特許第6491263号(P6491263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6491263到来電波を測定する測定装置及びその測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491263
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】到来電波を測定する測定装置及びその測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 3/24 20060101AFI20190318BHJP
【FI】
   G01S3/24
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-104757(P2017-104757)
(22)【出願日】2017年5月26日
(65)【公開番号】特開2018-200218(P2018-200218A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2018年1月19日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成29年1月12日に、電子情報通信学会技術研究報告,Vol.116,No.397,AP2017−137(一般社団法人電子情報通信学会)にて公開 (2)平成29年1月19日に、電子情報通信学会アンテナ・伝播研究会(AP),広島工業大学広島校舎(広島県広島市中区中島町5−7)にて発表 (3)平成29年3月7日に、EiC電子情報通信学会2017年総合大会講演論文集(DVD),B−1−22(一般社団法人電子情報通信学会)にて公開 (4)平成29年3月25日に、EiC電子情報通信学会2017年総合大会,名城大学 天白キャンパス(愛知県名古屋市天白区塩釜口1−501)にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】豊見本 和馬
(72)【発明者】
【氏名】山口 良
【審査官】 安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−099305(JP,A)
【文献】 特開2001−102847(JP,A)
【文献】 特開2002−228747(JP,A)
【文献】 米国特許第4638315(US,A)
【文献】 Kazuma Tomimoto et al.,DOA Measurements Using Synthetic Aperture Methode in Outdoor Environments,2016 International Synposium on Antennas and Propagation(ISAP),米国,IEEE,2017年 1月19日,4C3-2,p.1030-1031
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 3/00− 3/74,
G01S 3/80− 3/86,
G01S 7/00− 7/42,
G01S 7/52− 7/64,
G01S 13/00−13/95,
G01S 15/00−15/96,
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
到来電波を測定する測定装置であって、
指向性を有する受信アンテナと、
前記受信アンテナを移動させるアンテナ駆動部と、
固定配置された基準アンテナと、
前記受信アンテナの移動経路における連続した複数の移動測定範囲それぞれにおいて、前記移動測定範囲内の互いに異なる複数の移動位置又は前記移動測定範囲内の一移動位置で前記受信アンテナを介して受信した受信信号と前記基準アンテナを介して受信した基準信号とを複数組取得する信号取得部と、
前記複数の移動測定範囲それぞれについて、前記移動測定範囲内に取得した前記複数組の受信信号及び基準信号に時間ダイバーシチを適用して合成開口処理対象の受信信号及び基準信号を選択し、前記時間ダイバーシチを適用して選択した前記複数の移動測定範囲それぞれの受信信号及び基準信号と前記受信アンテナの回転角度とに基づいて合成開口処理を行い、前記複数の移動測定範囲それぞれにおける前記合成開口処理後の受信信号と前記受信アンテナの回転角度との関係を示す特性に基づいて前記到来電波の方向を推定する信号処理部と、を備えることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
請求項1の測定装置において、
前記信号処理部で適用する時間ダイバーシチの処理は、前記複数の移動測定範囲それぞれについて、前記移動測定範囲内に取得した前記基準アンテナを介した複数の基準信号のうち振幅が最も大きい基準信号を合成開口処理対象の基準信号として選択し、前記選択した基準信号と同じタイミングに取得した前記受信アンテナを介した受信信号を合成開口処理対象の受信信号として選択する処理であることを特徴とする測定装置。
【請求項3】
請求項1の測定装置において、
前記信号処理部で適用する時間ダイバーシチの処理は、前記受信アンテナを所定角度移動するごとに停止し、その停止中に、前記受信アンテナを介した受信信号と前記基準アンテナを介した基準信号とを複数組取得し、前記基準アンテナを介した複数の基準信号のうち振幅が最も大きい基準信号を合成開口処理対象の基準信号として選択し、前記選択した基準信号と同じタイミングに取得した前記受信アンテナを介した受信信号を合成開口処理対象の受信信号として選択する処理であることを特徴とする測定装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの測定装置において、
前記信号処理部は、前記複数の移動測定範囲それぞれについて、前記時間ダイバーシチを適用して選択した基準信号を分母とし、前記選択した基準信号と同じタイミングに取得した前記受信アンテナを介した受信信号を分子として、前記合成開口処理対象の信号を導出することを特徴とする測定装置。
【請求項5】
請求項4の測定装置において、
前記信号処理部は、前記合成開口処理の窓関数の標準偏差に基づいて決定したウェイトを前記合成開口処理対象の信号に乗算し、前記ウェイトを乗算した合成開口処理対象の信号に基づいて合成開口処理を行うことを特徴とする測定装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかの測定装置において、
前記アンテナ駆動部は、回転中心から離れた円状の移動経路上を径方向外側に指向性が向いた状態で移動するように前記受信アンテナを回転駆動することを特徴とする測定装置。
【請求項7】
請求項6の測定装置において、
前記合成開口処理を行うi番目の測定点における前記受信アンテナの回転角度を受信角度θとし、前記受信角度θの測定点で合成する複数の合成開口処理対象の信号のうちj番目の合成開口処理対象の信号に対応する前記受信アンテナの回転角度の前記受信角度θとの角度差をφとし、前記時間ダイバーシチを適用して選択した前記受信アンテナの回転角度(θ+φ)における前記受信信号及び前記基準信号それぞれをERx(θ+φ)及びERef(θ+φ)とし、前記合成開口処理の要素数を2N+1(N:自然数)とし、前記受信アンテナの移動経路の半径をRとし、前記到来電波の波数をkとし、前記合成開口処理の窓関数の標準偏差をσとしたとき、
下記の式(1)及び式(2)を用いて、前記受信角度θにおける前記合成開口処理後の受信信号ESA(θ)を算出することを特徴とする測定装置。
【数1】
【数2】
【請求項8】
到来電波を測定する測定方法であって、
指向性を有する受信アンテナを移動させることと、
前記受信アンテナの移動経路における連続した複数の移動測定範囲それぞれにおいて、前記移動測定範囲内の互いに異なる複数の移動位置又は前記移動測定範囲内の一移動位置で前記受信アンテナを介して受信した受信信号と固定配置した基準アンテナを介して受信した基準信号とを複数組取得することと、
前記複数の移動測定範囲それぞれについて、前記移動測定範囲内に取得した前記複数組の受信信号及び基準信号に時間ダイバーシチを適用して合成開口処理対象の受信信号及び基準信号を選択し、前記時間ダイバーシチを適用して選択した前記複数の移動測定範囲それぞれの受信信号及び基準信号と前記受信アンテナの回転角度とに基づいて合成開口処理を行い、前記複数の移動測定範囲それぞれにおける前記合成開口処理後の受信信号と前記受信アンテナの回転角度との関係を示す特性に基づいて前記到来電波の方向を推定することと、を含むことを特徴とする測定方法。
【請求項9】
請求項8の測定方法において、
前記時間ダイバーシチの処理は、前記複数の移動測定範囲それぞれについて、前記移動測定範囲内に取得した前記基準アンテナを介した複数の基準信号のうち振幅が最も大きい基準信号を合成開口処理対象の基準信号として選択し、前記選択した基準信号と同じタイミングに取得した前記受信アンテナを介した受信信号を合成開口処理対象の受信信号として選択する処理であることを特徴とする測定方法。
【請求項10】
請求項8の測定方法において、
前記時間ダイバーシチの処理は、前記受信アンテナを所定角度移動するごとに停止し、その停止中に、前記受信アンテナを介した受信信号と前記基準アンテナを介した基準信号とを複数組取得し、前記基準アンテナを介した複数の基準信号のうち振幅が最も大きい基準信号を合成開口処理対象の基準信号として選択し、前記選択した基準信号と同じタイミングに取得した前記受信アンテナを介した受信信号を合成開口処理対象の受信信号として選択することを特徴とする測定方法。
【請求項11】
請求項8乃至10のいずれかの測定方法において、
前記複数の移動測定範囲それぞれについて、前記時間ダイバーシチを適用して選択した基準信号を分母とし、前記選択した基準信号と同じタイミングに取得した前記受信アンテナを介した受信信号を分子として、前記合成開口処理対象の信号を導出することを特徴とする測定方法。
【請求項12】
請求項11の測定方法において、
前記合成開口処理の窓関数の標準偏差に基づいて決定したウェイトを、前記合成開口処理対象の信号に乗算し、前記ウェイトを乗算した合成開口処理対象の信号に基づいて合成開口処理を行うことを特徴とする測定方法。
【請求項13】
請求項8乃至12のいずれかの測定方法において、
前記受信アンテナは、回転中心から離れた円状の移動経路上を径方向外側に指向性が向いた状態で移動するように回転することを特徴とする測定方法。
【請求項14】
請求項13の測定方法において、
前記合成開口処理を行うi番目の測定点における前記受信アンテナの回転角度を受信角度θとし、前記受信角度θの測定点で合成する複数の合成開口処理対象の信号のうちj番目の合成開口処理対象の信号に対応する前記受信アンテナの回転角度の前記受信角度θとの角度差をφとし、前記時間ダイバーシチを適用して選択した前記受信アンテナの回転角度(θ+φ)における前記受信信号及び前記基準信号それぞれをERx(θ+φ)及びERef(θ+φ)とし、前記合成開口処理の要素数を2N+1(N:自然数)とし、前記受信アンテナの移動経路の半径をRとし、前記到来電波の波数をkとし、前記合成開口処理の窓関数の標準偏差をσとしたとき、
下記の式(1)及び式(2)を用いて、前記受信角度θにおける前記合成開口処理後の受信信号ESA(θ)を算出することを特徴とする測定方法。
【数3】
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、到来電波を測定する測定装置及びその測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、受信アンテナを回転させながら到来電波を所定時間毎に受信し、この所定時間毎の受信信号に対して、基準アンテナの受信信号を基準にした合成開口処理を行うことにより、到来電波の方向を測定する測定装置が知れている(例えば非特許文献1参照)。この測定装置によれば、到来電波の方向を簡易に高角度分解能で測定することができるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】豊見本 和馬,山口 良:「合成開口処理を用いた到来方向推定」,信学技報,Vol.115,No.286,AP2015−146,pp.207−211,2015年11月.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の測定装置では、到来電波の受信強度が時間変動すると、上記合成開口処理を行って到来電波の方向を測定するときのダイナミックレンジが悪化し、測定精度が低下するおそれがあることがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る測定装置は、到来電波を測定する測定装置であって、指向性を有する受信アンテナと、前記受信アンテナを移動させるアンテナ駆動部と、固定配置された基準アンテナと、前記受信アンテナの移動経路における連続した複数の移動測定範囲それぞれにおいて、前記移動測定範囲内の互いに異なる複数の移動位置又は前記移動測定範囲内の一移動位置で前記受信アンテナを介して受信した受信信号と前記基準アンテナを介して受信した基準信号とを複数組取得する信号取得部と、前記複数の移動測定範囲それぞれについて、前記移動測定範囲内に取得した前記複数組の受信信号及び基準信号に時間ダイバーシチを適用して合成開口処理対象の受信信号及び基準信号を選択し、前記時間ダイバーシチを適用して選択した前記複数の移動測定範囲それぞれの受信信号及び基準信号と前記受信アンテナの回転角度とに基づいて合成開口処理を行い、前記複数の移動測定範囲それぞれにおける前記合成開口処理後の受信信号と前記受信アンテナの回転角度との関係を示す特性に基づいて前記到来電波の方向を推定する信号処理部と、を備える。
本発明の他の態様に係る測定方法は、到来電波を測定する測定方法であって、到来電波を測定する測定方法であって、指向性を有する受信アンテナを移動させることと、前記受信アンテナの移動経路における連続した複数の移動測定範囲それぞれにおいて、前記移動測定範囲内の互いに異なる複数の移動位置で前記受信アンテナを介して受信した受信信号と固定配置した基準アンテナを介して受信した基準信号とを複数組取得することと、前記複数の移動測定範囲それぞれについて、前記移動測定範囲内に取得した前記複数組の受信信号及び基準信号に時間ダイバーシチを適用して合成開口処理対象の受信信号及び基準信号を選択し、前記時間ダイバーシチを適用して選択した前記複数の移動測定範囲それぞれの受信信号及び基準信号と前記受信アンテナの回転角度とに基づいて合成開口処理を行い、前記複数の移動測定範囲それぞれにおける前記合成開口処理後の受信信号と前記受信アンテナの回転角度との関係を示す特性に基づいて前記到来電波の方向を推定することと、を含む。
【0006】
前記測定装置及び前記測定方法において、前記時間ダイバーシチの処理は、前記複数の移動測定範囲それぞれについて、前記移動測定範囲内に取得した前記基準アンテナを介した複数の基準信号のうち振幅が最も大きい基準信号を合成開口処理対象の基準信号として選択し、前記選択した基準信号と同じタイミングに取得した前記受信アンテナを介した受信信号を合成開口処理対象の受信信号として選択する処理であってもよい。
また、前記測定装置及び前記測定方法において、前記時間ダイバーシチの処理は、前記受信アンテナを所定角度(例えば1°)移動するごとに停止し、その停止中に複素振幅測定を複数回行い、前記受信アンテナを介した受信信号と前記基準アンテナを介した基準信号とを複数組取得し、前記基準アンテナを介した複数の基準信号のうち振幅が最も大きい基準信号を合成開口処理対象の基準信号として選択し、前記選択した基準信号と同じタイミングに取得した前記受信アンテナを介した受信信号を合成開口処理対象の受信信号として選択する処理であってもよい。
また、前記測定装置及び前記測定方法において、前記複数の移動測定範囲それぞれについて、前記時間ダイバーシチを適用して選択した基準信号を分母とし、前記選択した基準信号と同じタイミングに取得した前記受信アンテナを介した受信信号を分子として、前記合成開口処理対象の信号を導出してもよい。
また、前記測定装置及び前記測定方法において、前記合成開口処理の窓関数の標準偏差に基づいて決定したウェイトを前記合成開口処理対象の信号に乗算し、前記ウェイトを乗算した合成開口処理対象の信号に基づいて合成開口処理を行ってもよい。
また、前記測定装置及び前記測定方法において、回転中心から離れた円状の移動経路上を径方向外側に指向性が向いた状態で移動するように前記受信アンテナを回転駆動してもよい。
また、前記測定装置及び前記測定方法において、前記合成開口処理を行うi番目の測定点における前記受信アンテナの回転角度を受信角度θとし、前記受信角度θの測定点で合成する複数の合成開口処理対象の信号のうちj番目の合成開口処理対象の信号に対応する前記受信アンテナの回転角度の前記受信角度θとの角度差をφとし、前記時間ダイバーシチを適用して選択した前記受信アンテナの回転角度(θ+φ)における前記受信信号及び前記基準信号それぞれをERx(θ+φ)及びERef(θ+φ)とし、前記合成開口処理対象の要素数を2N+1(N:自然数)とし、前記受信アンテナの移動経路の半径をRとし、前記到来電波の波数をkとし、前記合成開口処理の窓関数の標準偏差をσとしたとき、下記の式(1)及び式(2)を用いて、前記受信角度θにおける前記合成開口処理後の受信信号ESA(θ)を算出してもよい。
【数1】
【数2】
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、任意の方向から到来する到来電波の受信強度が時間変動する場合でも到来電波の到来方向(DOA:Direction−of−Arrival)を簡易に高角度分解能で測定することができるとともに到来方向の測定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(a)は、本発明の一実施形態に係る合成開口アンテナを用いた到来電波の測定装置の一例を示す説明図。(b)は同測定装置の受信アンテナの移動経路(回転軌跡)の一例を示す説明図。
図2】本実施形態の測定装置における到来電波の測定の一例を示すフローチャート。
図3】本実施形態の測定装置における合成開口処理の一例を示す説明図。
図4】本実施形態の測定装置における合成開口処理で到来電波の方向(DOA)を推定したシミュレーション結果の一例を示すグラフ。
図5】本実施形態の測定装置において時間ダイバーシチを適用しない場合の合成開口処理を行う前の受信信号の振幅と受信アンテナの回転角度との関係を示す特性の測定結果の一例を示すグラフ。
図6】本実施形態の測定装置において時間ダイバーシチを適用しない場合の合成開口処理を行った後の受信信号の振幅と受信アンテナの回転角度との関係を示す特性の測定結果の一例を示すグラフ。
図7】本実施形態の測定装置において変調波の相対受信信号の増大の原因を説明する受信信号波形の一例を示す説明図。
図8】本実施形態の測定装置の合成開口処理において時間ダイバーシチを適用するときの受信信号波形の説明図。
図9】本実施形態の測定装置における時間ダイバーシチを適用して合成開口処理を行った受信信号の振幅と受信アンテナの回転角度との関係を示す特性の測定結果の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
本実施形態では、合成開口アンテナを用いて到来電波を測定する。合成開口アンテナは、指向性を有する小さなアンテナ(実開口アンテナ)を移動させながら電波の複素振幅測定を行い、その複素振幅の測定値を記録しておき、その後、測定した受信信号の複素振幅に対し信号処理により同相合成することで形成される仮想的に大きなアンテナである。合成開口アンテナは、到来電波の到来方向(DOA)に関して実開口アンテナよりも高い分解能が得られるため、任意の方向から到来する時間変動波(例えばフェージング波などの変調波)の到来方向などの時空間プロファイルの高角度分解能測定に適する。また、所望の角度分解能を有する大きなサイズの指向性アンテナを複数配置する必要がないため、簡易な構成にすることができる。また、複数アンテナを使用する際に生じるケーブル間の振幅や位相の補正を行う必要がないため、簡易に測定できる。
【0010】
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る合成開口アンテナを用いた到来電波の測定装置の一例を示す説明図であり、図1(b)は同測定装置の受信アンテナの移動経路(回転軌跡)Cの一例を示す説明図である。本実施形態の測定装置10は、回転駆動可能な受信アンテナ100と、固定配置された基準アンテナ200と、受信アンテナ100の指向性の方向が変化するように受信アンテナ100を回転させるアンテナ駆動部300と、受信アンテナ100及び基準アンテナ200それぞれを介して受信した信号を取得する信号取得部400と、信号取得部400で取得した信号を処理する信号処理部500と、各部を制御する制御部600とを備える。
【0011】
受信アンテナ100は、指向性を有するアンテナ(例えば、ホーンアンテナ)である。アンテナ駆動部300は、受信アンテナ100が装着される回転台310と、その回転台を回転駆動するモータやギアなどからなる回転駆動部320とを有する。
【0012】
受信アンテナ100は、その指向性の向きが回転台310の径方向外側を向くように、回転台310の回転中心Aから距離Rを離して取り付けられている。このように回転中心Aから受信アンテナ100をずらした場合、到来電波の波源が十分遠方の場合、受信アンテナ100で受信した受信信号(電界)の振幅パターンに変化はなく、位相パターンは著しく変化する。
【0013】
受信アンテナ100の受信位相中心Bと回転台310の回転中心Aとの距離Rは、測定対象の到来電波の波長(λ)に応じて設定してもよい。距離Rは、到来電波の波長(λ)の1倍〜数10倍程度に設定してもよく、例えばR=8λ〜18λを満たすように設定してもよい。
【0014】
回転台310を回転駆動部320で回転駆動することにより、受信アンテナ100は、回転台の310の回転中心Aから所定距離Rだけ離れた円状の移動経路(回転軌跡)C上を径方向外側に指向性が向いた状態で移動するように回転する。
【0015】
基準アンテナ200は、例えばホーンアンテナ又は無指向性のアンテナである。
【0016】
信号取得部400は、例えば2チャネル(2ch)ベクトル受信器により複素振幅測定を行い、回転駆動された受信アンテナ100を介して受信した受信信号と、固定配置の基準アンテナ200を介して受信した受信信号(以下「基準信号」ともいう。)とを取得する。
【0017】
信号処理部500は、信号取得部400で取得した受信信号及び基準信号と受信アンテナ100の回転角度とに基づいて合成開口処理を行い、合成開口処理後の信号と受信アンテナ100の回転角度との関係を示す特性に基づいて到来電波の方向(DOA)を推定する。
【0018】
図2は、本実施形態の測定装置10における到来電波の測定の一例を示すフローチャートである。図2において、まず、測定装置10は、受信アンテナ100を回転させながら、受信アンテナ100の所定の回転角度ごとに、受信アンテナ100を介して受信した受信信号と基準アンテナ200を介して受信した基準信号を取得する(S210)。例えば、測定装置10は、受信アンテナ100を1°又は1°よりも小さい角度ずつ回転させるごとに、受信アンテナ100及び基準アンテナ200それぞれを介した受信信号を取得する。
【0019】
次に、測定装置10は、受信アンテナ100が1回転(360°回転)する間に受信アンテナ100及び基準アンテナ200それぞれを介して取得した受信信号及び基準信号と、各取得時の受信アンテナ100の回転角度とに基づいて後述の合成開口処理を行う(S220)。
【0020】
次に、測定装置10は、合成開口処理後の受信信号と受信アンテナ100の回転角度(受信角度)との関係を示す特性(以下「DOAスペクトラム」ともいう。)に基づいて、到来電波の方向(DOA)を推定する(S230)。
【0021】
図3は、本実施形態の測定装置における受信信号の合成開口処理の一例を示す説明図である。図3において、受信アンテナ100のi番目の回転角度(以下「受信角度」ともいう。)をθとし、その受信角度θの合成開口処理で合成するj番目の受信信号(電界)を受信したときの受信アンテナ100の回転角度の受信角度θとの角度差(以下「合成回転角度」ともいう。)をφとしている。また、合成開口処理で合成する受信信号(電界)の個数(要素数)を2N+1(N:自然数)とし、受信アンテナ100の受信位相中心の移動経路Cの半径をRとしている。合成開口処理対象の2N+1個の角度差φ(j=−N〜+N)の受信点(要素)はそれぞれ、合成開口アンテナを構成する対称構造の仮想円弧アレーアンテナ素子が配置されている点と考えることができる。
【0022】
受信アンテナ100を介した受信信号(電界)をERx(θ+φ)とし、基準アンテナ200を介して受信した基準信号ERef(θ+φ)とし、到来電波の波数をkとし、合成開口処理の窓関数の標準偏差をσとすると、次の式(1)を用いて、到来電波の受信角度θにおける合成開口処理後の受信信号(電界)ESA(θ)を算出することができる。
【数3】
【0023】
ここで、上記式(1)の右辺の第1因子E(θ+φ)は、i番目の受信角度におけるj番目の合成開口処理対象の相対受信信号の振幅成分(合成対象振幅成分)である。第1因子E(θ+φ)は、受信アンテナ100の回転角度(θ+φ)の測定点において受信された、基準アンテナ200を介した基準信号(電界)の振幅ERef(θ+φ)と受信アンテナ100を介した受信信号(電界)の振幅ERx(θ+φ)との比であり、次式(2)で表される。
【数4】
【0024】
また、上記式(1)の右辺の第2因子exp{−(φ/2σ)}は、j番目の合成対象振幅成分E(θ+φ)に対して付与するウェイトである。このウェイトを与えることで、測定時に生ずる不要なサイドローブを低減することが可能となる。また、合成開口アンテナの指向性ビームパターンのビーム幅を変化させることができ、合成開口に応じた狭ビームパターンを形成することができる。
【0025】
また、上記式(1)の右辺の第3因子exp{jkR(1−cos(φ))}は、j=0番目の合成対象中央の受信信号を基準にした任意のj(=−N〜+N)番目の合成対象の受信信号の位相成分である。
【0026】
上記式(1)及び式(2)を用いて到来電波の受信角度θにおける合成開口処理を行い、合成開口処理後の受信信号ESA(θ)を算出することができる。この合成開口処理後の受信信号ESA(θ)と受信アンテナ100の回転角度(受信角度)θとの関係を示す特性(DOAスペクトラム)に基づいて、到来電波の方向(DOA)を簡易に且つ高角度分解能で測定することができる。
【0027】
図4は、本実施形態の測定装置における合成開口処理で到来電波の方向(DOA)を推定したシミュレーション結果の一例を示すグラフ(非特許文献1参照)である。図4中のスペクトラム401は、合成開口処理後の受信信号の振幅ESA(θ)と受信アンテナ100の回転角度(受信角度)θとの関係を示す特性である。図4中のスペクトラム402は、合成開口処理を行わずに測定した受信信号の振幅と受信アンテナ100の回転角度(受信角度)θとの関係を示す比較例の特性である。この比較例の特性は、本実施形態の測定装置において回転中心Aからの受信アンテナ100の距離R=0に対応し、回転中心Aにおいて受信アンテナを回転させて受信信号を取得した場合の特性である。図4において、比較例における到来電波の方向(DOA)の3dB角度分解能は42.9[°]である。これに対し、本実施形態に係る測定装置で測定される到来電波の方向(DOA)の3dB角度分解能は4.9[°]であり、到来電波の方向(DOA)を高角度分解能で推定することができる。なお、上記3dB角度分解能は、到来電波の方向の中央における受信信号の最大振幅が3dB減衰した点間の角度幅である。
【0028】
また、受信アンテナ100を回転させて受信信号を取得し、取得した受信信号に対して合成開口処理を行う本実施形態の測定装置10は、従来の直線状のアンテナアレーを用いた合成開口アンテナの場合に比して、到来方向の角度分解能の角度依存性が低い。直線状のアンテナアレーを用いた合成開口アンテナの場合では、到来電波の方向に応じて主ビーム幅やサイドローブなどのビーム特性が異なり、到来方向の角度分解能の角度依存性が高い。
【0029】
また、本実施形態の測定装置10は、円弧状のアンテナアレーを用いた合成開口アンテナの場合とは異なり、円状に配置したアンテナ素子間のキャリブレーションが不要になるため、到来電波の方向(DOA)を簡易に測定することができる。円弧状のアンテナアレーを用いた合成開口アンテナの場合は、多数のアンテナ素子を円状に配置し、到来電波の角度に指向性を有するアンテナ素子を中心に2N+1個のアンテナ素子を用いて対称構造の円弧状に配置したアレーアンテナを形成するため、アンテナ素子間のキャリブレーションが必要になる。
【0030】
次に、本実施形態の測定装置10における合成開口処理前の受信信号に対する時間ダイバーシチの適用について説明する。
【0031】
図5及び図6はそれぞれ、本実施形態の測定装置10において時間ダイバーシチを適用しない場合の合成開口処理前及び合成開口処理後における受信信号の振幅と受信アンテナの回転角度との関係を示す特性(DOAスペクトラム)の測定結果の一例を示すグラフである。本例の測定では、電波暗室内で受信角度θが0°の方向の測定装置10から離れた位置に、到来電波の波源としてのベクトル信号発生器(Tx)を配置し、表1の測定諸元を用いた。また、受信アンテナ100を回転台310の中心から半径R離した一に設置した。受信アンテナ100の移動経路Cの半径である仮想円弧アレーアンテナの半径Rは64cmに設定したため、仮想円弧アレーアンテナのビーム幅は約3°となった。
【0032】
【表1】
【0033】
また、本測定例では、受信角度θが−180°〜+180°の範囲で受信アンテナ100を回転させて到来電波の受信を行い、測定受信信号(電界)E(θ+φ)を取得して前記式(1)を用いて合成開口処理を行っていく。また、本測定例では、2チャネルベクトル受信器とベクトル信号発生器を使用するため、前述の式(2)のように測定装置と同じ位置に固定されている基準アンテナ200により測定された受信信号(電界)を除算することで、合成開口処理対象の測定受信信号(測定電界)E(θ+φ)を取得する。
【0034】
図5の合成開口処理適用前の相対受信信号(受信アンテナの受信信号/基準アンテナの基準信号)E(θ+φ)の測定結果では、受信角度θが−180°〜−60°の範囲内と+60°〜+180°の範囲内で、振幅が時間変動する変調波の相対受信信号が波源方向付近(受信角度θが0°付近)よりも高くなっている角度θが存在する。一方、受信角度θが0°である波源方向では相対受信信号が高いなっている強いスペクトラムが生じる可能性は低い。
【0035】
図6の合成開口処理適用後の相対受信信号の測定結果(DOAスペクトラム)では、振幅が時間変動する変調波と振幅が時間変動しない無変調連続波(以下「CW」という。)の両方とも、波源方向(到来電波の到来方向)を正確に検知することができる。しかしながら、図中の一点鎖線で示した受信角度θが40°〜100°の範囲内では、変調波のスペクトラム601がCWのスペクトラム602よりも10dB以上高くなり、変調波の測定時のダイナミックレンジが悪化するため、波源方向(到来電波の到来方向)の誤検知の可能性が高まる。
【0036】
図7は、本実施形態の測定装置において変調波の相対受信信号の増大の原因を説明する受信信号波形の一例を示す説明図である。図7中の黒丸は到来電波の受信点である。図7に示すように、変調波が時変動し、図7中の一点鎖線で囲んだ測定点のように瞬時的に基準アンテナ200の受信信号である基準信号(電界)が大きく低下する場合がある。この基準アンテナ200の基準信号は、前述の相対受信信号の計算に用いる式(2)の分母になるため、基準アンテナ200で受信する基準信号の低下により、図6の受信角度θが40°〜100°の範囲内における相対測定信号の増加が発生したものと考えられる。また、基準アンテナ200で受信する基準信号の低下により、各受信角度での受信信号の位相パターンも乱れるため、合成開口処理が適切に行われず、変調波測定時のダイナミックレンジが悪化するおそれがある。
【0037】
そこで、本実施形態の測定装置10では、上記基準アンテナ200で受信する基準信号の瞬時的な低下があっても合成開口処理が適切に行われるように、以下に例示する時間ダイバーシチを適用している。
【0038】
図8は、本実施形態の測定装置10の合成開口処理において時間ダイバーシチを適用するときの受信信号波形の説明図である。
本実施形態では、受信アンテナ100の移動経路(回転軌跡)C上に連続した所定の角度幅の複数の移動測定角度範囲ψ(k=1〜M)のそれぞれにおいて、複素振幅測定を複数回(2K+1回,K:自然数)行い、受信アンテナ100を介した受信信号及び基準アンテナ200を介した基準信号それぞれを複数組ずつ取得している。ここで、Mは受信アンテナ100の1回転に含まれる移動測定角度範囲の数である。例えば、移動測定角度範囲の角度幅が1°の場合は、M=360である。また、Kは各移動測定角度範囲内の受信信号及び基準信号の取得回数を規定するパラメータである。例えばK=1の場合、各移動測定角度範囲内に受信信号及び基準信号が3(=2K+1)回取得される。
【0039】
図8の例では、受信アンテナ100が1°回転する移動測定角度範囲ψの間に複素振幅測定を3回行い、受信信号及び基準信号を3組取得している。また、各移動測定角度範囲ψの中央は、1°ずつの目標受信角度であり、その目標受信角度から両側に所定角度離れた2つの受信角度が追加受信角度である。目標受信角度と追加受信角度との角度差は、移動測定角度範囲ψ内に追加受信角度が位置する条件下で任意に設定することができ、例えば0.2°〜0.3°(図8の例では0.25°)である。
【0040】
本実施形態の時間ダイバーシチでは、複数の移動測定角度範囲ψそれぞれについて、移動測定角度範囲ψ内に取得した3つの基準信号ERefのうち振幅が最も大きい基準信号を合成開口処理対象の基準信号として選択する。例えば、図8中の移動測定角度範囲ψでは、中央よりも左側の測定点の基準信号が最も大きいため、その左側の基準信号を選択する。また、図8中の移動測定角度範囲ψでは、中央よりも右側の測定点の基準信号が最も大きいため、その右側の基準信号を選択する。
【0041】
また、本実施形態の時間ダイバーシチでは、複数の移動測定角度範囲ψそれぞれについて、前記選択した基準信号と同じタイミングに取得した受信アンテナ100を介した受信信号を合成開口処理対象の受信信号として選択する。また、選択した基準信号及び受信信号に対応する受信アンテナ100の回転角度(=目標回転角度θ+補正角度Δθ)を用いる。
【0042】
そして、本実施形態では、前記時間ダイバーシチを適用して選択した複数の移動測定範囲それぞれの受信信号及び基準信号と受信アンテナ100の回転角度(仮想アレーアンテナの角度)とに基づいて合成開口処理を行い、その合成開口処理後の受信信号と受信アンテナ100の回転角度(θ+Δθ)との関係を示す特性(DOAスペクトラム)に基づいて到来電波の方向を推定する。
【0043】
なお、前記時間ダイバーシチを使用することにより合成開口処理に用いた信号の測定点の角度と仮想アレーアンテナの角度との間に誤差(角度差Δθ)が生じるが、本実施形態の測定方法では上記誤差(角度差Δθ)による測定精度への影響が小さく、合成開口処理をことが可能である。
【0044】
図9は、本実施形態の測定装置10における時間ダイバーシチを適用して合成開口処理を行った受信信号の振幅と受信アンテナ100の回転角度との関係を示す特性(DOAスペクトラム)の測定結果の一例を示すグラフである。図9中のスペクトラム901は、時間ダイバーシチを適用して合成開口処理を行ったときの受信信号の振幅ESA(θ)と受信アンテナ100の回転角度(受信角度)θとの関係を示す特性である。図9中のスペクトラム902は、時間ダイバーシチを適用しないで合成開口処理を行ったときの受信信号の振幅ESA(θ)と受信アンテナ100の回転角度(受信角度)θとの関係を示す特性である。
【0045】
図9により時間ダイバーシチを適用することで受信角度が±180°付近のダイナミックレンジが向上することがわかる。時間ダイバーシチを適用していない場合の基準アンテナ200で受信した基準信号の振幅パターンの変動幅が最大−40dB程度あった。前述の式(2)に示すように、基準アンテナ200で受信した基準信号の
受信レベルERefを分母とし、受信アンテナ100の受信信号の受信レベルERXを分子として算出している。このため、図9中のスペクトラム902で示す時間ダイバーシチを適用しない比較例では、基準アンテナ200の受信振幅ERefが受信アンテナ100の受信振幅ERXよりも低下し、合成開口処理対象の相対受信信号(ERX/ERef)の信頼性が落ちてしまい、正常に合成開口処理(アレー合成)が行えない。一方、図9中のスペクトラム901で示す時間ダイバーシチを適用した場合の基準アンテナ200の振動パターンではほとんどの角度で基準信号の受信レベルERefの変動幅が10dB以内に抑えられていた。このため、合成開口処理対象の相対受信信号(ERX/ERef)の信頼性が向上し、合成開口処理(アレー合成)が正常に行えたため、ダイナミックレンジが改善したと考えられる。
【0046】
以上、本実施形態によれば、時間ダイバーシチを適用することにより合成開口処理に用いる相対受信信号が異常に増大するのを回避することができるため、任意の方向から到来する到来電波の受信強度が時間変動する場合でも、到来電波の到来方向(DOA)を簡易に高角度分解能で測定することができるとともに到来方向の測定精度を高めることができる。また、DOAスペクトラムの異常な振る舞いが低減し、到来電波の方向(波源の方向)の誤検知の可能性が低減する。また、周囲が動的な環境(レイリーフェージングが発生する環境)で、合成開口アンテナによる到来電波の到来方向などの時空間プロファイルの測定が可能になる。
【0047】
なお、上記実施形態において合成開口処理に適用する時間ダイバーシチの方法は、図9に示したものに限定されない。例えば、次のような時間ダイバーシチ処理を行ってもよい。時間ダイバーシチ処理の他の例では、受信アンテナ100を所定角度(例えば1°)移動するごとに停止し、その停止中に複素振幅測定を複数回行い、受信アンテナ100を介した受信信号と基準アンテナ200を介した基準信号とを複数組取得する。そして、基準アンテナ200を介した複数の基準信号のうち振幅が最も大きい基準信号を合成開口処理対象の基準信号として選択する。この選択した基準信号と同じタイミングに取得した受信アンテナ100を介した受信信号を合成開口処理対象の受信信号(仮想アレーアンテナの角度での受信信号)として選択する。
【0048】
また、本明細書で説明された処理工程並びに測定装置の構成要素(アンテナ駆動部、信号取得部、信号処理部、制御部)は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。例えば、本実施形態の測定装置における処理は、後述のハードウェアに所定のプログラムが読み込まれて実行されたり、後述のハードウェアに予め組み込まれた所定のプログラムが実行されたりすることにより、実現される。
【0049】
ハードウェア実装については、実体(例えば、制御部や信号処理部のプロセッサ)において上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0050】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、上記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、FLASHメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0051】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【符号の説明】
【0052】
10 測定装置
100 受信アンテナ
200 基準アンテナ
300 アンテナ駆動部
310 回転台
320 回転駆動部
400 信号取得部
500 信号処理部
600 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9