(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記原子層は、前記結晶粒界において、炭化タングステン(WC)結晶粒子の(100)面の配列周期に沿って形成されている ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のセラミック組成物。
前記原子層は、前記結晶粒界において、炭化タングステン(WC)結晶粒子の(100)面の1配列分の厚みで形成されている ことを特徴とする請求項1から請求項3までの何れか一項に記載のセラミック組成物。
前記原子層は、前記少なくとも1つの元素として、周期表の4〜6族に属する遷移金属(ジルコニウム(Zr)を除く)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)及びランタノイドから選択される少なくとも1つの元素を含むことを特徴とする請求項1から請求項4までの何れか一項に記載のセラミック組成物
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施形態1を説明する。
図1は、切削工具200を示す。切削工具200は、刃先を形成するセラミック組成物100を備える。
【0018】
図2は、セラミック組成物100の外観を示す斜視図である。セラミック組成物100は、アルミナ(Al
2O
3)と、炭化タングステン(WC)と、添加化合物と、を含有する。この添加化合物とは、所定元素群から選択される少なくとも1つの元素の化合物である。所定元素群とは、周期表の4〜6族に属する遷移金属、及び希土類元素である。言い換えると、所定元素群は、周期表の3〜6族に属する遷移金属から、アクチノイドを除外した元素の総称である。希土類元素は、スカンジウム(Sc)と、イットリウム(Y)と、ランタノイドとの総称である。ランタノイドは、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素の総称である。
【0019】
図3は、
図2の3−3断面における画像を示す。この画像は、鏡面研磨を施した後にサーマルエッチングを施した任意の表面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)で観察した画像である。
【0020】
図4は、
図3に示す画像における結晶粒子を模式的に表現した図である。なお、
図3及び
図4それぞれに示す画像の1辺は、実際に用いた基部における10μm(マイクロメートル)の長さに対応する。
【0021】
セラミック組成物100は、多結晶体であり、複数のアルミナ結晶粒子10と、複数の炭化タングステン結晶粒子20と、複数の添加化合物結晶粒子30とを備える。アルミナ結晶粒子10は、アルミナから成る結晶粒子である。炭化タングステン結晶粒子20は、炭化タングステンから成る結晶粒子である。添加化合物結晶粒子30は、先述した添加化合物から成る結晶粒子である。本実施形態における添加化合物は、ジルコニア(ZrO
2)である。
【0022】
図5は、アルミナ結晶粒子10と炭化タングステン結晶粒子20とが隣接する任意の界面である結晶粒界40を観察した画像である。この観察のための試料は、集束イオンビーム装置(FIB装置、Focused Ion Beam system)を用いて、任意の部分から100nm四方の薄片を切り出した。観察の対象は、その薄片における任意の表面とした。観察には、走査透過電子顕微鏡(STEM)を用いた。
【0023】
図6は、結晶粒界40の周辺におけるジルコニウムの濃度をエネルギー分散形X線分光器(EDS,Energy Dispersive X-ray Spectrometer)で測定したグラフである。
【0024】
図6におけるグラフの横軸は、結晶粒界40を横切る直線上の位置として、アルミナ結晶粒子10における位置A1から、結晶粒界40上の位置A2を経て、炭化タングステン結晶粒子20における位置A3までの各位置を示す。位置A1から位置A3までの距離は、約50nm(ナノメートル)である。
図6におけるグラフの縦軸は、ジルコニウム元素の濃度を示す。すなわち、グラフの縦軸において上方である程、ジルコニウム元素の濃度が高い事を意味する。
図6に示された結果から、結晶粒界40又はその付近に、添加元素としてのジルコニウムが存在していることが確認された。
【0025】
図7及び
図8は、結晶粒界40付近の画像である。
図7及び
図8に示された画像の倍率は、
図3や
図5に示された画像の倍率よりも大きい。
【0026】
図7は、HAADF-STEM像を示す。HAADF-STEM(High-Angle Annular Dark Field Scanning Transmission Electron Microscopy)は、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法のことである。観察の詳細な手順は後述する。HAADF-STEM像においては、重い元素が明るく示される。構造モデルと比較すると、輝度の高い白点が炭素(W)の原子カラムに対応することが分かる。
【0027】
図8は、ABF-STEM像を示す。ABF-STEM(Annular Bright-Field Scanning Transmission Electron Microscopy)は、環状明視野法のことである。観察の詳細な手順は後述する。ABF-STEM像においては、重い元素が暗く示される。構造モデルと比較すると、輝度の低い黒点が炭素の原子カラムに対応することが分かる。
【0028】
図7及び
図8の何れにおいても、結晶粒界40に、中間層が存在している。この中間層は、アモルファス及び原子配列から、又は原子配列のみからなる。本実施形態では、この中間層を原子層50と呼ぶ。結晶粒界40に原子層50が存在することは、原子層50が結晶粒界40を形成しているとも表現できる。
【0029】
原子層50は、炭化タングステン結晶粒子20の配列周期に沿って形成されている。より具体的には、原子層50は、炭化タングステン結晶粒子20の(100)面の配列周期に沿って形成されている。このような規則的な配列によって、アルミナ結晶粒子10と炭化タングステン結晶粒子20との結合力が高められていると考えられる。
【0030】
原子層50は、炭化タングステン結晶粒子の(100)面の1配列分の厚み(約0.3nm)で形成されている。つまり、原子層50の厚みは、おおよそ原子1個分である。従って、原子層50の厚みは、原子層50を形成する元素によって変わり得る。このように原子層50は、厚みがおおよそ原子1個分であるため、アルミナ結晶粒子10と炭化タングステン結晶粒子20との界面に共有されていると表現することもできる。
【0031】
原子層50、及び
図7に示された領域51,52のそれぞれを対象に、EDS限定視野分析を実施した。W_Ma1強度で合わせた場合、原子層50の分析結果において、ジルコニウム(Zr)ピークが最もはっきりした。このため、原子層50を構成する原子の少なくとも一部は、ジルコニウムであることが確認された。
【0032】
ジルコニウムは、添加化合物であるジルコニアを構成する元素である。このように、添加化合物を構成し、且つ、原子層50を形成する元素を、本実施形態では添加元素と呼ぶ。なお、「添加元素が原子層50を形成する」という意味は、原子層50が添加元素のみを含むという意味に限らない。アルミナ結晶粒子10や炭化タングステン結晶粒子20を構成する元素(例えば炭素またはタングステン)を含んでもよい。
【0033】
結晶粒界40の撮影及びEDS分析には、非点収差補正器(Csコレクタ)並びにEDSを装備した透過電子顕微鏡(TEM)装置を用い、走査透過
電子顕微鏡(STEM)モードに切り替えて実施した。
【0034】
これらの測定に際し、TEM分析用試料は、次のように準備した。最初に、焼結体を直径3mmのディスク状に切り出し、約50μmの厚さまで機械研磨を実施した。その後、ディスクの平面中心部にディンプルグラインダを用いて10μm以下の窪みをつけた。そして、加速電圧2〜4kVのAr
+イオンを入射角度4度で表裏面に入射加工させることでTEM分析用試料を準備した。
【0035】
そして、電子線回折像で結晶方位を確認しながら試料角度を調整し、粒子界面の重なりがない部位を探索して、観察分析位置を決定した。TEM及びCs−STEM観察分析は加速電圧200kVで実施した。
【0036】
TEMモードで観察分析位置を決定した後、Cs−STEMモードの最適観察装置状態に調整し、装置機能を使い明瞭となるフォーカシング、色調の調整を適宜、実施した。EDS線分析は、粒子界面を含む長さ50nm範囲を設定し、Zr−K線の強度をプロファイル化した。
【0037】
TEMによる観察、EDS分析方法の手順で作製した試料をTEMで観察し、アルミナ結晶粒子10と炭化タングステン結晶粒子20とが隣接する部位を探索し、炭化タングステン結晶粒子20の観察方位が(001)になるよう試料角度を調整した。この際のアルミナ結晶粒子10と炭化タングステン結晶粒子20との結晶粒界40に重なりが無いエッジの立った状態であるか確認し、全ての条件を満たした部位を観察分析位置に決定した。
【0038】
TEM及びCs−STEM観察分析は加速電圧200kVで実施した。取り込み時間は、5分間に設定した。先述のTEMモードで観察分析位置を決定した後にCs−STEMモードの最適観察装置状態に調整し、装置機能を使い明瞭となるフォーカシング、色調の調整を適宜、実施した。
【0039】
図9は、セラミック組成物100の製造方法を示す工程図である。まず、セラミック組成物100の原料であるアルミナと、炭化タングステンと、添加化合物と、を用意する(S300)。
【0040】
S300では、先述した各原料を粉末の状態で用意する。具体的には、平均粒径0.5μm程度のアルミナ粉末、平均粒径0.7μm程度の炭化タングステン粉末、平均粒径0.7μm程度のジルコニア粉末を用いる。これら平均粒径の値は例示であって、変更してもよい。ジルコニア粉末は、安定化剤として3mol%のイットリア(Y
2O
3)で部分安定化されたジルコニア粉末(3YSZ粉末)であることが好ましい。なお、粉末の平均粒径は、いずれもレーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定した値である。
【0041】
次に、用意した原料を秤量し、所定の割合で混合する(S310)。そして、予備混合粉砕を実施する(S320)。具体的には、ボールミルを用いて、アルミナ粉末と炭化タングステン粉末とジルコニウムイオンとを含む溶液を溶媒とともに混合しつつ、各粉末の粒子を粉砕する。
【0042】
本実施形態における溶液は、例えば85%ジルコニウム(IV)ブトキシド1−ブタノール溶液である。本実施形態における上記溶媒は、例えばエタノールである。本実施形態における予備粉砕を行う時間は、約20時間である。他の実施形態では、20時間未満であってもよいし、20時間より長くてもよい。
【0043】
続いて、混合粉砕によってスラリを得る(S330)。具体的には、ボールミル内の混合物に、ジルコニアと溶媒とを加えて、更に混合および粉砕を実施する。これによって、アルミナ、炭化タングステンおよびジルコニアの各粒子が分散したスラリを得る。本実施形態では、ジルコニアを加えて更に混合および粉砕する時間は、約20時間である。他の実施形態では、20時間未満であってもよいし、20時間より長くてもよい。
【0044】
次に、スラリを乾燥させて混合粉末を作製する(S340)。スラリから混合粉末を得る方法としては、例えば、スラリを湯煎しつつ乾燥させることによりスラリ中から溶媒を除去して粉体を得て、得られた粉体を篩に通す方法を挙げることができる。
【0045】
最後に、ホットプレスによって混合粉末からセラミック組成物を作製する(S350)。本実施形態では、ホットプレスにおいて、カーボン製の型に混合粉末を充填し、その混合粉末を一軸加圧しながら加熱する。これによって、混合粉末が焼結した焼結体であるセラミック組成物100を得る。本実施形態におけるホットプレスの条件は、次の通りである。焼成温度は1750℃、焼成時間は2時間、圧力は30MPa、雰囲気ガスはアルゴン(Ar)である。
【0046】
図10は、セラミック組成物100の組成ごとに、強度と熱伝導率とを測定した試験結果をまとめたテーブルを示す。
【0047】
各試料の結晶粒界40における添加元素を特定するために、先述したように、集束イオンビーム装置を用いて薄片を用意し、結晶粒界40から5箇所ずつ添加元素の濃度をEDSで測定した。
【0048】
試料NO.1,2,3には、結晶粒界40に原子層50が存在しなかった。但し、試料NO.2の結晶粒界40には、ケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)から成るアモルファス相が存在した。試料NO.4〜11には、結晶粒界40に原子層50が存在した。試料NO.3は、アルミナ−SiCウィスカ工具として知られている材料であるので、組成の表示を省略する。
【0049】
試料NO.4〜8の場合、添加化合物はジルコニアであり、添加元素はジルコニウムである。試料NO.9の場合、添加化合物は酸化イットリウム(III)(Y
2O
3)であり、添加元素はイットリウムである。試料NO.10の場合、添加化合物は炭酸スカンジウム(III)(Sc
2(CO
3)
3)であり、添加元素はスカンジウムである。試料NO.11の場合、添加化合物は酸化イッテルビウム(III)(Yb
2O
3)であり、添加元素はイッテルビウム(Yb)である。このように、試料NO.4〜11の添加元素は何れも、所定元素群に属する。
【0050】
まず、組成が同じである試料NO.1,2,5を比較する。曲げ強度については、室温及び800℃の場合の何れも、試料NO.5の値が最も大きい。よって、ジルコニウムによる原子層50の存在によって、曲げ強度が向上したことが分かる。
【0051】
熱伝導率については、室温及び800℃の場合の何れも、試料NO.5の値は、試料NO.1よりは小さいものの、試料NO.3よりは大きい。よって、原子層50の存在による熱伝導率の低下は、アモルファス相よりも抑制されていることが分かる。
【0052】
次に、アルミナの割合が50体積%、炭化タングステンの割合が45体積%で共通の試料NO.1,2,5,9,10,11を比較する。以下、試料NO.1,2を「原子層なし」、試料NO.5,9,10,11を「原子層あり」とも言う。
【0053】
曲げ強度については、室温及び800℃の場合の何れも、原子層なしの最大値よりも、原子層ありの最小値の方が大きい。曲げ強度に対する影響の大きさは、添加化合物よりも原子層50の方が大きいと考えられるので、所定元素群から選択される何れか1つの元素による原子層50の存在によって、曲げ強度が向上したことが分かる。
【0054】
なお、800℃の曲げ強度が最大なのは、添加化合物がジルコニアである試料NO.5であるので、800℃の曲げ強度を向上させる場合は、添加元素はジルコニウムが好ましい。一方、室温の曲げ強度が最大なのは、添加化合物が酸化イッテルビウムである試料NO.11であるので、室温の曲げ強度を向上させる場合は、添加元素はイッテルビウムが好ましい。
【0055】
室温における熱伝導率については、原子層ありの値は何れも、試料NO.1よりは小さいものの、試料NO.3よりは大きい。800℃における熱伝導率については、原子層ありの値は何れも、試料NO.3より大きい。さらに、試料NO.9,11の値は、試料NO.1よりも大きい。特に、添加化合物が酸化イットリウムである試料NO.9は、室温および800℃の何れの場合も最大なので、熱伝導率の値を重視する場合は、添加元素はイットリウムが好ましい。
【0056】
熱伝導率に対する影響の大きさは、添加化合物と原子層50とで何れが大きいかは一概には言えないものの、原子層50の存在によって熱伝導率が大きく低下することは確認された。これは、先述したように、原子層50が薄いためであると考えられる。
【0057】
試料NO.5と試料NO.6とを比較すると、炭化タングステンの割合が大きくなると、室温及び800℃の場合の何れも、曲げ強度および熱伝導率の値(以下、4つの値)が大きくなることが分かる。試料NO.8が他に比べて4つの値の何れについても突出しているのは、炭化タングステンの割合が大きいからであると考えられる。
【0058】
曲げ強度の測定には、全長40mm、幅4mm、厚さ3mmの試験片を用いた。試験者は、日本工業規格JIS R 1601に準拠して、外部支点間距離(スパン)30mmの条件で各試料の3点曲げ強さを求めた。
【0059】
熱伝導率の測定には、φ10mm、厚さ2mmの試験片を用いた。試験者は、日本工業規格JIS R 1611に準拠して室温及び800℃における各試料の熱伝導率を求めた。
【0060】
次に、
図10に示された組成(体積%)について説明する。セラミック組成物100を構成する各成分の割合を、所望の体積%にするには、セラミック組成物100を作製するために用いる原料の混合割合を、先述した所望の体積%にすればよい。各原料粉末の体積%は、混合に用いる各原料粉末の質量と、各原料の比重とに基づいて求めることができる。各原料は、製造工程において互いに殆ど反応しないため、混合に用いる各原料の体積%を調節することによって、セラミック組成物100における各成分の体積%を所望の値にすることができる。
【0061】
製造されたセラミック組成物100における各成分の割合(体積%)は、以下のようにして求めることができる。
【0062】
手順1.セラミック組成物100の表面を露出させて、露出させた面に対して鏡面研磨を施した後にエッチングを施し、SEMで観察する。その表面を1万倍に拡大して撮影した画像から任意の10μm四方の領域を5箇所ずつ選択する。
【0063】
手順2.選択された領域においてアルミナ結晶粒子10が占める面積a、炭化タングステン結晶粒子20が占める面積b、および添加化合物結晶粒子30が占める面積cを、画像解析ソフトウエアを用いて算出する。画像解析ソフトウエアには、三谷商事株式会社が提供するWinROOFを用いた。
【0064】
手順3.算出した値に基づいて、a/(a+b+c)、b/(a+b+c)、c/(a+b+c)を算出する。
【0065】
セラミック組成物100における各成分の割合(体積%)を求める際には、セラミック組成物100について種々の異なる角度で表面を露出させて先述した値を算出し、各々の値について平均値を求めればよい。これにより、セラミック組成物100におけるアルミナの含有割合(体積%)としてのa/(a+b+c)、炭化タングステンの含有割合(体積%)としてのb/(a+b+c)、添加化合物の含有割合(体積%)としてのc/(a+b+c)を求めることができる。
【0066】
なお、セラミック組成物100は、不可避不純物を含有してもよい。不可避不純物とは、製造工程において不可避的に混入する物質であり、例えば、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)のうち少なくとも1つを挙げることができる。不可避不純物が混入する量は、炭化タングステンに固溶して曲げ強度、熱伝導率を殆ど低下させない程度の量(例えば0.1質量%以下)であればよい。
【0067】
図11は、切削工具200による切削試験の結果をまとめたテーブルを示す。切削試験は、セラミック組成物100の組成ごとに実施した。
図11に示された試料NO.1〜5の組成は、
図10に示された試料NO.1〜5として示された組成と同じである。
【0068】
切削工具の形状は、日本工業規格JIS B 4120に準拠した呼び記号「
RCGX120700T01020」によって特定される形状である。被削材には、Rene104を用いた。被削材の形状は、外径250mmの穴あき円盤形状である。
【0069】
切削試験の条件は、以下の通りである。切削試験は、240m/min、360m/min、480m/minの3通りの切削速度について実施した。1パスあたりの長さは、200mmに設定した。切り込み量は、1.0mmに設定した。送り量は、0.2mm/回転に設定した。切削試験には、冷却水を使用した。
【0070】
摩耗については、次のように評価した。評価A(優)は、摩耗量が0.6mm未満、試験継続可と評価されたことを示す。評価B(可)は、摩耗量が0.6mm以上1.0mm未満、試験継続可と評価されたことを示す。評価C(劣)は、刃先の欠損により摩耗量を評価できず、試験継続不可と評価されたことを示す。
【0071】
欠損については、次のように評価した。評価A(優)は、欠損なし、フレーキング(剥離)なし、試験継続可と評価されたことを示す。評価B(可)は、欠損なし、フレーキングあり、試験継続可と評価されたことを示す。評価C(劣)は、欠損あり、試験継続不可と評価されたことを示す。
【0072】
図11に示された「判定」は、摩耗と欠損との評価を総合し、評価A(優)、評価B(可)、評価C(劣)の3ランクで評価した。
【0073】
試料NO.1は、切削速度が240m/minの場合の摩耗が評価Bである以外は、全て評価Cであった。試料NO.2は、切削速度が240m/minの場合の欠損が評価Bである以外は、全て評価Cであった。試料NO.3は、全て評価Cであった。
【0074】
これに対し、試料NO.4は、切削速度が240m/minの場合については全て評価Aであり、切削速度が360m/min,480m/minの場合については全て評価Bであった。試料NO.5は、切削速度が240m/min,360m/minの場合については全て評価Aであり、切削速度が480m/minの場合については全て評価Bであった。
【0075】
このように、原子層50を含む試料NO.4,5は、試料NO.1〜3に比べて、切削工具200に用いるセラミック組成物100として優れていることが確認された。
【0076】
切削工具には、チップブレーカを形成するのが好ましい。チップブレーカーを形成する事で、切屑が容易に分断されるので、切屑が刃先に接触した際に生じる刃先の損傷が低減される。さらには、チップブレーカーにより切削抵抗が下がるので、刃先の摩耗が低減される。
【0077】
図17〜
図18に、チップブレーカを形成した切削工具の例を示す。チップブレーカは、切削工具に対し切屑が接触する、被削材の種類や切削条件等に応じた箇所に形成すれば良く、図におけるチップブレーカの形状や形成箇所に限定されるものではない。
【0078】
図16は、切削工具200による第2の切削試験の結果をまとめたテーブルを示す。切削試験は、セラミック組成物100の組成ごとに実施した。
図16に示された試料NO.1〜5の組成は、
図10に示された試料NO.1〜5として示された組成と同じである。
【0079】
切削工具の形状は、日本工業規格JIS B 4120に準拠した呼び記号「CNGN120408FN」によって特定される形状である。被削材には、チタン系の被削材としてTi−6Al−4Vを用いた。被削材の形状は、外径60mmの円柱形状である。
【0080】
切削試験の条件は、以下の通りである。切削試験は、60m/min、120m/min、360m/minの3通りの切削速度について実施した。1パスあたりの長さは、100mmに設定した。切り込み量は、1.0mmに設定した。送り量は、0.2mm/回転に設定した。切削試験には、冷却水を使用した。
【0081】
摩耗については、次のように評価した。評価A(優)は、摩耗量が0.05mm未満、試験継続可と評価されたことを示す。評価B(可)は、摩耗量が0.05mm以上0.1mm未満、試験継続可と評価されたことを示す。評価C(劣)は、刃先の欠損により摩耗量を評価できず、試験継続不可と評価されたことを示す。
【0082】
欠損については、評価A(優)は、欠損なし、フレーキング(剥離)なし、試験継続可と評価されたことを示す。評価B(可)は、欠損なし、フレーキングあり、試験継続可と評価されたことを示す。評価C(劣)は、欠損あり、試験継続不可と評価されたことを示す。
【0083】
図16に示された「判定」は、摩耗と欠損との評価を総合し、評価A(優)、評価B(可)、評価C(劣)の3ランクで評価した。
【0084】
試料NO.1は、切削速度が60、120m/minの場合の摩耗が評価Bである以外は、全て評価Cであった。試料NO.2は、切削速度が60、120m/minの場合の欠損が評価Bである以外は、全て評価Cであった。試料NO.3は、全て評価Cであった。
【0085】
これに対し、試料NO.4は、切削速度が60m/minの場合については全て評価Aであり、切削速度が120m/minの場合については摩耗がAであり欠損はBであった。切削速度が360m/の場合については全て評価Bであった。試料NO.5は、切削速度が60m/min,120m/minの場合については全て評価Aであり、切削速度が360m/minの場合については摩耗がAであり欠損はBであった。
【0086】
このように、原子層50を含む試料NO.4,5は、試料NO.1〜3に比べて、切削工具200に用いるセラミック組成物100として優れていることが確認された。
【0087】
切削工具には、チップブレーカを形成しても良い。チップブレーカーを形成する事で、切屑が容易に分断されるので、切屑が刃先に接触した際に生じる刃先の損傷が低減される。さらには、チップブレーカーにより切削抵抗が下がるので、刃先の摩耗が低減される。
【0088】
図17〜
図18に、チップブレーカを形成した切削工具の例を示す。チップブレーカは、切削工具に対し切屑が接触する、被削材の種類や切削条件等に応じた箇所に形成すれば良く、図におけるチップブレーカの形状や形成箇所に限定されるものではない。
【0089】
なお、図示はしないが、鉄系の被削材であるS45Cを用いた場合も、チタン系の被削材であるTi−6Al−4Vを用いた場合と同様の評価結果が得られた。
【0090】
実施形態2を説明する。
図12は、摩擦攪拌接合用工具410(以下、単に「工具410」と呼ぶ)の全体構成を示す斜視図である。
【0091】
工具410は、軸部411と突起部412とを備える。軸部411は、軸線X方向に延びる略円柱状に形成されている。突起部412は、略円柱状に形成されており、軸部411の一方の端部における軸線Xに垂直な面から、軸線X方向に突出して設けられている。
【0092】
突起部412は、軸部411の上記一方の端部における軸線Xに垂直な面の中心部に形成されており、突起部412の軸線は、軸部411の軸線Xと一致する。
【0093】
摩擦攪拌接合時には、工具410は、突起部412を被接合物に接触させつつ、被接合物に押圧して用いる。すなわち、軸部411における上記一方の端部は、被接合物に接触する側の端部である。工具410の表面のうち、軸部411の上記一方の端部における軸線Xに垂直な面を、ショルダー部413とも呼ぶ。
【0094】
工具410は、全体が、実施形態1で説明したセラミック組成物100により構成されている。工具410は、
図9と共に説明した方法で作製した焼結体を加工することによって製造される。加工には、切削、研削、研磨などを用いる。
【0095】
工具410を構成するセラミック組成物100の種類によって、工具410の摩耗量がどのように異なるかを調べるために、接合試験を実施した。
図2に示すように、被接合部材である鋼板を積み重ね、これらの鋼板に工具を押し付けることにより点接合を実施した。
【0096】
点接合について説明する。
図13〜
図15は、工具410によって点接合を実施する様子を示す。工具410は、図示しない接合装置に取り付けられて使用される。
【0097】
まず、突起部412を、積み重ねられた被接合物(被接合部材421,422)の上方に配置する(
図13参照)。
【0098】
そして、軸線Xを中心に突起部412を回転させた状態において、工具410の突起部412を、接合装置によって加圧しつつ、被接合部材421,422に対して上方から押し込む(
図14参照)。
【0099】
このようにして、突起部412が被接合部材421,422に押し込まれた状態のまま、軸線Xを中心に突起部412を回転させ続けることにより、突起部412付近の被接合部材421,422の領域は、摩擦熱によって塑性流動する。
【0100】
被接合部材421,422の塑性流動した部分(
図14および
図15においてハッチングを付して示す部分)を突起部412が攪拌することにより、接合領域が形成される(
図15参照)。
【0101】
この接合領域によって、被接合部材421,422が互いに結合される。なお、このような接合の工程においては、突起部412だけでなく、少なくともショルダー部413も、上記組成流動した部分に接する。
【0102】
その後、突起部412を被接合部材421,422から引き抜くことにより、摩擦攪拌接合が完了する。
【0103】
試験に供した各サンプルの数は、1とした。また、各サンプルの形状は、軸部411の直径は12mm、突起部412の直径は4mm、軸線Xに沿った軸部411の長さは18.5mm、突起部412の長さは1.5mmとした。
【0104】
試験条件は、下記の通りである。・被接合部材:SUS304(厚さ2mm)・シールドガス:アルゴン(Ar)・降下速度:0.5mm/s・工具押し込み荷重:1.2×10
4N・回転速度:600rpm・保持時間:1sec・打点:60
【0105】
ここで、「シールドガス」とは、試験中に被接合部材と空気との接触を断つために試験空間に配されたガスを示す。「降下速度」とは、工具410を被接合部材421,422に近接させる際の速度を示す。「工具押し込み荷重」とは、被接合部材421,422に対する工具410の押し込み荷重を示す。「回転速度」とは、工具410の回転速度を示す。「保持時間」とは、被接合部材421,422に対して工具410からの押し込み荷重がかかった状態で保持された時間を示す。「打点」とは、本試験の反復回数を示す。
【0106】
試験後、工具410の摩耗量を評価した。具体的には、突起部412とショルダー部413とにおける試験前後の軸線Xに沿った長さを測定することにより評価した。評価基準を、以下に示す。評価aが最も評価が高く、評価b、評価c、評価dの順に評価が下がる。
【0107】
評価d:(i)ショルダー部413の摩耗量が0.5mm以上、(ii)突起部412の摩耗量が0.5mm以上、(iii)工具410が損傷(欠け等の破損)のうちの少なくとも一つを満たす。
【0108】
評価c:評価dに該当しないサンプルのうちで、ショルダー部413の摩耗量が0.3mm以上0.5mm未満、および、突起部412の摩耗量が0.2mm以上0.5mm未満、のうちの少なくとも一方を満たす。
【0109】
評価b:評価cに該当しないサンプルのうちで、ショルダー部413の摩耗量が0.2mmより大きく0.3mm未満、および、突起部412の摩耗量が0.05mmより大きく0.2mm未満、のうちの少なくとも一方を満たす。
【0110】
評価a:ショルダー部413の摩耗量が0.2mm以下、かつ、突起部412の摩耗量が0.05mm以下。
【0111】
評価結果は、次の通りであった。実施形態1で説明した試料NO.1,2で作製した工具410の場合、評価dであった。試料NO.6の場合、評価bであった。試料NO.7,8の場合、評価aであった。また、一般的な超硬合金で作製した工具410の場合、評価dであった。実施形態2においても、原子層50の存在による優位性が確かめられた。
【0112】
本開示は、本明細書の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現でき
る。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、先述の課題の一部又は全部を解決するために、或いは、先述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせができる。その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除できる。例えば、以下のものが例示される。
【0113】
原子層50を形成する原子は、所定元素群から選択される少なくとも1つの元素であればよいので、2つ以上が選択されてもよい。所定元素群に属する元素は何れも遷移金属であるため、焼成時に液相になり難く、ひいては偏析し難いので、具体例として挙げた元素と同様な効果を得ることができると考えられる。例えば、2つ以上が選択された場合に、そのうちの1つがタングステンでもよい。
【0114】
原子層50は、結晶粒界40において、アルミナ結晶粒子10の配列周期に沿って形成されていてもよい。このように形成されても、炭化タングステン結晶粒子20に沿って形成される場合と同様、結晶粒子間の結合力が高まると考えられる。