないように解釈することが適切である。