特許第6491310号(P6491310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6491310キノリン酸を生産する組み換え微生物、及びそれを利用したキノリン酸の生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491310
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】キノリン酸を生産する組み換え微生物、及びそれを利用したキノリン酸の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 17/12 20060101AFI20190318BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20190318BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20190318BHJP
【FI】
   C12P17/12
   C12N15/09 ZZNA
   !C12N1/21
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-500806(P2017-500806)
(86)(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公表番号】特表2017-520260(P2017-520260A)
(43)【公表日】2017年7月27日
(86)【国際出願番号】KR2015006678
(87)【国際公開番号】WO2016006856
(87)【国際公開日】20160114
【審査請求日】2017年1月6日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0084625
(32)【優先日】2014年7月7日
(33)【優先権主張国】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513178894
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ジン スーク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジュ ユン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソ ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ナ,クワン ホ
(72)【発明者】
【氏名】シン,ヨン ウク
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジャエ ミン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジャエ ヒー
(72)【発明者】
【氏名】ヘオ,イン キュン
【審査官】 上條 肇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/103246(WO,A2)
【文献】 特表2014−504872(JP,A)
【文献】 特表2016−525353(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0031093(US,A1)
【文献】 Molecular Microbiology,2002年,Vol.43, No.2,pp.521-536
【文献】 Definition: RecName: Full=Mechanosensitive channel MscK; AltName: Full=Potassium efflux system KefA; Flags: Precursor,Database DDBJ/EMBL/GenBank [online], Accessin No. P77338, 11-JUN-2014 uploaded, [retrieved on 2017-11-22],<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/2501527?sat=18&satkey=20510633>
【文献】 Molecular Microbiology,2007年,Vol.64, No.2,pp.560-574
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00 − 41/00
C12N 15/00 − 15/90
C12N 1/00 − 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組み換え微生物を培地で培養する段階と、
前記培地又は前記微生物からキノリン酸を回収する段階と、
を含む、キノリン酸を生産する方法であって、
前記微生物が、配列番号1のタンパク質の活性が低下されるか、あるいは除去され、且つ親の微生物と比較してキノリン酸生産性が強化された、キノリン酸を生産するエシェリキア属組み換え微生物である、
前記方法
【請求項2】
前記微生物において、追加してキノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼの活性が低下されるか、あるいは除去されていることを特徴とする、請求項1記載の方法
【請求項3】
前記微生物において、アスパラギン酸酸化酵素及びキノリン酸シンターゼから成る群から選択された1以上の酵素の活性が追加して強化されるように変異されていることを特徴とする、請求項1又は2記載の方法
【請求項4】
前記キノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼは、配列番号29のアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項2記載の方法
【請求項5】
前記アスパラギン酸酸化酵素は、配列番号30のアミノ酸配列を有し、前記キノリン酸シンターゼは、配列番号31のアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項3記載の方法
【請求項6】
前記微生物は、大腸菌であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノリン酸を生産する組み換え微生物、及びそれを利用してキノリン酸を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キノリン酸(2,3−ピリジン−ジカルボン酸)は、医薬物質、農業用化学物質、染色物質など非常に多様な分野で使用される化学物質の前駆体として利用される。
【0003】
前記キノリン酸は、化学的または生物学的な合成方法を介して製造される。化学的には、一般的に、キノリン(quinoline)の酸化によって製造される。生物学的には、キノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(NadC)の活性が除去された大腸菌に、2つの酵素、L−アスパラギン酸酸化酵素(NadB)、キノリン酸シンターゼ(NadA)の発現を強化させた大腸菌菌株を利用して、キノリン酸を生産する方法が開示されている。
【0004】
一方、KefAは、大腸菌などの微生物に存在する機械受容チャネル(MS(mechanosensitive) channel)に属する膜タンパク質であり、非特異的に細胞膜を介して、イオンと溶質とを細胞内に流入させる機能が知られている。大腸菌においてKefAは、KefB及びKefCと共に、K流出システム(K efflux system)を構成し、特に、KefAが浸透圧衝撃(osmotic down shock)時、K流出に重要な役割を果たすことが知られている(J. Bacteriol. 169, 3743-3749, 1987)。また、大腸菌においてKefAの遺伝子を突然変異させる場合、細胞が、野生型よりK濃度及び圧力に対してさらに感受性を有する(sensitive)ということが報告されている(J. membrane Biol. 150, 143-152)。しかし、前述のように、ほとんどの研究は、KefAの細胞内のカリウムイオン調節との関連性に主に焦点を置いているのみ、KefAとキノリン酸生産との関連性については、いかなる研究報告もなされていない。
【0005】
それにより、本発明者らは、機械受容チャネルタンパク質の活性変形と、キノリン酸の高濃度生産との関連性に係わる研究を行い、キノリン酸を高収率で生産する方法を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、配列番号1のタンパク質の活性が低下されるか、あるいは除去された、キノリン酸を生産する組み換え微生物を提供することである。
【0007】
本発明が解決しようとする課題はまた、前記微生物を利用してキノリン酸を生産する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、配列番号1のタンパク質の活性が低下されるか、あるいは除去された、キノリン酸を生産するエシェリキア属組み換え微生物を提供する。
【0009】
前記課題を解決するために、また、前記組み換え微生物を培地で培養する段階と、前記培地または微生物からキノリン酸を回収する段階と、を含むキノリン酸を生産する方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
一様態による配列番号1のタンパク質の活性が低下または除去された微生物は、キノリン酸生産のために利用される。
【0011】
他の様態によるキノリン酸を生産する方法によれば、キノリン酸を効率的に生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一様態は、KefAの活性が低下されるか、あるいは除去された、キノリン酸を生産する組み換え微生物を提供する。
【0013】
本明細書で使用された用語「KefA」は、機械受容チャネル(MS(mechanosensitive) channel)に属する膜タンパク質であり、「MscK」とも呼ばれる。前記KefAは、カリウム依存的であり、細胞膜を介して、非特異的にイオンと溶質とを細胞内に流入させる活性を有するものでもある。特に、KefAは、カリウム流出タンパク質(potassium efflux protein)のうち一つであり、例えば、バクテリアが浸透圧衝撃を受ける場合、カリウム流出を介して調節することができる。
【0014】
前記KefAは、エシェリキア属微生物に由来したものでもあり、具体的には、配列番号1のアミノ酸配列を有し、それと、相同性が80%、具体的には、90%以上であるアミノ酸配列であって、実質的に、KefAの活性を有するタンパク質であるならば、制限なしに含んでもよい。また、かような相同性を有する配列であって、実質的に、配列番号1のタンパク質と同一であるか、あるいは相応する生物学的活性を有するアミノ酸配列であるならば、一部配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有する場合も、本発明の範疇に含まれるということも自明である。
【0015】
また、前記kefA遺伝子配列は、前記配列番号1、またはそれと相同性が80%以上であるアミノ酸配列をコーディングするポリヌクレオチド配列を含んでもよく、前記KefAタンパク質をコーディングするポリヌクレオチドは、コドンの縮退性(degeneracy)によって、または前記タンパク質を発現させようとする生物で好まれるコドンを考慮し、コーディング領域から発現されるタンパク質のアミノ酸配列を変化させない範囲内で、コーディング領域に多様な変形がなされる。前記kefAのポリヌクレオチド配列は、公開された大腸菌のゲノム配列(GI:89107872)、またはアメリカ生物工学情報センター(NCBI)及び日本DNAデータバンク(DDBJ)のようなデータベースから得ることができ、例えば、配列番号10の塩基配列を有し、それと、相同性が80%、具体的には、90%以上の塩基配列を有することができる。しかし、それに限定されるものではない。
【0016】
本発明で使用された用語「相同性」は、前記アミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列に係わる相同性は、与えられたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列と一致する程度を意味し、百分率で表示される。本発明においては、与えられたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列と同一であるか、あるいは類似した活性を有するその相同性配列が、「%相同性」と表示される。例えば、文献によるアルゴリズムBLAST[参照:Karlin及びAltschul, Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873 (1993)]や、PearsonによるFASTA[参照:Methods Enzymol., 183, 63 (1990)]を使用して決定することができる。かようなアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている[参照:http://www.ncbi.nlm.nih.gov]。
【0017】
本明細書で使用された用語「キノリン酸(quinolinic acid)」は、キノリン酸(quinolinate)またはその塩を含む。前記「塩」は、キノリン酸の陰イオンと、塩基の陽イオンとによって作られる化合物であり、例えば、キノリン酸ナトリウム塩、キノリン酸カリウム塩、キノリン酸アムモニウム塩、キノリン酸カルシウム塩、キノリン酸マグネシウム塩などを含んでもよい。
【0018】
本明細書で使用された用語「組み換え微生物(recombinant microorganism)」は、自然的または人工的に突然変異化された微生物であるか、遺伝的に操作された微生物でもある。遺伝工学によって製造された微生物、例えば、遺伝工学方法によって、微生物内に、外因性(exogenous)核酸が導入されたり、微生物の内因性(endogenous)遺伝子の配列または位置が変形されたりするものでもある。
【0019】
本発明の「キノリン酸を生産する組み換え微生物」は、培地中の炭素源からキノリン酸を生産して蓄積させることができる微生物であり、KefA活性の低下または除去によって、変形前より高い生産性でキノリン酸を生産することができる。前記組み換え微生物は、キノリン酸を生産して蓄積させることができる微生物であるならば、制限されるものではないが、エシェリキア(Escherichia)属、エンテロバクター(Enterbacter)属、エルウィニア(Erwinia)属、セラチア(Serratia)属、プロビデンシア(Providencia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属及びブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する微生物でもある。具体的には、前記微生物は、エシェリキア属に属する微生物でもある。さらに具体的には、前記エシェリキア属微生物は、大腸菌(Escherichia coli)でもあるが、それに限定されるものではない。
【0020】
本明細書で使用された用語、酵素またはポリペプチドの「活性除去」は、微生物において、言及されたタンパク質が全く発現されないか、あるいは発現されたとしても、全く活性を有さないということを意味する。また用語「活性低下」は、言及されたタンパク質の活性が、内在的活性に比べて弱化されたことを意味する。用語「内在的活性」とは、微生物が天然の状態、すなわち、微生物が本来有していた、遺伝子組み換えを経ないタンパク質の活性を意味する。
【0021】
具体的な例として、前記KefAの活性の低下または除去は、前記KefAタンパク質を暗号化する、1)遺伝子の除去または欠失、2)前記遺伝子の発現が減少するように、発現調節配列の変形、3)前記KefAの活性が弱化されるように、染色体上の前記遺伝子配列の変形、または前記遺伝子のプローモーターを、内在的プローモーターより弱いプローモーターへの交替の方法によって行われたり、それら方法の1以上の組み合わせによって遂行されたりする。しかし、それらに制限されるものではない。
【0022】
さらに具体的には、前記KefAの活性の低下または除去は、前記KefA膜タンパク質を暗号化する遺伝子の除去または欠失によるものでもある。前記「遺伝子の除去または欠失」は、遺伝子が発現されないか、発現量が減少するか、あるいは発現されても、酵素活性を示さなかったり、活性が低下したりするように、遺伝子の一部または全部、またはそのプローモーター、そのターミネーター領域などの調節因子の一部または全部が、変異、置換、削除されとか、あるいは遺伝子に1以上の塩基が挿入されることをいう。例えば、前記遺伝子の除去または欠失は、相同組み換えのような遺伝子操作、突然変異誘発、分子進化を介して達成される。細胞が、複数個の同じ遺伝子を含むか、あるいは2個以上の異なるポリペプチド同種相同遺伝子(paralog)を含む場合、1またはそれ以上の遺伝子が除去または欠失される。
【0023】
本発明において、前記組み換え微生物は、追加してキノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(NadC:quinolinate phosphoribosyltransferase)の活性が低下または除去されたものでもある。
【0024】
本明細書で使用された用語「キノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ」は、キノリン酸を、ニコチン酸モノヌクレオチドに転換させる活性を有するものを意味する。前記キノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼの活性を有する遺伝子を除去するか、あるいはその発現を弱化させる場合、細胞内にキノリン酸の生産を増加させることができる。
【0025】
前記キノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼは、エシェリキア属微生物に由来したものでもあり、具体的には、配列番号29のアミノ酸配列を有し、それと、相同性が80%、具体的には、90%以上であるアミノ酸配列であり、実質的に、キノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼの活性を有するタンパク質であるならば、制限なしに含み、かような相同性を有する配列であって、実質的に、配列番号29のタンパク質と同一であるか、あるいは相応する生物学的活性を有するアミノ酸配列であるならば、一部配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有する場合も、本発明の範疇に含まれるということは自明である。
【0026】
前記キノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼをコーディングするnadC遺伝子の配列は、配列番号29のアミノ酸配列を暗号化するポリヌクレオチド配列を含むものでもある。前記nadC遺伝子配列は、文献に公開された大腸菌のゲノム配列(GI:89106990)、またはNCBI、DDBJのようなデータベースから得ることができる。また前記nadC遺伝子、は配列番号11の塩基配列、またはそれと80%、具体的には、90%以上の相同性を有する塩基配列を有するものでもある。前記キノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼの活性を低下または除去させることにより、細胞内にキノリン酸の蓄積を増加させることができる。
【0027】
前記キノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼの「活性の低下または除去」は、前述のKefAの「活性の低下または除去」と同一意味であるということは、本発明の当業者に自明な内容である。
【0028】
また、前記組み換え微生物は、さらに、アスパラギン酸酸化酵素(L−aspartate oxidase)(NadB)及びキノリン酸シンターゼ(quinolinate synthase)(NadA)からなる群から選択される1以上の活性が、さらに上昇したものでもある。その結果として、細胞内に、キノリン酸の前駆物質であるα−イミノスクシネートの蓄積と、α−イミノスクシネートからキノリン酸への生合成が増大し、キノリン酸の生産が増加する。
【0029】
本明細書で使用された用語「アスパラギン酸酸化酵素」は、L−アスパラギン酸を酸化させる活性を有する酵素を意味し、「L−アスパラギン酸酸化酵素」と命名される。
【0030】
従って、アスパラギン酸酸化酵素の活性が強化されれば、細胞内に、キノリン酸の前駆物質であるイミノコハク酸の蓄積が増加し、それによって、キノリン酸の生産が増加する。
【0031】
前記アスパラギン酸酸化酵素は、エシェリキア属微生物に由来したものでもあり、具体的には、配列番号30のアミノ酸配列を有し、それと、相同性が80%、具体的には、90%以上であるアミノ酸配列であって、実質的に、アスパラギン酸酸化酵素の活性を有するタンパク質であるならば、制限なしに含み、かような相同性を有する配列であって、実質的に、配列番号30のタンパク質と同一であるか、あるいは相応する生物学的活性を有するアミノ酸配列であるならば、一部配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有する場合も、本発明の範疇に含まれるということは自明である。
【0032】
前記アスパラギン酸酸化酵素を暗号化するnadB遺伝子は、配列番号30のアミノ酸配列を暗号化するポリヌクレオチド配列を含んでもよい。前記遺伝子nadBの配列は、文献に公開された大腸菌(Escherichia coli)のゲノム配列(GI:89109380)や、NCBI、DDBJのようなデータベースから得ることができる。前記nadB遺伝子は、配列番号18の塩基配列でもあり、またはそれと、相同性が80%以上、具体的には、90%以上の配列を有することができる。しかし、それに限定されるものではない。
【0033】
本明細書で使用された用語「キノリン酸シンターゼ」は、イミノコハク酸からキノリン酸を合成する活性を有する酵素を意味する。
【0034】
前記アスパラギン酸酸化酵素の活性によって生成されるα−イミノスクシネートから、キノリン酸シンターゼの触媒作用を介して、キノリン酸を合成する速度を速め、さらに高い生産性でキノリン酸を生産することができる。従って、キノリン酸シンターゼをコーディングする遺伝子の発現や、該酵素の活性を強化する場合、細胞内において、キノリン酸の生産を増加させることができる。
【0035】
前記キノリン酸シンターゼは、エシェリキア属微生物に由来したものでもあり、具体的には、配列番号31のアミノ酸配列を有し、それと、相同性が80%、具体的には、90%以上であるアミノ酸配列であって、実質的に、キノリン酸シンターゼの活性を有するタンパク質であるならば、制限なしに含む。かような相同性を有する配列であって、実質的に、配列番号31のタンパク質と同一であるか、あるいは相応する生物学的活性を有するアミノ酸配列であるならば、一部配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有する場合も、本発明の範疇に含まれるということは自明である。
【0036】
前記キノリン酸シンターゼを暗号化するnadA遺伝子は、前記配列番号31のアミノ酸配列を暗号化するポリヌクレオチド配列を含んでもよい。前記遺伝子nadAの配列は、文献に公開された大腸菌のゲノム配列(GI:89107601)や、NCBI及びDDBJのようなデータベースから得ることができる。前記キノリン酸シンターゼを暗号化するnadA遺伝子は、配列番号21の塩基配列でもあり、またはそれと、相同性が80%以上、具体的には、90%以上の配列を有することができる。しかし、それに限定されるものではない。
【0037】
本発明で使用された用語「活性の上昇」は、言及されたタンパク質の活性が、内在的活性に比べて「強化」されたことを意味する。具体的には、言及されたタンパク質を暗号化する遺伝子のコピー数増加、前記各遺伝子の発現が増加するように、発現調節配列の変形、前記各タンパク質の活性が強化されるように、染色体上の前記各遺伝子配列の変形、前記遺伝子のプローモーターを内在的プローモーターより強いプローモーターへの交替、またはそれらの組み合わせによっても遂行されるが、それらに限定されるものではない。
【0038】
具体的には、前記アスパラギン酸酸化酵素またはキノリン酸シンターゼの活性の上昇は、前記酵素を暗号化するポリヌクレオチドを含む組み換えベクターに形質転換ことによる。用語「形質転換」とは、遺伝子を宿主細胞内に導入し、宿主細胞内で発現させることを意味する。形質転換された遺伝子は、宿主細胞内で発現されれば、宿主細胞の染色体内に挿入されているものでも、または染色体外に位置しているのでも、制限なしに含まれる。また、前記遺伝子は、宿主細胞内に導入されて発現されるものであるならば、いかなる形態で導入されてもよい。例えば、前記遺伝子は、自主的に発現されるのに必要な全ての要素を含むポリヌクレオチド構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入される。前記発現カセットは、一般的に、前記遺伝子に作動可能に連結されているプローモーター、転写終結信号、リボソーム結合部位及び翻訳終結信号を含む。前記発現カセットは、自体複製が可能な発現ベクター形態でもある。また、前記遺伝子は、それ自体、またはポリヌクレオチド構造体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞で発現に必要な配列と作動可能に連結されているものでもある。前記組み換えベクターは、宿主細胞にDNAを導入し、タンパク質を発現させるための手段として、プラスミドベクター、コズミドベクター、バクテリオファージベクターなど公知の発現ベクターを使用することができる。前記ベクターは、DNA組み換え技術を利用した任意の公知された方法によって、当業者が容易に製造することができるが、それに限定されるものではない。
【0039】
さらに具体的には、前記酵素の活性上昇は、遺伝子に作動可能に連結されたプローモーターを、強化されたプローモーターに交替することにもよる。本発明の一具体例において、nadAと作動可能に連結されたプローモーターを、pCysKの代わりに、さらに強いプローモーターであるpCJ1(大韓民国特許登録番号10−0620092)に交替したとき、キノリン酸生産が大きく増加するということを確認したが(表8)、それに限定されるものではない。
【0040】
本発明の他の様態は、前記キノリン酸を生産する組み換え微生物を培地で培養する段階と、前記培地または前記微生物からキノリン酸を回収する段階と、を含む、キノリン酸を生産する方法を提供する。
【0041】
前記キノリン酸を生産する微生物については、前述の通りである。
【0042】
前記培養は、当業界に公知の適する培地及び培養条件によってなされる。当業者であるならば、選択される微生物によって、培地及び培養条件を容易に調整して使用することができるであろう。培養方法は、回分式、連続式、流加式、またはそれらの組み合わせの培養を含んでもよいが、それらに限定されるものではない。
【0043】
前記培地は、多様な炭素源、窒素源及び微量元素成分を含んでもよい。
【0044】
具体的な例として、前記炭素源は、ブドウ糖(グルコース)、ショ糖、乳糖、果糖、マルトース、澱粉、セルロースのような炭水化物;大豆油、ひまわり油、ひまし油、ココナッツ油のような脂肪;パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸のような脂肪酸;グリセロール及びエタノールのようなアルコール;酢酸のような有機酸;またはそれらの組み合わせを含んでもよく、具体的には、グルコースを炭素源にして遂行される。
【0045】
前記窒素源は、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、とうもろこし浸漬液(CSL)及び大豆ミールのような有機窒素源;及び尿素、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウムのような無機窒素源、またはそれらの組み合わせを含んでもよい。
【0046】
前記培地は、リンの供給源であり、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、及び相応するナトリウム含有塩、硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄のような金属塩を含んでもよい。また、アミノ酸、ビタミン及び適切な前駆体などが培地に含まれてもよい。前記培地または個別成分は、培養液に、回分式または連続式によって添加されるが、前述の例は、例示であるのみ、それらに限定されるものではない。
【0047】
また、培養中に、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸及び硫酸のような化合物を、微生物培養液に適切な方式によって添加し、培養液のpHを調整することができる。また、培養中に、脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を使用して、気泡生成を抑制することができる。培養液の好気状態を維持するために、培養液内に、酸素または酸素含有気体(例えば、空気)を注入することができる。培養液の温度は、一般的に、20℃ないし45℃、例えば、25℃ないし40℃でもある。培養期間は、所望のキノリン酸の生成量が得られるまで持続することができ、例えば、10ないし160時間でもある。
【0048】
前記培養物から、キノリン酸を回収する方法は、培養方法、例えば、回分式、連続式または流加式の培養方法などにより、当該分野に公知された適する方法を利用して、培養液物から生産されたキノリン酸を収集または回収することができる。
【0049】
以下、本発明について、実施例によって、さらに詳細に説明する。しかし、それら実施例は、本発明について例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲は、それら実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0050】
実施例1.キノリン酸を生産する菌株作製
1−1.キノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ除去菌株の作製
大腸菌K12 W3110の染色体DNAをテンプレートにしたPCRを介して、キノリン酸分解経路のnadC遺伝子を得た。アメリカ国立保健院の遺伝子銀行(NIH GenBank)から、nadC遺伝子の塩基配列情報(NCBI登録番号「GI:89106990」)を得て、nadC塩基配列11に基づいて、nadC遺伝子の下流(downstream)部分を増幅する配列番号12及び13のプライマー、nadCの上流(upstream)及び下流部分とloxpCmとを増幅する配列番号14及び15のプライマー、上流部分を増幅する配列番号16及び17のプライマーを合成した。
【0051】
大腸菌K12 W3110の染色体DNAをテンプレートにして、配列番号12及び13オリゴヌクレオチド、並びに16及び17のオリゴヌクレオチドをプライマーにしてPCRを行い、それぞれ0.5kb及び0.3kbのnadC遺伝子の上流部分及び下流部分を増幅した。また、loxpCmを含んでいるプラスミドベクターpLoxpCat2ベクター(Genbank Accession No.AJ401047)をテンプレートにして、配列番号14及び15のオリゴヌクレオチドをプライマーにしてPCRを行い、1.0kbの両末端に、nadC遺伝子と相同配列を有するloxpCm遺伝子を増幅した。重合酵素は、PfuUltraTM DNAポリメラーゼ(Stratagene社、米国)を使用し、PCRは、96℃で30秒の変性、53℃で30秒のアニーリング、及び72℃で1分の伸張で構成されたサイクルを30回反復して行った。
【0052】
その後、前記のPCR反応を介して得られたnadC−上流切片、nadC−下流切片、loxpCm切片をテンプレートにしてPCRを行い、PCR条件は、96℃での60秒の変性、50℃での60秒の変性、及び72℃での1分の伸張で構成されたサイクル10回、及び配列番号12及び17のプライマー添加後サイクル20回であった。その結果、1.8kbのnadC遺伝子上流−loxpCm−下流を含んだnadC欠損カセットを獲得した。
【0053】
作製されたnadC欠損カセットをラムダレッド組み換え酵素(lambda red recombinase)発現ベクターであるpKD46を含んだ大腸菌K12 W3110上において、電気穿孔を介して形質転換させ、選別マーカーであるクロラムフェニコールが含有されたLB(Luria-Bertani)平板培地(トリプトン10g/L、酵母抽出物5g/L、NaCl 10g/L及びアガール1.5%)上に塗抹し、37℃で一晩中培養した後、クロラムフェニコールに対する耐性を示す菌株を選別した。
【0054】
選別された菌株を直接テンプレートにし、配列番号13及び16のプライマーを利用して、同じ条件でPCRを行った後、1.0%アガロースゲル上で、遺伝子の大きさが、野生菌株の場合、1.6kbであり、nadC除去菌株の場合、1.3kbであるということを確認することにより、nadC遺伝子の欠失を確認した。それをW3110−ΔnadCと命名した。
【0055】
また、前述のところと同一方法で、K12 MG1655菌株を基にnadC遺伝子を欠失させ、それをMG1655−ΔnadCと命名した。
【0056】
1−2.KefA除去菌株の作製
米国国立保健院の遺伝子銀行(NIH GenBank)から、配列番号10のkefA遺伝子の塩基配列(NCBI登録番号「GI::89107872」)を得て、それに基づいて、kefA遺伝子の下流部分を増幅する配列番号2及び3のプライマー、kefAの上流部分及び下流部分、とFRT−KMとを増幅する配列番号4及び5のプライマー、上流部分を増幅する配列番号6及び7のプライマーを合成した。
【0057】
大腸菌W3110の染色体DNAをテンプレートにして、配列番号2及び3プライマー、並びに6及び7のプライマーを利用してPCRを行い、それぞれ0.8Kb及び0.6KbのkefA遺伝子の上流部分及び下流部分を増幅した。また、FRT−Kmを含むpKD4ベクターをテンプレートにして、配列番号4及び5のオリゴヌクレオチドをプライマーにしてPCRを行い、1.4Kbの両末端に、kefAと相同配列を有するFRT−Km遺伝子を増幅した。重合酵素は、PfuUltraTM DNAポリメラーゼ(Stratagene)を使用し、PCRは、96℃で30秒の変性、53℃で30秒のアニーリング、及び72℃で2分の伸張で構成されたサイクルを30回反復して行った。その後、前記のPCR反応を介して得られたkefA−上流切片、kefA−下流切片、FRT−Km切片をテンプレートにしてPCRを行い、PCR条件は、96℃での60秒の変性、50℃での60秒の変性、及び72℃での2分の伸張で構成されたサイクル10回、及び配列番号6及び7のプライマー添加後サイクル20回であった。その結果、2.6kbのkefA上流−FRT−Km−kefA下流を含んだkefA除去カセットを獲得した。
【0058】
作製されたkefA除去カセットを、ラムダレッド組み換え酵素(lambda red recombinase)発現ベクターであるpKD46を含んだ大腸菌W3110−ΔNadC上において、電気穿孔を介して形質転換させ、選別マーカーであるカナマイシンが含有されたLB(Luria-Bertani)平板培地(トリプトン10g/L、酵母抽出物5g/L、NaCl 10g/L及びアガール1.5%)上に塗抹し、37℃で一晩中培養した後、カナマイシンに対する耐性を示す菌株を選別した。選別された菌株を直接テンプレートにし、配列番号8及び9のプライマーを利用して、前記のような条件でPCRを行った後、1.0%アガロースゲル上で、遺伝子の大きさが野生菌株の場合、4.2kbであり、kefA除去菌株の場合、1.5kbであるということを確認することにより、kefA遺伝子の欠失を確認した。かように作製された菌株をW3110−ΔnadCΔkefAと命名した。
【0059】
また、前記作製されたkefA除去カセットを利用して、同一方法で、MG1655−ΔnadC菌株において、kefA遺伝子を欠失させ、それをMG1655−ΔnadCΔkefAと命名した。
【0060】
1−3.大腸菌L−アスパラギン酸酸化酵素発現用プラスミドの作製
大腸菌由来の野生型L−アスパラギン酸酸化酵素をコーディングするnadB遺伝子を、発現ベクターにクローニングした。そのために、テンプレートとしては、大腸菌K12 W3110菌株(ATCC No.23257)の染色体を使用した。遺伝子配列は、米国国立保健院の遺伝子銀行(NIH GenBank)から、配列番号18の遺伝子の塩基配列(NCBI登録番号「GI:89109380」)を活用した。nadB遺伝子のORF部分を増幅し、制限酵素認識部位NdeIと制限酵素認識部位BamHIを有する配列番号19及び20のプライマーを合成した。
【0061】
前記大腸菌K12 W3110の染色体DNAをテンプレートとして、配列番号19及び20のオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用してPCRを行った。重合酵素は、PfuUltraTM DNAポリメラーゼ(Stratagene社、米国)を使用し、PCRは、96℃で30秒変性、50℃で30秒アニーリング及び72℃で2分の伸張で構成されたサイクルを30回反復して遂行した。PCRを介して、nadBORF遺伝子と、制限酵素NdeI及び制限酵素BamHIの認識部位とを含んだ約1.9kbの増幅された遺伝子を得た。
【0062】
前記PCRを介して得られたnadB遺伝子は、アガロースゲル溶出(agarose gel elution)を介して回収した後、制限酵素NdeI及び制限酵素BamHIで処理した。その後、制限酵素NdeI及び制限酵素BamHIで処理したpProLar(CloneTech社、米国)ベクターに接合(ligation)し、pProプローモーターに連結されたnadB遺伝子から、L−アスパラギン酸酸化酵素が発現されるようにした。前記の方法によって作製されたベクターをpPro−nadBベクターと命名した。
【0063】
1−4.アスパラギン酸酸化酵素及びキノリン酸シンターゼ発現用プラスミド作製
(1)pPro−nadB_pCysK−nadAベクター作製
まず、大腸菌W3110の染色体DNAをテンプレートにしたPCRを介して、キノリン酸シンターゼをコーディングする遺伝子nadAを得た。米国国立保健院の遺伝子銀行(NIH GenBank)から、配列番号21のnadA遺伝子の塩基配列情報(NCBI登録番号「GI:89107601」)を活用した。それに基づいて、nadA遺伝子のATG部分と、TAAを含むORF部分とを増幅し、制限酵素ApaI及び制限酵素NotIの認識部位を有する配列番号22及び23のプライマーを合成した。
【0064】
大腸菌W3110の染色体DNAをテンプレートにして、前記配列番号22及び23のオリゴヌクレオチドをプライマーにしてPCRを行った。重合酵素は、PfuUltraTM DNAポリメラーゼ(Stratagene社、米国)を使用して、PCRは、96℃での30秒の変性、50℃での30秒のアニーリング、及び72℃での2分の伸張から構成されたサイクルを30回反復して遂行した。その結果、nadA遺伝子と、制限酵素ApaI及び制限酵素NotIの認識部位とを含んだ約1.0kbの増幅された遺伝子を獲得した。
【0065】
また、大腸菌W3110の染色体DNAをテンプレートにしたPCRを介して、cysKプローモーターを得た。米国国立保健院の遺伝子銀行(NIH GenBank)から、cysK遺伝子の上流0.3kb内に位置したプローモーターの塩基配列情報を得て(配列番号24)、それに基づいて、cysKプローモーターと、前述のところにおいて増幅されたnadA遺伝子とを接合させるために、制限酵素BamHIと制限酵素ApaIとの認識部位を有する配列番号25及び26のプライマーを合成した。
【0066】
大腸菌W3110の染色体DNAをテンプレートにして、前記配列番号25及び26のオリゴヌクレオチドをプライマーにしてPCRを行った。重合酵素は、PfuUltraTM DNAポリメラーゼ(Stratagene)を使用し、PCR条件は、96℃で30秒の変性、50℃で30秒のアニーリング、及び72℃で1分の伸張で構成されたサイクルを30回反復した。その結果、cysKプローモーターと、制限酵素BamHI及び制限酵素ApaIとを含んだ約0.3kbの増幅された遺伝子を獲得した。
【0067】
前記PCRを介して獲得したnadA遺伝子を、制限酵素ApaI及び制限酵素NotIで処理し、増幅されたcysKプローモーター切片を、ApaI及びBamHIで処理した。制限酵素で処理したnadA及びcysKプローモーターの切片を制限酵素NotI及び制限酵素BamHIで処理した前記1−2で得たpPro−nadBベクターに、接合を介してクローニングし、最終的に、構成的プローモーターであるpProプローモーターによって発現調節を受けるnadB遺伝子、及びcysK遺伝子プローモーターによって発現調節を受けるnadA遺伝子がクローニングされた5.9KbのpPro−nadB_pCysK−nadAベクターを作製した。
【0068】
(2)pPro−nadB_pCJ1−nadAベクター作製
キノリン酸生合成過程において、最も末端にあるキノリン酸シンターゼをコーディングするnadA遺伝子の発現をさらに強化させるために、前記のpCysKプローモーターの代わりに、K12 W3110において活性がさらに強いpCJ1プローモーターを利用した。韓国特許公開公報KR2006−0068505Aを基に、pCJ1プローモーターを含んだプラスミドをDNAをテンプレートにしたPCRを介して、pCJ1プローモーターを得た。pCJ1プローモーターと、前述のところで増幅されたnadA遺伝子とを接合させるために、制限酵素BamHI及び制限酵素ApaIの認識部位を有する配列番号27及び28のプライマーを合成した。
【0069】
大腸菌W3110の染色体DNAをテンプレートにして、前記配列番号27及び28のオリゴヌクレオチドをプライマーにしてPCRを行った。重合酵素は、PfuUltraTM DNAポリメラーゼ(Stratagene)を使用し、PCR条件は、96℃での30秒の変性、50℃での30秒のアニーリング、及び72℃での1分の伸張で構成されたサイクルを30回反復した。その結果、pCJ1プローモーターと、制限酵素BamHI及び制限酵素ApaIを含んだ約0.3kbの増幅された遺伝子を獲得した。
【0070】
前記PCRを介して獲得したnadA遺伝子を、制限酵素ApaI及び制限酵素NotIで処理し、増幅されたpCJ1プローモーター切片を、ApaI及びBamHIで処理した。前記制限酵素で処理したnadA及びpCJ1プローモーターの切片を、制限酵素NotI及び制限酵素BamHIで処理した前記1−2で得られたpPro−nadBベクターに、接合を介してクローニングし、最終的に、構成的プローモーターであるpProプローモーターによって発現調節を受けるnadB遺伝子と、pCJ1遺伝子プローモーターによって発現調節を受けるnadA遺伝子とがクローニングされた5.9KbのpPro−nadB_pCJ1−nadA組み換えベクターを作製した。
【0071】
実施例2.キノリン酸生産菌株の生成能評価
2−1.キノリン酸生産菌株の生産能力の比較のための力価確認
キノリン酸生産能を評価するために、nadB、nadAが強化されたプラスミドを、W3110−ΔnadC,MG1655−ΔnadC菌株にそれぞれ導入した。導入方法は、CaCl方法を利用して形質転換し、37℃の培養器で、LB−Km(酵母抽出物10g/L、NaCl5g/L、トリプトン10g/L、アガール1.5%、カナマイシン50μg/L)平板培地に塗抹し、一晩中培養した。その後、カナマイシン耐性を有する得られた単一コロニーを、25mLのキノリン酸力価培地に1白金耳ずつ接種し、33℃で250rpmで、24ないし72時間培養した。下記表1は、キノリン酸生産用培地の組成を示している。
【0072】
【表1】
【0073】
培養液中のキノリン酸をHPLCで分析し、その結果を下記表2に示した。それは、菌株のキノリン酸生成能を示している。表2から確認することができるように、キノリン酸基盤菌株及びnadBAの発現程度によって、キノリン酸生産の差を確認した。特に、pCysKプローモーターより発現強度が強いpCJ1において、nadA遺伝子発現を強化させた場合、大腸菌K12野生型基盤のW3110−ΔnadC及びMG1655−ΔnadCにおいて、キノリン酸の生産が大きく増加するということを確認した。
【0074】
【表2】
【0075】
2−2.KefA除去菌株キノリン酸生成能の評価
kefA除去菌株のキノリン酸生成能を比較するために、前記1−4で作製されたW3110−ΔnadCΔkefA,MG1655−ΔnadCΔkefA菌株を、それぞれpPro−nadB_pCJ1−nadAプラスミドにおいて、CaCl方法を利用して形質転換した。形質転換された前記各菌株を、37℃の培養器において、LB−Km(酵母抽出物10g/L、NaCl5g/L、トリプトン10g/L、アガール1.5%、カナマイシン50μg/L)平板培地に塗抹し、一晩中培養した。その後、カナマイシン耐性を有するコロニーを得た単一コロニーを、25mLのキノリン酸力価培地(表1)に、1白金耳ずつ接種し、33℃で250rpmで、24ないし72時間培養した。
【0076】
培養液中のキノリン酸をHPLCによって分析し、結果を表3に示した。下記表3に表示されているように、kefA除去菌株において、対照群対比でキノリン酸濃度が上昇し、特に、野生型菌株基盤において、kefA欠損によるキノリン酸濃度上昇が15%以上レベルであると確認された。
【0077】
【表3】
【0078】
2−3.KefA活性低下効果の確認
(1)KefA開始コドン(start codon)置換プラスミド作製
キノリン酸生産菌株において、KefAの弱化効果を確認するために、kefAが弱化されたプラスミドを作製した。遺伝子配列は、米国国立保健院の遺伝子銀行(NIH GenBank)の配列番号10の遺伝子の塩基配列(NCBI登録番号「GI::89107872」)を活用した。kefA開始コドンを、ATGからTTGに変異させ、kefA遺伝子のORF部分を増幅し、制限酵素認識部位blunt及び制限酵素認識部位BamHIを有する配列番号32及び33のプライマーを合成した。また、kefA遺伝子の自家プローモーター部位を増幅し、制限酵素認識部位SacI及び制限酵素認識部位bluntを有する配列番号34及び35のプライマーを合成した。
【0079】
大腸菌K12 W3110菌株(ATCC No.23257)の染色体DNAをテンプレートにして、配列番号32及び33のオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用してPCRを行った。重合酵素は、PfuUltraTM DNAポリメラーゼ(Stratagene)を使用し、PCRは、96℃で30秒変性、50℃で30秒アニーリング及び72℃で30秒の伸張で構成されたサイクルを30回反復して行った。PCRを介して、kefAORF部位と、制限酵素BamHIの認識部位とを含んだ約0.15kbの増幅された遺伝子を得た。
【0080】
また、K12 W3110染色体DNAをテンプレートとして、配列番号34及び35のオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用してPCRを行った。重合酵素は、PfuUltraTM DNAポリメラーゼ(Stratagene)を使用し、PCRは、96℃で30秒変性、50℃で30秒アニーリング及び72℃で30秒の伸張で構成されたサイクルを30回反復して行った。PCRを介して、kefA自家プローモーター部位と、制限酵素SacIIの認識部位とを含んだ約0.15kbの増幅されたpKefAプローモーターを得た。
【0081】
前記PCRを介して得られたkefAORF部位とpKefAプローモーターは、アガロースゲル溶出(agarose gel elution)を介して回収した後、それぞれBamHI制限酵素及びSacI制限酵素で処理した。その後、制限酵素BamHI及び制限酵素SacIで処理したpSG76C(J. Bacteriol. 179 (13), 4426-4428 (1997),NCBI genebank Y09892)ベクターに接合(ligation)した。
【0082】
それを介して、自家プローモーターを有しながら、開始コドンがATGからTTGに置換されたkefAORF部位を有したベクターを作製し、pSG76C_kefA*(ATG→TTG)ベクターと命名した。
【0083】
(2)kefA開始コドン置換菌株の作製、及びキノリン酸生成能の評価
前記(1)で作製されたpSG76C_kefA*(ATG→TTG)ベクターを、大腸菌W3110−ΔNadC上において、電気穿孔を介して形質転換させ、選別マーカーであるクロラムフェニコールが含有されたLB(Luria-Bertani)平板培地(トリプトン10g/L、酵母抽出物5g/L、NaCl 10g/L及びアガール1.5%)上に塗抹し、37℃で一晩中培養した後、クロラムフェニコールに対する耐性を示す菌株を選別した。選別された菌株を直接テンプレートにして、配列番号33及び34のプライマーを利用して、同じ条件でPCRを行った後、1.0%アガロースゲル上において、0.30kbサイズのPCR産物を獲得し、シーケンシングを介して、kefAの開始コドンがATGからTTGに置換された菌株を最終的に選別した。それを、W3110−DnadC_kefA*(ATG→TTG)と命名した。
【0084】
また、前記pSG76C_kefA*(ATG→TTG)ベクターを利用して、同一方法で、MG1655−ΔnadCを形質転換させ、kefAの開始コドン置換を確認し、それを、MG1655−ΔnadC_kefA*(ATG→TTG)と命名した。
【0085】
それぞれ形質転換された菌株のキノリン酸の生成能を比較するために、下記表4の菌株のクロラムフェニコール耐性を有する得られた単一コロニーを、25mLのキノリン酸力価培地(表1)に1白金耳ずつ接種し、33℃で250rpmで、24ないし72時間培養した。培養液中のHPLCによるキノリン酸分析結果を、表4に示した。結果として、kefA弱化菌株、すなわち、kefAの開始コドンが置換された菌株が生産したキノリン酸濃度が、対照群対比で10%レベル上昇した。
【0086】
【表4】
【0087】
実施例3.kefA除去菌株kefA及び強化菌株のキノリン酸敏感性の評価
3.1 キノリン酸生産菌株のキノリン酸に対する敏感性評価
前述のキノリン酸生産能評価結果を基に、KefA除去が、外部のキノリン酸の細胞内部への再流入を弱化させ、キノリン酸の生産能が上昇したと予測した。それに基づいて、kefA除去菌株とkefA強化菌株とのキノリン酸敏感性を評価した。
【0088】
まず、生産菌株に生育低下を起こすように、KOHでPH7.0で、適正な13g/Lキノリン酸添加有無による影響性を把握した。そのために、キノリン酸生産菌株の単一コロニーを、25mLのLB+1%グルコース(酵母抽出物10g/L、NaCl 5g/L、トリプトン10g/L、カナマイシン50μg/L、10g/Lグルコース)液体培地に1白金耳ずつ接種し、37℃で250rpmで、16ないし24時間培養し、OD600、消耗糖及び残存キノリン酸を測定した。
【0089】
【表5】
【0090】
前記の表5から分かるように、追加して培地にキノリン酸を添加した場合、細胞内部にキノリン酸が流入されながら、生育及び糖消耗速度が40%レベル低下するということを確認した。
【0091】
それにより、前記操作したnadCが欠損され、nadBAが強化された、W3110ΔnadCΔkefAに対するpPro−nadB_pCJ1−nadAプラスミド導入菌株を、ブダペスト条約下で、2013年11月07日付けで、韓国微生物保存センター(KCCM)に寄託し、寄託番号KCCM11470Pを受けた。
【0092】
3.2 kefA除去菌株kefA及び強化菌株のキノリン酸に対する敏感性評価
(1)KefAタンパク質の過発現ベクター作製
大腸菌由来のkefA遺伝子を過発現するベクターを作製するために、テンプレートとしては、大腸菌K12 W3110菌株(ATCC No23257)の染色体をテンプレートとして利用し、遺伝子配列は、米国国立保健院の遺伝子銀行(NIH GenBank)の配列番号10の遺伝子塩基配列(NCBI登録番号「GI::89107872」)を活用した。kefA遺伝子のORF部分を増幅し、制限酵素認識部位EcoRV及び制限酵素認識部位HindIIIを有する配列番号36及び37のプライマーを合成した。
【0093】
前記大腸菌K12 W3110の染色体DNAをテンプレートとして、配列番号36及び37のオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用してPCRを行った。重合酵素は、PfuUltraTM DNAポリメラーゼ(Stratagene)を使用し、PCRは、96℃で30秒変性、50℃で30秒アニーリング及び72℃で2分の伸張で構成されたサイクルを30回反復して行った。PCRを介して、kefAORF遺伝子と、制限酵素EcoRV及び制限酵素HindIIIの認識部位とを含んだ約3.3kbの増幅された遺伝子を得た。
【0094】
前記PCRを介して得られたkefA遺伝子は、アガロースゲル溶出(agarose gel elution)を介して回収した後、制限酵素EcoRV及び制限酵素HindIIIで処理した。その後、制限酵素EcoRV及び制限酵素HindIIIで処理したpCL1920_pRhtBベクターに接合(ligation)した。それを介して、pRhtBプローモーターに連結されたkefA遺伝子から発現されるようにした。前記の方法によって作製されたベクターを、pCL_pRhtB−kefAベクターと命名した。
【0095】
(2)KefA除去菌株、及びKefA強化菌株キノリン酸敏感性の評価
KefA膜タンパク質が、キノリン酸流入に影響を及ぼすか否かということを把握するために、前記の2−4.(1)の方法と同一方法で、kefA遺伝子の除去菌株と強化菌株とのキノリン酸敏感性評価を行った。
【0096】
【表6】
【0097】
前記表6から分かるように、LB液体培地上でも、kefA遺伝子を強化させた場合、キノリン酸生産菌株の生育及び糖消耗速度が、W3110−ΔnadCにnadBA遺伝子が強化された対照群菌株対比で40%レベル顕著に低減し、キノリン酸生産も、全くないということを確認した。また、培地に追加してキノリン酸を添加した条件で、kefA除去菌株の場合、対照群菌株対比で、生育及び糖消耗速度が110%レベル向上し、kefA強化菌株は、対照群菌株対比で、生育及び糖消耗速度が50%レベル低下した。
【0098】
前記結果を介して、KefA膜タンパク質が、細胞内部でキノリン酸流入に関与すると判断される。また、kefA除去によって、キノリン酸生産菌株のキノリン酸に対する敏感性が低くなり、同時にキノリン酸生産増加までなされるということを確認した。
【受託番号】
【0099】
寄託機関名:韓国微生物保存センター(国外)
受託番号:KCCM11470P
受託日付け:20131107
【配列表】
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