(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る車体挙動制御装置及び車体の挙動の制御方法について、図面を用いて説明する。
なお、以下では、本発明に係る車体挙動制御装置及び車体の挙動の制御方法が、モーターサイクルに用いられる場合を説明しているが、他の車両に用いられてもよく、例えば、自転車(電動自転車及び電動アシスト自転車を含む)等に用いられてもよい。
また、以下で説明する構成、動作等は、一例であり、本発明に係る車体挙動制御装置及び車体の挙動の制御方法は、そのような構成、動作等である場合に限定されない。
また、各図において、詳細部分の図示が適宜簡略化又は省略されている。
【0011】
実施の形態1.
<液圧制御システム100の全体構成>
図1は、本実施の形態1に係る車体挙動制御装置1を含む液圧制御システム100の概要構成図である。
液圧制御システム100は、モーターサイクルに搭載され、車体の挙動を制御する車体挙動制御装置1を備えている。
【0012】
モーターサイクルは、前輪20及び後輪30(単に車輪Wとも称する)を含む車体を備えている。前輪20の車軸及び後輪30の車軸は、車体に回転自在に固定されている。
モーターサイクルは、ユーザー等が操作するハンドルレバー24及びフットペダル34を備えている。このハンドルレバー24を操作すると前輪20の制動力が変化し、フットペダル34を操作すると後輪30の制動力が変化する。ハンドルレバー24は、運転者の手で操作され、フットペダル34は運転者の足で操作される。
【0013】
液圧制御システム100は、前輪20の制動力の発生に利用されるブレーキ液が流れる前輪液圧回路C1と、後輪30の制動力の発生に利用されるブレーキ液が流れる後輪液圧回路C2とを含む。
【0014】
液圧制御システム100は、前輪20に付設されるフロントブレーキパッド21と、フロントブレーキパッド21を動かすフロントブレーキピストン(図示省略)が摺動自在に設けられているフロントホイールシリンダ22と、フロントホイールシリンダ22に接続されたブレーキ液管23とを備えている。
【0015】
液圧制御システム100は、ハンドルレバー24に付設される第1マスターシリンダ25と、ブレーキ液を貯留する第1リザーバ26と、第1マスターシリンダ25に接続されたブレーキ液管27とを備えている。なお、第1マスターシリンダ25には、マスターシリンダピストン(図示省略)が摺動自在に設けられている。ハンドルレバー24が操作されると、第1マスターシリンダ25内のマスターシリンダピストンが動く。
【0016】
液圧制御システム100は、後輪30に付設されるリアブレーキパッド31と、リアブレーキパッド31を動かすリアブレーキピストン(図示省略)が摺動自在に設けられているリアホイールシリンダ32と、リアホイールシリンダ32に接続されたブレーキ液管33とを備えている。
【0017】
液圧制御システム100は、フットペダル34に付設される第2マスターシリンダ35と、ブレーキ液を貯留する第2リザーバ36と、第2マスターシリンダ35に接続されたブレーキ液管37とを備えている。なお、第2マスターシリンダ35には、マスターシリンダピストン(図示省略)が摺動自在に設けられている。フットペダル34が操作されると、第2マスターシリンダ35内のマスターシリンダピストンが動く。
【0018】
<車体挙動制御装置1の各部の構成>
車体挙動制御装置1は、ブレーキ液が流れる内部流路4と、内部流路4内のブレーキ液を第1マスターシリンダ25及び第2マスターシリンダ35側に搬送するのに用いられるポンプ装置2と、前輪液圧回路C1及び後輪液圧回路C2に設けられた開閉自在の調整弁3とを含む。なお、調整弁3は、第1増圧弁3A及び第1減圧弁3Bと、第2増圧弁3C及び第2減圧弁3Dとを含む。調整弁3は、例えば、ソレノイドを備えた電磁弁である。
ここで、本発明の挙動制御機構としてのブレーキ機構は、例えば調整弁3及びポンプ装置2等に対応し、それらの機構によって内部流路4の液圧が制御されて、車体の挙動が制御される。
【0019】
また、車体挙動制御装置1は、調整弁3の開閉、ポンプ装置2の回転数等を制御する制御部7を含む。なお、制御部7の一部又は全ては、例えば、マイコン、マイクロプロセッサユニット等で構成されていてもよく、また、ファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0020】
さらに、車体挙動制御装置1は、制御部7に検出信号を出力する検出部8を含む。検出部8は、内部流路4に設けられた第1圧力センサ8A及び第2圧力センサ8Bと、車体の加速度を算出するのに用いられる前輪速度センサ8C及び後輪速度センサ8Dと(
図5参照)、車体に設けられている加速度センサ8Eとを含む。
【0021】
車体挙動制御装置1は、ブレーキ液管23、27、33、37にそれぞれ接続される各種ポートPを含む。また、車体挙動制御装置1は、内部流路4を流れるブレーキ液の流量を規制するフローリストリクタ5と、ブレーキ液を貯留可能なアキュムレータ6とを含む。
【0022】
なお、以下では、前輪速度及び後輪速度をまとめて車輪速度と称し、また、前輪速度センサ8C及び後輪速度センサ8Dをまとめて車輪速度センサWSと称する場合がある。
【0023】
内部流路4は、前輪液圧回路C1の一部を構成する第1内部流路4Aと、後輪液圧回路C2の一部を構成する第2内部流路4Bとを含む。
第1内部流路4Aには、第1増圧弁3A、第1減圧弁3B、及び第1圧力センサ8A等が設けられている。第1内部流路4Aは、ポートPを介してブレーキ液管23及びブレーキ液管27に接続されている。第2内部流路4Bには、第2増圧弁3C、第2減圧弁3D及び第2圧力センサ8B等が設けられている。第2内部流路4Bは、ポートPを介してブレーキ液管33及びブレーキ液管37に接続されている。
【0024】
ポンプ装置2は、例えばDCモーター等で構成することができる駆動機構2Aと、駆動機構2Aによって駆動力が与えられる2つのポンプエレメント2Bとを含む。駆動機構2Aは、固定子及び回転子等を含み、その回転数が制御部7によって制御される。一方のポンプエレメント2Bは、前輪液圧回路C1内のブレーキ液の搬送に用いられ、第1内部流路4Aに設けられている。他方のポンプエレメント2Bは、後輪液圧回路C2内のブレーキ液の搬送に用いられ、第2内部流路4Bに設けられている。
【0025】
制御部7は、車体挙動制御のために、連動ブレーキ動作を実行する。
連動ブレーキ動作は、ハンドルレバー24によって前輪20に制動力を発生させる操作、又は、フットペダル34によって後輪30に制動力を発生させる操作が行われた際に、前輪20及び後輪30の両方に制動力を発生させる動作である。
つまり、制御部7は、別々の操作系統に接続されている複数の車輪Wのうちの一部の車輪Wを、その操作系統におけるユーザー等の操作に応じて制動する際に、その車輪Wと、それと異なる操作系統に接続されている他の車輪Wと、に制動力を生じさせる連動ブレーキ動作を実行する。
【0026】
そして、制御部7は、路面の勾配値θを用いて算出された車輪Wの軸荷重に基づいて、連動ブレーキ動作を制御する。具体的には、制御部7は、ブレーキ機構である調整弁3の開閉、ポンプ装置2の回転数等を制御して、連動ブレーキ動作を実行する。
なお、制御部7は、路面の勾配値θを用いて、車輪Wの軸荷重を算出してもよく、また、路面の勾配値θに換算できる他の物理量を用いて、車輪Wの軸荷重を算出してもよい。また、制御部7は、車輪Wの軸荷重を用いて、連動ブレーキ動作を実行してもよく、また、車輪Wの軸荷重に換算できる他の物理量を用いて、連動ブレーキ動作を実行してもよい。
【0027】
<前輪20及び後輪30の軸荷重>
図2は、平地を走行するモーターサイクルの前輪20の軸荷重及び後輪30の軸荷重の説明図である。
質量mは、モーターサイクルの質量である。重心Gは、モーターサイクルの重心である。高さhは、路面からの重心Gまでの高さである。位置Cxは、水平方向における重心Gの位置である。位置Fxは、水平方向における前輪20の軸の位置である。位置Rxは、水平方向における後輪30の軸の位置である。荷重Fは、重心Gに作用するモーターサイクルの荷重である。荷重Fn_FAは、前輪20の軸荷重である。荷重Fn_RAは、後輪30の軸荷重である。モーターサイクルに搭乗している人の成分(質量、重心等)が加味されてもよい。また、モーターサイクルの加減速に起因する加速度成分が加味されてもよい。
【0028】
長さx1は、位置Cxと位置Fxとの間の長さである。長さx2は、位置Cxと位置Rxとの間の長さである。
なお、説明の便宜上、平坦な路面において、x1=x2が成立するように、モーターサイクルが設計されているものとする。まず、
図2に示すように、モーターサイクルが、平坦な路面上にある場合について考える。
【0029】
重力加速度をgとすると、モーターサイクルには下向きにm×gの荷重Fが掛かる。荷重Fを前輪20の軸にかかる成分及び後輪30の軸にかかる成分に分ける。前輪20の軸に掛かる荷重Fn_FA及び後輪30の軸に掛かる荷重Fn_RAは、次の式(1)及び式(2)のようになる。
【0032】
つまり、平坦な路面上において、荷重Fn_FA及び荷重Fn_RAの大きさは等しい。
【0033】
図3は、上り勾配の路面を走行するモーターサイクルの前輪20の軸荷重及び後輪30の軸荷重の説明図である。次に、
図3に示すように、モーターサイクルが、上り勾配の路面上にある場合を考える。
路面の勾配値θは、水平面を基準とする角度であり、上り勾配では正の値となり、下り勾配では負の値となる。高さhは、上り勾配の路面に直交する方向における、重心Gの高さである。位置Cx’は、水平方向における重心Gの位置である。位置Fx’は、水平方向における前輪20の軸の位置である。位置Rx’は、水平方向における後輪30の軸の位置である。荷重Fn_FA’は、前輪20の軸荷重である。荷重Fn_RA’は、後輪30の軸荷重である。
【0034】
長さx1’は、位置Cx’と位置Fx’との間の長さである。長さx2’は、位置Cx’と位置Rx’との間の長さである。長さx1’及び長さx2’は次のように計算することができる。
【0037】
したがって、前輪20の軸に掛かる荷重Fn_FA’及び後輪30の軸に掛かる荷重Fn_RA’は、次の式(5)及び式(6)のようになる。
【0040】
つまり、x1=x2である場合には、上り勾配の路面上において、荷重Fn_FA’よりも荷重Fn_RA’の方が大きくなる。また、路面の勾配値θが大きい(つまり上り勾配の勾配が大きい)程、荷重Fn_RA’が大きくなり、荷重Fn_FA’が小さくなる。
【0041】
図4は、下り勾配の路面を走行するモーターサイクルの前輪20の軸荷重及び後輪30の軸荷重の説明図である。下り勾配の路面を走行するモーターサイクルの前輪20の軸荷重及び後輪30の軸荷重も、
図3で説明したことと同様の要領で、算出することができる。
【0042】
つまり、x1=x2である場合には、下り勾配の路面上において、荷重Fn_RA’よりも荷重Fn_FA’の方が大きくなる。また、路面の勾配値θが小さい(つまり下り勾配の勾配が大きい)程、荷重Fn_FA’が大きくなり、荷重Fn_RA’が小さくなる。
【0043】
軸荷重が小さい車輪Wよりも軸荷重が大きい車輪Wに、より大きな制動力を発生させることで、車体の挙動を安定化することができる。また、上述のとおり、各車輪Wの軸荷重は、路面の勾配値θから求めることができる。
【0044】
車体挙動制御装置1では、路面の勾配値θを算出し、その路面の勾配値θを用いて各車輪Wの軸荷重を取得する。そして、車体挙動制御装置1は、その軸荷重に基づいて、連動ブレーキ動作を実行することで、車体の挙動を安定化する。
【0045】
<制御部7の構成例>
図5は、本実施の形態1に係る車体挙動制御装置1を含む液圧制御システム100が備えている各種センサ、制御部7及び各種アクチュエータの機能ブロック図である。
図6は、本実施の形態1に係る車体挙動制御装置1に含まれる制御部7の機能ブロック図である。
図5及び
図6を参照して、制御部7の構成例について説明する。
【0046】
制御部7は、検出部8からの信号を受ける入力部7Aと、検出部8からの信号に基づいて車体が走行する路面の勾配値θを算出し、調整弁3の開閉、ポンプ装置2の回転数等の制御を実行するプロセッサ部7Bと、算出された路面の勾配値θ、各車輪Wの軸荷重等の各種のデータが格納される記憶部7Cとを含む。
【0047】
(入力部7A)
入力部7Aは、例えば検出部8からの信号を受ける入力回路等を含む回路で構成されるものである。入力部7Aで受けた信号は、プロセッサ部7Bに出力される。
【0048】
(プロセッサ部7B)
プロセッサ部7Bは、演算部T1と、アクチュエータ制御部T2とを含む。演算部T1は、車体速度算出部7B1と、勾配算出部7B2と、判定部7B3と、軸荷重算出部7B4と、車体挙動制御実行部7B5とを含む。プロセッサ部7Bは、例えばマイクロコントローラ等で構成することができる。
【0049】
車体速度算出部7B1は、車輪速度センサWSの検出信号に基づいて車体速度vVehを算出する。
【0050】
勾配算出部7B2は、加速度センサ8Eの検出信号と、車輪速度センサWSの検出信号とに基づいて路面の勾配値θを算出する。ここで、本実施の形態1における路面の勾配値θの算出方法例について説明する。
【0051】
加速度センサ8Eの検出信号から得られる車体の進行方向における加速度成分aXは、車体の進行方向における加減速に起因する加速度成分aVehと、路面の勾配値θに起因する加速度成分aSlopeと、の和と看做すことができる。そのため、制御部7は、式(7)の演算によって、路面の勾配値θに起因する加速度成分aSlopeを推定することができる。なお、加減速に起因する加速度成分aVehは、車輪速度の微分値として求めることができ、例えば、制御部7は、車輪速度を車輪速度センサWSの検出信号から算出し、算出した車輪速度の微分値を、加減速に起因する加速度成分aVehとする。なお、路面の勾配値θに起因する加速度成分aSlopeは、上り勾配を走行中は正の値になり、下り勾配を走行中は負の値になる。
【0053】
そして、制御部7は、路面の勾配値θに起因する加速度成分aSlopeを用いて、式(8)を演算することで、路面の勾配値θを得ることができる。なお、路面の勾配値θは、上り勾配を走行中は正の値になり、下り勾配を走行中は負の値になる。
【0055】
このように、勾配算出部7B2は、加速度センサ8Eの検出信号と、車輪速度センサWSの検出信号とに基づいて、モーターサイクルが走行中の路面の勾配値θを算出することができる。
【0056】
なお、制御部7の路面の勾配値θの算出方法は、上記に限定されるものではない。例えば、車体挙動制御装置1は、加速度センサ8Eとは別に勾配センサを備え、制御部7は、該勾配センサの検出信号から路面の勾配値θを取得してもよい。そのような場合には、上記の勾配算出部7B2の演算を行わないでよい分、制御部7の負荷を軽減することができる。
また、制御部7は、例えば、モーターサイクルが走行中の路面の勾配値θの情報を、GPS情報を元に取得してもよい。そのような場合でも、上記の勾配算出部7B2の演算を行わないでよい分、制御部7の負荷を軽減することができる。
【0057】
判定部7B3は、勾配算出部7B2が算出した路面の勾配値θに基づいて、モーターサイクルが走行中の路面が上り勾配であるか、下り勾配であるか、又は、平坦であるかを判定する。これらの判定部7B3の判定は、後述される制動力配分フローに用いられる。
【0058】
軸荷重算出部7B4は、勾配算出部7B2が算出した路面の勾配値θを用いて各車輪Wの軸荷重を算出する。なお、先述した式(1)〜(6)を考慮することで、各車輪Wの軸荷重を算出することができる。
【0059】
車体挙動制御実行部7B5は、軸荷重算出部7B4が算出した各車輪Wの軸荷重に基づいて、車体挙動制御としての連動ブレーキ動作を実行するための制御信号を生成し、アクチュエータ制御部T2に出力する。
路面の勾配値θに応じて各車輪Wにかかる軸荷重は変化する。したがって、車体挙動制御実行部7B5は、後述される制動力配分フローを実行して、各車輪Wの軸荷重に応じて各車輪Wに発生させる制動力の比率を変化させることで、モーターサイクルの挙動が不安定になることを抑制する。
【0060】
アクチュエータ制御部T2は、駆動機構制御部7B6と、弁制御部7B7とを含む。
連動ブレーキ動作の実行時に、弁制御部7B7は、調整弁3の開閉動作を制御し、駆動機構制御部7B6は、弁制御部7B7と協働して駆動機構2Aの回転数を制御する。
【0061】
(記憶部7C)
記憶部7Cには、前輪20及び後輪30の車輪速度の情報、プロセッサ部7Bで算出された情報、基準値等が格納されている。記憶部7Cは、例えばRAM(Random Access Memory)等で構成することができる。
【0062】
<連動ブレーキ動作における制動力配分>
図7は、本実施の形態1に係る車体挙動制御装置1の前輪20及び後輪30の制動力配分フローの一例である。
【0063】
(ステップS0:スタート)
制御部7は、制動力配分フローを開始する。
【0064】
(ステップS1:制動力の基準値の取得)
制御部7の車体挙動制御実行部7B5は、例えば、車体速度算出部7B1が算出した車体速度vVehを用いて、前輪20及び後輪30に配分する制動力の基準値を設定する。なお、前輪20及び後輪30の制動力の基準値は、逐次算出されてもよいし、記憶部7Cに予め記憶されていてもよい。
【0065】
(ステップS2:路面の勾配値θの算出)
制御部7の勾配算出部7B2は、加速度センサ8Eの検出信号及び車輪速度センサWSの検出信号に基づいて、車体が走行中の路面の勾配値θを算出する。
【0066】
(ステップS3:路面の勾配に関する判定)
制御部7の判定部7B3は、勾配算出部7B2が算出した路面の勾配値θに基づいて、路面が上り勾配であるか、下り勾配であるか、又は、平坦であるかを判定する。
路面が上り勾配又は下り勾配である場合には、ステップS4に移る。
路面が平坦である場合には、ステップS5に移る。
【0067】
(ステップS4:各車輪Wの軸荷重の算出)
制御部7の軸荷重算出部7B4は、判定部7B3が上り勾配又は下り勾配であると判定していると、勾配算出部7B2が算出した路面の勾配値θに基づいて各車輪Wの軸荷重を算出する。
【0068】
(ステップS5:制動力配分の修正)
制御部7の車体挙動制御実行部7B5は、軸荷重算出部7B4が算出した各車輪Wの軸荷重に基づいて、ステップS1で設定した前輪20の制動力及び後輪30の制動力の数値を修正する。
【0069】
例えば、車体挙動制御実行部7B5は、路面が上り勾配である状態において、後輪30の軸荷重が大きい(路面の勾配値θが大きい)程、後輪30に配分される制動力の比率を大きくする。また、車体挙動制御実行部7B5は、路面が下り勾配である状態において、前輪20の軸荷重が大きい(路面の勾配値θが小さい)程、前輪20に配分される制動力の比率を大きくする。前輪20に配分される制動力の比率を大きくするにあたり、車体挙動制御実行部7B5は、後輪30に生じさせる制動力を低下させずに、前輪20に配分される制動力の比率を大きくするとよい。
【0070】
(ステップS6:制動力配分の設定)
制御部7は、ステップS3を経てきた場合にはステップS1で設定した前輪20及び後輪30の制動力の基準値を、制動力配分の設定値とする。
また、制御部7は、ステップS5を経てきた場合にはステップS5で修正した前輪20及び後輪30の制動力の数値を、制動力配分の設定値とする。
【0071】
(ステップS7:エンド)
制御部7は、制動力配分フローを終了する。
【0072】
<本実施の形態1に係る車体挙動制御装置1の有する効果>
本実施の形態1に係る車体挙動制御装置1は、車体の挙動を制御する挙動制御機構と、路面の勾配値θを用いて算出された車輪Wの軸荷重に基づいて挙動制御機構の動作を制御する制御部7と、を備えている。このため、路面の勾配が変化する場合であっても、車体の挙動が不安定になることを抑制することができる。
【0073】
好ましくは、本実施の形態1に係る車体挙動制御装置1の挙動制御機構は、ブレーキ機構であり、制御部7は、挙動制御機構の動作として、ブレーキ機構が実行する車輪Wを制動する動作を、制御する。そして、この車輪Wを制動する動作は、ハンドルレバー24又はフットペダル34を介して、いずれかの車輪Wを制動する操作が行われた際に複数の車輪Wに制動力を発生させる連動ブレーキ動作である。このように、車体挙動制御装置1は、軸荷重を加味した上で、車輪Wを制動する連動ブレーキ動作を実行するため、連動ブレーキ動作の有効性を向上することができる。
【0074】
好ましくは、本実施の形態1に係る車体挙動制御装置1の制御部7は、車輪Wの軸荷重に基づいて、連動ブレーキ動作における、複数の車輪Wのそれぞれに配分される制動力の比率を変化させる。
【0075】
例えば、本実施の形態1に係る車体挙動制御装置1の制御部7は、路面が上り勾配である状態において、後輪30の軸荷重が大きい(路面の勾配値θが大きい)程、後輪30に配分される制動力の比率を大きくする。上り勾配の路面の勾配が大きい(路面の勾配値θが大きい)程、後輪30の軸荷重が大きくなるので、それを踏まえて後輪30に発生させる制動力をより大きくすることで、モーターサイクルの挙動が不安定になることをより確実に抑制することができる。
【0076】
例えば、本実施の形態1に係る車体挙動制御装置1の制御部7は、路面が下り勾配である状態において、前輪20の軸荷重が大きい(路面の勾配値θが小さい)程、前輪20に配分される制動力の比率を大きくする。下り勾配の路面の勾配が大きい(路面の勾配値θが小さい)程、前輪20の軸荷重が大きくなるので、それを踏まえて前輪20に発生させる制動力をより大きくすることで、モーターサイクルの挙動が不安定になることをより確実に抑制することができる。
【0077】
例えば、本実施の形態1に係る車体挙動制御装置1の制御部7は、路面が下り勾配である状態において、後輪30に生じさせる制動力を低下させずに、前輪20に配分される制動力の比率を大きくする。下り勾配の路面を走行している場合には、モーターサイクルの自重がモーターサイクルの速度を上昇させるように作用するため、上り勾配の路面や平坦な路面を走行している場合と比較して、要求される制動力の総和が大きくなる。そのため、制御部7は、路面が下り勾配である場合の連動ブレーキ動作において、後輪30の制動力を低下させずに、前輪20に配分される制動力の比率を大きくして、制動力の不足が生じてしまうことを抑制する。
【0078】
実施の形態2.
以下では、実施の形態1と重複する説明を省略し、異なる部分のみを説明する。
【0079】
<車体挙動制御装置1の各部の構成>
制御部7は、各車輪Wの軸荷重に基づいて各車輪Wに浮き上がりが生じているか否かを判定する。そして、制御部7は、その判定結果を、車体挙動制御としての、例えば、ABS制御、トラクションコントロール等に用いる。
ここで、ABS制御は、モーターサイクルの減速中に、車輪Wのロックを抑制する制御である。制御部7は、路面の勾配値θを用いて算出した車輪Wの軸荷重に基づいて、車輪Wの浮き上がりを判定し、ABS制御において、その判定結果を用いる。
また、トラクションコントロールは、モーターサイクルの走行中に、車輪Wの空転を抑制する制御である。制御部7は、路面の勾配値θを用いて算出した車輪Wの軸荷重に基づいて、車輪Wの浮き上がりを判定し、トラクションコントロールにおいて、その判定結果を用いる。
【0080】
例えば、下り勾配の路面を走行しているときにブレーキ操作がされ、車輪Wがロックしそうになっている状況を考える。下り勾配の路面を走行するモーターサイクルでは、前輪20の軸荷重が増加し、後輪30が浮き上がりやすくなる。制御部7は、そのような状況で、車輪Wの軸荷重に基づいて後輪30に浮き上がりが生じているか否かを判定する。制御部7は、後輪30の軸荷重のみを用いて、後輪30の浮き上がりを判定してもよく、また、車輪速度及び車体速度vVehから算出される後輪30のスリップ率と、後輪30の軸荷重と、を用いて、後輪30の浮き上がりを判定してもよい。制御部7は、後輪30の軸荷重を用いてもよく、また、後輪30の軸荷重に換算できる他の物理量(例えば、前輪20の軸荷重等)を用いてもよい。
【0081】
仮に、制御部7が、車輪速度及び車体速度vVehから算出される後輪30のスリップ率のみを使用して後輪30の浮き上がりを判定する場合には、下り勾配によって後輪30が浮き上がりやすくなっていることが加味されず、後輪30の浮き上がりの判定が不正確となって、ABS制御の有効性が低減されてしまう。一方、上述のように、制御部7が、車輪Wの軸荷重に基づいて後輪30に浮き上がりが生じているか否かを判定する場合には、下り勾配によって後輪30が浮き上がりやすくなっていることが加味されて、後輪30の浮き上がりの判定が正確化され、ABS制御の有効性が向上される。
【0082】
なお、ここでは、モーターサイクルが下り勾配の路面を走行しているときのABS制御について説明しているが、モーターサイクルが上り勾配の路面を走行しているときのABS制御においても、車輪Wの軸荷重を用いることで、車輪Wに浮き上がりが生じているか否かの判定が正確化される。モーターサイクルが下り勾配の路面を走行しているときには、その有効性が一層高まる。
【0083】
例えば、上り勾配の路面を走行しているときにモーターサイクルが加速され、車輪Wが空転しそうになっている状況を考える。上り勾配の路面を走行するモーターサイクルでは、後輪30の軸荷重が増加し、前輪20が浮き上がりやすくなる。制御部7は、そのような状況で、車輪Wの軸荷重に基づいて前輪20に浮き上がりが生じているか否かを判定する。制御部7は、前輪20の軸荷重のみを用いて、前輪20の浮き上がりを判定してもよく、また、車輪速度及び車体速度vVehから算出される前輪20のスリップ率と、前輪20の軸荷重と、を用いて、前輪20の浮き上がりを判定してもよい。制御部7は、前輪20の軸荷重を用いてもよく、また、前輪20の軸荷重に換算できる他の物理量(例えば、後輪30の軸荷重等)を用いてもよい。
【0084】
仮に、制御部7が、車輪速度及び車体速度vVehから算出される前輪20のスリップ率のみを使用して前輪20の浮き上がりを判定する場合には、上り勾配によって前輪20が浮き上がりやすくなっていることが加味されず、前輪20の浮き上がりの判定が不正確となって、トラクションコントロールの有効性が低減されてしまう。一方、上述のように、制御部7が、車輪Wの軸荷重に基づいて前輪20に浮き上がりが生じているか否かを判定する場合には、上り勾配によって前輪20が浮き上がりやすくなっていることが加味されて、前輪20の浮き上がりの判定が正確化され、トラクションコントロールの有効性が向上される。
【0085】
なお、ここでは、モーターサイクルが上り勾配の路面を走行しているときのトラクションコントロールについて説明しているが、モーターサイクルが下り勾配の路面を走行しているときのトラクションコントロールにおいても、車輪Wの軸荷重を用いることで、車輪Wに浮き上がりが生じているか否かの判定が正確化される。モーターサイクルが上り勾配の路面を走行しているときには、その有効性が一層高まる。
【0086】
<本実施の形態2に係る車体挙動制御装置1の有する効果>
本実施の形態2に係る車体挙動制御装置1の制御部7は、車輪Wの軸荷重に基づいて車輪Wの浮き上がりを検出する。そのため、車輪Wの浮き上がりの判定が正確化されて、車体の挙動が不安定になることを抑制することができる。
【0087】
以上、実施の形態1及び実施の形態2について説明したが、本発明は各実施の形態の説明に限定されない。例えば、各実施の形態の全て又は一部が組み合わされてもよい。