(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内周面及び外周面と、前記内周面に略直交する一側面及び他側面と、互いに対向して合口部を形成する一対の合口端部とを有する環状の本体部を備えたオイルリングであって、
前記本体部は、互いに対向する環状の第1レール部及び第2レール部と、前記第1レール部及び前記第2レール部を結ぶと共に複数の通油孔が設けられた柱部と、を有し、
前記第1レール部は、
前記外周面において、前記一側面側から前記他側面側に向かうにつれて前記本体部の径方向に張り出すように傾斜する傾斜面と、
前記外周面において、前記傾斜面の前記他側面側に設けられ、前記内周面と略平行に延在する当たり面と、
を有し、
前記一側面と前記他側面とを結ぶ方向において、前記合口端部における前記当たり面の最大幅W11は、前記合口端部以外の部分における前記当たり面の最大幅W21の100%以上250%以下であり、
前記本体部において、呼称径d1と、自由状態における前記合口端部の外周円弧の最小曲率直径d2との間の直径差(d2−d1)は、−0.50mmより大きく、+1.00mm未満である、オイルリング。
前記硬質膜は、窒化チタン膜、窒化クロム膜、炭窒化チタン膜、炭窒化クロム膜、クロム膜、チタン膜、及びダイヤモンドライクカーボン膜からなる群より選ばれる少なくとも一つの膜を含む、請求項2又は3記載のオイルリング。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オイルリングの当たり面の形成の際に、例えば自己張力の小さなオイルリングには、内周面にコイルスプリング等を組み込むことで、リングの拡張力を増してシリンダ内壁面に対する接触圧力を確保する外周ラップ加工が採用される。この外周ラップ加工は、ピストンリングの製造の最終工程において実施されるものであり、実際に装着されるシリンダと同径のシリンダにピストンリングを装着し、当該ピストンリングの外径(呼称径)に等しい内径を有するスリーブ内でラッピングを行うことにより、外周面に沿った当たり面を形成する加工方法である。しかしながら、外周ラップ加工によって当たり面を形成する際、自由端となっている合口端部がスリーブ側に張り出すことで、当該合口端部の加工量が他の部位の加工量よりも増大する傾向がある。この傾向は、ピストンリングの二軸差がプラス側に大きくなる程強くあらわれる。当たり面の加工精度は、シリンダ内壁に対する面圧の低下によるオイル消費量の増加や、摩耗の進行による摩擦損失の増加といった問題に直結するため、その向上が課題となっている。
【0006】
外周ラップ加工の加工精度を担保するため、上記特許文献2に示されたピストンリングのように、オイルリングの二軸差をマイナスに設定することが考えられる。しかしながら、オイルリングの場合、二軸差の測定が困難であることから、「曲率半径(直径)」に着目し、その中でも合口端面部の曲率半径(直径)を設定することによって、外周ラップ加工の加工精度を向上することができる。オイルリングは、合口部とは反対側の部位(合口部を0°とした場合の180°部)での曲率半径(R
180)に対し合口部の曲率半径(R
0、及び、R
360に相当)を小さくすることによって装着状態で真円となるよう設定されている。そのため適当な合口部の曲率半径を設定することによって、合口部の張り出し抑制することが可能となる。しかしながら、合口部の曲率半径をシリンダの呼称径よりも小さく設定しすぎると、合口端部の摩耗の進行の問題は抑えられる一方で、オイルリングのオイルコントロール機能が十分に発揮されなくなることが考えられる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、外周面によるシール性を十分に発揮させることができ、面圧の低下によるオイル消費量の増加及び摩耗の進行による摩擦損失の増加を低減できるオイルリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るオイルリングは、内周面及び外周面と、前記内周面に略直交する一側面及び他側面と、互いに対向して合口部を形成する一対の合口端部とを有する環状の本体部を備えたオイルリングであって、前記本体部は、互いに対向する環状の第1レール部及び第2レール部と、前記第1レール部及び前記第2レール部を結ぶと共に複数の通油孔が設けられた柱部と、を有し、前記第1レール部は、前記外周面において、前記一側面側から前記他側面側に向かうにつれて前記本体部の径方向に張り出すように傾斜する傾斜面と、前記外周面において、前記傾斜面の前記他側面側に設けられ、前記内周面と略平行に延在する当たり面と、を有し、前記一側面と前記他側面とを結ぶ方向において、前記合口端部における前記当たり面の最大幅W
11は、前記合口端部以外の部分における前記当たり面の最大幅W
21の100%以上250%以下であり、前記本体部において、呼称径d1と、自由状態における前記合口端部の外周円弧の最小曲率直径d2との間の直径差(d2−d1)は、−0.50mmより大きく、+1.00mm未満である。
【0009】
このオイルリングでは、第1レール部の合口端部の当たり面の最大幅W
11が、合口端部以外の部分における当たり面の最大幅W
21の100%以上250%以下となっている。この範囲を満たすことで、本体部の部位による当たり面の幅のばらつきが抑えられるので、面圧の低下によるオイル消費量の増加及び摩耗の進行による摩擦損失の増加を抑制できる。また、このピストンリングでは、呼称径d1と自由状態における合口端部の外周円弧の最小曲率直径d2との差(d2−d1)が、+1.00mm未満となっている。このため、外周ラップ加工の際に合口端部がスリーブ側に張り出すことが抑制され、当たり面の加工精度を十分に確保でき、上記範囲を満たす当たり面を歩留まり良く形成できる。さらに、このオイルリングでは、曲率直径差(d2−d1)が−0.5mmより大きくなっている。したがって、自己張力の小さなオイルリングでも外周面によるオイルコントロール性を十分に発揮させることが可能となる。
【0010】
また、前記外周面の最表面として、前記本体部よりも高い硬度を有する硬質膜が前記本体部の周方向に延在していてもよい。硬質膜を用いることにより、当たり面の摩耗の進行を抑えることができる。また、外周ラップ加工の際の、少なくとも第1レール部の合口端部における当たり面の最大幅W
11と、合口端部以外の部分における当たり面の最大幅W
21との差を小さくすることが可能となり、上記範囲を満たす当たり面を一層歩留まり良く形成できる。
【0011】
また、前記硬質膜は、物理気相成長膜であってもよい。この場合、硬質膜を十分な硬度で形成できる。
【0012】
また、前記硬質膜は、窒化チタン膜、窒化クロム膜、炭窒化チタン膜、炭窒化クロム膜、クロム膜、チタン膜、及びダイヤモンドライクカーボン膜からなる群より選ばれる少なくとも一つの膜を含んでもよい。この場合、硬質膜を十分な硬度で形成できる。
【0013】
また、前記硬質膜の厚さは、1μm以上60μm以下であってもよい。この場合、硬質膜の厚さが十分なものとなり、当たり面における摩耗の進行を抑制できる。
【0014】
また、前記合口部の中心位置を0°として前記本体部の位置を角度で表したとき、一方の前記合口端部における前記当たり面は、0°〜15°の範囲に位置する部分であり、他方の前記合口端部における前記当たり面は、345°〜360°の範囲に位置する部分であり、前記合口端部以外の部分における前記当たり面は、15°より大きく345°よりも小さい範囲に位置する部分であってもよい。合口端部を上記範囲として当たり面の最大幅を満たすことで、面圧の低下によるオイル消費量の増加及び摩耗の進行による摩擦損失の増加を効果的に抑制できる。
【0015】
また、前記最大幅W
11は、前記合口端部以外の部分において150°〜210°の範囲の前記当たり面の最大幅の100%以上250%以下であってもよい。このように最大幅W1が、合口端部以外の部分の当たり面において最も幅が小さくなる傾向にある範囲の最大幅に対して上記範囲を満たすことにより、本体部の部位による当たり面の幅のばらつきがより好適に抑えられる。
【0016】
また、前記最大幅W
21は、前記本体部の幅の1%以上50%以下であってもよい。この範囲を満たすことで、シリンダ内壁にオイル膜を好適に形成できると共に、当たり面によるオイルの燃焼室への掻き上げを抑制できる。また、当たり面による摩擦損失の増大を回避できる。
【0017】
また、前記最大幅W
21は、0.005mm以上0.15mm以下であってもよい。この範囲を満たすことで、ピストンリングによる初期の摩擦損失を抑制できる。
【0018】
また、前記傾斜面は、軸方向に対してなす角度が6°以上12°以下であってもよい。この範囲を満たすことで、シリンダ内壁にオイル膜を好適に形成できると共に、傾斜面によるオイルの燃焼室への掻き上げを抑制できる。
【0019】
また、前記第2レール部は、前記外周面において、前記一側面側から前記他側面側に向かうにつれて前記本体部の径方向に張り出すように傾斜する第2傾斜面と、前記外周面において、前記傾斜面の前記他側面側に設けられ、前記内周面と略平行に延在する第2当たり面と、を有し、前記一側面と前記他側面とを結ぶ方向において、前記第2レール部側の前記合口端部における前記第2当たり面の最大幅W
12は、前記第2レール部側の前記合口端部以外の部分における前記第2当たり面の最大幅W
22の100%以上250%以下であってもよい。
【0020】
上記のように、第2レール部の合口端部の当たり面の最大幅W
12が、合口端部以外の部分における当たり面の最大幅W
22の100%以上250%以下となっている。この範囲を満たすことで、本体部の部位による当たり面の幅のばらつきが抑えられるので、面圧の低下によるオイル消費量の増加及び摩耗の進行による摩擦損失の増加を抑制できる。
【0021】
また、前記第1レール部の前記傾斜面、及び、前記第2レール部の前記第2傾斜面は、燃焼室側へ向かって縮径されてもよい。
【0022】
また、前記第1レール部の前記傾斜面は燃焼室側へ向かって縮径され、前記第2レール部の前記第2傾斜面は前記燃焼室側へ拡径されてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、外周面によるシール性を十分に発揮させることができ、面圧の低下によるオイル消費量の増加及び摩耗の進行による摩擦損失の増加を低減できるオイルリングが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0026】
図1は、本実施形態に係るオイルリングの斜視図である。また、
図2は、本実施形態に係るオイルリングの分解斜視図である。また、
図3は、オイルリングをピストンに装着した状態でのオイルリング本体部を示す図である。オイルリング1は、
図1及び
図2に示されるように、合口部4が形成された環状の本体部2と、本体部2の内周面2a側に沿って設けられる環状のコイルエキスパンダ3とを備えた、いわゆる2ピースオイルリングである。
【0027】
このオイルリング1は、例えば自動車の内燃機関におけるピストンの外周面に設けられたリング溝に組み付けられて使用される。オイルリング1の本体部2は、コイルエキスパンダ3の接線張力によりシリンダ内壁と略一定の圧力にて接する。そして、オイルリング1は、ピストンの駆動に併せて本体部2が有する第1レール部11及び第2レール部12(詳細は後述する)の間の潤滑油をシリンダ内壁に塗布すると共に、余剰な潤滑油を第1レール部11及び第2レール部12によって掻き落し、適切な厚さの油膜をシリンダ内壁に形成する機能を奏するようになっている。
【0028】
本体部2は、例えば複数の金属元素を含有する鋳鉄或いは鋼材(スチール)によって十分な強度、耐熱性、及び弾性をもって形成されている。また、本体部2の外周面2b等には、例えば硬質クロムめっき層、クロム窒化物層、或いは鉄の窒化物層などによる表面改質が施され、本体部2の耐摩耗性の向上が図られている。なお、外周面2bは、第1レール部11及び第2レール部12の外周面に相当する。
【0029】
オイルリング1における本体部2は、オイルリング1の幅方向において互いに対向する環状の第1レール部11及び第2レール部12と、第1レール部11及び第2レール部12の中央部同士を結ぶ環状の柱部13とを有している。本体部2における第1レール部11及び第2レール部12は、柱部13と一体形成されており、第1レール部11及び第2レール部12の厚さは、それぞれ柱部13の厚さよりも大きくなっている。なお、本体部2の内周面2aは、コイルエキスパンダ3が収容されるように柱部13側に略曲面状に窪んだ形状となっている(
図4参照)。さらに、本体部2は、内周面2aに略直交する一対の側面2c(一側面)及び側面2d(他側面)を有している(
図4参照)。以下の説明では、内周面2aと外周面2bとを結ぶ方向をオイルリング1の厚さ方向とする。また、側面2cと側面2dとを結ぶ方向をオイルリングの幅方向とする。
【0030】
柱部13の幅方向における中央部には、複数の通油孔14がオイルリング1の周方向に沿って並んで設けられている。複数の通油孔14のそれぞれの周方向に沿った断面形状は、略楕円形状となっている。複数の通油孔14は、例えば切削又はレーザによる穿孔によって形成される。これら複数の通油孔14を通過する潤滑油は、柱部13よりも内周側から外周側に供給されると共に、柱部13よりも外周側から内周側に戻される。
【0031】
本体部2は、厚さ方向が短辺かつ幅方向が長辺となる断面略I型形状をなしている。本体部2の幅は、例えば1.0mm以上5.0mm以下となっており、本体部2の厚さは、例えば1.0mm以上4.0mm以下となっている。また、本体部2の外径(呼称径)は、例えば60mm以上200mm以下となっている。本体部2の各寸法は、接触式又は非接触式の形状測定装置(表面粗さ測定装置を含む)を用いて測定できる。
【0032】
また、本体部2において、呼称径d1と自由状態における合口端部の曲率直径d2との直径差(d2−d1)は、−0.50mmより大きく、+1.00mm未満となっている。呼称径(又は“呼び径”)d1とは、装着するシリンダ呼び径に等しいものである(JIS B 8032−1)。また、曲率直径d2は、
図3に示すように、本体が自由状態において、平面視におけるオイルリング1の本体部2の中心Xとし、合口端部5,6の中心位置を0°としたときの、0〜15°及び345°〜360°の範囲において、自由状態にける外周円弧の曲率半径が最小となるときの半径の値R
minを直径換算(2倍)したものとなる。オイルリング1では、合口部4とは反対側の部位(合口部を0°とした場合の180°部)での曲率半径(R
180)に対し合口部4側での曲率半径(R
0、及び、R
360に相当)が小さくなる。したがって、上記の角度範囲において曲率半径が小さくなる。上記の曲率直径d2、すなわち、自由状態における合口端部の外周円弧の最小曲率直径d2と、呼称径d1との差を直径差(d2−d1)として示す。本体部2の直径差(d2−d1)は、0.00mm以上であってもよく、+1.00mm以下であってもよい。
【0033】
合口部4は、本体部2の一部が分断された部分であり、互いに対向する一対の合口端部5,6によって形成されている。一対の合口端部5,6は、それぞれ本体部2の自由端となっている部分である。合口部4の隙間(合口隙間)は、例えばオイルリング1が加熱されて熱膨張したときに狭まるようになっている。すなわち、合口部4は、オイルリング1の使用時において、オイルリング1とシリンダとの間の温度差に起因する本体部2の熱膨張分の逃げ部として機能する。
【0034】
コイルエキスパンダ3は、
図2に示されるように、環状に設けられたバネ状の部品であり、例えば油焼き入れされたバネ鋼等の線材によって形成される。
【0035】
次に、本体部2の外周面2bについて更に詳細に説明する。
図4(A)は、
図3におけるIV−IV線断面図であり、
図4(B)は
図4(A)の一部拡大図(第1レール部11の外周部の拡大図)である。
【0036】
図4に示されるように、オイルリング1の本体部2は、柱部13と、一対の第1レール部11及び第2レール部12とを有していて、断面形状は、
図4(A)に示すように略M字形状となっている。柱部13は、薄肉の円筒状に形成されていて、その軸方向中央位置には、この柱部13を径方向に貫通する複数の通油孔14が設けられている。また、第1レール部11は柱部13の一方側の側面2c側において柱部13に対して外方に突出していて、第2レール部12は柱部13の一方側の側面2d側において柱部13に対して外方に突出している。
【0037】
第1レール部11及び第2レール部12の軸方向の幅は、それぞれ0.01mm〜0.30mmとされる。第1レール部11及び第2レール部12の幅は共通であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0038】
第1レール部11の外周面は、傾斜面21aと、当たり面22aとを含んでいる。また、側面2cと第1レール部11の傾斜面21aとを接続する傾斜部分として、接続面23aが設けられる。また、第1レール部11の当たり面22aと柱部13の外周面13bとを接続する傾斜部分として、接続面24aが設けられる。オイルリング1の第1レール部11では、傾斜面21aが燃焼室側(
図4における上方側)に設けられ、当たり面22aが傾斜面21aに対してクランク室側(
図4における下方側)に設けられている。すなわち、第1レール部11では、当たり面22aに対して燃焼室側において、燃焼室側に向かって径が小さくなる(縮径される)傾斜面21aが設けられる。
【0039】
また、第2レール部12の外周面は、傾斜面21b(第2傾斜面)と、当たり面22b(第2当たり面)とを含んでいる。オイルリング1の第2レール部12では、第1レール部11と同様に、傾斜面21bが燃焼室側(
図4における上方側)に設けられ、当たり面22bが傾斜面21bに対してクランク室側(
図4における下方側)に設けられている。すなわち、第2レール部12においても、当たり面22bに対して燃焼室側において、燃焼室側に向かって径が小さくなる傾斜面21bが設けられる。そして、側面2dと第2レール部12の当たり面22bとを接続する傾斜部分として、接続面23bが設けられる。また、第2レール部12の傾斜面21bと柱部13の外周面13bとを接続する傾斜部分として、接続面24bが設けられる。ただし、第2レール部12においては、傾斜面21bと当たり面22bとの位置が異なっていてもよい。すなわち、当たり面22bに対してクランク室側において、燃焼室側に向かって径が大きくなる(拡径される)傾斜面21bが設けられていてもよい。
【0040】
傾斜面21a,21bは、それぞれ本体部2の周方向の全体にわたって延在している。傾斜面21a,21bは、それぞれ、接続面側の端部において径が小さくなるように、すなわち、接続面側の端部が軸中心に傾くように傾斜したテーパフェイス形状としている。テーパフェイス形状とし、当たり面を形成させることにより同じ張力であっても高い面圧を得ることができ、さらに摩擦損失も低減することできる。傾斜面21a,21bの傾斜角θ(軸方向に対する傾斜角)は、例えば20°以下(20度以下)となっている。また、傾斜面のくさび効果を考慮して、傾斜面21a,21bの傾斜角θを6°〜12°(6°以上12°以下)の範囲にすれば、シリンダ内壁にオイル膜を好適に形成できると共に、傾斜面によるオイルの燃焼室への掻き上げを抑制できる。
【0041】
傾斜面21aの幅は、例えば、第1レール部11の幅(すなわち、傾斜面21a及び当たり面22aの幅の和)の50%以上となっている。傾斜面21aが設けられることで、第1レール部11の外周面は、いわゆるテーパフェイス形状となっている。これにより、オイルリング1をピストンのリング溝に装着した際に、外周面2bの側面2d側のみがシリンダ内壁に対して摺動する。したがって、シリンダ内壁に対してオイルリング1が接する面積が低減するので、シリンダ内壁との摩擦を低減させつつ、オイルの掻き取りを良好に実施できる。
【0042】
傾斜面21bの幅は、例えば、第2レール部12の幅(すなわち、傾斜面21b及び当たり面22bの幅の和)の50%以上となっている。また、傾斜面21bが設けられることで、第2レール部12の外周面は、いわゆるテーパフェイス形状となっている。オイルリング1のように、傾斜面21b及び当たり面22bの配置が第1レール部11の傾斜面21a及び当たり面22aと同じである(当たり面に対して燃焼室側に傾斜面が設けられる)場合、第1レール部11と同様に、オイルリング1をピストンのリング溝に装着した際に、外周面2bの側面2d側のみがシリンダ内壁に対して摺動することとなる。したがって、シリンダ内壁に対してオイルリング1が接する面積が低減するので、シリンダ内壁との摩擦を低減させつつ、オイルの掻き取りを良好に実施できる。
【0043】
当たり面22a,22bは、それぞれ、外周面2bのうち径方向に最も張り出している面である。当たり面22a,22bは、オイルリング1をピストンのリング溝に装着した際に、シリンダ内壁に接して摺動する。当たり面22a,22bは、本体部2の周方向の全体にわたって延在している。また、当たり面22a,22bは、側面2c,2dと略直し、且つ内周面2aと略並行になっている。
【0044】
接続面23a,24a,23b,24bは、いずれも、本体部2の周方向の全体にわたって延在している。接続面23a,24a,23b,24bは、外周面2bよりも大きい傾斜角度である。また、接続面23a,24a,23b,24bは、R形状をなしていてもよい。
【0045】
第1レール部11の当たり面22a及び第2レール部12の当たり面22bについて、
図5を参照しながらさらに説明する。
【0046】
図5に示すように、当たり面22a,22bは、一方の合口端部5から他方の合口端部6に至るまで外周面2bの全体にわたって形成されている。このような当たり面22a,22bは、外周ラップ加工することによって形成される。外周ラップ加工は、実際に装着されるシリンダと同径のシリンダにオイルリングを装着し、当該オイルリングの外径(呼称径)に等しい内径を有するスリーブ内でラッピングを行うことにより、オイルリングの外周面に沿って当たり面を形成する加工方法である。外周ラップ加工は、オイルリングの製造の最終工程において実施される。外周ラップ加工時のオイルリング1の呼称径当たりの張力は、例えば0.20N/mm以下に設定される。
【0047】
この外周ラップ加工によって当たり面22a,22bを形成する際、自由端となっている合口端部5,6がスリーブ側に張り出すことで、合口端部5,6の加工量が合口端部5,6を除く部分(以下、当該部分を「主部7」と称す)の加工量よりも増大する傾向がある。この傾向は、合口端部5,6の端面5a,6aに近いほど強くあらわれる。このため、
図5に示すように、当たり面22a,22bには、それぞれ合口端部5の端面5aに向かうにつれて幅が徐々に増加する領域221と、合口端部6の端面6aに向かうにつれて幅が徐々に増加する領域222とが形成されている。
【0048】
図5の例では、合口端部5,6における当たり面22aの最大幅をW
11とし、主部7における当たり面22aの最大幅をW
21とした場合、最大幅W
11は、最大幅W
21の100%以上250%以下となっている。同様に、合口端部5,6における当たり面22bの最大幅をW
12とし、主部7における当たり面22bの最大幅をW
22とした場合、最大幅W
12は、最大幅W
22の100%以上250%以下となっている。なお、合口端部5,6における当たり面22a,22bの最大幅W
11,W
12とは、それぞれ、合口端部5,6それぞれでの最大幅を求めた後の平均値を用いている。すなわち、合口端部5側での当たり面の最大幅と、合口端部6側での当たり面の最大幅と、の平均が合口端部5,6における当たり面の最大幅となる。
【0049】
また、合口端部5,6における当たり面22a,22bは、それぞれ合口部4を挟んでほぼ対称の形状となっている。また、当たり面22a,22bでは、それぞれ上辺が側面2c,2dに対して略平行な下辺に対して傾斜することにより、端面5a,6aにおける幅が、それぞれ最大幅W
11,W
12となっている。また、合口端部5,6における当たり面22a,22bの上辺の下辺に対する傾斜角は、例えば0.05mm/deg以下(0.05ミリメートル毎角度以下)となっている。この傾斜角は、例えば合口端部5,6における当たり面22a,22bの上辺を直線近似することによって求めることができる。
【0050】
主部7における当たり面22a,22bの最大幅W
21,W
22は、それぞれ、第1レール部11の幅(すなわち、傾斜面21a及び当たり面22aの幅の和)または第2レール部12の幅(すなわち、傾斜面21b及び当たり面22bの幅の和)の1%以上50%以下となっている。すなわち、当該当たり面を含むレール部の幅の1%以上50%以下となっている。最大幅W
21,W
22は、それぞれ第1レール部11の幅及び第2レール部12の30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。したがって、本実施形態では、最大幅W
21,W
22は、それぞれ、例えば0.005mm以上0.15mm以下に設定されている。また、最大幅W
11,W
12は、0.04mm以上0.20mm以下に設定されている。
【0051】
なお、本実施形態での最大幅W
11,W
12とは、外周ラップ加工によって形成された当たり面22a,22bの最大幅の初期値であり、摩耗による変化が生じる前の幅を指している。また、オイルリング1を実際に装着されるシリンダと同径のシリンダに装着した状態において、合口部4の中心位置を0°(若しくは360°)とした場合(
図2参照)に、合口端部5における当たり面22a,22bは、0°〜15°の範囲に位置する部分を指し、合口端部6における当たり面22a,22bは、345°〜360°の範囲に位置する部分を指す。主部7における当たり面22a,22bは、15°よりも大きく345°未満の範囲に位置する部分を指す。合口部4の中心位置は、本体部2の側面2dを平坦面に載置したときの合口端部5,6間の中間位置である。このときの合口端部5,6間の間隔は、室温にてオイルリング1をその呼称径に等しい寸法の筐体(リングゲージ)内に収容したときの合口端部5,6間の間隔と同等である。
【0052】
また、本体部2において合口端部5,6の反対側に位置する部分(例えば、主部7における150°〜210°の範囲に位置する部分)は、オイルリング1をシリンダに装着した際に合口端部5,6と比較してスリーブに張り出しにくく、外周ラップ加工が施されにくい部分である。このため、合口端部5,6の反対側に位置する部分における当たり面22a,22bの幅は、当たり面22a,22b全体の中で最も小さくなる傾向にある。したがって、当たり面22a,22bの幅が最も小さくなる傾向にある部分の当たり面22a,22bの最大幅を基準とし、合口端部5,6での最大幅W
11,W
12は、合口端部5,6の反対側に位置する部分における当たり面22a,22bの最大幅W
21,W
22の100%以上250%以下であることが好ましい。
【0053】
以上に説明した構成を有するオイルリング1では、合口端部5,6の当たり面22a,22bの最大幅W
11,W
12が、主部7における当たり面22a,22bの最大幅W
21,W
22の250%以下となっている。この範囲を満たすことで、本体部2の部位による当たり面22a,22bの幅のばらつきが抑えられるので、面圧の低下によるオイル消費量の増加及び摩耗の進行による摩擦損失の増加を抑制できる。また、このオイルリング1では、直径差(d2−d1)が+1.00mm未満となっている。このため、外周ラップ加工の際に合口端部5,6が自己張力によってスリーブ側に張り出すことが抑制され、当たり面22a,22bの加工精度を十分に確保でき、上記範囲を満たす当たり面22a,22bを歩留まり良く形成できる。さらに、このオイルリング1では、直径差(d2−d1)が−0.50mmより大きくなっている。したがって、背圧が小さい場合でも外周面2bによるシール性を十分に発揮させることが可能となる。
【0054】
また、合口部4の中心位置を0°として本体部2の位置を角度で表したとき、合口端部5における当たり面22a,22bは、0°〜15°の範囲に位置する部分であり、合口端部6における当たり面22a,22bは、345°〜360°の範囲に位置する部分であり、主部7における当たり面22a,22bは、15°より大きく345°よりも小さい範囲に位置する部分になっている。合口端部5,6をそれぞれ上記範囲として当たり面22a,22bの最大幅を満たすことで、面圧の低下によるオイル消費量の増加及び摩耗の進行による摩擦損失の増加を効果的に抑制できる。
【0055】
また、最大幅W
11,W
12は、主部7における150°〜210°の範囲の当たり面22a,22bの最大幅の100%以上250%以下であることが好ましい。このように最大幅W
11,W
12が、主部7の当たり面22a,22bにおいて最も幅が小さくなる傾向にある範囲の最大幅に対して上記範囲を満たすことにより、本体部2の部位による当たり面22a,22bの幅のばらつきがより好適に抑えられる。
【0056】
また、主部7の当たり面22a,22bの最大幅W
21,W
22は、それぞれ、第1レール部11の幅または第2レール部12の幅の1%以上50%以下であるので、オイルリング1は、シリンダ内壁にオイル膜を好適に形成できると共に、当たり面22a,22bによるオイルの燃焼室への掻き上げを抑制できる。また、当たり面22a,22bによる摩擦損失の増大を回避できる。
【0057】
図6は、オイルリングの当たり面の幅と摩擦損失との関係の一例を示すグラフである。
図6において、縦軸は初期の摩擦損失量を示し、横軸は当たり面の幅を示す。
図6に示されるように、当たり面の幅が大きくなるほど摩擦損失量が大きくなる傾向があるのがわかる。このため、主部7の当たり面22a,22bの最大幅W
12,W
22を0.005mm以上0.15mm以下にすることにより、オイルリング1による初期の摩擦損失を好適に抑制できる。
【0058】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0059】
例えば上記実施形態では外周面2b上に保護膜等が形成されていないオイルリングを例示しているが、
図7に示されるように、本体部2の第1レール部11及び第2レール部12の表面に、第1レール部11及び第2レール部12を形成する材料よりも硬度の高い硬質膜35が形成されていてもよい。
図7(A)及び
図7(B)は、変形例に係るオイルリング1Aの断面図であり、
図4(A)及び
図4(B)に対応する図である。また、硬質膜35は、第1レール部11及び第2レール部12の周方向の全体にわたって延在していてもよい。変形例では、第1レール部11及び第2レール部12の表面に硬質膜35を形成することによって、表面を加工(外周ラップ加工)することで、傾斜面21a,21b及び当たり面22a,22bを形成する。なお、面取り等によってオイルリング1に形成される角部は、丸みを帯びた形状であってもよい。
【0060】
硬質膜35は、物理気相成長法(PVD法)を用いて形成される物理気相成長膜(PVD膜)である。これにより、硬質膜35を十分な硬度で形成できる。硬質膜35の硬度は、例えばビッカース硬さで800HV0.05以上2000HV0.05以下であり、本体部2の硬度よりも約2倍以上高い。硬質膜35は、チタン(Ti)及びクロム(Cr)の少なくとも一種と、炭素(C)、窒素(N)、及び酸素の少なくとも一種とを含むイオンプレーティング膜、若しくはダイヤモンドライクカーボン膜である。具体例としては、硬質膜35は、窒化チタン膜、窒化クロム膜、炭窒化チタン膜、炭窒化クロム膜、酸窒化クロム膜、クロム膜、又はチタン膜である。この中でも、耐摩耗性及び耐スカッフ性を重視する場合には、窒化クロム膜を用いることが好ましい。なお、硬質膜35は積層体であってもよく、例えば窒化クロム膜及びダイヤモンドライクカーボン膜等を含んでもよい。
【0061】
このように外周面2bの最表面を硬質膜35とすることにより、当たり面22a,22bにおける摩耗の進行を抑えることができる。また、最表面を硬質膜35とした場合、外周ラップ加工の際の、合口端部5,6における当たり面22a,22bの最大幅W
11,W
12と、主部7における当たり面22a,22bの最大幅W
21,W
22との差を小さくすることができる。したがって、最大幅W
11,W
12が、最大幅W
21,W
22の100%以上250%以下となっている当たり面22a,22bを一層歩留まり良く形成できる。
【0062】
また、本体部2の径方向に沿った硬質膜35の厚さは、1μm以上60μm以下である。これにより、硬質膜35の厚さが十分なものとなり、当たり面22a,22bにおける摩耗の進行を抑制できる。なお、第1レール部11又は第2レール部12と硬質膜35と硬質膜の密着性を向上させるため、クロム膜又はチタン膜等のアンダーコートを第1レール部11又は第2レール部12に施してもよい。
【0063】
本発明は、上記実施形態及び上記変形例に限られるものではない。例えば、上記実施形態及び上記変形例では、当たり面は本体部2の幅方向において中心よりも側面2d側に設けられているが、当該中心よりも側面2c側に設けられてもよい。
【0064】
また、上記実施形態及び上記変形例では、第1レール部11及び第2レール部12の両方に傾斜面21a,21b及び当たり面22a,22bが設けられる場合について説明したが、本発明に係るオイルリングは、少なくとも第1レール部11において傾斜面21a及び当たり面22aが設けられていればよい。すなわち、第2レール部12側については、上記で説明した傾斜面21b及び当たり面22bを有していなくてもよい。第1レール部11のみが傾斜面21a及び当たり面22aを有している場合には、第1レール部11においてのみ合口端部5,6における当たり面22aの最大幅W
11と、主部7における最大幅W
21とが上述の関係を満たしていればよい。
【0065】
また、第1レール部11及び第2レール部12の両方に傾斜面21a,21b及び当たり面22a,22bが設けられている場合であっても、少なくとも第1レール部11において合口端部5,6における当たり面22aの最大幅W
11と、主部7における最大幅W
21とが上述の関係を満たしていればよい。この場合、第2レール部12における傾斜面21b及び当たり面22bの形状は、適宜変更することができる。ただし、第1レール部11及び第2レール部12の両方において、合口端部5,6における当たり面22a,22bの最大幅W
11,W
12と、主部7における最大幅W
21,W
22と、が上述の関係を満たしていると、外周面によるシール性をより発揮させることができ、面圧の低下によるオイル消費量の増加及び摩耗の進行による摩擦損失の増加を効果的に低減させることができる。
【実施例】
【0066】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
以下の手順で、実施例1のオイルリング(本体部)を作製した。まず、第1レール部及び第2レール部の外周面に傾斜面が設けられた本体部を有するリングを作製した。リング本体部としては、JIS規格である硬鋼線(SWRH77B相当)を用い、当該線材に圧延ロール成形及び引き抜き成形を施した。本体部の呼称径は、100mmに設定した。また、本体部の幅は、3.0mm、本体部の厚さは2.5mm、第1レール部及び第2レール部の幅は0.25mm、傾斜角は9°に設定した。
【0068】
次に、本体部に対して側面加工及び合口加工を行った後、内径70mmの真円スリーブを用いて外周ラップ加工を行った。実施例1では、外周ラップ加工によって第1レール部及び第2レール部の当たり幅が本体部の全周にわたって0.1mm(レール部の幅の40%)となるように加工条件を調整した。
【0069】
以上のオイルリングの作製では、本体部の呼称径d1と、自由状態における合口端部の外周円弧の最小曲率直径d2との間の直径差(d2−d1)を下記表1に示す値に調整した。実施例においては、簡単のため、合口端部5,6における曲率直径(R
0、及び、R
360に相当)の平均値を算出し、呼称径との直径差としている。加えて、本体部において、合口端部の最大幅W1(W
11,W
21)と主部の最大幅W2(W
12,W
22)とを下記表1に示す値に調整した。なお、最大幅W
11,W
21及び最大幅W
12,W
22はそれぞれ同じ値としている。なお、表1には、主部の最大幅W2に対する合口端部の最大幅W1の比率(W1/W2)を併記した。
【0070】
(実施例2,4〜7,10,12〜15,17,20)
実施例1と同様の手順にて、上記実施例のオイルリング(呼称径:70,100,170mmの3種類のオイルリング)を作製した。各オイルリングの仕様(呼称径との曲率直径差、合口端部のそれぞれの最大幅W1、及び主部との最大幅W2)は、下記表1に示すとおりである。
【0071】
(実施例3,8,9,11,16,18,19,21)
以下に記載する事項以外は実施例1と同様にして、オイルリングを作製した。これらの実施例における各オイルリングの仕様は、下記表1に示すとおりである。
【0072】
実施例3,8,9,11,16,18,19,21では、上記合口加工後、PVD法により硬質膜として硬質炭素膜(DLC膜)を本体部の外周面に形成した。DLC膜の厚さは、10μmに設定した。DLC膜の形成後、実施例1等と同様に外周ラップ加工を行った。これにより、硬質膜であるDLC膜に本体部の全周にわたって当たり面を形成した。
【0073】
(比較例1〜3,5,6,8,10,14)
実施例1と同様の手順にて、上記比較例のオイルリングを作製した。各オイルリングの仕様は、下記表1に示すとおりである。
【0074】
(比較例4,7,9,11,12,13)
実施例3と同様の手順にて、硬質膜を有する上記比較例のオイルリングを作製した。各オイルリングの仕様は、下記表1に示すとおりである。
【0075】
(オイル消費量の検証)
各実施例及び各比較例のオイルリングを、ディーゼルエンジンを用い、1800rpm×4/4の負荷で所定の時間運転した場合におけるオイル消費量(LOC:Lubricating Oil Consumption)の測定を各実施例及び各比較例に対して行った。各実施例及び各比較例において、トップリング及びセカンドリングは、共通のリングを用いた。オイル消費量は、エンジン運転前に収容されていたオイル量と、エンジン運転後に収容されていたオイル量とをそれぞれ測定することによって算出した。比較例1のオイル消費量を100%とした場合、各実施例と比較例2〜14とのオイル消費量の割合(%)を表1に示す。
【0076】
(摩擦損失測定試験)
図8に示されるように、トップリング42及びオイルリング43と、各実施例及び各比較例のセカンドリング44とから構成されるピストンリングセット41を準備した。このピストンリングセット41を浮動ライナー式フリクション測定用エンジンのピストン45に装着し、各セカンドリング44の摩擦損失を摩擦平均有効圧力(FMEP:Friction Mean Effective Pressure)により評価した。トップリング42、セカンドリング44、及びオイルリング43と摺動する相手材として、鋳鉄製のシリンダライナ46を用いた。シリンダライナ46の十点平均粗さ(Rz)は、2〜4μmとした。また、シリンダライナ46の外周に荷重測定用センサー47を取り付けた。例えば、呼称径が100mmの場合、トップリング42の張力は15Nに設定し、セカンドリング44の張力は10Nに設定し、オイルリング43の張力は30Nに設定した。
【0077】
摩擦損失測定試験では、ピストン45の動作によってトップリング42、セカンドリング44、及びオイルリング43がシリンダライナ46に上下方向に摺動する際に加わる摩擦力(摩擦損失)を荷重測定用センサー47により測定した。この摩擦損失は、トップリング42、セカンドリング44、及びオイルリング43の合計摩擦力である。本摩擦力測定試験においては、エンジン回転数を2000rpmとし、エンジン負荷を15N・mとし、潤滑油温度を87℃とした。また、本摩擦力測定の試験時間は10時間とした。比較例1のFMEPを100%とした場合、各実施例と比較例2〜14とのFMEPの割合(%)を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
上記表1より、実施例1〜21のそれぞれは、比較例1よりもLOC,FMEPのいずれも低減した。これに対して、比較例2,3,5,8〜10,12は、比較例1よりもLOCは低減したが、比較例1よりもFMEPは増加した。また、比較例4,6,7,11,13,14は、比較例1よりもFMEPは低減したが、比較例1よりもLOCは増加した。
【0080】
例えば曲率直径差が本発明の上限付近(+0.99mm)である実施例20では、LOC及びFMEPがいずれも比較例1よりも低減していた。これに対して、曲率直径差が本発明の上限を超えている(+1.02mm)比較例8では、LOCは比較例1よりも低減していたものの、FMEPは比較例1よりも増加する結果となった。この結果から、曲率直径差を+1.00mm未満とし、W1/W2を100%以上250%以下とすることで、LOC,FMEPの両方を低減できることが実証された。
【0081】
また、例えば曲率直径差が本発明の下限付近(−0.48mm)である実施例21では、LOC及びFMEPがいずれも比較例1よりも低減していた。これに対して、曲率直径差が本発明の下限を超えている(−0.54mm)比較例11では、FMEPは比較例1よりも低減していたものの、LOCは比較例1よりも増加する結果となった。加えて、曲率直径差が本発明の下限を超えている(−0.71mm)と共に、W1/W2が100%以上250%以下の範囲外となっている(91.3%)比較例4でも、FMEPは比較例1よりも低減していたものの、LOCは比較例1よりも増加する結果となった。これらの結果から、曲率直径差を−0.50mmよりも大きくし、W1/W2を100%以上250%以下とすることで、LOC,FMEPの両方を低減できることが実証できた。
【0082】
また、上記結果から、硬質膜の有無にかかわらず、曲率直径差が−0.50mmより大きく+1.00mm未満であり、W1/W2が上記範囲内であると、LOC,FMEPの両方を低減できることが実証された。