【文献】
W.H. Haydl,"On the use of vias in conductor-backed coplanar circuits", IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques,2002年 6月,Vol.50,No.6,pp.1571 - 1577
【文献】
M.R. Lyons et al.,"Enhanced dominant mode operation of a shielded multilayer coplanar waveguide via substrate compensa, IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques,1993年 9月,Vol.41,No.9,pp.1564 - 1567
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しつつ説明する。本発明は、信号の送受信を行うための多層基板、及び多層基板を備えたレーダ装置に広く適用することができる。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る多層基板10を備えたレーダ装置1のブロック図である。本実施形態に係るレーダ装置1は、例えば一例として、船舶としての自船に搭載されて、他船を探知するために用いられる。
【0020】
レーダ装置1では、送受信装置3で生成された送信信号から生成される送信波がアンテナ2から送波され、その送信波が物標に反射して帰来する反射波が、受信波としてアンテナ2に受波される。レーダ装置1では、信号処理部4が、前記受信波から得られた受信信号を処理して物標に関する情報(例えば物標のエコー像の映像信号)を生成し、表示部5に、その情報が表示される。
【0021】
そして、本発明の実施形態に係る多層基板10は、送受信装置3に用いられている。具体的には、多層基板10は、入力側端子17及び出力側端子18(
図2参照)を有する。多層基板10では、図示しない送受切替部によって送受信装置3の送信信号生成部6と接続されている状態では、該送信信号生成部6によって生成された送信信号が入力側端子17に入力されるとともに、当該送信信号が、出力側端子18を介してアンテナ2側へ出力される。一方、多層基板10では、送受切替部によって送受信装置3の受信部7と接続されている状態では、アンテナ2によって受波された受信波から得られた受信信号が出力側端子18から入力されるとともに、当該受信信号が、入力側端子17を介して受信部7へ出力される。受信部7は前記受信信号をA/D変換等した後、当該受信信号を信号処理部4へ出力する。
【0022】
[多層基板の構成]
図2は、
図1に示す多層基板10の平面図であって、一番上の層(第1層目)の導体パターン(第1導体パターン15)を斜線で示す図である。また、
図3は、
図2に示す多層基板10のIII−III線における断面形状を模式的に示す図であって、その一部を省略して示す図である。また、
図4は、上から2層目の導体パターン(第2導体パターン25)を上方から視た図であって、第2導体パターン25を斜線で示す図である。また、
図5は、上から3層目の導体パターン(第3導体パターン30)を上方から視た図であって、第3導体パターン30を斜線で示す図である。また、
図6は、一番下の層(第4層目)の導体パターン(第4導体パターン35)を上方から視た図であって、第4導体パターン35を斜線で示す図である。なお、
図3においては、図面が煩雑になるのを避けるため、誘電体層11,12,13のハッチングを省略しており、各構成要素の横方向の寸法に対する縦方向の寸法は、必ずしも実際の寸法と対応していない。また、
図4から
図6においては、第1導体パターン15の外形を破線で重ねて図示している。
【0023】
また、各図において、説明の便宜上、入力側と記載された矢印が指示する方向を入力側と称し、出力側と記載された矢印が指示する方向を出力側と称し、右と記載された矢印が指示する方向を右側と称し、左と記載された矢印が指示する方向を左側と称し、上と記載された矢印が指示する方向を上側又は上方と称し、下と記載された矢印が指示する方向を下側又は下方と称する。
【0024】
本実施形態の多層基板10は、いわゆる4層基板(導体層が4層形成された基板)であって、平面視が矩形状に形成された所定の厚みを有する基板である。多層基板10は、平面視において3つの領域に分けられる。具体的には、多層基板10は、
図2、及び
図4から
図6を参照して、信号が入力される側の領域である入力側領域Z
INと、信号が出力される側の領域である出力側領域Z
OUTと、入力側領域Z
INと出力側領域Z
OUTとの間に挟まれた領域である中間領域Z
MIDとに分けられる。
【0025】
多層基板10は、3層の誘電体層11,12,13と、4層の導体パターン15,25,30,35とを備えている。
【0026】
3層の誘電体層11,12,13は、第1誘電体層11と、第2誘電体層12と、第3誘電体層13とを有している。
【0027】
第1誘電体層11は、3つの誘電体層のうち最も上側に設けられた誘電体層であって、上側に第1導体パターン15が形成されている一方、下側には第2導体パターン25が形成されている。
【0028】
第2誘電体層12は、第1誘電体層11の下側に形成された誘電体層であって、第2導体パターン25の下面に密着して設けられている。第2誘電体層12の下面には、第3導体パターン30が密着して設けられている。
【0029】
第3誘電体層13は、第2誘電体層12の下側に形成された誘電体層である。第3誘電体層の上側には第3導体パターン30が形成されている一方、下側には第4導体パターン35が密着して設けられている。
【0030】
4層の導体パターン15,25,30,35は、第1導体パターン15と、第2導体パターン25と、第3導体パターン30と、第4導体パターン35とを有している。
【0031】
第1導体パターン15は、
図2を参照して、第1誘電体層11の表側(上側)の面に形成されている。すなわち、第1導体パターン15は、最も上側の導体パターンとして設けられていて、多層基板10における表側(上側)の面に露出している。
【0032】
図2を参照して、第1導体パターン15は、信号ライン16と、第1グランドパターン20(グランド層)とを有している。
【0033】
信号ライン16は、多層基板10における左右方向中央部分を、該多層基板10における入力側の端部から出力側の端部に亘って直線状に延びる導体パターンである。信号ライン16は、入力側領域Z
INに形成されている入力側領域信号ライン部16aと、中間領域Z
MIDに形成されている中間領域信号ライン部16bと、出力側領域Z
OUTに形成されている出力側領域信号ライン部16cと、で構成されている。信号ライン16における入力側の端部は、送信信号生成部6(
図1参照)によって生成された送信信号が入力される入力側端子17として設けられている。また、信号ライン16における出力側の端部は、信号ライン16を通過した信号がアンテナ2側へ出力される出力側端子18として設けられている。
【0034】
第1グランドパターン20は、第1導体パターンにおけるグランド面として設けられた部分である。すなわち、第1グランドパターン20は、信号ライン16と接触しないように形成されている。第1グランドパターン20は、入力側領域グランド部21と、中間領域グランド部22と、出力側領域グランド部23とを有している。
【0035】
入力側領域グランド部21は、第1グランドパターン20における入力側領域Z
INに形成された部分である。入力側領域グランド部21は、入力側領域Z
INにおける右側に形成された入力側領域右側グランド部21Rと、入力側領域Z
INにおける左側に形成された入力側領域左側グランド部21Lと、を有している。入力側領域右側グランド部21R及び入力側領域左側グランド部21Lは、それぞれ矩形状に形成されている。入力側領域右側グランド部21Rと信号ライン16との左右方向における距離G
IN、及び入力側領域左側グランド部21Lと信号ライン16との左右方向における距離G
INは、設計者によって適宜、設定される。
【0036】
中間領域グランド部22は、第1グランドパターン20における中間領域Z
MIDに形成された部分である。中間領域グランド部22は、中間領域Z
MIDにおける右側に形成された中間領域右側グランド部22Rと、中間領域Z
MIDにおける左側に形成された中間領域左側グランド部22Lと、を有している。中間領域右側グランド部22R及び中間領域左側グランド部22Lは、それぞれ矩形状に形成されていて、中間領域右側グランド部22Rは入力側領域右側グランド部21Rと、中間領域左側グランド部22Lは入力側領域左側グランド部21Lと、それぞれ一体に設けられている。中間領域右側グランド部22Rと信号ライン16との左右方向における距離G
MID、及び中間領域左側グランド部22Lと信号ライン16との左右方向における距離G
MIDは、上述した距離G
INよりも短くなるように設定されている。すなわち、中間領域右側グランド部22R及び中間領域左側グランド部22Lは、それぞれ、入力側領域右側グランド部21R及び入力側領域左側グランド部21Lよりも、信号ライン16側へ張り出すように設けられている。
【0037】
出力側領域グランド部23は、第1グランドパターン20における出力側領域Z
OUTに形成された部分である。出力側領域グランド部23は、出力側領域Z
OUTにおける右側に形成された出力側領域右側グランド部23Rと、出力側領域Z
OUTにおける左側に形成された出力側領域左側グランド部23Lと、を有している。出力側領域右側グランド部23R及び出力側領域左側グランド部23Lは、それぞれ矩形状に形成されていて、出力側領域右側グランド部23Rは中間領域右側グランド部22Rと、出力側領域左側グランド部23Lは中間領域左側グランド部22Lと、それぞれ一体に設けられている。出力側領域右側グランド部23Rと信号ライン16との左右方向における距離G
OUT、及び出力側領域左側グランド部23Lと信号ライン16との左右方向における距離G
OUTは、上述した距離G
INと同じとなるように設定されている。
【0038】
第2導体パターン25は、
図3を参照して、第1誘電体層11と第2誘電体層12との間に形成されている。すなわち、第2導体パターン25は、上から2番目の導体パターンとして設けられていて、多層基板10における内部に埋め込まれた状態となっている。
【0039】
第2導体パターン25は、
図4を参照して、第2グランドパターン26(グランド層、近距離グランド層)によって構成されている。第2グランドパターン26は、中間領域Z
MIDに一様に形成されていて、入力側領域Z
IN及び出力側領域Z
OUTには形成されていない。すなわち、第2グランドパターン26は、中間グランド層部として設けられている。
【0040】
第3導体パターン30は、
図3を参照して、第2誘電体層12と第3誘電体層13との間に設けられている。すなわち、第3導体パターン30は、上から3番目の導体パターンとして設けられていて、多層基板10における内部に埋め込まれた状態となっている。
【0041】
第3導体パターン30は、
図5を参照して、第3グランドパターン31(グランド層)によって構成されている。第3グランドパターン31は、中間領域Z
MIDに一様に形成されていて、入力側領域Z
IN及び出力側領域Z
OUTには形成されていない。すなわち、第3グランドパターン31は、中間グランド層部として設けられている。第3グランドパターン31は、第2グランドパターン26と同じ形状を有している。
【0042】
第4導体パターン35は、
図3を参照して、第3誘電体層13の裏側(下側)の面に形成されている。すなわち、第4導体パターン35は、最も下側の導体パターンとして設けられていて、多層基板10における裏側(下側)の面に露出している。
【0043】
第4導体パターン35は、
図6を参照して、第4グランドパターン36(グランド層、遠距離グランド層)によって構成されている。第4グランドパターン36は、第3誘電体層13の裏面(下面)における全領域に亘って一様に形成されている。第4グランドパターン36は、入力側領域Z
INに形成されている入力側領域グランド部37(入力側グランド層部)と、中間領域Z
MIDに形成されている中間領域グランド部38(中間グランド層部)と、出力側領域Z
OUTに形成されている出力側領域グランド部39(出力側グランド層部)とで構成されている。第4グランドパターン36は、レーダ装置1のシステムグランドとして設けられている。
【0044】
また、多層基板10には、
図2及び
図3を参照して、複数のビア40が形成されている。各ビア40は、多層基板10を上下方向に貫通して、各導体パターン15,25,30,35が有する各グランドパターン20,26,31,36を電気的に接続している。
【0045】
複数のビア40は、複数の入力側領域ビア41と、複数の中間領域ビア42と、複数の出力側領域ビア43とを有している。
【0046】
複数の入力側領域ビア41は、入力側領域Z
INに形成されたビアである。複数の入力側領域ビア41は、複数の入力側領域右側ビア41Rと、複数の入力側領域左側ビア41Lとを有している。
【0047】
複数の(本実施形態では、3つの)入力側領域右側ビア41Rは、入力側領域Z
INにおける右側に形成されている。具体的には、3つの入力側領域右側ビア41Rは、
図2を参照して、入力側領域右側グランド部21Rにおける信号ライン16側において、入力側から出力側へ向かって1列に並べられている。これら複数の入力側領域右側ビア41Rによって、
図2及び
図4から
図6を参照して、第1グランドパターン20の入力側領域右側グランド部21Rと第4グランドパターン36とが電気的に接続される。
【0048】
複数の(本実施形態では、3つの)入力側領域左側ビア41Lは、入力側領域Z
INにおける左側に形成されている。具体的には、3つの入力側領域左側ビア41Lは、
図2を参照して、入力側領域左側グランド部21Lにおける信号ライン16側において、入力側から出力側へ向かって1列に並べられている。これら複数の入力側領域左側ビア41Lによって、
図2及び
図4から
図6を参照して、第1グランドパターン20の入力側領域左側グランド部21Lと第4グランドパターン36とが電気的に接続される。
【0049】
複数の中間領域ビア42は、中間領域Z
MIDに形成されたビアである。複数の中間領域ビア42は、複数の中間領域右側ビア42R(第1ビア)と、複数の中間領域左側ビア42L(第2ビア)とを有している。
【0050】
複数の(本実施形態では、6つの)中間領域右側ビア42Rは、中間領域Z
MIDにおける右側に形成されている。具体的には、6つの中間領域右側ビア42Rは、
図2を参照して、中間領域右側グランド部22Rにおける信号ライン16側において、入力側から出力側へ向かって1列に並べられている。これら複数の中間領域右側ビア42Rによって、
図2及び
図4から
図6を参照して、第1グランドパターン20の中間領域右側グランド部22Rと、第2グランドパターン26と、第3グランドパターン31と、第4グランドパターン36とが電気的に接続される。
【0051】
複数の(本実施形態では、6つの)中間領域左側ビア42Lは、中間領域Z
MIDにおける左側に形成されている。具体的には、6つの中間領域左側ビア42Lは、
図2を参照して、中間領域左側グランド部22Lにおける信号ライン16側において、入力側から出力側へ向かって1列に並べられている。これら複数の中間領域左側ビア42Lによって、
図2及び
図4から
図6を参照して、第1グランドパターン20の中間領域左側グランド部22Lと、第2グランドパターン26と、第3グランドパターン31と、第4グランドパターン36とが電気的に接続される。
【0052】
複数の出力側領域ビア43は、出力側領域Z
OUTに形成されたビアである。複数の出力側領域ビア43は、複数の出力側領域右側ビア43Rと、複数の出力側領域左側ビア43Lとを有している。
【0053】
複数の(本実施形態では、3つの)出力側領域右側ビア43Rは、出力側領域Z
OUTにおける右側に形成されている。具体的には、3つの出力側領域右側ビア43Rは、
図2を参照して、出力側領域右側グランド部23Rにおける信号ライン16側において、入力側から出力側へ向かって1列に並べられている。これら複数の出力側領域右側ビア43Rによって、
図2及び
図4から
図6を参照して、第1グランドパターン20の出力側領域右側グランド部23Rと第4グランドパターン36とが電気的に接続される。
【0054】
複数の(本実施形態では、3つの)出力側領域左側ビア43Lは、出力側領域Z
OUTにおける左側に形成されている。具体的には、3つの出力側領域左側ビア43Lは、
図2を参照して、出力側領域左側グランド部23Lにおける信号ライン16側において、入力側から出力側へ向かって1列に並べられている。これら複数の出力側領域左側ビア43Lによって、
図2及び
図4から
図6を参照して、第1グランドパターン20の出力側領域左側グランド部23Lと第4グランドパターン36とが電気的に接続される。
【0055】
[多層基板の各領域におけるグランドパターンの層数について]
ところで、従来の多層基板では、良好な高周波特性を得るために、多層基板にフィルタ回路、或いはマッチング回路が形成されていたものがある。しかしそうすると、その分パターンが複雑化し、基板サイズが増大してしまう。
【0056】
また、上述した特許文献1には、多層基板における内部導体層が露出され、その内部導体層の露出した部分にシステムグランドとしての筐体を接触させることにより、良好な高周波特性を有する多層基板を構成できる旨の内容が開示されている。しかしそうすると、基板の形状が複雑化してしまうため、コスト面において好ましくない。
【0057】
この点につき、本実施形態では、
図2、及び
図4から
図6を参照して、多層基板10における入力側領域Z
IN及び出力側領域Z
OUTにおいては、2層のグランドパターン(第1グランドパターン20及び第4グランドパターン36)を形成している。一方、多層基板10における中間領域Z
MIDには、4層のグランドパターン(第1グランドパターン20、第2グランドパターン26、第3グランドパターン31、及び第4グランドパターン36)を形成している。すなわち、多層基板10は、信号の入出力が行われる部分(入力側領域Z
IN及び出力側領域Z
OUT)のグランドパターンの層数が中間領域Z
MIDのグランドパターンの層数よりも少なくなるように形成されている。そうすると、信号の入出力が行われる部分での電界の乱れが生じにくくなるため、その部分で準TEMモードが形成されやすくなる。その結果、信号の透過特性が良好になる。
【0058】
図7は、本実施形態に係る多層基板10の透過特性S
21のシミュレーショングラフ(
図7では実線で図示)に、比較例に係る多層基板の透過特性S
21のシミュレーショングラフ(
図7では破線で図示)を重ねて示す図である。また、
図8は、本実施形態に係る多層基板10の反射特性S
11のシミュレーショングラフ(
図8では実線で図示)に、比較例に係る多層基板の反射特性S
11のシミュレーショングラフ(
図8では破線で図示)を重ねて示す図である。なお、本比較例に係る多層基板は、
図4及び
図5を参照して、内層のグランドパターン(第2グランドパターン及び第3グランドパターン)が基板の全領域(入力側領域Z
IN、中間領域Z
MID、及び出力側領域Z
OUT)に亘って形成されたものであり、その他の構成については多層基板10と同じである。
【0059】
図7及び
図8に示すように、本実施形態に係る多層基板10によれば、伝送される信号の周波数(9.4GHz)帯において、比較例に係る多層基板と比べて、良好な透過特性及び反射特性を得ることが確認できた。
【0060】
[各箇所の寸法について]
図2及び
図3を参照して、本実施形態に係る多層基板10では、L1〜L5の寸法が適切に設定されている。これにより、当該多層基板10における高周波性能を高めることができる。本実施形態に係る多層基板10では、L1からL5の値が、それぞれ以下のように設定されている。具体的には、L1の値は、2次高調波(18.8GHz)の波長λ
rの半波長となるように設定されている。また、L2の値は、2次高調波の半波長(λ
r/2)の整数倍となるように設定されている。また、以下で詳しく説明するが、L3の値を調整することで、基本波(9.4GHz)のインピーダンスに影響を与えずに、2次高調波のインピーダンスを任意に設定することができる。また、L4とL5とを加算した値は、2次高調波(18.8GHz)の波長λ
rの4分の1となるように設定されている。
【0061】
[寸法L1について]
L1は、
図2を参照して、中間領域右側ビア42Rと中間領域左側ビア42Lとの距離である。より具体的には、L1は、中間領域右側ビア42Rにおける信号ライン16側の端部と、中間領域左側ビア42Lにおける信号ライン16側の端部との間の距離である。本実施形態に係る多層基板10では、L1の寸法が、2次高調波(18.8GHz)の波長λ
rの半波長となるように設定されている。なお、波長λ
rとは、信号が伝送される信号ライン16が形成される誘電体層の誘電率による波長短縮効果を考慮に入れた波長である。この波長λ
rは、例えば一例として、真空中における前記2次高調波の波長を、誘電体層の比誘電率の平方根で除算することにより算出することができる。
【0062】
図9は、本実施形態に係る多層基板10の透過特性のシミュレーション結果を示すグラフ(
図9では四角印で図示している)と、比較例に係る多層基板100の透過特性のシミュレーション結果を示すグラフ(
図9では丸印で図示している)とを重ねてしめす図である。また、
図10は、本実施形態に係る多層基板10における2次高調波の電界シミュレーションである。また、
図11は、比較例に係る多層基板100における2次高調波の電界シミュレーションである。なお、本比較例に係る多層基板100では、L1の値が2次高調波(18.8GHz)の波長λ
rの4分の1となるように設定されている点を除き、その他の寸法については多層基板10と同じである。また、
図10及び
図11で示す電界シミュレーションは、多層基板を入力側から視た場合における電界シミュレーションである。
【0063】
図9に示すように、基本波(9.4GHz)の透過特性は、多層基板10及び比較例に係る多層基板100のいずれの場合も概ね同様である。しかしながら、2次高調波(18.8GHz)の透過特性については、本実施形態に係る多層基板10の方が優れた特性を有している(2次高調波を透過させにくい)。
【0064】
その理由を確認するために、本願発明者が電界シミュレーションを行ったところ、
図11に示すように、比較例に係る多層基板100における電界シミュレーション結果によれば、2次高調波が信号ライン16と2層目の導体(第2グランドパターン26)との間で伝搬していることが分かった。すなわち、比較例に係る多層基板100では、2次高調波が信号ラインを通じて出力側へ伝達されてしまう。
【0065】
これに対して、本実施形態に係る多層基板10における電界シミュレーションによれば、
図10に示すように、2次高調波が2層目の導体(第2導体パターン25)と4層目の導体(第4導体パターン35)との間で伝搬していることが分かった。2層目から4層目の導体(第2導体パターン25、第3導体パターン30、及び第4導体パターン35)では、出力側が開放状態であるため、
図9に示すように、2次高調波が出力側へ伝搬しにくいことが確認できた。
【0066】
[寸法L2について]
L2は、
図2を参照して、信号ライン16における中間領域Z
MIDに含まれる部分、すなわち中間領域信号ライン部16bの長さである。本実施形態に係る多層基板10では、L2の寸法が、2次高調波の半波長(λ
r/2)の整数倍となるように設定される。
【0067】
図12は、本実施形態に係る多層基板10の透過特性のシミュレーション結果を示すグラフ(
図12では四角印で図示している)と、比較例に係る多層基板101の透過特性のシミュレーション結果を示すグラフ(
図12では丸印で図示している)とを重ねてしめす図である。また、
図13は、本実施形態に係る多層基板10における2次高調波の電界シミュレーションである。また、
図14は、比較例に係る多層基板101における2次高調波の電界シミュレーションである。なお、本比較例に係る多層基板101では、L2の値が、2次高調波(18.8GHz)の波長λ
rの4分の1と、2次高調波の半波長(λ
r/2)を整数倍した値とを加算した値となるように設定されている点を除き、その他の寸法については多層基板10と同じである。また、
図13及び
図14で示す電界シミュレーションは、多層基板を入力側から視た場合における電界シミュレーションである。
【0068】
図12に示すように、基本波(9.4GHz)の透過特性は、多層基板10及び比較例に係る多層基板101のいずれの場合も概ね同様である。しかしながら、2次高調波(18.8GHz)の透過特性については、本実施形態に係る多層基板10の方が優れた特性を有している(2次高調波を透過させにくい)。
【0069】
その理由を確認するために、本願発明者が電界シミュレーションを行ったところ、
図14に示すように、比較例に係る多層基板101における電界シミュレーション結果によれば、2次高調波が信号ライン16と2層目の導体(第2導体パターン25)との間で伝搬していることが分かった。すなわち、比較例に係る多層基板101では、2次高調波が信号ライン16を通じて出力側へ伝達されてしまう。
【0070】
これに対して、本実施形態に係る多層基板10における電界シミュレーションによれば、
図13に示すように、2次高調波が2層目の導体(第2導体パターン25)と4層目の導体(第4導体パターン35)との間で伝搬していることが分かった。2層目から4層目の導体(第2導体パターン25、第3導体パターン30、及び第4導体パターン35)では、出力側が開放状態であるため、
図9に示すように、2次高調波が出力側へ伝搬しにくいことが確認できた。
【0071】
[寸法L3について]
L3は、
図2を参照して、信号ライン16における入力側領域Z
INに含まれる部分、すなわち入力側領域信号ライン部16aの長さである。本実施形態に係る多層基板10では、L3の寸法を調整することにより、基本波(9.4GHz)のインピーダンスに影響を与えずに、2次高調波のインピーダンスを任意に設定することができる。
【0072】
図15は、互いにL3の長さが異なる多層基板10のインピーダンスを示すスミスチャートであって、直線状に示された各グラフG1〜G10におけるチャートの中心側の端部(丸印で表示)が基本波におけるインピーダンスを示し、各グラフG1〜G10におけるチャートの外側の端部(×印で表示)が2次高調波におけるインピーダンスを示すグラフである。なお、各グラフG1〜G10において、基本波におけるインピーダンスを示す丸印と2次高調波におけるインピーダンスを示す×印とを破線の直線で結んでいるが、これは、単に丸印と×印とを直線で結んでいるだけであり、基本波(9.4GHz)から2次高調波(18.8GHz)の間のインピーダンスが前記直線に沿っていることを意図するものではない。本シミュレーションにより、
図15に示すように、L3の長さを調整することにより、基本波のインピーダンスに大きな影響を与えることなく、2次高調波のインピーダンスを調整可能なことが確認できた。
【0073】
[寸法L4及び寸法L5について]
L4は、
図3を参照して、信号ライン16における中間領域Z
MIDに含まれる部分、すなわち中間領域信号ライン部16bと中間領域右側ビア42R(又は中間領域左側ビア42L)との間の左右方向における距離である。また、L5は、第2グランドパターン26と第4グランドパターンとの間の距離である。本実施形態に係る多層基板10では、L4とL5とを加算した値が、2次高調波(18.8GHz)の波長λ
rの4分の1となるように設定されている。
【0074】
上述のようにL4及びL5の寸法を設定すると、
図3を参照して、システムグランドと接続されていることにより該システムグランドとショート状態となっているA点に対して、そのA点からλ
r/4だけ離れた位置であるB点がオープン状態になる。そうなると、2次高調波に関してはグランドが浮いた状態となり、当該2次高調波は、信号ライン16を介して出力側へ伝送されなくなる。このような理由により、高調波を減衰させることができる。
【0075】
図16は、本実施形態に係る多層基板10の透過特性のシミュレーション結果を示すグラフであって、2次高調波の透過特性を低減するようにL4の値が設定された多層基板10の透過特性を示すグラフと、3次高調波の透過特性を低減するようにL4の値が設定された多層基板10の透過特性を示すグラフとを重ねて示す図である。L4とL5とを加算した値を、2次高調波(18.8GHz)の波長の4分の1となるように設定すると、
図16の四角印に示すように、基本波(9.4GHz)の信号は伝達させつつ、2次高調波の信号を十分に減衰できることが確認できた。また、L4とL5とを加算した値を、3次高調波(28.2GHz)の波長の4分の1となるように設定すると、
図16の丸印に示すように、基本波(9.4GHz)の信号は伝達させつつ、3次高調波の信号を十分に減衰できることが確認できた。
【0076】
[効果]
以上のように、本実施形態に係るレーダ装置1の多層基板10では、入力側領域Z
INに形成されたグランドの層数(本実施形態の場合、入力側領域グランド部21,37の2層)、及び出力側領域Z
OUTに形成されたグランドの層数(本実施形態の場合、出力側領域グランド部23,39の2層)が、それぞれ、中間領域Z
MIDに形成されたグランドの層数(本実施形態の場合、中間領域グランド部22、第2グランドパターン26、第3グランドパターン31、及び中間領域グランド部38の4層)よりも少なくなるように形成されている。そうすると、信号の入出力が行われる部分での電界の乱れが生じにくくなるため、その部分で準TEMモードが形成されやすくなる。その結果、信号の透過特性が良好になる。
【0077】
従って、多層基板10によれば、簡素化された構成且つ良好な高周波特性を有する多層基板を提供できる。
【0078】
また、多層基板10では、入力側領域Z
IN及び出力側領域Z
OUTのそれぞれに2層のグランド層が形成され、中間領域Z
MIDに3層以上(本実施形態では、4層)のグランド層が形成されている。これにより、
図7で示したシミュレーション結果からもわかる通り、良好な透過特性を得ることができる。
【0079】
また、多層基板10では、
図2に示すL1の値(中間領域右側ビア42Rと中間領域左側ビア42Lとの距離)が、2次高調波の半波長以上且つ該2次高調波の波長未満となるように(具体的に、本実施形態では、2次高調波の半波長となるように)設定されている。これにより、
図9に示すシミュレーション結果からもわかる通り、出力側へ伝達される2次高調波を低減できる。
【0080】
また、多層基板10では、
図2に示すL2の値(中間領域信号ライン部16bの長さ)が、2次高調波の半波長の整数倍となるように設定されている。これにより、
図12に示すシミュレーション結果からもわかる通り、出力側へ伝達される2次高調波を低減できる。
【0081】
また、多層基板10では、
図2に示すL3の値(入力側領域信号ライン部16aの長さ)が、設定したい2次高調波のインピーダンスに基づいて設定される。こうすると、
図15に示すように、L3の値を調整するだけで、基本波のインピーダンスに影響を与えることなく2次高調波のインピーダンスのみを容易に調整することができる。
【0082】
また、多層基板10では、
図2に示すL4及びL5を加算した値が2次高調波(又は3次高調波)の波長の4分の1となるように、L4及びL5の値が設定されている。こうすると、
図16に示すように、出力側へ伝達される2次高調波(又は3次高調波)を低減できる。
【0083】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0084】
(1)
図17は、変形例に係る多層基板10aの平面図であって、一番上の層(第1層目)の導体パターン(第1導体パターン)を斜線で示す図である。また、
図18は、
図17に示す多層基板10aのXVIII−XVIII線における断面形状を模式的に示す図であって、その一部を省略して示す図である。本変形例に係る多層基板10aは、上記実施形態に係る多層基板10と比べて、中間領域Z
MIDに形成されたビア(中間領域ビア)の位置及び個数が異なる。以下では、上記実施形態と異なる箇所について説明し、それ以外の箇所については説明を省略する。なお、
図18においては、図面が煩雑になるのを避けるため、誘電体層11,12,13のハッチングを省略している。
【0085】
本変形例に係る多層基板10aには、24個の中間領域ビア42aが形成されている。24個の中間領域ビア42aのうちの12個は、中間領域Z
MIDにおける右側に形成され、残りの12個は、中間領域Z
MIDにおける左側に形成されている。
【0086】
中間領域Z
MIDにおける右側には、中間領域ビア42aとして、複数の(本変形例の場合、6つの)中間領域最右側ビア44R(第1ビア)と、複数の(本変形例の場合、6つの)中間領域右側ビア45R(第3ビア)とが形成されている。
【0087】
6つの中間領域最右側ビア44Rは、
図17を参照して、中間領域右側グランド部22Rにおける信号ライン16側において、入力側から出力側へ向かって1列に並べられている。また、これらの中間領域最右側ビア44Rは、
図18を参照して、上下方向において第3グランドパターン31(第2遠距離グランド層)と第4グランドパターン36(第1遠距離グランド層)との間に跨るように設けられている。これにより、第3グランドパターン31と第4グランドパターン36とが電気的に接続される。
【0088】
6つの中間領域右側ビア45Rは、
図17を参照して、中間領域右側グランド部22Rにおける信号ライン16と中間領域最右側ビア44Rとの間において、入力側から出力側へ向かって1列に並べられている。また、これらの中間領域右側ビア45Rは、
図18を参照して、上下方向において第1グランドパターン20(基準グランド層)と第3グランドパターン31との間に跨るように設けられている。これにより、第1グランドパターン20と、第2グランドパターン26と、第3グランドパターン31とが電気的に接続される。
【0089】
中間領域Z
MIDにおける左側には、中間領域ビア42aとして、複数の(本変形例の場合、6つの)中間領域最左側ビア44L(第2ビア)と、複数の(本変形例の場合、6つの)中間領域左側ビア45L(第4ビア)とが形成されている。
【0090】
6つの中間領域最左側ビア44Lは、
図17を参照して、中間領域左側グランド部22Lにおける信号ライン16側において、入力側から出力側へ向かって1列に並べられている。また、これらの中間領域最左側ビア44Lは、
図18を参照して、上下方向において第3グランドパターン31と第4グランドパターン36との間に跨るように設けられている。これにより、第3グランドパターン31と第4グランドパターン36とが電気的に接続される。
【0091】
6つの中間領域左側ビア45Lは、
図17を参照して、中間領域左側グランド部22Lにおける信号ライン16と中間領域最左側ビア44Lとの間において、入力側から出力側へ向かって1列に並べられている。また、これらの中間領域左側ビア45Lは、
図18を参照して、上下方向において第1グランドパターン20と第3グランドパターン31との間に跨るように設けられている。これにより、第1グランドパターン20と、第2グランドパターン26と、第3グランドパターン31とが電気的に接続される。
【0092】
[L6及びL7の寸法について]
図17を参照して、本実施形態に係る多層基板10aでは、L6及びL7の寸法が適切に設定されている。これにより、当該多層基板10aにおける高周波性能を高めることができる。本変形例に係る多層基板10aでは、L6の値は、3次高調波(28.2GHz)の波長の半波長となるように設定されている。また、L7の値は、2次高調波(18.8GHz)の波長の半波長となるように設定されている。本変形例では、カットしたい高調波の半波長となるようにL6及びL7を設定している。
【0093】
図19は、本変形例に係る多層基板10aにおける基本波の電界シミュレーションである。また、
図20は、本変形例に係る多層基板10aにおける2次高調波の電界シミュレーションである。また、
図21は、本変形例に係る多層基板10aにおける3次高調波の電界シミュレーションである。なお、
図19から
図21で示す電界シミュレーションは、多層基板10aを入力側から視た場合における電界シミュレーションであって、各図において模式的に図示されている多層基板10aでは、ビア40の図示を省略している。
【0094】
本変形例に係る多層基板10aでは、
図19を参照して、基本波については、信号ライン16と第2グランドパターン26との間に電界が分布している。すなわち、
図19に示す電界シミュレーション結果によれば、基本波については信号ラインを介して出力側へ伝達されることが確認できた。
【0095】
これに対して、本変形例に係る多層基板10aでは、
図20を参照して、2次高調波については、主に第3グランドパターン31と第4グランドパターン36との間に電界が分布している。すなわち、多層基板10aによれば、2次高調波が出力側へ伝達されにくいことが確認できた。
【0096】
また、本変形例に係る多層基板10aでは、
図21を参照して、3次高調波については、主に第2グランドパターン26と第3グランドパターン31との間に電界が分布している。すなわち、多層基板10aによれば、3次高調波が出力側へ伝達されにくいことが確認できた。
【0097】
以上のように、本変形例に係る多層基板10aによれば、L6の値(中間領域右側ビア45Rと中間領域左側ビア45Lとの距離)が、3次高調波の半波長以上且つ該3次高調波の波長未満となるように(具体的には、本実施形態では、3次高調波の半波長となるように)設定されている。これにより、
図21に示す電界シミュレーション結果からもわかる通り、出力側へ伝達される3次高調波を低減できる。
【0098】
また、本変形例に係る多層基板10aによれば、L7の値(中間領域最右側ビア44Rと中間領域最左側ビア44Lとの距離)が、2次高調波の半波長以上且つ該2次高調波の波長未満となるように(具体的には、本実施形態では、2次高調波の半波長となるように)設定されている。これにより、
図20に示す電界シミュレーション結果からもわかる通り、出力側へ伝達される2次高調波を低減できる。
【0099】
すなわち、本変形例に係る多層基板10aによれば、出力側への伝達を低減したい複数の高調波(本実施形態の場合、2次高調波及び3次高調波)の伝達を、L6及びL7の値を適切に調整するだけで、容易に低減することができる。
【0100】
(2)
図22は、変形例に係る多層基板10bの断面形状を模式的に示す図であって、
図18に対応させて示す図である。
図18に示す多層基板10aでは、中間領域最右側ビア44R及び中間領域最左側ビア44Lが、上下方向において第3グランドパターン31と第4グランドパターン36との間に跨るように設けられたが、これに限らない。具体的には、
図22を参照して、中間領域最右側ビア46R及び中間領域最左側ビア46Lを、上下方向において第1グランドパターン20と第4グランドパターン36との間に跨るように設けてもよい。こうしても、
図17及び
図18に示す多層基板10aの場合と同様の効果を得ることができる。なお、
図22においては、図面が煩雑になるのを避けるため、誘電体層11,12,13のハッチングを省略している。