特許第6491292号(P6491292)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6491292ポリメチルメタクリレート骨セメントを製造する方法、前記方法において使用するための骨セメントキット、および前記方法によって製造することができる骨セメント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491292
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】ポリメチルメタクリレート骨セメントを製造する方法、前記方法において使用するための骨セメントキット、および前記方法によって製造することができる骨セメント
(51)【国際特許分類】
   A61L 24/06 20060101AFI20190318BHJP
   A61L 24/08 20060101ALI20190318BHJP
   A61L 24/02 20060101ALI20190318BHJP
   A61L 24/00 20060101ALI20190318BHJP
   A61L 24/04 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   A61L24/06
   A61L24/08
   A61L24/02
   A61L24/00
   A61L24/04 100
   A61L24/00 310
   A61L24/00 210
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-193314(P2017-193314)
(22)【出願日】2017年10月3日
(65)【公開番号】特開2018-75361(P2018-75361A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2017年12月4日
(31)【優先権主張番号】102016222158.2
(32)【優先日】2016年11月11日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510340506
【氏名又は名称】ヘレウス メディカル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】フォクト セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】クルーゲ トーマス
【審査官】 参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−532155(JP,A)
【文献】 特開昭52−129685(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0098305(US,A1)
【文献】 特開2014−036840(JP,A)
【文献】 特開2015−226755(JP,A)
【文献】 特開2016−127935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 24/06
A61L 24/00
A61L 24/02
A61L 24/04
A61L 24/08
A61K 6/00
B01F 3/12
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリメチルメタクリレート骨セメントを製造する方法であって、
a)
− 100μm未満のふるい分けした画分の少なくとも1種の粒子状ポリメチルメタクリレートまたはポリメチルメタクリレート−コポリマーと、
− 1種の開始剤と、
− 微結晶性セルロース、酸化セルロース、デンプン、二酸化チタン、二酸化ケイ素および糖アルコールからなる群から選択される添加剤と
を含有するセメント粉末を準備する工程と、
b)
− 少なくとも1種のメチルメタクリレートと、
− 1種の活性化剤と
を含有するモノマー溶液を準備する工程と、
c)前記セメント粉末と前記モノマー溶液とを接触させる工程(但し、ヒトの生体内で前記セメント粉末と前記モノマー溶液とを接触させる工程を除く)であって、混合が剪断力を加えずに行われる、工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記添加剤が、発熱性二酸化ケイ素であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記添加剤が、100μm未満のふるい分けした画分に従う粒径を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記セメント粉末が、前記セメント粉末の全重量に対して、0.1〜2.5重量%の量で前記添加剤を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
a)
− 100μm未満のふるい分けした画分の少なくとも1種の粒子状ポリメチルメタクリレートまたはポリメチルメタクリレート−コポリマーと、
− 1種の開始剤と、
− 微結晶性セルロース、酸化セルロース、デンプン、二酸化チタン、二酸化ケイ素および糖アルコールからなる群から選択される添加剤と
を含有するセメント粉末と、
b)
− 少なくとも1種のメチルメタクリレートと、
− 1種の活性化剤と
を含有するモノマー溶液と
を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法において使用するための骨セメントキット。
【請求項6】
前記添加剤が、発熱性二酸化ケイ素であることを特徴とする、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
前記添加剤が、100μm未満のふるい分けした画分に従う粒径を有することを特徴とする、請求項5又は6に記載のキット。
【請求項8】
前記セメント粉末が、前記セメント粉末の全重量に対して、0.1〜2.5重量%の量で前記添加剤を含有することを特徴とする、請求項5〜7のいずれか一項に記載のキット。
【請求項9】
前記モノマー溶液が、メチルメタクリレートを含有することを特徴とする、請求項5〜8のいずれか一項に記載のキット。
【請求項10】
前記セメント粉末が、開始剤として過酸化ジベンゾイルを含有することを特徴とする、請求項5〜9のいずれか一項に記載のキット。
【請求項11】
前記モノマー溶液が、芳香族アミンの群からの少なくとも1種の活性化剤を含有することを特徴とする、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記モノマー溶液が、キノンまたは立体障害性フェノールの群からの少なくとも1種のラジカル安定剤を含有することを特徴とする、請求項5〜11のいずれか一項に記載のキット。
【請求項13】
前記セメント粉末が、粒子状放射線不透過剤を含有することを特徴とする、請求項5〜12のいずれか一項に記載のキット。
【請求項14】
前記セメント粉末が、
0.0〜15.0重量%の放射線不透過剤と、
0.4〜3.0重量%の過酸化ジベンゾイルと、
79.5〜99.3重量%のポリメチルメタクリレートおよび/またはポリメチルメタクリレート−コポリマーと、
0.1〜2.5重量%の添加剤と
を含むことを特徴とする、請求項5〜13のいずれか一項に記載のキット。
【請求項15】
前記セメント粉末が、
1.0〜10重量%の抗感染症薬または防腐剤と、
0.0〜15.0重量%の放射線不透過剤と、
0.4〜3.0重量%の過酸化ジベンゾイルと、
69.5〜98.3重量%のポリメチルメタクリレートおよび/またはポリメチルメタクリレート−コポリマーと、
0.1〜2.5重量%の添加剤と
を含むことを特徴とする、請求項5〜14のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、ポリメチルメタクリレート骨セメントを製造する方法、前記方法において使用するための骨セメントキット、および前記方法によって製造することができる骨セメントである。
【背景技術】
【0002】
ポリメチルメタクリレート(PMMA)骨セメントはSir Charnleyの先駆的な研究に基づく。PMMA骨セメントは液体モノマー成分および粉末成分からなる。モノマー成分は一般に、モノマー、メチルメタクリレート、およびその中に溶解される活性化剤(N,N−ジメチル−p−トルイジン)を含有する。骨セメント粉末とも呼ばれる粉末成分は、スチレン、メチルアクリレートまたは同様のモノマーなどのメチルメタクリレートおよびコ−モノマーに基づいて、重合、好ましくは懸濁重合によって製造される1つ以上のポリマーと、放射線不透過剤と、開始剤と、過酸化ジベンゾイルとを含む。粉末成分およびモノマー成分を混合し、メチルメタクリレート中の粉末成分のポリマーを膨脹させることにより、塑性的に成形することができ、実際の骨セメントであるドウ(生地、dough)が生成する。粉末成分とモノマー成分を混合している間、活性化剤であるN,N−ジメチル−p−トルイジンは、ラジカルを形成しながら過酸化ジベンゾイルと反応する。このように形成されたラジカルはメチルメタクリレートのラジカル重合を引き起こす。メチルメタクリレートの重合が進行すると、セメントドウの粘度は、セメントドウが凝固するまで増加する。
【0003】
ポリメチルメタクリレート骨セメントは、適切な混合ビーカー中でのスパチュラを用いたセメント粉末とモノマー溶液の手動混合によって混合することができる。これは、骨セメントドウに封入される気泡の原因となる可能性があり、硬化した骨セメントの機械的特性に対して悪影響を与える可能性がある。
【0004】
多数の真空セメンティングシステムが、骨セメントドウにおける空気混入を防ぐために記載されており、それらの中で以下を例示目的として指定する:特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13。
【0005】
セメント粉末およびモノマー溶液の両方が混合システムの別個のコンパートメント内に既に充填され、セメントを適用する直前にのみセメンティングシステムにおいて互いに混合する、セメンティングシステムがセメンティング技術の発展である。この種類の閉じられた完全プレパック混合システムは、特許文献14、特許文献15、特許文献16、特許文献17および特許文献18に記載されている。
【0006】
実質的に全ての公知の完全プレパック混合システムの使用は、撹拌羽根を備えた混合ロッドなどの混合デバイスを起動することによってセメント成分、セメント粉末およびモノマー溶液を手動で混合してセメントドウを形成するために医療従事者を必要とする。このように形成されたセメントドウの均質性は手動混合の手段に顕著に依存するので、変動を受ける可能性がある。
【0007】
特許文献17および特許文献18に記載されているように成分の手動混合を必要としない混合方法および設備は、複雑な設計の設備および/またはしばしば特別な必須条件下でのみの作業を必要とする。
【0008】
したがって、セメントドウの起こり得る不均一性を防ぐために、特許文献17は、セメント成分が手動により駆動される機械的混合プロセスの非存在下で互いに混合される、貯蔵および混合装置を提案した。これに関して、ポリメチルメタクリレート骨セメント粉末はカートリッジに貯蔵され、セメント粉末はカートリッジの全容積を占め、セメント粉末の粒子間の介入空間の容積は、カートリッジ内に貯蔵されたセメント粉末を使用した骨セメントドウの生成に必要とされるモノマー溶液の容積と等しい。この装置の設計は、モノマー溶液が、真空の作用によって上方からカートリッジ内に誘導され、カートリッジの下側で真空コネクタに適用される真空によってセメント粉末を引き込むようなものであり、セメント粒子の介入空間に位置する空気はモノマー溶液と入れ替わる。これは、撹拌器によってこのように形成されるセメントドウの機械的混合を含まない。現在市販されているセメント粉末は前記装置で混合できないことがこのシステムの不都合な点である。なぜなら、セメント粉末粒子の急速な膨脹により、モノマー溶液の約1〜2cmの深さまでのセメント粉末への浸入後にゲル状バリアを形成し、セメント粉末全体を通るモノマー溶液のさらなる移動を妨げるからからである。さらに、従来のセメント粉末は、粉末粒子が、異なる表面エネルギーに起因してメチルメタクリレートによって不十分にのみ湿潤されるという現象を示す。結果として、メチルメタクリレートはセメント粉末内にゆっくり浸透するだけである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,033,105A号
【特許文献2】米国特許第5,624,184A号
【特許文献3】米国特許第4,671,263A号
【特許文献4】米国特許第4,973,168A号
【特許文献5】米国特許第5,100,241A号
【特許文献6】国際公開第99/67015A1号
【特許文献7】欧州特許第1020167A2号
【特許文献8】米国特許第5,586,821A号
【特許文献9】欧州特許第1016452A2号
【特許文献10】独国特許第3640279A1号
【特許文献11】国際公開第94/26403A1号
【特許文献12】欧州特許第1005901A2号
【特許文献13】米国特許第5,344,232A号
【特許文献14】欧州特許第0692229A1号
【特許文献15】独国特許出願公開第10 2009 031178B3号
【特許文献16】米国特許第5,997,544A号
【特許文献17】国際公開第00/35506A1号
【特許文献18】米国特許第5,588,745A号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、あらゆる複雑な装置を必要とせず、操作する人に関わらず再現性があり、適用のために骨セメントを迅速に提供する、ポリメチルメタクリレート骨セメントを混合するための、簡単で、複雑ではない方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明の目的は、ポリメチルメタクリレート骨セメントを製造する方法であって、
a)100μm未満のふるい分けした画分の少なくとも1種の粒子状ポリメチルメタクリレートまたはポリメチルメタクリレート−コポリマーと、1種の開始剤と、メチルメタクリレートに不溶性である少なくとも1種の粒子状または繊維状添加剤であって、室温において該添加剤1g当たり0.6g以上のメチルメタクリレートの吸収能力を有する添加剤とを含有するセメント粉末を準備する工程と、
b)少なくとも1種のメチルメタクリレートと、1種の活性化剤とを含有するモノマー溶液を準備する工程と、続いて、剪断力を加えずに前記セメント粉末と前記モノマー溶液とを接触させる工程とを含む、方法によって満たされた。
【0012】
さらに、その目的は前記方法において使用するための骨セメントキットによって満たされた。骨セメントキットは、
a)100μm未満のふるい分けした画分の少なくとも1種の粒子状ポリメチルメタクリレートまたはポリメチルメタクリレート−コポリマーと、1種の開始剤と、メチルメタクリレートに不溶性である少なくとも1種の粒子状または繊維状添加剤であって、室温において該添加剤1g当たり0.6g以上のメチルメタクリレートの吸収能力を有する添加剤とを含有するセメント粉末と、
b)少なくとも1種のメチルメタクリレートと、1種の活性化剤とを含有するモノマー溶液とを含む。
【0013】
その目的はまた、前記方法によって製造される骨セメントによって満たされた。
【発明を実施するための形態】
【0014】
驚くべきことに、以下に定義されるセメント粉末と以下に定義されるモノマー溶液との簡単な接触により、不粘着(tack−free)で、塑性的に変形可能な骨セメントドウであって、セメントドウを手動でまたは補助器具の使用により混合する必要性を有さずにラジカル重合によって独立して硬化する骨セメントドウを製造することができることが見出された。
【0015】
本発明は、驚くべき観察、すなわち、メチルメタクリレートに不溶性であり、室温において添加剤1g当たり0.6gより多いメチルメタクリレートの吸入能力を有する粒子状または繊維状添加剤の、低粘度セメントのセメント粉末への添加により、モノマー溶液を少なくとも5cmの距離にわたって押圧することができる改変されたセメント粉末を得ることができることに基づく。添加剤は、驚くべきことに、モノマー溶液によるセメント粉末の湿潤性も改良する。それは、セメント粉末内へのモノマー溶液の浸入を容易にする。これに関して、添加剤は「ウィック効果(wick effect)」を有する。添加剤は、0.1重量%からの非常に低い量でさえもモノマー溶液をセメント粉末の内部へ誘導する。さらに、添加剤は、ポリマー粒子が粘着性になるのを遅延させ、それにより遮断ゲル層の形成が遅延し、セメント粉末へのモノマー溶液の浸入が有益になる。
【0016】
さらに、驚くべきことに、また、セメント粉末への添加剤の添加により、国際公開第00/35506A1号の装置において、真空作用により、モノマー溶液が、モノマー溶液の注入点から開始して少なくとも3.0cmの距離にわたって吸引され得ることが明らかとなる。また、本発明に従ってモノマー溶液をセメント粉末内へ押圧することによって、セメント成分の機械的混合が必要とされないように均質なセメントドウを製造することも明らかとなる。セメント粉末およびモノマー溶液を混合した後、これにより、処理され、適用され、ラジカル重合により独立して硬化し得る、不粘着で、塑性的に変形可能なセメントドウがすぐに生成する。
【0017】
本発明によれば、セメント粉末およびモノマー溶液が、セメント粉末内に浸透するおよび/またはセメント粉末によって吸引されるモノマー溶液によって混合される、方法が提供される。結果として、機械的混合は必要とされず、手動も補助器具もいらず、混合を剪断力を加えずに行うことができる。
【0018】
好ましくは、モノマー溶液およびセメント粉末は、モノマー溶液が地面に対してセメント粉末の下に配置されるように、吸収の前および間に適切に配置される。これにより、セメント粉末に封入した空気を容易に放出することができる。
【0019】
本発明において使用される場合、「含有する」および「含む」という用語は、「からなる」および「から実質的になる」という意味も含む。
【0020】
室温は23℃の温度であることが本発明に従って理解されるべきである。
【0021】
モノマー溶液はモノマーとしてメチルメタクリレートを含む。
【0022】
骨セメントにおける適切なポリマーは、ポリメチルメタクリレートならびにメチルメタクリレートと、それと共重合され得る1種以上のモノマー、例えば、メチルアクリレート、スチレンおよびエチルアクリレートとのコポリマーを含み、それらは粉末として存在する。
【0023】
ポリマー粉末は100μm未満のふるい分けした画分のポリマー粉末である。結果として、ポリマーは100μmのメッシュ幅を有するふるいを通して落ちた粒子だけを含有する。
【0024】
本発明は、25容積%〜40容積%を占めるようにセメント粉末における介在空間を提供できる。
【0025】
100μm未満のふるい分けした画分のポリマーの重量分率は非常に広範であってもよく、セメント粉末における重量分率は好ましくは69.5〜99.3の範囲内である。
【0026】
セメント粉末はまた、重合開始剤を含有する。重合開始剤は好ましくは活性化可能な重合開始剤、例えば過酸化物である。
【0027】
過酸化物が好ましい。過酸化物は好ましくは遊離酸性基を含まない。過酸化物は、有機過酸化物または無機過酸化物、例えば、ジアルキルペルオキシドまたはヒドロペルオキシドなどであってもよい。例えば、過酸化物は、過酸化ジベンゾイル、クメンヒドロペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシド、t−ブチルペルオキシド、t−アミル−ヒドロペルオキシド、ジ−イソプロピルベンゼン−モノ−ヒドロペルオキシド、およびそれらの少なくとも2つの混合物からなる群から選択されてもよい。特に好ましい実施形態によれば、過酸化物は、過酸化ジベンゾイルおよびジラウロイルペルオキシドからなる群から選択される。30重量%未満、好ましくは28重量%未満の含水量を有する水で鈍性化された(water−phlegmatised)過酸化ジベンゾイルが特に好ましい。
【0028】
セメント粉末に対して0.4〜3.0重量%の割合の開始剤がセメント粉末に添加される。
【0029】
セメント粉末はまた、メチルメタクリレート不溶性粒子状または繊維状添加剤を含有し、添加剤は、室温において添加剤1g当たり0.6g以上のメチルメタクリレートの吸収能力を有する。
【0030】
添加剤の吸収能力を決定するために、薬学から公知のEnslin装置(C.−D. Herzfeldt,J.Kreuter(ed.):Grundlagen der Arzneiformenlehre. Galenik 2,Springer Verlag Berlin Heidelberg New York,1999,p.79−80)を簡略化した。Schott製のガラス濾過るつぼ1D3を使用した。ガラス濾過るつぼの風袋質量を最初に測定した。次いで3.000gまたは1.000gの添加剤をガラス濾過るつぼ内で秤量した。ガラス濾過るつぼをフィルターフラスコに置いた。添加剤が完全に覆われるように20mlのメチルメタクリレートを添加剤に加えた。添加剤によって吸収しなかったメチルメタクリレートはガラス濾過るつぼを通って下方に浸透した。15分後、添加剤および吸収したメチルメタクリレートを有するガラス濾過るつぼを秤量し、吸収したメチルメタクリレートの質量を測定した。測定は3連で繰り返し、平均値を求めた。参照として、ガラス濾過るつぼを、添加剤を加えずにメチルメタクリレートで同様に処理した。
【0031】
添加剤はその表面に共有結合しているヒドロキシル基を有することが有益である。これに関してSi−OH基およびアルコールのOH基が特に有益である。表面に配置されるOH基に起因して、添加剤は高い表面エネルギーを有し、これにより、メチルメタクリレートによる添加剤の良好な湿潤性が提供される。
【0032】
本発明によれば、微結晶性セルロース、セルロース、酸化セルロース、デンプン、二酸化チタンおよび二酸化ケイ素が添加剤として好ましい。さらに、ソルビトール、マンニトール、ジアンヒドログルシトールおよびキシリトールなどの糖アルコールもまた、添加剤として想定される。
【0033】
一実施形態において、発熱性二酸化ケイ素が特に添加剤として好ましい。発熱性ケイ酸、Aerosil(登録商標)380およびAerosil(登録商標)300が特に適している。それ以外に、添加剤としてゾル−ゲルプロセスによって生成される二酸化ケイ素を使用することも実行可能である。
【0034】
好ましくは、添加剤は、100μm未満のふるい分けした画分に従う、好ましくは50μm未満のふるい分けされた画分に従う、特に好ましくは10μm未満のふるい分けされた画分に従う粒径を有する。
【0035】
少なくとも1種の放射線不透過剤は骨セメント粉末と混合されてもよい。放射線不透過剤は、好ましくは粒子状形態の、この分野において一般的な放射線不透過剤であってもよい。適切な放射線不透過剤は、ラジカル重合のためにモノマーに可溶性であっても、または不溶性であってもよい。放射線不透過剤は、好ましくは、金属酸化物(例えば、酸化ジルコニウムなど)、硫酸バリウム、毒性学的に許容可能な重金属粒子(例えば、タンタルなど)、フェライト、マグネタイト(適用可能である場合、超磁性マグネタイトも)、ならびに炭酸カルシウムおよび硫酸カルシウムなどの生体適合性カルシウム塩からなる群から選択される。これに関して、二酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウムおよび硫酸カルシウムが好ましい。前記放射線不透過剤は好ましくは、10nm〜500μmの範囲の平均粒径を有する。骨セメント粉末における混合された放射線不透過剤の濃度、特に二酸化ジルコニウムの濃度は好ましくは、0〜30重量%の範囲、特に好ましくは0〜15.0重量%の範囲である。
【0036】
消炎剤、ビスフォスフォネート、成長因子ならびに好ましくは抗感染症薬および/または消毒剤などの薬剤は、乾燥セメント粉末において長期間にわたって比較的容易に保存され得る。具体的には、容易な水溶性の塩の形態またはさらに不十分な水溶性の塩もしくは錯体の形態で使用され得るゲンタマイシン、トブラマイシン、クリンダマイシン、バンコマイシン、ホスホマイシン、コリスチンおよびダプトマイシンが抗感染症薬として好ましい。オクテニジン、塩化デカリニウム、ポリヘキサニド、過酸化カルシウムおよび塩化ベンザルコニウムが防腐剤として好ましい。
【0037】
モノマー溶液は活性化剤を含有する。芳香族アミンの群からの活性化剤が好ましい。N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−o−トルイジン、N,N−ジメチル−アニリン、N,N−ビス−ヒドロキシエチル−p−トルイジンが活性化剤として特に好ましい。
【0038】
モノマー溶液は好ましくは、キノンまたは立体障害性フェノールの群からのラジカル安定剤も含有する。p−ヒドロキノン、o−ヒドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−ヒドロキノン、2−t−ブチル−p−ヒドロキノン、および2,6−ジ−t−ブチル−4−メチル−フェノールがラジカル安定剤として好ましい。
【0039】
モノマー溶液は着色剤物質をさらに含有してもよい。着色剤は、例えば、着色顔料、食用色素または着色ラッカーである。適した例としては、E101、E104、E132、E141(クロロフィリン)、E142、リボフラビン、リサミングリーンおよびE104とE132の混合物のアルミニウム塩である「Farblack Grun」が挙げられる。クロロフィリンE141が好ましい。
【0040】
好ましくは、1.0〜10重量%の割合の抗感染薬および消毒剤がセメント粉末に含まれる。
【0041】
第1の実施形態において、セメント粉末は、0.0〜15.0重量%の放射線不透過剤、0.4〜3.0重量%の過酸化ジベンゾイル、79.5〜99.3重量%のポリメチルメタクリレートおよび/またはポリメチルメタクリレート−コポリマー、0.1〜2.5重量%の添加剤から構成される。
【0042】
第2の実施形態において、セメント粉末は、1.0〜10重量%の抗感染薬または消毒剤、0.0〜15.0重量%の放射線不透過剤、0.4〜3.0重量%の過酸化ジベンゾイル、69.5〜98.3重量%のポリメチルメタクリレートおよび/またはポリメチルメタクリレート−コポリマー、0.1〜2.5重量%の添加剤から構成される。
【0043】
本発明はまた、ポリメチルメタクリレート骨セメントキットを含む。前記キットは、上記のセメント粉末および上記のモノマー溶液、メチルメタクリレート、ならびに上記の少なくとも1種の活性化剤を含む。
【0044】
セメント粉末およびモノマー溶液は別個の成分であり、それらの未硬化状態において別々に保存され得る。
【0045】
本発明によるポリメチルメタクリレート骨セメントは、関節プロテーゼの機械的固定化のためのプレパックセメンティングシステムにおける使用を意図する。
【0046】
本発明を以下に提示した実施例によってより詳細に例示するが、それらは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0047】
実施例1:添加剤の吸収能力の決定
以下の出発物質を添加剤の吸入能力の決定のために使用した:
メチルメタクリレート(Sigma−Aldrich)
デンプン(Sigma−Aldrich、100μm未満のふるい分けした画分)
セルロース(Sigma−Aldrich、100μm未満のふるい分けした画分)
Aerosil(登録商標)380(Evonik、粒径約7nm)
【0048】
Schott Mainz製の1D3ガラス濾過るつぼを、添加剤、デンプン、セルロースおよびAerosil(登録商標)380の吸収能力の決定のために使用した。ガラス濾過るつぼの風袋質量を最初に決定した。次いで、3.000gの添加剤およびAerosil(登録商標)380の場合、1.000gをガラス濾過るつぼ内で秤量した。秤量した添加剤を有するガラス濾過るつぼを濾過フラスコに入れた。添加剤が完全に覆われるように10mlのメチルメタクリレートを添加剤に加えた。添加剤によって吸収されなかったメチルメタクリレートはガラス濾過るつぼを通して下方向に滴下した。15分後、添加剤および吸収したメチルメタクリレートを有するガラス濾過るつぼを秤量し、吸収したメチルメタクリレートの質量を決定した。その決定は3連で反復し、平均を決定した。参照として、ガラス濾過るつぼを、添加剤を加えていないメチルメタクリレートで同様に処理した。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例2:セメント粉末とモノマー溶液の混合
以下の出発物質を以下のセメント粉末1〜11の調製のために使用した:
メチルメタクリレート−メチルアクリレート−コポリマー
75%過酸化ジベンゾイル(BPO、25重量%の水で鈍性化した)
二酸化ジルコニウム
デンプン(Sigma−Aldrich、100μm未満のふるい分けした画分)
セルロース(Sigma−Aldrich、100μm未満のふるい分けした画分)
Aerosil(登録商標)380(Evonik、粒径約7nm)
【0051】
セメント粉末の成分を1000mlのプラスチックボトル内で秤量した。次いで、セメント粉末を、TURBULA(登録商標)ミキサー(Willy A.Bachofen AG)で混合することによって均質にした。混合時間は30分であった。
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
35mmの内径を有する透明な中空シリンダ形状のプラスチックカートリッジを、以下の実験においてガス透過性であるが、セメント粉末粒子不透過性閉鎖ヘッドと共に使用した。合計で40.00gのセメント粉末をカートリッジ内に充填した。次いでセメント粉末を有する中空空間を、セメント粉末粒子に不透過性であるが、ガスおよび液体に透過性であり、プラスチックチューブにおいて軸方向に移動できる第1のプランジャによって閉鎖した。20mlのモノマー溶液を含有するpalacosアンプルを、第1のプランジャの後方の中空空間に入れた。続いて、ガス、液体およびセメント粉末粒子に不透過性であり、プラスチックカートリッジにおいて軸方向に移動できる第2のプランジャを挿入した。次いでプラスチックチューブを上部の閉鎖ヘッドと共に垂直に配置した。次いで手動で駆動される機械的射出装置(Palamixgun)を使用して、閉鎖ヘッドの方向に第2のプランジャを押した。最後に、アンプルを破壊し、モノマー溶液および破片を第2のプランジャの方向に押した。これに関して、モノマー溶液を第2のプランジャを通してセメント粉末内に押した。これに関して、モノマー溶液を5.8cmの距離にわたって上昇させることによってセメント粉末を完全に湿潤させた。数秒間待った後、閉鎖したヘッドを開口し、このように形成したセメントドウを押し出した。
【0056】
実験の1つの改変において、真空コネクタを閉鎖ヘッドに取り付けた。合計で40.00gのセメント粉末の各々をカートリッジ内に充填した。次いで、カートリッジを、ガスおよび液体に透過性であるプランジャと共に閉鎖した。カートリッジを、ヘッドを下にして保存し、真空を適用した。次いで、20mlのモノマー溶液のそれぞれを、ガスおよび液体に透過性であるプランジャに入れ、真空を適用した。全てのセメントにおいて、モノマー溶液は、約4.0cmの距離にわたってセメント粉末を通って吸引された。
【0057】
実施例3:ISO5833に従う試験
以下の出発物質を以下のセメント粉末の調製のために使用した:
メチルメタクリレート−メチルアクリレート−コポリマー
75%過酸化ジベンゾイル(BPO、25重量%の水で鈍性化した)
二酸化ジルコニウム
硫酸ゲンタマイシン
クリンダマイシン塩酸塩
バンコマイシン塩酸塩
ダプトマイシン
トロメタモール−ホスホマイシン
オクテニジン二塩酸塩
デンプン(Sigma−Aldrich、100μm未満のふるい分けした画分)
セルロース(Sigma−Aldrich、100μm未満のふるい分けした画分)
Aerosil(登録商標)380(Evonik、粒径約7nm)
【0058】
PMMA骨セメント、PALACOS(登録商標)LV+G(バッチ7732、exp.2017−06)を参照材料として使用した。
【0059】
セメント粉末の成分を1000mlのプラスチックボトル内で秤量した。次いで、セメント粉末をTURBULAミキサー(Willy A.Bachofen AG)で混合することによって均質化した。混合時間は30分であった。
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
【表7】
【0063】
【表8】
【0064】
セメントドウの調製および試験体の製造のために、Heraeus Medical GmbH製の10mlのPALA−COS(登録商標)モノマー溶液アンプル(バッチ5276、exp.2010−10)を使用した。10mlのモノマーアンプルのモノマー溶液は、9.20gのメチルメタクリレート、0.19gのN,N−ジメチル−p−トルイジン、10ppmのp−ヒドロキノンおよび0.2mgのクロロフィリン(E141)からなる。
【0065】
セメント粉末12〜28およびセメント粉末Palacos LV+Gをモノマー溶液と混合して、セメントドウ試料を作製した。この目的のために、20.0gの各々のセメント粉末12〜22を10mlのモノマー溶液と混合し、20.5gのセメント粉末23〜28を10mlのモノマー溶液と共に均質化した。このように作製した各々のセメントドウを使用して、曲げ強度および曲げ弾性率を決定するために寸法(75mm×10mm×3.3mm)を有する小片形状の試験体、ならびに圧縮強度を決定するためにシリンダ形状の試験体(直径6mm、高さ12mm)を作製した。次いで試験体を23±1℃にて空気中で24時間保存した。次いで試験体の4点曲げ強度、曲げ弾性率、および圧縮強度を、Zwickユニバーサル試験装置を使用して決定した。
【0066】
【表9】
【0067】
ISO5833は、少なくとも>50MPaの可撓性強度、少なくとも>1,800MPaの曲げ弾性率、および少なくとも>70MPaの圧縮強度を含むように硬化したポリメチルメタクリレート骨セメントを必要とする。セメント粉末12〜28を使用して作製したセメント試料の曲げ強度、曲げ弾性率、および圧縮強度の決定の結果により、セメント試料が、曲げ強度、曲げ弾性率、および圧縮強度に関してISO5833の要件を満たし、それを明らかに超えていることが示される。