特許第6491322号(P6491322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6491322切込形成時のウォールソーシステムの制御方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491322
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】切込形成時のウォールソーシステムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B28D 1/04 20060101AFI20190318BHJP
   B27B 5/02 20060101ALI20190318BHJP
   B27B 5/20 20060101ALI20190318BHJP
   B23D 45/02 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   B28D1/04 B
   B28D1/04 A
   B27B5/02 D
   B27B5/20 A
   B23D45/02 C
【請求項の数】16
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-513096(P2017-513096)
(86)(22)【出願日】2015年9月3日
(65)【公表番号】特表2017-527471(P2017-527471A)
(43)【公表日】2017年9月21日
(86)【国際出願番号】EP2015070101
(87)【国際公開番号】WO2016037920
(87)【国際公開日】20160317
【審査請求日】2017年4月24日
(31)【優先権主張番号】14003101.4
(32)【優先日】2014年9月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】ベロイター, クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】シュテフィク, ドラガン
(72)【発明者】
【氏名】カナイダー, ヴィルフリート
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/124931(WO,A1)
【文献】 特開2006−231920(JP,A)
【文献】 特表2016−507391(JP,A)
【文献】 特表2016−507392(JP,A)
【文献】 特表2016−507390(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/128095(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/124912(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0180371(US,A1)
【文献】 施工計画の手引 ウォールソーイング工法,日本,一般社団法人 日本コンクリート切断穿孔業協会,2011年 7月 1日,第12版,第4、7、9頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 1/04
B28D 1/24
E04G 23/08
B23D 45/02 − 45/04
B27B 5/02
B27B 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内軌道(11)と、ウォールソー(12)とを備え、前記ウォールソー(12)は、ソーヘッド(14)と、前記案内軌道(11)に沿った移動方向(28)に前記ソーヘッド(14)を移動させる動力式の駆動ユニット(15)と、前記ソーヘッド(14)に設けられて揺動軸(23)周りに揺動可能なソーアーム(17)に取り付けられ、回転軸(19)周りに回転駆動される少なくとも1つのソーブレード(16)と、厚さ(d)を有した加工対象物(24)に対し、第1端点(E)と第2端点(E)との間で最終深さ(T)を有した切込部(51)を形成する際に前記ソーブレード(16)を囲う、少なくとも1つの着脱可能なブレードガード(21)とを有し、前記第1端点(E)及び前記第2端点(E)の少なくとも一方が障害物のある端点とされるときのウォールソーシステム(10)の制御方法であって、
前記ウォールソー(12)のコントロールユニット(29)によって実行される切込制御の開始前に、前記少なくとも1つのソーブレード(16)のブレード径(D)と、前記移動方向(28)における前記第1端点(E)及び前記第2端点(E)の位置と、前記切込部(51)の前記最終深さ(T)と、mを2以上とするときにm個のメイン切込工程により前記第1端点(E)及び前記第2端点(E)の間で行われるメイン切込処理の手順とを少なくとも設定し、前記メイン切込処理が、前記ソーアーム(17)の揺動角を最後から2番目のメイン切込角(±αm−1)、使用ソーブレードの径を最後から2番目のブレード径(Dm−1、前記使用ソーブレードの前記加工対象物(24)内への切込深さを最後から2番目の切込深さ(hm−1とする最後から2番目のメイン切込工程と、前記ソーアーム(17)の揺動角を最後のメイン切込角(±α)、前記使用ソーブレードの径を最後のブレード径(D、前記使用ソーブレードの前記加工対象物(24)内への切込深さを最後の切込深さ(hとする最後のメイン切込工程とを少なくとも備え、
前記コントロールユニット(29)によって実行される前記切込制御の際に、
前記ソーアーム(17)を、前記最後から2番目のメイン切込角(±αm−1)に揺動した状態で、前記最後から2番目のメイン切込工程を実行し、
前記ソーアーム(17)を、前記最後のメイン切込角(±α)に揺動した状態で、前記最後のメイン切込工程を実行する
ウォールソーシステムの制御方法において、
前記コントロールユニット(29)によって実行される前記切込制御の開始前に、障害物のある端点とされた前記少なくとも1つの端点(E,E)について、前記メイン切込処理の手順に加え、端部切込工程による端部切込処理の手順を定め、
前記端部切込処理は、
前記ソーアーム(17)の揺動角を第1端部切込角(±φ1,1,±φ2,1)、前記使用ソーブレードの径を第1ブレード径(D1,1,D2,1、前記使用ソーブレードの前記加工対象物(24)内への切込深さを第1切込深さとする第1端部切込工程と、
前記ソーアーム(17)の揺動角を第2端部切込角(±φ1,2,±φ2,2)、前記使用ソーブレードの径を第2ブレード径(D1,2,D2,2、前記使用ソーブレードの前記加工対象物(24)内への切込深さを第2切込深さとする第2端部切込工程とを少なくとも備え
前記第2端部切込工程における前記第2切込深さは、前記第1端部切込工程における前記第1切込深さよりも大きく、
前記コントロールユニット(29)によって実行される前記切込制御の際に、前記端部切込処理は、前記最後のメイン切込工程の前、または前記最後のメイン切込工程の後に実行される
ことを特徴とする制御方法。
【請求項2】
前記端部切込処理は、nを2以上、jを1〜nのいずれかとするとき、前記ソーアーム(17)の揺動角にj個の端部切込角(±φ1,j,±φ2,j)を適用すると共に、前記使用ソーブレードの径にj個のブレード径(D1,j,D2,j)を適用するn個の端部切込工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記コントロールユニット(29)によって実行される前記切込制御の開始前に、前記ソーアーム(17)の前記揺動軸(23)と前記ソーブレード(16)の前記回転軸(19)との距離として規定される前記ソーアーム(17)のアーム長(δ)、及び前記揺動軸(23)と前記加工対象物(24)の表面(53)との距離(Δ)を設定することを特徴とする請求項1に記載の制御方法。
【請求項4】
前記第1端点(E)は、障害物を有する端点とされ、
前記コントロールユニット(29)は、前記端部切込処理のための第1終了位置を演算し、
前記第1終了位置において、前記揺動軸(23)は、
|±α|≦αkritの場合、
X(E)+D/2−δ・sin(±α)
の位置にあり、
αkrit<|±α|の場合、
X(E)+D/2−δ・sin(±αkrit)
の位置にある
ことを特徴とする請求項3に記載の制御方法。
【請求項5】
jを1〜nのいずれかとするとき、前記端部切込処理のj番目の端部切込工程では、前記ソーヘッド(14)を第1開始位置に配置すると共に、前記ソーアーム(17)の揺動角をj番目の端部切込角(±φ1,j)とし、前記ソーアーム(17)を前記j番目の端部切込角(±φ1,j)に揺動した状態で、前記ソーヘッド(14)を前記第1終了位置に移動することを特徴とする請求項4に記載の制御方法。
【請求項6】
前記第1開始位置において、前記揺動軸(23)は、
|±φ1,n|≦αkritの場合、
X(E)+D1,n/2−δ・sin(±φ1,n)
の位置にあり、
αkrit<|±φ1,n|の場合、
X(E)+D1,n/2−δ・sin(±αkrit)
の位置にある
ことを特徴とする請求項5に記載の制御方法。
【請求項7】
前記最後から2番目のメイン切込工程は、前記ブレードガード(21)を用いて行われ、
前記切込制御の開始前に、前記最後から2番目のメイン切込工程で使用する前記ブレードガード(21)について、取付距離(ΔMontage)と、最後から2番目のブレードガード幅(Bm−1)とを設定し、前記最後から2番目のブレードガード幅(Bm−1)は、前記回転軸(19)から第1ブレードガード縁部(71)までの第1距離(B1,m−1)と、前記回転軸(19)から第2ブレードガード縁部(72)までの第2距離(B2,m−1)とからなる
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の制御方法。
【請求項8】
前記コントロールユニット(29)は、前記切込制御を中断し、第1待機位置に前記ウォールソー(12)を移動することを特徴とする請求項7に記載の制御方法。
【請求項9】
前記第1待機位置において、前記揺動軸(23)は、
|±α|≦90°の場合、
[B1,m−1+ΔMontage,B1,m−1−δ・sin(±α)]
の最大値をX(E)に加算した位置にあり、
90°<|±α|の場合、
[B1,m−1+ΔMontage,B1,m−1−δ・sin(±αkrit)]
の最大値をX(E)に加算した位置にある
ことを特徴とする請求項8に記載の制御方法。
【請求項10】
前記切込制御を再開した後、前記第1待機位置に対応した第1再開位置に、前記ウォールソー(12)を配置することを特徴とする請求項8または9に記載の制御方法。
【請求項11】
前記第2端点(E)は、障害物を有する端点とされ、
前記コントロールユニット(29)は、前記端部切込処理のための第2終了位置を演算し、
前記第2終了位置において、前記揺動軸(23)は、
|±α|≦αkritの場合、
X(E)−D/2−δ・sin(±α)
の位置にあり、
αkrit<|±α|の場合、
X(E)−D/2−δ・sin(±αkrit)
の位置にある
ことを特徴とする請求項3に記載の制御方法。
【請求項12】
jを1〜nのいずれかとするとき、前記端部切込処理のj番目の端部切込工程では、前記ソーヘッド(14)を第2開始位置に配置すると共に、前記ソーアーム(17)の揺動角をj番目の端部切込角(φ2,j)とし、前記ソーアーム(17)を前記j番目の端部切込角(φ2,j)に揺動した状態で、前記ソーヘッド(14)を前記第2終了位置に移動することを特徴とする請求項11に記載の制御方法。
【請求項13】
前記第2開始位置において、前記揺動軸(23)は、
|±φ2,n|≦αkritの場合、
X(E)−D2,n/2−δ・sin(±φ2,n)
の位置にあり、
αkrit<|±φ2,n|の場合、
X(E)−D2,n/2−δ・sin(±αkrit)
の位置にある
ことを特徴とする請求項12に記載の制御方法。
【請求項14】
前記最後のメイン切込工程は、前記ブレードガード(21)を用いて行われ、
前記切込制御の開始前に、前記最後のメイン切込工程で用いる前記ブレードガード(21)について、取付距離(ΔMontage)と、最後のブレードガード幅(B)とを設定し、前記最後のブレードガード幅(B)は、前記回転軸(19)から第1ブレードガード縁部(71)までの第1距離(B1,m)と、前記回転軸(19)から第2ブレードガード縁部(72)までの第2距離(B2,m)とからなる
ことを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の制御方法。
【請求項15】
前記コントロールユニット(29)は、前記切込制御を中断し、第2待機位置に前記ウォールソー(12)を移動することを特徴とする請求項14に記載の制御方法。
【請求項16】
前記第2待機位置において、前記揺動軸(23)は、
|±α|≦90°の場合、
[B2,m+ΔMontage,B2,m+δ・sin(±α)]
の最大値をX(E)から減算した位置にあり、
90°<|±α|の場合、
[B2,m+ΔMontage,B2,m+δ・sin(±90°)]
の最大値をX(E)から減算した位置にある
ことを特徴とする請求項15に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に記載の構成により切込作業を行う際の、ウォールソーシステムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第1端点と第2端点との間で加工対象物に切込作業を行う際の、ウォールソーシステムの制御方法は、特許文献1によって知られている。このウォールソーシステムは、案内軌道と、ソーヘッド、案内軌道に沿った移動方向にソーヘッドを移動させる動力式の駆動ユニット、及びソーヘッドのソーアームに取り付けられて回転用駆動モータにより回転軸周りに回転駆動される少なくとも1つのソーブレードを有したウォールソーとを備える。ソーアームは、揺動モータと揺動軸とを用いて揺動可能に構成される。揺動軸周りのソーブレードの揺動により、加工対象物に対するソーブレードの切込深さを変更する。動力式の駆動ユニットは、ガイドキャリッジと移動用駆動モータとを備え、ウォールソーがガイドキャリッジに取り付けられ、移動用駆動モータにより案内軌道に沿って移動する。ウォールソーシステムの作動を監視するため、揺動角センサと変位センサとを有したセンサ装置が設けられる。揺動角センサは、ソーアームの最新の揺動角を検出し、変位センサは、案内軌道上のソーヘッドの最新の位置を検出する。ソーアームの最新の揺動角の検出値、及びソーヘッドの最新の位置の検出値は、定期的にウォールソーのコントロールユニットに送信される。
【0003】
ウォールソーシステムの公知の制御方法は、準備段階と、コントロールユニットによる切込制御とに区分される。準備段階では、少なくとも、ソーブレードの径、移動方向における第1端点及び第2端点の位置、及び切込部の最終深さが、使用者によって設定され、追加しうるパラメータとしては、作業を行う加工対象物の素材や、埋め込まれている鉄筋の寸法がある。入力されたパラメータに基づき、コントロールユニットが、切込作業についての、いくつかのメイン切込工程からなるメイン切込処理の適切な手順を定め、このメイン切込処理は、ソーアームの揺動角を第1メイン切込角、使用ソーブレードの径を第1ブレード径とする第1メイン切込工程に加え、その後に行われる、ソーアームの揺動角を第2メイン切込角、使用ソーブレードの径を第1ブレード径とする第2メイン切込工程を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第1693173号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウォールソーシステムの公知の制御方法には、障害物のある端点の端部切込作業について詳細を開示するものがない。
【0006】
本発明の目的は、障害物のある端点の端部切込作業が、ウォールソーのコントロールユニットによって制御されるウォールソーシステムの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
最初に述べたウォールソーシステムの制御方法において、独立請求項に示す特徴を有した本発明により、このような目的が達成される。本発明の有用な具体的態様は、各従属請求項に示されている。
【0008】
本発明は、コントロールユニットによって実行される切込制御の開始前に、障害物のある端点とされた少なくとも1つの端点について、メイン切込処理の手順に加え、端部切込工程による端部切込処理の手順を定め、この端部切込処理は、ソーアームの揺動角を第1端部切込角、使用ソーブレードの径を第1ブレード径とする第1端部切込工程と、ソーアームの揺動角を第2端部切込角、使用ソーブレードの径を第2ブレード径とする第2端部切込工程とを少なくとも備える。端部切込作業を行う端部切込処理の手順を別途規定することにより、ウォールソーのパラメータを端部切込作業に適合させることが可能となる。
【0009】
端部切込処理は、nを2以上、jを1〜nのいずれかとするとき、ソーアームの揺動角にj個の端部切込角(±φ1,j,±φ2,j)を適用すると共に、使用ソーブレードの径にj個のブレード径(D1,j,D2,j)を適用するn個の端部切込工程を備えるのが好ましい。必要な端部切込工程の数は、特に、ソーブレードの仕様、加工対象物の材料特性、並びにソーブレードに用いる回転用駆動モータの出力及びトルクに依存する。端部切込角は、作業者が設定を行うことが可能であり、様々な規定条件に応じ、ウォールソーシステムのコントロールユニットが定めることも可能である。本発明による制御方法の場合、端部切込角は、ウォールソーの制御に用いる入力変数となる。
【0010】
好ましい態様として、コントロールユニットによって実行される切込制御の開始前に、ソーアームの揺動軸とソーブレードの回転軸との距離として規定されるソーアームのアーム長、及び揺動軸と加工対象物の表面との距離を設定する。切込制御のために、様々なパラメータをコントロールユニットに対して設定する必要がある。これらパラメータには、ソーアームのアーム長、及び加工対象物の表面に直交する方向における揺動軸と当該加工対象物の表面との直交方向距離が含まれ、アーム長は、ウォールソーの装置固有の固定的な寸法であり、直交方向距離は、ウォールソーの外形だけでなく、使用する案内軌道の外形にも依存する。
【0011】
第1の態様において、第1端点は、障害物を有する端点とされ、コントロールユニットは、端部切込処理のための第1終了位置を演算し、第1終了位置において、揺動軸は、
|±α|≦αkritの場合、
X(E)+D/2−δ・sin(±α)
の位置にあり、
αkrit<|±α|の場合、
X(E)+D/2−δ・sin(±αkrit)
の位置にある。揺動軸が第1終了位置に達すると、切り残し部分の素材が可能な限り多く切除され、第1端点側の領域における切込作業が完了する。
【0012】
第1の態様の更に具体的な態様において、jを1〜nのいずれかとするとき、端部切込処理のj番目の端部切込工程では、ソーヘッドを第1開始位置に配置すると共に、ソーアームの揺動角をj番目の端部切込角とし、ソーアームをj番目の端部切込角に揺動した状態で、ソーヘッドを第1終了位置に移動する。
【0013】
特に好ましくは、第1開始位置において、揺動軸は、
|±φ1,n|≦αkritの場合、
X(E)+D1,n/2−δ・sin(±φ1,n)
の位置にあり、
αkrit<|±φ1,n|の場合、
X(E)+D1,n/2−δ・sin(±αkrit)
の位置にある。このような第1開始位置により、端部切込処理における端部切込角へのソーアームの揺動が、いずれも必ず第1端点の手前で行われ、第1端点を越えることがない。
【0014】
好ましい態様において、最後から2番目のメイン切込工程は、ブレードガードを用いて行われ、切込制御の開始前に、最後から2番目のメイン切込工程で使用するブレードガードについて、取付距離ΔMontageと、最後から2番目のブレードガード幅とを設定し、最後から2番目のブレードガード幅は、回転軸から第1ブレードガード縁部までの第1距離と、回転軸から第2ブレードガード縁部までの第2距離とからなる。
【0015】
特に好ましくは、コントロールユニットが、切込制御を中断し、第1待機位置にウォールソーを移動する。
【0016】
この第1待機位置において、揺動軸は、
|±α|≦90°の場合、
[B1,m−1+ΔMontage,B1,m−1−δ・sin(±α)]
の最大値をX(E)に加算した位置にあり、
90°<|±α|の場合、
[B1,m−1+ΔMontage,B1,m−1−δ・sin(±αkrit)]
の最大値をX(E)に加算した位置にある。
【0017】
切込制御を再開した後、第1待機位置に対応した第1再開位置に、ウォールソーを配置する。コントロールユニットが、待機位置に加えて再開位置を定めれば、切込制御を中断した後、作業者は、動力式の起動ユニットを用い、案内軌道に沿って待機位置からウォールソーを移動させることが可能となる。待機位置からウォールソーを移動可能とすることは、作業しやすい取付位置より上方に待機位置を配置した壁に、垂直方向または斜めの方向の切込部を形成する際に有利となる。切込制御の再開後、コントロールユニットは、変位センサを用いてウォールソーの最新の位置を確認する。確認した最新の位置が再開位置から逸脱している場合、ウォールソーを再開位置に移動する。
【0018】
第2の態様において、第2端点は、障害物を有する端点とされ、コントロールユニットは、端部切込処理のための第2終了位置を演算し、第2終了位置において、揺動軸は、
|±α|≦αkritの場合、
X(E)−D/2−δ・sin(±α)
の位置にあり、
αkrit<|±α|の場合、
X(E)−D/2−δ・sin(±αkrit)
の位置にある。揺動軸が第2終了位置に達すると、切り残し部分の素材が可能な限り多く切除され、第2端点側の領域における切込作業が完了する。
【0019】
第2の態様の更に具体的な態様において、jを1〜nのいずれかとするとき、端部切込処理のj番目の端部切込工程では、ソーヘッドを第2開始位置に配置すると共に、ソーアームの揺動角をj番目の端部切込角とし、ソーアームをj番目の端部切込角に揺動した状態で、ソーヘッドを第2終了位置に移動する。
【0020】
特に好ましくは、第2開始位置において、揺動軸は、
|±φ2,n|≦αkritの場合、
X(E)−D2,n/2−δ・sin(±φ2,n)
の位置にあり、
αkrit<|±φ2,n|の場合、
X(E)−D2,n/2−δ・sin(±αkrit)
の位置にある。このような第2開始位置により、端部切込処理における端部切込角へのソーアームの揺動が、いずれも必ず第2端点の手前で行われ、第2端点を越えることがない。
【0021】
好ましい態様において、最後のメイン切込工程は、ブレードガードを用いて行われ、切込制御の開始前に、当該最後のメイン切込工程で用いるブレードガードについて、取付距離ΔMontageと、最後のブレードガード幅とを設定し、最後のブレードガード幅は、回転軸から第1ブレードガード縁部までの第1距離と、回転軸から第2ブレードガード縁部までの第2距離とからなる。
【0022】
特に好ましくは、コントロールユニットが、切込制御を中断し、第2待機位置にウォールソーを移動する。この第2待機位置において、揺動軸は、
|±α|≦90°の場合、
[B2,m+ΔMontage,B2,m+δ・sin(±α)]
の最大値をX(E)から減算した位置にあり、
90°<|±α|の場合、
[B2,m+ΔMontage,B2,m+δ・sin(±90°)]
の最大値をX(E)から減算した位置にある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】案内軌道とウォールソーとを有したウォールソーシステムを示す図である。
図2A】障害物のない非制限端点である第1端点と第2端点との間での切込作業を示す図である。
図2B】障害物のない非制限端点である第1端点と第2端点との間での切込作業を示す図である。
図3A】ブレードガードで囲っていないソーブレードを用いた、障害物のある第1端点と第2端点との間での切込作業を示す図である。
図3B】ブレードガードで囲っていないソーブレードを用いた、障害物のある第1端点と第2端点との間での切込作業を示す図である。
図4A】ブレードガードで囲ったソーブレードを用いた、障害物のある第1端点と第2端点との間での切込作業を示す図である。
図4B】ブレードガードで囲ったソーブレードを用いた、障害物のある第1端点と第2端点との間での切込作業を示す図である。
図5A】障害物のある第1端点と第2端点との間で切込部を形成する場合の、図1に示すウォールソーシステムを示す図である。
図5B】障害物のある第1端点と第2端点との間で切込部を形成する場合の、図1に示すウォールソーシステムを示す図である。
図5C】障害物のある第1端点と第2端点との間で切込部を形成する場合の、図1に示すウォールソーシステムを示す図である。
図5D】障害物のある第1端点と第2端点との間で切込部を形成する場合の、図1に示すウォールソーシステムを示す図である。
図5E】障害物のある第1端点と第2端点との間で切込部を形成する場合の、図1に示すウォールソーシステムを示す図である。
図5F】障害物のある第1端点と第2端点との間で切込部を形成する場合の、図1に示すウォールソーシステムを示す図である。
図5G】障害物のある第1端点と第2端点との間で切込部を形成する場合の、図1に示すウォールソーシステムを示す図である。
図5H】障害物のある第1端点と第2端点との間で切込部を形成する場合の、図1に示すウォールソーシステムを示す図である。
図5I】障害物のある第1端点と第2端点との間で切込部を形成する場合の、図1に示すウォールソーシステムを示す図である。
図5J】障害物のある第1端点と第2端点との間で切込部を形成する場合の、図1に示すウォールソーシステムを示す図である。
図5K】障害物のある第1端点と第2端点との間で切込部を形成する場合の、図1に示すウォールソーシステムを示す図である。
図5L】障害物のある第1端点と第2端点との間で切込部を形成する場合の、図1に示すウォールソーシステムを示す図である。
図5M】障害物のある第1端点と第2端点との間で切込部を形成する場合の、図1に示すウォールソーシステムを示す図である。
図5N】障害物のある第1端点と第2端点との間で切込部を形成する場合の、図1に示すウォールソーシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
いくつかの図面を用い、本発明の実施形態について以下に説明する。これらの図面は、必ずしも忠実な尺度で実施形態を図示するものではなく、説明する上で有効であれば、概要を図示したり、幾分変形して図示している。図面から直ちに明らかとなる教示を補足する部分については、関連する先行技術を参照するものとする。このとき、実施形態の詳細な構成に関する様々な調整や変更が、本発明の大要から逸脱することなく可能である。明細書、図面、及び特許請求の範囲に示される本発明の様々な特徴は、個々に重要であるばかりでなく、任意に組み合わせて本発明を展開する上でも重要である。更に、明細書、図面、及び特許請求の範囲のいずれかに示される本発明の少なくとも2つの特徴の組み合わせは、いずれも本発明の範囲内に含まれるものである。本発明の大要は、以下に示す好ましい実施形態の厳密な構成や詳細に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示す主題よりも減縮された主題に限定されるものでもない。指定する寸法上の範囲に関し、提示した限界内にある数値は、限界値として開示されたものであり、必要に応じ、適宜採用しうるものである。簡明化を目的とし、同一または類似の機能を有する同一または類似の部材には、同じ参照符号を用いる。
【0025】
図1は、案内軌道11と、案内軌道11上に移動可能に設けられた工作装置12と、リモートコントロールユニット13とを有したウォールソーシステム10を示している。工作装置は、ウォールソー12として構成され、切込ユニット14と、モータ駆動式の駆動ユニット15とを備えている。切込ユニットは、ソーヘッド14として構成されており、ソーブレード16として構成された加工具を備え、このソーブレード16が、ソーアーム17に取り付けられて、回転用駆動モータ18により回転軸19周りに回転駆動される。
【0026】
作業者を保護するため、ソーブレード16はブレードガード21で囲まれており、ブレードガード21は、ソーアーム17に取り付けられている。ソーアーム17は、揺動モータ22により、揺動軸23周りに揺動可能に構成されている。ソーブレード16の径方向に沿ったソーアーム17が形成する揺動角αにより、切込作業の対象となる加工対象物24にソーブレード16が入り込む切込深さの程度が定まる。回転用駆動モータ18及び揺動モータ22は、装置ハウジング25の中に設けられる。モータ駆動式の駆動ユニット15は、ガイドキャリッジ26と移動用駆動モータ27とを備え、本実施形態において、この移動用駆動モータ27は、装置ハウジング25の中に設けられる。ソーヘッド14は、ガイドキャリッジ26に取り付けられ、移動用駆動モータ27により、案内軌道11に沿って移動方向28に移動可能となっている。装置ハウジング25内には、回転用駆動モータ18、揺動モータ22、及び移動用駆動モータ27に加え、ソーヘッド14及び駆動ユニット15の制御を行うコントロールユニット29が設けられる。
【0027】
ウォールソーシステム10及び切込作業を監視するため、複数のセンサ素子を有したセンサ装置が設けられる。第1センサ素子は揺動角センサ32として構成され、第2センサ素子は変位センサ33として構成される。揺動角センサ32は、ソーアーム17の最新の揺動角を検出し、変位センサ33は、案内軌道11上のソーヘッド14の最新の位置を検出する。検出値は、揺動角センサ32及び変位センサ33により、コントロールユニット29に送信され、ウォールソー12の制御に用いられる。
【0028】
リモートコントロールユニット13は、ユニットハウジング35、入力部36、表示部37、及び制御部38を備え、制御部38は、ユニットハウジング35内に設けられている。制御部38は、入力部36への入力を、制御指令及びデータに変換し、これら制御指令及びデータは、第1通信リンクを介してウォールソー12に送信される。第1通信リンクは、無線通信リンク41または通信ケーブル42として構成される。本実施形態において、無線通信リンクは、電波通信リンク41として構成され、リモートコントロールユニット13の第1電波通信ユニット43と、ウォールソー12に設けられた第2電波通信ユニット44との間に形成される。これに代え、無線通信リンク41は、赤外線通信、ブルートゥース(登録商標)、無線LAN、またはWiFi(登録商標)リンクとして構成してもよい。
【0029】
図2A及び図2Bは、厚さdを有した加工対象物24に切込部51を形成する場合の、図1に示したウォールソーシステム10の案内軌道11及びウォールソー12を示している。切込部51は、最終深さTを有し、移動方向28に沿って、第1端点Eと第2端点Eとの間に延在する。移動方向28に平行な方向を方向Xと定義し、第1端点Eから第2端点Eに向かう方向を、方向Xの前進方向とし、方向Xに直交して加工対象物24内に入る加工対象物24の厚み方向を方向Yと定義する。
【0030】
切込部の端点は、障害物のない非制限端点、または障害物のある端点とすることができる。従って、両方の端点が障害物のない非制限端点の場合や、両方の端点が障害物のある端点の場合もあり、また一方が非制限端点で他方が障害物のある端点の場合もある。障害物のない非制限端点では、端点を通り過ぎる切り込み(オーバーカット)を許容するようにしてもよい。オーバーカットを利用し、端点の切込深さが、切込部の最終深さTに達するようになる。図2A及び図2Bの実施形態では、第1端点E及び第2端点Eが、障害物のない非制限端点となっており、第1端点Eではオーバーカットが許容されておらず、第2端点Eではオーバーカットが生じている。
【0031】
図2Aは、取付位置Xにあるソーヘッド14と、揺動角が0°の基本位置にあるソーアーム17とを示している。ソーヘッド14は、作業者により、ガイドキャリッジ26を用い、案内軌道11上の取付位置Xに配置される。ソーヘッド14の取付位置Xは、第1端点Eと第2端点Eとの間にあって、移動方向28における揺動軸23の位置により定まる。揺動軸23の位置は、当該揺動軸23の方向Xにおける位置が、ソーアーム17を揺動しても変化しないので、ソーヘッド14の位置を検知してウォールソー12を制御するための基準位置XRefとして特に適している。これに代え、方向Xにおける別の位置を基準位置としてソーヘッド14に設定することも可能であり、この場合には、方向Xにおける揺動軸23までの距離を把握しておく必要がある。
【0032】
本実施形態において、方向Xにおける第1端点E及び第2端点Eの位置は、部分長を設定することにより定まる。取付位置Xと第1端点Eとの距離は第1部分長Lにより定まり、取付位置Xと第2端点Eとの距離は第2部分長Lにより定まる。これに代えて、部分長の一方(第1部分長Lまたは第2部分長L)、及び第1端点Eと第2端点Eとの距離として全長Lを与えることにより、方向Xにおける第1端点E及び第2端点Eの位置を設定するようにしてもよい。
【0033】
切込部51は、所望の切込深さTが得られるまで、複数回に分けた切込工程によって形成される。第1端点Eと第2端点Eとの間の切込部分をメイン切込部とし、メイン切込部の切込処理をメイン切込処理とする。切込部の各端点では、障害物に対応した障害物側切込作業と称する補助的な端部切込作業と、非制限端点に対応し、オーバーカットを伴うオーバカット作業とを行うことができる。
【0034】
メイン切込処理の手順は、作業者が設定を行うことが可能であり、様々な規定条件に応じ、ウォールソーシステムのコントロールユニットが定めることも可能である。予備切込工程とされる場合もある第1メイン切込工程は、減少させた切込深さと減少させた駆動モータの出力により実行し、ソーブレードの摩耗を防止するのが一般的である。更なるメイン切込工程は、同じ切込深さで実行するのが一般的であるが、様々な切込深さで行うことも可能である。規定条件は、作業者によって設定され、予備切込工程における切込深さ、予備切込工程における駆動出力、及び更なるメイン切込工程における最大切込深さが含まれる。これらの規定条件に基づき、コントロールユニットがメイン切込処理の手順を定めることができる。
【0035】
切込作業におけるメイン切込工程は、単一のブレード径または2以上のブレード径で実行される。複数のソーブレードを用いる場合、切込作業は、最も小さいブレード径のソーブレードを用いて開始するのが一般的である。ソーアーム17へのソーブレード16の組付けを可能とするため、加工対象物24の上方のソーアーム17の基本位置にソーブレード16を配置する必要がある。この規定条件が満たされているか否かは、ウォールソーシステム10の2つの装置固有パラメータ、即ち、ソーアーム17の揺動軸23と加工対象物24の上面53との垂直方向の距離Δ、及びソーブレード16の回転軸19とソーアーム17の揺動軸23との距離であるソーアーム17のアーム長δに依存する。これら2つの装置固有パラメータの合計が、ソーブレード16のブレード径Dの半分(D/2)より大きければ、加工対象物24の上方のソーアーム17の基本位置にソーブレード16が配置される。アーム長δが、ウォールソー12の一定値の装置固有パラメータである一方、揺動軸23と上面53との垂直方向の距離Δは、ウォールソー12の外形形状に加え、使用する案内軌道11の外形形状にも依存する。
【0036】
ソーブレード16は、ソーアーム17の端部に取り付けられ、切込作動の際に、回転用駆動モータ18により回転軸19周りに回転駆動される。図2Aに示すソーアーム17の基本位置では、揺動角が0°となり、ソーブレード16の回転軸19が、切込深さ方向52において、揺動軸23の上方にある。ソーブレード16は、揺動軸23周りにソーアーム17を揺動することにより、揺動角が0°の基本位置から移動し、加工対象物24の中に入っていく。ソーアーム17を揺動する際、ソーブレード16は、回転用駆動モータ18により回転軸19周りに回転駆動される。
【0037】
作業者を保護するため、作業中は、ソーブレード16をブレードガード21で囲うようになっている。ウォールソー12は、ブレードガード21を有した状態で作動するか、或いはブレードガード21のない状態で作動する。第1端点E及び第2端点Eの領域で切込部を形成するため、例えば、ブレードガード21を取り外すようにしてもよい。切込部を形成するために様々な径のソーブレードを用いる場合、ブレードガードも、それぞれのブレード径に対応した様々なブレードガード幅のものを用いるのが一般的である。
【0038】
図2Bは、後進側に向かう負の揺動方向54に揺動して負の揺動角−αにあるソーアーム17を示している。ソーアーム17は、負の揺動方向54で0°〜−180°の揺動角の範囲に、また前進側に向かい負の揺動方向54とは反対方向となる正の揺動方向55で0°〜+180°の揺動角の範囲に、それぞれ揺動位置を調整可能である。ソーヘッド14が前進方向56に移動する場合、図2Bに示す揺動状態のソーアーム17は引かれる状態となる。一方、ソーヘッド14が、前進方向56とは逆の後進方向57に移動する場合、図2Bに示す揺動状態のソーアーム17は押される状態となる。
【0039】
揺動角が±180°のときに、加工対象物24内へのソーブレード16の最大の切込深さが得られる。揺動軸23周りのソーアーム17の揺動によって、方向X及び方向Yにおける回転軸19の位置が変化する。従って、回転軸19の変動は、ソーアーム17のアーム長δ及び揺動角αに応じて生じ、方向Xの変動距離δは、δ・sin(±α)となり、方向Yの変動距離δは、δ・cos(±α)となる。
【0040】
加工対象物24に対し、ソーブレード16は、高さh、及び切込幅bを有した弓形の形状で切欠を形成する。弓状部分の高さhは、加工対象物24内へのソーブレード16の切込深さに相当する。切込深さhについて、式
D/2=h+Δ+δ・cos(α)
が成立し、式中、Dはソーブレード16のブレード径、hはソーブレード16の切込深さ、Δは揺動軸23と加工対象物24の上面53との垂直方向の距離、δはソーアーム17のアーム長、αは第1メイン切込角である。また、切込幅bについては、式
=(D/2)・8・h−4・h=4・D・h−4・h=4・h・(D−h)
が成立し、式中、hはソーブレード16の切込深さ、Dはソーブレード16のブレード径である。
【0041】
切込作業の際のウォールソー12の制御は、それぞれの端点が、障害物のある端点か否か、更に、障害物のある端点の場合には、切込作業でブレードガード21を用いるか否かに応じて行われる。障害物のない非制限端点の場合、本発明に係る制御方法において、ウォールソー12の制御は、加工対象物24の上面53におけるソーブレード16の上方出口点に基づいて行われる。このソーブレード16の上方出口点の位置は、方向Xにおける揺動軸23の基準位置XRef、方向Xにおける回転軸19の変動距離δ、及び切込幅bに基づいて算出することができる。第1端点E側の上方出口点を第1上方出口点58とし、第2端点E側の上方出口点を第2上方出口点59とする。第1上方出口点58については、
X(58)=XRef+δ−b/2
が成立する一方、第2上方出口点59については、
X(59)=XRef+δ+b/2
が成立し、このとき、
b=[h・(D−h)]1/2,h=h(α,D)
である。
【0042】
第1端点Eや第2端点Eが障害物のある端点の場合には、ウォールソー12が第1端点Eや第2端点Eを通り越すことは不可能である。このような場合、本発明に係る制御方法では、揺動軸23の基準位置XRef、及びウォールソー12の境界に基づいてウォールソー12が制御される。このため、ブレードガード21を用いずに切込作業を行う場合と、ブレードガード21を用いて切込作業を行う場合とでは、制御が相違することになる。
【0043】
図3A及び図3Bは、それぞれ障害物のある端点として規定された第1端点Eと第2端点Eとの間に切込部を形成する場合の、ウォールソーシステム10を示しており、この切込作業はブレードガード21を用いずに行われる。ブレードガード21を用いずに切込作業を行う場合、第1端点E側の第1ブレード縁部61と、第2端点E側の第2ブレード縁部62とが、ウォールソー12の境界を形成する。
【0044】
方向Xにおける第1ブレード縁部61及び第2ブレード縁部62のそれぞれの位置は、揺動軸23の基準位置XRef、回転軸19の変動距離δ、及びブレード径Dに基づき算出可能である。図3Aは、ソーアーム17が負の揺動方向54に揺動して負の揺動角−α(0°〜−180°)の状態にあるウォールソー12を示している。第1ブレード縁部61については、
X(61)=XRef+δ・sin(−α)−D/2
が成立する一方、第2ブレード縁部62については、
X(62)=XRef+δ・sin(−α)+D/2
が成立する。一方、図3Bは、ソーアーム17が正の揺動方向55に揺動して正の揺動角α(0°〜+180°)の状態にあるウォールソー12を示している。第1ブレード縁部61については、
X(61)=XRef+δ・sin(α)−D/2
が成立する一方、第2ブレード縁部62については、
X(62)=XRef+δ・sin(α)+D/2
が成立する。
【0045】
図4A及び図4Bは、それぞれ障害物のある端点として規定された第1端点Eと第2端点Eとの間に切込部を形成する場合の、ウォールソーシステム10を示しており、この切込作業はブレードガード21を用いて行われる。ブレードガード21を用いて切込作業を行う場合、第1端点E側の第1ブレードガード縁部71と、第2端点E側の第2ブレードガード縁部72とが、ウォールソー12の境界を形成する。
【0046】
方向Xにおける第1ブレードガード縁部71及び第2ブレードガード縁部72のそれぞれの位置は、揺動軸23の基準位置XRef、回転軸19の変動距離δ、及びブレードガード幅Bに基づき算出可能である。図4Aは、負の揺動角−α(0°〜−180°)にあるソーアーム17と、ブレードガード幅Bを有して装着されたブレードガード21とを有するウォールソー12を示している。非対称のブレードガードを用い、切込制御を開始する前に、回転軸19から第1ブレードガード縁部71及び第2ブレードガード縁部72のそれぞれまでの距離が求められているものとし、回転軸19から第1ブレードガード縁部71までの距離を第1距離B、回転軸19から第2ブレードガード縁部72までの距離を第2距離Bとする。
【0047】
第1ブレードガード縁部71については、
X(71)=XRef+δ・sin(−α)−B
が成立する一方、第2ブレードガード縁部72については、
X(72)=XRef+δ・sin(−α)+B
が成立する。一方、図4Bは、正の揺動角α(0°〜+180°)にあるソーアーム17と、ブレードガード幅Bのブレードガード21とを有したウォールソー12を示している。第1ブレードガード縁部71については、
X(71)=XRef+δ・sin(α)−B
が成立する一方、第2ブレードガード縁部72については、
X(72)=XRef+δ・sin(α)+B
が成立する。
【0048】
図2A及び図2Bは、それぞれが障害物のない非制限端点とされた第1端点E及び第2端点Eの間の切込部を示し、図3A及び図3Bは、それぞれが障害物のある端点とされた第1端点E及び第2端点Eの間の切込部を示している。実際には、一方の端点が障害物のない非制限端点とされ、他方の端点が障害物のある端点とされた場合の切込作業も可能であり、この場合、非制限端点についてのウォールソーの制御は、ソーブレードの上方出口点に基づいて行われ、障害物のある端点についてのウォールソーの制御は、ブレード縁部(ブレードガード21を伴わない切込作業)、またはブレードガード縁部(ブレードガード21を伴う切込作業)に基づいて行われる。
【0049】
第1上方出口点58、第1ブレード縁部61、及び第1ブレードガード縁部71は、一括してウォールソー12の「第1境界」と称し、第2上方出口点59、第2ブレード縁部62、及び第2ブレードガード縁部72は、一括してウォールソー12の「第2境界」と称する。
【0050】
図5A図5Nには、障害物のある端点とされた第1端点Eと、障害物のある端点とされた第2端点Eとの間の加工対象物24の部分に、最終深さTを有する切込部を形成する際の、案内軌道11及びウォールソー12を有した図1のウォールソーシステム10が示されている。
【0051】
切込作業は、本発明に係るウォールソーシステムの制御方法により行われる。切込作業には、第1端点Eと第2端点Eとの間で行われるいくつかのメイン切込工程からなるメイン切込処理、第1端点Eについて行われる第1端部切込処理、及び第2端点Eについて行われる第2端部切込処理が含まれる。
【0052】
メイン切込処理は、ソーアーム17の揺動角を第1メイン切込角αとし、使用ソーブレードの径を第1ブレード径Dとし、使用ブレードガードの幅を第1ブレードガード幅Bとする第1メイン切込工程、ソーアーム17の揺動角を第2メイン切込角αとし、使用ソーブレードの径を第2ブレード径Dとし、使用ブレードガードの幅を第2ブレードガード幅Bとする第2メイン切込工程、及びソーアーム17の揺動角を第3メイン切込角αとし、使用ソーブレードの径を第3ブレード径Dとし、使用ブレードガードの幅を第3ブレードガード幅Bとする第3メイン切込工程を備える。
【0053】
本実施形態において、第1、第2、及び第3メイン切込工程は、ソーブレード16と、これに組み合わされるブレードガード21とにより実行する。従って、それぞれのメイン切込工程で用いる第1、第2、及び第3ブレード径D、D、及びDは、ソーブレード16のブレード径Dに相当し、それぞれのメイン切込工程で用いる第1、第2、及び第3ブレードガード幅B、B、及びBは、対称形状のブレードガード21のブレードガード幅Bに相当する。これに代えて、これらのメイン切込工程を、ブレード径の異なる様々なソーブレードを用いて行うようにしてもよい。ブレード径の異なる複数のソーブレードを用いる場合、本発明に係る制御方法は、1つのソーブレードから径の異なる別のソーブレードに切り換える工程を備えている。
【0054】
メイン切込工程における切込作業については、加工品質及び加工時間が互いに異なる3つの作業形態が適している。切込制御の開始前に、作業者は、切込作業の要件に応じ、メイン切込処理に適用する作業形態を決定する。第1の作業形態では、ソーアーム17を引かれる状態としてメイン切込工程を実施する。ソーアーム17を引かれる状態とすることにより、切込作業の際のソーブレード16の安定した案内が可能となり、切れ目幅を小さくすることができる。第2及び第3の作業形態では、ソーアーム17を引かれる状態と押される状態とに切り換え、第1メイン切込工程は、ソーアーム17を引かれる状態として行われる。ソーアーム17を引かれる状態と押される状態とに切り換えるようにした切込作業では、引かれる状態のみとする場合に比べ、ソーヘッド14の位置変更及びソーアーム17の揺動に要する非生産的な時間が低減できるという効果が得られる。
【0055】
第1の作業形態の各メイン切込工程においては、ソーヘッド14の位置合わせ、メイン切込角へのソーアーム17の揺動、前進方向に移動させての切込作業、ソーヘッド14の停止、負のメイン切込角へのソーアーム17の揺動、及び前進方向とは逆の後進方向に移動させての切込作業を順番に行う。第2の作業形態の各メイン切込工程では、ソーヘッド14の位置合わせ、メイン切込角へのソーアーム17の揺動、前進方向に移動させての切込作業に加え、上方出口点の位置が端点の位置と一致する位置でのソーヘッド14の停止を順番に行う。第3の作業形態は、メイン切込工程の最後の部分(ソーヘッド14の停止)と、次に行われるメイン切込工程の最初の部分(ソーヘッド14の位置合わせ)とがまとめて行われる点で、第2の作業形態と相違する。この場合、次のメイン切込工程におけるメイン切込角にソーアーム17を揺動した後の、上方出口点の位置が、端点の位置に一致するように算出された位置で、ソーヘッド14を停止する。
【0056】
本実施形態においては、引かれる状態と押される状態とに切り換えるようにしたソーアーム17を用いて、メイン切込処理の各メイン切込工程を実施する。切込作業は、第1端点E側で開始される。切込制御の開始後、ソーヘッド14は開始位置XStartに配置され、このとき、揺動軸23は、第1端点Eまでの距離が、
B/2−δ・sin(−α)
となっている。開始位置XStartにおいて、ソーアーム17を、揺動角0°の基本位置から負の第1メイン切込角−αへと負の揺動方向54に揺動する。負の第1メイン切込角−αに揺動後、ブレードガード21の第1ブレードガード縁部71の位置は、第1端点Eの位置に一致する。
【0057】
次に、ソーアーム17が負の第1メイン切込角−αにあるソーヘッド14を、ソーブレード16が回転した状態で、前進方向56に移動する(図5A)。この移動の際、ソーヘッド14の位置が、変位センサ33によって定期的に計測される。第2端点Eまでの揺動軸23の距離が、
B/2+δ・sin(−α)
となるときに、ソーヘッド14を停止する。このとき、第2端点E側にある第2ブレードガード縁部72の位置が、第2端点Eの位置に一致し、第1メイン切込工程が終了する。次に、第2メイン切込工程を行うため、第2端点Eまでの揺動軸23の距離が、
B+δ・sin(−α)
となるように、移動方向28におけるソーヘッド14の位置を定める。この位置において、ソーアーム17を、負の第1メイン切込角−αから負の第2メイン切込角−αに揺動する。このような位置調整では、ソーアーム17を負の第2メイン切込角−αに揺動後の、第2端点E側にある、第2ブレードガード縁部72の位置が、第2端点Eの位置に一致するように、距離が定められている(図5B)。
【0058】
負の第2メイン切込角−αへの揺動後、第1端点Eに向けてソーヘッド14を後進方向57に移動し、このとき、移動中のソーヘッド14の位置が、変位センサ33によって定期的に計測される。そして、第1端点Eまでの揺動軸23の距離が、
B/2−δ・sin(−α)
となると、ソーヘッド14を停止する。この位置において、第1ブレードガード縁部71の位置が第1端点Eの位置に一致し、第2メイン切込工程が終了する(図5C)。第2メイン切込工程の後、第1端点Eまでの揺動軸23の距離が、
[h・(D−h)]1/2−δ・sin(−α)
となるように、移動方向28におけるソーヘッド14の位置を定め(図5D)、この式中、
=h(−α,D)=D/2−Δ−δ・cos(−α)
は、ブレード径Dに相当する第3ブレード径Dで、負の第3メイン切込角−αとするときの、使用中のソーブレード16の加工対象物24内への切込深さを示している。この位置において、ソーアーム17を、負の第2メイン切込角−αから負の第3メイン切込角−αに揺動する(図5E)。
【0059】
第3メイン切込工程は、メイン切込処理における最終メイン切込工程であり、この最終メイン切込工程に先立ち、第1端点E側の端部切込作業を行う。第1端点E側の端部切込作業では、できるだけ多く素材を切除するため、ブレードガード21を取り外す。コントロールユニット29が、ウォールソー12を待機位置に移動し、揺動角0°の基本位置にソーアーム17を揺動する(図5F)。この待機位置において、ウォールソー12からブレードガード21を取り外す(図5G)。
【0060】
切込制御の開始前に、第1端点E側の第1端部切込処理の手順を定める。本実施形態において、第1端部切込処理は、ソーアーム17の揺動角を第1端部切込角−φ1.1、使用ソーブレードの径を第1ブレード径D1.1とする第1端部切込工程と、ソーアーム17の揺動角を第2端部切込角−φ1.2、使用ソーブレードの径を第2ブレード径D1.2とする第2端部切込工程とを備えており、第2端部切込角−φ1.2は、負の第3メイン切込角−αに一致する。端部切込角では、第1端点E及び第2端点Eのいずれの側で端部切込作業を行うかを、最初の符号で示しており、符号が「1」の場合は第1端点E側を示し、符号が「2」の場合には第2端点E側を示す。また、2番目の符号は、何番目の端部切込工程であるかを示しており、nが2以上のとき、1〜nのいずれかとなる。第1端点E側の端部切込作業はソーブレード16を用いて行い、第1ブレード径D1,1及び第2ブレード径D1,2はブレード径Dに相当する。
【0061】
切込制御を開始する前に、第1端点E側の端部切込作業を行うための第1開始位置及び第1終了位置を設定する。第1開始位置は、第1端部切込処理におけるソーアーム17の第1端部切込角−φ1.1への揺動及び第2端部切込角−φ1.2への揺動が、いずれも第1端点Eよりも手前の位置で行われ、第1端点Eの位置を越える切込作業が行われることのないように演算される。第1終了位置にあるときに、揺動軸23は、
|−α|≦αkritの場合、
X(E)+D/2−δ・sin(±α)
で表される位置にあり、
αkrit<|−α|の場合、
X(E)+D/2−δ・sin(±αkrit)
で表される位置にある。第1端部切込処理における臨界角は−90°であり、負の第3メイン切込角−αは−90°未満(絶対値が90°より大)であるため、第1終了位置は、−90°の臨界角に基づき演算する。第1終了位置にあるとき、揺動軸23は、
X(E)+D/2−δ・sin(−90°)=X(E)+D/2+δ
で表される位置にある。
【0062】
第1待機位置から第1開始位置にウォールソー12を移動し、この第1開始位置において、ソーアーム17を第1端部切込角−φ1.1に揺動する(図5H)。ソーアーム17が第1端部切込角−φ1.1にあるソーヘッド14を、揺動軸23が第1終了位置に達するまで、後進方向57に移動する(図5I)。次に、ソーヘッド14を第1開始位置まで戻し(図5J)、ソーアーム17を第2端部切込角−φ1.2に揺動し(図5K)、ソーアーム17が第2端部切込角−φ1.2にあるソーヘッド14を、揺動軸23が第1終了位置に達するまで、後進方向57に移動する(図5L)。
【0063】
第1端点E側の端部切込作業を行った後、ソーアーム17が負の第3メイン切込角−αに揺動した状態で、前進方向56に向け、第3メイン切込工程を行う(図5M)。
【0064】
ソーブレード16の回転用駆動モータ18が強力であれば、第2ブレード縁部62の位置が第2端点Eの位置に一致するまで、ブレードガードなしで第3メイン切込工程を行うことが可能である。この場合、第2端点Eまでの揺動軸23の距離が、
D/2+δ・sin(−α)
となるときに、ソーヘッド14を停止する(図5N)。
【0065】
低出力の回転用駆動モータ18を用いる場合には、第2端点E側についても同様に、複数の端部切込工程からなる端部切込処理を行うのが有利である。この場合、切込制御を開始する前に、第2端点E側の第2端部切込処理の手順を定める。この第2端部切込処理は、ソーアーム17の揺動角を第1端部切込角φ2.1とし、使用ソーブレードの径を第1ブレード径D2.1とする第1端部切込工程と、ソーアーム17の揺動角を第2端部切込角φ2.2とし、使用ソーブレードの径を第2ブレード径D2.2とする第2端部切込工程とを備えており、第2端部切込角φ2.2は、正の第3メイン切込角αに一致する。第2端点E側の端部切込作業はソーブレード16を用いて行い、第1ブレード径D2,1及び第2ブレード径D2,2はブレード径Dに相当する。
【0066】
切込制御を開始する前に、端部切込作業を行うための第2開始位置及び第2終了位置を設定する。第2開始位置は、第2端部切込処理におけるソーアーム17の第1端部切込角φ2.1への揺動及び第2端部切込角φ2.2への揺動が、いずれも第2端点Eよりも手前の位置で行われ、第2端点Eの位置を越える切込作業が行われることのないように演算される。第3メイン切込工程を行った後、ソーヘッド14を第2開始位置に移動し、この第2開始位置において、ソーアーム17を第1端部切込角φ2.1に揺動する。ソーアーム17が第1端部切込角φ2.1にあるソーヘッド14を、揺動軸23が第2終了位置に達するまで、前進方向56に移動する。第1端部切込工程の後、ソーヘッド14を第2開始位置まで戻し、第2開始位置において、ソーアーム17を第2端部切込角φ2.2に揺動し、このようにソーアーム17が揺動した状態のソーヘッド14を、第2終了位置まで、前進方向56に移動する。第2端部切込処理の後、ソーヘッド14を待機位置に移動し、この待機位置において、ソーアーム17を第2端部切込角φ2.2から揺動角0°の基本位置に揺動する。
【0067】
図5A図5Nに示す実施形態では、負の第1メイン切込角−αから負の第2メイン切込角−α、及び負の第2メイン切込角−αから負の第3メイン切込角−αへのそれぞれの揺動を1段階で行っている。これに代えて、負の第2メイン切込角−α、または負の第3メイン切込角−αへの揺動を、中間揺動角を用い、複数段階で行うことも可能である。必要となる段階数は、特に、ソーブレード16の仕様、加工対象物24の特性、並びにソーブレード16に用いる回転用駆動モータ18の出力及びトルクに応じて定められる。中間揺動角は、作業者が設定を行うことが可能であり、様々な規定条件に応じ、ウォールソー12のコントロールユニット29が定めることも可能である。本発明による制御方法の場合、メイン切込工程におけるメイン切込角、及び採用する場合の中間揺動角は、ウォールソー12の制御に用いる入力変数の1つとなる。
【0068】
第1端点Eについての第1端部切込処理、及び第2端点Eについての第2端部切込処理は、それぞれ2つの端部切込工程を有する。これに代えて、端部切込処理が、3つ以上の端部切込工程を有していてもよい。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図5I
図5J
図5K
図5L
図5M
図5N